児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

13歳未満との青少年条例違反罪と 強制わいせつ罪・強制性交等罪との関係

 暴行脅迫がない性行為について、13歳未満のときは、刑法、13歳以上のときは青少年条例だという棲み分けがあります。
 補充性がないといっても、13未満との強制わいせつ罪・強制性交等罪について、併せて青少年条例違反が起訴されたことはありません。

福岡高裁h21.9.16は補充性の余地を認めています

福岡高裁h21.9.16
第3 法令適用の誤りの主張について
1原判示第1についての法令適用の誤りの主張(控訴理由第1及び第6)について
(1)弁護人は,①13歳未満の者に対するわいせつな行為を刑法176条後段の強制わいせつ罪よりも軽く処罰する本件条例違反の罪は,憲法94条,地方自治法ト4条1項に違反し無効である,②本件条例違反の罪は,刑法176条後段の強制わいせつ罪を補完する規定であると解され,被告人の原判示第1の行為は同罪に当たるから,本件条例違反の罪を適用した1審判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあると主張する。
(2)まず,①の主張については,刑法176条後段の強制わいせつ罪は,13歳未満の者の性的自由を保護するとともに,性的な情操を保護することによって,青少年の健全育成を図る趣旨であると解され,青少年の健全な育成を目的とする本件条例違反の罪とその趣旨を共通にする面を有しているが,他方で,たとえ13歳未満の者に対してわいせつな行為に及んだ場合であっても,行為者において,相手の年齢を13歳以上18歳未満であると誤信していたときは,刑法176条後段の強制わいせつ罪の故意を欠くため同罪は成立せず,本件条例違反の罪のみが成立することになる。そして,このような場合について,13歳未満の者の保護を図っている刑法が,行為者を同法176条後段の強制わいせつ罪よりも軽い法定刑を定めた本件条例違反の罪で処罰することを禁止しているとは解されないから,本件条例違反の罪が憲法94条,地方自治法14条1項に違反し無効であるはいえない。
(3)次に,②の主張については,本件条例違反の罪が刑法176条後段の強制わいせつ罪を補完する規定であるとしても,刑事訴訟法が採用する当事者主義的訴訟構造下では,審判の対象である訴因をどのように構成するかは,検察官の合理的裁量に委ねられているから,検察官は,13歳未満の者に対するわいせつな行為をした行為者について,事案の内容や立証の難易,その他諸般の事情を考慮して,刑法176条後段の強制わいせつ罪ではなく,本件条例違反の罪として訴因を構成して起訴することは当然許されると解される(なお,本件条例違反の罪は,強制わいせつ罪と異なり,親告罪ではないが,13歳未満の者に対するわいせつな行為の事案において,被害者やその法定代理人である親権者等が,被害者の名誉等への配慮から事件が公になることを望まず,告訴しなかったり,あるいは告訴を取り下げた場合に,検察官が行為者を本件条例違反の罪で起訴することは現実的には想定しがたいから,13歳未満の者に対するわいせつな行為を本件条例違反の罪として起訴することを許容しても,強制わいせつ罪が親告罪とされている趣旨が没却されるとはいえない)。これを本件について見ると,被告人は,刑法176条後段の強制わいせつ罪等の罪で逮捕,勾留されたこと,しかし,捜査段階の当初は,被害児童の年齢に関する認識について,「JR駅で被害児童の制服姿を見て,実際の12歳相応以上の年齢だということは分かった。この時私は被害児童の年齢について,12歳以上15歳以下の中学生であると確信した」旨供述していたが(1審乙4),その後,「初めて会った時被害児童から直接『10歳です』と年齢を聞いていたが,容姿などから,実際の年齢に近い12歳という年齢は想像がついた。しかし,実際に話してみて,話している内容が妙に大人びていたので,これまで刑事さんには『12歳から15歳位の中学生と思っていた』と話した」旨その供述を微妙に変遷させている(1審乙6)。このような被告人の捜査段階での供述状況その他の証拠関係等に照らすと,検察官は,被害児童の年齢に関する被告人の認識の立証が必ずしも容易でないこと等を考慮し,刑法176条後段の強制わいせつ罪ではなく,本件条例違反の罪として訴因を構成し,被告人を起訴したと推察され,そのような検察官の公訴提起に関する裁量権の行使には合理性があったと認められる。また,被告人は,原審公判では「電話のやり取りから被害児童は高校1年生だと思った」旨さらに供述を変遷させていることをも併せ考えると,原判決が,被告人に対して,検察,官が起訴した本件条例違反の罪の成立を認めたことに,法令適用の誤りがあるとは到底いえない。
(4)以上のとおり,原判示第1について法令適用の誤りをいう弁護人の主張は理由がない。

阪高裁h23.12.21も補充性を否定して、訴追裁量だという説明です

阪高裁h23.12.21
(3)原判示第3の1についての主張論旨は,上記事実は,当時12歳であった被害男児に対するわいせつ行為を内容とするものであり,かつ,被告人において被害男児の年齢の知情性に問題はなかったものであるから,刑法176条後段の強制わいせつ罪のみが適用されるのに,本条例21条1項違反とした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というのである。
しかし,弁護人が指摘する被告人の検察官調書(原審検乙23,24)によれば,被告人の捜査段階の言い分としては,①被告人は,平成20年9月ころ,被害男児から今度中学生になると聞いたことがあったが,好みに合致する男児であれば年齢は何歳でもよかったので,同人に対して年齢までは尋ねなかった,②本件行為の際,被害男児からは,性交類似行為等を嫌がる様子が感じられなかった,というものであり,本件は①の翌年である平成21年5月に惹起され,被害男児は当時中学1年生であったごとを踏まえると,被害男児が13歳未満であったことについての被告人の故意の存在には疑義があった上,性交類似行為等の際に被害男児が反抗を抑圧されたことについても証拠上明確ではなかったのであって,一義的に13歳未満の者に対する強制わいせつ罪(刑法176条後段のほか,同条の場合も含む。)に該当することが明らかな事案であったとはいえない。
また,強制わいせつ罪が個人の自由意思の制圧ないしこれに準ずるような場合を罰するのに対し,本条例21条1項のわいせつ罪は,青少年の健全育成に鑑みて同意があってもその相手方を処罰するものであるから,処罰の趣旨,目的を異にし,強制わいせつが成立すれば本条項のわいせつ罪が成立しないというものでもない。
そうすると,起訴検察官が上記諸点に鑑みて,その起訴裁量に基づき,被告人にとって有利である本条例違反の罪で起訴したことに裁量逸脱は全くないし,公訴事実の範囲で犯罪事実を認定し,本条例21条1項を適用した原判決にも何ら違法はない。

秋田支部h27.6.30は補充性を否定して、訴追裁量だという説明です

秋田支部h27.6.30
第3法令適用の誤り及び訴訟手続の法令違反の主張(控訴理由第7及び第8)について
1論旨は,性交相手が13歳未満である場合,強姦罪(刑法177条後段。以下,本項及び次項で「強姦罪」というのは,同条後段の強姦罪をいう。)のみが適用され,本件条例27条1項,14条1項の適用はないから,本件条例14条1項違反の罪を認めた原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というのである。
そこで検討すると,記録によれば,本件においては,検察官は,被告人が被害児童が13歳未満であることの認識を欠いていたため,強姦罪は成立しないと考えて本件条例14条1項違反の訴因で起訴したこと,これに対し,原審も同訴因の事実を認めて,原判示第2のとおり判決したことが認められる。
そして,関係証拠によれば,被告人は,被害児童が18歳未満であること,すなわち本件条例上の青少年に当たることは認識していたものの,13歳未満であることについてはこれを認識していなかったものと認められ,被告人には強姦罪の成立に必要な故意が欠けているため強姦罪は成立せず,本件条例14条1項違反の罪のみが成立すると認められる。
よって,・強姦罪が成立する場合には本件条例14条1項違反の罪は成立しないとの弁護人の主張は,前提を欠いており,失当である。
論旨は理由がない。
2論旨は,本件条例が適用されるとしても,13歳未満の被害児童に対する淫行の罪(本件条例14条1項違反の罪)は強姦罪と同一の行為であるところ,本件起訴は告訴を欠く親告罪の一部起訴であり,強姦罪親告罪とされている趣旨を潜脱するものであるから違法であるまた,13歳未満の被害児童に対する本件条例14条1項違反の罪は親告罪であると解すべきであり,本件では告訴を欠いているから,同罪に係る公訴提起は不適法であって,公訴を棄却するべきであるのに,これをしなかった原判決には訴訟手続の法令違反がある,というのである。
そこで検討すると,検察官は立証の難易等諸般の事情を考慮して審判対象である訴因を構成することができ,裁判所の認定はその訴因に拘束され,訴因に掲げられた罪の成否を判断すれば足りるところ(最高裁昭和59年1月27日第一小法廷決定・刑集38巻1号136頁参照),前述のとおり,本件において,原審は,訴因に掲げられた本件条例14条1項違反の罪の成否について審理し,原判示第2のとおり認定したものであり,関係証拠上も,被害児童及びその法定代理人親権者母が被告人の処罰を求めていると認められることなどからすれば,本件条例14条1項違反の罪に係る公訴提起が強姦罪親告罪とされている趣旨を潜脱する違法なもの:であるとはいえない。
また,本件条例14条1項違反の罪を定める本件条例は青少年(6歳以上18歳未満の者をいう。6条1号)の健全育成に関する施策を推進するとともに,青少年を取り巻く社会環境を浄化し,もって青少年の健全な育成を図ることを目的とするものであるが(1条),13歳未満の女子を姦淫する行為を処罰する強姦罪は,被害女子個人の性的自由の保護を目的とするものであり,両罪は,保護法益において重なる部分があるものの目的や保護法益が必ずしも一致しておらず,さらに,本件条例14条1項違反の罪についてはこれを親告罪とする旨の規定がない。
このようにみると,本件条例14条1項違反の罪が親告罪であると解するべきであるとの弁護人の主張は,独自の見解といわざるを得ず,採用することはできない。
よって,公訴を棄却しなかった原判決には訴訟手続の法令違反はない。
論旨は理由がない。