児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

坪井麻友美検事「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律について」H26_捜査研究 第63巻第9号(2014年9月号)

 立法者がどう言おうと、ひそかに製造罪は複製も含むとしています。これが実務です。
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 「ひそかに」というのは窃視罪から借りてきた概念なので、その解釈に従うべきでしょう。

軽犯罪法新装第2版伊藤栄樹・勝丸充啓
2) 『ひそかに』
「ひそかに」とは,見られないことの利益を有する者に知られないようにすることをいう。見られる者以外の者に知られると否とを問わない。不特定多数の人の面前で、行っても,見られる者に知られないようにすれば,「ひそかに」のぞき見たことになる。見られる者の承諾があれば,「ひそかに」には当たらないことはいうまでもない。

2 「児童ポルノ」の定義の変更(第2条第3項第3号)
( 却要件
ア「殊更に」
「殊更に」とは,「意図的に」「確定的認識を持って」などという意味に使われるのが通常であるが,本号の「殊更に」の文言は,被写体の児童や撮影者の主観的意図に係る要件として規定されたものではなく,問題となる写真や映像等(以下「写真等」という。)の内容が性欲の興奮又は刺激に向けられていると評価されるものであることを要求する趣旨の文言である。
例えば,自宅の庭で水浴びをしている裸の幼児のごく自然な姿が撮影された写真等であって,その画像の客観的状況から内容が性欲の興奮又は刺激に向けられていると評価されるものではない場合には,これまでは「性欲を興奮させ文は刺激させるもの」という要件の該当性判断において基本的に3号ポルノに該当しないとされてきたと考えられるが,今後は,この「殊更に」以下の要件によっても,基本的には3号ポルノに該当しないこととなるものと考えられる。
「『殊更に』性的な部位が露出され文は強調されているもの」に該当するかどうかは,当該写真等に描写された内容,より具体的には,児童の性的な部位の露出の有無及び着衣の状況当該部位の描写が当該写真等全体に占める割合,描写されている児童のポーズ等を総合的に考慮して判断され
ることになると考えられる。
イ「性的な部位」
「性的な部位」とは,「性器等若しくはその周辺部,臀部文は胸部」であるところ,ここにいう「性器等」とは,「性器,肛門又は乳首」をいう(第2条第2項参照)。
ウ「強調」
「露出」のみでは,性的な部位が下着等で一応覆われてはいるが,強調や誇張されている場合が含まれないことから性的な部位の「強調」も対象とすることとされた。
これにより,下着等を身に着けることで性的な部位が露出されていない場合であっても,殊更に性的な部位が強調されていると認められれば児童ポルノに該当し得る(ただし,後記(?ア(ア)に留意。)。
(3) 留意点
ア従来の要件との関係
改正により, 3号ポルノとは,?「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態」,?「殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているもの」,?「性欲を興奮させ又は刺激するもの」の3つの要件を満たすものとされるが,それぞれの判断要素に重なり合う部分があると考えられるため,以下の点に注意する必要がある。
ア)?「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態」 との関係
?の「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態」については,改正前から存在する要件でありその解釈を変更するとの議論もなされていないため,その意味は改正前と同様,社会通念上衣服と認められる物を全く着用していないか,又は衣服の一部を着用していない状態の児童の姿態をいう(全裸や半裸の状態が典型的な例である。)。そして,?の「殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているもの」との要件を満たすといえる場合であっても,この?の要件をも満たすことが必要であることに注意が必要である。
例えば,水着を着用している児童の姿態であっても,水着をめくって性的な部位を見せている場合,水着の性器等に当たる部分を殊更に細くして陰部や臀部に食い込ませている場合水着と称してはいても性的な部分を覆う布等の面積が極めて小さく,ほぽ全裸に近いと認められる場合などは,通常?の要件を満たすと考えられるが,通常の水着を通常の方法で着用している場合は一般的には?の要件を満たさないと解されていることから, 3号ポルノに当たるといえるためには,?の要件を満たすことに加え,上記の例の場合が社会通念上衣服の一部を着用していない状態に当たるとして,?の要件をも満たすことについても立証する必要がある。
イ)?「性欲を興奮させ又は刺激するもの」との関係
?の「性欲を興奮させ又は刺激するもの」に該当するかどうかは,従来から,性器等が描写されているか否か,児童の裸体等の描写が当該写真等全体に占める割合,児童の裸体等の描写方法等の諸般の事情を総合的に考慮して,一般人を基準として判断すべきものとされてきた7)。
つまり,改正により追加された?の「殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているもの」かどうかという点は,従来から?の「性欲を興奮させ又は刺激するもの」という要件の該当性判断の中で重要な要素として考慮されてきたものであり,その意味において,?の要件の該当性と?の要件の該当性の判断は相当程度重なり合うものと考えられる。
イ処罰範囲の変更の有無
本改正により3号ポルノの定義に新しい要件が付け加わることとなるため,理論的には,罰則の範囲が縮小するとも考えられ,このような観点から,附則第2条においては「この法律の施行前にした行為に対する罰則の適用については,なお従前の例によるりとの罰則についての経過措置が置かれた。よって,本改正法施行前の児童ポルノ事犯については,旧法が適用されることとなる。
もっとも,前記ア(イ)のとおり,殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであるかどうかという点は従来から「性欲を興奮させ又は刺激するもの」という要件の該当性判断の中で重要な要素として考慮されてきたものであり,実質的に見れば,従来であれば当然処罰の対象とされてきたものが本改正により処罰対象外となるものではないと考えられる。

5 「自己の性的好奇心を満たす目的での児童ポルノの所持等の罪(第7条第
1項)
(1) 罰則新設の趣旨
自己の性的好奇心を満たす目的で,児童ポルノを所持し,又は児童ポルノに係る電磁的記録を保管8)した者(自己の意思に基づいて所持文は保管するに至った者であり,かつ,当該者であることが明らかに認められる者に限る。)は, 1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処することとする罰則が新設された(なお,以下,児童ポルノを所持し,又は児童ポルノに係る電磁的記録を保管することを「児童ポルノの所持等」などということがある。)。
このような改正がなされたのはこれまでは,児童ポルノの製造,提供や提供目的の所持等を処罰対象としてきたところこのような児童ポルノの供給側を中心とした処罰だけでは児童ポルノを根絶することはできず,需要側をも処罰対象とすることが必要であると考えられたことによるものである。
(2) 要件
ア「自己の性的好奇心を満たす目的」
第7条第1項は,「自己の性的好奇心を満たす目的」を要件としており,このような目的による児童ポルノの所持等のみが処罰対象とされた。この目的要件が置かれた意義は,第2条第2項の児童買春におけるそれと同様,処罰範囲を合理的に限定するところにあり,第7条第1項の場合,この要件があることによって,例えば,児童ポルノをメールなどで一方的に送り付けられた者,捜査目的,報道目的,医療の記録目的で所持している者などは,第7条第1項の構成要件に該当しないことになる。
この目的が存在することは,児童ポルノを所持等するに至った経緯,所持等している児童ポルノの内容や量,所持等の態様等の客観的な諸事情を基本としつつ,これに被疑者・被告人を含む関係者の供述を総合して立証することになると考えられる。

イ「(自己の意思に基づいて所持(保管)するに至った者であり,かつ,当該者であることが明らかに認められる者に限る。)
げ) 趣旨
この括弧書の趣旨は,自己の性的好奇心を満たす目的で,児童ポルノを所持等した者のうち,「自己の意思に基づいて所持(保管)するに至った者であり,かつ,当該者であることが明らかに認められる者」との要件を満たす者に処罰を限定する趣旨である。
自己の性的好奇心を満たす目的での児童ポルノの所持等の罪の新設については,第1の改正の経緯で触れたとおり与野党で対立のあったところであり,主な反対理由は,捜査権の濫用(白白の押し付けなど)により,児童ポルノを一方的に送り付けられたような者まで処罰対象となるのではないかという懸念にあったところ,その懸念を払拭するため,この括弧書部分が付け加えられたものである。
イ) 前段
「自己の意思に基づいて所持(保管)するに至った」とは,当該所持等の開始が自己の意思に基づくことを要する旨を明らかにした要件である。所持や保管が時間的に幅のある概念であることに照らせば,この要件は,所持等の故意・認識に当然に含まれる要素であるとも考えられるが,犯罪事実や公訴事実では,便宜上,特定の日(例えば児童ポルノが捜索により発見された日)を所持等の時点として特定することも多いところ,この要件があることにより犯罪事実や公訴事実上特定されたある時点における児童ポルノの所持等の事実のみならず当該児童ポルノの所持等を実際に開始した時点において,自己の意思に基づいて所持するに至ったことを証拠により立証することが必要になると考えられる。
したがって,捜査においては被疑者が当該児童ポルノを所持等するに至った時期や経緯について証拠を収集し,また,公判においては,被告人が自己の意思に基づいて当該児童ポルノの所持等するに至ったことを立証する必要がある。
この要件により,例えば,電子メールの添付ファイルで児童ポルノ画像を一方的に送り付けられた者は基本的に処罰されないこととなる(もっとも,このような事例については,具体的な事案においては,通常,所持等の故意や性的好奇心を満たす目的が認定できず,処罰されないことになると考えられる。)。
ただし,上記のように,電子メールの添付ファイルで児童ポルノ画像を一方的に送り付けられた場合であっても,その後,例えば,当該電子メールに添付されたファイルを聞き,当該ファイルの内容が児童ポルノであることを認識した上で,自己の性的好奇心を満たす目的でこれを積極的に利用する意思に基づいて,自己のパソコンの個人用フォルダに保存し直すなどしたときには,その時点で新たな所持文は保管が開始されたと認めることができるのが通常であると思われ,その場合には,当該所持等開始の時点において「自己の意思に基づいて所持(保管)するに至った」ことが認められよう9)。
(ウ)後段
「当該者であることが明らかに認められる」の「当該者」とは,「自己の意思に基づいて所持(保管)するに至った者」のことであり,この後段部分は,「自己の意思に基づいて所持(保管)するに至った」時期や経緯などについて,できるだけ客観的・外形的な証拠により確定すべきであるとの趣旨を明らかにしたものであるとされている。
この背景には,捜査機関が自白偏重に陥るのではないかという懸念があると考えられるが,この文言は,一般に捜査機関において行われているとおり,客観証拠の収集に努め,自白がある場合にも,その自白の裏付けを取るなどして,自己の意思に基づいて所持等するに至ったことについて合理的な疑いを容れない立証を行うべきことを求めるものであって,もとより立証の程度と方法に関する刑事訴訟法の原則の例外を定めたものではなく,任意性・信用性のある自白によってこの括弧書の要件を認定することまでが排斥される趣旨ではないと考えられる。

6 盗撮による児童ポルノ製造罪の新設(第7条第5項)
(1) 罰則新設の趣旨
ひそかに児童ポルノに係る児童の姿態を写真電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより当該児童に係る児童ポルノを製造した者は, 3年以下の懲役文は300万円以下の罰金に処することとする罰則が新設された。
本法には,これまで,児童ポルノの製造について,不特定若しくは多数の者に提供し,文は公然と陳列する目的での製造行為を処罰する規定のほかにも,特定かつ少数の者に対して提供する目的での製造行為を処罰する規定(いわゆる提供目的製造罪)と,児童に第2条第3項各号の姿態をとらせてこれを写真等に描写することによる製造行為を処罰する規定(いわゆる「姿態をとらせ」製造罪)が置かれていた。
しかし,これらの行為以外でも,盗撮により児童ポルノを製造する行為は,通常の生活の中で誰もが被害児童になり得ることや,発覚しにくい方法で行っている点で巧妙であることなど,その行為態様の点において違法性が高く,このような悪質な態様により児童ポルノを製造する行為は,当該児童の尊厳を害する行為であるとともに児童を性的行為の対象とする風潮が助長され,抽象的一般的な児童の人格権を害する行為にほかならず,流通の危険性を創出する点でも非難に値する。
そこで,盗撮による製造罪を新設し,第7条第3項の提供目的製造罪や同条第4項の「姿態をとらせ」製造罪と同様に処罰することとされたものであ
(2) 要件
ア「ひそかに」
「ひそかに」とは,「描写の対象となる児童に知られることのないような態様で」 という意味であり,児童が利用する脱衣所に隠しカメラを設置して盗撮するような場合が典型例である。
この要件は,児童を描写する行為の客観的態様についての要件であって,児童の承諾の有無を問題とする要件ではなく,また,当該児童が当該描写を認識しているか否かも問わない。10)

10) 「描写の対象となる児童に知られることのないような態様」に当たるかどうかは,ー般人を基準に判断することとなる。客観的にこのような態様に当たる場合,通常,被写体となる児童は描写されていることを認識・承諾していない場合が多いと考えられるが,たまたま児童が隠しカメラの存在に気付き盗撮されることを内心認容していた場合や,撮られる間際にカメラの存在に気付いた場合なども盗撮製造罪は成立し得る。

本項の児童ポルノの製造罪の趣旨は,前記のとおり,かかる行為が児童の尊厳を害し,児童を性的行為の対象とする風潮が助長され,抽象的一般的な児童の人格権を害する等の点にあり,その保護法益が児童のプライパシー権そのものではない上本項が児童ポルノを製造する行為のうち,盗撮によるものを特に処罰することとした理由が前記のとおり盗撮が行為態様の点において違法性が高いと考えられたことによるものであるから,本項の罪は児童の承諾の有無にかかわらず成立する。
イ「製造」
「製造」とは児童ポルノを作成することである。
提供目的製造罪の「製造」には児童の写真の撮影等の一次的製造行為のみならず,児童ポルノの複製,フィルムの現像,ネガ・フィルムのプリント等もこれに該当するとされているが本条項の製造罪は「ひそかに第2条第3項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を写真等に描写することにより」 という手段の限定がされているため,提供目的製造罪とは異なり,盗撮により製造された児童ポルノを後に複製する行為は,基本的に本条項の処罰対象ではないと考えられる。
もっとも,例えば児童の姿態をデジタルカメラで盗撮して児童ポルノを「製造」する場合は,撮影者本人において,デジタルカメラメモリーカード等に画像を保存するだけでなく(一次的製造) これをパソコンのハードディスク等に保存し直し(二次的製造),更にこれを印刷して写真とする(三次的製造)など,数次の「製造」に該当し得る行為を一連のものとして行うことが当初から予定されていると考えられるところ,少なくとも,このような,撮影者本人による「製造」として予定される一連の行為までもが第7条第5項の対象から除外されるものではないと考えられる11 )。

11) この点に関しては,本項と同種の手段の限定が付された第7条第4項の「姿態をとらせ」製造罪について,最高裁第三小法廷平成18年2月20日決定(判例タイムズ1200号93頁)が,「法2条3項各号のいずれかに掲げる姿態を児童にとらせ,これを電磁的記録にかかる記録媒体に記録した者が,当該電磁的記録を別の記録媒体に記憶させて児童ポルノを製造する行為は,法7条3項の児童ポルノ製造罪に当たる」と判示しているところである。この最高裁決定についての解説として,上野哲・最高裁判所判例解説刑事篇(平成18年度) 102頁,大久保仁視・警察公論61巻12号90頁などがある。

ウ他の製造罪との適用関係
本条項は「前2項に規定するもののほか」と規定しており,第7条第3項の提供目的製造罪と同条第4項の「姿態をとらせ」 製造罪のいずれにも該当しない場合のみ,本条項の盗撮による児童ポルノ製造罪が成立する。
なお,不特定若しくは多数の者に提供し,又は公然と陳列する目的がある場合には,より法定刑の重い同条第7項の罪が成立する。