児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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強姦無罪(静岡地裁h31.3.28)

 児童ポルノ・児童買春法違反は単純所持
 出典はD1-Law
 
こういう目的のために単純所持が起訴されているようですね「検察官は、被告人が児童ポルノを所持していたことから、被告人が低年齢の女児に性的興味を持っており、若年の本件被害者を姦淫したことが一定程度推認でき、本件被害者の証言の信用性を裏付けていると主張する。しかしながら、そもそも、検察官は児童ポルノの所持に関する証拠を強姦事件についての証拠として請求していないから、上記主張は証拠に基づくものとはいえない上、仮に、検察官が主張するように被告人が低年齢の女児に性的興味を抱いていたとしても、そのことと実子である本件被害者を姦淫することとは性質を異にするものであるから、ただちに本件公訴事実を推認させる事情とはいえない。検察官の主張は採用できない。」

 児童ポルノ所持罪の罪となるべき事実については、1号3号に該当する具体的な事実が記載されていないから、理由不備の疑いがある

判例ID】 28271529
【裁判年月日等】 平成31年3月28日/静岡地方裁判所/刑事第1部/判決/平成30年(わ)37号/平成30年(わ)148号
【事件名】 強姦、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件
【裁判結果】 有罪
【裁判官】 伊東顕 新城博士 長谷川皓一
【出典】 D1-Law.com判例体系
【重要度】 -

静岡地方裁判所
平成30年(わ)第37号/平成30年(わ)第148号
平成31年03月28日
本籍 ●●●
住居 ●●●
●●●
●●●
●●●
 上記の者に対する強姦、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件について、当裁判所は、検察官菊池真希子、同麻生川綾、国選弁護人間光洋(主任)、同伊藤みさ子各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文
被告人を罰金10万円に処する。
未決勾留日数中、その1日を金1万2500円に換算して、その罰金額に満つるまでの分をその刑に算入する。
本件公訴事実中強姦の点については、被告人は無罪。

理由
(罪となるべき事実)
 被告人は、自己の性的好奇心を満たす目的で、平成30年1月25日、静岡県●●●静岡県●●●警察署において、児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態、衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した動画データ3点を記録した児童ポルノである携帯電話機1台を所持したものである(平成30年5月7日付け起訴状記載の公訴事実)。
(証拠の標目)
括弧内は、証拠等関係カードにおける検察官請求証拠番号を示す。
・ 被告人の公判供述
・ Aの警察官調書謄本(甲20(不同意部分を除く。)、22)
・ 実況見分調書(甲18、19、21、25(不同意部分を除く。)、26)
・ 写真撮影報告書(甲23)
・ 捜査報告書謄本(甲24)
(法令の適用)
罰条 児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条1項前段、2条3項1号、3号
刑種の選択 罰金刑を選択
未決勾留日数の算入 刑法21条
訴訟費用の処理 刑事訴訟法181条1項ただし書(不負担)
(量刑の理由)
 被告人は、インターネット上のウェブサイトから児童ポルノをダウンロードし、個人的に閲覧する目的で動画データ3点を所持しており、所持していた児童ポルノの数は多くないものの、被告人の責任を軽微とまではいえない。
 一方、既に指摘した事情に加えて、被告人は、事実を認め、今後、児童ポルノの閲覧、所持をしない旨供述していること、前科、前歴がないことなど被告人にとって酌むべき事情が認められ、これらを考慮すると被告人を主文の罰金刑に処するのが相当である。
(強姦の公訴事実について)
1 強姦の公訴事実(平成30年2月14日付け起訴状記載の公訴事実。以下「本件公訴事実」という。)等
  本件公訴事実は、「被告人は、実子である別紙記載の本件被害者(当時12歳)が13歳未満であることを知りながら、平成29年6月16日頃、別紙記載の被告人方において、本件被害者と性交し、もって13歳未満の女子を姦淫した。」というものである。
  弁護人は、本件公訴事実に関して、本件被害者に対する姦淫被害がなく、被告人は無罪であると主張し、被告人もこれに沿う供述をしているところ、この点についての主要な証拠は、本件被害者の証言であって、以下のとおり信用できず、結局、犯罪の証明があったとは認められない。
2 本件被害者の証言の信用性
 (1) 本件被害者は、要旨、以下のとおり証言している。
  小学校5年生の冬頃から、週3回程度の頻度で、夜に自分の部屋の布団で寝ているとき、被告人が自分の体の上に被さり、被告人のちんちんを自分の股の下の穴に入れ、体を動かすことがあった。いつも、何度も「やめて」と言って被告人の体を押したり、隣で寝ている妹の名前を呼んだりした。また、立ち上がって部屋から脱出しようとしたところ、自分の体を被告人が引っ張って連れ戻されるということもあった。「やめて」という声は小さい声ではなかったが、同じ部屋の布団で寝ていた妹が気付いた様子はなかった。その後、被告人がちんちんを抜くと自分の股の下の穴の近くに白くてぬるぬるする液体が付いていたのでトイレで拭いていた。
  最後に被告人にちんちんを入れられたのは保護所に行くちょっと前で、そのときも白いのを出していた。ぬるぬるしたからそれを拭いたが、パンツは替えないで寝た。そのときは、家の中には家族全員がいた。
 (2) 本件被害者は、姦淫されたとする際の手足の向きや位置などの体勢、その後に自分の股に白くてぬるぬるする液体がついていたのでトイレで拭いたことなど、全体として相応に具体的な内容の証言をしていると評価できる。
  しかしながら、上記のとおり、本件被害者は、約2年間にわたり週3回程度の頻度で自宅で姦淫被害に遭い、その都度「やめて」などと言って抵抗したなどと証言するところ、被告人が家族に気付かれずに長期間、多数回にわたり姦淫を繰り返すことができたとする点は以下のとおり甚だ不自然、不合理といわざるを得ない。
 (3) すなわち、被告人方では、被告人夫婦、被告人夫婦の長男である本件被害者の兄、被告人夫婦の次男である本件被害者の弟、被告人夫婦の長女である本件被害者、被告人夫婦の次女である本件被害者の妹、本件被害者の祖母の7人が生活していた。
  被告人方全体や各部屋の広さ、本件公訴事実当時(平成29年6月)の間取りや家具の配置等について、検察官は、客観的証拠に基づく具体的な立証を行っていないものの、甲3号証(平成30年1月当時の被告人方の様子に関するもの)や弁2号証(同年8月当時の被告人方の様子に関するもの)に加え本件被害者及び別紙記載の被告人妻の供述状況も考慮すると、被告人方は全体として狭小で、各部屋の配置や間取りについては、これらの証拠から認められる状況と大きな相違はなかったものと推認される。また、本件被害者及び妹は同室で、被告人方南側中央の寝室(以下「本件被害者らの寝室」という。)で就寝しており、就寝時の両者の距離は50センチメートル程度も離れていなかったと認められる。さらに、被告人夫婦、兄及び弟は、本件被害者らの寝室の東側の寝室で一緒に就寝しており(以下「被告人夫婦らの寝室」という。)、本件被害者らの寝室の西側には祖母の寝室があり、本件被害者らの寝室は被告人夫婦らの寝室と祖母の寝室の間に位置していたと認められる。
  各寝室は、石こうボードなどの板で仕切られていたが、天井付近などに隙間があり各寝室は完全に仕切られていなかった。各寝室の間には布で仕切られた出入り口が設けられていたが、扉は設置されていなかったと認められ、実際に、祖母のいびきが被告人夫婦らの寝室まで聞こえてくるなど、隣の部屋の物音がよく聞こえてくる構造であったと認められる(証人被告人妻、甲3、13、弁2。)。
  本件被害者は、上記のように、約2年間、週3回程度の頻度で家族が就寝した夜に、寝室で姦淫被害を受け続け、その際、小さくない声で何度も「やめて」と言ったり、隣で寝ている妹の名前を呼んだりしたなどと証言しており、そうであれば相応の頻度で相応の音量の物音が発生していたはずである。そして、上記のように、被告人方の各寝室は隣室に音が聞こえてくる構造で、本件被害者の寝室は被告人夫婦らの寝室と祖母の寝室の間にあったのであるから、真実、本件被害者のいうような姦淫被害があったとすれば、同じ寝室で就寝していた妹や隣の寝室にいた家族が、姦淫被害に気付くのが自然である。仮に他の家族が就寝していたとしても、家族が寝静まった状況下で本件被害者が声を出して抵抗すれば、誰かしら目を覚ますと考えるのが合理的であり、約2年もの間、週3回の頻度で姦淫があったにもかかわらず、他の家族が誰一人姦淫被害ばかりか、本件被害者の「やめて」という声にさえ気付かなかったというのは余りに不自然、不合理である。また、他の家族が姦淫被害に気付きながらあえてこれを隠していることをうかがわせる事情もない。したがって、本件被害者の証言内容は客観的な状況に照らすと余りに不合理であり、弁護人の指摘するその余の事情を考慮するまでもなく、信用することはできない。
 (4) これに対し、検察官は、被告人夫婦が日常的に性交していたにもかかわらず、他の家族がそのことに気付いていなかったのであるから、本件姦淫被害について他の家族が気付かなかった可能性が十分に考えられると主張する。しかし、被告人の妻は、夫婦の性交の際、物音や声を出さないように意識していたというのであり(証人被告人妻)、姦淫されないように必死に抵抗する際の声と同様に考えることはできず、検察官の指摘する事情は上記判断を左右するものとはいえない。
  また、検察官は、本件被害者と同室で就寝していた妹は、睡眠薬を処方されており、熟睡して本件被害時の物音や気配に気付かなかった可能性があると主張する。しかし、妹が睡眠薬の処方を受けていたとしても、2年間、毎週3回繰り返されたという姦淫被害時に毎度睡眠薬によって熟睡していたといえるか疑わしい上、検察官の指摘する事情を踏まえても他の家族が姦淫被害に気付かなかったとは考え難い。
 (5) したがって、検察官の指摘する事情を踏まえて検討しても、本件被害者の供述を信用することはできない。
3 本件被害者の証言の信用性に関する検察官のその他の主張
 (1) 検察官は、本件被害者が、児童相談所の職員であるB(以下「B」という。)に対し、当初暴行の被害を訴え、一時保護解除予定日前日に至って姦淫被害について打ち明けたことなど被害を開示するに至った経緯が自然かつ合理的であること、被害開示の際の被害者の様子が怯えた様子で毛布にくるまって顔面蒼白であるなど実際に姦淫被害を体験した者の態度として自然であること、被害開示の際に本件被害者に対して実施したPTSDスクリーニングテスト(IES-R)の結果が高い数値であり、実際に姦淫被害を体験したことと整合することを指摘し、本件被害者の供述は信用できると主張している。
  しかし、実際には姦淫被害がなかったにもかかわらず、本件被害者が姦淫被害があるかのように振る舞った可能性を否定することができない。PTSDスクリーニングテスト(IES-R)についても、同テストは、PTSDの原因となった出来事を想起した状況や頻度を直接質問するなどするものであり、本人の主観的な認識を申告させ、これを点数化して、PTSDの重症度を判定するものであることは公知のものであるところ、このようなテストの内容からすると被害を誇張して申告することで容易に高い得点を得られるものであることは明らかであって、被害を受けたことを客観的に裏付けるものとはいえない。検察官の主張は採用できない。
 (2) 検察官は、本件被害者がBに姦淫被害を打ち明けた時点ではわずか12歳であり、証言当時も14歳と若年であって、架空の姦淫被害を訴える程度の性的知識を有していないから、虚偽の供述をすることはできなかったと主張する。しかし、本件被害者の年齢に加え、同人が軽度の知的障害を有していること(証人B)を踏まえても、本件被害者が性的な情報から完全に隔離されていたとはうかがわれず、タブレット端末、知人の話や自己の経験等を通じて性的知見に関する情報を得て、架空の性被害を訴える程度の性的知識を獲得していた可能性は否定できない。この点の検察官の主張も採用できない。
  また、検察官は、暴行被害を訴えて児童相談所という安全な場所に一時保護されていた本件被害者には、わざわざ虚偽の姦淫被害を訴える動機がなかったと主張する。しかし、被告人方への帰宅を翌日に控えた本件被害者が被告人方への帰宅を免れるために虚偽の姦淫被害を訴える可能性は十分に考えられる。検察官のこの点の主張も採用できない。
 (3) さらに、検察官は、本件被害者は、姦淫被害を受けていること、その被害が金曜に行われることが多かったことなど核心部分の供述について一貫しており、本件被害者の証言は信用できると主張する。しかし、本件被害者は、Bに初めて姦淫被害を打ち明けた際、毎週金曜日に姦淫被害を受けており金曜日が来るから家に帰りたくない旨供述していたのに対し、証人尋問においては、週3回程度姦淫被害を受けていた、前は金曜日だったが、被告人に嫌だと言ったら叩かれて、その後は金曜日じゃなくなったなどと証言しており、証言内容のうちの重要な要素である被害の頻度や曜日について供述が変遷している(証人本件被害者、証人B)。検察官の主張は採用できない。
 (4) 加えて、検察官は、被告人が児童ポルノを所持していたことから、被告人が低年齢の女児に性的興味を持っており、若年の本件被害者を姦淫したことが一定程度推認でき、本件被害者の証言の信用性を裏付けていると主張する。しかしながら、そもそも、検察官は児童ポルノの所持に関する証拠を強姦事件についての証拠として請求していないから、上記主張は証拠に基づくものとはいえない上、仮に、検察官が主張するように被告人が低年齢の女児に性的興味を抱いていたとしても、そのことと実子である本件被害者を姦淫することとは性質を異にするものであるから、ただちに本件公訴事実を推認させる事情とはいえない。検察官の主張は採用できない。
 (5) その他、検察官は、本件被害者の記憶や供述に汚染が認められないこと、本件被害者の証言と被告人方にコンドームが存在しないこととに整合性があることなど様々な主張をするが、いずれも採用することはできず、本件被害者の証言の信用性に関する前記判断を左右するものとはいえない。
4 結論
  以上のとおりで、本件公訴事実を立証する唯一の直接証拠である本件被害者の証言は信用することができず、他に本件公訴事実を裏付ける適確な証拠もない。したがって、本件被害者に姦淫の被害があったとする証明があったとはいえず、本件公訴事実については犯罪の証明がないことになるから、刑事訴訟法336条により、被告人に対し無罪の言渡しをする。
(求刑 懲役7年)
刑事第1部
 (裁判長裁判官 伊東顕 裁判官 新城博士 裁判官 長谷川皓一)