児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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民法の成年年齢引下げの刑事法への影響(研修884号)

 大丈夫かなあ。津々浦々の警察に徹底されてるかな

研修(令4. 2, 第884号)法の焦点
民法の成年年齢引下げの概要等
法務省民事局参事官笹井朋昭
刑事局刑事法制企画官中野浩一
第4他の法令への影響(刑事関係法令を中心に)
1(1) 民法の成年年齢は,民法以外の法令において,各種の資格を取得するためなどの年齢要件として用いられている。
また, 「成年」という文言を用いているわけではないが,民法の成年年齢と同じ20歳を年齢要件としている法律もある。
民法の成年年齢の引下げに当たっては, これらの他法令における年齢要件も引き下げるか否かが問題になり, それぞれの法律の所管省庁において,それぞれの法律の趣旨に基づいてその検討が行われた。
引下げの要否について必ずしも一律の基準があるわけではないが,各種の国家資格に関する年齢要件など,民法の成年年齢が20歳であることを前提に定められている年齢要件については,成年年齢の引下げに合わせて,基本的に18歳に引き下げることとされた。
(2) 年齢要件を規定するに当たり, 「成年」, 「未成年者」などの文言が用いられている法律について改正が行われなければ,民法改正法によって「成年」, 「未成年」という文言の意味が当然に変更されることとなる結果,年齢要件の実質が20歳から18歳に引き下げられる。
例えば, 刑法における未成年者略取・誘拐罪(同法224条),未成年者買受け罪(同法226条の2第2項),準詐欺罪(同法248条)の客体がこの場合に当たる。
このほか, 「未成年者」との文言は, 例えば,心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律における保護者の資格要件(同法23条の2第1項5号)などに見られ, 配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律における接近等禁止命令に関する「成年に達しない子」(同法10条3項)についても, 18歳未満を意味することとなる。
(3) 年齢要件を規定するに当たり, 「二十歳」などの具体的な年齢を指す文言が用いられている法律について, その実質を引き下げる場合には, 当該文言が改められる。
刑事関係から離れるものの,例えば, 旅券法における10年用一般旅券の取得可能年齢(同法5条1項2号),国籍法における外国人の帰化の許可要件(同法5条1項2号)などがこの場合に当たり, それぞれ年齢要件が18歳に引き下げられる。
(4) 他方で,健康被害の防止や青少年の保護といった観点から定められた年齢要件については,必ずしも民法上の成年年齢と一致させる必要はなく,現行の年齢要件を維持する必要があると判断されたものがある。このような場合, 「成年」, 「未成年」という文言が用いられている年齢要件については, 20歳以上又は20歳未満という実質を維持するため,年齢要件の規定が改められる。
例えば,未成年者喫煙禁止法未成年者飲酒禁止法については,それぞれ,法律名が「二十歳未満ノ者ノ喫煙ノ禁止二関スル法律」,「二十歳未満ノ者ノ飲酒ノ禁止二関スル法律」と改められ, 喫煙年齢飲酒年齢について「満二十年二至ラザル者」とされていた規定
は,実質的な内容の変更を伴わないものの「二十歳未満ノ者」と改められる。
また,競馬法における勝馬投票券の購入年齢(同法28条) ,自転車競技法における勝者投票券の購入年齢(同法9条),小型自動車競走法における勝車投票券の購入年齢(同法13条) ,モーターボート競走法における勝舟投票券の購入年齢(同法12条)についても,現行の20歳の年齢要件を維持するため,各規定が改められる。
(5) また,年齢要件を規定するに当たり, 「二十歳」などの具体的な年齢を指す文言が用いられている法律について, その実質を引き下げない場合,改正はされない。
例えば,銃砲刀剣類所持等取締法における猟銃所持の許可年齢(同法5条の2第2項1号) ,暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律における指定暴力団等への加入強要の禁止年齢(同法16条1項),道路交通法における中型免許の取得可能年齢(同法88条1項1号)などがこの場合に当たる。
2 民法改正法の施行前にした行為の処罰等について,若干述べたい。
(1)構成要件に「未成年」者又は「法定代理人」を含むため,成年年齢の引下げに伴い未成年者又は法定代理人の範囲が縮小することにより,処罰の範囲が縮小するものとして,例えば, 未成年者については,未成年者略取・誘拐罪がある。民法改正法附則第25条には、「施行日前にした行為…に対する罰則の適用については, なお従前の例による。」との経過措置が設けられているため,民法改正法の施行前の行為については,処罰の範囲が縮小する前の罰則が適用されることとなる(注3, 4, 5)

・・・
(注3)民法改正法附則第25条「施行日前にした行為及び附則第13条の規定によりなお従前の例によることとされる場合における施行日以後にした行為に
対する罰則の適用については, なお従前の例による。」
(注4)法律が改正されても,新法施行前の行為については従前の例による等の経過措置が設けられている場合には, 旧法が適用されることは当然で,新法を適用する余地がないから, 刑法6条の刑の変更があったことにはなら
ない(大コメ刑法〔第三版〕第1巻115頁)。
(注5)例えば, 18歳, 19歳の被害者に対する未成年者略取・誘拐罪が民法改正法の施行前に成立している場合には,民法改正法の施行後においても, 同罪により処罰され得ることとなる。
他方,民法改正法の施行前に, 18歳, 19歳の被害者を略取・誘拐しようとして,営利, わいせつその他の目的なく暴行等の実行の着手に及び, 当該実行行為が施行日をまたいだ場合であって, 当該被害者を自己又は第三者の実力支配内に移していないときは,民法改正法の施行後において, 同罪との関係では,施行前の暴行等の範囲で(すなわち, 同罪の未遂の範囲で)処罰され得ると考えられる(他の罪の成否は別論である)。
もっとも, けん銃を自宅で所持していた継続犯についての判例を前提に, 「犯罪の実行行為が新旧両法にまたがるときは,新法は犯罪後の法律ではなく, したがって,犯罪後に刑の変更があった場合に当たらないので,新法が適用される」(大コメ刑法〔第三版〕第1巻111頁) との指摘があるところ,未成年者略取・誘拐罪を状態犯と捉えるか継続犯と捉えるか, あるいは, 同罪の実行行為をどのように捉えるかなどにより, 異なる考え方もあり得るところである。
いずれにせよ,具体的な証拠関係に基づく事実認定によっても罰則の適用関係が変わり得るところであり,施行日をまたぐ事案の罰則の適用については,慎重な検討が必要であると考えられる。
(6))配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律第10条第3項は,被害者が配偶者と面会することを余儀なくされることを防止するため必要があることを要件として,被害者と同居している成年に達しない子に対する接近等禁止命令を発することができることとしている。民法改正法の施行前に18歳19歳の者について「成年に達しない子」として接近等禁止命令が発せられた場合において, その有効期間内に施行日を迎え, その者が「成年」に達することとなったときはどうか。このような場合,命令が発せられた根拠となった事実や行為の存在, それに対する評価には影響は生じないと考えられることや, 同条第4項において, 同条第3項と同様の趣旨から,被害者の親族等につき, その者が成年に達しているか否かにかかわらず,接近等禁止命令を発することができる旨の規定が置かれていることなどを踏まえると,民法改正法の施行後も接近等禁止命令は有効であると考えられ, 当該命令の有効期間内に命令違反が生じれば, その違反した者を処罰し得ると考えられる。