児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

10歳11か月の告訴能力(金沢支部H24.7.3)

従前の判例
http://d.hatena.ne.jp/okumuraosaka/20120318#1331965127

 高検は最年少記録だと喜んでいるようですが、告訴権者の指定等で手堅く行くべきであって、告訴能力でチャレンジする必要はなかったと思います。

風俗・性犯罪シリーズ捜査実務全書9第3版P62 
有効な告訴をするためには、告訴人が告訴の意味を理解する能力が必要である。しかし、あまりにも高度な判断能力を求めると被害者保護の趣旨を没却することになるので、強制わいせつ罪などの性犯罪については、被害行為と処罰の意味をある程度理解できる年齢に達しておればよいと思われ、判例も、13歳11月の強姦の被害者(最決昭32.9.26 刑集11.9. 2376) 、13 歳7 月の強姦未遂の被害者(水戸地判昭34.7.1 下刑集1. 7.1575) について告訴能力を認めている。ただ、疑義がある場合、実務的には、親権者等の告訴状も併せて徴しておくことが肝要である。

 親族間の性的虐待事案では、告訴が取れないことがあるので、こういうことを繰り返さないためには、立法的には非親告罪として児童性的虐待罪を設けるなどして対応すべきだと思います。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120703-00000076-mai-soci
 強制わいせつ罪は親告罪で被害者側の告訴がないと起訴できない。伊藤裁判長は判決で告訴能力について「自己の被害事実を理解し、(捜査機関に)申告して処罰を求める意思を形成する能力があれば足りる」と認定。当時小学5年だった次女について▽成績は中の上で年齢相応の理解力や判断力を備えていた▽被害状況を具体的に供述し、被害感情を抱いて被告の処罰を求めているとして、告訴能力に問題はないと判断した。
 名古屋高検の水野谷幸夫次席検事は「主張がほぼ認められた。差し戻し審において適切な立証に努めたい」とのコメントを発表。被告の弁護人は「上告については本人と相談して決める」と語った。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120703-00000109-jij-soci
10歳少女の告訴能力認める=一審判決破棄、差し戻し―名古屋高裁支部
時事通信 7月3日(火)17時23分配信
 母親(39)の交際相手の男(42)から強制わいせつ行為を受けたとされる当時10歳の少女の告訴能力を認めず、起訴内容の一部を棄却した富山地裁の判決について、富山地検が不服とした控訴審の判決が3日、名古屋高裁金沢支部であった。伊藤新一郎裁判長は、当時の少女の判断力や男への処罰を求める供述内容などを根拠に、「告訴能力を備えていた」とし、一審判決を破棄し、審理を同地裁に差し戻した。
 今年1月の富山地裁判決は、この少女と当時15歳だった姉に、それぞれホテルでわいせつな行為をしたなどとして、男に強制わいせつ罪や準強姦(ごうかん)罪などで懲役13年、母親もホテルを予約したとして、ほう助罪で懲役4年を言い渡していた。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120703-00000859-yom-soci
10歳少女に告訴能力…1審判決破棄・差し戻し
読売新聞 7月3日(火)16時36分配信
 わいせつ行為を受けたとする少女(当時10歳11か月)の告訴を「幼い」などの理由で認めず、起訴事実の一部を棄却した富山地裁の判決を巡り、富山地検が不服とした控訴審の判決が3日、名古屋高裁金沢支部であった。
 伊藤新一郎裁判長は「被害状況を具体的に申告したうえで、処罰を求めており、告訴能力を備えていた」として1審判決を破棄し、審理を富山地裁に差し戻した。

事件名  強制わいせつ,傷害,準強姦
裁判年月日 平成24年07月03日
裁判所名・部 名古屋高等裁判所  金沢支部  第2部
結果 破棄差戻し
原審裁判所名  富山地方裁判所
原審事件番号  平成23(わ)100等
原審結果  
判示事項の要旨 原判決が,告訴当時10歳11か月の被害者に対する強制わいせつ被害について,親告罪の公訴提起の有効要件である被害者らによる告訴が存在しないとして公訴棄却した公訴事実について,被害者自身による検察官に対する供述調書中の被害申述及び被告人の処罰を求める供述について告訴の効力を認めて,公訴を棄却した原判決に,請求を受けた事実について審判しなかった違法(刑事訴訟法378条2号)があると認定して,原判決を破棄し原裁判所に差し戻した事例
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120720101239.pdf
主文
原判決を破棄する。
本件を富山地方裁判所に差し戻す。
理由
本件控訴の趣意は,弁護人(国選)浅野雅幸作成の控訴趣意書及び検察官眞田寿彦作成の控訴趣意書各記載のとおりであり,検察官の控訴趣意に対する弁護人の意見は上記弁護人作成の答弁書と題する書面のとおりであるから,これらを引用する。
弁護人の控訴趣意の論旨は量刑不当(刑事訴訟法381条)の主張であり,検察官の控訴趣意の論旨は請求を受けた事実について審判をしなかった違法(同法378条2号)による絶対的控訴理由の主張である。
第1検察官の控訴趣意について
所論の要点は,平成23年8月10日付け起訴状記載の公訴事実第1の1(平成23年6月24日午後11時40分ころ,富山市a町b丁目c番d号ホテルXe号室において,当時13歳未満であった被害者A(以下「被害者」という。)に自己の陰茎を口淫させるなどしたという強制わいせつ行為。以下「本件公訴棄却事実」という。)について,原判決は,公訴提起の有効要件である被害者等による告訴が存在しないとして刑事訴訟法338条4号により公訴を棄却したが,被害者の母方祖母であるB作成の告訴状(以下「本件告訴状」という。)をもって告訴がなされているのに,Bの意思を合理的に解釈せず,必要な調査も尽くさないまま,本件告訴状の被害日時の記載を形式的に捉えて前記起訴状記載の公訴事実第1の2についてのみの告訴であるとした事実誤認及び告訴当時10歳11か月の被害者自身の告訴能力を否定した事実誤認の結果,本件公訴棄却事実について親告罪の公訴提起の有効要件である被害者等による告訴がなされていないと誤った判断をした上,刑事訴訟法230条の解釈を誤って公訴を棄却したものであるから破棄されるべきもの,というものと解される。
そこで,原審記録2を調査して検討する。
1 B作成の本件告訴状が本件公訴棄却事実に対する告訴を含んでいるとの所論について
(1)
本件告訴状における対象事実の範囲原判決は,その(一部公訴棄却の理由)中において,本件告訴状が告訴の対象とした事実は,その記載内容及びこれと同一日に作成されたBの警察官調書を総合すると,被告人が被害者に対して行った平成23年6月24日及び同月25日の連続した2回の併合罪の関係にある強制わいせつ行為のうちの,本件告訴状に特定されている同年8月10日付け起訴状記載の公訴事実第1の2(同年6月25日午後10時40分ころ,前記ホテルXf号室において,被害者に自己の陰茎を口淫させるなどしたという強制わいせつ行為)と解され,同月24日の被害である本件公訴棄却事実についてまで併せて告訴の意思を表示しているとすることはできないと判示した。
これに対し所論は,本件告訴状の被害を受けた日付の曖昧さ,両被害の日時,場所の近接性,態様の同一性並びに犯行発覚の経緯,Bが告訴するに至った経緯に,Bの同年12月14日付け検察官調書を加えて合理的に解釈すれば,同人は前記起訴状記載の両公訴事実全体について処罰を求めて告訴していると解釈されるのに,本件告訴状の被害日時の記載を形式的に捉えて,同年6月25日の被害のみに限定して告訴がなされたものと認定判断した結果,Bの告訴の対象となった事実が,同年6月25日の被害事実のみであると誤って認定したものであるという。
しかしながら,Bが本件告訴状を作成した同年7月18日以前に作成されている被害者の警察官調書によれば,既に被害者への同月16日の事情聴取等の結果,被告人が,被害者の実母であるCと共謀して,被害者に対する前記起訴状記載の公訴事実第1の1及び2の各強制わいせつ行為に及んだという嫌疑が警察官に発覚するに至っていたものである上,Bの警察官調書によれば,警察官が3Bに被害者に対する本件被害状況を説明して,親権者であるCの告訴権行使が不可能であることを理由に,Bに告訴状の作成を求めたというのであるから,警察官及びBが被害者に対する前記両事実についての告訴を念頭に置いていたのであれば,本件告訴状に両日の被害について告訴する記載がなされているのが自然であるのに,実際にはあえて同年6月25日ころにわいせつ行為を受けたという被害事実に限定して記載がされていることに照らすと,本件告訴状による告訴は,前記起訴状記載第1の2の事実についてのものと解するのが相当であって,本件公訴棄却事実についてまで告訴意思を表示しているとみることはできない。
所論は,Bの前記検察官調書には,Bが本件告訴状作成当時の気持ちについて,同年6月25日以外の日でも被告人が被害者に対してわいせつな行為をした事実があるのであれば,当然その事実についても処罰してほしいと思っていた旨の記載がされているというが,その記載からは,Bが本件告訴状を作成した当時には,同年6月25日以外の日の被害については認識していなかった事実が推認されるのであって,前記判断を左右するものではない。
また,同検察官調書には,本件公訴棄却事実についても改めて被告人の処罰を求める趣旨の記載がされているが,同調書が作成されたのは同事実が起訴された同年8月10日より後であることが明らかであって,同調書の記載によって本件公訴棄却事実について公訴提起時に有効な告訴があったとすることはできない。
(2)結論
以上の次第であるから,B作成の本件告訴状によって,本件公訴棄却事実についても有効な告訴があったというべきであるから,これを否定した原判決は事実を誤認したものであるとの所論は採用できない。
2 被害者自身による告訴について
(1)所論は,この点について,親告罪の告訴について告訴能力が求められる趣旨及び低年齢者等について告訴能力が認められた裁判例並びに被害者の告訴当4時の具体的精神状況及び処罰を求める供述内容等に照らすと,被告人の処罰を求める意思の表示は告訴として有効というべきであるという。
そこで,この点についても原審記録を調査し,当審における事実取調べの結果を加えて検討する。
原判決は,検察官の原審における,被害者自身が本件公訴棄却事実の公訴提起前である平成23年8月1日付け検察官調書において,同事実について告訴の意思表示をしているから,同事実の公訴提起は有効であるとの主張に対して,その(一部公訴棄却の理由)中で,被害者が同調書作成当時10歳11か月とまだ幼い年齢であったこと,そもそも捜査機関がBに働きかけて本件告訴状を作成させた経緯及び結局,被害者には告訴状を作成させたり,通常形式の告訴調書を作成したりしていないと認められることなどに照らすと,被害者が告訴能力を有していたことには相当な疑問が残り,被害者による有効な告訴があったとは認め難いと判示して,本件公訴棄却事実について有効な告訴がなされていないことを理由に刑事訴訟法338条4号により公訴を棄却した。
(2)告訴能力制限の趣旨と訴訟行為である告訴能力について
被害者による告訴(刑事訴訟法230条)は,犯罪被害にあった事実を捜査機関に申告して,犯人の処罰を求める行為であるが,公訴を有効に提起するための訴訟条件となる親告罪における告訴を有効になすためには,告訴能力を有する被害者等による告訴がなされることが必要とされている。
即ち,犯罪捜査等による被害者の精神的被害の拡大を防止し,被害者を保護するために刑事訴追を求めるか否かを専ら被害者等の意思にかからしめることとした親告罪では,告訴は公訴提起を有効ならしめるための訴訟行為であることから,告訴人に有効な告訴をする能力が備えられていることが要求される。
その結果,意思表示によって形成される訴訟行為としての告訴を有効になすためには,意思表示を有効になし得る能力が必要とする考え方に基づいて,告訴の結果生じる利害得失を理解する能力を必要とする立場が主張されている。
しかしながら,告訴は,上記のとおり,犯罪被害にあった事実を捜査機関に申告して,犯人の処罰を求める行為であって,5その効果意思としても,捜査機関に対し,自己の犯罪被害事実を理解し,これを申告して犯人の処罰を求める意思を形成する能力があれば足りると解するのが相当である。
知的障害により知的能力が七,八歳程度と認められる成人被害者について告訴能力が肯定されるのは,このような考えの下に理解できるところである。
そこで,本件における被害者の告訴能力について,具体的に検討する。
(3)前記被告人の処罰を求める意思表示
当時の被害者の年齢,学業成績等被害者は,前記検察官調書作成当時10歳11か月の小学5年生であったが,当審において取り調べた,資料入手報告書中の被害者についての「小学校児童指導要録」及び担任教諭の検察官調書によると,在校した当時の被害者の成績は中の上くらいであり,年齢相応の理解力及び判断力を備えていたと認めることができる。
(4)被告人の処罰を求める被害者の意思表示の具体的内容
被害者は,本件公訴棄却事実を含む被告人による強制わいせつ被害の状況について,検察官及び警察官に対して供述しているところ,その内容は,平成23年6月24日は被害者の家を出て,被告人の運転する自動車の助手席に乗せられて二人でホテルXに行き,客室内で被告人が被害者の性器に触ったり,なめたりした後口淫を要求され,口内に射精された。
翌25日にも同じホテルの別の客室に入り,同様の行為をされた旨述べるとともに,上記検察官調書では,被告人に対する死刑を求めたが,検察官からそれはできないと教えられたので重い罰を与えてほしいと述べているのであるから,被害者が両日に被告人から受けた強制わいせつ被害の状況を具体的に供述しつつ,被害感情を抱いて,これに基づいて被告人の処罰を求めていると認められる。
以上の検討結果によると,被害者が同年8月1日に被告人の処罰を求める意思を検察官に表示した当時,被害者が自己の処罰を求める供述の意味及びその効果を理解しておらず,告訴としての効力が否定されるべき状況にあったと疑われる状況にあったとはいえない。
そうすると,本件では,前記のとおり,告訴6当時10歳11か月の小学5年生であり,普通の学業成績を上げる知的能力を有した被害者が,被害状況を具体的に申告した上で,その犯人として被告人を特定してその処罰を求める意思を申告していたのであるから,告訴能力としてはこれを備えているというべきである。
原判決は,警察官がBに本件告訴状を作成させた事実及び被害者本人に告訴状を作成させ,あるいは通常形式の告訴調書を作成していない事実が,警察官において被害者の告訴能力に疑いを抱いていたのを物語っており,被害者が告訴能力を有していたことには相当な疑問が残ると判示しているが,警察官が被害者の告訴能力に疑問を抱いていたか否かは,被害者の告訴能力の有無の判断に直接影響するものではない。
(5)結論
以上の次第であって,告訴当時10歳11か月で小学5年生であった被害者は,自己の強制わいせつ被害の事実を申告して,その犯人の処罰を求める告訴能力が認められるというべきである。
その趣旨で,被害者自身による被告人の処罰を求める意思表示を記載した検察官調書に基づく被害者自身による告訴の効力を認めず,本件公訴棄却事実の公訴提起が有効な告訴に基づかないものであって無効であると認定し,その公訴を棄却したのは事実を誤認し,法令適用を誤ったというべきであるから,検察官の所論は理由がある。
3 以上検討したところによれば,本件公訴棄却事実について原判決が被害者自身の告訴能力を否定して,公訴提起の有効要件である被害者等からの告訴がなされていないと認定したのは事実を誤認したものであり,この事実誤認を原因として告訴が有効になされた本件公訴棄却事実について公訴提起の効力を否定したものであるから,原判決は不法に公訴を棄却したものであって,刑事訴訟法378条2号の絶対的控訴理由があるという検察官の論旨はその限度で理由がある。
第2 結論
よって,弁護人の量刑不当の論旨について判断するまでもなく,原判決は7破棄を免れないから,刑事訴訟法397条1項,378条2号により原判決を破棄し,犯罪の成否の事実認定及び有罪となった場合の量刑についての審級の利益を考慮して,同法398条により本件を原裁判所である富山地方裁判所に差し戻すこととし主文のとおり判決する。
平成24年7月3日
名古屋高等裁判所金沢支部第2部
裁判長裁判官伊藤新一郎
裁判官梅澤利昭
裁判官小川紀代子