児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

傷害、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件の量刑理由(田辺支部h30.11.29)

 D1-LAW罪となるべき事実が省略されているので、量刑理由だけ聞かされても意味ないですよね。
 性的意図の立証のために児童ポルノ所持罪も起訴されているような感じです。

■28265236
和歌山地方裁判所田辺支部
平成30年11月29日
私選弁護人 村上有司(主任)
榎哲郎

主文
被告人を懲役2年6月に処する。
この裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予する。
被告人をその猶予の期間中保護観察に付する。

理由
(罪となるべき事実)
第1 平成30年1月31日付け起訴状記載の公訴事実のとおりであるから、これを引用する。
第2 平成30年2月20日付け起訴状記載の公訴事実のとおりであるから、これを引用する。
(証拠)
(法令の適用)
 罰条
  判示第1の行為につき
  刑法204条
  判示第2の行為につき
  児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条1項前段、2条3項3号
 刑種の選択
  判示第1、第2の各罪について、いずれも懲役刑
 併合罪の処理
  刑法45条前段、47条本文、10条(重い判示第1の罪の刑に同法47条ただし書の制限内で法定の加重)
 執行猶予
  刑法25条1項
 保護観察
  刑法25条の2第1項前段
(量刑の理由)
 1 犯行に至る経緯
  被告人が小学5年生のときに両親が離婚し、被告人は、親権者となった母親に監護養育されるようになったが、母親は仕事のために不在がちであった。母親は、5年前から甲状腺がんを患っている。父親は、被告人住所地とは離れた山間地で飲食店を経営しており、被告人とは、たまに会う程度の交流はあった。
  被告人は、平成29年4月に、市役所に非常勤職員として採用された。同年秋には正職員となるための採用試験を受けたが、不合格となった。再度の受験を志した被告人は、予備校に通うことを上司から勧められたので、父親にその費用の援助を申し込んだが、金銭的余裕がないとして断られた。
  被告人は、他人と話をするのが苦手である。
 2 本件各犯行及び関連事件
  (1) 判示第2の犯行(以下「児童ポルノ事犯」という。)
  被告人は、平成28年春ころから、十歳台前半くらいの女児が裸になって性器を見せたり自身の性器を触ったりしている動画(以下「児童ポルノ」という。)をインターネット経由で入手し、自らのパソコンにダウンロードして、自宅でハードディスクに保管するようになった。児童ポルノ事犯は、その一環である。
  被告人は、これらの動画をダウンロードするまでには、通常のウェブサイトへのアクセスと異なり、専用のアプリを使って暗号のような文字を入力する必要がある等手が込んでいたことから、児童ポルノにかかわることが合法ではないらしいとの漠然とした認識は有していた。
  (2) 関連事件
  被告人は、平成28年6月30日、児童公園で遊んでいた小学生の女児を公園内のトイレの個室に誘い込み、内部から鍵をかけたが、程なくして鍵を開けて女児を外に出した。
  (3) 判示第1の犯行(以下「スプレー事犯」という。)
  被告人は、犯行当日、有給休暇を取得して、B市へ、次いでC市へ行った。その帰路、カーナビの目的地を、自宅へ向かう道筋から外れた山間部にある犯行現場付近の大字に設定し、その案内に従って走行した。
  被害女児は、その大字の中では比較的建物が多い集落にある小学校から、山間部の奥にある自宅へ、徒歩で帰宅する途中であった。被告人は、小学校の近くで、車を運転しながら、被害女児が三叉路を山間部の奥の方へ向けて曲がるのを見かけた。その約3分後、集落付近で車を転回させるなどした後、自宅へ向かって人気のない道筋を歩いている被害女児を追い越し、路肩に駐車した。自動車に積んでいた催涙スプレー(以下「本件スプレー」という。)を持って、被害女児に歩み寄った。被害女児に声をかけ、これに応じて被告人の方に顔を向けた被害女児の顔面をめがけて、催涙スプレーを噴射した。
  この催涙スプレーは高濃度の唐辛子成分を含有し、眼及び皮膚に強い刺激を与えるものであった。被害女児は、突然催涙スプレーを噴射され、その痛みに泣きながら歩き出し、近くの建物で働いていた大人に助けを求めた。被害女児には、両頬が赤く変色する等の症状が生じた。
  被害女児の痛みは数日で収まり、皮膚の変色も次第に消えて、特段の後遺症は残らなかった。しかし、事件前はひとりで就寝できていたのに保護者と同じ布団で寝ることをせがんだり、一人でいることを極端に嫌がったりするようになった。
 3 スプレー事犯の動機ないし目的について
  (1) 被告人の供述の変遷
  ア 被告人は、平成29年12月20日にスプレー事犯を被疑事実として逮捕された。
  逮捕直後の取調べでは、「女の子が飛び出してきた。注意しようとしたが、無視したので腹が立ち催涙スプレーをかけた。」と供述した。
  しかし、同日中に、「催涙スプレーをかけて女の子の目が眩んだ隙に胸や体を触ろうと考え、女の子の顔に催涙スプレーをかけました」と供述し、同旨の自供書を作成した。
  イ 被告人は、強制わいせつ致傷の罪名で検察官送致され、同月22日に勾留された。後に、勾留期限は平成30年1月10日まで延長された。
  この勾留期間中の平成29年12月30日の取調べでは、スプレー事犯の動機について、「女の子が片足を軸にしてクルクルと体を回転させているのが見えました。私は、そのクルクルと体を回している女の子の姿を見て無性に腹が立ってきました。」「女の子の行動に腹が立ったので催涙スプレーをかけてやろうと考えました。」と供述した。
  また、同日、催涙スプレーについて、護身用に購入していたものであり、その威力を試してみたいという思いもあって被害女児に向けて使用した旨供述した。
  ウ 被告人は、スプレー事犯による勾留の延長後の期限である平成30年1月10日、スプレー事犯については処分保留のまま、関連事件につき、未成年者誘拐・監禁の罪名で逮捕され、同月12日に勾留された。後に、勾留期限は同月31日まで延長された。
  この勾留期間中の同月24日、被告人は、スプレー事犯につき、司法巡査Dに対し、「女の子に催涙スプレーをかけた本当の目的は、女の子の体を触ったり、服を脱がして裸を見たかった」、「わいせつなことをする為の手段として、予め催涙スプレーを用意していました。今回、私は催涙スプレーを使って目をくらませ、女の子を私の車に乗せようと思っていました。そして、車内で女の子の身体を触ったり、服を脱がして裸を見たいという思いがありました。」等と供述した。
  また、動機ないし目的についての供述を変えた理由については、「前の取り調べで、……女の子の写真を見せて貰った時、女の子の顔や手が真っ赤に腫れている姿を見た」、「その女の子の姿が頭から離れませんでした。悪いことをした、申し訳ないことをしたとずっと考えるようになりました」、「女の子のことを考えると、罪悪感で嘘を突き通す(原文ママ)ことに疲れました」等と供述した。
  エ 同月31日、被告人は、スプレー事犯につき起訴され、関連事件については不起訴となった。
  オ 当公判廷における被告人の供述内容は、上記イの内容とおおむね同一である。
  (2) スプレー事犯の動機ないし目的について、わいせつ行為が目的であった(以下「わいせつ目的」という。)旨の検察官の主張と、被害女児に対する腹立ちの動機及び催涙スプレーの試用の目的によるものであった(以下「非わいせつ動機・目的」という。)旨の弁護人の主張が対立している。
  よって検討するに、以下の理由によれば、スプレー事犯はわいせつ目的で行われたと理解する方が自然である、ということはできる。
  ア 被告人は、児童ポルノ事犯及び関連事件も起こしている。被告人は、当公判廷において、児童ポルノ事犯はこれらの動画に「珍しさ」があったからであり、関連事件は女児と話をしたかったからである旨供述し、これらの事件についても性的欲求との関連を否定するが、児童ポルノ事犯、関連事件及びスプレー事犯という一連の行為を総合的に観察すれば、共通の背景として女児に対する性的欲求が存在したとの推認に傾く。
  イ 非わいせつ動機・目的をいう被告人の供述は、逮捕直後の平成29年12月20日の取調べにおける「女の子が飛び出してきた。注意しようとしたが、無視したので腹が立ち催涙スプレーをかけた。」という供述と、同月30日の取調べ及び本件公判廷における「クルクルと体を回している女の子の姿を見て無性に腹が立ってきました。」という供述とで、大きく食い違っている。
  ウ ドライブレコーダーの解析結果等によれば、被告人は、集落内の三叉路を山間部の奥へ向けて歩く被害女児の姿を見た後、その三叉路を一旦直進通過したのに、車をUターンさせてその三叉路まで戻り、被害女児が歩いて行ったのと同じ方向へ曲がっている。この行動は、三叉路で被害女児を見た時点で、被害女児に対して何らかの行動を仕掛けようとする意図があった、という推論と結び付く。
  被告人の上記平成29年12月30日の供述においても、「クルクルと体を回している」被害女児を見たのは、被告人が車で三叉路を曲がってしばらく走った後であるから、被告人の供述する非わいせつ動機・目的では、三叉路を曲がって被害女児と同方向へ向かったという被告人の行動を説明できない。
  (3) もっとも、わいせつ目的、非わいせつ動機・目的のいずれが、スプレー事犯の犯情として、より悪質であるのかは、一概に決められない(非わいせつ動機・目的でスプレー事犯に及んだことの背景について、弁護人は、職場で意に沿わない異動があったこと、父親から予備校の費用援助を断られたこと等からくるストレスや苛立ちがあった旨主張し、被告人もその旨供述するが、その程度の背景のもとで、「クルクルと体を回している女の子の姿を見て」腹を立て、無抵抗の弱者である女児に対してスプレー事犯のごとき犯罪行為にまで及んだのであれば、被告人はきわめて危険な粗暴犯としての犯罪性向を有することになる。)。したがって、スプレー事犯がわいせつ目的であったか非わいせつ動機・目的であったかは、本件の量刑には必ずしも影響しない事情といえる。
  そして、わいせつ目的であれ、非わいせつ動機・目的であれ、いずれも被告人の内心に係る事柄であって、両者が併存することも有り得る。そもそも、被告人自身がスプレー事犯の当時の自己の内心を的確に把握できていたとは限らないし、当時の自己の内心について、捜査官の取調べや公判廷での質問に対して的確に供述できるとも限らない。
  そうすると、スプレー事犯の動機ないし目的は、被告人の矯正及び更生をより効果的なものにするため、心理学的な知見を踏まえつつ分析・判断されるべきものであって、本判決において事実認定の対象とするにはなじまない。
  (4) なお、弁護人は、平成29年12月24日に被告人がわいせつ目的を認める供述をしたのは、捜査官から、関連事件を不起訴にすることとの取引を持ち掛けられたためである旨主張するが、証人Dの公判供述に照らして、弁護人の主張は採用することができない。同供述によれば、関連事件について被告人がわいせつ目的を認める供述をしたので、同証人がスプレー事犯についても何度か尋ねたところ、被告人は、最初は黙っていたが、数日経って「今更ですけど、話を変えてもいいんですか」と言ってわいせつ目的を認める供述を始めたというのであり、これはこれで自然な流れである。同証人が関連事件の不起訴との取引を持ち掛けたという弁護人の主張には、その裏付けとなり得る証拠は被告人の公判供述以外に存在せず、一つの憶測にとどまると言わざるを得ない。
 4 量刑事情について
  スプレー事犯の犯行態様は非常に危険で悪質であり、実際に生じた被害結果も重大である。また、児童ポルノ事犯は、児童ポルノの製造や提供を助長しかねない犯行であって強い非難に値する。
  他方、被告人のために酌むべき事情として、前科前歴はないこと、児童ポルノの所持を始めた時点では未成年であったこと、本件各犯行時も成年に達したばかりであったこと、本件各犯行が広く報道された上に市役所からは懲戒解雇される等して大きな社会的制裁を受けたことが挙げられる。
  なお、示談等については、被告人及びその両親が被害女児の父親と一度面談し、謝罪するとともに示談の申入れもしたが、話合いには応じてもらえず、その後進展していない。被告人及びその両親には、損害賠償の資力は現段階では乏しいが、その義務は認識している。
  これらの事情を総合考慮して、主文のとおり、被告人を懲役刑に処してその刑事責任を明らかにした上、その執行を猶予するのが相当である。
  また、その執行猶予の期間中、被告人を保護観察に付するのを相当と認める。スプレー事犯がわいせつ目的であったのならばもちろんのこと、非わいせつ動機・目的に基づくものであったとしても、被告人には矯正すべき重大な犯罪性向があったといえることは上記のとおりであるから、保護観察下で、自らカウンセリングを受けるなどしてその矯正に努めるべきである。
(求刑 懲役2年6月)
 (裁判官 上田卓哉)