児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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児童買春罪の対償供与約束の成否に関する高裁判例

阪高裁h16.1.15
2 控訴趣意中,理由不備,事実の誤認ないしは法令適用の誤りの主張(控訴理由第1)について
 所論は,原判決は,被告人らと被害児童らの間には,被害児量ら3名が,それぞれ男性3名の誰かから1万円をもらう代わりに,男性3名の誰かと1回あるいは複数回性交をすることの合意が成立したと認められ,具体的に性交の相手が決まった時点で,上記の合意は,男性が性交の相手である児童に現金を与え,児童が性交に応じるという約束に具体化したというべきであり,対償の供与の約束があったと認定しているが,本件において,性交の相手が決まった時点でその男性が性交の相手方である児童に現金を与え,児童が性交に応じるという約束に具体化したと認定できる証拠はなく,事前に被告人と原判示の各被害児童との間に性交の前に対償供与の約束があったともいえないのであるから,原判決には理由不備の違法があるとともに,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認ないしは法令適用の誤りがある,というものである。
 ところで,原判決が挙示する関係証拠によれば,被告人が原判示の被害児童2名と性交するに至った経緯及び被告人ら3名から被害児童を含む3名の児童に現金が手渡された経緯等は,原判決が争点に対する判断の項第2に説示するとおりであり,これらの事実によれば,被告人ら3名と被害児童ら3名との間では,○○駅に集合する以前に,お互いに相手の誰かと性交し,その対価として,被告人らは1人1万円,合計3万円を支払い,被害児童らはその中から1人1万円を受領するとの合意ができていたものと認められ,このことは,被告人の関係では,被告人は被害児童らに対し,被告人と性交した場合にはその対価を支払うことを申し入れ,被害児童らにおいてこれを了承したものであり,被告人が現実に性交したのはこのうちの2名とであるから,被告人は被告人との性交に応じた被害児童に対して性交の対償として現金の供与を約束したものにほかならず,その時点で,性交の相手方について,その人数の点も含めて特定していないことは,上記のような事情のもとでは対償供与の約束の成否に影響しない。してみると,原判決が被告人と被害児童との間に対償供与の約束ができていたと認定したのは結論において正当である。論旨は理由がない。

大阪地裁h15.8.6
3対償供与の約束の成立について
上記で認定したところによれば,被告人ち男性3名と被害児童らの間には,児童3名が,男性3名の誰かから1万円をもらう代わりに,男性3名の誰かと1回あるいは複数回性交をすることの合意が成立たと認められる。
そして,具体的に性交の相手が決まった時点で,上記の合意は,男性が性交の相手である児童に現金与え,児童が性交に応じるという約束に具体化したというべきであり,本件では,児童買春,児童ポルに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律2条2項にいう「対償」「の供与の約束」があったと認められる。
そして,上記認定によれば,被告人は各被害児童との性交前に上記の具体化された合意をしたと認められ,第1の犯行によって約束は終了したとの弁護人の主張は採用できない。
なお,公訴事実では,被告人は被害児童2名ぞれぞれに現金各1万円の供与を約束して性交したとされているが,各性交を開始する時点では誰と何回性交するのかが確定していなかったのであり,被告人は現金各1万円の供与を約束したとはいえず,判示のとおりの事実を認定した(念のために付言すると,供与する現金の額が不確定でも対償を供与したことには変わりがない)。

名古屋高裁h24.10.29
第3 原判示第1の事実に関する事実誤認及び法令適用の誤りの論旨(控訴理由7ないし10)について
 論旨は,要するに,原判示第1につき,①被告人と被害児童とは,ホテルで性交することを前提に,被告人が被害児童に対し現金2万円を支払う約束を交わしたが,被告人には当初からホテルに行って性交するという意思はなかったから,意思の合致がなく,対償供与の約束が成立していない,②当初対償供与の約束が成立していたとしても,その後自宅での性交を拒否されて被害児童と別れた段階で,その約束は解消されており,その後被害児童を呼び戻し脅迫して性交した際には対償供与の約束はなされておらず,当初の約束との間に因果関係もなく,被告人に対償供与の約束で性交するとの故意もなかったから,児童買春には当たらないのに,対償供与の約束で被害児童と性交したと認定した原判決には,事実の誤認,法令適用の誤りがあり,これらが判決に影響を及ぼすことは明らかである,~~のに,法4条,2条2項を適用した原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の適用の誤りがある,というのである。
 しかしながら,①のホテルでの性交の点は,被告人と被害児童との間で,被告人が被害児童に対し,性交をすることの反対給付として現金2万円を供与するとの意思の合致があったことは関係証拠上明らかであり,性交の場所といった,対償供与の約束の本質的部分に関わらない付随事情について,表示と異なる意思を有していたことによって,その成否は左右されない。
 次に,②の対償供与の約束の解消などの点は,被告人は,性交の対償として現金2万円を供与する約束で被害児童と会い,その後も一貫して,被害児童と性交することを基調とした行動を取り,性交するに至っているから,当初の対償供与の約束と性交との間には因果関係があり,対償供与の約束をして被害児童と性交したものとみるのが相当であって,その故意にも欠けるところもないというべきである。