法廷で裁判やってる意味が無い
証拠裁判主義
刑事訴訟法317条
事実の認定は、証拠による。
・・・
裁判員の参加する刑事裁判に関する法律
(宣誓等)
第三十九条 裁判長は、裁判員及び補充裁判員に対し、最高裁判所規則で定めるところにより、裁判員及び補充裁判員の権限、義務その他必要な事項を説明するものとする。
2 裁判員及び補充裁判員は、最高裁判所規則で定めるところにより、法令に従い公平誠実にその職務を行うことを誓う旨の宣誓をしなければならない。
・・・裁判員の参加する刑事裁判に関する規則
http://www.saibanin.courts.go.jp/vcms_lf/kisoku27.pdf
(宣誓の方式・法第三十九条)
第三十七条 宣誓は、宣誓書によりこれをしなければならない。
2 宣誓書には、法令に従い公平誠実にその職務を行うことを誓う旨を記載しなければならない。
3 裁判長は、裁判員及び補充裁判員に宣誓書を朗読させ、かつ、これに署名押印させなければならない。裁判員及び補充裁判員が宣誓書を朗読することができないときは、裁判長は、裁判所書記官にこれを朗読させなければならない。
4 宣誓は、起立して厳粛にこれを行わなければならない。
5 宣誓は、各別にこれをさせなければならない。
http://digital.asahi.com/articles/ASJCS0DHXJCRUTIL039.html
2015年5月31日。千葉県柏市で起こった無差別連続殺傷事件の裁判員になり、3日間裁判所に通った後の日曜日。当然ながら裁判所は休みだ。よく晴れた日だった。自宅近くの事件現場にひとり出かけた。法廷ではすでに事件の詳細が明らかにされていた。現場の写真なども見せられた。「柏市在住で、せっかくこんなに近くに住んでいるんだから、自分の目で確かめてみたい」
自転車で現場に向かった。念のため、マスクをして、帽子をかぶった。だれも知るはずはないが、裁判員であることがわからないようにと思ってのことだ。
ペダルをこぐこと約10分。事件があった柏市あけぼの5丁目に着いた。
裁判で聞いたことがよみがえってきた。まず被告(事件当時24)は通りがかりの女性に「ちょっと、すみません」と声をかけている。足早に立ち去ろうとする女性を走って追いかけ、「ハンカチを落としていませんか」としつこく話しかけたという。女性は「落としていません」と言って、家に駆け込んだという。
女性が声をかけられたのは、午後11時半ごろ。真っ暗な夜に、黒いニット帽をかぶったマスク姿の男にいきなり声をかけられたという。現場に立ち、想像するだけで怖くなった。
自転車を押しながら、歩いて行くと、現場検証のときにつけられたとみられる赤い線や番号が路上に残っていた。1年以上経っているのに。通行人は気づかないだろうが、幅さんの目には生々しく映った。
被害者が住んでいたアパート近くの駐車場にたどりついた。法廷で検察官が話していた場所だ。
「ここで刺されたんだ」。しゃがんで手を合わせた。
「裁判員をやっています。あなたの事件の担当をしています。精いっぱい頑張りますからね」
目を閉じて、心の中で語りかけた。
一方で、見られたら困る、という思いもあった。5〜6分で足早に立ち去った。自分の行動は挙動不審に見えたかもしれない。
刺されて亡くなった男性(事件当時31)のほか、被害者は3人いた。自転車に乗っていた男性(同25)は刃物を突きつけられてけがをし、別の男性(同44)は財布を、もうひとりの男性(同47)は車を奪われた。犯行は10分ほどの間に行われていた。
法廷では「北東」「10メートル」などと説明されたが、いまいちピンとこなかった。実際に現場に立つと、方向も距離感も手に取るように実感できた。数十メートルという近い距離の中、何人もの人間を襲ったのか……。亡くなった被害者が自宅アパートのすぐ目の前で刺されたことも確認できた。「家まであと数メートルというところで殺されてしまったんだ……」。無念という言葉しか浮かばなかった。
被告がマスクや手袋、酒を買ったという近くのコンビニまで足を延ばした。
被告はここで声をかけ、ここで車に乗って、ここで被害者が刺されて……。ひとつひとつを歩きながら確認していくと、昼間だというのに急に悪寒が走った。恐怖に襲われ、必死に自宅に戻った。
翌6月1日は休廷日。月曜だったが、会社に行く気にはなれず、有給休暇をとった。銀行での用事などを済ませ、町でひとりランチをした。
自宅に帰ろうと道を歩いていたときだ。この日もよく晴れていた。手には日傘を持っていた。
「雨なんか降ってねえのに、傘さしてるんじゃねえよ!」
いきなり怒鳴られた。60歳ぐらいの男性だった。
恐怖で動けなくなった。手が震え、足がすくんだ。逃げたいのになぜか足が動かなかった。
以前なら、そんなわけのわからない声をかけられたら、にらみ返すぐらいのことはしていた。もともと気は強い。それなのに、急に声をかけられ、無意識のうちに体が反応した。
「私、どうしちゃったんだろう?」
裁判員として担当する事件で被告が無差別に被害者たちを襲って殺傷したことと重なって恐怖を感じ、身がすくんだのだった。
気づくと、男性はいなくなっていた。(編集委員・大久保真紀)