児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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露天風呂盗撮の迷惑条例違反多数件につき保護観察付き執行猶予とした事例(静岡地裁R4.11.2)

静岡地方裁判所令和04年11月02日
 上記の者に対する神奈川県迷惑行為防止条例違反、公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(昭和38年兵庫県条例第66号)違反、北海道迷惑行為防止条例違反、岐阜県迷惑行為防止条例違反被告事件について、当裁判所は、検察官風間康宏及び弁護人加茂大樹(国選)各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文
1 被告人を懲役3年に処する。
2 未決勾留日数中170日をその刑に算入する。
3 この裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予する。
4 被告人をその猶予の期間中保護観察に付する。
5 静岡地方検察庁で保管中のデジタルカメラ1台(令和4年領第1号符号15の1)、スマートフォン1台(同号符号20の1)、ビデオカメラ1台(同号符号22の1)及び望遠レンズ1個(同号符号22の2)を没収する。

理由
(罪となるべき事実)-温浴施設の所在地及び名称並びに被害者の氏名は別表記載のとおり。
第1(令和4年8月23日付け訴因変更請求書記載の公訴事実(令和3年12月22日付け起訴状記載の公訴事実))
  被告人は、Eと共謀の上、常習として、正当な理由がないのに、
 1 令和2年10月24日午後3時27分頃から同日午後3時39分頃までの間、兵庫県所在の温浴施設a周辺の山中において、同施設内の露天風呂に入浴中の被害者A(当時20歳)及び被害者B(当時19歳)の姿態を、動画撮影状態にしたデジタルビデオカメラを用いて撮影し、
 2 同年11月22日午後1時1分頃から同日午後1時11分頃までの間、前記施設周辺の山中において、前記露天風呂に入浴中の被害者C(当時20歳)の姿態を、動画撮影状態にしたデジタルビデオカメラを用いて撮影し、
 3 令和3年3月14日午後1時52分頃から同日午後2時2分頃までの間、前記施設周辺の山中において、前記露天風呂に入浴中の被害者D(当時28歳)の姿態を、動画撮影状態にしたデジタルビデオカメラを用いて撮影し、
 4 同年9月19日午前10時18分頃から同日午後6時9分頃までの間、前記施設周辺の山中において、前記露天風呂に入浴中の氏名不詳の女性らの姿態を、動画撮影状態にしたデジタルカメラ静岡地方検察庁令和4年領第1号符号15の1)等を用いて撮影し、
 5 同月20日午前10時10分頃から同日午後6時15分頃までの間、前記施設周辺の山中において、前記露天風呂に入浴中の氏名不詳の女性らの姿態を、動画撮影状態にした前記デジタルカメラ等を用いて撮影し、
 6 同月23日午前10時10分頃から同日午後6時18分頃までの間、前記施設周辺の山中において、前記露天風呂に入浴中の氏名不詳の女性らの姿態を、動画撮影状態にした前記デジタルカメラ等を用いて撮影し、
 7 同月24日午前10時12分頃から同日午後5時20分頃までの間、前記施設周辺の山中において、前記露天風呂に入浴中の氏名不詳の女性らの姿態を、動画撮影状態にした前記デジタルカメラ等を用いて撮影し、
 8 同月25日午前10時23分頃から同日午後6時5分頃までの間、前記施設周辺の山中において、前記露天風呂に入浴中の氏名不詳の女性らの姿態を、動画撮影状態にした前記デジタルカメラ等を用いて撮影し、
  もって、人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所にいる人を写真機等を用いて撮影した。
第2(令和4年3月31日付け起訴状記載の公訴事実)
  被告人は、前記E及びFと共謀の上、常習として、正当な理由がないのに、
 1 令和3年5月3日午前10時50分頃から同日午後6時44分頃までの間、岐阜県所在の温浴施設b周辺の山中において、同施設内の露天風呂に入浴中の氏名不詳の女性らに対し、望遠レンズを接続し、動画撮影状態にしたデジタルビデオカメラ及び動画撮影状態にしたデジタルカメラを向け、その姿態を映像で記録し、
 2 同月4日午前10時40分頃から同日午後6時49分頃までの間、前記施設周辺の山中において、前記露天風呂に入浴中の氏名不詳の女性らに対し、望遠レンズを接続し、動画撮影状態にしたデジタルビデオカメラ及び動画撮影状態にしたデジタルカメラを向け、その姿態を映像で記録し、
  もって、人が通常衣服等の全部又は一部を着けないでいる状態でいるような場所にいる者に対し、人を著しく羞恥させ、かつ、人に不安を覚えさせるような方法で、当該状態でいる人の姿態の映像を記録する目的で、写真機等を当該状態でいる人に向け、写真機等を使用して被写体の映像を記録した。
第3(令和4年2月14日付け起訴状記載の公訴事実)
  被告人は、常習として、正当な理由がないのに、前記E及び前記Fと共謀の上、令和3年7月25日午前11時18分頃から同日午後5時57分頃までの間、北海道所在の温浴施設c周辺の山中において、同施設内の露天風呂に入浴中の氏名不詳の女性らの姿態を、動画撮影状態にしたデジタルカメラを用いて撮影し、もって、人が衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所における当該状態の人の姿態を撮影した。
第4(令和4年1月11日付け訴因及び罰条変更請求書(令和3年11月9日付け起訴状記載の公訴事実))
  被告人は、常習として、正当な理由がないのに、
 1 前記Eと共謀の上、令和3年10月2日午前6時39分頃から同日午後5時43分頃までの間、神奈川県所在の温浴施設d周辺の山中において、同施設内の露天風呂に入浴中の氏名不詳の女性らに対し、望遠レンズ(静岡地方検察庁令和4年領第1号符号22の2)を接続し、動画撮影状態にしたデジタルビデオカメラ(同号符号22の1)及びスマートフォン(同号符号20の1)を向け、
 2 前記Eと共謀の上、同月3日午前5時53分頃から同日午後5時21分頃までの間、前記施設周辺の山中において、前記露天風呂に入浴中の氏名不詳の女性らに対し、前記望遠レンズを接続し、動画撮影状態にした前記デジタルビデオカメラ及び前記スマートフォンを向け、
 3 同月8日午前10時35分頃から同日午後4時26分頃までの間、前記施設周辺の山中において、前記露天風呂に入浴中の氏名不詳の女性らに対し、前記望遠レンズを接続し、動画撮影状態にした前記デジタルビデオカメラ及び前記スマートフォンを向け、
 4 前記Eと共謀の上、同月9日午前6時40分頃から同日午後5時30分頃までの間、前記施設周辺の山中において、前記露天風呂に入浴中の氏名不詳の女性らに対し、前記望遠レンズを接続し、動画撮影状態にした前記デジタルビデオカメラ及び前記スマートフォンを向け、
 5 前記Eと共謀の上、同月10日午前6時21分頃から同日午後5時22分頃までの間、前記施設周辺の山中において、前記露天風呂に入浴中の氏名不詳の女性らに対し、前記望遠レンズを接続し、動画撮影状態にした前記デジタルビデオカメラ及び前記スマートフォンを向け、
  もって、衣服等の全部若しくは一部を着けないで、人が通常衣服等の全部若しくは一部を着けないでいるような場所にいる人の映像を記録する目的で、写真機等を人に向けた。
(証拠の標目)(括弧内の甲乙の番号は、証拠等関係カードにおける検察官請求証拠番号を示す。)
(法令の適用)
1 主刑
 (1) 構成要件及び法定刑を示す規定
  被告人の判示第1の所為は、刑法60条、公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(昭和38年、兵庫県条例第66号)15条2項、1項、3条の2第3項に、判示第2の所為は、刑法60条、岐阜県迷惑行為防止条例13条7項、2項、1項1号、3条4項2号に、判示第3の所為は、刑法60条、北海道迷惑行為防止条例11条2項、2条の2第3号前段に、判示第4の所為は、神奈川県迷惑行為防止条例16条1項、15条1項、3条3項(同1、2、4、5の所為については更に刑法60条)にそれぞれ該当する。
 (2) 刑種の選択
  いずれも懲役刑を選択する。
 (3) 併合罪の処理
  刑法45条前段の併合罪であるから、刑法47条本文、10条により刑及び犯情の最も重い判示第4の罪の刑に法定の加重をする。
 (4) 宣告刑の決定
  以上の刑期の範囲内で被告人を懲役3年に処する。
2 未決勾留日数の算入
  刑法21条を適用して未決勾留日数中170日をその刑に算入する。
3 刑の執行猶予
  情状により刑法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予する。
4 保護観察
  刑法25条の2第1項前段を適用して被告人をその猶予の期間中保護観察に付する。
5 没収
  主文に掲げたデジタルカメラ1台は、判示第1の4から8の犯罪行為に供した物、主文に掲げたビデオカメラ、望遠レンズ及びスマートフォン各1台は、判示第4の犯罪行為に供した物で、いずれも被告人以外の者に属しないから、刑法19条1項2号、2項本文を適用してこれを没収する。
6 訴訟費用の不負担
  訴訟費用は、刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させない。
(量刑の理由)
 本件は、被告人が、共犯者と共謀の上、あるいは、単独で、常習として、温浴施設内の露天風呂で入浴中の女性に対し、動画撮影状態のビデオカメラ等を向けるなどして、県等の定める条例に違反した事案である。
 各犯行の態様は、望遠レンズに接続されたデジタルビデオカメラ等を、人目につきにくい山中に設置し、遠方から入浴中の女性を盗撮するという卑劣なもので、計画性も認められる。また、上記態様に照らし、各犯行は、本来、外部の目を気にすることなくくつろぐことができる場所である温浴施設の利用者に対し、相応の不安や不快感を覚えさせるものといえる。そうすると、各犯行が、県民等の生活の平穏に及ぼした悪影響も軽視することはできない。判示第1の1の犯行において盗撮の被害に遭った被害者1名が、心情に関する意見陳述に代え、厳しい処罰を求める書面を提出したことも理解できる。
 被告人は、かねて盗撮に関心を有していたところ、インターネットを通じて知り合った共犯者らと共謀するなどして各犯行に及んだものである。共犯者の中には、被告人と知り合う以前から、本件と同様の犯行を重ね、被告人に対して盗撮に関する知識や技術を教える立場の者がいたとはいうものの、被告人は、基本的に盗撮の実行役を担っている上、実行役を担っていない判示第1の1から3の犯行では、知人女性に対し、温浴施設を利用してその感想をレポートにしてくれれば謝礼金を支払うなどと虚偽の説明をして、知人女性やその友人を温浴施設に誘い出し、その入浴中の姿態を共犯者に盗撮させている。これらによると、被告人は、単独で敢行した判示第4の3の犯行はもとよりその余の各犯行においても、自らの性欲を満たす目的で、主体的に重要な役割を果たしたといえ、その意思決定は相応の厳しい非難に値する。以上の犯情等によると、本件は、同種事案の中では犯情が悪質な事案ということができるが、各罪の法定刑を踏まえた事案の軽重に加え、本件の条令と趣旨を同じくする京都府の条例違反による罰金前科2犯(ただし、本件とは態様を異にするものである。)を有するものの、正式裁判を受けるのは本件が初めてであるという被告人の前科関係からすると、上記非難の程度は、実刑を選択すべきほど強いものではない。本件は、懲役刑の執行を猶予することが相当な事案である。
 そこで、被告人が事実を認め反省の言葉を述べた上、性障害専門の医療機関において治療を受ける旨述べるなどして更生の意思を示したことや、父親が被告人を監督する意向を有していることなど被告人のために酌むべき一般情状も考慮し、主文の刑の執行を猶予することとした。その上で、上記のとおり、被告人が、常習的に計画性のある盗撮を繰り返したことやその前科関係等に照らし、被告人の更生のためには、保護観察所の実施する処遇プログラムを受講させ、その認知の歪みの改善を図ることが必要であると判断し、その猶予の期間中被告人を保護観察に付することとした。
(求刑 懲役3年)
刑事第1部
 (裁判官 鈴木悠)
別表(省略)