児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

強制わいせつ罪(176条後段)と製造罪を観念的競合とするもの(大分地裁r05.02.20)

 高裁レベルでは併合罪説が主流なので、高裁判例を並べれば単一性を欠くということになります。

判例番号】 L07850237
       強制わいせつ、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反、大分県迷惑行為防止条例違反被告事件
【事件番号】 大分地方裁判所判決/令和4年(わ)第308号、令和4年(わ)第323号、令和4年(わ)第345号
【判決日付】 令和5年2月20日
【掲載誌】  LLI/DB 判例秘書登載

       主   文
       理   由
(罪となるべき事実)
 被告人は、
第1 Cが13歳未満であることを知りながら、同人にわいせつな行為をしようと考え、平成31年2月27日午後1時19分頃、大分県内のこども園において、就寝中の同人の下着を手指でずらして陰部を露出させた上、陰部を手指で弄び、もって13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした。
第2 Aが13歳未満の児童であることを知りながら、同人にわいせつな行為をしようと考え、令和2年5月7日午後2時頃、前記こども園において、就寝中の同人の下着を手指でずらして陰部を露出した姿態をとらせ、その姿態を所携のデジタルカメラで動画撮影し、その動画データを同デジタルカメラに装着したSDカードに記録させて保存し、もって13歳未満の者に対し、わいせつな行為をするとともに、衣服の一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録に係る記録媒体である児童ポルノを製造した。
第3 令和4年6月中旬頃、前記こども園備品庫において、Bに対し、同人の背後から所携のデジタルカメラで同人の下着を撮影し、もって不特定又は多数の者が利用するような場所において、正当な理由がないのに、人を著しく羞恥させ、かつ、人に不安を覚えさせるような方法で、衣服等で覆われている人の下着等を撮影した。
第4 別表記載のとおり、自己の性的好奇心を満たす目的で、同年10月11日、当時の被告人方(別紙1参照)において、他人が児童の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの及び衣服の一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録である動画データあるいは静止画データを記録した児童ポルノであるSDカード等合計13点を所持した。
(証拠の標目)
(法令の適用)
罰条
 判示第1の所為     刑法176条後段
 判示第2の所為のうち
  陰部を露出した姿態をとらせ、その姿態を動画撮影した強制わいせつの点
             刑法176条後段
  陰部を露出した姿態をとらせ、その姿態を動画撮影し、その動画データをSDカードに記録させて保存した児童ポルノ製造の点
             児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条4項、2項、2条3項3号
 判示第3の所為     大分県迷惑行為防止条例11条1項、3条2項、1項2号
 判示第4の所為     包括して児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条1項前段、2条3項2号、3号
科刑上一罪の処理
 判示第2        刑法54条1項前段、10条(判示第2の強制わいせつ罪におけるわいせつ行為はもっぱら撮影行為自体であるから、1個の行為が2個の罪名に触れる場合と認められ、1罪として重い強制わいせつ罪の刑で処断)
刑種の選択
 判示第3及び第4の各罪 いずれも懲役刑
併合罪の処理       刑法45条前段、47条本文、10条(刑及び犯情の最も重い判示第1の罪の刑に法定の加重)
未決勾留日数の算入    刑法21条
訴訟費用の不負担     刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
 被告人は、保育教諭として勤務する傍ら、同僚の目を盗み、性欲の赴くまま、就寝中で無抵抗の園児の陰部を露出させた上で陰部を手指で弄んだり(判示第1)、撮影したり(判示第2)するなどのわいせつ行為に及び、また、園児が行為の性的意味を理解していないことに乗じてその下着姿を撮影したもので(判示第3)、卑劣で身勝手な犯行というほかないし、性的好奇心を満たすため児童ポルノの製造(判示第2)や所持(判示第4)に及んでもおり、児童を性的に搾取することに対する抵抗感がみじんも感じられない。
 わいせつ行為を受けた園児ら(判示第1、第2)は就寝中で被害に遭ったことを認識していないとしても、将来何かの機会に被害を認識した際に受けるであろう衝撃の大きさは、被告人に懐いていたことも相まって計り知れない(下着を撮影された園児〔判示第3〕については就寝中でもない。)。被告人のことを信頼して大切な子供を預けていた保護者らが、裏切られたというやり場のない怒り、悲しみ、苦しみを抱き峻烈な処罰感情を有するのも当然である。
 そして、本件各犯行は、平成31年から令和4年にわたり、保育教諭の職責を果たすどころかその立場を悪用してなされたもので、常習性も明らかであって、保育の制度や現場に対する安心感を強く損なうものとして、厳しい非難に値するというべきである。
 弁護人が指摘するように、本件よりも程度や態様が悪質と評価されるわいせつ行為が存在することや、本件の児童ポルノに関連するデータ等が拡散されたわけではないことは否定されないし、被告人も園児の性器内への侵襲行為は行わないなど被告人なりの線引きをしていたようではあるが、既に一線を大きく超えた上での相対評価の話であって、上記非難の程度が減じられるものでもない。
 そうすると、被告人の刑事責任は重く、被告人に前科前歴がないこと、情状証人として父親が出廷し被告人の今後の更生支援を行う旨誓約していること、被告人が事実を認め、謝罪文の作成も含め反省や後悔の態度を示していることなど有利に斟酌し得る事情を踏まえても、主文の実刑は免れない。
(求刑 懲役4年6月)
  令和5年2月20日
    大分地方裁判所刑事部
           裁判官  初谷湧紀