児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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判例変更は殺生だっせ~判例変更と憲法31条,39条との関係~最高裁調査官馬渡香津子「強制わいせつ罪の成立と行為者の性的意図の要否 最高裁平成29年11月29日大法廷判決」 ジュリスト1517 p78

 従前の判例によれば無罪なのを、判例変更までした実刑にするのは殺生だっせという論点です。
 上告理由に盛り込み忘れて、佐伯論文を性的意図の判例変更の話を見つけたので弁論で簡単に指摘しただけになりました。
 なお「松木俊明ほか.法セ758号48頁」って「松木俊明=奥村徹園田寿・法セ 758号48頁」

Ⅵ、判例変更と憲法31条,39条との関係
ところで,本件の弁論において,弁護人は,判例を被告人に不利に変更して実刑に処すことは,憲法31条の定める適正手続違反であるし,遡及処罰を禁じた憲法39条に違反するから,本件において,上告審として,判例を変更して被告人に強制わいせつ罪の成立を認めることは許されないと主張した。
判例変更と憲法39条との関係については,最高裁判例があり,行為当時の最高裁判所の示す法解釈に従えば無罪となるような行為であっても,これを処罰することは憲法39条に違反しないとされている(最二小判平成8.ll. 18刑集50巻10号745頁)。
また,憲法31条にいう「法律」は制定法を指すと解されるから,罪刑法定主義との関係においても,判例の不利益変更が憲法31条に違反することはないと解される(平成8年判例最高裁判所調査官解説・今崎幸彦・平成8年度最判解刑事篇157頁参照)。
もっとも,事案によっては,判例を信頼し,これに基づき処罰されないと信じて行動した者を判例変更によって処罰することは,国民の判例に対する信頼の保護の観点から問題があり得ることも指摘されている(今崎・前掲163頁参照。
なお,平成8年判例に付された河合伸一裁判官の補足意見は,故意を欠くとする余地があるとする。
他方,佐伯仁志「判例変更と適正手続」日本法学82巻2号324頁は,これを憲法31条の定める適正手続の問題と捉え,判例変更に際しては,適正手続に反しないような方法によるべきであるとする)。
しかし,本件 最高裁大法廷時の判例においては,被告人は,本件強制わいせつ行為における行為の様子等を撮影して児童ポルノを製造した罪,その児童ポルノを提供した罪,犯罪による収益の移転防止に関する法律違反でも起訴されて,強制わいせつ罪と併合して有罪認定されており,本件宣告刑(懲役3年6月)は,児童ポルノ製造罪の法定刑(3年以下の懲役又は300万円以下の罰金・児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条3項)に併合罪加重をした懲役刑の刑期(4年6月以下)を超えるものではないこと,本件の被告人が,昭和45年判例を特に信頼して,違法性の意識を欠いていたなどの事情はうかがわれず,適正手続や故意に疑問を生じさせるような状況はおよそ認められないことからすれば,判例を被告人に不利益に変更し,強制わいせつ罪について有罪とした第1審判決を是認した原判決を維持することは,どのような観点からみても,問題がないと考えられる。
このようなことから,本判決は,昭和45年判例違反をいう所論が原判決破棄の理由にならないことを判示した上で,念のため,「なお,このように原判決を維持することは憲法31条等に違反するものではない。」との結論のみを示したものと思われる。
Ⅶ、本判決の意義本判決は,強制わいせつ罪の成立要件として性的意図を要求していた昭和45年判例を約半世紀ぶりに変更し,強制わいせつ罪の解釈を明確化したものとして重要な意義を有するといえる。
なお,本判決の評釈として知り得たものに,前田雅英・捜査研究804号2頁,成瀬幸典・法教449号129頁,豊田兼彦・法セ757号123頁,村井敏邦「強制わいせつ罪の成立に,わいせつ目的を必要とするか」時の法令2043号50頁,曲田統・法教450号51頁,松木俊明ほか.法セ758号48頁がある。