性器接触を伴う医療行為については、従前は「正当行為」「性的意図がない」ということで処罰されませんでしたが、強制わいせつ罪に性的意図は必ずしも不要とされたので(大法廷h29.11.29)、「性的意図がないからok」という弁解が効かなくなり、「行為そのものが持つ性的性質が不明確で,当該行為が行われた際の具体的状況等をも考慮に入れなければ当該行為に性的な意味があるかどうかが評価し難いような行為もある。その上,同条の法定刑の重さに照らすと,性的な意味を帯びているとみられる行為の全てが同条にいうわいせつな行為として処罰に値すると評価すべきものではない。そして,いかなる行為に性的な意味があり,同条による処罰に値する行為とみるべきかは,規範的評価として,その時代の性的な被害に係る犯罪に対する社会の一般的な受け止め方を考慮しつつ客観的に判断されるべき事柄であると考えられる。」ということになりました。
こう説明されてもよくわかりませんよね。
実はこの判例以降、わいせつの定義もできなくなっていて、処罰範囲もわからなくなっています。
とりあえず、1対1で対応することがないようにしてください。
大法廷h29.11.29
(5) もっとも,刑法176条にいうわいせつな行為と評価されるべき行為の中には,強姦罪に連なる行為のように,行為そのものが持つ性的性質が明確で,当該行為が行われた際の具体的状況等如何にかかわらず当然に性的な意味があると認められるため,直ちにわいせつな行為と評価できる行為がある一方,行為そのものが持つ性的性質が不明確で,当該行為が行われた際の具体的状況等をも考慮に入れなければ当該行為に性的な意味があるかどうかが評価し難いような行為もある。その上,同条の法定刑の重さに照らすと,性的な意味を帯びているとみられる行為の全てが同条にいうわいせつな行為として処罰に値すると評価すべきものではない。そして,いかなる行為に性的な意味があり,同条による処罰に値する行為とみるべきかは,規範的評価として,その時代の性的な被害に係る犯罪に対する社会の一般的な受け止め方を考慮しつつ客観的に判断されるべき事柄であると考えられる。
そうすると,刑法176条にいうわいせつな行為に当たるか否かの判断を行うためには,行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度を十分に踏まえた上で,事案によっては,当該行為が行われた際の具体的状況等の諸般の事情をも総合考慮し,社会通念に照らし,その行為に性的な意味があるといえるか否かや,その性的な意味合いの強さを個別事案に応じた具体的事実関係に基づいて判断せざるを得ないことになる。したがって,そのような個別具体的な事情の一つとして,行為者の目的等の主観的事情を判断要素として考慮すべき場合があり得ることは否定し難い。しかし,そのような場合があるとしても,故意以外の行為者の性的意図を一律に強制わいせつ罪の成立要件とすることは相当でなく,昭和45年判例の解釈は変更されるべきである。
有罪か無罪か。どちらも地獄の外科医わいせつ容疑事件
2018/9/13 中山祐次郎(総合南東北病院外科)
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/series/kittenuu/201809/557795_2.html
もし有罪だったら。もし有罪だとしたら、いえ、もしあの先生がこんな行為をしていたとしたら、これは医者全体の信頼を大きく揺るがす問題です。全身麻酔が醒めやらぬ患者さんにわいせつ行為をするなど、もしあったとしたら卑劣極まりない行為ですよね。断罪されるべきです。医師、そして医療界全体への不信は高まることでしょう。こういうことを防ぐために、手術室に家族が入って術後までずっと監視するとか、患者さんの体につけた小型カメラでずっと医者を撮影するとか、逆に萎縮し同性でしか乳腺や婦人科領域は診療しない、などなるかもしれません。医療者と一般の人々の間の溝はこの一件で大きく広がるでしょう。お互い猜疑心の中で行われる医療。まさに地獄。心から、そうではないことを願っています。
しかし、もし無罪だったらどうでしょうか。警察の無理筋な捜査と、薄い根拠で意味不明な長期間の勾留を許可した裁判所、そして実名と住所(当時はかなり細かいところまで報道されていました)と顔まで報道したメディアはどう責任を取るのでしょうか。もちろん1mmも責任は取らないでしょうから、我々医者や医療者はいっそう彼らへの不信を強めることでしょう。
無罪だった場合、私や他の医療関係者はこれら関係機関へ強い反省と謝罪を求めることになります。そもそも起きていなかったことを一生懸命事件としてでっち上げ、ひとりの人間と家族の精神を破壊し、人生を狂わせたのです。そういう人たちがこの国の安全と正義を守っている。地獄でしかない。
このように、どちらにも取れるようなことを言っている自分にもヘドが出ますが、とにかく本件はどちらに転んでも地獄が待っているのです。
そして、医学的にみて重要な点は、術後せん妄に関連した性的な幻覚の可能性があるという点です。ここ日経Onlineのコラムで薬師寺先生は、この点についてこう書いていらっしゃいました。
「現実問題、取れる範囲の対策として、
(1)なるべく1人で診察をしない(特に若い女性)
(2)処置は全て詳細にカルテ記載する
というくらいしかありません」(明日は我が身か、医師わいせつ逮捕事件)
本当におっしゃる通りです。将来的に、術後せん妄関連の性的幻覚による医療者への訴訟について、本気で対策をするとしたらどうすればいいのでしょうか。例えば、医者も患者も病室も、みんなビデオ録画し続けながら診療をする、などでしょうか。交通事故のときの証拠用として、ずっと録画しつづけるドライブレコーダーもすごく売れているそうですしね。いや、まさに地獄ですね。
引き続き、経過を注視していかねばと思っております。それではまた次回。