児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

判例タイムズと判例時報から犯罪収益仮装罪の最決の掲載誌をもらいました。

 もらってもダブルんですけど。
 判決は持ってるし。

[特別刑法]
6(最高裁第三小法廷平20.11.4決定)
1 犯罪行為の実行に着手する前に取得した前払い代金等の財産の取得につき事実を仮装した場合と,組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律10条1項前段の「犯罪収益等の取得につき事実を仮装した罪《の成否
2 組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律10条1項前段の「犯罪収益等の取得につき事実を仮装した罪《の罪となるべき事実の摘示として欠けるところはないとされた事例
3 注文に応じて有償で児童ポルノを送付して提供するに際し,提供者が注文者から取得した金員の一部を送料として支出した場合と,組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律による追徴金額の算定方法

 解説が付いていますが、当然の結論だという割には、説明が長いです。


 「研修の現場から」の検事さんたちがわからないというので上告理由に取り上げました。

(1) 判示事項1の点に関する前記①の主張は,一見もっともらしいが(秋山実「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律10条1項の犯罪収益等隠匿罪を積極的に適用した事例」研修662号123頁にも同旨の問題提起がある。)。犯罪行為の対価として前払いで得た財産が「犯罪行為により得た財産」に含まれることは実務上も学説上も当然のこととされてきたのであるし実質論からしでも前払い代金が「犯罪収益」となり得ないなどという解釈は明らかに不合理である。そして、法文の「犯罪行為により得た」というのは「犯罪行為を原因として」と解することができるから、文理上も特段支障はないと解される。
 なお,本件では、前提犯罪である児童ポルノ提供罪が犯罪収益取得事実仮装罪の実行行為の終了後に行われており、同罪は前提犯罪の成立を待って完成すると考えられるが,このように後の事情により犯罪が完成するという事象は、「公務員になろうとする者が,その担当すベき職務に関し、請託を受けて,賄賂を収受し又はその要求もしくは約束をしたときは、公務員となった場合において, 5年以下の懲役に処する。」と刑法197条2項の事前収賄罪でも発生する。すなわち,同罪に係る収賄行為は当該賄賂を収受した時点で終了しており、その後 その者が公務員になることにより犯罪が完成するのであるが、本件の犯罪収採取得事実仮装苦手についても,これと同じように考えることができるのであれば不合理とはいえないと思われる(このほか,破産手続開始前に債権者詐害行為をした後、破産手続開始決定が確定したときに同行為を処罰する破産法265条1項の詐欺破産罪等も同様である。ただし,事前収賄罪の「公務員になったこと」等の法的位置付けについては,構成要件には属さない「客観的処罰条件」とする見解と構成要件要素であるとする見解が対立している。)。

 研修2003年8月号で疑問が出ていて、結論がでないとされていました。

秋山実「研修の現場から 組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律10条1項の犯罪収益等隠匿罪を積極的に適用した一事例」研修 第662号

本年7月に実施された第94回検事専門研修では,第一線の現場において,組織的犯罪処罰法が更に効果的積極的に適用されるよう,同法に関する講義を実施したほか,研修員かち紹介された同法に関する具体的適用事例について分科会及び全体会方式による事例研究全行いました。今回はその中から. 犯罪収益等隠匿罪を積極的に適用した事例す取り上げて紹介することにします。
(略)
事例研究の討議においては.研修員のほぼ全員が,結論的にはこのような場合でも犯罪収益に該当するという意見で一致していました。
しかし,その根拠付けに関し, 上記裁判例のような考え方に対しては,そもそも前提犯罪が完了したときに遡って犯罪収益につき事実を仮装した行為に該当するという解釈が成り立つのか,また,当該CD-Rが送付されない間は法律関係がいつまでも確定しないのではないかという意見もありました。難しい問題ですが,討議では,前提犯罪により得た財産についてその帰属を仮装隠匿する行為が,その捕捉を困難にし,将来の犯罪活動への再投資等のための犯罪収益の保持・運用を容易にすることから,犯罪収益等隠匿罪が独立して処罰対象止されたという趣旨に照らせば,法の定める前提犯罪の対価としての趣旨で得た財産である限り,前提犯罪が成立したか否か,既遂に達したかに関わらず法益を侵害することには変わりはないはずであるから,犯罪収益性が認められるのではないかとする意見も出されており,この点は今後なお検討すべき課題であると思われます。


なお、上記「研修」記事が紹介する名古屋地裁半田支部H15.5.8によれば、前提犯罪に着手されていないと犯罪収益にならないとされていました。裁判例としてはこれしかなかった。
これだと、児童ポルノ提供罪の前払いの場合は犯罪収益にならないんですよね。

名古屋地裁半田支部H15.5.8
H14わ243号、H15わ13号、H15わ52号
2弁護人の主張(1)について
犯罪収益規制法2条2項1号は,財産上不正な利益を得る目的で犯した児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条1項の罪(児童ポルノ販売罪.別表59号)の犯罪行為により得た財産を「犯罪収益」にあたると規定しており,児童ポルノ販売罪の未遂罪は処罰の対象とされていないから,児童ポルノ販売罪を前提犯罪とする「犯罪収益」といえるためには,児童ポルノ販売罪が既遂に達していることを要すると解される。しかしながら、このことは,犯罪収益規制揺10条1項に規定する犯罪収益の取得につき事実を仮装する行為を実行する段階において,前提犯罪である児童ポルノ販売罪が既遂に達していることを要すると解するものではない。すなわち、児童ポルノ販売罪の実行行為により得た財産の取得につき事実を仮装し,その後に児童ポルノ販売罪が既遂に達した場合は,その既遂時点において,当該仮装行為が,「犯罪収益の取得に関する仮装行為」と法的に評価されることになると解するべきである。なぜなら,まず第1に,犯罪収益規制法10条は,金融機関を経由することによって犯罪収益をクリーンな外観を有する財産に変えて前提犯罪との関係を隠匿し,あるいはこれらの財産を隠匿する行為は,将来の犯罪活動に再投資されたり,事業活動に投資されて合法的な経済活動に悪影響を及ぼすなどのおそれのある犯罪収益の保持・運用を容易にすることから,これを処罰する趣旨の規定であるところ,犯罪収益の取得は,経験上必ずしも前提犯罪の完了後に行われるものではなく,犯罪遂行の過程においてされることが往々にしてあるから,このように解釈しなければ法の趣旨は達成できない。
第2に,前提犯罪の完了を目指して着手した実行行為により得た財産は,取得時点において,既に将来犯罪収益となることが予定されているものであるから,その帰属を仮装する行為は,後に当初の予定どおり前提犯罪が完了したときには,遡って犯罪収益につき事実を仮装した行為にあたると評価するのは自然であり,かつ合理的な見方であるといえるからである。よって,弁護人の主張は採用できない。

 半田支部判決の「前提犯罪の完了を目指して着手した実行行為により得た財産は,取得時点において,既に将来犯罪収益となることが予定されているものであるから,その帰属を仮装する行為は,後に当初の予定どおり前提犯罪が完了したときには,遡って犯罪収益につき事実を仮装した行為にあたると評価するのは自然」という判示からは、半田支部判決は、「前提犯罪の着手以降に授受された収益」を前提犯罪が既遂になった時点で、「犯罪収益」とするものである。
 ところで、4項提供罪(不特定多数)の趣旨は、有償・無償に関係なく、児童ポルノの流通を阻止するところにあるから、実行の着手は、提供相手への支配の移転に着手した時点であって、約束の時点ではない。
 だとすれば、本件では、収受の時点では、被告人は提供行為に着手していないから、その時点では「犯罪収益」になっていないから、隠匿仮装罪も成立しない。