児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

強姦既遂の訴因(強姦致死)につき、強姦未遂を認定した事例(小倉支部H28.10.3)

福岡地方裁判所小倉支部
平成28年10月03日
理由の要旨
(犯行に至る経緯)
(罪となるべき事実)
第1 被告人は、平成27年1月31日午前10時頃、上記実家の前で、遊びに来た被害者を見て、とっさに被害者を車に乗せて「D」に連れ込み、わいせつな行為をしようと決意した。被告人は、被害者を車に乗せるところを家族に見つからないように、「ボールを取ってきてくれんか。」などと言葉巧みに話しかけて、被害者を「C」まで徒歩で移動させ、被告人が使用する軽四輪乗用自動車に乗車させた上、同車を発進、走行させ、同日午前10時25分頃、誰もいない「D」に被害者を連れ込み、もってわいせつの目的で誘拐した。
  被告人は、同日午前11時頃、「D」2階西側和室において、被害者が13歳に満たないことを知りながら、被害者を押し倒し、口を手で塞ぐなどして、被害者の抵抗を排除した上、被害者の陰部及び肛門に指を出し入れし、被害者の口の中に陰茎を無理矢理差し入れ、口淫をさせて射精した。なお、被告人は、遅くとも陰部に指を出し入れしたり、口淫をさせたりした時点では、被害者を姦淫する意思をも有していたが、射精したため姦淫を遂げなかった。
  引き続き、被告人は、叫び声を上げた被害者の口を手で塞ぎ、更に頚部を手で圧迫して、意識を失わせた。間もなく、意識を回復した被害者が再び叫び声を上げて逃げようとしたことから、被告人は、わいせつ行為の発覚を免れるためには被害者を殺すしかないと決意し、仰向けに倒した被害者の頚部を手で強く圧迫して、被害者(当時10歳)を窒息死させて殺害した。
第2 被告人は、同日午前11時40分頃、「D」において、被害者の遺体をトートバッグに押し込め、前記自動車の荷台に載せて、同車を発進、走行させ、「C」まで運搬した上、同日午後1時15分頃、「C」2階南西側押し入れの中に隠匿し、もって死体を遺棄した。
(証拠の標目)
(争点に対する判断)
1 わいせつ誘拐の成否
  被告人は、以前から被害者とはキスをするような親密な関係にあり、本件当日も被害者が自分から「D」に行きたいと言い出したなどと供述するが、全く信用することができない。
  すなわち、被害者は、本件当日、Aと遊ぶ約束をしていたのだから、約束を破って被告人と「D」に行く理由がない。被告人は、「D」に向かう途中、元妻との電話の中で、被害者と一緒にいることを隠しただけでなく、「D」に着いて間もなく、被害者に対するわいせつ行為に出ている。捜査段階で被告人が具体的に供述していたように、被害者の服を脱がせていやらしいことをしてみようと思いつき、言葉巧みに被害者を車に乗せて「D」に連れ込んだことは明らかである。
2 強姦致死の成否
 (1) 姦淫行為について
  検察官が主張する姦淫の事実は、証拠上認めることができない。
  すなわち、被害者の陰部の傷について、遺体を鑑定したE証人は、例えば指の挿入が考えやすいとする一方で、陰部に陰茎が挿入されたという積極的所見は見当たらないと述べている。被害者の膣内から被告人の精子は発見されていない。膣内には男性特有の前立腺特異抗原(PSA)の反応(弱陽性)が認められるが、あくまで予備検査にすぎない。仮にPSAが存在したとしても、指に付着したPSAが膣内に移った可能性も否定し得ない。被告人は、指を入れて動かし、出血させたことを具体的に供述する一方、姦淫は一貫して否定している。
  検察官は、被害者着用のモッズコートに相当量の精液が付着していた事実を併せて、被告人が無理に姦淫したものの、挿入行為を十分に継続できず、陰部の外で射精したと考えるのが最も自然であると主張するが、可能性の域を出ない。
 (2) 姦淫意思について
  検察官は、被告人の性的傾向や前科、誰もいない「D」に連れ込んだことから、被告人が当初から姦淫意思を有していたと主張する。
  他方、被告人は、姦淫意思も一貫して否定している。
  そこで検討すると、被告人は、性犯罪の前科があり、警察から監視されていたのに、思いつきで被害者を誘拐しており、この時点では、服を脱がせていやらしいことをした後、ばれないように口止めした上で被害者を連れ帰るつもりであった可能性がある。したがって、誘拐した当初から姦淫意思があったとまでは認められない。
  しかし、「D」に着いた後、わいせつ行為を始めてからは、性欲を抑えられず、陰部に指を出し入れし、口淫させて射精までしている。誰もいない家の中でこれだけのことをしておきながら、この段階でも姦淫意思がなかったなどということはできない。
  以上から、遅くとも陰部に指を出し入れしたり、口淫させたりした時点では姦淫意思が生じていたと判断した。
3 被害者の同意の有無
  被告人は、被害者とは親密な関係にあり、被害者の同意を得てわいせつ行為に及んだなどと述べるが、およそ考えられない。
  すなわち、被害者の母親の供述によれば、被害者は、年相応の性的知識や羞恥心を有するごく普通の小学女児であり、被告人との親密な関係をうかがわせる事情は何ら見当たらない。被害者がわいせつ行為に同意する理由などない。被告人は、被害者からキーホルダーをもらったと述べて、そのキーホルダーを証拠として提出したが、被害者の持ち物かどうかも分からず、裏付けにはならない。2人の体格差を考えれば、被告人は容易に被害者を制圧できるはずである。被害者に抵抗したことを示す傷がないことや、室内の荒れ具合が小さいように見えることも、同意があったことをうかがわせる事情にはならない。捜査段階で被告人が具体的に供述していたように、被害者を押し倒し、口を手で塞ぐなどして、被害者の抵抗を排除した上、同意のないままわいせつ行為に及んだことは明らかである。