児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp3@okumura-tanaka-law.com)

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成瀬幸典 強制わいせつ罪の主観的要件として犯人の性的意図は必要ではないとした事例神戸地裁h280316法学教室2106年09号

 神戸地裁h28の解説としては第1号と思われます。被告人控訴で、下記の判例違反を主張されている模様です。
 学者は「判例も今では不要説」というのですが、強要罪の方からつついて、性的意図必要説の判例が量産されています。

?広島高裁h23.5.26*1
?東京高等裁判所H28.2.19*2(上告中)
弁護人は,?被害者(女子児童)の裸の写真を撮る場合,わいせつな意図で行われるのが通常であるから,格別に性的意図が記されていなくても,その要件に欠けるところはない,?原判決は,量刑の理由の部分で性的意図を認定している,?被害者をして撮影させた乳房,性器等の画像データを被告人使用の携帯電話機に送信させる行為もわいせつな行為に当たる,などと主張する。
しかしながら,?については,本件起訴状に記載された罪名及び罰条の記載が強制わいせつ罪を示すものでないことに加え,公訴事実に性的意図を示す記載もないことからすれば,本件において,強制わいせつ罪に該当する事実が起訴されていないのは明らかであるところ,原審においても,その限りで事実を認定しているのであるから,その認定に係る事実は,性的意図を含むものとはいえない。
?広島高裁岡山支部H22.12.15*3
ところで,原判示第3の事実は,被告人が,当時16歳の被害者Aを脅迫し,同人に乳房及び陰部を露出した姿態等をとらせ,これをカメラ機能付き携帯電話機で撮影させたなどの,強制わいせつ罪に該当し得る客観的事実を包含しているが,強制わいせつ罪の成立には犯人が性的意図を有していることが必要であるところ,原判示第3の事実に,被告人が上記性的意図を有している事実が明示されてはいない。
?福岡高裁h26.10.15*4
第1理由不備,理由齟齬,公訴の不法受理の論旨について
論旨は,次のとおりである。すなわち,?原判示第1の1,第2のl,第3の1,第4の1,第5の1,第6の1及び第7の1の各事実(以下,これらを併せて「原判示各1の事実」という)には,被告人の性的傾向を示す「わいせつ行為をしようと企て」との文言がないので,強制わいせつ罪の構成要件を満たしているとはいえないから,原判決には理由不備の違法がある,・・・というのである。
そこで,検討する。?については,原判示各1の事実の具体的内容は,いずれも被告人が公園のトイレや駐輪場などで,各被害児童に対し,衣服を脱がせて臀部又は陰部を露出する姿態をとらせ,これをカメラ機能付き携帯電話機で撮影したというものであり,その外形的行為自体から,被告人がその性欲を満足させるという性的意図のもとに行ったことが推認されることのほか,罪となるべき事実の末尾には「もってわいせつな行為をした」旨の記載があることにも鑑みると,所論がいうような「わいせつ行為をしようと企て」との文言がなくとも,強制わいせつ罪の構成要件該当事実は過不足なく記載されているといえるから原判決に理由不備の違法はない。
?東京高裁h13.9.18*

東京高等裁判所H28.2.19の検察官答弁書
判例
なお,控訴趣意書18頁記載の東京高判平成26年2月13日東京高刑裁速報3519号は,確かに,なお書きとして,強制わいせつ罪の成立に性的意図は不要であるかのような説示をしている。しかし,当該事件は,まさに同事件の被告人が犯行当時性的意図を有していたか否かが争点であり,同事件の第一審判決は,同事件が性的意図を欠いた報復目的で行われたとする同事件の第一審弁護人の主張を排斥し,同事件の被告人に性的意図と共に報復目的が併存していたことを認定しているところ,控訴審たる東京高等裁判所判決も,同事件が報復目的のみで行われたとする同事件の控訴審弁護人の主張を排斥して,第一審の判断を支持し,同事件の被告人に性的意図と共に報復目的が併存していたことを明確に認定した上,更に,なお書きで,上記の説示をし,弁護人の控訴を棄却したのである。そこで,上告審弁護人は,上告趣意として,同東京高判が最判昭和45年1月29日刑集24巻1号1頁に反していると主張したが,最高裁判所第二小法廷は,当該判例違反の論旨は原判決に影響のないことが明らかな事項に関する判例違反の主張であって刑訴法第405条の上告理由に当たらない旨判示して,決定で上告を棄却し,同事件の被告人からの異議申立てをも決定で棄却したのである。よって,上記東京高判の存在にもかかわらず,最判昭和45年1月29日刑集24巻1号1頁は,判例として変更されてはいないことになる。

【解説】
1 強制わいせつ罪の主観的要件として性的意図が必要であるか否かについては,古くから,必要説と不要説が対立してきた。判例は,最判昭和45・1 .29刑集24巻1号1頁(以下, 昭和45年判決)が「刑法176条前段のいわゆる強制わいせつ罪が成立するためには, その行為が犯人の性欲を刺戟興奮させまたは満足させるという性的意図のもとに行なわれることを要〔する〕」として以来,必要説を前提にしているが,学説は,以前は,強制わいせつ罪を傾向犯と解し,必要説を支持する見解も有力であったものの(時国康夫「判解」最判解刑事篇昭和45年度5頁は, 強制わいせつ罪を目的犯又は傾向犯とする見解を通説とした上で, 昭和45年判決は「通説を妥当のものとみる立場に立っている」とした。
 強制わいせつ罪を傾向犯とする近時の学説として, 高橋則夫『刑法総論〔第2版〕」93頁等),現在では,強制わいせつ罪は個人の性的自由の侵害を処罰するものであり,性的自由の侵害と行為者の性的意図とは無関係であるとして不要説を支持するものが圧倒的多数である(伊藤・後掲31頁参照)。また,判例についても,すでに東京地判昭和62・9・16判時1294号143頁が実質的に不要説と解される判断を示していたところ,最近,東京高判平成26・2・13高刑速(平成26)45頁が,傍論ではあるものの, 「客観的に被害者の性的自由を侵害する行為がなされ,行為者がその旨認識していれば」, 強制わいせつ罪は成立しうるとしたことを受け,判例が現在でも必要説を維持していると確言することはできず(伊藤・後掲31頁),性被害を重視する国民の意識の流れからは, 判例変更の可能性も十分考えられる(前田雅英「刑法各論講義〔第6版〕」96頁) との指摘がなされるようになっている。

本判決の意義は, このような状況下において,近年の多数説と同様の論拠に基づき不要説を支持した上で,昭和45年判決を「相当でない」と明示して,上記指摘の妥当性を裏付ける判断をした点にある。もっとも,近年の多くの裁判例においても,性的意図の有無が争点になっており,裁判所は積極的に性的意図の認定に取り組んでいること(広島高判平成23.5・26LEX/DB25471443,大分地判平成25.6・4LEX/DB25445758,名古屋地判平成25・9・9LEX/DB25502130,津地判平成26.6・llLEX/DB25504193, 佐賀地判平成26・10・16.LEX/DB25505335, 盛岡地判平成28・3・8LEX/DB25542685), 前掲大分地判平成25.6・4のように「強制わいせつ罪が成立するためには,犯人の性欲を刺激興奮させ又は満足させるという性的意図が必要であり,専ら報復・侮辱・虐待等の目的に出た行為であれば,強制わいせつ罪には当たらない」と明言している裁判例も存在することに照らすと,裁判例の大勢は,現在でも,性的意図必要説を前提にしていると考えられ, この問題に関する今後の動向が注目される。

伊藤亮吉 「強制わいせつ罪における主観的要素」刑法判例百選各論(7版)p31
5 現在の状況
本判決以降の下級審判決は本判決同様に必要説にしたがい性的意図を要求してきた(例えば,名古屋地判昭和48・9・28判時736号110頁,釧路地北見支判昭和53・10・6判タ374号162頁)。しかし,性的意図を否定して強要罪の成立を認めたものはなしまた近年では東京地判昭和62. 9・16(判時1294号143頁)は,被告人が自己の「営む女性下着販売業の従業員として働かせようという目的」をもって被害者を無理矢理全裸にして写真を撮影したという本件類似の事案において,被告人は「強制わいせつの意図をも有して」いた,すなわち,「わいせつ行為であることを認識しながら,換言すれば,自らを男性として性的に刺激,興奮させる性的意味を有した行為であることを認識し」ていたとして強制わいせつ致傷罪(刑181条I項)の成立を認めた。
この判決の理論構成は,本判決にしたがって性的意図の存在を必要とするものではあるが,その内容の実態はわいせつ行為の認識すなわち故意にすぎず,性的意図とは異なるものである。これは強制わいせつ罪における主観的意図の存在を実質的に否定するものといえ(佐伯仁志・判タ708号65頁),判例が現在においても本判決にいう必要説を維持していると確言することはできないであろう。