児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

「姿態をとらせ」を行為として記載したとは読みにくい4項製造罪の公訴事実

 第1の12万前払いというのも嘘っぽい。(証拠上は後払いだ)
 「姿態をとらせ」が構成要件的行為ないし実行行為だとすれば、行為の日時場所等で特定する必要があるが、第2の「同児童を相手方とする性交に係る各姿態をとらせてデジタルカメラで撮影した静止画に係るデータを」というのでは、撮影日時場所媒体等が特定されておらず、行為の記載としては不十分だ。
 

児童福祉法34条1項6号違反の児童に淫行をさせる罪と児童買春・児童ポルノ等処罰法7条3項の児童ポルノ製造罪とが併合罪の関係にあるとされた事例
最高裁判例解説刑事編H21 P463
イ 「姿態をとらせ」る行為は実行行為か
罪数の問題を考察する前提として, 「姿態をとらせ」る行為が実行行為か否かの問題をまず検討する。児童買春・児童ポルノ等処罰法上, 単なる「製造」は処罰されず, 3項においては「姿態をとらせ」ることも要件となっており, 「姿態をとらせ」たことにも当罰性の根拠が求められていると解されること, また, 「姿態をとらせ」 との文言は明らかに人の行為を意味していることからしても, 「姿態をとらせ」は, そのような、当罰性を基礎付ける行為を構成要件的行為として規定したものと解すべきものであろう (その意味で, 東京高裁平成17年判決が「児童に姿態をとらせ』という行為をその犯罪構成要件として規定している」と判示しているのは, 正当であると思われる。)。
そうである以上「姿態をとらせ」る行為が, 「実行行為ではなく手段あるいは身分的なものにすぎない」との説明は, やや不自然さが否定できないように思われ,【判例?】もそのような理解を明示的に判示しているものでないことは前記のとおりである。
結局. 3項製造罪の要件の一部である「姿態をとらせ」るとの行為と,児童淫行罪の実行行為とが重なる部分があることを前提として考察を進めるべきものと思われる。

(注28) 東京高裁平成21年判決?は「姿態をとらせ」る行為が実行行為の一部であると解した場合も含めて検討している。
(注29) 一連の議論は, 「実行行為」概念をどう理解するかという問題とも関連していると思われる。すなわち,刑法の条文上は. 「実行」という語はあり,重要な怠味を持っているが(未遂犯の43条,共犯の60-63条), 「実行行為」という詰があるわけではなく, 「実行行為」概念を否定する有力説もあった(山口厚「刑法総論」初版(平成13年) 45頁)
「実行行為」の通説的定義は, 「構成要件に該当する行為」(団藤重光「刑法綱要総論」第3版(平成2年) 139頁)であるが「むしろ,原則として既遂結果発生の具体的危険すなわち未遂結果と相当因果関係を有する行為と定義されるべきであろう」という見解もある(西田典之「刑法総論」(平成18年) 78頁)。前者の定義によれば「姿態をとらせ」る行為は実行行為であることは明らかであるが,後者の定義によれば,評価が分かれる可能性がある。しかし, 3項製造罪には未遂処罰規定はないのであるから,実行の着手の関係で「姿態をとらせ」る行為が「実行行為」か否かに特に意味はなく,共犯の関係でも,それほど実益があるとはいえないように思われる。結品,本件の関係では, 「姿態をとらせ」る行為は,構成要件に該当する「行為」であることさえ押さえておけばよいようにも思われる。
東京高裁平成17年判決も正にそのような判示をしていると読める。

東京高裁H17.12.26
さらに,所論は,原判決が認定した「犯罪事実」には,「姿態をとらせ」と記載されておらず,犯罪を構成しないにもかかわらず有罪とした原判決には法令適用の誤り,訴訟手続の法令違反があるというのである。
そこで原判決の説示内容を検討するに,原判決が,その「犯罪事実」の項において,「被告人は,別紙一覧表記載のとおり,・・・,携帯電話機附属のカメラを使用して,児童である・・を相手方とする性交に係る同児童の姿態等を撮影し,その姿態を視覚により認嘩することができる電磁的記録媒体であるフラッシュメモリ1個に描写し,もって,同児童に係る児童ポルノを製造した。」と認定し,その別紙一覧表において,児童ポルノの種類として法2条3項各号に該当する姿態の内容を明記し,「法令適用」の項においては,別紙一覧表の各行為について,法7条3項,1項及び2条3項各号を適用していることからすれば,原判決の判断は,被告人の各行為について法7条3項の児童ポルノ製造罪が成立するものと認定する趣旨ないし意図であることは明らかである。
しかしながら,法7条3項は,「児童に第2条3項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ,これを写真,電磁的記録に係る記録媒体その他の物に括写することにより,当該児童に係る児童ポルノを製造した者」とし,「児童に姿態をとらせ」という行為をその犯罪構成要件として規定していることは明らかである。児童に姿態をとらせる行為が他の不可罰的な行為とを画する重要な行為要素であることなどにかんがみれば,原判決には罪となるべき事実の記載に理由の不備があるというほかはない。訴因の記載上の不備と異なり,判決のこのような理由上の不備を見過ごすことはできない。
したがって,その余の控訴趣意に対して判断をするまでもなく,原判決はこの点において破棄を免れない。

札幌高裁H19.9.4
本件控訴の趣意は,弁護人奥村徹作成の控訴趣意書(ただし第1部について,弁護人は陳述しない旨述べた),各控訴趣意補充書に,これに対する答弁は,検察官作成の答弁書に,それぞれ記載されているとおりであるから,これらを引用する。
なお,以下において,「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」を児童ポルノ法と,また,児童ポルノ法7条3.項の罪を児童ポルノ製造罪という。
第1理由齟齬、訴訟手続の法令違反及び事実誤認の控訴趣意について
論旨は,要するに,?原判決は,「携帯電話内蔵メモリ.からSDカードの複製」については,姿態をとらせることは実行行為ではないとしながら,罪数処理においては,姿態をとらせることを実行行為とすることを前提にしており,原判決には,理由離解がある(控訴理由第5),?原判決の「犯罪事実」には,「携帯電話による撮影行為」と「携帯電話内蔵メモリからSDカードの複製」という2段階の製造行為が記載されているが,「携帯電話内蔵メモリからSDカードの複製」には,「姿態をとらせる」に該当する事実が記載されていない原判決には,判決に影響を及ぼすことの明らかな訴訟手続の法令違反がある(控訴理由第4),?児童を撮影した電磁的記録が携帯電話内蔵メモリからSDカードに複製された日時場所亮,起訴状及び原判決記載の日時場所と異なるから,原判決には,判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認がある,仮に,原判決が実際に複製された日時場所を認定しているとすれば,起訴状に記載された訴因外の事実を認定したこととなり,原判決には訴因逸脱認定という判決に影響を及ぼすことの明らかな訴訟手続の法令違反がある(控訴理由第6),というのである。
そこで,検討するに,児童ポルノ法7条3項は,「姿態をとらせ,これを記録媒体その他の物に描写することにより,児童ポルノを製造すること」を処罰しているのであって,「姿態をとらせ」てから「その姿態を描写する」までの間の経過については,何ら制限を加えていないから,「姿態をとらせ」てから姿態が描写された児童ポルノが作成されるまでの間に,複数の児童ポルノが製造さ.れることを排除していないと解され,また,児童ポルノ法の「製造」とは,児童ポルノを作成することをいい,児童ポルノは,一定の操作を行うことによって児童の姿態を視覚により認識することができれば足りるから,例えば,フイルムカメラによる写真撮影の場合には,?撮影,?フイルムの現像,?フイルムのプリント・焼付けのそれぞれが児童ポルノの製造に当たると解される。このように,児童ポルノの製造においては,「撮影して写真を作製する」といった,社会通念的に一つの固まりと見られそうな行為であっても,その過程で児童ポルノに当たる物が順次製造されるごとに製造行為が観念でき,当初から意図されていた物が製造されるまでに複数の製造行為が連なっていると見られる場合が少なくない。そして,同一の者が犯意を継続してこれらの行為を行っ,たような場合には,その全体として包括一罪となると解するのが相当である。原判決は,その「犯罪事実」において,「同児童らを相手方とする性交又は性交類似行為に係る姿態及び衣服の全部又は一部を着けない姿態であって性欲を興奮させ又は刺激する姿態をとらせ,これをそれぞれ携帯電話内蔵カメラで撮影した上,これらを電磁的記録に係る記録媒体1枚(miniSDカード)に描写し,もって同児童らに係る児童ポルノをそれぞれ製造した」と記載しているのであって,原判決が,「児童に姿態をとらせ,これを携帯電話内蔵カメラで撮影した上,・電磁的記録に係る記録媒体1枚(SDカード.)に措写し」たことを一体として児童ポルノ製造罪の実行行為としていることは明らかで,「児童に姿態をとらせ」たことを,実行行為として認定し,原判決の「犯罪事実」にも実行行為として記載していることは明らかである。論旨?及び?は,原判決を曲解した独自の見解に基づくもので,失当である。

被告人は
第1  ほなみ(当時17歳)が18歳に満たない児童であることを知りながら平成27年9月24日頃,大阪市北区西天満ホテルこうさい1001号室において,同児童に対し,現金12万円の対償を供与して性交し,もって児童買春をし
第2 前記ほなみが18歳に満たない児童であることを知りながら,同月25日頃,京都府京都市の当時の被告人方において,前記第1の事実の際に同児童に同児童を相手方とする性交に係る各姿態をとらせてデジタルカメラで撮影した静止画に係るデータを,パーソナルコンビュータに接続したハードディスクに記録させて保存し,もって児童を相手方とする性交に係る児童の姿態を視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写し,同児童に係る児童ポルノを製造し