児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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謝罪のために裸にさせ撮影した事例

 こういう判例があるので、謝罪のためであって「犯人の性欲を刺戟興奮させまたは満足させるという性的意図」がなかったということだと、強制わいせつ罪は成立しないことになる。

事件番号】 最高裁判所第1小法廷判決
【判決日付】 昭和45年1月29日
弁護人塩谷千冬の上告趣意中判例違反をいう点は、所論引用の判決は性欲の刺戟興奮以外の目的で婦女に暴行脅迫を加え裸体写真を撮つた行為が強制わいせつの罪を構成するか否かについては何ら判示していないから、本件に適切でなく、所論は不適法であり、その余の論旨及び弁護人高橋良祐の上告趣意は、いづれも単なる法令違反の主張で適法な上告理由にあたらない。
 しかし、職権により調査するに、刑法一七六条前段のいわゆる強制わいせつ罪が成立するためには、その行為が犯人の性欲を刺戟興奮させまたは満足させるという性的意図のもとに行なわれることを要し、婦女を脅迫し裸にして撮影する行為であつても、これが専らその婦女に報復し、または、これを侮辱し、虐待する目的に出たときは、強要罪その他の罪を構成するのは格別、強制わいせつの罪は成立しないものというべきである。本件第一審判決は、被告人は、内妻Aが本件被害者Bの手引により東京方面に逃げたものと信じ、これを詰問すべく判示日時、判示アパート内の自室にBを呼び出し、同所で右Aと共にBに対し「よくも俺を騙したな、俺は東京の病院に行つていたけれど何もかも捨ててあんたに仕返しに来た。硫酸もある。お前の顔に硫酸をかければ醜くなる。」 ……と申し向けるなどして、約二時間にわたり右Bを脅迫し、同女が許しを請うのに対し同女の裸体写真を撮つてその仕返しをしようと考え、「五分間裸で立つておれ。」と申し向け、畏怖している同女をして裸体にさせてこれを写真撮影したとの事実を認定し、これを刑法一七六条前段の強制わいせつ罪にあたると判示し、弁護入の主張に対し、「成程本件は前記判示のとおり報復の目的で行われたものであることが認められるが、強制わいせつ罪の被害法益は、相手の性的自由であり、同罪はこれの侵害を処罰する趣旨である点に鑑みれば、行為者の性欲を興奮、刺戟、満足させる目的に出たことを要する所謂目的犯と解すべきではなく、報復、侮辱のためになされても同罪が成立するものと解するのが相当である」旨判示しているのである。そして、右判決に対する控訴審たる原審の判決もまた、弁護人の法令適用の誤りをいう論旨に対し、「報復侮辱の手段とはいえ、本件のような裸体写真の撮影を行なつた被告人に、その性欲を刺戟興奮させる意図が全くなかつたとは俄かに断定し難いものがあるのみならず、たとえかかる目的意思がなかつたとしても本罪が成立することは、原判決がその理由中に説示するとおりであるから、論旨は採用することができない。」と判示して、第一審判決の前示判断を是認しているのである。
 してみれば、性欲を刺戟興奮させ、または満足させる等の性的意図がなくても強制わいせつ罪が成立するとした第一審判決および原判決は、ともに刑法一七六条の解釈適用を誤つたものである。
 もつとも、年若い婦女(本件被害者は本件当時二三年であつた)を脅迫して裸体にさせることは、性欲の刺戟、興奮等性的意図に出ることが多いと考えられるので、本件の場合においても、審理を尽くせば、報復の意図のほかに右性的意図の存在も認められるかもしれない。しかし、第一審判決は、報復の意図に出た事実だけを認定し、右性的意図の存したことは認定していないし、また、自己の内妻と共同してその面前で他の婦女を裸体にし、単にその立つているところを写真に撮影した本件のような行為は、その行為自体が直ちに行為者に前記性的意図の存することを示すものともいえないのである。しかるに、控訴審たる原審判決は、前記の如く「報復侮辱の手段とはいえ、本件のような裸体写真の撮影を行つた被告人に、その性欲を刺戟興奮させる意図が全くなかつたとは俄かに断定し難いものがある」と判示しているけれども、何ら証拠を示していないし、また右意図の存在を認める理由を説示していないのみならず、他の弁護人の論旨に対し本件第一審判決には、事実誤認はないと判示し控訴を棄却しているのであるから、原判決は、本件被告人に報復の手段とする意図のほかに、性欲を刺戟興奮させる意図の存した事実を認定したものでないこと明らかである。してみれば、原判決は、強制わいせつ罪の成否に関する第一審判決の判断を是認し維持したものといわなければならない。
 要するに、原判決には刑法一七六条の解釈適用を誤つた違法があり、判決の結果に影響を及ぼすことが明らかであつて、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認める。
 そして、第一審判決の確定した事実は強制わいせつ罪にはあたらないとしても、所要の訴訟手続を踏めば他の罪に問い得ることも考えられ、また原判決の示唆するごとく、もし被告人に前記性的意図の存したことが証明されれば、被告人を強制わいせつ罪によつて処断することもできる次第であるから、さらにこれらの点につき審理させるため刑訴法四一一条一号四一三条により原判決を破棄し、本件を原裁判所に差し戻すべきものとする。
 よつて、裁判官入江俊郎、同長部謹吾の反対意見があるほか裁判官全員一致の意見により主文のとおり判決する。

http://digital.asahi.com/articles/ASJ816R4WJ81UUHB00J.html
容疑者は「裸にしたのは合意のうえだ」などと容疑の一部を否認しているという。
 署によると、容疑者は7月25日夜、経営する書店の事務室で、トラブルの相手となった県央在住のアルバイト男性(22)を「本当ならぶっ殺しているところだ」などと脅したうえ、男性の交際相手の女性(20)に「謝罪するなら裸になれ」という趣旨の話をして全裸にし、写真を撮影するなどのわいせつ行為をした疑いがある。
 被害者2人が24日に知人宅を訪れた際、容疑者が借りている駐車場に無断で車を止めたため、容疑者が2人の車の前に自分の車を止めて発進できないようにした。25日昼ごろ、車を移動してもらうため、被害者の女性が容疑者に会うと「謝罪に来い」と言われて男性と書店を訪れ、被害に遭ったという。2人が翌日、署に通報して発覚した。