児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

弁護士法23条の2による照会が不適当とされそうな事例

 某弁護士会さんのお話なんです。
 伏兵みたいに弁護士会が抵抗してくれます。

 ××地裁における児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律事件の確定記録の閲覧謄写(29件)については、保管検察官から「事件番号と判決日では検索できない。検番か被告人氏名が必要」と言われているのですが、裁判所文書課に電話したら、「弁護士法23条の2による紹介がくれば回答する。」と言われました。
 そこで弁護士会に照会を申し出ると、
   他の個々の事件の量刑が、この事件に参考になるとは思えない
   被告人のプライバシーに係わる
から照会できないとのこと。
 量刑相場を構成している個々の事件を全部見れば、量刑相場がわかるじゃないですか?逆に、29件で構成されている量刑相場を調べるために他に、どんな方法がありますか?
 プライバシーについても、弁護人が量刑調べるのは正当事由があるから、保管記録の判決書は閲覧できるんですよ。事件特定できないから、特定するための記号を聞くだけなんですけど、だめですかね?
 だめなら、保管検察官と準抗告になります。それも準備しています。

相手方
 ××地方裁判所文書課

申出の理由

申出弁護士は、下記事件の弁護人です。
 ××地方裁判所
 平成16年(わ)第号 外
 児童買春・児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童保護等に関する法律違反事件等
 被告人  
 上記事件を弁護するにあたり、××地方裁判所における児童買春・児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童保護等に関する法律違反事件の量刑を調べるため、××地方検察庁記録係に刑事確定訴訟記録法による保管記録の閲覧請求をしたところ、被告人氏名又は検番が判らないと事件番号だけでは特定できないと回答されました。
 そこで御庁に対して、刑事確定訴訟記録法による保管記録の閲覧請求のために、別紙一覧表記載の事件番号に関する被告人氏名及び検番を照会するものです。
 お教え頂いた被告人氏名等につきましては、保管記録の閲覧にしか使用致しませんし、閲覧して知り得た記録内容についても、この事件処理以外には使用致しませんので、ご回答頂けますようお願い申し上げます。

なお、弁護士会及び照会先の参考のために付言する。
1 刑事確定訴訟記録法による閲覧制度
 刑事確定訴訟記録法によれば、正当な理由が無くても、判決書等を閲覧できる。
 正当な事由がない場合には、「三 保管記録を閲覧させることが公の秩序又は善良の風俗を害することとなるおそれがあると認められるとき。」「四 保管記録を閲覧させることが犯人の改善及び更生を著しく妨げることとなるおそれがあると認められるとき。」「五 保管記録を閲覧させることが関係人の名誉又は生活の平穏を著しく害することとなるおそれがあると認められるとき。」に限り、保管検察官は閲覧制限ができることになっている。

刑事確定訴訟記録法
第4条(保管記録の閲覧)
保管検察官は、請求があつたときは、保管記録(刑事訴訟法第五十三条第一項の訴訟記録に限る。次項において同じ。)を閲覧させなければならない。ただし、同条第一項ただし書に規定する事由がある場合は、この限りでない。
2 保管検察官は、保管記録が刑事訴訟法第五十三条第三項に規定する事件のものである場合を除き、次に掲げる場合には、保管記録(第二号の場合にあつては、終局裁判の裁判書を除く。)を閲覧させないものとする。ただし、訴訟関係人又は閲覧につき正当な理由があると認められる者から閲覧の請求があつた場合については、この限りでない。
一 保管記録が弁論の公開を禁止した事件のものであるとき。
二 保管記録に係る被告事件が終結した後三年を経過したとき。
三 保管記録を閲覧させることが公の秩序又は善良の風俗を害することとなるおそれがあると認められるとき。
四 保管記録を閲覧させることが犯人の改善及び更生を著しく妨げることとなるおそれがあると認められるとき。
五 保管記録を閲覧させることが関係人の名誉又は生活の平穏を著しく害することとなるおそれがあると認められるとき。

 従って、上記地方検察庁記録係の「被告人氏名又は検番が判らないと事件番号だけでは特定できない」という回答は、検索用のキーワードとして、被告人氏名ないし検番を求めるものであって、閲覧は許可されるのである。

 申出会員はここで、回答された被告人氏名・検番を始めとして、閲覧した判決書等を、今回の申請目的以外に使用しないこと、正当な目的以外に公表しないことを誓約する。
 閲覧目的からしても、当事者の固有名詞・住所・身上・情状部分等は開示を求めていないし、閲覧対象は訴訟記録のみであって証拠書類に及ばないし、場合によっては科刑状況に関する証拠として裁判所に提出するだけであり、みだりに公開しないから、関係者の名誉を害することも、被告人の改善更生に支障となったり、公の秩序を害したりすることはない。

2 正当な理由(刑事確定訴訟記録法4条2項但書)について
 申出会員は閲覧請求事件の当事者とは関係がないが、同種事件弁護人は閲覧についての正当な理由がある。
 すなわち、申出会員は児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律被告事件の弁護人である。
 一般的に刑事事件における争点は、児童ポルノ罪・児童買春罪の訴因特定・保護法益・罪数・量刑理由・量刑等である。同種事案の訴訟関係書類に現われる上記争点に関する記載は、担当事件と密接関連性をもつ。
 特に、地裁管内の量刑については、閲覧しようとしている29件が全てであり、それによって科刑状況を知るしか手段がないし、裁判書などに限定した29件の閲覧というのは極めて容易な手段である。

 なお、申出会員は刑事確定訴訟記録閲覧不許可処分に対する準抗告が認められたことがあり、弁護人たる弁護士の正当な職務行為であると認定されている。

刑事確定訴訟記録閲覧不許可処分に対する準抗告申立事件
【事件番号】横浜地方裁判所川崎支部決定/平成15年(む)第143号
【判決日付】平成15年8月14日
【判示事項】児童買春等処罰法被告事件の弁護人が刑事確定訴訟記録法に基づいて行った、同種事件の判決書に係る閲覧請求を不許可とした検察官の処分が取り消された事例
【参照条文】刑事確定訴訟記録法4−2      刑事訴訟法53−1
【参考文献】判例タイムズ1151号316頁
       主   文 
被告人甲山こと乙川太郎に対する自働買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反等被告事件(横浜地方裁判所川崎支部平成12年(わ)第310号等,東京高等裁判所平成12年(う)第2460号)に係る刑事確定訴訟記録につき,平成15年4月14日に横浜地方検察庁川崎支部検察官が申立人に対してした閲覧不許可処分中,第1審判決書,控訴審判決書についての閲覧不許可処分を取り消す。上記検察官は,申立人に対し,上記各判決書について,被告人(氏名を除く),被害者,関係者等の氏名等の固有名詞,犯罪地等の住所地番などに仮名処理を施すなどした上で,これを閲覧させなければならない。       
理   由 
本件申立ての趣旨及び理由の要旨は,申立人作成の準抗告申立書記載のとおりであるから,これを引用する。 
1 本件に関する経過及び当事者の主張は次のとおりである。  
(1) 申立人は,平成15年4月4日,横浜地方検察庁川崎支部保管検察官に対し,前記被告人甲山こと乙川太郎に対する児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反等被告事件(横浜地方裁判所川崎支部平成12年(わ)第310号等,東京高等裁判所平成12年(う)第2460号)(以下「本件事件」という)の刑事確定訴訟記録中,被害者,被告人のプライバシーに関する部分についての配慮を求めた上で第1審起訴状,冒頭陳述書,論告要旨,弁論要旨,判決書及び控訴審における控訴趣意書,答弁書,判決書の閲覧並びに第1審及び控訴審判決書の謄写を請求した。その理由の要旨は,申立人が,事件名を同じくする刑事事件の控訴審弁護人として職務を遂行するに当たり,立証活動の参考にするため類似事案を検討したいというものであった。これに対し,同支部検察官は,同月14日付けで請求の全てについて不許可としたことから,申立人は,主文掲記の範囲について準抗告の申立てをし,その理由として,前記の理由に付加して,同一事件名の弁護人として,その職務に関し,本件事件の保護法益等に関する判示,量刑理由を参照したいこと及び申立人自身が児童買春等に関する法律の研究をしており,その研究資料としたいからであるとしている
(2) 一方,同支部検察官は,申立人の閲覧及び謄写の請求が刑事確定訴訟記録法4条2項3号ないし5号に該当することを理由として,前記のとおり不許可としたが,その詳細は,刑事確定訴訟記録法4条2項3号該当事由については,本件犯行態様等に照らし,保管記録の閲覧をさせた場合には,卑劣な犯行の手段,方法,態様等を公にすることにもなりかねず,公の秩序又は善良の風俗を害することとなるおそれがあるとし,同項4号該当事由については,本件犯行当時の状況等に照らすと,保管記録の概要等が公刊物に掲載されるなどして公表されただけで,元被告人の氏名等を伏せたとしても,その犯行であることが一般人に了知される状況にあり,元被告人の改善及び更生を著しく妨げることとなる虞があるとし,同項5号該当事由については,被害児童の氏名等を伏せたとしても,前記のとおり本件が元被告人の犯行であることが一般人にも了知される状況にあるから,保管記録を閲覧させた場合には,被害児童及びその関係者にとって被害児童が関係していることが判然としている事案が公刊物等に長く掲載される事態が生じかねず,関係者の名誉又は生活の平穏を著しく害する虞があるとし,さらに申立人が同種事件弁護人であるとしても,本件記録には量刑等について申立人主張のような申立人にとって参考になる記載はなく,また閲覧目的が研究目的であるとしても,直ちに閲覧について正当な理由があることにはならないから,結局,申立人について閲覧についての正当な理由もないとしている。 
  そこで,検討するに,申立人が準抗告の対象としているのは,第1審及び控訴審の判決書の閲覧についてのみであるところ,終局裁判の裁判書の閲覧は,その性質に照らし,それ以外の保管記録の閲覧に比して同項3号ないし5号に列挙する制限事由に当たる場合が類型的に見て少ないと考えられる上,終局裁判の裁判書は国家の刑罰権の行使に関して裁判所の判断を示した重要な記録であって,裁判の公正担保の目的との関係においてもこれを一般の閲覧に供する必要性が高いといえる(刑事確定訴訟記録法4条2項柱書本文参照)。 さらに本件申立てに係る判決書について検討するところ,その申立てが判決書の閲覧に際し,被告人の身上や被害者の人定に関する部分は除くことを前提にしていることを踏まえると,被告人,被害者の氏名等固有名詞や犯罪地などの住所地番を仮名処理等することによって,本件申立に係る判決書中の犯罪事実等の記載内容をある程度一般化,抽象化することは可能であるから,かかる配慮をした上でこれらの閲覧を許可したとしても,検察官の主張するような事態が生じるとは認められず,刑事確定訴訟記録法4条2項3号ないし5号に該当する事由があるとは認められない。 
よって,本件申立ては理由があるので,刑事確定訴訟記録法8条,刑事訴訟法430条1項,432条,426条2項により,主文のとおり決定する。 
(裁判長裁判官・矢村 宏,裁判官・菱田泰信,裁判官・横井健太郎)

3 照会先について
 本照会については地裁の総務課に予め問い合わせたところ、「弁護士会23条の2による照会をしていただければ対応する」との回答であった。


11/26 地裁は一覧表にして被告人氏名を教えてくれました。保管記録の特定の記号ですから、必ずしも、被告人の氏名なんか欲しくないんですよ。
 大阪地裁の裁判例はこれで網羅できます。