○裁判要旨
原判決が被告人を罰金10万円に処したことは、同種犯罪の量刑傾向を逸脱しており、不当に軽いというほかないから、原判決は破棄を免れないが、犯行態様等の犯情を総合的に考慮すると、原判決が罰金刑を選択したこと自体は、量刑の大枠の範囲内のものとして、不当とはいえない。
○裁判理由
被告人には保護観察付き執行猶予の同種前科があるのであるから、本件が同種犯罪の中でも軽い部類に属するとは到底いえない。そうすると、原判決が、被告人を、同種犯罪の中でも軽い部類に属する犯罪に課せられる罰金20万円より、さらに軽い刑である罰金10万円に処したことは、明らかに同種犯罪の量刑傾向を逸脱しており、不当に軽いというほかなく、原判決は破棄を免れない。
しかし、量刑に当たっては、前科が重要な量刑要素になるにしても、それは単なる一要因に過ぎないのであるから、犯行態様や犯行の計画性等の、その余の犯情をも総合的に考慮する必要がある。そして、本件の犯行態様を見ると、本件は、被告人が被害女性の後方を通り抜けざま、極めて短時間、その臀部を着衣の上から触ったというものであり、犯行態様としては軽い部類に属する。また、本件は、偶発的、機会的な犯行という側面が強い。しかも、被告人が、前刑の判決後、本件に至るまでの間に、他に同種犯罪に及んだ形跡はうかがえない。そうすると、本件は痴漢行為の中でも中間的な部類というべきである。そして、これを前提に、量刑傾向を見ると、中間的な部類に属する痴漢犯罪に対する量刑としては、上限に近い罰金額から懲役3、4月(実刑)程度までの計が考えられるところ、原判決の指摘する被告人に有利な一般情状に加え、被告人が、原判決後、弁護人に示談金を預け、被害弁償の努力をしていることなどを考慮すると、本件に対し、罰金刑を選択すること自体は、量刑の大枠の範囲内のものとして、不当とはいえない。