児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp3@okumura-tanaka-law.com)

性犯罪・福祉犯(監護者性交罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

被告人が、以前から性的関係のあった被害者との関係修復を試みようとしたが、被害者から拒絶的な態度をとられたことから、被害者を自動車内に逮捕監禁し、強いて姦淫し、暴行を加えて傷害を負わせた事案(神戸地裁H25.7.25)

 リベンジ型。かつて交際型

逮捕監禁,強姦致傷被告事件
神戸地方裁判所
平成25年7月25日第4刑事部判決
       判   決
       主   文
被告人を懲役3年に処する。
未決勾留日数中90日をその刑に算入する。
       理   由
【犯罪事実】
 被告人は,
第1 かねてより性的関係を継続していたAが,平成25年2月中旬,急に被告人に対して拒絶的な態度をとるようになったため,同女と話をし,できるならば仲直りをしたいと考え,同月15日夜,同女が住む神戸市a区b町c丁目c1番c2号d7階の通路に赴き,同女の帰宅を待っていたが,翌16日午前3時20分頃,帰宅してきた同女が被告人を無視する態度をとったことから,同女を無理矢理連れ出してでも話をしようと思い立ち,そのころ,同所で,同女(当時27歳)に対し,「山連れて行ったるわ。殺したるわ。」などと強い口調で言って脅迫し,手で同女の腕をつかんで引っ張るなどの暴行を加え,同区b町e丁目e1番f駐車場まで同女を連行した上,同日午前3時28分頃,同所に駐車中の自己使用の普通乗用自動車の助手席足元に同女を押し込んで同車を発進させ,さらに走行中の同車内において,同女に対し,「殺したろか。山に捨てたる。」などと強い口調で言って脅迫するなどし,同日午前6時頃,同県宝塚市gh丁目h1番h2団地7号棟北側路上で同女を解放するまでの間,同車内において,同女の脱出を著しく困難にし,もって同女を不法に逮捕監禁した。
第2 同日午前3時50分頃から午前4時5分頃までの間,兵庫県西宮市i町jk番地l西側mnバス停兼待機所南側に駐車中の同車内において,同女の衣服が乱れている様子を見て欲情にかられ,強いて同女を姦淫しようと思い立ち,被告人の前記第1記載の暴行,脅迫によって同女が畏怖し,反抗を抑圧された状態にあったのに乗じて,強いて同女を姦淫した。
第3 同日午前4時12分頃,前記第2記載の場所に駐車中の同車内において,同女が大声をあげて暴れだし,同車のフロントガラス等を蹴るなどしたことから,これに立腹し,同女に対し,その左顔面を平手で殴打する暴行を加え,よって,同女に全治約1週間を要する左頬部及び左側頭部打撲の傷害を負わせた。
【証拠の標目】 ※〔 〕内の記載は,証拠等関係カードの検察官請求証拠の番号を示す。
省略
【争点に対する判断】
1 争点の内容及び当事者の主張
本件では,被告人が被害者を逮捕監禁した点(第1の犯罪事実)については全く争いがなく,さらに監禁中の被害者を強姦し,かつ被害者を殴打して傷害を負わせたことについても争いがないが,争点となったのは,強姦致傷罪の成否である。
強姦致傷に係る主位的訴因は,被告人が被害者を姦淫する前に被害者の顔面を殴打して負傷させたというものであるが,弁護人は,被告人が姦淫前に被害者の顔面を殴打した事実はない(殴打したのは姦淫後である)と主張した。
また,予備的訴因は,被告人が姦淫後に被害者の顔面を殴打して負傷させたというものであり,その事実関係に争いはなかったが,弁護人は,被害者の負傷は強姦とは別の理由により生じたものであるから,強姦罪と傷害罪が成立するにとどまると主張した。
当裁判所は,以下の理由から,主位的訴因,予備的訴因のいずれについても,弁護人の主張どおり,強姦致傷罪の成立は認められないと判断し,予備的訴因の範囲内で,強姦罪と傷害罪の成立を認めた。
2 主位的訴因についての判断
(1)強姦と暴行の状況についての被害者及び被告人の供述内容
ア 被害者の検察官に対する供述調書の記載の要旨
車内に監禁された後,走行中に「助けて」,「殺される」と叫ぶなどしたが,持病の過呼吸の症状が出て意識が遠のいた。そういったことが走行中に何度か繰り返された。その後,気付いたときには車のエンジンが切られ,助手席に座らされていた。ブーツ,タイツを脱がされ,さらに倒された助手席シートの上で,両足を開かされた。レイプされると思い,「止めて」,「殺される」などと叫び,両手や両足を動かして車を叩いたり蹴ったりして暴れていると,被告人から平手又は拳骨で左顔面の辺りを1,2発殴打された。その際,大声を出したためか再び過呼吸の症状が出て意識が遠のき,放心状態になった。その後は,無抵抗の状態で陰部を触られたり,キスをされたり,乳房を舐められたりした後,姦淫された。その後,被告人は友人に電話し,「俺やってもうたわ」,「無理矢理やって中出ししてもうた」などと言った上,「山,連れて行くしかないわ」などと口にした。その言葉から,殺されて山に捨てられるのではないかと強い恐怖を感じた。その頃には意識がはっきりしていたことから,「助けて」,「殺される」などと大声で叫び,両手両足で車内を叩いたり蹴ったりして暴れた。被告人に口を押さえられたが,そのときは殴られなかったと思う。被告人が車を発進させた後,再び過呼吸の症状が出て意識が遠のいた。
イ 被告人の供述要旨
被害者を車内に連れ込んで発車させた後,被害者はしばらく大声で叫ぶなどしていたが,途中で眠っているような状態になった。目的地に到着後,助手席足元にいた被害者を助手席に引っ張り上げて座らせたところ,被害者が目を覚まし,大声を出したり足をばたつかせたりして暴れ出したことから,被害者に覆い被さるようにして体を抑え込み,右手で口を押さえた。すると,被害者に過呼吸のような症状が出たので,人工呼吸等の処置をした。しばらくして被害者の呼吸状態は落ち着いたが,放心状態になっていた。被害者がまた暴れ出すかもしれないと考え,被害者のブーツを脱がせるなどしていたが,服装が乱れた被害者の姿を見て欲情にかられ,被害者を姦淫した。被害者は放心状態が続いており,被告人が被害者の口内に舌を入れようとした際に歯をくいしばって抵抗した以外には,目立った抵抗はなかった。その後,自分の服を着て,運転席に戻り,たばこを吸った。今後の身の振り方などについて相談しようとBに電話を掛けたところ,その通話中に,それまで静かだった被害者が再び暴れ出した。大切にしていた自車のフロントガラスを何度も蹴られるなどしたことから怒りが湧き,とっさに被害者の左顔面付近を平手で2回叩いた。
(2)信用性の検討
前記のとおり,被告人と被害者の供述内容は,暴行の時期以外の点では大きな食い違いはなく,被害者が暴れた際に被告人が被害者の顔面を殴打したという点でも共通する。
これを前提に,被害者の供述調書の信用性について検討すると,被害者にとっては,強姦の被害に遭うという重大な局面で受けた暴行については印象に残りやすいと考えられる。しかし他方,被害者は,姦淫される前後に,複数回にわたって意識がはっきりしない時期があり、また,本件直前には相当大量の酒を飲んでいたことなどからすると,認識と記憶の正確性には疑問を差し挟む余地がある(実際,強姦時の出来事の一部については姦淫との前後関係を覚えていなかったり,受けた暴行態様について曖昧な記憶しかない部分がある。)。また,被害者の供述によると,被害者はパンツを脱がされ,両足を開かれるなどした後に初めて抵抗したというのであるが,当初抵抗せず,その段階に至ってにわかに抵抗を始めたという経過にはやや不自然さが感じられる。加えて,被害者の供述時の具体的な状況は明らかでなく,記憶の鮮明さの程度や,捜査官の誘導の有無なども不明であることを踏まえると,被害者の供述調書が全面的に信用できると評価することはできない。
これに対し,被告人の供述内容はかなり具体的で,曖昧な点は少なく,前後の経過や他の客観的な証拠等に照らして明らかに不自然・不合理な点も認められない。そして,反対質問や補充質問を受けてもその供述内容は動揺していない。その供述態度には,自身に不利な点も含め事実をありのままに供述しようとする姿勢が見受けられ,暴行の時期についてのみあえて虚偽の供述をしているとも考えにくい。そうすると,被告人の供述は基本的に信用することができ,少なくとも,それが事実に反していると断定すべき決定的な事情は見出せない。 
以上からすると,暴行の時期について,主位的訴因に沿う被害者供述の信用性には疑問の余地があり,被告人供述を排斥することはできない。そして,被害者供述以外に主位的訴因を立証しうる証拠はない。したがって,被告人が姦淫前に被害者の顔面等を殴打し,負傷させたとは認められない。
3 予備的訴因についての判断
被告人の供述を中心とする証拠によれば,被告人は,午前4時5分頃までに,放心状態の被害者を助手席シート上で姦淫したこと,その後,自らの着衣を整えて運転席に戻り,タバコを吸った後,午前4時12分頃に友人のBに電話を掛けたこと,被告人がBとの電話中に被害者を山に連れて行くしかないなどと述べたところ,それまで放心状態になっていた被害者が突然暴れ出したこと,これを受けて,被告人は,大事にしていた車を傷付けられそうになったことなどから,とっさに被害者の左顔面を右平手で殴打し,左頬部及び左側頭部打撲の傷害を負わせたことが認められる。
こうした事実関係からすると,被告人による姦淫行為は,被害者から特に抵抗を受けることなく終了し,いわば一区切り付いた後,それとは別の新たな事態が生じて暴行に至ったとみるべきであり,時間的近接性という観点からしても,また,被告人の意思の面においても,その暴行と強姦行為との関連性はかなり弱いといわざるを得ない。したがって,被害者の負傷結果は,強姦行為の危険性が現実化したものとは到底いえない。検察官は,姦淫時も暴行時も,被告人は被害者との男女関係を継続したいと欲していたので共通性があるとか,被害者を支配下に置くという意思が暴行にも現れていると主張するが,説得力に欠く。
以上のとおり,被害者の負傷は,強姦行為によって生じたものとはいえないから被告人に強姦致傷罪は成立せず,被告人の暴行により被害者を負傷させた点は,別途,傷害罪を構成するにとどまる。
【累犯前科】
省略
【法令の適用】
罰条
 犯罪事実第1の行為 包括して刑法220条
 犯罪事実第2の行為 刑法177条前段
 犯罪事実第3の行為 刑法204条
刑種の選択
 犯罪事実第3の罪 懲役刑を選択
累犯加重
 犯罪事実第1ないし第3の各罪 いずれも刑法56条1項,57条
(再犯の加重。なお,犯罪事実第2の罪については刑法14条2項の制限に従う。)
併合罪の処理 刑法45条前段,47条本文,10条(最も重い犯罪事実第2の罪の刑に刑法14条2項の制限内で法定の加重)
未決勾留日数の算入 刑法21条
訴訟費用の不負担 刑事訴訟法181条1項ただし書
【量刑の理由】