児童福祉法違反(淫行させる行為・児童淫行罪)の「淫行させる」については、最決が基準を示したんですが、支配とかではなく「影響関係」というようにかなり弱い関係でも成立します。法定刑も罰金1万円から懲役10年と幅広くなっています。
大雑把に言うと、親族とか師弟とか補導とかの上下関係がベースにあると、「させる」と評価されます。
否認すると「被告人には自己の行為の意味や被害児童に与える深刻な影響等について深く考え、自己の行為を真摯に顧みようとする姿勢は見られない。」と評価されることもあるので、弁護人が見極める必要があります。
児童福祉法
第三四条[禁止行為]
何人も、次に掲げる行為をしてはならない。
六 児童に淫いん行をさせる行為
第六十条
1第三十四条第一項第六号の規定に違反した者は、十年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
■28270606
長野地方裁判所
平成31年01月30日
上記の者に対する児童福祉法違反被告事件について、当裁判所は、検察官髙橋俊介及び同笹村美智子並びに私選弁護人青木寛文(主任)、同愛川直秀及び同唐木沢正晃各出席の上審理し、次のとおり判決する。主文
被告人を懲役3年6月に処する。
未決勾留日数中120日をその刑に算入する。理由
(罪となるべき事実)
被告人は、平成26年3月20日から平成29年3月16日までは、長野県H警察署生活安全課生活安全係主任として、同月17日以降は、同県L警察署生活安全第一課生活安全少年係主任として勤務し、長野県警察少年警察活動に関する訓令に基づき、前記H警察署長が継続補導対象者に選定したA(当時●●●歳。以下「被害児童」という。)に対する補導等の職務に従事していた者であるが、被害児童が18歳に満たない児童であることを知りながら、補導等の職務に従事する警察官としての立場を利用し、別表記載のとおり、平成28年11月22日から平成29年3月17日までの間に、4回にわたり、Eほか3か所において、被害児童に被告人を相手に性交させ、もって児童に淫行をさせる行為をしたものである。
(証拠の標目)(争点に対する判断)
1 争点
被告人が、判示の日時・場所において、被害児童と4回にわたり性交した事実に争いはない。本件の争点は、(1)児童福祉法34条1項6号が憲法31条に違反するか、また、本件に児童福祉法34条1項6号を適用することが憲法31条に違反するか、(2)判示の各性交(以下「本件各性交」という。)が、児童福祉法34条1項6号にいう「淫行」及び「させる行為」に該当するか、また、被告人にその故意が認められるかである。
2 争点(1)(憲法違反の主張)について
(1) 弁護人は、児童福祉法34条1項6号にいう「淫行」及び「させる行為」が憲法31条の要請する明確性を欠いており違憲無効であると主張するが、児童福祉法1条の基本理念に照らせば、同法34条1項6号は、淫行をさせる行為が児童の徳性や情操を傷つけ、その健全な育成を阻害する程度が著しく高いのでこれを規制する趣旨であると解され、そうすると、同号にいう「淫行」及び「させる行為」とは、それぞれ、「児童の心身の健全な育成を阻害するおそれがあると認められる性交又はこれに準ずる性交類似行為」及び「直接たると間接たるとを問わず児童に対して事実上の影響力を及ぼして児童が淫行をなすことを助長し促進する行為」をいうと解するのが相当である(最高裁判所平成28年6月21日第一小法廷決定参照)。そして、同法の前記基本理念及び趣旨等に鑑みれば、このような解釈は、一般人において理解可能で、かつ対象となる行為が犯罪行為に当たるか否かも区別が可能といえる。よって、同法34条1項6号にいう「淫行」及び「させる行為」が憲法31条の要請する明確性を欠くとはいえない。したがって、弁護人の主張は採用できない。
(2) また、弁護人は、被告人自らが淫行の直接の相手方になった場合である本件に児童福祉法34条1項6号を適用することが、法文の明確性を失わせるとして憲法31条に違反する旨主張する。しかし、同号の文言が淫行の相手方を限定しておらず、その淫行の相手方に行為者自身がなるか第三者がなるかによって、児童の心身に与える有害性の点で本質的な差異はないことは明らかであるから、「淫行をさせる行為」とは、行為者が児童をして行為者自身と淫行をさせる場合を含むと解したとしても、法文の明確性を失わせるものとはいえない。よって、弁護人の主張は採用できない。
また、弁護人は、同号が、淫行条例(「長野県子どもを性被害から守るための条例」)違反等より重い刑罰を定めていること等から、同号の「させる行為」については、淫行条例に定められた威迫等を超えた、継続的な支配的依存的関係性に基づく影響下での淫行がある場合に限って該当すると解すべきところ、威迫等すらない本件に同号を適用することは憲法31条に違反する旨主張する。しかし、同号の前記趣旨や法文等に照らせば、上記の場合だけに限定しなければならない理由はなく、後記のとおり、被告人に「児童に対して事実上の影響力を及ぼして児童が淫行をなすことを助長し促進する行為」が認められる。よって、この点に関する弁護人の主張も採用できない。
3 争点(2)(本件各性交が児童福祉法34条1項6号にいう「淫行」及び「させる行為」に該当するか、また、被告人にその故意が認められるか)について
(1) この点、弁護人は、〈1〉被告人が被害児童に対する補導ないし立ち直り支援活動に従事していたことを争うとともに、〈2〉本件各性交は、被告人と被害児童が相互に恋い慕う関係に基づいて行われたもので、被害児童の健全な育成を阻害するおそれはないから、「淫行」及び「させる行為」には該当しない旨主張する。
(2) 〈1〉(被告人が被害児童に対する補導ないし立ち直り支援活動に従事していたか)について
ア 関係証拠によれば、次の事実が認められる。
(ア) 被告人は、平成26年3月20日から平成29年3月16日までは、長野県H警察署(以下「H警察署」という。)生活安全課生活安全係主任として、同月17日以降は、同県L警察署生活安全第一課生活安全少年係主任として勤務していた。H警察署生活安全課は、同課C課長(以下「C課長」という。)を除き課員6人であり、同課の所掌事務として、犯罪の予防や少年非行の防止等の事務を取り扱い、被告人は、主として許認可事務を担当していたが、同人の扱う事務は、同課の所掌事務全般に及んでいた(なお、被告人の事務が同課の所掌事務の全てに及んでいたこと(したがって被告人の事務が許認可事務に限定されないこと)に関するC課長の供述は、同課の課員が少人数であり、垣根を越えて対応する必要がある場合も考えられること、長野県警察の組織に関する規則(甲2)において、例えば、警察本部には、組織上、生活安全企画課に許可事務担当室が置かれているが、各警察署はそのような組織構成になっていないことなどに照らし納得できるものであり、H警察署生活安全課においては、被告人の不在時に他の課員が被告人の許認可事務の一部を行うこともあったことや、後記のとおり、被告人が当直員として少年である被害児童を指導したこと、同課生活安全係長らが被害児童の立ち直り支援活動に参加していたことなどの事実と整合的であって、信用できる。)。
(イ) 被害児童は本件各性交当時●●●歳で、たびたび家出や、深夜徘徊をし、多数の男性と不純異性交遊していた。平成28年8月20日頃、同課は、被害児童の親から、被害児童が行方不明となり、連絡がとれない、男性とともに行動している旨の相談を受理し、その日当直勤務をしていた被告人は、来署した被害児童と前記男性から事情聴取し、被害児童に対し、家出や深夜徘徊を慎むように指導するなどした。しかし、その後も、被害児童は家出や深夜徘徊等を繰り返していた。同年9月25日、被害児童は、家出をして強制わいせつ被害に遭ったことで同課で事情聴取を受けた。その際、被告人は、被害児童からFのIDを聞き出し、Fを通じて被害児童とやりとりをするようになった。
(ウ) 同年10月3日、同課生活安全係であり、少年サポートセンターに配置されていたD巡査(以下「D巡査」という。)の提案を契機に、H警察署長は、被害児童を継続補導対象少年に選定し、D巡査がその実施担当者に指定された。その頃、C課長は、課員に対し、被害児童に対する継続補導活動について、担当者のD巡査だけでなく、課員全員で情報共有し、D巡査に協力して継続補導活動をするように指示した。
(エ) D巡査は、同年10月25日、被害児童から気分が落ちている旨の連絡を受け、被告人に同行を求めて一緒に被害児童方に被害児童を迎えに行き、話を聞くなどして助言、指導した。
(オ) D巡査は被害児童に対する継続補導活動の一環として、農業体験やボランティア活動といった立ち直り支援活動を生活安全課の他の課員(生活安全係長ら)や他警察署関係者とともに行ったが、被告人は、D巡査らの立ち直り支援活動が十分でないとして非難することもあった。
(カ) D巡査は、継続補導活動の内容を立ち直り支援活動簿に月毎に記載して同課内で回覧し、被害児童の精神状態や問題行動等について同課内で情報共有しており、被告人も同活動簿に目を通したこともあった。そして、被告人も、被害児童に精神疾患があることを認識しており、被害児童の精神的安定を図るため、被害児童と会って話をするなどしていた。
(キ) 被告人は、前記L警察署に異動後、平成29年5月、被害児童に対する継続補導実施担当者として追加指定された。
イ 以上の事実に鑑みると、被告人は、少年非行の防止等を扱う生活安全課の一員であり、同課内における主な担当事務が許認可事務であったとしても、職務上、同課の一員として、少年に対する補導等を行う立場にあったと認められ、加えて、被害児童が継続補導対象少年に選定されて以降は、被告人も他の課員と同様、D巡査に協力して被害児童の補導及び立ち直り支援活動に従事する立場にあったと認められる(なお、被害児童も被告人が被害児童の補導等に関わっているとの認識を有していたことは被害児童のスマートフォンにおけるFの記載(甲35の画像第99号)からもうかがえる。)。そして、被告人が前記L警察署において被害児童に対する継続補導実施担当者に追加指定されたのは、被告人がH警察署において被害児童に対する補導及び立ち直り支援活動に従事しており、被害児童が被告人を頼っていたという実質があったからこそと考えられる。
この点について、D巡査は、自分が被害児童に対する継続補導活動の責任者であるものの、1人で被害児童に対応することは困難であり、他の課員と一緒に行っていて、被告人も同課の課員として、被害児童に対する補導及び立ち直り支援活動に従事していた旨供述するが、前記の認定事実(特に被害児童が家出や深夜徘徊等を繰り返していたこと)及び客観的証拠(甲62)に照らし、自然かつ合理的で信用できる。
ウ これに対し、弁護人は、少年警察活動規則第8条第3項によれば、少年サポートセンターに配置されたD巡査以外は継続補導の業務を担当できないこと、前記のとおり、D巡査が被告人に同行を求めて被害児童方に赴く際、C課長の了解を求めていて、D巡査自身も自分の業務であるという認識を有していたことから、被告人がD巡査や他の課員と被害児童に対する補導等を共同実施したとするD巡査の供述は信用できず、そのような事実は認められない旨主張する。しかしながら、D巡査の供述が信用できることは前記のとおりであり、また、D巡査は、被害児童に対する継続補導の実施担当者(責任者)ではあるが、同課の課員と少年サポートセンターの職員とを兼務しており、同規則上も、担当者以外の他の警察官が担当者の継続補導活動に協力することを否定するものとは考え難い(同第3項によれば、やむを得ない理由がある場合には、少年サポートセンターの指導の下、少年警察部門に属するその他の警察職員が実施するものとされている。)から、同規則と齟齬するとは認められない。さらに、D巡査がC課長の了解を求めた点については、被害児童に対する補導等の活動が被告人の第一次的な業務ではないと考えたことによるものであり、合理的な理由によるものといえる。したがって、弁護人の主張は採用できない。
(3) 〈2〉(本件各性交が「淫行」及び「させる行為」に該当するか)について
ア 前記認定事実に加えて、関係証拠によれば、次の事実が認められる。
(ア) 被告人は、本件各性交当時42歳であった。被告人には、妻と子供2人がおり、前記3(2)ア(ア)の期間中、単身赴任していたが、妻ら家族との間で不和はなかった。また、被告人は、被害児童と本件各性交をしたことはもちろん、被害児童と会っていることも同僚や家族など周囲の者に隠していた。
(イ) 被害児童は、本件各性交当時●●●歳で結婚不適年齢であった。被害児童は、幻聴や妄想気分があり、精神的不安等から他人(とりわけ男性)に依存する症状があり、前記のとおり、家出や深夜徘徊をしたり、出会い系サイトを使って男性と会うなどの衝動的行動を繰り返していて、平成28年9月28日には初期の統合失調症と診断された。また、被害児童は、平成29年1月6日から同年2月14日までの間及び同年8月22日以降、精神症状が悪化して家出や深夜徘徊をしたり、自傷行為をするなどしたことから入院したが、退院後も幻聴や妄想が続き、深夜徘徊等を繰り返していた。
(ウ) 被告人が被害児童とFでやりとりをするようになってから間もなく、被告人は、勤務時間の内外を問わず、警察車両や被告人自身の車で被害児童に会いに行き、被害児童と話をしたり、食事をするようになった。
(エ) 平成28年10月11日、被告人は、被告人運転車両の後部座席に被害児童と並んで座っていた際、「もう無理。」と言い、被害児童に覆いかぶさるようにして、その胸や陰部を触るなどした。
(オ) それから間もなくして、被告人は、被害児童と、被告人が運転してきた車の中で、被害児童の了解を得て性交し、その後、被告人は、被害児童と、週に二、三回位性交を繰り返していて、会う時はほぼ毎回性交しており、勤務時間中に警察車両を利用して性交したこともあった。こうした被告人と被害児童との性交は、平成29年7月頃まで続いた(本件各性交もこれに含まれる。)。また、被告人は、被害児童と避妊具を使わずに性交したことも複数回あった。また、被告人が被害児童と会う時間は、約15分から長くて1時間程度であったが、被告人は性交してすぐ帰ることもあった。
(カ) 被告人は、被害児童に対し、被告人と会っていることや性交していることを他人に言わないように口止めするとともに、被告人とのFのやりとりをこまめに削除するように指示した。
(キ) 被告人は、被害児童が被告人以外の男性と交際し、性交していることを知っていたが、被害児童に対し、自分も妻がいるから対等であると言っていた。
イ 被害児童の供述の信用性
前記ア(ウ)ないし(キ)の事実は主に被害児童の供述によって認定したが、被害児童は、H警察署生活安全課の警察官から問い詰められて被告人と性交した事実を認めたもので、そのことにより被告人の身を案じ、警察官に話したこと自体を後悔する気持ちを有している上、期日外尋問において、被告人に対して感謝している旨を述べていることなどに照らすと、あえて被告人に不利な供述をするだけの動機はない上、供述内容は具体的であり、特に被告人から突然胸などを触られたこと、初めての性交の際、被告人の方から了解を求められたこと、短時間の性交でも受け入れていたことについては、胸などを触られて驚いて手をつかんだことや、拒絶した場合にはFをしてくれないと思ったこと、初めて性交を求められた際、被告人が警察官で妻帯者であったことから迷ったが、了解したのは被告人が会ってくれなぐなったり、Fをしてくれなくなると思ったからであること、たとえ性交目的だけだったとしても被告人に会いに来て欲しいと思ったため、被告人に性交目的かを聞かなかったことなど、自身の心情を交えて供述していて、供述内容全体を通じて特に不自然、不合理なところはない。また、被害児童は、被告人を自らホテルに誘ったことなど自分にとって不利益なことも話しており、明確に記憶しているところとそうでないところを区別して供述するなど供述態度は真摯である。したがって、弁護人の指摘する点を踏まえても、被害児童の供述は信用できる。また、被害児童は、被告人と性交していた理由について、拒絶すると被告人がFをしてくれなくなったり、会ってくれなくなると思ったとも供述するが、被害児童が精神的に不安定で、他人(とりわけ男性)に依存する傾向にあるという被害児童の精神状態や被害児童が特に性行為を求めていたわけではなく、相手から求められれば応じてしまうとする医師の供述(甲28)等とも整合的で信用できる。
これに対し、被告人は、(エ)に関して、「もう無理。」とは言っておらず、後部座席で横並びになっている際に灰皿を取ろうとして被害児童と手が触れ、手をつなぐような形になって、抱き合い、キスして胸などを触った旨供述するが、被告人は、初めて性的な行為をした日が被害児童と恋人としての交際が始まった特別な日であると認識しながらも、当初は抱き合っただけであると述べるなどの供述経過、性的行為の内容について曖昧な供述をしていることや、被害児童が被告人と会うようになってから間がないのに、被告人が述べる経過で性的行為に及ぶことは、医師が述べる被害児童の性格に照らしても唐突で不自然であり、捜査段階からの被告人の供述経過等を踏まえると、この点に関する被告人の供述は信用できない。同様に、被告人は、(オ)の初めての性交についても、自然とそうなった旨供述するが、前記と同様、曖昧であることなどに照らして信用できない。
ウ 本件各性交が「淫行」に当たるか及び被告人にその故意があるか
(ア) 弁護人は、本件各性交は、被告人と被害児童の相互に恋い慕う関係に基づいて行われたものであるので、児童福祉法34条1項6号の「淫行」には該当しない旨主張し、その根拠として、被告人と被害児童のFによる親密なやりとり(甲35)や、被告人と被害児童が2人で警察官と女子高生との真摯な恋愛を描いた映画を見に行き、その際、被害児童が「私たちみたいだね」と言ったこと、お互いの愛称の呼び方、被害児童が期日外尋問において被告人に感謝していると述べたこと、最初の性的行為からその後の性交について、被害児童が拒絶することなく自然になされたことなどの事情を指摘する。
確かに、これらの事情に鑑みると、被害児童に被告人を慕う気持ちがあったことは否定しがたいが、前記のとおり、被害児童は、被告人と性交した目的について、Fで連絡してもらうためや会ってもらうためであったと明言しており、これが信用できることは前記のとおりである上、前記3(2)ア及び(3)アで認定した、被告人及び被害児童の年齢、特に被害児童が●●●歳で心身及び判断力が未熟であり、自己の性的行為の意味を十分に理解していなかった上、結婚不適年齢であったこと、被告人と被害児童との関係及びそれぞれが置かれた状況、特に、被告人が警察官として被害児童に対する継続補導活動に従事していたことや、被告人が妻帯者であったこと、被害児童が精神的に不安定で不純異性交遊を繰り返すなど他人(とりわけ男性)に依存する傾向があり、被告人と性行為をしている期間中も他の男性と交際し、性交していたこと、そのことを認識した際の被告人の前記発言、被告人の方から被害児童のFのIDを聞き出して被告人とFで連絡を取り合うようになり、それから間もなく被告人の方から被害児童に性的な行為を求めたこと、その後間もなく被告人が被害児童と性交し、以降、頻繁に性交を繰り返す中で本件各性交に及んだもので、避妊具を使用しないことも複数回あったことや、被害児童が統合失調症で入院し、退院した後も性交を繰り返していたこと、被告人が被害児童と会っていることや性交していることを同僚や家族を含む周囲の者に隠すとともに、被害児童に対しても、口止めやFのやりとりの削除を指示していたもので、被害児童との性的関係が職場や家族に露見することを恐れていたと考えられる行動をとっていることなどからすれば、被告人が被害児童の心身に配慮し、被害児童との将来も考えて真剣に交際していたとは到底認められないことなどに照らすと、被告人と被害児童との間の性交が、相互に恋い慕う関係に基づいてなされたものとは認められず、被告人もそのことは当然に認識した上で、被害児童を自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っていたと認められ、本件各性交が被害児童の心身の健全な育成を阻害するおそれがあることは明らかである(なお、弁護人は、被害児童が入院している間や被害児童の気分が落ちている時には性行為をしなかったこと、避妊具を用いなかったのは被害児童の希望によるものであったことを指摘するが、性的欲望の対象として扱っていたとしても、入院中や気分が落ちている時など通常性交ができないあるいは嫌がると考えられる時に性交をしないことは不自然なことではないし、被害児童が避妊具を用いないよう希望したことがあったとしても、被害児童はそもそも判断力が未熟であり、自己の行為の意味や結果を正しく理解して求めていたものとはいえないから、その点が前記の判断を左右するものとはいえない。)。したがって、本件各性交は、同号の「淫行」に該当する。その他の弁護人が指摘する点を踏まえても判断は左右されない。
(イ) また、被告人が前記の被告人と被害児童との関係や置かれた状況、本件各性交に至る経緯や性交の態様等の客観的な事情の認識を欠いていたとみることはできず、その故意にも欠けるところはないというべきである。
エ 本件各性交が「させる行為」に当たるか及び被告人にその故意があるか
(ア) 前記2(1)のとおり、同号の「させる行為」とは直接たると間接たるとを問わず児童に対して事実上の影響力を及ぼして児童が淫行をなすことを助長し促進する行為をいうと解するのが相当である。そして、「させる行為」に該当するかどうかは、行為者と児童の関係、助長・促進行為の内容及び児童の意思決定に対する影響の程度、淫行の内容及び淫行に至る動機・経緯、児童の年齢、その他当該児童の置かれていた具体的状況を総合考慮して判断すべきである(前記最高裁決定参照)。
この点、弁護人は、被告人と被害児童との間に支配的関係ないし保護責任者的地位がなければ、よほど助長・促進行為が強度であるなどの例外的事情がない限り、児童福祉法34条1項6号の「させる行為」には該当しないとして、被告人は被害児童の処遇の決定に影響力を有する支配的立場ではないこと、合意の上性交しており淫行の助長・促進行為は微弱であることなどの諸事情を根拠として挙げ、被告人は相互に恋い慕う関係に基づき被害児童の性交の相手になったにすぎず、同号の「させる行為」に当たらない旨主張する。
(イ) しかしながら、本件各性交が被告人と被害児童との相互に恋い慕う関係に基づいてなされたものと認められないことは前記のとおりである。そして、前記のとおり、被告人は、警察官として、被害児童の処遇の決定に影響力があるとはいえないとしても、継続補導実施担当者のD巡査に協力して被害児童に対する補導及び立ち直り支援活動に従事する者として、被害児童に対して、性的逸脱行動を含め、その心身の健全な育成を阻害するおそれのある行動をしないよう指導する立場であり、かつ、被告人の前記活動を通じて、判断力が未熟で、精神的にも不安定で他人(とりわけ男性)を頼りやすい被害児童が被告人を精神的に頼っていたことから、被告人は、被害児童に対して影響力を有する立場にあったといえる。そして、被告人は、そのような立場や被害児童との関係性を利用し、前記のとおり、被害児童を自分の性的欲望を満足させる対象として扱い、被害児童と性交を重ねる中で本件各性交に至ったものである。これらの事情に鑑みると、被告人が被害児童に本件各性交を強く持ち掛けたことがないことや、被害児童が性交を拒絶していないことなどの事情を踏まえても、被告人が被害児童に対する事実上の影響力を及ぼして被害児童が淫行をなすことを助長し促進する行為をしたものと認められる。したがって、本件各性交は、同号の「させる行為」に該当する。弁護人の前記主張は採用できず、その他、弁護人が指摘する点を踏まえても判断は左右されない。また、前記と同様、この点に関する被告人の故意に欠けるところもない。
(法令の適用)
被告人の判示所為は包括して児童福祉法60条1項、34条1項6号に該当するところ、所定刑中懲役刑を選択し、その所定刑期の範囲内で被告人を懲役3年6月に処し、刑法21条を適用して未決勾留日数中120日をその刑に算入することとし、訴訟費用は、刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
(量刑の理由)
被告人は、警察官として被害児童を補導し、立ち直らせるための支援活動に従事する立場であり、それを通じて被害児童が被告人を精神的に頼っていたことに乗じて、判断力が未熟であり、かつ、精神疾患の影響もあり精神的に不安定であった被害児童に対する本件犯行に及んだもので、警察官としてあるまじき卑劣な犯行である。被告人が被害児童の求めに応じて会うなどしてその精神的安定を図ろうとしていた面もあったことは否定できず、被害児童は、期日外尋問において、被告人に対する感謝の気持ちを述べ、処罰を求める気持ちはないとしているが、そもそも被害児童は心身ともに未熟であり、判断力も未熟である上、精神疾患の影響もあって精神的に不安定な状態であったもので、現在は、被告人と性交したことは良くなかった旨述べており、前記の態様で被告人と多数回の性交を続けていた一環として本件各性交を行った被害児童の今後の心身の健全な育成への悪影響が懸念され、被害児童の母親は、被告人に対して強い憤りを抱いている。加えて、被告人には自己の行為の意味や被害児童に与える深刻な影響等について深く考え、自己の行為を真摯に顧みようとする姿勢は見られない。
そうすると、被告人の刑事責任は軽視できるものではなく、本件により被告人が懲戒免職されたことや、離婚したことなど一定の社会的制裁を受けていること、これまで前科前歴がないことなどの被告人に有利な事情を十分に併せ考慮しても、被告人は主文の刑を免れない。
(求刑 懲役4年)
刑事部
(裁判長裁判官 室橋雅仁 裁判官 荒木精一 裁判官 風間直樹)
別表(省略)