児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

不正アクセス罪の罪数(大阪高裁h18.2.2)

 ひっそりと重要判例
 アクセス権とか管理権とは関係なく、1回1罪。
不正アクセス罪と詐欺罪とは併合罪

 法定刑が軽いし、他の重い罪をかすがいする可能性を考えると、不正アクセス罪の包括評価の範囲を広く解することには慎重なんだろうと思いました。

阪高裁h18.2.2
(1)所論は,インターネットを介して情報を発信・受領する行為は,表現の自由として憲法上の保障を受けるところ,不正アクセス罪(3条)は,本来自由であるべきサーバーへのアクセスを罰則という手段をもって禁止するものであるから,憲法21条に違反して無効である,という。
しかし,不正アクセス防止法における不正アクセス行為の対象となる特定電子計算機を,何人にどの程度利用させるかということは,もともと当該電子計算機のアクセス管理者が決定してよい事柄であり,何人にも当該電子計算機の情報を何の制約もなく自由に取得することが保障されるというものではない。所論は採用できない。

(2)所論は,不正アクセス防止法3条2項は,同法2条1項の「利用」の概念を前提とするところ,この「利用」の概念は多義的で,刑罰法規としての明確性を欠くから,不正アクセス罪(3条2項)は,憲法31条の罪刑法定主義に違反し,また,表現の自由との関係では,漠然不明確であって憲法21条に違反するから無効である,という。
しかしながら,不正アクセス防止法2条1項は「電気通信回線に接続している電子計算機の利用(当該電気通信回線を通じて行うものに限る)」と規定しており,「利用」とは電気通信回線を通じて行う情報処理を意味することは明らかであるから,刑罰法規として必要な明確性に欠けるところはなく,憲法31条にも21条にも違反しない。所論は採用できない。

(3)所論は,アクセス制御以前に,既にあらゆるユーザーに特定電子計算機の特定利用が許諾されているwwwサーバーには,アクセス制御機能が存在しない,つまり,認証段階でwwwサーバーの利用を許可しながら認証以降のアクセスを拒否するというのは,サーバー内の特定のデータへのアクセスを拒否しているにすぎず,「電子計算機」に対するアクセス制御機能とはいえず,このような場合には,アクセス制御機能自体が存在しないことになり,不正アクセス罪は成立しない,という。
しかしながら,不正アクセス防止法2条3項の規定からすれば,アクセス管理者によって特定電子計算機の特定利用を自動的に制御するための機能を付加されている特定電子計算機を利用することを当然の前提としていることは明かである。所論は採用できない。

(4)所論は,本件不正アクセス行為において用いられたパスワードは,何人もアクセスできるオークション画面に表示された利用権者のIDのうちから数字部分を抽出したものであり,このような場合,そのIDとパスワードを使用してアクセス制御機能による制限解除を受けることにつき,利用権者による黙示の承諾があるといえるから,不正アクセス防止法3条2項が規定する適用除外の場合にあたり,また,このような状態は,アクセス制御機能自体がない状態といえるから,不正アクセス罪は成立しない,という。しかしながら,画面上に表示されているのはあくまでIDにすぎず,その符号中にパスワードと同じ内容を含ませているからといって,利用権者がそのIDとパスワードを使用して当該電子計算機のアクセス制御機能による制限解除を受けることを承諾したとはいえないし,当該電子計算機に付加されているアクセス制御機能自体がなくなるというものでもない。所論は採用できない。

所論は,不正アクセス罪の罪数は,アクセス管理者の数を基準として判断されるべきであるから,不正アクセス罪相互の関係を併合罪としたのは誤りである,という。
しかしながら,不正アクセス罪は,アクセス制御機能に対する社会的信頼を侵害する行為を処罰するものであるところ,他人の識別符号等を特定電子計算機に入力してアクセス制御機能により制限されている特定利用をし得る状態にする度に不正アクセス罪の構成要件は充足され,かつ,上記侵害行為があったといえるから,不正アクセス罪は,この状態を作出する行為ごとに成立するものと解され,たとえ同一のアクセス管理者が付加したアクセス制御機能を侵害する行為が複数あっても,不正アクセスをすることについての行為者の動機,目的の同一性,意思の継続,日時の近接等によって1個の罪が成立するにすぎないものと解すべき場合を除いて,それぞれの行為ごとに別罪が成立し,併合罪の関係に立つものと解するのが相当である。そして,本件の場合は,上記原判示第9の別表の番号1と2の不正アクセス行為は原判示第10の詐欺の,同番号3と4の不正アクセス行為は原判示第11の詐欺のためのものであり,時間的にも近接していると認められるから,これらについては,それぞれ包括して1罪となると解するのが相当であるが,これら以外の原判示の各不正アクセス行為はそれぞれ1罪となる。そして,上記の包括一罪とすべきところを併合罪とした原判決の誤りは,他にいずれも併合罪の関係にある不正アクセス罪や詐欺罪があるから,これが判決に影響を及ぼすことが明らかとはいえない。所論は結局採用できない。

(6)所論は,不正アクセス罪と詐欺罪とは牽連犯であるから併合罪としたのは誤りである,という。しかしながら,不正アクセス罪iも通常詐欺罪の手段となる関係にある犯罪とまではいえないから,両罪の関係は,牽連犯ではなく併合罪と解するのが相当である。