弁護人が参照すべき文献・判例を挙げておきます。
https://www.asahi.com/articles/ASS9M30PQS9MPLXB007M.html
8月21日夜から22日未明にかけて、職務時間外に社屋に侵入し、社内に置かれていた女性社員の化粧品など5点に体液を付着させるなどし、事情を知らない女性社員に使用させた疑いがある。
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https://www3.nhk.or.jp/matsuyama-news/20240920/8000019460.html
容疑者は先月8月、社内で同僚の女性の化粧品を盗んで自分の体液を付着させたあと、元の場所に戻して事情を知らない女性に使わせたとして、不同意わいせつの疑いなどが持たれています。
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https://news.yahoo.co.jp/articles/6ed13be44fecfd5857f396d599ddd639bba90726
警察によりますと容疑者は、松山市内で女性の化粧品などを無断で持ち出し、わいせつな行為をした疑いが持たれています。・・・・・・・・・
愛媛新聞
容疑は8月21日午後7時25分~22日午前4時20分ごろの間に、市内の会社に正当な理由なく侵入し、女性社員の化粧品など5点(1万2300円相当)を持ち出して、化粧品1点に体液を付着させるなどした後にすべて元の場所に戻し、女性社員に化粧品を使用させた疑い。
口紅に付着させて唇に接しさせる場合、唇は、非性的部位とする学説があります。
嘉門優「強制わいせつ罪におけるわいせつ概念について」
なお,「唇」を性的な領域と理解する見解もあるが(山中・前掲注(9)10頁),陰部・乳房・臀部とは異なり,唇に触れること自体をもって直ちに「性欲を刺激する行為」を有すると評価することはできない。そこで本稿では,唇への接触を「非性的部位への接触」として扱うこととする。
調査官解説がある。
向井香津子「最高裁判例解説 強制わいせつ罪の成立と行為者の性的意図の要否」 法曹時報第72巻第1号
【第Ⅲ類型】行為そのものに備わる性的性質がおよそ無い,あるいは希薄であるため,具体的状況如何にかかわらず「わいせつな行為」該当性を否定すべきと考えられる行為類型
行為そのものが持つ性的性質が無いか,あっても非常に弱いため,刑法176条等の保痩法益(性的自由を中核とする性にかかわる個人的法益)に対する侵害となることがおよそ考えられないか,同条等による非難に値する程度の侵害にはおよそ達し得ないような行為がこの類型に入るものと考えられる。そのような行為は,具体的状況がどうであろうと「わいせつな行為」に該当すると認められるほどの強さに達する性的な意味合いをおよそ持ち得ないと考えられる。すなわち,一般的にみて性的性質が希薄な行為については,行為者がいかに,強い性的意図をもっていたとしても,法定刑の重い強制わいせつ罪等を成立させる程度の強さの性的意味合いを持つとは認め難いと思われる(前掲佐藤64頁)。
この類型の行為は,仮に暴行,脅迫によって強制されたとしても強要罪が成立するにとどまるとすれば足りるし,13歳未満の者に対して暴行脅迫を加えることなく行ったとしても不可罰というほかなく,監護者の地位に乗じて行われたとしても不可罰と考えられる(ただし,そのような行為であっても,各都道府県の定める迷惑防止条例に該当する場合はあり得るであろう。本判決後のものではあるが,嘉門優「強制わいせつと痴漢行為との区別について」季刊刑事弁護93号147頁も参照)。
この類型に当たるのではないかと考えられる行為としては,例えば,手に触れる行為,衣服を着た状態の者を写真撮影する行為等が考えられるが,どのような行為について,一般的にみて性的性質が希薄というべきかについても,その時代の社会通念を反映させて決せられるほかなく,時代によって移り変わっていくと考えられる(例えば,纏足文化があり,纏足に強い性的意味合いがあると一般的に評価されている社会では,纏足にまつわる行為に強い性的意味があるとみる余地が出てくるであろう。前掲佐藤65頁注50も参照。)。したがって,多様な性的行為が想定される現代社会では,例えばフェティシズムに基づく行為をどのように考えるかも,社会通念に根差して考えていくべき今後の課題となろう(前掲樋口89頁,前掲佐藤65頁,園田寿「強制わいせつ罪における<性的意図>について」山中敬一先生古稀祝賀論文集下巻124頁〔2017年〕等)。
薄井判事によれば、特殊な性的嗜好(フェティシズム)に基づく行為だとすれば、わいせつ性は弱まる。
薄井判事強制わいせつ罪における「性的意図」植村立郎「刑事事実認定重要判決50選_上_《第3版》」2020立花書房
(イ)行為者の特殊な性的嗜好(フェティシズム)に基づく行為
行為者の特殊な性的嗜好(フェティシズム)に基づく行為についても,性的意味の有無の判断と行為者の主観的事情の関係が問題となる。こうした行為は,一見性的意味を持つようには思われない行為であっても,行為者は性的意図を有して行っているからである。この点、あまりに特殊な性的嗜好であり,社会通念上は性的性質が認められない行為については,やはり,行為者の性的意図だけを理由に性的意味を肯定することはできないというべきである。例えば,女性が汗を流す姿を見ることに性的興奮を覚える者が,その姿を見たいがために無理やり運動場を走らせたとしても,社会通念上当該行為に性的意味は認められないから,行為者の主観的事情だけで性的意味があることにはならない。もっとも,社会通念上もフェティシズムに基づく行為として認知されているような行為であれば,そのことから性的意味を肯定できることもあるだろう。
佐藤陽子教授の論文によれば、非接触性、非面前性、非同時性の点でわいせつ性に疑問がある。
佐藤陽子 自己のわいせつな画像を撮影( ・送信)させる行為の「わいせつな行為」性について 「実務と理論の架橋
この点について、かつて筆者は、( i )関係する部位、( ii)接触の有無.方法、(iii)継続性、(iv)強度、(v)性的意図、(vi)その他の状況が、総合的に判断されなければならないと主張したことがある(27)。このような基準を、被害者にわいせつな画像を撮影・送信させる行為に当てはめれば、かかる行為では行為者と被害者間の(ii)身体的接触はなく、かつ(v)性的意図もない場合があるが、( i )性を象徴する部位(性器や乳房)の写真を(iii)一定の時間をかけて撮影しており、また(vi)永続的に画像として被害が残されるものであることから、性的な自由の侵害の程度は高い(28)。そうするとわいせつ行為性は肯定されそうだが、かかる行為には、なお( i )~(vi)の基準だけで判断できない要素が残っているように思われる。
すなわち、かかる行為の特徴としては、非接触性に加えて、非面前性(29)、非同時性がある。被害者がわいせつな画像を撮影している最中に、行為者は被害者に触れることがなく(非接触性)、被害者と同じ空間にいることもない(非面前性)。またわいせつな画像の撮影行為自体を行為者は認知しておらず、画像を受け取ることで初めてそれを知覚する(非同時性)。このような特性は当該行為のわいせつ行為性を否定する要素となりうるのだろうか。
この点を検討するために、さらに非接触型のわいせつ行為について詳細に見ていきたい。
大竹検事の論稿では、非面前性、非同時性で消極的なようです。
大竹依里子検事「オンラインで,児童を裸にさせ,動画撮影させた行為について,強制わいせつ罪で処理した事例研修876号
3非面前における行為が「わいせつな行為」と言えるか
ところで, 本件では,遠隔地から携帯電話機のビデオ通話機能を使用して行われている犯行ですが,遠隔地にいる,すなわち,犯人と児童とが目の前にいないことが, わいせつな行為の判断に影響を与えるかも検討しました。
この点について,犯人が遠隔地にいるからといって, 自己の裸を他人の目に直接さらすということに違いはなく, 遠隔地でオンラインでつながっていることは,規範的に見て, 目の前にいることと違いはないという結論に至りました。
対照事例として,犯人が遠隔地にいて, オンラインで, 自分の性器を露出した動画を相手方に送りつけた場合は, どうかということも検討しました。
この点については, 強制わいせつ罪のわいせつな行為とまでは言えないのではないかという結論に足りました。
それは,接触を伴う強制わいせつと同程度に,相手の身体を積極的に利用したり,侵害したりするものとは言えないという理由が挙げられました。
このように, わいせつな行為の判断においては, この被害者の身体を積極的に利用したり,侵害したりすることが要素として挙げられると考えられます。
大阪高裁h22.3.26は至近距離から被害者に向けて射精した場合をわいせつ行為と認定していますが、面前性を要求するものとも読めます。
裁判年月日 平成22年 3月26日 裁判所名 大阪高裁 裁判区分 判決
事件番号 平21(う)1468号
事件名 住居侵入、準強制わいせつ(原審認定罪名:住居侵入)、強制わいせつ(原審認定罪名:暴行)被告事件
裁判結果 原判決破棄 上訴等 上告 文献番号 2010WLJPCA03266018
就寝中の被害女性の至近距離から同被害女性に向いて自己の陰茎を手淫して射精する行為は準強制わいせつ罪に該当する。被告人の立っていた位置から就寝中の被害女性の頭部までは1メートル前後しかない至近距離であり,被告人が精液が被害女性にかからないよう配慮することもなく,同被害女性の方を向いて自己の陰茎を手淫して射精したことは明らかであるから,被告人の行為は被害女性という特定の相手方に向けられたわいせつな行為というほかなく,その就寝中という抗拒不能の状態を利用して自ら性欲のはけ口としたものであるから,被害女性の性的自由を侵害するものであることも明らかである。
原判決は「『自慰行為や射精行為を被害女性に認識させる意図』や『被害女性に精液をかける意図』が認められないとして,本件自慰行為及びそれに続く射精は被害女性に対して行われたものと評価することはできない」旨判示して準強制わいせつ罪の成立を否定したものであるが,その点について「その意図の意義や内容等について説示がなく,判然としないものの,自己の性欲を刺激興奮させ又は満足させる意図,いわゆる性的意図というのであれば,就寝中の被害女性と2人だけしかいない密室といってもいい室内において,至近距離から同被害女性の寝姿を盗み見しながら自慰行為に耽ることによって,自己の性欲を刺激興奮させ又は満足させようと意図しているのであるから,被告人が性的意図を有していたことは明白であり,仮に,原判決のいう上記意図が,故意及び性的意図以外の主観的要素をいうのであれば,その説示するところの見方によっては,準強制わいせつ罪が心神喪失又は抗拒不能であることに乗じて行う犯罪類型であることと相容れない内容さえ含むものであり,到底受け入れることはできない。
精液付着の裁判例は面前の事案です。
【文献番号】25561976
奈良地方裁判所平成30年12月25日刑事部判決
理 由
(罪となるべき事実)
被告人は,平成30年6月5日午前6時37分頃から同日午前7時12分頃までの間に,京都府■番地所在の■鉄道株式会社■駅から奈良市■番地の×所在の同社■駅までの間を走行中の電車内において,乗客のY(当時23歳)が睡眠中のため抗拒不能の状態にあるのに乗じ,自己の陰茎を露出して手淫し,同人に向けて射精して自己の精液を同人の着衣に付着させ,もって人の抗拒不能に乗じてわいせつな行為をするとともに,同人が着用していた同人所有の黒色ジャケット(損害額約1万円相当)を汚損して他人の物を損壊した。
(証拠の標目)《略》
(争点に対する判断)
1 弁護人は,被告人が行った客観的な行為は争わないものの,(1)被告人は精液を被害者の衣服に付着させる認識・認容がなかったので,準強制わいせつ及び器物損壊の故意がなかった,(2)仮にそれらの故意があったとしても,被告人の行為は準強制わいせつ罪の実行行為に該当しない旨を主張する。
2 関係証拠によれば,被告人は,電車内の座席の端に座って眠っていた被害者のすぐ横に立ち,被害者の方に身体の正面を向けた上で,陰茎を露出し,左手で陰茎をしごいて自慰行為を行って射精し,射出した精液が被害者の上着の右袖上腕部に付着したこと,射精した時,被告人と被害者の距離は約15センチメートルであったこと(甲6写真第6号),被告人は射精前に自慰行為を中断することは考えず自慰行為を続け,射精直前に精液が被害者の着衣に付着しないように左手を陰茎の前に差し出したが,この行為を除き,射精前に自慰行為をやめたり身体や陰茎を被害者以外の方向に向けたりするなど,精液が被害者の着衣に付着することを防ぐ方策をとらなかったことが認められる。
関係証拠をみても,被告人が被害者の着衣に精液を付着させる意欲又は意図を持っていたとは認められない。しかし,精液は陰茎が向いている方向に射出されることに加え,射精のタイミング,射出される精液の量又は精液の飛散する範囲等を十分に制御することは困難であることを踏まえると,射精時の被告人と被害者との位置関係など前段で述べた状況下においては,射出した精液が被害者の着衣に付着する可能性が極めて高かったことは客観的にみて明らかであった。たしかに,被告人は射精直前に精液が被害者の着衣に付着しないように左手を陰茎の前に差出した。しかし,この行為は,コンドームで陰茎の先を完全に覆うなどの措置とは異なり,射出する精液が被害者の着衣に付着する可能性を失わせる程度の措置ではなく,この行為によってその可能性がなくなったと認識するとは考え難い。被告人は,自慰行為に夢中で,自慰行為の最中被害者の着衣に精液を付着させようとも付着させまいとも思っていなかったと述べる。仮にこの供述が真実であったとしても,射出した精液が被害者の着衣に付着する可能性が極めて高かったことは客観的にみて明らかであったことに照らせば,自慰行為の結果射精し,精液が被害者の着衣に付着する可能性を認識していなかったとは到底考え難い。したがって,自慰行為を始めてから射精するまでの間,被告人が自慰行為の結果射精し,精液が被害者の着衣に付着する可能性を認識していたと認められる。
3 準強制わいせつ罪が成立するためには,わいせつな行為が特定の相手方に対して行われることが必要である。陰茎が被害者の方を向き,かつ,陰茎と被害者が極めて近い距離にあったことに加え,被告人はコンドームで陰茎の先を完全に覆うなど射出する精液が被害者の着衣に付着する可能性を失わせる程度の措置をとることなく自慰行為に及んで射精したので,電車内であったことを考慮しても,被告人の行為は被害者という特定の相手方に向けられたわいせつ行為であるといえる。したがって,被告人の行為は準強制わいせつ罪の実行行為に該当する。
4 前述のとおり,自慰行為を始めてから射精するまでの間,被告人が,自慰行為の結果射精し,精液が被害者の着衣に付着する可能性を認識しており,その上で自慰行為に及んだと認められる。そして,被告人の行為がわいせつ行為に該当すること,全く面識のない被告人の精液が付着すると被害者の着衣の効用が害されることはいずれも明らかである。また,被告人は被害者が寝ていることを認識した上で,被害者が寝ているからこそ被害者のすぐ横に立ち被害者の方を向いて自慰行為に及んだので,被害者の抗拒不能に乗じたことも明らかである。したがって,被告人は少なくとも準強制わいせつ罪及び器物損壊罪の未必の故意を有していたと認められる。
平成30年12月25日
奈良地方裁判所刑事部
裁判官 中山登
札幌高裁r6.3.5は、「被告人と通話をしながら、被告人の要求に応じ、陰部
及び乳房等を露出させる姿態を撮影したことが認められ、本件では被告人の要
求行為とBの撮影行為との間に時間的間隔があるものではないし、犯人が被害
者の面前にいない状態で、被害者に要求し、わいせつ行為をさせることは、被
害者の身体を性的対象として利用することが可能となる状態を作出する等する
点において犯人の面前における行為と変わりはなく、」として、同時性・面前
性を前提にした理由を付けています。
札幌高等裁判所令和6年3月5日
令和5年(う)第164号2法令適用の誤りの論旨について
(1)原判決の概要
ア原審において、原審弁護人(当審弁護人と同一である。)が事実関係は争わ
ないとしつつ、以下のとおり、法律上の主張をした。
すなわち、原判示第1の事実について、Bに陰部及び乳房等を露出させる姿態
をスマートフオンで撮影させた行為は、令和5年法律第66号による改正前の
刑法(以下同じ。)176条前段の「わいせつな行為」に当たらないから、被告
人は無罪であり、同第2の事実について、Aに陰部及び乳房等を露出させる姿
態をとらせた行為には、Aにその姿態を撮影させた行為も含まれるところ、撮
影させた行為は「わいせつな行為」には当たらないから無罪である、というの
である。
イこれに対し、原判決は、概要以下のとおり説示し、前記のとおりの各事実を
認め、被告人にはA及びBに対し、いずれも準強制わいせつ罪が成立するとし
た。
(ア)原判示第1の事実について女児であるBと面識のない当時63歳の男性の
被告人が、Bが通う学校での尿検査を担当した健康センターの者ではないの
に、健康センターの者であるという虚偽の事実を述べ、さらに、性病の診察と
いう目的を偽りBの陰部や乳房という、性器そのものや性的意味合いを有する
部位を、Bに指示して衣類を脱がせて露出させ、撮影させていることが認めら
れる。
被告人の行為は、BにBの衣類を脱がせて陰部等を露出させ撮影させた行為と
いう限度で捉えたとしても、Bの身体を性的対象として利用することが可能と
なる状態を作出した上で、B以外の者が、Bの姿態を認識することが可能な状
態を15作出するものといえ、その行為自体性的性質を有していると評価でき
ることに加え、被告人の行為時の前記のような具体的事情を踏まえると、被告
人の行為は、Bに陰部や乳房を露出させ性的な姿態をとらせ、その姿態を撮影
させることのみを目的としていたことは明らかであり、まさにBの身体を性的
対象として利用するものであるといえ、その行為が性的意味合いを強く有する
ことは明らかである。
被告人は、遠隔地から電話によりBに指示をしており、Bの身体に直接接触す
る等しておらず、また、Bが陰部等を露出しその撮影をしている際に、その状
況を直接視認していたものでもないことからすれば、被害者の性的自由の侵害
の程度は、それらの事情がある事案と比較すれば、低い部類に属するとはいえ
るものの、性的性質が否定されるものではない。
そして、本件は、準強制わいせつ罪の事案であるところ、Bに診察行為である
と誤信させて性的な姿態をとらせ、その姿態を撮影させることは、まさに被害
者を心理的抗拒不能の状態にしてその性的自由を侵害するものであり、準強制
わいせつ罪としての当罰性を有するものといえる。
したがって、被告人の行為は、刑法176条前段の「わいせつな行為」に当た
る。
5これに対し、原審弁護人は、犯人が被害者の面前にいない状態でした行為が
「わいせつな行為」に当たるというためには、規範的にみて犯人が被害者の面
前にいるといえなければならないところ、本件では、被告人がBに陰部及び乳
房等を露出させる姿態をスマートフォンで撮影するよう要求する行為とBがそ
の姿態を撮影した行為との間には時間的間隔があり、規範的にみて被告人がB
の面前にいるとはいえないから、被告人の行為は「わいせつな行為」に当たら
ないと主張しているものと思われるが、Bは、被告人と通話をしながら、被告
人の要求に応じ、陰部及び乳房等を露出させる姿態を撮影したことが認めら
れ、本件では被告人の要求行為とBの撮影行為との間に時間的間隔があるもの
ではないし、犯人が被害者の面前にいない状態で、被害者に要求し、わいせつ
行為をさせることは、被害者の身体を性的対象として利用することが可能とな
る状態を作出する等する点において犯人の面前における行為と変わりはなく、
被害者の性的自由を侵害する行為であるといえるから、被害者の面前にいない
状態であるからといって「わいせつな行為」に該当することが否定されるもの
ではない。
なお、原判示第1に係る公訴事実は、Bに陰部及び乳房等を露出させる姿態を
とらせ、その姿態をスマートフオンで撮影させ、同撮影画像を被告人に見せる
よう要求し、その写真を写真共有アプリケーションソフトにアップロードさ
せ、もって人の抗拒不能に乗じてわいせつな行為をしたというものであった
が、上記のとおり、BにBの姿態をスマートフォンで撮影させた行為は、それ
のみで「わいせつな行為」に当たるものであり、撮影行為にとどまらず、写真
を写真共有アプリケーションソフトにアップロードさせる行為は、準強制わい
せつ罪の成立に当たり必要不可欠な行為とまではいえないから、原判示のとお
り認定した。