18歳未満の者を現に監護する者の身分のない者が、監護者と共謀して、監護者であることによる影響力があることに乗じて当該18歳未満の者に対し性交等をした場合における監護者性交等罪(令和5年法律第66号による改正前の刑法179条2項)の共同正犯の成否(最決r07.1.27)の上告理由
上告理由
上告理由第1(法令違反~非身分者である被告人が被害者と性交した場合は、監護者性交罪の共同正犯は成立しない。(判示第2)) 4
第1 弁護人の主張 4
1 原判決は非身分者に監護者性交罪の共同正犯を認めたこと 4
2 監護者性交罪が存在しない場合の罪責 5
①島根県青少年の健全な育成に関する条例違反 5
②準強制性交罪 5
③児童淫行罪(児童福祉法違反) 7
④小括 11
3 非監護者が監護者と共謀して被監護者と性交した場合は、監護者性交罪の共同正犯にはならないこと(松宮意見書) 12
(1)松宮意見書(原審弁1) 12
(2)「加功したとき(65条1項)」に共同正犯は含まない 20
松宮刑法総論講義第5版補訂版p299 20
(3)沿革上、65条1項制定時点では「加功したとき(65条1項)」に共同正犯は含まないと説明されていた 20
4 監護者性交罪は主体を厳しく限定していること 21
今井ら刑法の一部を改正する法律について法曹時報69巻11号 21
5 監護者性交罪は2者関係を想定しているという文献 23
①樋口亮介「性犯罪規定の改正」 23
②森川恭剛「性暴力の罪の行為の類型」2017 27
③品田智史「監護者性交等罪の検討」刑事法ジャーナル55号(2018年)10頁~ 29
6 法制審議会の議論でも始終監護者自身が被害者と性交することを予定していること 30
法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会第5回会議議事録 31
法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会第3回会議議事録 32
法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会第3回会議議事録 32
法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会第7 回会議議事録 p7 34
7 「乗じて」という要件は、「利用して」を改めたものであって、監護者であれば即影響力があるような強い関係性を要求した要件であって、監護者であるけれど、影響力が遮断されることは通常ないと説明されている。 37
今井ら刑法の一部を改正する法律について法曹時報69巻11号 37
法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会第5回会議議事録 40
監護者の交際相手が、監護者の協力を得てその実子と性交した事案につき、同交際相手に刑法65条1項を適用して、監護者性交等罪(令和5年法律第髄号による改正前の179条2項、177条前段)の身分なき共犯の成立を認めた事案)(松江地方裁判所令和5年9月27日判決・一部確定)研修907号 42
8 裁判例 44
①千葉地裁r3.5.28*23 44
②福岡地裁h30.1.24*24 45
③福岡地裁r1.11.15*25 46
9 その他65条1項の適用を否定する学説 46
①松原芳博「身分犯の共犯をめぐる諸問題」研修904号*26 47
② 深町晋也「家庭内における児童に対する性的虐待の刑法的規律-監護者性交等・わいせつ罪(刑法179 条)を中心に」立教法学97号 47
③「身分無き故意ある道具」による説明 48
髙橋則夫「刑法総論5版」p466 48
④準強制性交罪が成立する場合には、監護者性交罪は成立しないとするもの 48
高橋則夫「刑法各論 第3版」p143 49
10 まとめ 49
第2 原判決の問題点 50
1 非監護者が監護者と共謀して被監護者と性交した場合は、監護者性交罪の共同正犯にはならない(松宮意見書 原審弁1) 50
(2)「加功したとき(65条1項)」に共同正犯は含まない 59
松宮刑法総論講義第5版補訂版p299 59
(3)沿革を振り返っても、65条1項制定時点では「加功したとき(65条1項)」に共同正犯は含まないと説明されていた 59
(4)65条1項を適用した大審院判例は、いずれも身分者にも実行行為(収賄)が認められる事案であった。 60
(5)小括 61
2 原判決の理由付けは希薄で、共犯として処罰される範囲が広すぎる 61
②森川恭剛「性暴力の罪の行為の類型」2017 62
3 原判決が根拠にする法律解説も法制審議会の議論がなく根拠がないこと 64
法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会第7 回会議議事録 p7 65
4 原判決は、監護者性交罪につき、「監護者自身が性交する罪」だと言いながら、「身分がない者も共同正犯となる」としていて、自己矛盾となっている。 67
5 原判決が被告人の積極的関与を強調する点 69
監護者の交際相手が、監護者の協力を得てその実子と性交した事案につき、同交際相手に刑法65条1項を適用して、監護者性交等罪(令和5年法律第髄号による改正前の179条2項、177条前段)の身分なき共犯の成立を認めた事案)(松江地方裁判所令和5年9月27日判決・一部確定)研修907号 70
6 児童淫行罪との比較 73
池本壽美子:横浜地家裁相模原支部判事 児童の性的虐待と刑事法 判例タイムズ1081号 72頁 73
7 監護者が性交していない場合には、監護者が性交したことにはならない 73
8 主体が限定されている点 74
森川恭剛「性暴力の罪の行為の類型」2017 74
9 法制審議会の議論でも始終監護者自身が被害者と性交することを予定している 76
法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会第5回会議議事録 77
法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会第3回会議議事録 78
法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会第3回会議議事録 78
法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会第7 回会議議事録 p7 80
10 松宮孝明「監護者でない者が被非監護者と性交した行為に監護者性交等罪を認めた原判決を是認した事例」 82
上告理由第2 量刑不当 91
1 原判決 91
2 監護者の量刑との不公平 92
3 児童淫行罪・監護者性交罪の科刑状況 92
4 まとめ 98
tkc
《書 誌》
提供 TKC
【文献番号】 25621841
【文献種別】 決定/最高裁判所第一小法廷(上告審)
【裁判年月日】 令和 7年 1月27日
【事件番号】 令和6年(あ)第753号
【審級関係】 第一審 25596133
松江地方裁判所 令和5年(わ)第32号
令和 5年 9月27日 判決
控訴審 25620060
広島高等裁判所松江支部 令和5年(う)第38号
令和 6年 5月31日 判決
【判示事項】 〔裁判所ウェブサイト〕
18歳未満の者を現に監護する者の身分のない者が、監護者と共謀して、監護者であることによる影響力があることに乗じて当該18歳未満の者に対し性交等をした場合における監護者性交等罪(令和5年法律第66号による改正前の刑法179条2項)の共同正犯の成否
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=93744
文献番号】25621841最高裁判所第一小法廷令和6年(あ)第753号
令和7年1月27日決定
決 定
上記の者に対する監護者性交等、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件について,令和6年5月31日広島高等裁判所松江支部が言い渡した判決に対し、被告人から上告の申立てがあったので、当裁判所は、次のとおり決定する。
主 文
本件上告を棄却する。
当審における未決勾留日数中110日を本刑に算入する。
理 由
弁護人奥村徹の上告趣意は、単なる法令違反、量刑不当の主張であって、刑訴法405条の上告理由に当たらない。
なお、18歳未満の者を現に監護する者(以下「監護者」という。)の身分のない者が、監護者と共謀して、監護者であることによる影響力があることに乗じて当該18歳未満の者に対し性交等をした場合、監護者の身分のない者には刑法65条1項の適用により監護者性交等罪(令和5年法律第66号による改正前の刑法179条2項)の共同正犯が成立すると解するのが相当である。被告人は、当時16歳であった本件児童の監護者ではないが、監護者である同児童の実母と意思を通じ、被告人との性交に応じるよう同実母から説得等された同児童と性交をしたというのであるから、被告人に監護者性交等罪の共同正犯が成立することは明らかである。
よって、刑訴法414条、386条1項3号、刑法21条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
令和7年1月27日
最高裁判所第一小法廷
裁判長裁判官 堺徹 裁判官 安浪亮介 裁判官 岡正晶 裁判官 宮川美津子 裁判官 中村愼
【判例番号】 L07920333
監護者性交等、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件
【事件番号】 広島高等裁判所松江支部判決/令和5年(う)第38号
【判決日付】 令和6年5月31日
【掲載誌】 LLI/DB 判例秘書登載主 文
本件控訴を棄却する。
当審における未決勾留日数中180日を原判決の刑に算入する。理 由
本件控訴の趣意は、弁護人C作成の控訴趣意書、令和6年2月22日付け及び同年4月15日付け控訴趣意補充書に記載のとおりであり、論旨は、①法令適用の誤り、②量刑不当をいうものである。これに対する答弁は、検察官D作成の答弁書に記載のとおりである。
第1 法令適用の誤りの主張について
1 監護者性交等罪の共同正犯の成否について
所論は、原判決は、刑法65条1項を適用して、被告人に監護者性交等罪の共同正犯を認めているが、非身分者である被告人が被害者と性交した場合は、監護者性交等罪の共同正犯は成立しないと主張する。そこで、記録を調査し、検討する。
(1)原判決について
ア 原判決は、罪となるべき事実として、要旨、次のとおり認定している(以下、関係者の呼称や略語は原判決の例による。なお、原審においては、被告人とAが共同被告人として併合審理されていた。以下、原審の被告人Aについては単に「A」といい、被告人及びAを併せて称する際には、「被告人両名」という。)。
第1 被告人両名は、共謀の上、Aの長女であるBが18歳に満たない児童であることを知りながら、令和2年6月30日から令和4年12月15日までの間、29回にわたり、A方等において、Bにその乳房又は陰部を露出した姿態をとらせ、Aが、これらをスマートフォンで撮影した上、各静止画データ合計29点を、スマートフォン内蔵記録装置に記録させて保存し、児童ポルノを製造した。
第2 Aは、長女であるB(当時16歳)と同居してその寝食の世話をし、その指導・監督をするなどして、同人を現に監護する者、被告人は、Aの交際相手であるが、被告人両名は、共謀の上、Bが18歳未満の者であることを知りながら、被告人がBと性交をすることを企て、令和5年1月2日から同月4日までの間、A方において、AがBを現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて、被告人がBと性交した。
第3 被告人は、自己の性的好奇心を満たす目的で、令和5年1月13日、A方において、静止画データ66点を記録した児童ポルノである携帯電話機1台を所持した。
イ 原判決は、法令の適用において、判示第2の行為につき、刑法65条1項、60条、令和5年法律第66号による改正前の刑法179条2項、177条前段(監護者性交等罪)に該当するとした。その理由として、原判決は次のとおり説示している。関係証拠に照らせば、被告人は、Bの監護者ではないものの、監護者(実母)であるAに対し、被告人との性交に応じさせるためのBの説得等を要求するなどし、それに応じたAがBの説得等を行うなどしたことにより、Aと共謀の上でBとの性交を実現した事実経過が認められる。このように、本件事案は、被告人が、客観的に、AがBを現に監護する者であることによる影響力があることに乗じてBと性交をしたもので、前記働きかけに当たって監護者の影響力を認識してこれを利用する意思であったことも明らかであるから、被告人について、刑法65条1項を適用した。
(2)当裁判所の判断について
ア 監護者性交等罪が設けられた趣旨は、一般的に、18歳未満の者は、精神的に未熟である上、生活全般にわたって自己を監護し保護している監護者に精神的・経済的に依存しているところ、監護者が、そのような依存・被依存ないし保護・被保護の関係により生ずる監護者であることによる影響力があることに乗じて、18歳未満の者に対し、性交等をすることは、18歳未満の者がそれに応じたとしても、自由な意思決定に基づくものとはいえず、改正前の強制性交等罪と同じく、その者の性的自由ないし性的自己決定権を侵害するといえるからである。そして、監護者性交等罪の主体は、18歳未満の者を現に監護する者という一定の身分を有する者に限られているから、本罪は身分犯であるが、身分のない者であっても、身分のある者と共謀し、現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて、自ら18歳未満の者と性交等をした場合には、その性交等は、18歳未満の者の自由な意思決定に基づくものとはいえず、その性的自由ないし性的自己決定権を侵害するといえるから、刑法65条1項により、監護者性交等罪の共同正犯が成立すると解すべきである。
イ これを本件についてみると、証拠によれば、①被告人は、平成28年6月頃、Aと交際を始めたが、Aの娘である当時小学4年生であったBの成長を見ているうちに、次第にBの裸の胸の写真を見たいと思うようになり、平成31年1月頃までには、Aに対し、Bの胸の写真を送って欲しいと依頼するようになったこと、Aは、被告人をつなぎとめたい一心で、嫌がるBを説得して裸の胸の写真を撮り、被告人に送っていたこと、②被告人は、Bと性交をしたいという欲求が次第に強まり、令和元年9月7日頃には、Aに対し、Bと性交をしたいというメッセージを送るようになったが、Aは、Bが嫌がるなどと考え、Bにはそのことを伝えなかったこと、③被告人は、令和2年頃から、直接Bに対して性交をしようと誘うようになったこと、Aは、Bが被告人との性交を嫌がっていたことから、被告人に対して断り続けていたが、次第に、被告人は、Bとの性交を執拗に求めるようになっていったこと、④被告人は、Bが高校1年生になった令和4年4月以降も、直接Bに対して性交をしようと誘い続ける一方、Aに対しても、Bと性交ができるように、AからもBを強く説得して欲しいなどと依頼していたこと、⑤Aは、被告人のことが好きで、被告人との関係をつなぎとめて、いつかは結婚したいという思いから、Bが被告人と性交をするしかないと考えるようになり、令和4年6月1日頃、被告人と性交をするようBを説得したこと、⑥その後、被告人とAは、被告人がBと性交をするための方策について話し合い、Aは、嫌がるBに対し、脅すようなことを言うなどして、被告人との性交を納得させるなどし、被告人がBと性交できるようAが実家に帰っている間や、Aが風呂に入っている間を利用して、被告人はBと性交をするようになり、本件性交もそのような状況下で行われたことが認められる。
上記認定事実によれば、被告人は、Bを現に監護する者であるAと共謀し、現に監護する者であることによる影響力があることに乗じてBと性交をしたと認められるから、被告人に対し、刑法65条1項により、監護者性交等罪の共同正犯の成立を認めた原判決に誤りはない。
(3)所論は、①監護者性交等罪の法定刑が児童福祉法34条1項6号違反の法定刑よりもはるかに重いのは、監護者自身がその影響力に乗じて被監護者を性欲の対象として扱う行為を重大な犯罪と考えたからであり、本件では、性交をしたのは非監護者であるから、その卑劣さは、監護者自身が被監護者と性交等した場合と同じとは到底いえない、②刑法65条1項の「共犯」には「共同正犯」が含まれるとしても、監護者が性交していない場合には、監護者が性交したことにはならないから、監護者性交等罪は成立しない、③監護者性交等罪は主体を厳しく限定しており、「18歳未満の者の意思決定はそもそも精神的に未熟で判断能力に乏しい18歳未満の者に対して監護者の影響力が作用してなされたものであり、自由な意思決定ということはできないと考えられることに着目して新設するもの」という立法趣旨に照らすと、共犯として加功する者も限定される、④法制審議会の議論でも始終監護者自身が被害者と性交することを予定しているなどと主張する。
しかしながら、①については、前記(2)アにおいて認定・説示した監護者性交等罪の立法趣旨と整合しない。②については、前判示のとおり、身分のない非監護者であっても、身分のある監護者と共謀し、現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて18歳未満の者と性交等をした場合には、監護者自身が被監護者と性交等した場合と同じように18歳未満の者の性的自由ないし性的自己決定権を侵害することができるから、所論はいずれも採用できない。③については、上記のような立法趣旨から共犯として加功する者が限定されるとする根拠が不明である。④についても、監護者自身が被監護者である18歳未満の者と性交等をする場合が基本的な類型であるから、この類型を前提に議論がされるのは当然であって、身分のない者が性交等をした場合に刑法65条1項の適用が否定されることの理由にはならない。その余の所論を踏まえても、前記判断は左右されない。
論旨は理由がない。