児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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無線LANのただ乗りは窃用にあたらない(東京地裁H29.4.27)

 電波法の解説書でも、復号と窃用は違うと説明されていますが、
 起訴罪名は109条1項でした。
 パスワードが通信の秘密に当たるかですよね

電波法第百九条
1 無線局の取扱中に係る無線通信の秘密を漏らし、又は窃用した者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

判決要旨が来たけど 言われてみれば、該当しない

公訴事実は「被告人は,甲方に設置して運用する小電カデータ通信システムの無線局である無線LANルータのアクセスポイントと同人方に設置の通信端末機器で送受信される無線局の取扱中に係る無線通信を傍受することで,同アクセスポイント接続に必要なパスワードであるWEP鍵をあらかじめ取得し,において.同所に設置のパーソナルコンピュータを使用し,前配WEP鍵を利用しで前記アクセスポイントに認証させて接続し,もって無線局の取扱中に係る無線通信の秘密を窃用したものである。」というものである。
・・・
第2 WEPについて
1 WEPは,無線通信を暗号化する国際的な標準形式であなその際に用いられる暗号化鍵がWEP鍵である。
暗号化の過租は概ね以下のとおりである。平文(暗号化したい情報)に, 10 4ビットのWEP鍵と24ビットのIV(誰にでもわかるようになっている数字)を組み合わせた128ビットの鍵をWEPというシステムに入れることでできる乱数列を足し込んで暗号文を作成する。復号するためには,平文に足し込まれた乱数を引く必要があるが,その乱数を知るためには,WEP鍵が必要になる。
WEP方式の無線LAN通信において, WEP鍵自体は無線通信の内容そのものとして送受信されることはない。
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攻撃手法は■■■■■■■■■■■■■■■■と言われるものであり, ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■するというものである。
第3 検酎
1 電波法109条1項の「無線通信の秘密」とは,当該無線通信の存在及び内容が一般に知られていないもので,一般に知られないことについて合理的理由ないし必要性のあるものをいうと解される。
2 前記のとおり, WEP鍵は,それ自体無線通信の内容として送受信されるものではなく,あくまで暗号を解いて平文を知るための情報であり,その利用は平文を知るための手段方法に過ぎない。
WEP鍵は,大量のパケットを発生させて乱数を得ることにより計算で求めることができるという点では,無線通信から割り出せる情報ではあるものの,WEP鍵が無線通信の内容を構成するものとは評価できない。このことはWEP鍵を計算によって求めるためには,必ずしも無線LANルータと端末機器との間で送受信されるパケットを取得する必要はなく, ■■■■■■■■■■■■■■■■によってパケットを発生させることでも足りることからもいえる。すなわち, WEP鍵は,無線LANルータと端末機器との間で送受信される通信内容の如何にかかわらず,取得することができるのであり,無線通信の内容であるとはいえない
3 そうすると,,WEP鍵は,無線通信の内容として送受信されるものではなく)無線通信の秘密にあたる余地はない。
したがって, WEP鍵の利用は犯罪を構成せず,結局前記公訴事実については罪とならないから,刑訴法336条により,被告人には無罪の言渡しをする。

http://d.hatena.ne.jp/okumuraosaka/20130326#1364291985
電波法要説第5版h24 p236
(4) 「窃用」とは、無線通信の秘密(存在又は内容)を発信者又は受信者の意思に反してそれを自己又は第三者の利益のために利用することである
(2) 暗号通信に係る罰則
平成16年の電波法改正で通信の秘密に関する罰則が追加された(法109条の2)。本条では新たに「暗号通信」という概念を設定し、「通信の当事者(当該通信を媒介する者であって、その内容を復元する権限を有するものを含む。)以外の者がその内容を復元できないようにするための措置が行われた無線通信」と定義した上で、「当該暗号通信の秘密を漏らし、又は窃用する目的で、その内容を復元」することを対象に、一般の場合と業務に従事する者の場合に分けて上記と同じ罰を規定している(ただし、未遂罪も罰することとしている。)。
近年無線LAN等の普及が進展する中で、それらによる通信のセキュリティを確保することがますます重要になってきており、いわゆるサイバー犯罪への対応の必要性を指摘する声が強まっているが、国際的にも「サイバー犯罪に関する条約」が策定されて我が国も署名し、現在発効に向けての取組みが行われている。同条約は、コンピューター・データの非公開送信の傍受を国内法上の犯罪と位置付けることを求めているが、現行の第109条では「秘密を漏らし、又は窃用した」段階で罰則が適用されるに過ぎず不十分で、あるため、その前段階の行為である暗号通信の内容復元自体を対象とする罰則を創設し、条約の趣旨を実現しようとするものである。
なお、本第109条の2と第59条の関係であるが、いずれも通信の秘密の保護を目的とする点では共通で、あるものの、暗号通信の復元それ自体は傍受、存在・内容の漏洩、窃用といった行為とは別のものであり、第109条の2に該当する行為があったとしてもそれだけで第59条違反になるものではない。したがって罰則は適用になっても無線局の運用停止等の行政処分の対象にはならないということも起こりうることになる。

無線LAN:他人の無断使用し犯罪 東京地裁が懲役8年 - 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20170427/k00/00e/040/265000c
電波法違反は無罪 不正アクセス禁止法違反で
 他人の無線LANを無断使用してサイバー犯罪に悪用したとして、電波法違反(無線通信の秘密の窃用など)などの罪に問われた被告に対し、東京地裁(島田一裁判長)は27日、同法違反を無罪とした上で、他の不正アクセス禁止法違反などについて、懲役8年(求刑・懲役12年)の判決を言い渡した。【石山絵歩】

無線LANただ乗り 「通信の秘密」主張対立 電波法違反 あす司法判断
2017.04.26 読売新聞
 他人の無線LANを無断で使う「ただ乗り」は、電波法違反に当たるのかが争われた刑事裁判の判決が27日、東京地裁(島田一裁判長)で言い渡される。家庭に広く普及した無線LANのただ乗りがサイバー攻撃に悪用されるケースが相次いでおり、初の司法判断が注目される。

 無線LANの多くは、利用者ごとに「暗号鍵」と呼ばれるパスワードが設定され、他人は使用できない仕組みになっている。松山市の被告は2014年6月、近所の男性が利用する無線LANの暗号鍵を解読し、入手した鍵を自分のパソコンに入力してインターネットに接続する「ただ乗り」をしたとして、電波法違反で起訴された。
 さらに、被告は同年2〜6月、ただ乗りによって企業や個人にウイルスメールを送付。ネットバンキング用のIDやパスワードを盗んだり、計519万3000円を被告側に不正送金させたりしたとして、電子計算機使用詐欺罪や不正アクセス禁止法違反などにも問われている。起訴は計10回に上るが、被告はすべて否認している。

 公判で、争点として浮上したのが「無線通信の秘密を漏らしたり、無断で使用したりしてはならない」とする電波法の規定だ。地裁から、ただ乗りの違法性を具体的に説明するよう要請された検察側は「暗号鍵自体が秘密にあたる」とし、「他人の暗号鍵を使って無線LANを使う行為は、秘密の無断使用にほかならない」と主張。他の起訴事実と合わせ懲役12年を求刑した。

 一方、弁護側は「秘密とは無線通信の内容や存在を指す」と指摘。「暗号鍵そのものは他人の通信内容にはあたらない。暗号鍵を無断で使っても電波法違反にはならず、現行法では罪に問えない」と反論している。