児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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法務省版「平成26年の児童買春,児童ポルノ禁止法の改正に関するQ&A」

http://www.moj.go.jp/content/000124880.pdf
平成26年の児童買春,児童ポルノ禁止法の改正に関するQ&A
平成26年6月18日,参議院本会議において,いわゆる議員立法として提出された児童買春,児童ポルノ禁止法改正法案が可決されて,成立し(同月25日公布),同年7月15日から施行されることとなりました。
ただし,自己の性的好奇心を満たす目的での児童ポルノの所持等を処罰する改正法7条1項の規定は,施行の日から1年間は適用されません。
以下は,同改正法の国会審議における議論等を参考にして,今回の法改正の主要な点をまとめたものです。
※児童買春,児童ポルノ禁止法改正法の条文などの詳細は, http://www.moj.go.jp/keiji1/keiji11_00008.htmlを御覧ください。
Q1今回の法改正はどのような理由で行われたのですか。
A児童買春,児童ポルノに係る行為等は,児童の権利を著しく侵害するものであるところ,そのような行為等を処罰するとともに,その被害児童の保護のための措置等を定めることにより,児童の権利を擁護するため,平成11年に児童買春,児童ポルノ禁止法が制定され,その後,平成16年の改正により,その罰則が強化等されました。
この改正から10年が経ち,その間,インターネットの発達により児童ポルノに係る行為の被害に遭う児童が増え続けていることや,児童ポルノの単純所持罪を設けるべきとの従前からの国内の議論及び国際社会の強い要請があることなどを考慮して,今回,改正が行われたものです。
Q2今回の法改正の主要な改正点はどのようなものですか。
A今回の法改正の主要な改正点は,以下のとおりです。
1総則関係
① 法2条3項3号に規定される児童ポルノの定義につき,「殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部,臀部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているもの」であることという要件を加えること
② 適用上の注意につき,「学術研究,文化芸術活動,報道等に関する国民の権利及び自由を不当に侵害しないように留意」しなければならないなどと,適用上の注意に関する従前の規定をさらに具体化,明確化すること(法3条)
③何人も,児童買春やみだりに児童ポルノを所持する行為等をしてはならないという規定を設けること(法3条の2)
2罰則関係
① 自己の性的好奇心を満たす目的で,児童ポルノを所持等した者を処罰する規定を設けること(法7条1項)
② 盗撮により児童ポルノを製造する行為を処罰する規定を設けること(法7条5項)
3その他
社会保障審議会及び犯罪被害者等施策推進会議は,相互に連携して,児童買春の相手方となったこと等により心身に有害な影響を受けた児童の保護に関する施策の実施状況等について,定期的に検証及び評価を行うものとすること(法16条の2第1項)
② インターネット事業者は,インターネットを利用した児童ポルノに関する犯罪等の防止に資するための措置を講ずるよう努めるものとする規定を設けること(法16条の3)
Q3殊更に児童の性的な部位が露出又は強調されているものとは,どのようなものを指すのですか。
児童の全裸や半裸の写真であれば,この要件を満たすのでしょうか。
【Q2の1①関連】
A「性的な部位」とは,性器等(性器,肛門,乳首)若しくはその周辺部,臀部又は胸部のことをいい,典型的なものとしては,全裸や下着姿の児童が,性器が見えるポーズや,胸部を強調するポーズ等をとっている写真等が考えられます。
この点,「殊更に」という文言は,当該画像等の内容が,性欲の興奮又は刺激に向けられているものと評価されるものであることを要求する趣旨の文言です。
そこで,たとえ全裸の写真であっても,自宅などで水浴びをしている幼児の自然な姿を,親が成長記録として撮影した画像は,通常,「殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されている」とはいえないと考えられます。
Q4 法3条の2で,みだりに児童ポルノを所持してはならないなどとされましたが,これはどのような意義があるのですか。【Q2の1③関連】
Q4 法3条の2で,みだりに児童ポルノを所持してはならないなどとされましたが,これはどのような意義があるのですか。【Q2の1③関連】
A法3条の2は,「何人も,児童買春をし,又はみだりに児童ポルノを所持し,(中略)その他児童に対する性的搾取又は性的虐待に係る行為をしてはならない。」と規定しており,これは,掲げられているような行為が,児童の権利を著しく侵害するものであることから,これらの行為は許されるものではないことを,理念として宣言する規定です。
Q5 法7条1項の「自己の性的好奇心を満たす目的で,児童ポルノを所持した者」や,「自己の意思に基づいて所持するに至った者」とはどのような意味ですか。
児童ポルノを知らないうちに送り付けられたりした場合は法7条1項で処罰されるのですか。【Q2の2①関連】
A法7条1項の児童ポルノ所持罪が成立するためには,問題となる所持の時点において「自己の性的好奇心を満たす目的」があったと認められる必要があります。
したがって,例えば,学術研究のために,児童ポルノに該当し得る画像を所持していたような場合等には処罰されることはありません。
また,児童ポルノを「自己の意思に基づいて所持するに至った者」であると「明らかに認められる者」でなければ処罰されませんので,知らないうちに児童ポルノを送り付けられたという場合には,基本的には処罰されません。
ただし,当初は知らないうちに送り付けられた児童ポルノの画像であっても,その存在を認識した上で,自己の性的好奇心を満たす目的で,これを積極的に利用する意思に基づいて自己のパソコンの個人用フォルダに保存し直すなどした場合には,改めて「自己の意思に基づいて所持するに至った」として処罰される可能性があります。
Q6 例えば,自分の子供の海水浴の際の水着姿の写真や,水着の写真が載っている小中学校時代の卒業アルバムについては,これを持っているだけで,法7条1項で処罰されてしまうのでしょうか。【Q2の1①,2①関連】
Aまず,処罰の対象となる「児童ポルノ」であるかどうかが問題になりますが,質問にあるような写真であれば,通常,「殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているもの」とはいえず,また,「性欲を興奮させ又は刺激するもの」ともいえないと考えられます。
また,法7条1項で処罰されるのは,「自己の性的好奇心を満足させる目的」での所持であり,このような目的がなく,両親が,成長の記録や思い出として子供の写真を持っている場合や,思い出として卒業アルバムを持っている場合は,法7条1項の目的の要件を満たしません。
そうすると,質問にあるような写真やアルバムの所持については,法7条1項で処罰されることはありません。
Q7 法7条1項の所持罪が新設されることにより,捜査機関による濫用のおそれはありませんか。【Q2の1①,②,2①関連】
A法7条1項により,自己の性的好奇心を満足させる目的での児童ポルノの所持等が処罰されることとなりました。
しかし,他方で,法2条3項3号の児童ポルノの定義は,より明確なものとされ,法3条の2の適用上の注意の規定も,より具体化・明確化されました。
さらに,法7条1項の所持罪は,「自己の性的好奇心を満たす目的」等を要件として処罰範囲を限定している上,当該目的等も,関係者の供述のみに依拠するのではなく,児童ポルノの所持等に至った時期や経緯,所持している児童ポルノの内容や量,所持等の態様等の客観的事情を基本として立証することになると考えられます。
したがって,捜査機関による濫用のおそれはないと考えられます。
Q8 法7条5項の盗撮による児童ポルノ製造罪はどのような規定ですか。なぜこのような規定が作られたのでしょうか。
【Q2の2②関連】A法7条5項は,ひそかに児童ポルノに該当するような児童の姿態を写真等に描写することにより児童ポルノを製造する行為を処罰することとしています。
ここにいう「ひそかに」とは,描写の対象となる児童に知られることのない態様で,という趣旨です。
従前は,提供目的のない児童ポルノの製造行為については,意図的に児童に児童ポルノに該当するような姿態をとらせて行われるものだけが処罰されていましたが,盗撮という悪質な態様により児童ポルノを製造するような行為は,児童に姿態をとらせるような場合と同様に児童の尊厳を害する行為であるため,このような態様による製造も,提供目的がなくても処罰すべく,法7条5項が新設されました。
Q9 法16条の3はどのような規定ですか。
事業者としてはこれまで以上に何か特別な努力をしなくてはいけないのでしょうか。
【Q2の3②関連】A法16条の3は,インターネット事業者に対する,インターネットを利用した児童ポルノに関する犯罪等の防止に資するための措置を講ずる努力義務を定める規定です。
これは,これまで適切な措置等を講じてきた事業者に対して新たな措置等を講ずるように求める趣旨ではなく,そのような事業者に対しては従前の措置等を引き続き講ずるよう促すとともに,これまで適切な措置を講じてこなかった事業者に対しては,適切な措置を講ずるよう促す趣旨のものです。