児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

傾向犯の判決(福岡高裁H26.10.15)

 性的傾向を示す「わいせつ行為しようと企て」とか書かなくても分かるというのですよ。
 なお、証拠にある「乳首露出させた行為」は色々あって、ここでは落ちていることに注意。

論旨は,次のとおりである。
すなわち,①原判示各1の事実」には,被告人の性的傾向を示す「わいせつ行為をしようと企て」との文言がないので,強制わいせつ罪の構成要件を満たしているとはいえないから,原判決には理由不備の違法がある,
というのである。
そこで,検討する。
①については,原判示各1の事実の具体的内容は,いずれも被告人が 各被害児童に対し,衣服を脱がせて臀部又は陰部を露出する姿態をとらせ,これをカメラ機能付き携帯電話機で撮影したというものであり,その外形的行為自体から,被告人がその性欲を満足させるという性的意図のもとに行ったことが推認されることのほか,罪となるべき事実の末尾には「もってわいせつな行為をした」旨の記載があることにも鑑みると,所論がいうような「わいせつ行為をしようと企て」との文言がなくとも,強制わいせつ罪の構成要件該当事実は過不足なく記載されているといえるから原判決に理由不備の違法はない。

 なお、自画撮・sexting事案について、広島高裁岡山支部は「強制わいせつ罪の訴因には性的傾向を記載しなければならない。記載してないので強要罪だ」とか判示していました。

広島高裁岡山支部H22.12.15
2そこで,原審記録を調査し検討する。
(1)前記控訴理由第3についてそもそも訴因制度を採用した現行法の下では,裁判所としては,訴因の制約の下において,訴因に表れた事実について犯罪の成否を判断すれば足り,これにより実体的真実との乖離が甚だしく,これを放置することが正義感情に反すると思われる特段の事情のある場合に,釈明,訴因変更の勧告,訴因変更命令等の措置を取るべきは別として,そのような例外的な場合に該当しない限り,訴因外の事実をも(罪となるべき事実)として認定し別罪の成否を審理・判断する義務はないというべきである(最高裁判所昭和59年1月27日第1小法廷決定・刑集38巻1号136頁参照)。
ところで,原判示第3の事実は,被告人が,当時16歳の被害者Aを脅迫し,同人に乳房及び陰部を露出した姿態等をとらせ,これをカメラ機能付き携帯電話機で撮影させたなどの,強制わいせつ罪に該当し得る客観的事実を包含しているが,強制わいせつ罪の成立には犯人が性的意図を有していることが必要であるところ,原判示第3の事実に,被告人が上記性的意図を有している事実が明示されてはいない。
また,原判示第3の事実にかかる起訴状には,原判示第3の事実と同旨の公訴事実が記載され,その罰条として,3項製造罪のほか,「強要刑法223条」と記載されているのみであるから,検察官において,上記性的意図を有していることも含めて訴因を設定する意思があったとは認められず,原判決が,被告人が上記性的意図を有していることも含めた訴因であることを前提に原判示第3の事実を認定したとも認められない。
なお,所論は,原判決が上記性的意図を認定している旨も指摘するが,原判決は,(量刑の理由)欄において被告人に性的欲望を満たすためという動機があった旨説示しているにすぎず,(罪となるべき事実)として性的意図の存在を認定したものではないから,原判決の上記説示が上記結論を左右するものではない。
そうすると,原判示第3の事実だけでも強制わいせつ罪が成立するとは解されず,所論は前提を欠いており,原判示第3の事実中,強要の点に刑法223条を適用して強要罪の成立を認めた原判決に法令適用の誤りがあるとは認められない。
なお,所論は,法条競合という実体法上の問題であるから,訴訟法上の問題は無関係であり,強制わいせつ罪を構成する事実が認定された場合には強要罪は成立しない旨も主張するが,独自の見解といわざるを得ない上,原審記録を精査しても上記特段の事情があるとは認められないから,所論は失当である。
所論引用の大審院判例及び高裁判例は,いずれも訴因制度が採用される以前の旧法下の事案であるか,訴因として恐喝未遂罪と強要罪が設定されている事案又は強要罪として掲げられた訴因中に恐喝罪若しくは逮捕罪に該当する事実がすべて掲げられている事案であって,本件はその射程外の事案である。

 東京高裁に至っては性的傾向不要と判示していました。

東京高裁h26.2.13
1 事実関係
被告人は,被害女性に対する自らの思いが拒絶され,自らが心血を注いでいたバンド活動も継続できなくなったことから,被害女性に対して復讐したいとの感情を抱くに至った。被告人は,平成24年12月15日午後7時18分頃から同日午後9時43分頃までの問,スタジオ内において,被害女性(当時24歳)に対し,その首を絞め,転倒した被害女性の上に乗り,その額をつかんで床に押し付け,両手首に手錠を掛け,口付近にテープを巻き付けて口を塞ぐなどの暴行を加え,その着衣を脱がせて乳房を採み,瞳内に手指及びパイプレーターを挿入し,その際,被害女性に全治まで約2週間を要する頭部打撲,頭部打撲等の傷害を負わせた(強制わいせつ致傷)。
被告人及び弁護人は,一審・控訴審ともに,本件は,被告人が,被害女性に対する報復を目的として被害女性が精神的に最も苦痛を抱くであろう性的手段によって暴行を加え,傷害を負わせた事案であって,犯行当時,被告人は性的意図は有していなかった旨主張し強制わいせつ致傷罪の成立を争った。

3 本判決の要旨
原判決に対し被告人側が控訴したが本判決は原判決が,主として本件犯行態様から被告人に性的意図があったことを推認し,被告人には性的意図とともに報復目的が併存していることを認定した上で,本件犯行態様は性的色彩が強く,執助かつ長時間に過ぎること等から弁護人の主張は採用できないと判断しているのは,いずれも経験則に適う合理的なものであって正当として是認できるとし,被告人が性的意図を有していた旨認定した原判決の判断に誤りはないとした。
その上で,本判決は,さらに,「なお,本罪の基本犯である強制わいせつ罪の保護法益は被害者の性的自由であると解されるところ.同罪はこれを侵害する行為を処罰するものであり,客観的に被害者の性的自由を侵害する行為がなされ,行為者がその旨認識していれば,同罪の成立に欠けることはないというべきである。本件において,被告人の行為が被害者の性的自由を侵害するものであることは明らかであり被告人もその旨認識していたことも明らかであるから,強制わいせつ致傷罪が成立することは明白である。被告人の意図がいかなるものであれ本件犯行によって被害者の性的自由が侵害されたことに変わりはないのであり犯人の性欲を刺激興奮させまたは満足させるという性的意図の有無は上記のような法益侵害とは関係を有しないというべきである。そのような観点からしても,所論は失当である。」(下線筆者)と判示した。
2 本判決についての考察
以上のとおり,強制わいせつ罪における性的意図の必要性については,学説上対立があり,裁判例においても最高裁判決と下級審の判決とでその扱いを異にする状況が生じていた。
捜査実務においては,基本的には前記最高裁判決の立場,すなわち性的意図必要説に従った運用がなされてきたものと思われるところ,犯行が,客観的に見てわいせつな行為であることが明らかな場合については,性的意図の立証にはさほど苦労しないと思われる(本判決においても,主に犯行態様から,被告人に性的意図があったものと認定している。)ものの,客観的に見てわいせつな行為であることが明らかとまで言い切りにくい行為(例えば,単に接吻する行為や,裸体を写真撮影するに留まる行為などが考えられる。)については,性的意図の立証には,相応の苦労があったものと思われる。