児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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本法7条5項において「前二項に規定するもののほか」と規定されているのは、実体的に3項製造罪又は4項製造罪に当たるものを除くという趣旨ではなく、3項製造罪又は4項製造罪として処罰されるものを除くという趣旨と解される。(大阪高裁r5.7.27 大阪高裁r5.9.28)

本法7条5項において「前二項に規定するもののほか」と規定されているのは、実体的に3項製造罪又は4項製造罪に当たるものを除くという趣旨ではなく、3項製造罪又は4項製造罪として処罰されるものを除くという趣旨と解される。(大阪高裁r5.7.27 大阪高裁r5.9.28)
 就寝中の児童に準強制わいせつ罪とか準強制性交してその際に撮影した場合の罪名について、姿態をとらせて製造罪(大阪高裁r5.1.24)なのか、ひそかに製造罪(大阪高裁r5.7.27 大阪高裁r5.9.28)なのかという議論です。
 大阪高裁は「本法7条5項において「前二項に規定するもののほか」と規定されているのは、実体的に3項製造罪又は4項製造罪に当たるものを除くという趣旨ではなく、3項製造罪又は4項製造罪として処罰されるものを除くという趣旨と解される。」とか言い出しました。

提供 TKC
【文献番号】 25594258
【文献種別】 判決/大阪高等裁判所控訴審
【裁判年月日】 令和 5年 1月24日
 原審記録によれば、起訴状記載の公訴事実のうち、ひそかに製造罪として起訴された各公訴事実(令和3年12月2日付け起訴状の公訴事実第2、令和4年2月16日付け起訴状の公訴事実第2、第4、第6、第8、第10、第12)は、同一機会に行われた各罪と合わせ考慮すると、就寝中のCの陰茎を露出させる姿態等(原判示第8、第16)、睡眠中のDの陰茎を露出させる姿態等(同第10、第18)、就寝中のEの陰茎を露出させる姿態等(同第12、第20)、就寝中のAの陰茎を露出させる姿態等(同第23)を、それぞれひそかに撮影して保存し児童ポルノを製造したとして公訴提起され、いずれも罰条として、児童買春・児童ポルノ処罰法7条5項、2項が摘示されていること(なお、令和4年2月16日付け起訴状の公訴事実第2、第4、第6、第8、第10、第12については同法2条3項2号、3号を、令和3年12月2日付け起訴状の公訴事実第2については同法2条3項1号、2号、3号を、さらに摘示)、原審裁判所は、検察官に対しこの点について釈明を求めるなどはしなかったこと、原判決は、これらの事実について公訴事実どおりに認定し、起訴状の罰条と同じ法令を適用したことが認められる。
 しかし、同法7条5項の規定する児童ポルノのひそかに製造行為とは、隠しカメラの設置など描写の対象となる児童に知られることがないような態様による盗撮の手段で児童ポルノを製造する行為を指すと解されるが、同項が「前2項に規定するもののほか」と規定していることや同条項の改正経緯に照らせば、児童が就寝中等の事情により撮影の事実を認識していなくても,行為者が姿態をとらせた場合には、姿態をとらせ製造罪(同条4項)が成立し、ひそかに製造罪(同条5項)は適用されないと解される。
 したがって、検察官は、本来、上記各事実をいずれも姿態をとらせ製造罪として起訴すべきところを、誤ってひそかに製造罪が成立すると解し、同一機会の各事実と合わせると姿態をとらせたこととなる事実を記載しながら、「ひそかに」との文言を付して公訴事実を構成し、罰条には児童買春・児童ポルノ処罰法7条5項を上げた起訴状を提出し、原判決もその誤りを看過して、同様の事実認定をした上で、上記のとおりの適条をしたことが明らかである。このような原判決の判断は、判文自体から明らかな理由齟齬とまではいえないにせよ、法令の適用に誤りがある旨の所論の指摘は正しい。 
 さらに、検察官のみならず、被告人や原審弁護人も、上記各事実に関してひそかに製造罪としての責任を問われているとの誤信の下で原審公判に臨んでいたものとうかがえるから、第1審裁判所としては、関係証拠に照らして認定できる事実に正しい適条をするだけではなく、検察官に釈明を求め、その回答如何によっては訴因変更請求を促すなどして、被告人及び原審弁護人の防御に遺漏がないよう手続を尽くすべきであったのに、原審はこうした手続を何ら行っていない。姿態をとらせ製造罪とひそかに製造罪とでは、法定刑は同じとはいえ、児童ポルノ製造罪における「姿態をとらせ」あるいは「ひそかに」という要件は、処罰根拠をなす重要部分に当たるから、この点について被告人や原審弁護人が誤解をしたままでは十分な防御の機会が与えられたと評価できず、原審の釈明義務違反は、判決に影響を及ぼすとみるべきである。
 以上から、原判決には、所論指摘の法令適用の誤り、さらには、訴訟手続の法令違反があり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、論旨は理由がある。

阪高裁r5.7.27
(3) 当裁判所の判断
  本法の一部を改正する法律(平成26年法律第79号)に係る国会における審議内容等の立法経過を踏まえると、5項製造罪は、「ひそかに」、すなわち、対象となる児童に知られることのないような態様で描写することにより児童ポルノを製造する行為は、その行為態様において悪質であるとともに、当該児童の尊厳を害する行為であり、児童を性的行為の対象とする風潮を助長し、流通の危険を創出するものであることに鑑みて、そのような態様による児童ポルノの製造も規制対象に加え、処罰範囲を拡大する趣旨で設けられたものと解される。しかるところ、児童ポルノの製造において、ひそかに描写して製造するという行為態様の悪質性や児童の尊厳を害すること等は、就寝中で意識のない児童の姿態をそのまま撮影した場合と、撮影の際に一定の姿態をとらせるという撮影者の行為を伴う場合とで、何ら異なるものではないから、立法趣旨との関係では、後者の場合を除外すべき理由はない。
 また、所論のように解すると、検察官は、3項製造罪又は4項製造罪に当たる事案では、それがひそかに製造されたものであっても、3項製造罪又は4項製造罪として起訴するほかなく、そのため、5項製造罪での起訴を検討するに際しては、3項製造罪又は4項製造罪に当たらないかについて厳密な証拠判断を要することになろうが、当該事案の証拠関係によっては、提供目的の有無や姿態をとらせたことに当たるかなどが微妙で、判断に窮する事態も生じ得る。また、裁判所も、5項製造罪に当たるものとして起訴された事案では、常に、実体的に3項製造罪又は4項製造罪に当たるものではないかについて、判断を要することになろう。しかし、前段落でみたところからすると、そのような判断を検察官や裁判所に求めることに意味はなく、所論のような解釈は、5項製造罪が設けられた上記趣旨にそぐわないものである。
 加えて、3項製造罪、4項製造罪及び5項製造罪の法定刑は同じであるから、前2者に当たる児童ポルノを製造した者が、それがひそかに描写して製造したものでもあるときに5項製造罪で処罰されても、不利益はない。
 以上を踏まえると、本法7条5項において「前二項に規定するもののほか」と規定されているのは、実体的に3項製造罪又は4項製造罪に当たるものを除くという趣旨ではなく、3項製造罪又は4項製造罪として処罰されるものを除くという趣旨と解される。
 そうすると、児童に本法7条3項所定の姿態をとらせた上で、ひそかにその姿態を撮影するなどして児童ポルノを製造した行為について、4項製造罪として公訴提起するか5項製造罪として公訴提起するかは、検察官の裁量に属する。そして、本件で、検察官は、起訴状において、2(2)の各児童ポルノ製造行為を公訴事実として記載するとともに、罪名として本法違反を掲げ、罰条としていずれも本法7条5項を記載しており、同条4項を記載してはいないから、これが5項製造罪として公訴提起したものであることは明らかである。この場合に、裁判所は、それら行為について、「ひそかに」の点を含めて同項の構成要件に該当する事実が認められる以上、同項を適用すべきであり、原判決が2(2)の各事実に同項を適用したことに法令適用の誤りはない。

阪高裁r5.9.28
①に関する法令適用の誤りの主張(控訴理由第3)について、
(1)論旨は、以下の旨をいう。
①の事実について、被告人は、被害児童に原判示の姿態をとらせており、そのような姿態をとらせて児童ポルノを製造したものであるから、本法7条4項の児童ポルノ製造罪(いわゆる「姿態をとらせ製造罪」。以下「4項製造罪」ともいう。)に該当する。
そして、本法7条5項の児童ポルノ製造罪(いわゆる「ひそかに製造罪」。以下「5項製造罪」ともいう。)は、同項が「前二項に規定するもののほか」と規定していることからすると、同条3項前段の児童ポルノ製造罪(いわゆる「提供目的製造罪」。以下「3項製造罪」ともいうd) 又は4項製造罪に該当する場合には、それが「ひそかに」なされたものであっても5項製造罪は成立しないと解すべきである。よって、原判決が①の事実に 同条5項を適用したことには法令適用の誤りがある。
(2)本法の一部を改正する法律(平成26年法律第79号)に係る国会における 審議内容等の立法経過を踏まえると、5項製造罪は、~「ひそ'かに」、すなわち、対象となる児童に知られることのないような態様で描写することにより児童ポ ルノを製造する行為は、その行為態様において悪質であるとともに、当該児童の尊厳を害する行為であり、児童を性的行為の対象とする風潮を助長し、流通の危険を創出するものであることに鑑みて、そのような態様による児童ポルノの製造も規制対象に加え、処罰範囲を拡大する趣旨で設けられたものと解される。
しかるところ、児童ポルノの製造において、ひそかに描写して製造するという行為態様の悪質性や児童の尊厳を害すること等は、児童の姿態をそのまま撮影した場合と、撮影の際に一定の姿態をとらせるという撮影者の行為を伴う場合とで、何ら異なるものではないから、立法趣旨との関係では、後者の場合を除外すべき理由はない。

また、所論のように解すると、検察官は、3項製造罪又は4項製造罪に当たる事案では、それがひそかに製造されたものであっても、3項製造罪又は4項製造罪として起訴するほかなく、そのため、5項製造罪での起訴を検討するに際しては、3項製造罪又は4項製造罪に当たらないかについて厳密な証拠判断を要することになろうが、当該事案の証拠関係によっては、提供目的の有無や姿態をとらせたことに当たるかなどが微妙で、判断に窮する事態も生じ得る。
また、裁判所も、5項製造罪に当たるものとして起訴された事案では、'常に、実体的に3項製造罪又は4項製造罪に当たるものではないかについて、判断を要することになろう。
しかし、前段落でみたところからすると、そのような判断を検察官や裁判所に求めることに意味はなく、所論のような解釈は、5項製造罪が設けられた上記趣旨にそぐわないものである。
加えて、3項製造罪、4項製造罪及び5項製造罪の法定刑は同じであるから、前2者に当たる児童ポルノを製造した者が、それがひそかに描写して製造したものでもあるときに5項製造罪で処罰されても、不利益はない。
以上を踏まえると、本法7条5項において「前二項に規定するもののほか」と規定されているのは、実体的に3項製造罪又は4項製造罪に当たるものを除くという趣旨ではなく、3項製造罪又は4項製造罪として処罰されるものを除くという趣旨と解される。
そうすると、児童に本法2条3項所定の姿態をとらせた上で、ひそかにその姿態を撮影するなどして児童ポルノを製造した行為について、4項製造罪として公訴提起するか5項製造罪として公訴提起するかは、検察官の裁量に属する。
そして、本件で、検察官は、起訴状において、①の児童ポルノ製造行為を公訴事実として記載するとともに、~罪名として本法違反を掲げ、罰条として本法7条5項を記載しており、同条4項を記載してはいないから、 5項製造罪として公訴提起したものであることは明らかである。
この場合に、裁判所は、その行為について「ひそかに」の点を含めて同項の構成要件に該当する事実が 認められる以上、同項を適用すべきであり、原判決が①の事実に同項を適用したことに法令適用の誤りはない。