児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

東京高裁H28.2.19では裸体送信させる行為は「撮影に係る画像データを被告人使用の携帯電話機に送信させるという,それ自体はわいせつな行為に当たらない行為までを含んだものとして構成されており,強要罪に該当する事実とみるほかないものである。」と評価されたのに、札幌高裁r5.1.19では「動画データを送信・記録させる行為に及ぶと、Aに撮影させた点を含めて行為全体がわいせつ行為とは評価できなくなるなどというのは、所論独自の見解であって、採用の限りではない(なお、所論指摘の裁判例は、そのような趣旨を判示したものと

東京高裁H28.2.19では裸体送信させる行為は「撮影に係る画像データを被告人使用の携帯電話機に送信させるという,それ自体はわいせつな行為に当たらない行為までを含んだものとして構成されており,強要罪に該当する事実とみるほかないものである。」と評価されたのに、札幌高裁r5.1.19では「動画データを送信・記録させる行為に及ぶと、Aに撮影させた点を含めて行為全体がわいせつ行為とは評価できなくなるなどというのは、所論独自の見解であって、採用の限りではない(なお、所論指摘の裁判例は、そのような趣旨を判示したものとは解されない。)。」として屁理屈扱いされた点

強要罪か強制わいせつ罪か、強制わいせつ罪となるのは、「撮影させ」までが、「送信させ」までかが論点です。


判例番号】L07120170
      強要,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件

【事件番号】東京高等裁判所判決/平成27年(う)第1766号
【判決日付】平成28年2月19日
【判示事項】強要罪と平成26年法律第79号による改正前の児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条3項の児童ポルノ製造罪とが併合罪の関係にあるとされた事例
【参照条文】刑法45前段
      刑法54-1前段
      刑法223-1
      児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(平26法79号改正前)7-3
【掲載誌】 判例タイムズ1432号134頁
      LLI/DB 判例秘書登載
 (1) 強要罪が成立しないとの主張について
 記録によれば,原判決は,公訴事実と同旨の事実を認定したが,その要旨は,被害者が18歳に満たない児童であることを知りながら,同女に対し,要求に応じなければその名誉等にいかなる危害を加えるかもしれない旨脅迫して,乳房,性器等を撮影してその画像データをインターネットアプリケーション「LINE」を使用して送信するよう要求し,畏怖した被害者にその撮影をさせた上,「LINE」を使用して画像データの送信をさせ,被告人使用の携帯電話機でこれを受信・記録し,もって被害者に義務のないことを行わせるとともに,児童ポルノを製造した,というものである。
 すなわち,原判決が認定した事実には,被害者に対し,その名誉等にいかなる危害を加えるかもしれない旨脅迫して同女を畏怖させ,同女をして,その乳房,性器等を撮影させるという,強制わいせつ罪の構成要件の一部となり得る事実を含むものの,その成立に必要な性的意図は含まれておらず,さらに,撮影に係る画像データを被告人使用の携帯電話機に送信させるという,それ自体はわいせつな行為に当たらない行為までを含んだものとして構成されており,強要罪に該当する事実とみるほかないものである。

札幌高裁令和5年1月19日
 上記の者に対する強制わいせつ、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件について、令和4年9月14日札幌地方裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から控訴の申立てがあったので、当裁判所は、検察官白坂裕之出席の上、審理し、次のとおり判決する。
第4 法令適用の誤りの論旨について
 1 所論は、①被告人が遠隔地にいるAに裸体を撮影させた行為は、性的侵襲が弱く、それだけでは被告人は全く性的興奮を得られないから、性的意味合いは皆無か、極めて薄く、わいせつな行為に該当しない、あるいは、強制わいせつ未遂罪が成立するにとどまる、②原判決は、罪数処理の記載で、被告人が、Aに撮影させた動画データを被告人に送信させて、保存・記録させ、被告人がその動画を見たことまでわいせつ行為と評価しているが、これらはわいせつ行為にならないし、Aに撮影させた行為までであればわいせつ行為となり得るとしても、Aに動画データを送信記録させる行為に及ぶと、Aに撮影させた点を含めて行為全体がわいせつ行為とは評価できなくなる、③接触を伴う強制わいせつ罪においては、犯人が被害者の面前にいることが前提とされているから、非接触の強制わいせつ罪においても、犯人が規範的にみて被害者の目の前にいるといえなければ、わいせつな行為に当たらないと解されるところ、本件では、要求行為に遅れて撮影行為がされており、規範的にみて被告人がAの目の前にいるとはいえず、わいせつな行為に当たらない、④本件は、Aを利用した間接正犯になっていなければ、強制わいせつ罪の正犯とはなり得ないところ、Aは道具化しておらず、間接正犯になっていないから、強制わいせつ罪は成立せず、せいぜい準強制わいせつ罪が成立するにとどまる、⑤原判決は本件の強制わいせつ罪と児童ポルノ製造罪を観念的競合としているが、両罪は包括一罪である、などと指摘して、原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある旨主張する。
 2 しかし、以下のとおり、所論は全て採用することができない。
 ①については、被告人は、Aに要求して、陰部等を露出した姿態をとらせ、これらをスマートフォンで撮影させているところ、その行為は、Aを性的意味合いの強い陰部等を露出した裸体にさせ、Aの身体を性的な対象として利用できる状態に置いた上、これを撮影させて記録化することで、その内容を被告人や第三者が知り得る状態に置くものであって、被告人がAに対して撮影した動画データを被告人に送信することも要求して撮影させており、その撮影させる行為自体にAがこの要求に従って動画データを送信して被告人がこれを閲覧することになる具体的な危険性が認められることも踏まえると、その性的侵害性は大きく、また、本件が、当時43歳の男性である被告人が、SNSを通じて知り合いアプリケーションソフトを利用してやり取りをしていたという関係にすぎない当時8歳の女児であるAに対し、Aの陰部等を見たいなどというメッセージや男性が自慰行為をしている動画データを送信するなどする中でなされたものであることも踏まえると、その性的意味合いは強いというべきであるから、その行為が「わいせつな行為」に当たり、強制わいせつ既遂罪が成立すると判断した原判決に誤りはない。
 ②については、前記のとおり、原判決が、被告人がAに撮影させた動画データ4点を被告人のスマートフォンに送信させてサーバコンピュータ内に記録・保存させた行為を、強制わいせつ罪を構成する事実として認定したとは認められず、Aに動画データを送信・記録させる行為に及ぶと、Aに撮影させた点を含めて行為全体がわいせつ行為とは評価できなくなるなどというのは、所論独自の見解であって、採用の限りではない(なお、所論指摘の裁判例は、そのような趣旨を判示したものとは解されない。)。