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準強姦無罪判決(さいたま地裁h29.10.26)

準強姦無罪判決(さいたま地裁h29.10.26)

判例番号】 L07250824
       準強姦被告事件

【事件番号】 さいたま地方裁判所判決/平成28年(わ)第1756号
【判決日付】 平成29年10月26日
【掲載誌】  LLI/DB 判例秘書登載

       主   文

 被告人は無罪。

       理   由

第1 本件公訴事実
   本件公訴事実は,「被告人は,平成28年8月26日午後11時30分頃から同月27日午前1時39分頃までの間に,東京都(以下略)△△5Fにおいて,■■■(当時22歳。以下「A」という。)が泥酔していたため抗拒不能であるのに乗じ,同人を姦淫したものである。」というものである。
第2 争点
 1 本件起訴の有効性
   弁護人は,本件起訴に関し,①Aの告訴には要素の錯誤があってその意思表示は無効であり,親告罪において告訴が欠如する,あるいは,②親告罪における告訴権者の意思を蹂躙したものとして,公訴権の濫用があると主張し,いずれにせよ公訴棄却の判決がなされるべきとする。
 2 被告人の犯人性
   弁護人は,被告人がAを姦淫した事実は認められないから被告人は無罪であると主張し,被告人もそれに沿う供述をしている。Aが本件公訴事実記載の日時場所において同記載のとおり誰かに姦淫されたことは証拠上容易に認定できるから,本件公訴事実に関する争点は被告人がその犯人であるといえるかである。
第3 本件起訴の有効性について(以下,日付は平成28年とする。)
 1 本件告訴の有効性
   関係証拠によると,Aが,本件起訴前である12月9日,本件公訴事実に関する犯罪事実を申告し(内容としては,被告人を含む二人の者が共同して抗拒不能の状態にあるAを姦淫した旨の集団準強姦),被告人を厳重に処罰するよう求める旨の記載がある埼玉県吉川警察署長宛ての告訴状をC警察官(以下「C警察官」という。)に提出したことが認められる。そして,Aは,告訴状を提出した当時,被告人の処罰を求める気持ちであったこと自体は否定しておらず,当公判廷においてその旨の証言をした。
   この点,弁護人は,Aは被害弁償を受けることを希望して本件の捜査を求めるに至っており,こうしたAの動機は捜査機関にも明示されていたところ,検察官も警察官も弁護人からの示談の申入れをAに伝えず,その結果Aは示談の申入れがないものとして告訴の意思表示をしたものであり,要素の錯誤があるから無効である旨の主張をする。しかし,弁護人の主張は,前提とする事実関係についての主張の当否はおくとして,要するに,Aが告訴をするに至った動機の形成過程に錯誤があった旨の主張と解すべきものであるところ,Aが告訴をするに至った動機等は告訴の効力に影響を及ぼすものではないというべきである。したがって,本件告訴は有効であるから,この点に関する弁護人の主張に理由はない。
 2 検察官による本件起訴の有効性
  (1) 関係証拠によれば,本件事件の捜査を担当した溝口修検察官(以下「溝口検察官」という。)が,12月5日頃,被告人の弁護人から,被害者の連絡先教示を求められたこと,溝口検察官は,Aの意向確認をするように警察官に依頼し,同月6日,Aの聴取等を担当していたC警察官がAにラインメッセージを送信して弁護人への連絡先教示の希望の有無を確認したこと,AはC警察官に対して連絡先教示をしないでほしい旨を回答し,C警察官が溝口検察官にその旨伝えたこと,12月9日,溝口検察官がAの取調べを行った際,被害状況の確認とともに処罰感情があることを確認し,その後にAが告訴したこと,本件起訴日である12月21日,溝口検察官が再度Aの取調べを行った際,Aに対して被告人を起訴する予定であることを告げた上で改めてAの処罰意思を確認したこと,以上の事実が認められる。
  (2) 以上の事実関係のうち,C警察官がAに対して送信したラインメッセージは,具体的には,「弁護士から,『被害者の連絡先を教えろ』という連絡がありました」「2人共否認しているのに,何を話すつもりなのか分かりませんが」「こういう時,一応被害者の方の意思を確認するようになっていまして」「教えたらどうなるか,ということなんですけど,弁護士から電話が来ます」「示談の話をするのか,謝罪をするのか知りませんが,否認しているので…何がしたいのかは分かりません」などの内容を含むものであり,これによれば,弁護人が被害者の連絡先を教示するように求めてきていること,弁護人の意図としては,被害者に直接連絡を取って示談交渉を含む何らかの働きかけをすることにあるとの趣旨が十分に読み取れるものといえる。すなわち,溝口検察官において,Aに対して弁護人から示談の申入れがあったことを伝えたかどうか,C警察官に対して弁護人から示談の申入れがあった旨伝達したかどうかは明らかでないとしても,Aに対しては,示談交渉の可能性も前提に連絡先教示の希望の有無についての意思確認が行われたといえる。そうすると,A自身も認めるように,弁護人から示談の話がされる可能性があることを理解し得る状況にありながら,Aは弁護人に対する連絡先教示について消極的な態度を維持し続けたことが認められる。
    しかるに,被害者が犯人に対する処罰を望みつつ,同時に犯人からの被害弁償を受けたいと考えることは両立し得ることであるし,本件でも,Aにおいて,本件起訴までの間に,溝口検察官に対して示談の成否と関連付けて告訴意思に変更があり得る旨の意向を示した形跡がないことも加味すると,弁護人の主張を考慮しても,本件起訴に至る判断が不合理であるとして告訴権者であるAの意思を蹂躙したとみるべき事情があったとまでは認められない。
  (3) 以上によれば,検察官が公訴権を濫用したとみる余地はなく,この点に関する弁護人の主張も理由がない。
第4 被告人の犯人性
 1 前提となる事実(以下,日付は平成28年とする。)
   以下の各事実は,証拠上容易に認めることができる。
  (1) Aと被告人らの関係,飲み会が開催された経緯等
    8月26日午後9時頃から,本件公訴事実記載の場所(以下「△△」という。)において,被告人,D(以下「D」という。)及びE(以下「E」という。)の男性3人と,A及びAの会社の同僚仲間である女性(以下「B」という。)が参加する飲み会(以下「本件飲み会」という。)が開催された。
    被告人,D及びEは,同じ大学医学部の先輩後輩の関係にあり,被告人とDは同い年で友人関係にあったが,被告人の方が医師としてのキャリアは長かった。Eは,被告人及びDの後輩として交遊する関係にあった。
    本件飲み会は,被告人及びDと飲み会をすることになったEが,知り合いのBを誘い,AはBに誘われて参加することとなって,△△において開催された。Aは,本件飲み会に参加するまでB以外の参加者とは面識が一切なかった。
  (2) △△は,Dが借りている部屋であったが,住居としては使用しておらず,Dらが飲み会を行う際に使用していた。
    △△には,テーブルやソファを配置したリビング,バーベキューを行うことができるベランダ,トイレのほか,東側のトイレに向かう洗面所の南側に接して浴室を改造した小部屋(以下「本件小部屋」という。東西1.1メートル,南北に1.63メートル。床面はすのこの上にマットレス,更に毛布が敷いてある。北側の入口は壁面の棚を片開きドアとする構造となっており,ドアを開けないと本件小部屋の存在がわからない。)がある。
  (3) 本件飲み会及びその後の状況等
    本件飲み会開始後,被告人らはベランダで1時間程度バーベキューを行い,互いに自己紹介をするなどした。被告人らは,リビングに戻り,ゲームに負けた人が罰として酒を飲むというルールで山手線ゲーム等のゲームを行った。
    Aは酒に弱く,Aがゲームに負けた際も気遣ったBが代わりに酒を飲むなどしていたが,酩酊したBが途中でトイレに行き戻らなかったため,EがBの様子を見に行くためリビングから移動した。Bは,トイレ内で酔いつぶれて意識を失って倒れた状態となっていた。
    Aも飲酒したアルコールの影響で一旦意識を失う状態となった後,本件小部屋内で何者かに姦淫された。
    Aは,8月27日午前1時39分頃にはリビングのソファ上に寝かされており,その様子をDが携帯電話機で撮影した。
    Aは,一人で帰宅できる状態でなく,Dが同乗するタクシーに乗って帰宅したが,DもA方に入り,Aは抵抗できない状態において同所でDに姦淫された。
 2 A供述の信用性
  (1) Aの公判供述の概要
    Aは,当公判廷において,△△で姦淫した犯人は被告人である旨供述するので,その信用性を検討する。Aの供述の要旨は,以下のとおりである。
    EがBの様子を見にトイレに行って以降の記憶が途切れており,その後記憶があるのは,あおむけの状態で誰かの顔が目の前にあり,キスをされている場面である。キスをしている相手は,私の上に覆いかぶさる状態で,「Aちゃん,かわいいね」と3回位私の名前を呼びながらキスをしてきて,陰部に手を触れて,その後陰茎を陰部の中に入れた。キスと姦淫行為は一連の動きで,途中で相手が入れ替わったようなことはなかった。姦淫を拒んで抵抗しているつもりであったが,酒が強く回っていたので体が動かず抵抗することができなかった。
    姦淫行為をしている相手について,暗くて顔を見ることはできなかったが,私の名前を「ちゃん付け」で呼んでいたことや,雰囲気や声のトーン,話し方からして本件飲み会でゲームをしているときに隣に座っていた被告人であると思った。Dからはその日「Aちゃん」と言われたことがなかったし,話し方や接し方からしてDではなかった。Eからは「Aちゃん」と呼ばれていたが,雰囲気や話し方からEではないと思った。姦淫された後に再び意識を失い,次に意識が戻ったのは,Eに身体を揺さぶられて起きたときで,リビングのソファーに横たわった状態であった。
  (2) 検討
   ア Aが本件飲み会の途中から泥酔状態に陥り,抵抗できない状態において姦淫されたこと自体は,本件飲み会におけるAの状態に整合し,本件飲み会後にBに連絡を取り始めた8月27日午後から△△で泥酔状態下で姦淫された旨伝えるメッセージを送信するなど,直後からその認識で一貫していることなどに照らせば,この点の証言の信用性に疑問を差し挟む余地はない。また,Aは,姦淫された場所について,リビングではない狭い部屋であったと公判廷で供述するところ,これが本件小部屋であったことも本件の証拠関係に照らして疑う余地がない。
   イ しかしながら,△△で姦淫した犯人が被告人であったとするAの供述については,Aの当時の状態や犯人を特定した根拠として述べるところに鑑みると,その信用性や被告人以外の者が犯人である可能性を排除するに足る内容を備えているか,特に慎重に評価すべきものである。すなわち,A自身が述べるように,酩酊状態に陥って記憶が途切れた後,一時的に意識を少し戻したときに姦淫されていることがわかったとするものの,依然として意識は清明といい難い状態のままであり,実際,姦淫された後再び意識を失ったというのであるから,姦淫されたときも相当強い酩酊状態にあったと認められる。そして,そのようなAの状態を前提にする限り,そもそもAが自らの身に起こっている状況を正しく認知し,かつ,認知した状況を正しく記銘しておくこと自体,相当に困難なことというべきであり,他に被告人が犯人であることを具体的に裏付ける客観証拠もないのに,専らそのような状況下でのAの供述に依拠して犯人を特定することは特に慎重に行う必要がある。その上で,Aが姦淫行為の犯人を被告人として特定した根拠として述べるところをみても,当時△△にいた可能性がある被告人以外の者が犯人であることを排除し得るような排他性を備えた顕著な特徴や手掛かりを挙げるようなものでなく,出会ってわずか数時間という状況で,しかも複数いた男性のうちの一人のものであったとする相手の声や雰囲気から判断したという,相当強い酩酊状態下において識別し得たというには,曖昧かつ漠然とした内容にとどまっている。印象論の域を出ない,十分な説得力に乏しい内容といわざるを得ず,その信用性,確実性には疑問が残る。
   ウ 加えて,Aは,8月27日午後以降,Bと本件飲み会での出来事について,互いにメッセージを送り合って,その時点における自己の率直な認識や感情等についてのやり取りを重ねているところ,仮にAにおいて当初から姦淫した犯人が被告人であると識別できるほどの記憶を保持していたのであれば,Bに対して早い段階からその旨告げていてもおかしくないのに,実際には,「昨日記憶ないんだけど,中だしされてないか心配~~」「普通に2人くらいにやられてる。」「ホントきおくない。」「馬鹿だから何も記憶ないんだよね。ただ,入れられたのは記憶ある。」など,姦淫された相手を特定しないメッセージの内容であった。これらのメッセージの内容に照らすと,Aは,Bと本件飲み会後にメッセージのやり取りを始めた時点では,何者かに姦淫された記憶はあったものの,姦淫された相手が誰であったのかを特定し得る確たる記憶はなかったとみざるを得ない。
     Aは,その後のBとのメッセージのやり取りの中で,姦淫された相手について,「お店(△△のこと)で,Y1さん(被告人のこと)かEさん(Eのこと)」などのメッセージを送信したところ,BがEに対してAを姦淫したか確認したものの,Eから「俺はやっていない」というメッセージが返されたことを受け,Aは,「恐らくお店(△△のこと)はY1さんみたい!」「(被告人に)ちゅーしたの記憶ある?って聞かれたし」とBに対して送信している。Aは,こうした一連のやりとりの中で得た情報も加わり,姦淫された相手が被告人であったと考えるに至った可能性が否定できない。
   エ この点,検察官は,直前までAが声を聞いていた者の声であること,比較対照する者が男性3名だけの限定された人数であったことから,Aが話し方や声の特徴から姦淫した犯人が被告人であったと判断することができたなどと主張する。しかし,姦淫されている最中に聞いたという「Aちゃん,かわいいね」という極めて短く,取り立てて特徴のない文言の話し方やその声の特徴のみで相手を特定したというのであるから,既に検討したAと被告人らとの関係,本件飲み会の経緯,当時のAの状態等を考慮すると,検察官の主張に照らしても人違いの可能性がないとはいい切れないというべきである。また,「Aちゃん」というさして特徴のない呼び方では犯人との結び付きを判断することは困難であり,犯人が犯行の場面で本件飲み会のときとは別の呼び方をすることも十分あり得るのであるから,本件飲み会で被告人らがAをどう呼んでいたかによって結論は左右されないというべきである。
  (3) 以上によれば,△△で姦淫した犯人が被告人であったとするA供述には疑問が残るといわざるを得ない。
 3 犯人が他にいることを疑わせる事実
   Dは,自身の捜査段階における取調べの中で△△内でAを姦淫した旨を録取した供述調書の内容を確認した上で署名押印しているところ,証人として出廷した当公判廷においても,△△においてAを姦淫していないと明確に否定せず,曖昧な供述をしている。この点,Dは,自身の捜査段階の供述について,タクシーで送っていったA方でAを姦淫した行為と混同していたとも述べるが,一方でA方での姦淫行為について今も状況的に記憶に強く残るものであったとの供述をしており,姦淫した場所を混同して供述していたとする説明は不自然である。しかるに,このようなDの供述等に照らすと,確かに検察官が主張するように△△においてAを姦淫した者が複数いる可能性も否定できないとはいえ,Aが同所で認識している姦淫被害は1回であり,Dが同所においてもAを姦淫し,かつ,それが本件の場面におけることであった可能性を否定するのは困難といわざるを得ない。
 4 被告人供述について
   最後に,被告人供述についてみても,曖昧な部分もあるものの,Aとキスしたことはあったが,それはリビングでAと二人きりになった際であったこと,Dが本件小部屋のある洗面所の方から出てきたのを目にし,Dと一緒に洗面所の方に戻って本件小部屋内を見たところ下半身を露出した状態のAが横たわっており,DがAに対して性的行為をしたと思ったことなどを述べるところは,Eの公判供述とも矛盾せず,関係証拠に照らしてこれを排斥することはできないのであって,もとより被告人の犯人性を積極的に裏付ける証拠とはなり得ない。
第5 結論
   以上を総合すれば,被告人が公訴事実記載の犯行を行ったとするにはなお合理的な疑いが残るというべきであり,結局本件公訴事実については犯罪の証明がないことになるから,刑訴法336条により被告人に対し無罪の言渡しをする。
(求刑 懲役4年6月)
  平成29年10月26日
    さいたま地方裁判所第4刑事部
        裁判長裁判官  佐々木直
           裁判官  四宮知彦
           裁判官  片山嘉恵

警察官による児童淫行罪で実刑(長野地裁h31.1.30)

 児童福祉法違反(淫行させる行為・児童淫行罪)の「淫行させる」については、最決が基準を示したんですが、支配とかではなく「影響関係」というようにかなり弱い関係でも成立します。法定刑も罰金1万円から懲役10年と幅広くなっています。
 大雑把に言うと、親族とか師弟とか補導とかの上下関係がベースにあると、「させる」と評価されます。
 否認すると「被告人には自己の行為の意味や被害児童に与える深刻な影響等について深く考え、自己の行為を真摯に顧みようとする姿勢は見られない。」と評価されることもあるので、弁護人が見極める必要があります。


児童福祉法
第三四条[禁止行為]
 何人も、次に掲げる行為をしてはならない。
六 児童に淫いん行をさせる行為
第六十条 
1第三十四条第一項第六号の規定に違反した者は、十年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

■28270606
長野地方裁判所
平成31年01月30日
上記の者に対する児童福祉法違反被告事件について、当裁判所は、検察官髙橋俊介及び同笹村美智子並びに私選弁護人青木寛文(主任)、同愛川直秀及び同唐木沢正晃各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文
被告人を懲役3年6月に処する。
未決勾留日数中120日をその刑に算入する。

理由
(罪となるべき事実)
 被告人は、平成26年3月20日から平成29年3月16日までは、長野県H警察署生活安全課生活安全係主任として、同月17日以降は、同県L警察署生活安全第一課生活安全少年係主任として勤務し、長野県警察少年警察活動に関する訓令に基づき、前記H警察署長が継続補導対象者に選定したA(当時●●●歳。以下「被害児童」という。)に対する補導等の職務に従事していた者であるが、被害児童が18歳に満たない児童であることを知りながら、補導等の職務に従事する警察官としての立場を利用し、別表記載のとおり、平成28年11月22日から平成29年3月17日までの間に、4回にわたり、Eほか3か所において、被害児童に被告人を相手に性交させ、もって児童に淫行をさせる行為をしたものである。
(証拠の標目)

(争点に対する判断)
1 争点
  被告人が、判示の日時・場所において、被害児童と4回にわたり性交した事実に争いはない。本件の争点は、(1)児童福祉法34条1項6号が憲法31条に違反するか、また、本件に児童福祉法34条1項6号を適用することが憲法31条に違反するか、(2)判示の各性交(以下「本件各性交」という。)が、児童福祉法34条1項6号にいう「淫行」及び「させる行為」に該当するか、また、被告人にその故意が認められるかである。
2 争点(1)(憲法違反の主張)について
 (1) 弁護人は、児童福祉法34条1項6号にいう「淫行」及び「させる行為」が憲法31条の要請する明確性を欠いており違憲無効であると主張するが、児童福祉法1条の基本理念に照らせば、同法34条1項6号は、淫行をさせる行為が児童の徳性や情操を傷つけ、その健全な育成を阻害する程度が著しく高いのでこれを規制する趣旨であると解され、そうすると、同号にいう「淫行」及び「させる行為」とは、それぞれ、「児童の心身の健全な育成を阻害するおそれがあると認められる性交又はこれに準ずる性交類似行為」及び「直接たると間接たるとを問わず児童に対して事実上の影響力を及ぼして児童が淫行をなすことを助長し促進する行為」をいうと解するのが相当である(最高裁判所平成28年6月21日第一小法廷決定参照)。そして、同法の前記基本理念及び趣旨等に鑑みれば、このような解釈は、一般人において理解可能で、かつ対象となる行為が犯罪行為に当たるか否かも区別が可能といえる。よって、同法34条1項6号にいう「淫行」及び「させる行為」が憲法31条の要請する明確性を欠くとはいえない。したがって、弁護人の主張は採用できない。
 (2) また、弁護人は、被告人自らが淫行の直接の相手方になった場合である本件に児童福祉法34条1項6号を適用することが、法文の明確性を失わせるとして憲法31条に違反する旨主張する。しかし、同号の文言が淫行の相手方を限定しておらず、その淫行の相手方に行為者自身がなるか第三者がなるかによって、児童の心身に与える有害性の点で本質的な差異はないことは明らかであるから、「淫行をさせる行為」とは、行為者が児童をして行為者自身と淫行をさせる場合を含むと解したとしても、法文の明確性を失わせるものとはいえない。よって、弁護人の主張は採用できない。
  また、弁護人は、同号が、淫行条例(「長野県子どもを性被害から守るための条例」)違反等より重い刑罰を定めていること等から、同号の「させる行為」については、淫行条例に定められた威迫等を超えた、継続的な支配的依存的関係性に基づく影響下での淫行がある場合に限って該当すると解すべきところ、威迫等すらない本件に同号を適用することは憲法31条に違反する旨主張する。しかし、同号の前記趣旨や法文等に照らせば、上記の場合だけに限定しなければならない理由はなく、後記のとおり、被告人に「児童に対して事実上の影響力を及ぼして児童が淫行をなすことを助長し促進する行為」が認められる。よって、この点に関する弁護人の主張も採用できない。
3 争点(2)(本件各性交が児童福祉法34条1項6号にいう「淫行」及び「させる行為」に該当するか、また、被告人にその故意が認められるか)について
 (1) この点、弁護人は、〈1〉被告人が被害児童に対する補導ないし立ち直り支援活動に従事していたことを争うとともに、〈2〉本件各性交は、被告人と被害児童が相互に恋い慕う関係に基づいて行われたもので、被害児童の健全な育成を阻害するおそれはないから、「淫行」及び「させる行為」には該当しない旨主張する。
 (2) 〈1〉(被告人が被害児童に対する補導ないし立ち直り支援活動に従事していたか)について
  ア 関係証拠によれば、次の事実が認められる。
  (ア) 被告人は、平成26年3月20日から平成29年3月16日までは、長野県H警察署(以下「H警察署」という。)生活安全課生活安全係主任として、同月17日以降は、同県L警察署生活安全第一課生活安全少年係主任として勤務していた。H警察署生活安全課は、同課C課長(以下「C課長」という。)を除き課員6人であり、同課の所掌事務として、犯罪の予防や少年非行の防止等の事務を取り扱い、被告人は、主として許認可事務を担当していたが、同人の扱う事務は、同課の所掌事務全般に及んでいた(なお、被告人の事務が同課の所掌事務の全てに及んでいたこと(したがって被告人の事務が許認可事務に限定されないこと)に関するC課長の供述は、同課の課員が少人数であり、垣根を越えて対応する必要がある場合も考えられること、長野県警察の組織に関する規則(甲2)において、例えば、警察本部には、組織上、生活安全企画課に許可事務担当室が置かれているが、各警察署はそのような組織構成になっていないことなどに照らし納得できるものであり、H警察署生活安全課においては、被告人の不在時に他の課員が被告人の許認可事務の一部を行うこともあったことや、後記のとおり、被告人が当直員として少年である被害児童を指導したこと、同課生活安全係長らが被害児童の立ち直り支援活動に参加していたことなどの事実と整合的であって、信用できる。)。
  (イ) 被害児童は本件各性交当時●●●歳で、たびたび家出や、深夜徘徊をし、多数の男性と不純異性交遊していた。平成28年8月20日頃、同課は、被害児童の親から、被害児童が行方不明となり、連絡がとれない、男性とともに行動している旨の相談を受理し、その日当直勤務をしていた被告人は、来署した被害児童と前記男性から事情聴取し、被害児童に対し、家出や深夜徘徊を慎むように指導するなどした。しかし、その後も、被害児童は家出や深夜徘徊等を繰り返していた。同年9月25日、被害児童は、家出をして強制わいせつ被害に遭ったことで同課で事情聴取を受けた。その際、被告人は、被害児童からFのIDを聞き出し、Fを通じて被害児童とやりとりをするようになった。
  (ウ) 同年10月3日、同課生活安全係であり、少年サポートセンターに配置されていたD巡査(以下「D巡査」という。)の提案を契機に、H警察署長は、被害児童を継続補導対象少年に選定し、D巡査がその実施担当者に指定された。その頃、C課長は、課員に対し、被害児童に対する継続補導活動について、担当者のD巡査だけでなく、課員全員で情報共有し、D巡査に協力して継続補導活動をするように指示した。
  (エ) D巡査は、同年10月25日、被害児童から気分が落ちている旨の連絡を受け、被告人に同行を求めて一緒に被害児童方に被害児童を迎えに行き、話を聞くなどして助言、指導した。
  (オ) D巡査は被害児童に対する継続補導活動の一環として、農業体験やボランティア活動といった立ち直り支援活動を生活安全課の他の課員(生活安全係長ら)や他警察署関係者とともに行ったが、被告人は、D巡査らの立ち直り支援活動が十分でないとして非難することもあった。
  (カ) D巡査は、継続補導活動の内容を立ち直り支援活動簿に月毎に記載して同課内で回覧し、被害児童の精神状態や問題行動等について同課内で情報共有しており、被告人も同活動簿に目を通したこともあった。そして、被告人も、被害児童に精神疾患があることを認識しており、被害児童の精神的安定を図るため、被害児童と会って話をするなどしていた。
  (キ) 被告人は、前記L警察署に異動後、平成29年5月、被害児童に対する継続補導実施担当者として追加指定された。
  イ 以上の事実に鑑みると、被告人は、少年非行の防止等を扱う生活安全課の一員であり、同課内における主な担当事務が許認可事務であったとしても、職務上、同課の一員として、少年に対する補導等を行う立場にあったと認められ、加えて、被害児童が継続補導対象少年に選定されて以降は、被告人も他の課員と同様、D巡査に協力して被害児童の補導及び立ち直り支援活動に従事する立場にあったと認められる(なお、被害児童も被告人が被害児童の補導等に関わっているとの認識を有していたことは被害児童のスマートフォンにおけるFの記載(甲35の画像第99号)からもうかがえる。)。そして、被告人が前記L警察署において被害児童に対する継続補導実施担当者に追加指定されたのは、被告人がH警察署において被害児童に対する補導及び立ち直り支援活動に従事しており、被害児童が被告人を頼っていたという実質があったからこそと考えられる。
  この点について、D巡査は、自分が被害児童に対する継続補導活動の責任者であるものの、1人で被害児童に対応することは困難であり、他の課員と一緒に行っていて、被告人も同課の課員として、被害児童に対する補導及び立ち直り支援活動に従事していた旨供述するが、前記の認定事実(特に被害児童が家出や深夜徘徊等を繰り返していたこと)及び客観的証拠(甲62)に照らし、自然かつ合理的で信用できる。
  ウ これに対し、弁護人は、少年警察活動規則第8条第3項によれば、少年サポートセンターに配置されたD巡査以外は継続補導の業務を担当できないこと、前記のとおり、D巡査が被告人に同行を求めて被害児童方に赴く際、C課長の了解を求めていて、D巡査自身も自分の業務であるという認識を有していたことから、被告人がD巡査や他の課員と被害児童に対する補導等を共同実施したとするD巡査の供述は信用できず、そのような事実は認められない旨主張する。しかしながら、D巡査の供述が信用できることは前記のとおりであり、また、D巡査は、被害児童に対する継続補導の実施担当者(責任者)ではあるが、同課の課員と少年サポートセンターの職員とを兼務しており、同規則上も、担当者以外の他の警察官が担当者の継続補導活動に協力することを否定するものとは考え難い(同第3項によれば、やむを得ない理由がある場合には、少年サポートセンターの指導の下、少年警察部門に属するその他の警察職員が実施するものとされている。)から、同規則と齟齬するとは認められない。さらに、D巡査がC課長の了解を求めた点については、被害児童に対する補導等の活動が被告人の第一次的な業務ではないと考えたことによるものであり、合理的な理由によるものといえる。したがって、弁護人の主張は採用できない。
 (3) 〈2〉(本件各性交が「淫行」及び「させる行為」に該当するか)について
  ア 前記認定事実に加えて、関係証拠によれば、次の事実が認められる。
  (ア) 被告人は、本件各性交当時42歳であった。被告人には、妻と子供2人がおり、前記3(2)ア(ア)の期間中、単身赴任していたが、妻ら家族との間で不和はなかった。また、被告人は、被害児童と本件各性交をしたことはもちろん、被害児童と会っていることも同僚や家族など周囲の者に隠していた。
  (イ) 被害児童は、本件各性交当時●●●歳で結婚不適年齢であった。被害児童は、幻聴や妄想気分があり、精神的不安等から他人(とりわけ男性)に依存する症状があり、前記のとおり、家出や深夜徘徊をしたり、出会い系サイトを使って男性と会うなどの衝動的行動を繰り返していて、平成28年9月28日には初期の統合失調症と診断された。また、被害児童は、平成29年1月6日から同年2月14日までの間及び同年8月22日以降、精神症状が悪化して家出や深夜徘徊をしたり、自傷行為をするなどしたことから入院したが、退院後も幻聴や妄想が続き、深夜徘徊等を繰り返していた。
  (ウ) 被告人が被害児童とFでやりとりをするようになってから間もなく、被告人は、勤務時間の内外を問わず、警察車両や被告人自身の車で被害児童に会いに行き、被害児童と話をしたり、食事をするようになった。
  (エ) 平成28年10月11日、被告人は、被告人運転車両の後部座席に被害児童と並んで座っていた際、「もう無理。」と言い、被害児童に覆いかぶさるようにして、その胸や陰部を触るなどした。
  (オ) それから間もなくして、被告人は、被害児童と、被告人が運転してきた車の中で、被害児童の了解を得て性交し、その後、被告人は、被害児童と、週に二、三回位性交を繰り返していて、会う時はほぼ毎回性交しており、勤務時間中に警察車両を利用して性交したこともあった。こうした被告人と被害児童との性交は、平成29年7月頃まで続いた(本件各性交もこれに含まれる。)。また、被告人は、被害児童と避妊具を使わずに性交したことも複数回あった。また、被告人が被害児童と会う時間は、約15分から長くて1時間程度であったが、被告人は性交してすぐ帰ることもあった。
  (カ) 被告人は、被害児童に対し、被告人と会っていることや性交していることを他人に言わないように口止めするとともに、被告人とのFのやりとりをこまめに削除するように指示した。
  (キ) 被告人は、被害児童が被告人以外の男性と交際し、性交していることを知っていたが、被害児童に対し、自分も妻がいるから対等であると言っていた。
  イ 被害児童の供述の信用性
  前記ア(ウ)ないし(キ)の事実は主に被害児童の供述によって認定したが、被害児童は、H警察署生活安全課の警察官から問い詰められて被告人と性交した事実を認めたもので、そのことにより被告人の身を案じ、警察官に話したこと自体を後悔する気持ちを有している上、期日外尋問において、被告人に対して感謝している旨を述べていることなどに照らすと、あえて被告人に不利な供述をするだけの動機はない上、供述内容は具体的であり、特に被告人から突然胸などを触られたこと、初めての性交の際、被告人の方から了解を求められたこと、短時間の性交でも受け入れていたことについては、胸などを触られて驚いて手をつかんだことや、拒絶した場合にはFをしてくれないと思ったこと、初めて性交を求められた際、被告人が警察官で妻帯者であったことから迷ったが、了解したのは被告人が会ってくれなぐなったり、Fをしてくれなくなると思ったからであること、たとえ性交目的だけだったとしても被告人に会いに来て欲しいと思ったため、被告人に性交目的かを聞かなかったことなど、自身の心情を交えて供述していて、供述内容全体を通じて特に不自然、不合理なところはない。また、被害児童は、被告人を自らホテルに誘ったことなど自分にとって不利益なことも話しており、明確に記憶しているところとそうでないところを区別して供述するなど供述態度は真摯である。したがって、弁護人の指摘する点を踏まえても、被害児童の供述は信用できる。また、被害児童は、被告人と性交していた理由について、拒絶すると被告人がFをしてくれなくなったり、会ってくれなくなると思ったとも供述するが、被害児童が精神的に不安定で、他人(とりわけ男性)に依存する傾向にあるという被害児童の精神状態や被害児童が特に性行為を求めていたわけではなく、相手から求められれば応じてしまうとする医師の供述(甲28)等とも整合的で信用できる。
  これに対し、被告人は、(エ)に関して、「もう無理。」とは言っておらず、後部座席で横並びになっている際に灰皿を取ろうとして被害児童と手が触れ、手をつなぐような形になって、抱き合い、キスして胸などを触った旨供述するが、被告人は、初めて性的な行為をした日が被害児童と恋人としての交際が始まった特別な日であると認識しながらも、当初は抱き合っただけであると述べるなどの供述経過、性的行為の内容について曖昧な供述をしていることや、被害児童が被告人と会うようになってから間がないのに、被告人が述べる経過で性的行為に及ぶことは、医師が述べる被害児童の性格に照らしても唐突で不自然であり、捜査段階からの被告人の供述経過等を踏まえると、この点に関する被告人の供述は信用できない。同様に、被告人は、(オ)の初めての性交についても、自然とそうなった旨供述するが、前記と同様、曖昧であることなどに照らして信用できない。
  ウ 本件各性交が「淫行」に当たるか及び被告人にその故意があるか
  (ア) 弁護人は、本件各性交は、被告人と被害児童の相互に恋い慕う関係に基づいて行われたものであるので、児童福祉法34条1項6号の「淫行」には該当しない旨主張し、その根拠として、被告人と被害児童のFによる親密なやりとり(甲35)や、被告人と被害児童が2人で警察官と女子高生との真摯な恋愛を描いた映画を見に行き、その際、被害児童が「私たちみたいだね」と言ったこと、お互いの愛称の呼び方、被害児童が期日外尋問において被告人に感謝していると述べたこと、最初の性的行為からその後の性交について、被害児童が拒絶することなく自然になされたことなどの事情を指摘する。
  確かに、これらの事情に鑑みると、被害児童に被告人を慕う気持ちがあったことは否定しがたいが、前記のとおり、被害児童は、被告人と性交した目的について、Fで連絡してもらうためや会ってもらうためであったと明言しており、これが信用できることは前記のとおりである上、前記3(2)ア及び(3)アで認定した、被告人及び被害児童の年齢、特に被害児童が●●●歳で心身及び判断力が未熟であり、自己の性的行為の意味を十分に理解していなかった上、結婚不適年齢であったこと、被告人と被害児童との関係及びそれぞれが置かれた状況、特に、被告人が警察官として被害児童に対する継続補導活動に従事していたことや、被告人が妻帯者であったこと、被害児童が精神的に不安定で不純異性交遊を繰り返すなど他人(とりわけ男性)に依存する傾向があり、被告人と性行為をしている期間中も他の男性と交際し、性交していたこと、そのことを認識した際の被告人の前記発言、被告人の方から被害児童のFのIDを聞き出して被告人とFで連絡を取り合うようになり、それから間もなく被告人の方から被害児童に性的な行為を求めたこと、その後間もなく被告人が被害児童と性交し、以降、頻繁に性交を繰り返す中で本件各性交に及んだもので、避妊具を使用しないことも複数回あったことや、被害児童が統合失調症で入院し、退院した後も性交を繰り返していたこと、被告人が被害児童と会っていることや性交していることを同僚や家族を含む周囲の者に隠すとともに、被害児童に対しても、口止めやFのやりとりの削除を指示していたもので、被害児童との性的関係が職場や家族に露見することを恐れていたと考えられる行動をとっていることなどからすれば、被告人が被害児童の心身に配慮し、被害児童との将来も考えて真剣に交際していたとは到底認められないことなどに照らすと、被告人と被害児童との間の性交が、相互に恋い慕う関係に基づいてなされたものとは認められず、被告人もそのことは当然に認識した上で、被害児童を自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っていたと認められ、本件各性交が被害児童の心身の健全な育成を阻害するおそれがあることは明らかである(なお、弁護人は、被害児童が入院している間や被害児童の気分が落ちている時には性行為をしなかったこと、避妊具を用いなかったのは被害児童の希望によるものであったことを指摘するが、性的欲望の対象として扱っていたとしても、入院中や気分が落ちている時など通常性交ができないあるいは嫌がると考えられる時に性交をしないことは不自然なことではないし、被害児童が避妊具を用いないよう希望したことがあったとしても、被害児童はそもそも判断力が未熟であり、自己の行為の意味や結果を正しく理解して求めていたものとはいえないから、その点が前記の判断を左右するものとはいえない。)。したがって、本件各性交は、同号の「淫行」に該当する。その他の弁護人が指摘する点を踏まえても判断は左右されない。
  (イ) また、被告人が前記の被告人と被害児童との関係や置かれた状況、本件各性交に至る経緯や性交の態様等の客観的な事情の認識を欠いていたとみることはできず、その故意にも欠けるところはないというべきである。
  エ 本件各性交が「させる行為」に当たるか及び被告人にその故意があるか
  (ア) 前記2(1)のとおり、同号の「させる行為」とは直接たると間接たるとを問わず児童に対して事実上の影響力を及ぼして児童が淫行をなすことを助長し促進する行為をいうと解するのが相当である。そして、「させる行為」に該当するかどうかは、行為者と児童の関係、助長・促進行為の内容及び児童の意思決定に対する影響の程度、淫行の内容及び淫行に至る動機・経緯、児童の年齢、その他当該児童の置かれていた具体的状況を総合考慮して判断すべきである(前記最高裁決定参照)。
  この点、弁護人は、被告人と被害児童との間に支配的関係ないし保護責任者的地位がなければ、よほど助長・促進行為が強度であるなどの例外的事情がない限り、児童福祉法34条1項6号の「させる行為」には該当しないとして、被告人は被害児童の処遇の決定に影響力を有する支配的立場ではないこと、合意の上性交しており淫行の助長・促進行為は微弱であることなどの諸事情を根拠として挙げ、被告人は相互に恋い慕う関係に基づき被害児童の性交の相手になったにすぎず、同号の「させる行為」に当たらない旨主張する。
  (イ) しかしながら、本件各性交が被告人と被害児童との相互に恋い慕う関係に基づいてなされたものと認められないことは前記のとおりである。そして、前記のとおり、被告人は、警察官として、被害児童の処遇の決定に影響力があるとはいえないとしても、継続補導実施担当者のD巡査に協力して被害児童に対する補導及び立ち直り支援活動に従事する者として、被害児童に対して、性的逸脱行動を含め、その心身の健全な育成を阻害するおそれのある行動をしないよう指導する立場であり、かつ、被告人の前記活動を通じて、判断力が未熟で、精神的にも不安定で他人(とりわけ男性)を頼りやすい被害児童が被告人を精神的に頼っていたことから、被告人は、被害児童に対して影響力を有する立場にあったといえる。そして、被告人は、そのような立場や被害児童との関係性を利用し、前記のとおり、被害児童を自分の性的欲望を満足させる対象として扱い、被害児童と性交を重ねる中で本件各性交に至ったものである。これらの事情に鑑みると、被告人が被害児童に本件各性交を強く持ち掛けたことがないことや、被害児童が性交を拒絶していないことなどの事情を踏まえても、被告人が被害児童に対する事実上の影響力を及ぼして被害児童が淫行をなすことを助長し促進する行為をしたものと認められる。したがって、本件各性交は、同号の「させる行為」に該当する。弁護人の前記主張は採用できず、その他、弁護人が指摘する点を踏まえても判断は左右されない。また、前記と同様、この点に関する被告人の故意に欠けるところもない。
(法令の適用)
 被告人の判示所為は包括して児童福祉法60条1項、34条1項6号に該当するところ、所定刑中懲役刑を選択し、その所定刑期の範囲内で被告人を懲役3年6月に処し、刑法21条を適用して未決勾留日数中120日をその刑に算入することとし、訴訟費用は、刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
(量刑の理由)
 被告人は、警察官として被害児童を補導し、立ち直らせるための支援活動に従事する立場であり、それを通じて被害児童が被告人を精神的に頼っていたことに乗じて、判断力が未熟であり、かつ、精神疾患の影響もあり精神的に不安定であった被害児童に対する本件犯行に及んだもので、警察官としてあるまじき卑劣な犯行である。被告人が被害児童の求めに応じて会うなどしてその精神的安定を図ろうとしていた面もあったことは否定できず、被害児童は、期日外尋問において、被告人に対する感謝の気持ちを述べ、処罰を求める気持ちはないとしているが、そもそも被害児童は心身ともに未熟であり、判断力も未熟である上、精神疾患の影響もあって精神的に不安定な状態であったもので、現在は、被告人と性交したことは良くなかった旨述べており、前記の態様で被告人と多数回の性交を続けていた一環として本件各性交を行った被害児童の今後の心身の健全な育成への悪影響が懸念され、被害児童の母親は、被告人に対して強い憤りを抱いている。加えて、被告人には自己の行為の意味や被害児童に与える深刻な影響等について深く考え、自己の行為を真摯に顧みようとする姿勢は見られない。
 そうすると、被告人の刑事責任は軽視できるものではなく、本件により被告人が懲戒免職されたことや、離婚したことなど一定の社会的制裁を受けていること、これまで前科前歴がないことなどの被告人に有利な事情を十分に併せ考慮しても、被告人は主文の刑を免れない。
(求刑 懲役4年)
刑事部
 (裁判長裁判官 室橋雅仁 裁判官 荒木精一 裁判官 風間直樹
別表(省略)

22歳女性が12歳男児に強制性交等した事案(香川県警)

 177条後段ですけど、性交なのか、肛門性交なのか、口腔性交なのかになります。一律5年以上というのは疑問です。
 性交・肛門性交の場合は、勃起してないと挿入しにくいから、女性が主体になりにくいと思うんですよ。

刑法第一七七条(強制性交等)
 十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛こう門性交又は口腔くう性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。十三歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。
〔平一六法一五六・平二九法七二本条改正〕

 実例がないので、記載例をみても、お姉さんが、暴行脅迫して、男にまたがって性交するというAVっぽい設定になっています。
先生が教えてあげる - アダルトビデオ動画 - FANZA動画(旧DMM.R18)

犯罪事実記載要領刑法犯特別法犯改訂第5版
(2)女が男を襲う
事例141
被疑者は,強制的に山田次郎(当時20歳)と性交をしようと考え,日時場所において, 同人に対し, カッターナイフを突きつけながら「おとなしくしてないと,殺すよ。」などと申し向けて脅迫し,その反抗を著しく困難にして同人と性交をしたものである。
【解説】平成29年の法改正によって,女性も本罪の実行行為者となり得るようになった。
・・
警察官のための充実犯罪事実記載例第4版
【女性による男性に対する強制性交等事例】
被疑者は,顔見知りの甲野太郎(当時14歳) と強制的に性交をしようと考え①,平成○○年○月5日午後5時30分頃,東京都新宿区○○3丁目16番○○号所在の新宿区立○○中学校内において,同人に対し, 「昨日のテストでカンニングしたのは分かっているから。こっちに来て言うことを聞きなさい。」と申し向け,体育準備室内に連れ込み,同室内において,仰向けに押し倒した同人の胸部付近に馬乗りとなって,覆いかぶさるなどの暴行を加え,その反抗を著しく困難にして同人と性交をしたものである。
・・・
7訂版犯罪事実記載の実務刑法犯
2被疑者が女性・被害者が男性
被疑者は,強制的にB男(当時22歳) と性交をしようと考え,平成30年4月lO日午後l l時30分ころ,京都市北区○○4丁目21番地比叡ハイツ201号室において, 同人に対し,○○などの暴行を加え, その反抗を著しく困難にして同人と性交をしたものである。

https://www3.nhk.or.jp/lnews/takamatsu/20190123/8030002936.html
男児にみだらな行為か 女を逮捕
01月23日 06時04分
21日、高松市の自宅で13歳未満と知りながら12歳の男の子にみだらな行為をした疑いで高松市の22歳の女が逮捕されました。
逮捕されたのは、容疑者(22)です。
警察によりますと、容疑者は21日午後11時ごろ、高松市の自宅で13歳未満と知りながら福岡県の12歳の男の子にみだらな行為をしたとして強制性交等の疑いが持たれています。
強制性交等罪は、おととし、刑法の性犯罪に関する分野が改正された際に強姦罪から名称が改められ、被害者を女性に限ってきた規定を改め、性による区別をなくすことも盛り込まれたほか、13歳未満の男女に対しては暴行や脅迫がなくても、みだらな行為などをすれば罪に問われることになりました。
警察によりますと容疑者と男の子は、オンラインゲームを通じて知り合ったということで、22日の午前中、警察に通報があり、発覚したということです。
警察の調べに対し、容疑者は、容疑を認めているということです。

傷害、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件の量刑理由(田辺支部h30.11.29)

 D1-LAW罪となるべき事実が省略されているので、量刑理由だけ聞かされても意味ないですよね。
 性的意図の立証のために児童ポルノ所持罪も起訴されているような感じです。

■28265236
和歌山地方裁判所田辺支部
平成30年11月29日
私選弁護人 村上有司(主任)
榎哲郎

主文
被告人を懲役2年6月に処する。
この裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予する。
被告人をその猶予の期間中保護観察に付する。

理由
(罪となるべき事実)
第1 平成30年1月31日付け起訴状記載の公訴事実のとおりであるから、これを引用する。
第2 平成30年2月20日付け起訴状記載の公訴事実のとおりであるから、これを引用する。
(証拠)
(法令の適用)
 罰条
  判示第1の行為につき
  刑法204条
  判示第2の行為につき
  児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条1項前段、2条3項3号
 刑種の選択
  判示第1、第2の各罪について、いずれも懲役刑
 併合罪の処理
  刑法45条前段、47条本文、10条(重い判示第1の罪の刑に同法47条ただし書の制限内で法定の加重)
 執行猶予
  刑法25条1項
 保護観察
  刑法25条の2第1項前段
(量刑の理由)
 1 犯行に至る経緯
  被告人が小学5年生のときに両親が離婚し、被告人は、親権者となった母親に監護養育されるようになったが、母親は仕事のために不在がちであった。母親は、5年前から甲状腺がんを患っている。父親は、被告人住所地とは離れた山間地で飲食店を経営しており、被告人とは、たまに会う程度の交流はあった。
  被告人は、平成29年4月に、市役所に非常勤職員として採用された。同年秋には正職員となるための採用試験を受けたが、不合格となった。再度の受験を志した被告人は、予備校に通うことを上司から勧められたので、父親にその費用の援助を申し込んだが、金銭的余裕がないとして断られた。
  被告人は、他人と話をするのが苦手である。
 2 本件各犯行及び関連事件
  (1) 判示第2の犯行(以下「児童ポルノ事犯」という。)
  被告人は、平成28年春ころから、十歳台前半くらいの女児が裸になって性器を見せたり自身の性器を触ったりしている動画(以下「児童ポルノ」という。)をインターネット経由で入手し、自らのパソコンにダウンロードして、自宅でハードディスクに保管するようになった。児童ポルノ事犯は、その一環である。
  被告人は、これらの動画をダウンロードするまでには、通常のウェブサイトへのアクセスと異なり、専用のアプリを使って暗号のような文字を入力する必要がある等手が込んでいたことから、児童ポルノにかかわることが合法ではないらしいとの漠然とした認識は有していた。
  (2) 関連事件
  被告人は、平成28年6月30日、児童公園で遊んでいた小学生の女児を公園内のトイレの個室に誘い込み、内部から鍵をかけたが、程なくして鍵を開けて女児を外に出した。
  (3) 判示第1の犯行(以下「スプレー事犯」という。)
  被告人は、犯行当日、有給休暇を取得して、B市へ、次いでC市へ行った。その帰路、カーナビの目的地を、自宅へ向かう道筋から外れた山間部にある犯行現場付近の大字に設定し、その案内に従って走行した。
  被害女児は、その大字の中では比較的建物が多い集落にある小学校から、山間部の奥にある自宅へ、徒歩で帰宅する途中であった。被告人は、小学校の近くで、車を運転しながら、被害女児が三叉路を山間部の奥の方へ向けて曲がるのを見かけた。その約3分後、集落付近で車を転回させるなどした後、自宅へ向かって人気のない道筋を歩いている被害女児を追い越し、路肩に駐車した。自動車に積んでいた催涙スプレー(以下「本件スプレー」という。)を持って、被害女児に歩み寄った。被害女児に声をかけ、これに応じて被告人の方に顔を向けた被害女児の顔面をめがけて、催涙スプレーを噴射した。
  この催涙スプレーは高濃度の唐辛子成分を含有し、眼及び皮膚に強い刺激を与えるものであった。被害女児は、突然催涙スプレーを噴射され、その痛みに泣きながら歩き出し、近くの建物で働いていた大人に助けを求めた。被害女児には、両頬が赤く変色する等の症状が生じた。
  被害女児の痛みは数日で収まり、皮膚の変色も次第に消えて、特段の後遺症は残らなかった。しかし、事件前はひとりで就寝できていたのに保護者と同じ布団で寝ることをせがんだり、一人でいることを極端に嫌がったりするようになった。
 3 スプレー事犯の動機ないし目的について
  (1) 被告人の供述の変遷
  ア 被告人は、平成29年12月20日にスプレー事犯を被疑事実として逮捕された。
  逮捕直後の取調べでは、「女の子が飛び出してきた。注意しようとしたが、無視したので腹が立ち催涙スプレーをかけた。」と供述した。
  しかし、同日中に、「催涙スプレーをかけて女の子の目が眩んだ隙に胸や体を触ろうと考え、女の子の顔に催涙スプレーをかけました」と供述し、同旨の自供書を作成した。
  イ 被告人は、強制わいせつ致傷の罪名で検察官送致され、同月22日に勾留された。後に、勾留期限は平成30年1月10日まで延長された。
  この勾留期間中の平成29年12月30日の取調べでは、スプレー事犯の動機について、「女の子が片足を軸にしてクルクルと体を回転させているのが見えました。私は、そのクルクルと体を回している女の子の姿を見て無性に腹が立ってきました。」「女の子の行動に腹が立ったので催涙スプレーをかけてやろうと考えました。」と供述した。
  また、同日、催涙スプレーについて、護身用に購入していたものであり、その威力を試してみたいという思いもあって被害女児に向けて使用した旨供述した。
  ウ 被告人は、スプレー事犯による勾留の延長後の期限である平成30年1月10日、スプレー事犯については処分保留のまま、関連事件につき、未成年者誘拐・監禁の罪名で逮捕され、同月12日に勾留された。後に、勾留期限は同月31日まで延長された。
  この勾留期間中の同月24日、被告人は、スプレー事犯につき、司法巡査Dに対し、「女の子に催涙スプレーをかけた本当の目的は、女の子の体を触ったり、服を脱がして裸を見たかった」、「わいせつなことをする為の手段として、予め催涙スプレーを用意していました。今回、私は催涙スプレーを使って目をくらませ、女の子を私の車に乗せようと思っていました。そして、車内で女の子の身体を触ったり、服を脱がして裸を見たいという思いがありました。」等と供述した。
  また、動機ないし目的についての供述を変えた理由については、「前の取り調べで、……女の子の写真を見せて貰った時、女の子の顔や手が真っ赤に腫れている姿を見た」、「その女の子の姿が頭から離れませんでした。悪いことをした、申し訳ないことをしたとずっと考えるようになりました」、「女の子のことを考えると、罪悪感で嘘を突き通す(原文ママ)ことに疲れました」等と供述した。
  エ 同月31日、被告人は、スプレー事犯につき起訴され、関連事件については不起訴となった。
  オ 当公判廷における被告人の供述内容は、上記イの内容とおおむね同一である。
  (2) スプレー事犯の動機ないし目的について、わいせつ行為が目的であった(以下「わいせつ目的」という。)旨の検察官の主張と、被害女児に対する腹立ちの動機及び催涙スプレーの試用の目的によるものであった(以下「非わいせつ動機・目的」という。)旨の弁護人の主張が対立している。
  よって検討するに、以下の理由によれば、スプレー事犯はわいせつ目的で行われたと理解する方が自然である、ということはできる。
  ア 被告人は、児童ポルノ事犯及び関連事件も起こしている。被告人は、当公判廷において、児童ポルノ事犯はこれらの動画に「珍しさ」があったからであり、関連事件は女児と話をしたかったからである旨供述し、これらの事件についても性的欲求との関連を否定するが、児童ポルノ事犯、関連事件及びスプレー事犯という一連の行為を総合的に観察すれば、共通の背景として女児に対する性的欲求が存在したとの推認に傾く。
  イ 非わいせつ動機・目的をいう被告人の供述は、逮捕直後の平成29年12月20日の取調べにおける「女の子が飛び出してきた。注意しようとしたが、無視したので腹が立ち催涙スプレーをかけた。」という供述と、同月30日の取調べ及び本件公判廷における「クルクルと体を回している女の子の姿を見て無性に腹が立ってきました。」という供述とで、大きく食い違っている。
  ウ ドライブレコーダーの解析結果等によれば、被告人は、集落内の三叉路を山間部の奥へ向けて歩く被害女児の姿を見た後、その三叉路を一旦直進通過したのに、車をUターンさせてその三叉路まで戻り、被害女児が歩いて行ったのと同じ方向へ曲がっている。この行動は、三叉路で被害女児を見た時点で、被害女児に対して何らかの行動を仕掛けようとする意図があった、という推論と結び付く。
  被告人の上記平成29年12月30日の供述においても、「クルクルと体を回している」被害女児を見たのは、被告人が車で三叉路を曲がってしばらく走った後であるから、被告人の供述する非わいせつ動機・目的では、三叉路を曲がって被害女児と同方向へ向かったという被告人の行動を説明できない。
  (3) もっとも、わいせつ目的、非わいせつ動機・目的のいずれが、スプレー事犯の犯情として、より悪質であるのかは、一概に決められない(非わいせつ動機・目的でスプレー事犯に及んだことの背景について、弁護人は、職場で意に沿わない異動があったこと、父親から予備校の費用援助を断られたこと等からくるストレスや苛立ちがあった旨主張し、被告人もその旨供述するが、その程度の背景のもとで、「クルクルと体を回している女の子の姿を見て」腹を立て、無抵抗の弱者である女児に対してスプレー事犯のごとき犯罪行為にまで及んだのであれば、被告人はきわめて危険な粗暴犯としての犯罪性向を有することになる。)。したがって、スプレー事犯がわいせつ目的であったか非わいせつ動機・目的であったかは、本件の量刑には必ずしも影響しない事情といえる。
  そして、わいせつ目的であれ、非わいせつ動機・目的であれ、いずれも被告人の内心に係る事柄であって、両者が併存することも有り得る。そもそも、被告人自身がスプレー事犯の当時の自己の内心を的確に把握できていたとは限らないし、当時の自己の内心について、捜査官の取調べや公判廷での質問に対して的確に供述できるとも限らない。
  そうすると、スプレー事犯の動機ないし目的は、被告人の矯正及び更生をより効果的なものにするため、心理学的な知見を踏まえつつ分析・判断されるべきものであって、本判決において事実認定の対象とするにはなじまない。
  (4) なお、弁護人は、平成29年12月24日に被告人がわいせつ目的を認める供述をしたのは、捜査官から、関連事件を不起訴にすることとの取引を持ち掛けられたためである旨主張するが、証人Dの公判供述に照らして、弁護人の主張は採用することができない。同供述によれば、関連事件について被告人がわいせつ目的を認める供述をしたので、同証人がスプレー事犯についても何度か尋ねたところ、被告人は、最初は黙っていたが、数日経って「今更ですけど、話を変えてもいいんですか」と言ってわいせつ目的を認める供述を始めたというのであり、これはこれで自然な流れである。同証人が関連事件の不起訴との取引を持ち掛けたという弁護人の主張には、その裏付けとなり得る証拠は被告人の公判供述以外に存在せず、一つの憶測にとどまると言わざるを得ない。
 4 量刑事情について
  スプレー事犯の犯行態様は非常に危険で悪質であり、実際に生じた被害結果も重大である。また、児童ポルノ事犯は、児童ポルノの製造や提供を助長しかねない犯行であって強い非難に値する。
  他方、被告人のために酌むべき事情として、前科前歴はないこと、児童ポルノの所持を始めた時点では未成年であったこと、本件各犯行時も成年に達したばかりであったこと、本件各犯行が広く報道された上に市役所からは懲戒解雇される等して大きな社会的制裁を受けたことが挙げられる。
  なお、示談等については、被告人及びその両親が被害女児の父親と一度面談し、謝罪するとともに示談の申入れもしたが、話合いには応じてもらえず、その後進展していない。被告人及びその両親には、損害賠償の資力は現段階では乏しいが、その義務は認識している。
  これらの事情を総合考慮して、主文のとおり、被告人を懲役刑に処してその刑事責任を明らかにした上、その執行を猶予するのが相当である。
  また、その執行猶予の期間中、被告人を保護観察に付するのを相当と認める。スプレー事犯がわいせつ目的であったのならばもちろんのこと、非わいせつ動機・目的に基づくものであったとしても、被告人には矯正すべき重大な犯罪性向があったといえることは上記のとおりであるから、保護観察下で、自らカウンセリングを受けるなどしてその矯正に努めるべきである。
(求刑 懲役2年6月)
 (裁判官 上田卓哉)

外科医の準強制わいせつで無罪とした事例(東京地裁h31.2.20)

d1-lawに出ました。

d1-law
■28270795
東京地方裁判所
平成31年02月20日
本籍 ●●●
住居 ●●●
職業 医師
被告人 ●●●

主文
被告人は無罪。

理由
(以下、一定の者の氏名については、別紙呼称一覧表記載のとおりの呼称を用いることとする。)
第1 本件公訴事実及び争点
 1 本件公訴事実
  本件公訴事実は、「被告人は、東京都(以下略)特定医療法人財団B会E病院に非常勤の外科医として勤務するものであるが、被告人が執刀した右乳腺腫瘍摘出手術の患者であるAが同手術後の診察を受けるものと誤信して抗拒不能状態にあることを利用し、同人にわいせつな行為をしようと考え、平成28年5月10日午後2時55分頃から同日午後3時12分頃までの間、同病院4階408号室において、同室ベッド上に横たわる同人に対し、その着衣をめくって左乳房を露出させた上、その左乳首を舐めるなどし、もって同人の抗拒不能に乗じてわいせつな行為をしたものである。」という内容である。
  検察官は、第1回公判期日において、公訴事実中、〈1〉犯行時刻については、「午後2時55分頃から同日午後3時12分頃までの間」と特定しているが、その間終始継続して犯行を行っていたという趣旨ではなく、その間のいずれかのときという趣旨である、〈2〉「左乳首を舐めるなど」の「など」には、「左乳首を吸う行為」も含まれるが、それ以外の行為は含まないと釈明した。
 2 争点
  本件の主要事実レベルの争点は事件性である。
  検察官は、Aは公訴事実記載の被害に遭ったことを証言するところ、Aから採取された付着物に関するアミラーゼ鑑定及びDNA型鑑定の結果等と整合するAの証言は信用でき、アミラーゼ鑑定及びDNA型鑑定の結果とAの証言が相俟って、被告人がAの左乳首を舐め、吸った事実が認められる旨主張している。
  本件の実質的な争点のうち、主要なものは次のとおりである。
 Ⅰ Aの証言の信用性
  Aの証言には信用性が認められるか。
  さらに、その外在的な補助事実に関する争点としては、Aにおける麻酔覚醒時のせん妄の影響の有無及びその程度がある。
 Ⅱ アミラーゼ鑑定及びDNA型鑑定の信用性等
  Aから採取されたとされる付着物(この採取や保管の過程についても争いがある。)に関するアミラーゼ鑑定及びDNA型鑑定(特にその過程で行われたDNA定量検査)には科学的証拠としての許容性、信用性及び証明力が認められるか。
  なお、弁護人は、本件当日、手術に関連して、複数の機会に、唾液や被告人のDNAがAの左乳首付近に付着する可能性があったとも主張している。

第2 当裁判所の判断
・・・

 3 結論
  以上によれば、本件公訴事実については犯罪の証明がないことになるから、刑事訴訟法336条により被告人に対し無罪の言渡しをする。
(検察官青木朝子、四〓庸祐、鎌田祥平、私選弁護人高野隆〔主任〕、上野格、黒岩哲彦、小口克巳、二上護、堤正明、折田裕彦、森永真人、梅本遥、趙誠峰、水谷渉、水沼直樹、被害者参加人A、被害者参加弁護士上谷さくら出席)
(求刑 懲役3年)
刑事第3部
 (裁判長裁判官 大川隆男 裁判官 内山裕史 裁判官 上田佳子)
別紙 呼称一覧表

露天風呂を望遠で児童5名を盗撮したひそかに製造罪について、単純一罪とした原判決の法令適用を訂正して、製造罪5罪が成立して観念的競合になる・[認識不可能な遠方からの盗撮]は強制わいせつに当たらずした事例(名古屋高裁H31.3.4)

 
 実刑危険がある事件なので、こういうとこも間違えが無いようにいろいろ論難しています。
 [認識不可能な遠方からの盗撮]は強制わいせつに当たらずという判断も出てきました

名古屋高裁平成31年3月4日
児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに’児童の保護等に関する法律(児童ポルノ禁止法)違反,わいせつ電磁的記録有償頒布目的保管被告事件
主文
原判決を破棄する。
理由
(補足説明)
1判示第1(1)原判決は「罪となるべき事実」第1として要旨共犯者と共謀の上平成31年3月12日温泉施設北側森林内で同温泉施設で入浴中の女児5名が18歳に満たない児童であることを知りながら,ひそかに,同児童らの全裸の姿態を望遠レンズを取り付けたビデオカメラで動画撮影し,その電磁的記録である動画データを同ビデオ~カメラの記録媒体等に記録した上,同年5月1日被告人方で同人が前記動画データを前記記録媒体等からパーソナルコンピュータを介して外付けハードディスクに記録して保存し,もってひそかに衣服の全部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写した児童ポルノを製造したとの事実(公訴事実同旨)を認定判示
(2)弁護人は被害児童(5名)ごとに犯罪が成立するのに1罪1罪特定できず訴因不特定というけれども,被害児童らの姿態撮影と記載されており,訴因特定に欠けない。
13歳未満の者の裸体撮影は強制わいせつに当たり公訴事実からは罪名特定できず訴因不特定というけれども,公訴事実,罪名及び罰条から強制わいせつ事実を起訴していないこと明らか(本件[認識不可能な遠方からの盗撮]は強制わいせつに当たらず弁護人の主張は前提においても失当)(3)弁護人は被告人ら撮影の大部分は老若女性で児童は一部であり公衆浴場での女児の入浴という普通の情景であって児童ポルノに当たらないというけれども,女児と,見られる客が現れると即座に照準を定め,その後乳房や陰部を中心にズームアップして撮影されていることからすれば,殊更に児童の性的な部位が露出強調され性欲を興奮させ刺激するものたること明らか。児童ポルノ禁止法2条3項3号に当たる。
(4)弁護人は被告人方での外付けハードディスクへの保存につき「ひそかに」児童の姿態を「描写」したといえないから児童ポルノ製造罪は不成立というけれども,ひそかに同法2条3項3号の姿態を電磁的記録に係る記録媒体に描写した(温泉施設の盗撮がこれに当たること明らか)者が当該電磁的記録を別の記録媒体に保存させて(被告人方での外付けハードディスクへの保存がこれに当たること明らか)児童ポルノを製造する行為は同法7条5項に当たる。
(5)弁護人は児童ポルノ提供目的があった(同法7条3項該当)から同条5項罪~は成立しないというけれども,訴因罪以外の罪の成立を主張して訴因罪の成否を争一うもので,訴因制度の趣旨に反し許されない(その他種々いうけれども,後記「法令の適用」に係る罪数主張以外理由なきこと明らか)。
(法令の適用)
1罰条
(1)判示第1各児童ごとに刑法60条,児童ポルノ禁止法7条5項,2項,2条3項3号(原判決は単純[又は包括]1罪。訂正)
(2)判示第2のうち児童ポルノ所持の点は同法7条7項前段,6項,2条3項3号。
わいせつ物所持の点は刑法175条2項
2科刑上1罪の処理‘
(判示第1,第2につき)
いずれも刑法54条1項前段,10条(判示第1は1個の行為が5個の罪名に触れる場合。1罪として犯情の最も重い甲39添付資料1-1の女児に係る罪の刑で処断。

原判決
(罪となるべき事実)
 被告人は,
第1 分離前相被告人Nと共謀の上,平成31年3月12日北側森林内において,同施設で入浴中の氏名不詳の女児5名がいずれも18歳に満たない児童であることを知りながら,ひそかに,同児童らの全裸の姿態を,望遠レンズを取り付けたビデオカメラで動画撮影し,その電磁的記録である動画データを同ビデオカメラの記録媒体等に記録した上,同年4月1日,被告人方において,同人が前記動画データを前記記録媒体等からパーソナルコンピュータを介して外付けハードディスクに記録して保存し,もってひそかに衣服の全部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写した児童ポルノを製造した
(法令の適用)
罰条
 判示第1の事実につき 刑法60条,児童ポルノ法7条5項,2項,2条3項3号

児童買春罪につき「ホテルには行ったが、わいせつな行為はしていない。18歳くらいと思った」と弁解して起訴猶予となった事例(福岡県警)

 一般的には「18歳くらいと思った」の方が通ったかなあ。
 サイト上では「18以上」でも「会ってから児童と告げた」という供述を取ってくるんですが、「18なら逮捕されない」と思ってた客が逃げることがあるので不自然ですよね。

児童買春容疑で家裁事務官逮捕 福岡県警=続報注意
2019.02.17 読売新聞
 福岡県警戸畑署は16日、容疑者を児童買春・児童ポルノ禁止法違反(児童買春)容疑で逮捕した。
 発表によると、容疑者は昨年9月14日午後、SNSで知り合った県内の女子中学生(当時15歳)が18歳未満と知りながら、福岡市内のホテルで現金数万円を渡し、わいせつな行為をした疑い。「ホテルには行ったが、わいせつな行為はしていない。18歳くらいと思った」と容疑を否認しているという。福岡家裁の岸和田羊一所長は16日、「裁判所職員が逮捕されたことは誠に遺憾。事実関係を確認して適切に対処したい」とのコメントを出した。
↓↓
 [続報]
 2019年3月9日付西部朝刊38面
 =福岡家裁事務官 不起訴
 SNSで知り合った女子中学生(当時15歳)が18歳未満と知りながら、現金を渡してわいせつな行為をしたとして、児童買春・児童ポルノ禁止法違反(児童買春)容疑で逮捕された福岡家裁の男性事務官(49)について、福岡地検小倉支部は8日、不起訴とした。地検支部は「起訴するに足りる十分な証拠が得られなかった」としている。
読売新聞社

児童ポルノ提供目的所持事案について、児童ポルノ画像を児童ポルノかつわいせつと認定した原判決が、不告不理で破棄された事例(名古屋高裁H31.3.4)

 弁護人は、児童ポルノ所持罪の検察官立証として採用された画像には、わいせつ画像がないと主張していましたが、実は、わいせつ罪では起訴していなかったとされました。

名古屋高等裁判所平成31年3月4日宣告
児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに’児童の保護等に関する法律(児童ポルノ禁止法)違反,わいせつ電磁的記録有償頒布目的保管被告事件
判決
主文
原判決を破棄する。
被告人を懲役年に処する。
この裁判確定の日から年間その刑の執行を猶予し・・・
理由
第1
控訴趣意は控訴趣意書控訴趣意補充書(弁護人作成)のとおり。
論旨は理由不備,訴訟手続の法令違反,法令適用の誤り,事実誤認,量刑不当(原判決懲役年年猶予~~)
第2
職権判断
1 原判示第2に係る(訴因変更後の)公訴事実は要旨不特定多数の者に有償で頒布提供する目的で,平成31年3月11日,被告人方において,記録媒体である外付けハードディスクに,児童ポルノである電磁的記録2点及び児童ポルノであり,かつ,わいせつな画像データを記録した電磁的記録4点を保管した(児童ポルノ禁止法違反,わいせつ電磁的記録有償頒布目的保管)。
 原判示第2は要旨前記目的で,前記年月日,前記場所において,前記ハードディスクに「児童ポルノであり,かつ,わいせつな画像データを記録した電磁的記録2点及び児童ポルノであり,かつ,わいせつな画像データを記録した電磁的記録4点を保管した」旨
2 原判決は検察官がわいせつ電磁的記録有償頒布目的保管で処罰を求めず,児童ポルノ禁止法違反のみで処罰を求めた電磁的記録2点につき前者の罪も成立するとした。審判の請求を受けない事件について判決をした。破棄を免れない(刑訴法397条1項,378条3号後段,400条ただし書適用)。
第3 自判
(原判示罪となるべき事実第2に代えて当裁判所が新たに認定した事実)

昭和天皇崩御・今上天皇即位・徳仁親王御結婚に伴う恩赦について

 平成の初めなので、ネット上に資料が見つかりません
 5訂版前科登録と犯歴事務に政令とか内閣指令が出ていますので、収集して公表します。

http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_11195781_po_IB1027.pdf?contentNo=1
国⽴国会図書館
調査と情報―ISSUE BRIEF―
第1027号
No. 1027(2018.12. 6)
恩赦制度の概要

https://lucius.exblog.jp/6193934/
10.昭和天皇御大喪(平成元年2月24日)
大赦令:平成元年政令第27号
復権令:平成元年政令第28号
特別基準恩赦:平成元年2月8日内閣指令
11.今上天皇御即位(平成2年11月12日)
復権令:平成2年政令第328号
特別基準恩赦:平成2年11月9日内閣指令
12.皇太子殿下(徳仁親王)御結婚(平成5年6月9日)
特別基準恩赦:平成5年6月8日内閣指令

大赦令(平成元年政令第27号)
第一条 昭和六十四年一月七日前に次に掲げる罪を犯した者は、赦免する。
 一 食糧管理法(昭和十七年法律第四十号)第三十二条第一項第一号の罪(第三条第一項の規定に違反する行為に係るものに限る。)、第三十二条第一項第三号(これに相当する旧規定を含む。)の罪及び第三十三条の罪並びにこれらに関する第三十七条の罪
 二 食糧緊急措置令(昭和二十一年勅令第八十六号)に違反する罪
 三 物価統制令(昭和二十一年勅令第百十八号)に違反する罪
 四 地代家賃統制令(昭和二十一年勅令第四百四十三号)に違反する罪
 五 外国人登録法(昭和二十七年法律第百二十五号)第十八条の二(これに相当する旧規定を含む。)の罪並びに外国人登録法の一部を改正する法律(昭和五十七年法律第七十五号)及び外国人登録法の一部を改正する法律(昭和六十二年法律第百二号。以下「改正法」という。)による各改正前の外国人登録法第十八条第一項第八号の罪(改正法施行後に行われたとしたならば罪とならない行為に係るものに限る。)
 六 未成年者喫煙禁止法(明治三十三年法律第三十三号)第三条の罪
 七 鉄道営業法(明治三十三年法律第六十五号)第三十四条の罪、第三十五条の罪、第三十七条の罪及び第四十条の罪
 八 未成年者飲酒禁止法(大正十一年法律第二十号)に違反する罪
 九 軽犯罪法(昭和二十三年法律第三十九号)に違反する罪
 十 興行場法(昭和二十三年法律第百三十七号)第十条の罪及びこれに関する第十一条の罪
 十一 旅館業法(昭和二十三年法律第百三十八号)第十二条の罪
 十二 公衆浴場法(昭和二十三年法律第百三十九号)第十条の罪及びこれに関する第十一条の罪
 十三 古物営業法(昭和二十四年法律第百八号)第三十二条の罪
 十四 郵便物運送委託法(昭和二十四年法律第二百八十四号)第二十三条の罪及びこれに関する第二十四条の罪
 十五 質屋営業法(昭和二十五年法律第百五十八号)第三十四条の罪
 十六 狂犬病予防法(昭和二十五年法律第二百四十七号)第二十八条の罪
 十七 酒に酔って公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律(昭和三十六年法律第百三号)第四条の罪

第二条 前条に掲げる罪に当たる行為が、同時に他の罪名に触れるとき、又は他の罪名に触れる行為の手段若しくは結果であるときは、赦免をしない。

  附 則

この政令は、平成元年二月二十四日から施行する。

復権令(平成元年政令第28号)
第一条 一個又は二個以上の裁判により罰金に処せられた者で、昭和六十四年一月七日(以下「基準日」という。)の前日までにその全部の執行を終わり又は執行の免除を得た者は、この政令の施行の日において、その罰金に処せられたため法令の定めるところにより喪失し又は停止されている資格を回復する。
2 基準日の前日までに一個又は二個以上の略式命令の送達、即決裁判の宣告又は有罪、無罪若しくは免訴の判決の宣告を受け、平成元年五月二十三日までにその裁判に係る罪の一部又は全部について罰金に処せられた者で、基準日から平成元年五月二十三日までにその全部の執行を終わり又は執行の免除を得た者は、基準日からこの政令の施行の日の前日までにその全部の執行を終わり又は執行の免除を得た場合にあってはこの政令の施行の日において、この政令の施行の日から平成元年五月二十三日までにその全部の執行を終わり又は執行の免除を得た場合にあってはその執行を終わり又は執行の免除を得た日の翌日において、それぞれその罰金に処せられたため法令の定めるところにより喪失し又は停止されている資格を回復する。ただし、他に罰金に処せられているときは、この限りでない。

第二条 一個又は二個以上の裁判により禁錮以上の刑に処せられた者で、その全部の刑の執行を終わり又は執行の免除を得た日から基準日の前日までに五年以上を経過したものは、この政令の施行の日において、その禁錮以上の刑に処せられたため法令の定めるところにより喪失し又は停止されている資格を回復する。

第三条 一個又は二個以上の裁判により罰金及び禁錮以上の刑に処せられた者は、罰金については第一条の、禁錮以上の刑については前条の、いずれの要件にも該当する場合に限り、復権する。

  附 則

この政令は、平成元年二月二十四日から施行する。


昭和天皇崩御に際会して行う特別恩赦基準

平成元年2月13日月曜日
官報
(号外)
官庁報告
官庁事項
平成元年二月八日の臨時閣議において、昭和天皇崩御に際会して行う特別恩赦基準が、次のとおり決定された。(内閣官房
昭和天皇崩御に際会して行う特別恩赦基準
(趣旨)
昭和天皇崩御に際会し、内閣は、この基準により特赦、特別減刑刑の執行の免除及び特別復権を行うこととする。
(対象)
ここの基準による特赦、特別減刑刑の執行の免除又は特別復権は、昭和六十四年一月七日(以下『基準日」という。)の前日までに有罪の裁判が確定している者に対して行う。ただし、第四項及び第五項においてそれぞれただし書をもって定める場合は、その定めによるものとする。
(出願又は上申の手続)
三’ この基準による特赦、特別減刑刑の執行の免除又は特別復権については、本人の出願を待って行うものとし、本人は、平成元年二月二十四日から同年五月二十三日までに刑務所(少年刑務所及び拘置所を含む。以下同じ。)若しくは保護観察所の長又は検察官に対して出願をし、刑務所若しくは保護観察所の長又は検察官は、同年八月二十三日までに中央更生保護審査会に対して上申をするものとする。ただし、前項ただし書に係る場合については、同日までに出願をし、同年十一月二十四日までに上申をすることができるものとする。
2前号の定めは、この基準による特赦、特別減刑刑の執行の免除又は特別復権について、刑務所若しくは保護観察所の長又は検察官の職権による上申を妨げるものではない。この場合の上申期限は、同号に定めるところによる。
(特赦の基準)
四特赦は、基準日の前日までに刑に処せられた次に掲げる者のうち、犯情、本人の性格、行状、犯罪後の状況、社会の感情等にかんがみ、特に赦免することが相当であると認められる者について行う。ただし、第7号及び第8号に掲げる者については、同日までに略式命令の送達、即決裁判の宣告又は有罪、無罪若しくは免訴の判決の宣告を受け、平成元年五月二十三日までにその裁判に係る罪について有罪の裁判が確定した者に対しても、特にこの基準による特赦を行うことができるものとする。
1大赦令(平成元年政令第二十七号)第一条に掲げる罪を犯した者で、同令第二条により赦免を得ないもの。ただし、他の罪の罪質が軽微である場合に限る。
2大赦令第一条に掲げる罪と他の罪との併合罪につき併合して一個の刑に処せられた者で、他の罪が同条に掲げる罪に付随して犯され、その罪質が軽微であるもの
3少年のとき犯した罪により刑に処せられ、基準日の前日までにその執行を終わり又は執行の免除を得た者
4基準日において七十歳以上の者で、有期刑に処せられ、基準日の前日までに刑期の二分の一以上その執行を受けたもの
5禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わり又は執行の免除を得た日から基準日の前日までに五年以上を経過した者のうち、その刑に処せられたことが現に公共的社会生活上の障害となっている者
6有期刑に処せられ、その執行を猶予され、基準日の前日までにその猶予の期間の二分の-以上を経過した者のうち、その刑に処せられたことが現に公共的社会生活上の障害となっている者
7有期刑に処せられた者(刑法(明治四十年法律第四十五号)の罪(過失犯を除く。)、同法以外の法律において短期一年以上の刑を定める罪又は薬物に係る罪により刑に処せられた者を除く。)のうち、社会のために貢献するところがあり、かつ、その刑に処せられたことが現に公共的社会生活上の障害となっている者
8罰金に処せられ、その執行を猶予された者又は基準日の前日までにその執行を終わり若しくは執行の免除を得た者のうち、その刑に処せられたことが現にネ+会牛活上の障害となっている者
(特別減刑の基準)
五1特別減刑は、基準日の前日までに懲役又は禁錮に処せられた次に掲げる者のうち、犯情、本人の性格、行状、犯罪後の状況、社会の感情等にかんがみ、特に減刑することが相当であこると認められる者について行う。ただし、(五)に掲げる者については、同日までに略式命令の送達、即決裁判の宣告又は有罪、無罪若しくは免訴の判決の宣告を受け、平成元年五月二十三日までにその裁判に係る罪について有罪の裁判が確定した者に対しても、特にこの基準による減刑を行うことができるものとする。
(一)少年のとき犯した罪により有期刑に処せられ、その執行を終わっていない者又は執行の免除を得ていない者(執行猶予中の者を除く。)で次に掲げるもの
(1)法定刑の短期が一年以上に当たる罪を犯した場合は、基準日の前日までに刑期の二分の一以上その執行を受けた者(不定期刑に処せられた者については、短期の二分の一以上
その執行を受けた者)
(2)その他の場合は、基準日の前日までに刑期の三分の一以上その執行を受けた者(不定期刑に処せられた者については、短期の三分の一以上その執行を受けた者)
(二)少年のとき犯した罪により有期刑に処せられ、その執行を猶予され、基準日の前日までにその猶予の期間の三分の一以上を経過した者
(三)基準日において七十歳以上の者のうち、刑の執行を終わっていない者又は執行の免除を得ていない者(執行猶予中の者を除く。)で次に掲げるもの
(1)有期刑に処せられ、基準日の前日までに刑期の三分の一以上その執行を受けた者
(2)無期刑に処せられ、基準日の前日までに十年以上その執行を受けた者
(四)有期刑に処せられ、その執行を猶予され、基準日の前日までにその猶予の期間の三分の一以上を経過した者のうち、その刑に処せられたことが現に公共的社会生活上の障害となっている者
(五)有期刑に処せられた者(刑法の罪(過失犯を除く。)、同法以外の法律において短期一年以上の刑を定める罪又は薬物に係る罪により刑に処せられた者を除く。)で、その執行を終
わっていないもの又は執行の免除を得ていないもののうち、その刑に処せられたことが現に公共的社会生活上の障害となっているもの
2減刑は、次の例による。
(一)無期懲役は、十五年の有期懲役とし、無期禁錮は、十五年の有期禁錮とする。
(二)有期の懲役又は禁錮については、次の例により刑期を変更する。
(1)基準日において七十歳以上の者の場合にあっては、刑期の三分の一を超えない範囲で、その刑を減ずる。
(2)その他の者の場合にあっては、刑期の四分の一を超えない範囲で、その刑を減ずる。
(三)不定期刑については、短期及び長期について(二)の(2)の例による。
刑の執行の免除の基準)
刑の執行の免除は、基準日の前日までに懲役又は禁錮に処せられた次に掲げる者のうち、犯情、本人の性格、行状、犯罪後の状況、社会の感情等にかんがみ、特に刑の執行の免除をすることが相当であると認められる者について行う。
1病気その他の事由により基準日までに長期にわたりその刑の執行を停止されている者で、なお長期にわたりその執行に耐えられないと認められるもの
2基準日において七十歳以上の者で、仮出獄を許されてから基準日の前日までに二十年以上を経過したもの
(特別復権の基準)
七特別復権は、基準日の前日までに、一個若しくは二個以上の裁判により禁こ錮以上の刑に処せられ又は一個若しくは二個以上の裁判により罰金及び禁錮以上の刑に処せられて禁錮以上の刑につきその全部の執行を終わり又は執行の免除を得た次に掲げる者のうち、犯情、本人の性格、行状、犯罪後の状況、社会の感情等にかんがみ、特に復権することが相当であると認められる者について行う。
1禁錮以上の刑につきその全部の執行を終わり又は執行の免除を得た日から基準日の前日までに三年以上を経過し、刑に処せられたことが現に社会生活上の障害となっている者
2社会のために貢献するところがあり、かつ、刑に処せられたことが現に公共的社会生活上の障害となっている者
3基準日において七十歳以上の者
(その他)
八この基準に当たらない者であっても、特赦、特別減刑刑の執行の免除又は特別復権を行うことが相当であると認められるものについては、常時恩赦の対象として考慮するものとする。
(実施の時期)
九この基準による特赦、特別減刑刑の執行の免除及び特別復権は、平成元年二月二十四日から行うものとする。

今上天皇即位に伴う復権
復権令(平成2年政令第328号)
第1条 1個又は2個以上の裁判により罰金に処せられた者で,平成2年11月12日(以下「基準日」という。)の前日までにその全部の執行を終わり又は執行の免除を得たものは,基準日において, その罰金に処せられたため法令の定めるところにより喪失し又は停止されている資格を回復する。ただし,他に禁銅以上の刑に処せられているときは, この限りでない。
第2条 基準日の前日までに, 1個又は2個以上の略式命令の送達,即決裁判の宣告又は有罪,無罪若しくは免訴の判決の宣告を受け,平成3年2月12日までにその裁判に係る罪の一部又は全部について罰金に処せられた者で,基準日から平成3年2月12日までにその全部の執行を終わり又は執行の免除を得たものは, その執行を終わり又は執行の免除を得た日の翌日において, その罰金に処せられたため法令の定めるところにより喪失し又は停止されている資格を回復する。ただし,他に罰金以上の刑に処せられているときは, この限りでない。
この政令は,公布の日(平成2. 11. 12)から施行する。
※5訂版前科登録と犯歴事務から引用

即位の礼に当たり行う特別恩赦基準

官報情報検索サ一ビス
平成2年11月12日(特別号外第25号)
号外特第25号
平成2年11月12日月曜日
官報
(号外)
官庁報告
官庁事項
平成二年十一月九日の閣議において、即位の礼に当たり行う特別恩赦基準が、次のとおり決定された。(内閣官房
即位の礼に当たり行う特別恩放基準
(趣旨)
即位の礼が行われるに当たり、内閣は、特別に、この基準により特赦、減刑刑の執行の免除及び復権を行うこととする。
(対象)
ここの基準による特赦、減刑刑の執行の免除又は復権は、平成二年十一月十二日(以下「基準日」という。)の前日までに有罪の裁判が確定している者に対して行う。ただし、第五項及び第
七項に掲げる者については、それぞれ、その定めるところによる。
(出願又は上申)
三1 この基準による特赦、減刑刑の執行の免除又は復権は、本人の出願を待って、行うものとし、本人は、基準日から平成三年二月十二日までに、恩赦法施行規則(昭和二十二年司法省
令第七十八号)の定めるところにより、刑務所(少年刑務所及び拘置所を含む○以下同じ。)若しくは保護観察所の長又は検察官に対して出願をするものとする。
2刑務所若しくは保護観察所の長又は検察官は、前号の出願があった場合には、平成三年五月十三日までに中央更生保護審査会に対して上申をするものとする。
3第五項の規定による特赦又は第七項の規定による減刑の場合にあっては、前二号の定めにかかわらず、それぞれ、第1号の出願は平成三年五月十三日までに、前号の上申は同年八月十二日までにすることができる。
4第1号及び第2号の規定は、この基準による特赦、減刑刑の執行の免除又は復権について、刑務所若しくは保護観察所の長又は検察官が必要があると認める場合に職権により上申をすることを妨げるものではない。この場合においては、上申をする期限は、前二号に定めるところによる。
(特赦)
四特赦は、第二項本文に定める者であって、次の各号のいずれかに該当するものについて、犯情、本人の性格及び行状、犯罪後の状況、社会の感情等にかんがみ特に相当であると認められる場合に行う。
1少年のとき罪を犯した者であって、基準日の前日までにその罪による刑の執行を終わり又は執行の免除を得たもの
2基準日において七十歳以上の者であって、有期の懲役又は禁鋼に処せられ、基準日の前日までにその執行すべき刑の期間の二分の一以上につきその執行を受けたもの
3禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わり又は執行の免除を得た日から基準日の前日までに五年以上を経過した者であって、その刑に処せられたことが現に公共的社会生活上の障害となっているもの
4有期の懲役又は禁錮に処せられ、その執行を猶予され、基準日の前日までに猶予の期間の二分の一以上を経過している者であって、その刑に処せられたことが現に公共的社会生活上の障害となっているもの。
5有期の懲役又は禁錮に処せられた者(刑法(明治四十年法律第四十五号)の罪(過失犯を除く。)、同法以外の法律において短期一年以上の懲役若しくは禁錮を定める罪又は薬物に係る罪により刑に処せられた者を除く。)であって、社会のために貢献するところがあり、かつ、その刑に処せられたことが現に公共的社会生活上の障害となっているもの
6罰金に処せられ、その執行を猶予されている者又は基準日の前日までにその執行を終わり若しくは執行の免除を得た者であって、その刑に処せられたことが現に社会生活上の障害となっているもの
五1前項第5号に掲げる者については、基準日の前日までに有罪、無罪又は免訴の判決の宣告を受け、平成三年二月十二日までにその裁判に係る罪について有罪の裁判が確定した場合にも、同項の例によりこの基準による特赦を行うことができる。
2罰金に処せられ、そのことが現に社会生活上の障害となっている者については、基準日の前日までに略式命令の送達、即決裁判の宣告又は有罪、無罪若しくは免訴の判決の宣告を受け、平成三年二月十二日までにその裁判に係る罪について有罪の裁判が確定した場合であって、その執行の猶予の期間中であるとき又は同日までにその執行を終わり若しくは執行の免除を得たときも、前号と同様とする。
(特別減刑の基準)
五1減刑は、基準日の前日までに懲役又は禁錮に処せられた次に掲げる者のうち、犯情、本人の性格及び行状、犯罪後の状況、社会の感情等にかんがみ、特に減刑することが相当であると認められる者について行う。
(一)少年のとき犯した罪により有期の懲役又は禁錮に処せられた者であって、次に掲げる者
(1)法定刑の短期が一年以上に当たる罪を犯した場合は、基準日の前日までに執行すべき刑期の二分の一以上につきその執行を受けた者(不定期刑に処せられた者については、言い渡された刑の短期のうち執行すべき部分の二分の一以上につきその執行を受けた者)
(2) (1)以外の場合は、基準日の前日までに執行すべき刑期の三分の一以上につきその執行を受けた者(不定期刑に処せられた者については、言い渡された刑の短期のうち執行すべき部分の三分の一以上につきその執行を受けた者)
(二)少年のとき犯した罪により有期の懲役又は禁鋼に処せられ、その執行を猶予され、基準日の前日までにその猶予の期間の三分の一以上を経過した者
(三)基準日において七十歳以上の者であって、次に掲げる者
(1)有期の懲役又は禁錮に処せられ、基準日の前日までに執行すべき刑期の三分の一以上につきその執行を受けた者
(2)無期の懲役又は禁錮に処せられ、基準日の前日までに十年以上の執行を受けた者
(四)有期の懲役又は禁錮に処せられ、その執行を猶予され、基準日の前日までに猶予の期間の三分の一以上を経過した者であって、近い将来における公共的職務への就任又は現に従事している公共的職務の遂行に当たり、その刑に処せられたことが障害となっている者
(五)有期の懲役又は禁錮に処せられた者(刑法の罪(過失犯を除く。)、同法以外の法律において短期一年以上の懲役若しくは禁錮を定める罪又は薬物に係る罪により刑に処せられた者を除く。)であって、近い将来における公共的職務への就任又は現に従事している公共的職務の遂行に当たり、その刑に処せられたことが障害となっている者
2前号に掲げる者のほか、基準日の前日までに略式命令の送達、即決裁判の宣告又は有罪、無罪若しくは免訴の判決の判決の宣告を受け、平成五年九月八日までにその裁判に係る罪について有期の懲役又は禁錮に処せられた者(刑法の罪(過失犯を除く。)、同法以外の法律において短期一年以上の懲役若しくは禁錮を定める罪又は薬物に係る罪により刑に処せられた者を除く。)のうち近い将来における公共的職務への就任又は現に従事している公共的職務の遂行に当たり、その刑に処せられたことが障害となっている者については、前号の例により、この基準による減刑を行うことができる。
3減刑は、次の例による。
(一)無期懲役は十五年の懲役とし、無期禁錮は十五年の禁錮とする。
(二)有期の懲役又は禁錮は、次の例により言渡しを受けた刑期を変更する。
(1)基準日において七十歳以上の者については、刑期の三分の一を超えない範囲でその刑を減ずる。
(2) (1)以外の者については、刑期の四分の一を超えない範囲でその刑を減ずる。
(三)不定期刑は、その短期及び長期について、それぞれ、言渡しを受けた刑期の四分の一を超えない範囲でその刑を減ずる。
(四)懲役又は禁劉について言い渡された執行猶予の期間は、その四分を一を超えない範囲で短縮する。
刑の執行の免除の基準)
刑の執行の免除は、基準日の前日までに刑に処せられた次に掲げる者のうち、犯情、本人の性格及び行状、犯罪後の状況、社会の感情等にかんがみ、特に刑の執行の免除をすることが相当であると認められる者について行う。
1懲役、禁鍋又は罰金に処せられ、病気その他の事由により基準日までに長期にわたり刑の執行が停止されている者であって、なお長期にわたりその執行に耐えられないと認められる者
2懲役又は禁鍋に処せられ、基準日において七十歳以上の者であって、仮出獄を許されてから基準日の前日までに二十年以上を経過した者
(特別復権の基準)
七1復権は、一個又は二個以上の裁判により罰金以上の刑に処せられ、基準日の前日までに刑の全部につきその執行を終わり又は執行の免除を得た次に掲げる者のうち、犯情、本人の性格及び行状、犯罪後の状況、社会の感情等にかんがみ、特に復権することが相当であると認められる者について行う。
(一)基準日において七十歳以上の者
(二)禁錮以上の刑又は罰金及び禁錮以上の刑に処せられ、禁錮以上の刑の全部につきその執行を終わり又は執行の免除を得た日から基準日の前日まで三年以上を経過した者であっ
て、刑に処せられたことが現に社会生活を営むに当たり障害となっている者
(三)禁錮以上の刑又は罰金及び禁錮以上の刑に処せられた者であって、社会のために貢献するところがあり、かつ、近い将来における公共的職務への就任又は現に従事している公共的職務の遂行に当たり、刑に処せられたことが障害となっている者
(四)罰金に処せられた者であって、刑に処せられたことが現に社会生活を営むに当たり障害となっている者
2前号に掲げる者のほか、基準日の前日までに一個又は二個以上の略式命令の送達、即決裁判の宣告又は有罪、無罪若しくは免訴の判決の宣告を受け、平成五年九月八日までにその裁判に係る罪の一部又は全部について罰金に処せられ、同日までにその全部につき執行を終わり又は執行の免除を得た者のうち、刑に処せられたことが現に社会生活を営むに当たり障害となっている者については、前号の例により、この基準による復権を行うことができる。
(その他)
八この基準に当たらない者であっても、特赦、減刑刑の執行の免除又は復権を行うことが相当であるものには、常時恩赦を行うことを考慮するものとする。

徳仁親王御結婚に伴う特別基準恩赦
皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準
(平成5年6月8日閣議決定・内閣指令) (抄)
(趣旨)
皇太子徳仁親王の結婚の儀が行われるに当たり, 内閣は, この基準により特赦,減刑刑の執行の免除及び復権を行うこととする。
(対象)
二この基準による特赦,減刑刑の執行の免除又は復権は,平成5年6月9日(以下「基準日」という。)の前日までに有罪の裁判が確定している者に対して行う。ただし,第四項第2号,第五項第2号及び第七項第2号に掲げる者については, それぞれ, その定めるところによる。
(出願又は上申)
三l この基準による特赦,減刑刑の執行の免除又は復権は,本人の出願を待って行うものとし,本人は,基準日から平成5年9月8日までに刑務所(少年刑務所及び拘置所を含む。以下同じ。)若しくは保護観察所の長又は検察官に対して出願をするものとする。
2 刑務所若しくは保護観察所の長又は検察官は,前号の出願があった場合には,平成5年12月8日までに中央更生保護審査会に対して上申をするものとする。
3 第四項第2号の規定による特赦,第五項第2号の規定による減刑又は第七項第2号の規定による復権の場合は,前二号の定めにかかわらず, それぞれ,第1号の出願は平成5年12月8日までに,前号の上申は平成6年3月8日までにすることができる。
4 第1号及び第2号の規定は, この基準による特赦,減刑刑の執行の免除又は復権について,刑務所若しくは保護観察所の長又は検察官が必要があると認める場合に職種により上申をすることを妨げるものではない。この場合においては,上申をする期限は,前二号に定めるところによる
四~六(略)
(特別復権の基準)
1 復権は, 1個又は2個以上の裁判により罰金以上の刊に処せられ,基準日の前日までに刑の全部につきその執行を終わり又は執行の免除を得た次に掲げる者のうち,犯情本人の性格及び行状,犯罪後の状況,社会の感情等にかんがみ,特に復権することが相当であると認められる者について行う
(一)基準日において70歳以上の者
(二)禁銅以上の刑又は罰金及び禁銅以上の刑に処せられ,禁銅以上の刑の全部につきその執行を終わり又は執行の免除を得た日から基準日の前日までに3年以上を経過した者であって,刑に処せられたことが現に社会生活を営むに当
たり障害となっている者
(三)禁銅以上の刑又は罰金及び禁銅以上の刑に処せられた者であって,社会のために貢献するところがあり,かつ,近い将来における公共的職務への就任又は現に従事している公共的職務の遂行に当たり,刑に処せられたことが障害となっている者
(四)罰金に処せられた者であって,刑に処せられたことが現に社会生活を営むに当たり障害となっている者
2 前号に掲げる者のほか,基準日の前日までに1個又は2個以上の略式命令の送達,即決裁判の宣告又は有罪,無罪若しくは免訴の判決の宣告を受け,平成5年9月8日までにその裁判に係る罪の一部又は全部について罰金に処せられ,同日までにその全部につき執行を終わり又は執行の免除を得た者のうち,刑に処せられたことが現に社会生活を営むに当たり障害となっている者については,前号の例により, この基準による復権を行うことができる。
(その他)
八この基準に当たらない者であっても,特赦,減刑刑の執行の免除又は復権を行うことが相当であるものには,常時恩赦を行うことを考慮するものとする。
※5訂版前科登録と犯歴事務から引用

皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準

号外特第11号
平成5年6月9日水曜日
官報
(号外)
官庁報告
平成五年六月八日の閣議において、皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準が、次のとおり決定された。(内閣官房
皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う持別恩赦基準
以下省略

盗撮ハンターに対する弁護活動

 盗撮しているので、警察には相談できないという弱みにつけ込んだ恐喝です。身分証明書を取り上げられ、atmで引き出させたり、サラ金で借りさせたりするので、何回も支払うことになります。9500万円まで行くのは稀だとしても、数百万円というのはざらにあります。
 弁護士は怖くないので、弁護士に相談してください。
 最初50万円を払って、追加の請求があったところで相談を受けたことがありますが、弱みである盗撮について自首して逮捕を回避することを最優先にして、ついでに、恐喝被害に触れるという形式を取って、警察と調整しつつ追加の支払い日時・場所を打ち合わせ、警察に張り込んでもらったので、恐喝はすぐ解消しました。
 盗撮(迷惑条例違反)については、被害者が特定できなかったのと自首で、起訴猶予になりました。



https://s.mxtv.jp/mxnews/kiji.php?date=46513660
警視庁によりますと、2人は2018年6月、盗撮したとみられる男性に「女子高校生の親が示談を求めている」などとうそをつき、現金750万円を脅し取った疑いが持たれています。容疑者はこの後も同じ男性を再び脅し、現金9500万円を脅し取ろうとした疑いでも逮捕されています。
 調べに対し、容疑者は「車を買う金が欲しかった」などと容疑を認めていますが、容疑者は容疑を一部否認しています。

いま、沖縄県青少年保護育成条例(昭和47年沖縄県条例第11号)違反、児童買春児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反、名誉毀損、わいせつ電磁的記録有償頒布目的保管、強制わいせつ、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律違反、準強姦、青少年愛護条例(昭和38年兵庫県条例第17号)違反、大阪府青少年健全育成条例違反、東京都青少年の健全な育成に関する条例違反、徳島県青少年健全育成条例違反、奈良県青少年の健全育成に関する条例(昭和51年奈良県条例第13号)違反、有印私

現在公判に掛かってる事件の罪名一覧


沖縄県青少年保護育成条例(昭和47年沖縄県条例第11号)違反
児童買春児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反
名誉毀損
わいせつ電磁的記録有償頒布目的保管
強制わいせつ
自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律違反
準強姦
少年愛護条例(昭和38年兵庫県条例第17号)違反
大阪府青少年健全育成条例違反
東京都青少年の健全な育成に関する条例違反
徳島県青少年健全育成条例違反
奈良県青少年の健全育成に関する条例(昭和51年奈良県条例第13号)違反
有印私文書偽造・同行使

ダウンロード販売目的で、被告人が自宅で所持しているポータブルHDD内のわいせつ画像については、わいせつ電磁的記録有償頒布保管罪ではなく、わいせつ物有償頒布目的所持罪が成立する(名古屋高裁h31.3.4)

 刑法学者には、みんな「電磁的記録の保管罪」だって言われましたが、「物の所持罪」だそうです。弁護人の主張が通ったので論難しにくいところですが、上告審としての事件受理の理由にします。

控訴理由 法令適用の誤り~被告人が自宅で所持しているポータブルHDD内のわいせつ画像については、わいせつ電磁的記録保管罪は成立しない
1 原判決
 原判決は、被告人方におけるポータブルHDD内のわいせつ画像について刑法175条2項後段の「電磁的記録保管罪」を適用した。

1審判決
第2 不特定多数の者に有償で頒布提供する目的で,平成31年3月3日,前記被告人方において,記録媒体である外付けハードディスクに,衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノであり,かつ,女児の性器を露骨に撮影したわいせつな画像データを記録した電磁的記録2点
及び
児童ポルノであり,かつ女児の性器を露骨に撮影したわいせつな画像データを記録した電磁的記録4点
を保管したものである。
(法令の適用)
罰条
 判示第2の事実中
  児童ポルノ電磁的記録頒布目的保管の点につき
          児童ポルノ法7条7項後段,6項,2条3項3号
  わいせつ電磁的記録有償頒布目的保管の点につき
          刑法175条2項
科刑上1罪    刑法54条1項前段,10条
  (判示第2につき1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから,1罪
として重い児童ポルノ電磁的記録頒布目的保管罪の刑で処断)

法文
第一七五条(わいせつ物頒布等)
1 わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列した者は、二年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は懲役及び罰金を併科する。電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする。
2有償で頒布する目的で、前項の物を所持し、又は同項の電磁的記録を保管した者も、同項と同様とする。

 しかし、被告人の実力支配下にあるHDDの画像については、有体物としてのわいせつ物の有償頒布目的所持罪が成立して、電磁的記録記録保管罪は成立しない。

 原判決にはこの点で、法令適用の誤りがあるから、原判決は破棄を免れない。

2 「所持」「保管」(刑法175条2項)の一般的な説明
 一般的には物の場合は「所持」、電磁的記録の場合は「保管」と説明されているようである。
①条解刑法

②杉山徳明・吉田雅之「『情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律』について」警察学論集 第64巻10号
③「情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律」について(上) 法曹時報64-04 H24

p93
2 第1項
(1) 改正の趣旨
ア改正前の本条前段においては.「わいせつな文書,図画その他の物」と規定され,その対象が「物」とされていた。この点に関し,例えは電子メールで、わいせつな画像を不特定又は多数の者に送信して取得させるなど行為については,同条前段の適用の可否につき裁判例が分かれていたが,このような行為は,実質的に見れば,有体物としてのわいせつ物を頒布する行為と違法性の点で何ら変わるところがないといえる。
そこで,そのような行為が処罰対象に含まれることを明確にするため,本項後段において「電気通信の送信によりわいせつな電磁的記訟の他の記録を頒布」する行為を処罰対象として掲げることとされた。
イこのような改正が行われると,従来,わいせつ物公然陳列罪で処罰することが可能であった,わいせつな画像データを電磁的記録に係る記録媒体に記憶・蔵置させて不特定又は多数の者が閲覧し得る状態にする行為等が,引き続き同罪によって処罰可能であるか否かが問題となり得るが,今回の改正は,この点に関する従来の解釈を改めようとするものではない。
そこで,この点に関する解釈上の疑義が生じないようにするため,本項前段において,わいせつ物の例示として「(わいせつな)電磁的記録に係る記録媒体」を掲げることとし,例えば,わいせつな画像データを記憶・蔵置させたハードディスク等が含まれることを明示することとされた。
これは,改正前においても「電磁的記録に係る記録媒体」は「その他の物」に含まれると解されていたところ,この点を確認的に規定する趣旨である。
・・・・
オWebサーバのハードディスクにわいせつな画像データを記憶・蔵置させて,不特定・多数の者がその画像を認識で、きる状態を設定した場合,当該ハードディスクはわいせつな電磁的記録に係る記録媒体に当たることから,わいせつ物公然陳列罪(本項前段)が成立し得るが,この場合において,不特定・多数の者が,その画像を閲覧するために,当該ハードディスクにアクセスしてそのわいせつな画像データを自己のコンピュータにダウンロードした場合には,これらの者の行為を介して,同人らのコンピュータにわいせつ画像データを記録させて頒布したことになるから,本項後段の罪も成立し得ることとなる。


p97
(2) 構成要件
ア「有償で」とは,対価ないし代償を得ることを意味する。
「頒布」は,物と電磁的記録の双方について用いられており,物の「頒布」は不特定又は多数の者に対して有償又は無償で対象となる物を交付する行為を,電磁的記録の「頒布」は不特定又は多数の者の記録媒体上に有償又は無償で、電磁的記録を存在するに至らしめる行為を,それぞれ意味することとなる。前記(1)アのとおり,物の「頒布」には,従来の「販売」が含まれる。
イ処罰対象となる行為は,物については「所持」であり,電磁的記録については「保管」である。
「所持」の意義は,改正前の本条後段と同様である。電磁的記録の「保管」は,有体物の「所持」に相当する行為であり,電磁的記録を自己の実力支配内に置いておくことを意味する。誰のためにその行為を行うかは問わない。

④国会会議録

[001/002] 177 - 参 - 法務委員会 - 15号
平成23年06月09日
○木庭健太郎君 これからは少し細かい条文についてのお話を当局との間でやり取りをしたいと思っております。
 一つは、わいせつ物頒布罪における所持と保管という意味の問題でございます。
 現行の刑法の百七十五条では、写真、雑誌、DVDなどを想定して、わいせつな文書、図画その他の物を頒布し、販売し、公然と陳列する行為を処罰の対象としておりましたが、今回の改正法百七十五条一項では、わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布しと、わいせつ物の中にわいせつな電磁的記録に係る記録媒体が含まれることとしたわけです。その一方で、後段では、電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も同罪とするというふうにしており、これはわいせつな画像を添付した電子メールを送り付ける業者などを取締りの対象にするものだというふうにお聞きはしました。
 私が最初に聞きたいのは、この百七十五条一項で、わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布しと一項では規定したにもかかわらず、その後段でわざわざ、電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も同罪とするというふうに規定していると。これ、結局、現行法ではわいせつ物と規定している以上、情報としての画像データまで物に含めることができないということなのか、その点について当局から伺っておきたいと思います。
○政府参考人(西川克行君) まず、現行法のわいせつ物概念というのはやはり有体物という概念にとらえておりまして、この点、有体物以外の電磁的記録が含まれるかどうかについては判例が分かれておりました。今回、その点を明らかにするということで、電磁的記録、これもわいせつ物の中に明記をしたと。それで、わいせつ物の有体物については所持という概念、それから電磁的記録については保管という概念でとらえているということでございます。
 それから、電磁的記録の頒布する行為についても新たに処罰対象に含めることにしたということと、有償でこのような行為を行う目的でわいせつな電磁的記録を保管する行為、これもわいせつな有体物を販売する目的で所持する行為と同様の処罰価値のあるものでございますので、これも併せて規定をしたと、こういうことでございます。
○木庭健太郎君 続いて、刑法の改正百七十五条の二項の問題です。この二項において、「販売の目的」を「有償で頒布する目的」に変更されています。その理由、及び「前項の物を所持し、又は同項の電磁的記録を保管した者」と、「所持」に加えて電磁的記録の保管を追加した理由について当局から伺います。
○政府参考人(西川克行君) これにつきましては、所持は有体物の所持と、それから、電磁的記録については保管という概念を使っているということでございます。
 それから、頒布の概念でございますけれども、例えばリース等で有償でその他に広く広げるというものについては必ずしも販売の概念には当たりませんが、そのものについても同様の処罰価値を有するということで付け加えているというものでございます。

児童ポルノ法の保管罪との比較
 わいせつ電磁的記録が犯人の手元にある場合、所持罪も保管罪も成立することになる。

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 媒体が手元にある限り電磁的記録についても所持罪で規制出来ること・電磁的記録の場合についてだけ所持罪と保管罪で二重に禁止する必要性がないことからは、保管罪の主眼は、事実上の支配下にはないけど、実力支配下にある電磁的記録を規制するところにあると解され、そうであれば、手元にある場合は、所持罪、手元にない場合を保管罪とするのが説明もスッキリする。

3 電磁的記録は「有体物」である以上、「有体物」は所持、「電磁的記録」は「保管」という区別は最初から破綻していること
(1)電磁的記録は有体物であること
 「電磁的記録」については7条の2に定義がある。
第七条の二
 この法律において「電磁的記録」とは、電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。
〔昭六二法五二本条追加〕

 米澤検事の解説を引用する。
米澤慶治 刑法等一部改正法の解説
 すなわち、米澤検事の

電磁的記録とは一定の方式により作られる記録である。すなわち、電磁的記録とは、一定の記録煤体の上に情報あるいはデータが記録、保存されている状態を表す概念であって、情報あるいはデータそれ自体や記録(記憶)媒体そのものを意味するものではない。また、記録といい得る程度の永続性を有することが必要であって、回線上や空中を流れている通信中のデータやいわゆる中央処理装置(CPU) において処理中のデータを含まない

によれば、電磁的記録は常時媒体に化体しているから、有体物として存在する。
 従って、犯人の手元にある場合の電磁的記録の事実上の支配は、媒体の「占有」にほかならず、「所持」にほかならない。
 これを「保管」というのは、所持概念・保管概念の不明確にするものであって許されない。

(2)「保管罪」を設けた法制審議会の議論(h15)は曖昧であること
 刑法改正はh24であるが、法制審議会での議論はh15に行われてて、古くさい。
 そこでも、もっぱらリモートストレージを前提とした説明であった。刑法の「所持」を超える支配を「保管」というという理解であった。手元にある電磁的記録は有体物の「所持」で規制できるからである。

法制審議会刑事法(ハイテク犯罪関係)部会第3回会議 議事録
第1 日 時  平成15年5月15日(木)  自 午後1時30分
                       至 午後4時28分
第2 場 所  法務省第1会議室
第3 議 題
   ハイテク犯罪に対処するための刑事法の整備について
第4 議 事 (次のとおり)
              議    事
● 言葉遣いの問題で恐縮なのですけれども,四には「保管」という言葉が使われておるわけでございますが,仮にこれが「所持」というふうになった場合に,意味が同じなのか違うのか。ここで「所持」という言葉を使うのは相当でないという御判断の上で「保管」という言葉をお使いになったのであれば,その理由についてお聞かせいただければと思うのですが。
● ここで言っております「保管」とは,客体となる電磁的記録その他の記録を自己の実力支配内に置くということになると考えております。「所持」という言葉は,物理的な支配下にあるというような概念かと思いますが,リモートのハードディスクに置いているような場合も想定されますので,「保管」という用語を使っているところでございます。
● よろしいでしょうか
・・・
● 所持と保管の関係でありますけれども,先ほど来,送信されている状態の情報そのもの,送信途中のですね,それをわいせつ物の頒布等の中で取り込んでいくというお考えもあろうかとは思われるのですが,それと同じことが実はこの所持,保管にもある。記録の所持って何だと言われると,ここは説明しないと空振りのような形にもなってまいりますけれども。現在,販売目的所持と申しますのは物に限られているように思われます。つまり,所持というと,一定の有体物についての支配という状態ではなかろうかと。電磁的記録という状態で考えてまいりますと,先ほどリモートの話もございましたけれども,それは,所持というある意味物理的な占有状態というよりは,支配管理状態と申しますか,保管といった概念の方がよりふさわしいのではなかろうかといったことから……。カード情報についての保管ということも使っているわけでございますので,いずれにせよ,所持という概念自体,今の言葉で物の所持がございますので,それはそれで残すと。ただ,電磁的記録の,記録された状態ということで考えました場合には,所持ということではちょっととらえ切れないと申しますか,違和感のある管理状態というものがございますので,それを保管という言葉で表そうとしておるというふうにお考えいただいた方がいいかなと。
● そうすると,二項は,物の方が所持で,電磁的記録が保管というふうに読むのですか。
● 基本的にはそういう整理で考えております。
● 分けた方がいいかもしれない。物を所持し,電磁的記録を保管した者というふうにしないと……。並んでいると,今までの所持だけだったものに保管が加わるから,所持というのが何か少し変わってきたのかなというふうになりかねないし。今までのは生かしておいて,電磁的記録の部分だけ保管にするというのも一つの方法だと思いますけれども。
● 私は,その辺も含めてちょっとよく分からないものがありまして,確かに所持は物であると。しかしながら,物についても保管という観念は当然あるわけですね。盗品等保管罪などというものがあるわけですので。ですから,その辺の整理との関係で,処罰範囲の広狭といいますか,実際に一体どういう場合がきちっと捕捉できるのかということを確認したいという意味で,私は,御質問させていただいたのです。
● むしろ,先ほどの御指摘から申せば,第二の二も全体を「保管」という言葉で言い表しましても同じことになろうかとも思われます。ただ,ここはあくまでも,現在,所持罪というものがございますので,それに記録が入ったことで若干追加いたしますという趣旨で,それが分かるように書きましたために,かえって,第一の場合の保管とどう違うんだと言われる表現ぶりの差が生じておるのかなと。実は,先ほどの頒布のお話にしましても,現に頒布という概念が既に刑法にある,できるだけその枠組みで考えたいということですが,また先生方のお知恵もいただければと思います。
● 今の関係でお伺いするのですが,そうすると,所持と保管では,対象がどういうものだったか以外は基本的に同じだという理解であるということでよろしいわけですよね。先ほどの話の中で,例えば,所持と保管だと,その言葉の意味合いからすると,若干でも時間的な継続性が要るとか,そういうので差が出るとか,そういう考え方は特にないという理解でよろしいのでしょうか。
● 先ほど来,○○委員の方から申し上げていますように,現行法で「物を所持」と書いてあるところに電磁的記録を入れたので,それは所持ではとらえ切れないので,保管というのを追加したものです。その意味では,物を所持,電磁的記録を保管。保管の方は,もちろんリモートの形みたいな場合もあるので,ある意味では広い言葉ですが,基本的にはそういう対応関係で考えております。

 ここでも、媒体が手元にある限り電磁的記録についても所持罪で規制出来ることからは、保管罪の主眼は、事実上の支配下にはないけど、実力支配下にある電磁的記録を規制するところにあると解され、そうであれば、手元にある場合は、所持罪、手元にない場合を保管罪とするのが説明もスッキリする。

(3)児童ポルノ法の「所持」「保管」の区別は、合理的で最新の考え方であって刑法にも採用されるべきである

(4)わいせつ保管罪の判例・裁判例はいずれも外国のサーバーにおける事案であること
 実務では、自宅にあるときは所持罪、遠くのサーバーにある場合は保管罪とされている。
東京地裁H24.10.23*1
東京高裁h25.3.25*2
東京高裁h25.2.22*3
最決h26.11.25*4

4 まとめ
 原判決は、被告人方におけるポータブルHDD内のわいせつ画像について刑法175条2項後段の「電磁的記録保管罪」を適用した点で、法令適用の誤りがあるから、原判決は破棄を免れない。

追記2019/03/11
 判決書が送達されました。
 わいせつ保管罪は成立しない。所持罪。
 児童ポルノ保管罪も成立しない。所持罪
ということになりました。

名古屋高裁平成31年3月4日宣告
児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに’児童の保護等に関する法律(児童ポルノ禁止法)違反,わいせつ電磁的記録有償頒布目的保管被告事件
主文
原判決を破棄する。
理由
第3 自判
(原判示罪となるべき事実第2に代えて当裁判所が新たに認定した事実)
第2 被告人は,不特定多数の者に提供有償頒布目的で平成31年3月11日原判示第1被告人方において,衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した画像データ2点に係る電磁的記録及び前同様の画像データであり,かつ,女児の性器を露骨に撮影した画像データ4点に係る電磁的記録に係る児童ポルノであり(前記画像データ2点及び4点関係),かつ,わいせつ物である(前記画像データ4点関係)記録媒体たる外付けハードディスク1台を所持した(事実[訴因変更後の]公訴事実同旨。
第1は原判示第1のとおり)。
(補足説明)
2 判示第2
(1)同事実(被告人弁護人も争わない)は児童ポルノ禁止法7条7項,刑法175条2項の「所持」罪該当(検察官はこれらの「保管」罪該当をいうけれども,被告人は電磁的記録に係る記録媒体を所持したから「所持」該当。「保管」不該当。訴因変更不要)
(2)弁護人は(訴因変更後の)公訴事実は電磁的記録(「画像」)のうちどれが児童ポルノでどれがわいせつか分からず訴因不特定という。
検察官は各画像の女性の推定年齢を小児科医の供述(甲39)で立証しているところ,同医師の検察官調書添付の画像を起訴していること明らか。
その画像から児童ポルノ画像(陰部を露骨に撮影したとまではいえない。甲39添付資料2-1,2-3)と児童ポルノかつわいせつ画像(陰部を露骨に撮影。同2-2,2-4から2-6まで)を区別可。訴因不特定といえない。
(法令の適用)
1罰条
(1)判示第1各児童ごとに刑法60条,児童ポルノ禁止法7条5項,2項,2条3項3号(原判決は単純[又は包括]1罪。訂正)
(2)判示第2のうち児童ポルノ所持の点は同法7条7項前段,6項,2条3項3号。
わいせつ物所持の点は刑法175条2項
2科刑上1罪の処理‘(判示第1,第2につき)~いずれも刑法54条1項前段,10条(判示第1は1個の行為が5個の罪名に触れる場合。1罪として犯情の最も重い甲39添付資料1-1の女児に係る罪の刑で処断。
判示第2は1個の行為が2個の罪名に触れる場合。
1罪として重い児童ポルノ所持罪の刑で処断)
3刑種の選択いずれも懲役刑
4併合罪加重刑法45前段,47条本文,10条(重い判示第2の罪の刑に法定の加重)
5刑の執行猶予刑法25条1項6保護観察刑法25条の2第1項前段
7訴訟費用(原審)の処理刑訴法181条1項ただし書(不負担)

「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部 位が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激 するものを視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノで ある電磁的記録2点」という訴因につき「衣服の全部又は一部を着けない児童 の姿態であって,殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているもの であり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することが できる方法により描写した児童ポルノであり,かつ,女児の性器を露骨に撮影 したわ

「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノである電磁的記録2点」という訴因につき「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノであり,かつ,女児の性器を露骨に撮影したわいせつな画像データを記録した電磁的記録2点」を認定した原判決が、不告不理により破棄された事例(名古屋高裁H31.3.5)


 第1回期日で弁論終結して判決でした。
 弁護人は、この2点の画像が、どれだかわからないし、わいせつじゃないじ
ゃないかと主張(訴因不特定・事実誤認等)してたんですが、そもそもわいせ
つでは起訴されてなかったということで、職権判断になりました。
 破棄された上で、わいせつについても児童ポルノについても所持罪に訂正されているようです。
 ひそかに製造罪の罪数についても判断が出ています。
 ひそかに製造罪の第二次製造については、第一次製造したものが複製する場合はひそかに製造罪となるとされていますが、理由の判示はありません。

当初起訴状
公訴事実
被告人は不特定多数の者に有償で頒布提供する目的で、平成31年3月3日,被告
人方において,記録媒体である外付けハードディスクに
衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位
が露出され又は強調されているものでありかつ,性欲を興奮させ又は刺激する
ものを視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノであ
り,かつ,女児の性器を露骨に撮影したわいせつな画像データを記録した電磁
的記録2点
を保管したものである。
罪名及び罰条
児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関す
る法律違反同法第7条第7項後段,第6項後段,第2条第3項第3号
わいせつ電磁的記録有償頒布目的保管刑法第175条第2項

訴因変更
公訴事実記載の訴因のうち,「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であ
って,殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり,か
つ,性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法
により描写した児童ポルノであり,かつ,女児の性器を露骨に撮影したわいせ
つな画像データを記録した電磁的記録2点」とあるのを
「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部
位が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激
するものを視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノ
ある電磁的記録2点及び同児童ポルノで女児の性器を露骨に撮影したわいせつ
な画像データを記録した電磁あり,かつ,女児の性器を露骨に撮影したわいせ
つな画像データを記録した電磁的記録4点」に改める。

変更後訴因
公訴事実
被告人は不特定多数の者に有償で頒布提供する目的で,平成31年3月3日,被告
人方において,記録媒体である外付けハードディスクに
「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部
位が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激
するものを視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノ
ある電磁的記録2点
及び
児童ポルノで女児の性器を露骨に撮影したわいせつな画像データを記録した
電磁あり,かつ,女児の性器を露骨に撮影したわいせつな画像データを記録し
た電磁的記録4点」
を保管したものである。
罪名及び罰条
児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関す
る法律違反同法第7条第7項後段,第6項後段,第2条第3項第3号
わいせつ電磁的記録有償頒布目的保管刑法第175条第2項


1審判決
第2 不特定多数の者に有償で頒布提供する目的で,平成31年3月3日,前記被
告人方において,記録媒体である外付けハードディスクに,
衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位
が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激す
るものを視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノであ
り,かつ,女児の性器を露骨に撮影したわいせつな
画像データを記録した電磁
的記録2点
及び
児童ポルノであり,かつ女児の性器を露骨に撮影したわいせつな画像データ
を記録した電磁的記録4点
を保管したものである。
(法令の適用)
罰条
 判示第2の事実中
  児童ポルノ電磁的記録頒布目的保管の点につき
          児童ポルノ法7条7項後段,6項,2条3項3号
  わいせつ電磁的記録有償頒布目的保管の点につき
          刑法175条2項
科刑上1罪    刑法54条1項前段,10条
  (判示第2につき1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから,1罪
として重い児童ポルノ電磁的記録頒布目的保管罪の刑で処断)

準強制わいせつ罪が成立するためには,わいせつな行為が特定の相手方に対して行われることが必要である。陰茎が被害者の方を向き,かつ,陰茎と被害者が極めて近い距離にあったことに加え,被告人はコンドームで陰茎の先を完全に覆うなど射出する精液が被害者の着衣に付着する可能性を失わせる程度の措置をとることなく自慰行為に及んで射精したので,電車内であったことを考慮しても,被告人の行為は被害者という特定の相手方に向けられたわいせつ行為であるといえる。(奈良地裁H30.12.25)

 被告人はコンドームで陰茎の先を完全に覆うなど射出する精液が被害者の着衣に付着する可能性を失わせる程度の措置をとれば、わいせつ行為にならないのかなあ。
 わいせつ行為性については争われていません。
 器物損壊とは観念的競合。

TKC
【文献番号】25561976
奈良地方裁判所平成30年12月25日刑事部判決
準強制わいせつ,器物損壊被告事件
       判   決
 上記の者に対する準強制わいせつ,器物損壊被告事件について,当裁判所は,検察官荒神直行及び弁護人福島至(私選)各出席の上審理し,次のとおり判決する。
       主   文
       理   由
(罪となるべき事実)
 被告人は,平成30年6月5日午前6時37分頃から同日午前7時12分頃までの間に,京都府■番地所在の■鉄道株式会社■駅から奈良市■番地の×所在の同社■駅までの間を走行中の電車内において,乗客のY(当時23歳)が睡眠中のため抗拒不能の状態にあるのに乗じ,自己の陰茎を露出して手淫し,同人に向けて射精して自己の精液を同人の着衣に付着させ,もって人の抗拒不能に乗じてわいせつな行為をするとともに,同人が着用していた同人所有の黒色ジャケット(損害額約1万円相当)を汚損して他人の物を損壊した。
(証拠の標目)《略》
(争点に対する判断)
1 弁護人は,被告人が行った客観的な行為は争わないものの,(1)被告人は精液を被害者の衣服に付着させる認識・認容がなかったので,準強制わいせつ及び器物損壊の故意がなかった,(2)仮にそれらの故意があったとしても,被告人の行為は準強制わいせつ罪の実行行為に該当しない旨を主張する。
2 関係証拠によれば,被告人は,電車内の座席の端に座って眠っていた被害者のすぐ横に立ち,被害者の方に身体の正面を向けた上で,陰茎を露出し,左手で陰茎をしごいて自慰行為を行って射精し,射出した精液が被害者の上着の右袖上腕部に付着したこと,射精した時,被告人と被害者の距離は約15センチメートルであったこと(甲6写真第6号),被告人は射精前に自慰行為を中断することは考えず自慰行為を続け,射精直前に精液が被害者の着衣に付着しないように左手を陰茎の前に差し出したが,この行為を除き,射精前に自慰行為をやめたり身体や陰茎を被害者以外の方向に向けたりするなど,精液が被害者の着衣に付着することを防ぐ方策をとらなかったことが認められる。
 関係証拠をみても,被告人が被害者の着衣に精液を付着させる意欲又は意図を持っていたとは認められない。しかし,精液は陰茎が向いている方向に射出されることに加え,射精のタイミング,射出される精液の量又は精液の飛散する範囲等を十分に制御することは困難であることを踏まえると,射精時の被告人と被害者との位置関係など前段で述べた状況下においては,射出した精液が被害者の着衣に付着する可能性が極めて高かったことは客観的にみて明らかであった。たしかに,被告人は射精直前に精液が被害者の着衣に付着しないように左手を陰茎の前に差出した。しかし,この行為は,コンドームで陰茎の先を完全に覆うなどの措置とは異なり,射出する精液が被害者の着衣に付着する可能性を失わせる程度の措置ではなく,この行為によってその可能性がなくなったと認識するとは考え難い。被告人は,自慰行為に夢中で,自慰行為の最中被害者の着衣に精液を付着させようとも付着させまいとも思っていなかったと述べる。仮にこの供述が真実であったとしても,射出した精液が被害者の着衣に付着する可能性が極めて高かったことは客観的にみて明らかであったことに照らせば,自慰行為の結果射精し,精液が被害者の着衣に付着する可能性を認識していなかったとは到底考え難い。したがって,自慰行為を始めてから射精するまでの間,被告人が自慰行為の結果射精し,精液が被害者の着衣に付着する可能性を認識していたと認められる。
3 準強制わいせつ罪が成立するためには,わいせつな行為が特定の相手方に対して行われることが必要である。陰茎が被害者の方を向き,かつ,陰茎と被害者が極めて近い距離にあったことに加え,被告人はコンドームで陰茎の先を完全に覆うなど射出する精液が被害者の着衣に付着する可能性を失わせる程度の措置をとることなく自慰行為に及んで射精したので,電車内であったことを考慮しても,被告人の行為は被害者という特定の相手方に向けられたわいせつ行為であるといえる。したがって,被告人の行為は準強制わいせつ罪の実行行為に該当する。
4 前述のとおり,自慰行為を始めてから射精するまでの間,被告人が,自慰行為の結果射精し,精液が被害者の着衣に付着する可能性を認識しており,その上で自慰行為に及んだと認められる。そして,被告人の行為がわいせつ行為に該当すること,全く面識のない被告人の精液が付着すると被害者の着衣の効用が害されることはいずれも明らかである。また,被告人は被害者が寝ていることを認識した上で,被害者が寝ているからこそ被害者のすぐ横に立ち被害者の方を向いて自慰行為に及んだので,被害者の抗拒不能に乗じたことも明らかである。したがって,被告人は少なくとも準強制わいせつ罪及び器物損壊罪の未必の故意を有していたと認められる。
(法令の適用)
罰条
 準強制わいせつの点 刑法178条1項、176条前段
 器物損壊の点 刑法261条
科刑上一罪の処理 刑法54条1項前段,10条(重い準強制わいせつ罪の刑で処断)
刑の執行猶予 刑法25条1項
(量刑の理由)
(求刑 懲役2年)
平成30年12月25日
奈良地方裁判所刑事部
裁判官 中山登

児童淫行罪の行為否認・淫行の際のひそかに製造罪(広島高裁h29.9.5) 

児童淫行罪の行為否認(広島高裁h29.9.5)
 児童ポルノが押収されているので、「被告人の面前で着衣を脱いで両乳房を露出させることに抵抗がない状態にあったのであるから,滞在中に性交があったと推認するのが自然である。」という評価になっています。


 なお、原判示第3の児童淫行罪の機会に3号ポルノを撮影した(原判示第2)のはひそかに製造罪ではないと思います。そういう判例だとすれば、判例違反でした。

1審判決
 第2 同月21日午前7時14分頃,同市〈以下省略〉「cホテル」117号室において,ひそかに,就寝中のAの胸部が露出した姿態を自己の使用するタブレット型端末機のカメラ機能で静止画として撮影し,その静止画データ1点を同タブレット型端末機本体の内蔵記録装置又は同タブレット型端末機に装着されたマイクロSDカードに記録させて保存し,もってひそかに衣服の一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写した児童ポルノを製造した。
 第3 同日午前1時10分頃から同日午前10時19分頃までの間,前記「cホテル」117号室において,Aに,被告人を相手に性交させ,もって児童に淫行をさせる行為をした。

TKC
【文献番号】25546995
広島高等裁判所
平成29年9月5日第1部判決
       判   決
       主   文
本件控訴を棄却する。
       理   由
1 控訴の趣意
 本件控訴の趣意は,主任弁護人佐々木和宏及び弁護人我妻正規共同作成の控訴趣意書に記載されているとおりであるから,これを引用する。
 原判決は,定時制の県立高校(以下「B高校」という。)の教頭として,当時16歳の女子生徒(以下「A」という。)から相談を受けるなどしていた被告人が,平成28年(以下の日付は,特記しない限りいずれも同年のものを指す。)2月13日午前4時12分頃,ラブホテル「C」の客室で,ひそかに就寝中のAの胸部及び陰部等が露出した姿態を撮影・保存して児童ポルノを製造し(原判示第1),同月21日午前1時10分頃(入室)から同日午前10時19分頃(退室)までの間に,ラブホテル「D」の客室で,Aに被告人を相手に性交させて児童に淫行させる行為をするとともに,その間の午前7時14分頃,ひそかに就寝中のAの胸部が露出した姿態を撮影・保存して児童ポルノを製造した旨認定している(原判示第2,第3)。
 これに対し,論旨は,原判示第3の児童淫行罪(児童福祉法60条1項,34条1項6号)に関し,被告人が原判示の日時場所でAといた際,被告人とAが性交した旨のA供述は信用できないから,性交の事実を認めた原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があるというものと解される。
2 原判断の要旨
 原判決は,(事実認定の補足説明)の項で,論旨に関し,要旨,おおむね次のとおり説示している。 
(1)前提となる事実関係等
 Aは,B高校に在籍していたが,教室で授業に出席することなく,職員室で過ごしたり,校外に遊びに出たり,粗暴な言動に及んだりするなどの逸脱行動を繰り返しており,被告人を含めた教員がその指導に当たっていた。Aは,解離性障害に罹患し,精神的に不安定な状態にある中で,人間関係の悩み等について相談に乗ってくれた被告人に好意を示すようになった。Aは,平成27年12月10日未明にB高校に電話を掛けて自殺をほのめかした際に,対応した被告人から携帯電話の番号を教わって以降,深夜早朝を問わず繰り返し被告人に電話をかけるなどして被告人に対する依存を強め,長電話をしたり,被告人に車で迎えに来てもらって校外で会ったりするようになった。被告人は,Aと外食やカラオケに行き,化粧品,服,携帯音楽プレーヤーを買い与えるといったAの依存を助長する不健全な行動に及んだ。Aは,2月中旬頃,被告人に対し電話で,「子供が欲しい。今度はゴム着けんでね」などと言った。
 被告人とAは,本件の際(2月12日から翌13日まで,同月21日)に原判示の各ホテルに滞在した以外にも,1月10日から2月14日にかけて,4回にわたり,Dの客室に滞在した。また,1月30日未明から翌31日にかけて山口県内に出掛けた際には,ラブホテル及び被告人が予約したビジネスホテルの同じ部屋(ダブルベッド1台)に滞在した。これら本件を含めた合計8回の滞在(本件は6回目と8回目)のうち,3回目以降の滞在当時,Aは精神科に任意入院中であった。被告人は,5回目の滞在の際,Aの露出した乳房と指で左右に広げた状態の陰部の静止画を撮影した。6回目の滞在(原判示第1)の際,被告人は,客室備付の性玩具の自動販売機でローションを購入した。
 6回目の滞在時に撮影された原判示第1の静止画は,ほぼ全裸の状態のAが,両乳房及び陰部を露出させて寝ている姿を,膝の上から頭までが写るように撮影したもので,中央に陰部が位置している。8回目の滞在時に撮影された原判示第2の静止画は,ガウンの胸部が開かれて両乳房が露出した状態で寝ているAの上半身をほぼ正面から撮影したもので,中央やや左寄りに乳房が位置している。各静止画は,Aの露出した陰部や乳房が目立つように意図的に撮影したものであると認められる。
(2)性交の有無について
 被告人は,性交が行われることが通常予定されているラブホテルに,Aと約9時間滞在する最中に,自己の性欲を興奮させる意図をもって原判示第2の静止画を撮影しており,Aは,被告人の面前で着衣を脱いで両乳房を露出させることに抵抗がない状態にあったのであるから,滞在中に性交があったと推認するのが自然である。加えて,この8回目の滞在に至る経緯として,被告人が,自分に対して好意を示して依存を強めるAとの関係にのめり込み,恋人のように特別扱いして繰り返しラブホテルに行き,乳房や陰部の静止画を撮影し性玩具の自動販売機を利用するという,性欲の興奮に向けられた行動をとっていた事実があり,Aが被告人との性交経験を前提とした発言をしていたという事実もある。これらの事実を併せれば,被告人が性的に不能であったといった特段の事情のない限り,原判示第3の滞在の際に被告人とAとの間で性交があったと強く推認される。
 本件に至る経緯や被告人に対する当時の心情に関するAの供述を全面的に信用することはできないが,原判示第3の滞在の際に被告人と性交したという核心部分(証人尋問調書239,242項等)については,前記推認によって裏付けられており,信用することができる。
 これに対し,被告人は,何度もラブホテルに行っていたのはAと話をしたり仮眠をとったりするためであり,Aに対する性欲はなく,疲弊していたため,Aと性交したことは一度もないなどと供述するが,性欲を興奮させる意図で児童ポルノを製造していることと整合しない不自然極まりない内容であって,信用できない。Aとの性交を妨げる特段の事情も見当たらない。
3 検討
 以上の原判断には,被告人とAが滞在していたホテルの特定に関し,後記(1)のような問題点はあるものの,その他の部分に論理則,経験則等に照らして不合理な点は見当たらず,性交があったとする結論に誤りはない。
(1)所論は,前提事実の認定に関し,原判決(5頁(5))は,被告人とAが,2月13日午後9時39分から翌14日午前9時59分までの間,D×××号室に滞在したと認定しているが,被告人らは2月14日午前2時4分から同日午前4時47分までの間Cに滞在していたから,原判断は誤っていると主張する。
 確かに,原判決の滞在時刻認定の根拠となった甲9号証を見ると,D×××号室の客室利用伝票(41丁)と,同室滞在者の特定根拠であるノートの記載内容(42丁)が整合しておらず(同伝票には原判決の認定する日時が印字されているが,ノートには2月15日の欄の末尾午後11時20分から午前9時38分までの利用者の車両として被告人の車のナンバーが記載されている。),「業務が忙しくて車両番号をすぐに確認できなかったので,末尾に付け足すような感じで書き込んでいる」旨の同ホテル従業員の説明はこの齟齬を十分に説明できているとはいい難い。一方,甲18号証及び甲19号証(172,179丁)によれば,被告人とAが同伝票記載の時間帯と重なる時間帯にC×××号室に滞在していた可能性は否定できず(ただし,同室滞在者特定の根拠となった車両番号記載のファイルの宿泊日は2月13日とされている。),滞在したのはCであり,2月13日から翌14日にかけて一旦Dに入った後中抜けしてCに行き,またDに戻ったことはない旨の被告人の原審公判供述を排斥することはできない。したがって,この点に関する原判決の認定は不合理であるといわざるを得ないが,原判決が認定する日時頃に被告人とAがラブホテルに滞在した事実には変わりがないから,A供述の信用性判断を左右するような問題点ではなく,所論のいうような予断偏見の表れとみることもできない。
(2)所論は,被告人供述に依拠して,〔1〕被告人がAと繰り返しラブホテルに行っていたのは,落ち着いてAの話を聞くためであり,性的関係を持つことなく就寝していた,〔2〕原判示第2の静止画は,被告人がいたずら心から寝相の悪いAがガウンのはだけた状態で眠っている姿を撮影したにすぎない,〔3〕被告人が性玩具の自動販売機を利用したのは,ローションを見付けたAがこれは何かと執拗に尋ねてきたからであり,性交のためではないとして,これらは性交の事実を推認させるものではないと主張する。
 しかし,ラブホテルに行った経緯,ローション購入等に関する被告人供述は,Aが被告人に対して好意を抱き,依存を強めていたことを前提としても,Aが被告人に話を聞いてもらうためだけのためにラブホテルに行くことを望んだという点や,Aを教育すべき教頭の立場にある被告人が,話を聞くだけの目的でラブホテルという場を選び続け,使うつもりもないのに千円を支払って性行為に用いられるローションを購入したなどの点で,不自然・不合理であり,信用できない。被告人とAが通常性行為を目的として利用される場所であるラブホテル等に8回にわたり滞在していた事実は,本件を含む各滞在時に性交等の性行為があったことを推認させる事情であり,6回目の滞在時に被告人がローションを購入した事実は,その時点で既に被告人とAが性交にまで至り得る関係にあったことを示している。8回目の滞在時に撮影された原判示第2の静止画の両乳房の露出状態は,寝ている間に偶々はだけてしまったものとは考え難く,意図的に作出されたとみるのが自然である。被告人がそれ以前の5回目及び6回目の滞在時に撮影した静止画の内容からしても,被告人の性欲がAに向けられていたことは明らかであって,原判示第3の滞在中に性交があったとの推認を補強している。原判決の推認力判断が不合理とはいえない。
(3)所論は,2月中旬頃のAの被告人に対する電話での前記発言に関し,Aの証言によれば,実際の発言の趣旨は原判決の認定とは異なっており,被告人との性交体験がなくても言える内容で,Aが被告人の歓心を買うためにした作り話の可能性があるとして,性交の事実を推認することはできないと主張する。
 しかし,電話口でのAの発言を聞いた母親の証言(74項)に基づき発言内容を認定し,それが被告人との性交体験を前提とするとみた原判断に不合理な点はない。仮にA自身が証言(195項)するように「コンドームを着けんでやってほしい。子供が欲しい」という内容であったとしても,発言以前の性交体験を推認させるものであることに変わりなく,所論指摘のA証言も同事実を前提としている。このAの発言に,前記(2)の推認を併せれば,原判示第3の滞在の際に被告人と性交したというA供述の核心部分の信用性を補強するに十分である。
(4)その他所論に鑑み検討を加えても,原判決に事実誤認はなく,論旨は理由がない。
 なお,原判決は,原判示第3の児童淫行罪の罪となるべき事実中で,「もって児童に淫行をさせる行為をした」との法的評価を基礎付ける事実として,被告人とAがB高校の教頭と生徒という関係にあったこと,被告人がAから相談を受ける「など」していたこと,Aの年齢,ホテルで被告人を相手に性交させたことを摘示している(訴因も同様である。)。これらの事実からは,被告人が教頭という立場を利用し,相談に乗ってくれる被告人に信頼を寄せていたAに事実上の影響力を及ぼし,淫行をなすことを助長し促進する行為をした事実が推知できる。また,冒頭陳述や原判決の(事実認定の補足説明)の項における説示等も併せ考慮すれば,前記「など」には,被告人が,Aから相談を受けるという名目やAの家庭環境を熟知しているのに乗じて,精神的に不安定な状態にあったAをA方や入院先から自車で連れ出し,校外で外食したり,ラブホテルに行って性交したりすることを繰り返していたといった働きかけの経緯が含まれていると解される。そうすると,原判示第3の罪となるべき事実の記載は,児童淫行罪の構成要件該当事実の摘示として不十分であるとまではいえず,理由不備又は訴訟手続の法令違反はない。
4 結論
 よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却することとして,主文のとおり判決する。
平成29年9月5日
広島高等裁判所第1部
裁判長裁判官 多和田隆史 裁判官 杉本正則 裁判官 内藤恵美