わいせつ行為とわいせつでない行為の境界線が判りません。
大阪高裁h28.10.27 | (2) ところで,強制わいせつ罪の保護法益は被害者の性的自由と解され,同罪は被害者の性的自由を侵害する行為を処罰するものであり,客観的に被害者の性的自由を侵害する行為がなされ,行為者がその旨認識していれば,強制わいせつ罪が成立し,行為者の性的意図の有無は同罪の成立に影響を及ぼすものではないと解すべきである。その理由は,原判決も指摘するとおり,犯人の性欲を刺激興奮させ,または満足させるという性的意図の有無によって,被害者の性的自由が侵害されたか否かが左右されるとは考えられないし,このような犯人の性的意図が強制わいせつ罪の成立要件であると定めた規定はなく,同罪の成立にこのような特別な主観的要件を要求する実質的な根拠は存在しないと考えられるからである。 そうすると,本件において,被告人の目的がいかなるものであったにせよ,被告人の行為が被害女児の性的自由を侵害する行為であることは明らかであり,被告人も自己の行為がそういう行為であることは十分に認識していたと認められるから,強制わいせつ罪が成立することは明白である。 以上によれば,強制わいせつ罪の成立について犯人が性的意図を有する必要はないから,被告人に性的意図が認められないにしても,被告人には強制わいせつ罪が成立するとした原判決の判断及び法令解釈は相当というべきである。当裁判所も,刑法176条について,原審と同様の解釈をとるものであり,最高裁判例(最高裁昭和45年1月29日第1小法廷判決・刑集24巻1号1頁)の判断基準を現時点において維持するのは相当ではないと考える。 |
大法廷h29.11.29 | 刑法176条にいうわいせつな行為と評価されるべき行為の中には,強姦罪に連なる行為のように,行為そのものが持つ性的性質が明確で,当該行為が行われた際の具体的状況等如何にかかわらず当然に性的な意味があると認められるため,直ちにわいせつな行為と評価できる行為がある一方,行為そのものが持つ性的性質が不明確で,当該行為が行われた際の具体的状況等をも考慮に入れなければ当該行為に性的な意味があるかどうかが評価し難いような行為もある。その上,同条の法定刑の重さに照らすと,性的な意味を帯びているとみられる行為の全てが同条にいうわいせつな行為として処罰に値すると評価すべきものではない。そして,いかなる行為に性的な意味があり,同条による処罰に値する行為とみるべきかは,規範的評価として,その時代の性的な被害に係る犯罪に対する社会の一般的な受け止め方を考慮しつつ客観的に判断されるべき事柄であると考えられる。 そうすると,刑法176条にいうわいせつな行為に当たるか否かの判断を行うためには,行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度を十分に踏まえた上で,事案によっては,当該行為が行われた際の具体的状況等の諸般の事情をも総合考慮し,社会通念に照らし,その行為に性的な意味があるといえるか否かや,その性的な意味合いの強さを個別事案に応じた具体的事実関係に基づいて判断せざるを得ないことになる。したがって,そのような個別具体的な事情の一つとして,行為者の目的等の主観的事情を判断要素として考慮すべき場合があり得ることは否定し難い。しかし,そのような場合があるとしても,故意以外の行為者の性的意図を一律に強制わいせつ罪の成立要件とすることは相当でなく,昭和45年判例の解釈は変更されるべきである。 |
東京高裁h30.1.30 | 一般人が性的な意味があると評価するような行為を意思に反してされたならば,性的自由が侵害されたものと解すべきである。 |
福岡高裁h30.10.31 | 2 法令適用の誤りの主張について 論旨は,強制わいせつ罪(刑法176条前段)が成立するには,客観的に見て,その行為が,性欲を刺激,興奮又は満足させ,かつ,普通人の性的羞恥心を害し,善良な性的道義観念に反するものでなければならないのに,社会通念に照らし,それ自体性的な意味合いが強いことを根拠としてわいせつな行為であると認定した原判決には,同条の解釈について,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というのである。 しかし,同条にいうわいせつな行為に当たるか否かは,行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度を十分に踏まえた上で,事案によっては,当該行為が行われた際の具体的状況等の諸般の事情をも総合考慮し,社会通念に照らし,その行為に性的な意味があるといえるか否かや,その性的な意味合いの強さを個別事案に応じた具体的事実関係に基づいて判断すると考えることができる(最高裁平成28年(あ)第1731号同29年11月29日大法廷判決・刑集71巻9号467頁参照)。したがって,わいせつな行為であるというためには,所論が主張するような行為でなければならないと解する必要はなく,被害者の立場に立った一般人から見て,客体とされることにつき一定程度以上の性的羞恥心の対象となる行為をいうものと解することができ,これと同旨と理解することができる原判決の説示は正当である。 |
広島地裁H30.5.18 | 第2 判示第6のわいせつ行為該当性 弁護人は,最高裁判所大法廷判決平成29年11月29日が,性的な行為を「絶対的わいせつ行為」と「相対的わいせつ行為」に二分し,前者については性的意図を不要としたが,それでは「徒に性欲を興奮又は刺激させ」るとの従来からのわいせつ行為の定義に該当しないこととなるから,わいせつ行為の再定義を裁判所が示せなければ強制わいせつ罪は成立しない等と主張するが,被告人がDの肛門に自己の陰茎を挿入し,あるいは自己の陰茎をDに口淫させるなどした本件強制わいせつ行為は,その態様から見て性的性質を有するものであることは明確であり,可罰的なわいせつ行為に該当することは明らかというべきである。 |
福岡高裁h31.3.15 | 2 法令適用の誤りの主張について 論旨は,強制わいせつ罪(刑法176条前段)が成立するには,客観的に見て,その行為が,性欲を刺激,興奮又は満足させ,かつ,普通人の性的羞恥心を害し,善良な性的道義観念に反するものでなければならないのに,社会通念に照らし,それ自体性的な意味合いが強いことを根拠としてわいせつな行為であると認定した原判決には,同条の解釈について,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というのである。 しかし,同条にいうわいせつな行為に当たるか否かは,行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度を十分に踏まえた上で,事案によっては,当該行為が行われた際の具体的状況等の諸般の事情をも総合考慮し,社会通念に照らし,その行為に性的な意味があるといえるか否かや,その性的な意味合いの強さを個別事案に応じた具体的事実関係に基づいて判断すると考えることができる(最高裁平成28年(あ)第1731号同29年11月29日大法廷判決・刑集71巻9号467頁参照)。したがって,わいせつな行為であるというためには,所論が主張するような行為でなければならないと解する必要はなく,被害者の立場に立った一般人から見て,客体とされることにつき一定程度以上の性的羞恥心の対象となる行為をいうものと解することができ,これと同旨と理解することができる原判決の説示は正当である。 所論は,本件は,被害者の性的部位を着衣の上から触る場合であって,性的侵害性が比較的低いことから,通常は,迷惑防止条例における痴漢行為と分類されるべきであり,態様が執ようであり,弄んだといえるような場合に限って強制わいせつ罪が成立する,という。 しかし,前記原判決の概要で引用したとおり,被告人Y2は,明らかに性交を模して股間付近を被害者の陰部付近に複数回接触させているのであり,単に着衣の上から性的部位を手で触る場合と同列に論じることは適当ではない。しかも,犯行が多数の同僚警察官が見ている宴席で行われているから,被害者の性的羞恥心を著しく害し,性的自由を大きく侵害する行為であるというべきである。性的侵害性が低いとは到底いえず,強制わいせつ罪が成立することは明らかである |
大阪地裁h31.3.20 | 3 強制わいせつ罪は,被害者の性的自由を保護法益とする犯罪であるから,被害者に性的被害を与えることを意図して,性的被害を与える行為を行っている場合には,強制わいせつ罪が成立するというべきである。 このような解釈は,本件犯行が行われた頃の法解釈としては昭和45年判例に沿うものではないが,その時点で法を適用するとしても強制わいせつ罪の成立を認めるべき事案といえるから,判例変更前の行為であることを理由に強制わいせつ罪の成立を争う主張は採用できない。 なお,強制わいせつ罪の成立に性的意図が必要であるとする昭和45年判例は変更され,故意以外の行為者の性的意図は一律には強制わいせつ罪の成立要件とはされていないし(最高裁平成28年(あ)第1731号同29年11月29日大法廷判決・刑集71巻9号467頁参照),平成29年の大法廷判決は平成27年に実行された性的意図のない強制わいせつ行為についての有罪判決を維持した事案であるから,その点からも,判例変更前の行為であることを理由に強制わいせつ罪の成立を争う主張は採用できない。 4 本件において被告人は,Bに性的羞恥心を与えることを考えた上で,Bの陰茎を直接手で触ったと認められ,被告人が,被害者に性的被害を与えることを意図してこのような行為を行ったことも明らかであるから,このような被告人の行為については強制わいせつ罪が成立する。 |
札幌地裁r01.10.23 | 1) まず,強制わいせつ罪の保護法益は被害者の性的自由であるところ,性犯罪に対する近年の社会の一般的な受け止めも踏まえれば,どのような行為が刑法176条にいう「わいせつな行為」として処罰されるべきかについては,被告人の意図よりも,被害者の受けた行為がどのようなものであったかを重視して,規範的な評価として客観的に判断されるべきと考える。 そして,その判断を行うためには,行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度を十分に踏まえた上で,事案によっては,当該行為が行われた際の具体的状況等の諸般の事情をも総合考慮し,社会通念に照らし,当該行為に性的な意味があるといえるか否かや,その性的な意味合いの強さを具体的事実関係に基づいて判断するのが相当である(最高裁平成29年11月29日大法廷判決・刑集71巻9号467頁参照 |
r02.1.1 向井香津子「最高裁判例解説 強制わいせつ罪の成立と行為者の性的意図の要否」 法曹時報第72巻第1号 | (ウ)判断基準 したがって,ある行為が「わいせつな行為」に該当するというためには, ①性的な意味があるか否か ②性的な意味合いの強さが刑法176条等による非難に相応する程度に達しているか否か を判断しなければならないと考えられるが,これらをどのような基準で判断すべきなのかが,更に問題となる。 これらの判断について,当該被害者が実際に当罰性の高い性的意味を感じたか否かによるべきでないことは当然であり,他方で,昭和45年判例の解釈を採用しない以上,行為者自身の性欲等を基準にすべきものでないことも明らかといえる。結局,その判断は,社会通念に照らして客観的に判断されるべきと考えられる。(注13) また,性的な被害に係る犯罪に対する社会の受け止め方は,前述のとおり時代によって変わり得るものであることからすれば,社会通念に照らして判断する際には,その時代の社会の受け止め方をも考慮しておく必要がある。もっとも,犯罪規定の解釈においては,法的安定性が求められることも当然であるから,社会の受け止め方の変化を考慮する際には,慎重な姿勢も必要であり,従前の判例・裁判例の積み重ねを十分斟酌する必要があろう。(注14) |
静岡地裁浜松支部r02.2.21 | 2 ①判示第1の各事実における〈イ〉各行為のわいせつ行為該当性について 被告人の判示第1の各行為は,A及びCに対しては,着衣の中に手を差し入れて太ももの前面の付け根ないしその下部付近を触る,Bに対しては,着衣の中に手を差し入れて太ももの後面の臀部付近を触るというものであり,いずれも,着衣の中に手を差し入れ,太ももの陰部や臀部に近い部分を触るというものであって,指導の間中触り続けたという執拗性に照らしても,行為そのものが持つ性的性質はいずれも大きいものである。 弁護人は,被告人の各行為については,児童とスキンシップをとることや,児童の注意を惹くなど,教育的な意図によるものであり,具体的には,判示第1の1及び同3の各行為に関しては,「一人学びの時間」に個別指導をしている際,児童の集中を促すなどの目的で,児童の太ももに手を置いたり,叩いたり,揺すったりすることがあった,判示第1の2の行為に関しては,Bとの距離がちょっと遠いときに,Bの背中辺りに手を伸ばして触れたということはあり得たものであって,性的な意図を伴うものではなかった旨主張する。しかし,被告人の判示第1の各行為は,弁護人が前提とする態様とは異なるものであり,児童とのスキンシップ行為であるとか,児童の注意を惹くなどといった目的で行われる行為であるとは到底考えられないものであって,本件において,判示第1の各行為が教育的な意図によるものであると考えられるような事情はない。被告人としても,これらの行為が性的な意味を有するものであることは当然認識していたというべきである。 |
R02.3.10 薄井真由子 強制わいせつ罪における「性的意図」植村立郎「刑事事実認定重要判決50選_上_《第3版》」 | イ 具体的判断方法 第2に,具体的判断方法としては,まず, ①行為そのものが持つ性的性質が明確で,直ちにわいせつな行為と評価できる行為と, ②当該行為が行われた際の具体的状況等をも考慮に入れなければ当該行為に性的な意味があるかどうかが評価し難いような行為があるとした。 そして,②の行為については,当該行為が行われた際の具体的状況等の諸般の事情をも総合考慮し, ○アその行為に性的な意味があるといえるか否かや, ○イその性的な意味合いの強さを個別事案に応じた具体的事実関係に基づいて判断するものとした。 その上で,そのような個別具体的な事情の一つとして,行為者の目的等の主観的事情を判断要素として考慮すべき場合があるというのである。 エ その他の行為 性器あるいは性的部位への着衣の上からの接触や,接触を伴わず,被害者の性器あるいは性的部位を見たり撮影したりする行為については,直接の接触よりは性的侵襲度が低いといえるから,①の場合ではなく,②の場合として,行為が行われた際の具体的状況等を踏まえて「わいせつな行為」といえるかを判断するのが相当と解される。 |
津地裁r02.12.4 | 次に,被告人の行為が強制わいせつ罪にいう「わいせつな行為」に当たるといえるか否か(争点②)について検討するに,判示の一連の被告人の行為(特に,自己の股間を被害者の顔に押し付けようとする行為)が性的意味合いを有する行為であることは明白であり,医師である被告人と製薬会社のMRである被害者の関係性なども踏まえると,強制わいせつ罪としての処罰に値しないほど軽微な行為といえないことは明らかである。 |