児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

被害児童1名に対するわいせつ略取,身の代金略取,拐取者身の代金要求,逮捕監禁,強制わいせつ,児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件につき、製造罪だけを併合罪としたもの(横浜地裁r03.03.17)

被害児童1名に対するわいせつ略取,身の代金略取,拐取者身の代金要求,逮捕監禁,強制わいせつ,児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件につき、製造罪だけを併合罪としたもの(横浜地裁r03.03.17)

撮影もわいせつ行為ですから、「本件は,被告人が,身の代金を獲得するとともに,強いてわいせつな行為をする目的で,女子高校生である被害児童を略取し,自動車内やホテルで逮捕監禁した上,その両親に2000万円の身の代金を要求し,ホテル内で被害児童にSM行為を中心とするわいせつ行為に及び(判示第1),さらにその姿態を写真及び動画として撮影して保存した(同第2)という身の代金略取,わいせつ略取,逮捕監禁,拐取者身の代金要求,強制わいせつ,児童ポルノ製造の事案である。」とまとめるのであれば、わいせつ略取と製造罪も牽連犯になるんじゃないでしょうか。裁判例(山口地裁等)があります。


      

わいせつ略取,身の代金略取,拐取者身の代金要求,逮捕監禁,強制わいせつ,児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件
横浜地方裁判所判決令和3年3月17日
※ 以下,AからCまでは,それぞれ別紙の(1)記載の氏名の者を表す。
(罪となるべき事実)
 被告人は,
第1 A(当時16歳)を略取し,監禁して,その安否を憂慮する近親者からその憂慮に乗じて金銭を交付させるとともに,強いてわいせつな行為をしようと考え,
 1 令和元年6月24日午後6時頃,神奈川県藤沢市内の駐車場先歩道上(詳細は別紙の(2)記載のとおり)において,徒歩で通行中のAに対し,いきなり背後からその身体に腕を回し,「おとなしくしないと,殺すぞ。」などと言って脅迫し,同人を,上記駐車場に停車中の自動車まで引きずった上,同車の後部座席に押し込み,同車内において,その両手に後ろ手で手錠を掛け,その両足等をロープで緊縛するなどし,もって上記の目的で同人を略取した上,その頃から同日午後9時27分頃までの間,同所から同県厚木市内のホテル(詳細は別紙の(3)記載のとおり)まで,Aを前同様に緊縛するなどした状態のまま,同車を疾走させるなどして,同車内から脱出することを著しく困難にし,さらにその頃,同所において,同人を同所に駐車した同車内から同ホテル客室内に連行し,その頃から同月25日午前10時5分頃までの間,同客室内において,同人を監視下に置いて同客室内から脱出することを著しく困難にし,もって同人を不法に逮捕監禁し,
 2 その間の同月24日午後6時40分頃,同県藤沢市内の路上(詳細は別紙の(4)記載のとおり)に停車中の上記車内において,Aに,その実母であるB(当時39歳)に対し,電話で,「知らないおじさんに連れ去られた。2000万円用意してください。」などと言わせ,被告人が,Aの実父であるC(当時41歳)に対し,電話で,「デカにもサツにも言わずになあ。2000万円用意せえ。」などと言って身の代金の支払を要求し,もってAの近親者であるBらの憂慮に乗じて財物を要求する行為をし,
 3 上記1の間の同日午後9時27分頃から同月25日午前10時5分頃までの間に,上記客室内において,Aの陰部に手指を挿入するなどし,もって強いてわいせつな行為をした,
第2 Aが18歳に満たない児童であると認識しながら,同月24日午後9時27分頃から同月25日午前10時5分頃までの間に,上記客室内において,同人に,被告人がAの陰部等を手指で触る姿態及び同人の陰部等を露出させる姿態等をとらせ,これを被告人が使用するデジタルカメラで動画及び静止画として撮影し,その頃,同所において,上記動画データ1点及び上記静止画データ87点を被告人が使用するパーソナルコンピュータ内蔵の電磁的記録媒体である記録装置に記録して保存し,もって他人が児童の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの及び衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写した児童ポルノを製造した。
(証拠の標目)
(事実認定の補足説明)
第1 争点
 公判審理を経た上での本件の争点は,判示第1について,被告人が略取時にAに対して「殺すぞ。」と言って脅迫したかどうかであり,これに関連して,被告人が略取後にもAに対してその生命,身体を直接脅かすような脅迫をしたかどうかも争われた。また,判示第2について,被告人が,本件児童ポルノに係る動画(以下「本件動画」という。)を故意に撮影したかどうかも争われた(ただし,弁護人は,被告人が児童ポルノに当たる動画と分かって記録媒体に保存している以上,児童ポルノ製造罪が成立すること自体は争わないとした。)。
 そこで,以下,これらの点に関する当裁判所の判断を詳述する。
・・・・・
第3 判示第2の争点について
 1 本件動画が児童ポルノに該当すること,被告人が,そのことを認識しつつ,本件動画データをそれが保存されていた判示のデジタルカメラ(以下単に「カメラ」という。)の記録媒体から判示のパソコン内蔵の記録媒体に保存したことにも争いはないが,被告人は,当公判廷において,本件動画は,意図して撮影したものではなく,カメラの誤操作によって撮影された旨述べた。この供述は,児童ポルノ製造罪の「記録媒体・・・に描写する」という要件,すなわち,児童ポルノの製造過程における故意の一部を争ったものとも解されるので,検討する。
 2 まず,本件動画の映像を見ると,胸や陰部等が露出された状態で寝ているAを,顔付近から陰部付近までゆっくり往復するように撮影されており,Aが画角から外れたり,映像が特段乱れたりはしていない。また,本件動画には,被告人の頭,手,手に持ったカメラ等の影が映り込んでおり,その影からは,被告人が,両手でカメラを持って水平方向に移動させ,途中からは,カメラ右下に付いているストラップと思しきものを,画角に入らないようにするかのように,左手でつかんで持ち,右手のみでカメラを持って動かし続けた様子が認められる。また,本件動画の撮影時間は約36秒であり,被告人が最終的にカメラを操作して撮影を止めたものと認められる。なお,カメラによる動画撮影は,静止画を撮影する際のシャッターではなく,カメラを構えた際の撮影者側の面の右上部にあるボタン(以下「動画ボタン」ともいう。)を押すと開始し,もう一度押すと終了する。同ボタンの左斜め上に小さなビデオ撮影のマークが付いている。
 3 上記のような本件動画が,仮に被告人が意図しないのに撮影されたものであるとすると,想定し得るのは,写真の構図を決めようとしてカメラを移動させている際に何らかの理由により誤って動画ボタンを押したため,動画撮影が開始されていたという経過くらいしか考えられない。しかし,そうならば,被告人が動画の撮影に気付いて撮影を止める際に,慌てて止めようとして映像が乱れるはずであるが,本件動画にはそのような映像の乱れは見受けられず,最後まで大きくぶれることなくAが画角に入り続けている。また,被告人が写真の構図を決めようとしていたならば,途中でカメラを静止させることがあってしかるべきであるが,そのような様子も見受けられないし,ストラップが画面に入って邪魔に思っても,一旦カメラを持つ手を下げて持ち直せばよいのに,被告人は,ストラップを左手でつかんで画面に入らないようにしつつ,右手のみで持ったカメラを移動させ続けている。これらの事情に照らすと,本件動画の撮影がどのような経緯で開始されたかはともかく,本件動画の相当部分は,被告人が動画を撮影していることを認識し,故意に撮影を継続したものとしか考えられない。なお,被告人は,Aの写真を多数枚撮影して保存する一方,動画は1点しか撮影,保存していないが,それには種々の理由が想定できるから,そのことが被告人が本件動画を終始意図せずに撮影したとの合理的な疑いを抱かせるとまではいえない。
 4 改めて,この点に関する被告人の供述について検討すると,被告人は,当公判廷において,カメラの動画ボタンを意図的に押したことはなく,動画が撮影されていることに気が付いたところで,撮影を止めようとしてボタンをいろいろ押した,動画は止まったが,カメラを振り回したりもしたので,映像は乱れていると思う旨供述した。被告人は,これまでカメラで動画を撮影したことは一度もないとも述べており,被告人のパソコンに保存された性的内容のファイルにも動画のものが見当たらないことも考えると,確かに,被告人が動画撮影のために意図的に動画ボタンを押したと断ずるには疑問の余地がある。しかし,一方で,被告人の上記供述内容は,既に認定した本件動画の内容と整合しておらず,その点で信用性は大きく損なわれており,上述のとおり被告人の性格傾向等による影響がうかがわれることなども踏まえると,少なくとも動画撮影を止める寸前まで撮影していることに気付かなかった旨の被告人の供述は,信用できない。
 5 以上によれば,少なくとも本件動画の相当部分は,被告人が動画が撮影されていることを認識しつつ撮影したものといえるから,被告人は,本件動画を故意に撮影したものと認めるのを妨げず,もとより児童ポルノ製造に係る上記要件を満たすことにも疑問の余地はない。
(法令の適用)
 被告人の判示第1の所為のうち,1のわいせつ略取の点は刑法225条に,同身の代金略取の点は同法225条の2第1項に,同逮捕監禁の点は包括して同法220条に,2の拐取者身の代金要求の点は同法225条の2第2項,1項に,3の強制わいせつの点は同法176条前段に,判示第2の所為は包括して児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律第7条4項,2項,2条3項2号,3号にそれぞれ該当するが,判示第1のわいせつ略取と身の代金略取と逮捕監禁は1個の行為が3個の罪名に触れる場合であり,わいせつ略取と強制わいせつとの間及び身の代金略取と拐取者身の代金要求との間には,それぞれ手段結果の関係があるので,刑法54条1項前段,後段,10条により結局以上を1罪として刑及び犯情の最も重い拐取者身の代金要求罪の刑で処断し,各所定刑中判示第1の罪については有期懲役刑を,判示第2の罪については懲役刑をそれぞれ選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により重い判示第1の罪の刑に同法47条ただし書の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で,被告人を懲役13年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中380日をその刑に算入し,訴訟費用は,刑訴法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。

(量刑の理由)
1 本件は,被告人が,身の代金を獲得するとともに,強いてわいせつな行為をする目的で,女子高校生である被害児童を略取し,自動車内やホテルで逮捕監禁した上,その両親に2000万円の身の代金を要求し,ホテル内で被害児童にSM行為を中心とするわいせつ行為に及び(判示第1),さらにその姿態を写真及び動画として撮影して保存した(同第2)という身の代金略取,わいせつ略取,逮捕監禁,拐取者身の代金要求,強制わいせつ,児童ポルノ製造の事案である。

 令和3年3月26日
    横浜地方裁判所第3刑事部
        裁判長裁判官  景山太郎
           裁判官  渡邉史朗
           裁判官  鈴木新星