児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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植松正「性器具と男根崇拝の対象物」総合判例研究叢書刑法19 p15

参考文献
植松正「猥褻の概念・性器具と男根崇拝の対象物」総合判例研究叢書刑法19 p15
 裁判例

最高裁判所刑事判例集 13巻11号 3068頁 
大分地方裁判所s33.10.28
押収してある木製陽物大、小陶器製陽物大、小(押第十四号乃至第十七号〉及び被告人の当公判廷(第四回〉における供述によれば、愛知県小牧市所在田県神社において男性性器をかたどった木製乃至陶製製品の販売されていることが認められる。しかし右押収物及びこれに添付されている田県神社略記と題する印刷物の記載殊に「田県神社を信仰する人は、男茎形を奉納して札参する古来の伝統がある。またすでに奉納されている男茎形を拝借して奉記すると利益があるとし、この場合は祈願成就の御礼に二個にして納する習はしである。当社に男茎形を奉納する事由は古語拾遺所載の如く「性器を崇拝し天地陰陽の相会によって豊作物のr豊殖を祈願したる古代民族の信仰に起因するものなり」との故事から出ておる」旨の記載部分によれば、前記各陽物はいずれも「田県神社御神符」と称され、右神符として製作され且つ使用されているものであって、性そのものに神秘的な力を感じ性器を崇拝した古代社会において性器を模したものを神体としこれを礼拝した風習が民間信仰として現在にとどめられた一遺残にすぎないものと認められる。更に右陽物はその製作意図、用途においてのみならず、その物より受ける印象においても判示各物件と著しく異るものであることが右押収物によって認められるから、仮に被告人のいうが如く右陽物のある種のものが女性の自慰用に使用されることがあり、また店頭に陳列されるこ止があるとしても、右陽物販売の事実を以て判示各物件の猥褻性を否定する事由となすことはできない。このことは、右陽物の如き信仰対象たるものもその置かれる条件の如何によっては猥褻性を帯びることがあり得ることを考えるならば、さらにより明瞭となるであろう。

 福岡高裁s34.4.20「玩具や信仰などに関係のあるものなどとは異り」わいせつだというのだから、信仰だと、「わいせつ」にならない可能性を示唆しています。

       猥褻物販売、同販売目的所持被告事件
福岡高等裁判所判決昭和34年4月20日
【掲載誌】  最高裁判所刑事判例集13巻11号3073頁
       高等裁判所刑事裁判速報集780号
       判例時報191号32頁
 主任弁護人佐藤恭也の陳述した本件控訴の趣意は、同弁護人及び弁護人北山六郎連名々義の控訴趣意書及び追加控訴趣意書に記載のとおりであるから、これを引用する。
 同控訴趣意の總述するところは、これを要するに、(1)原判決には法令の解釈適用の誤がある。即ち原判決が「猥褻物」の意義についての解釈を誤り、独自の判断の下に、本来猥褻物に非ざる本件物件を猥褻物なりと断定したのは、違法である。(2)原判決は本件物件を猥褻物と認定しているが、その認定の理由とするところを検討するに、これを猥褻物なりと断ずるにつき十分首肯し得べき理由を示していない。このことはいわゆる理由不備の違法に当る、というのである。
 よつて記録並びに原審で取調べた証拠を検討するに、本件各物件は、いずれもゴム製品及びスポンジゴム等を材料として男性又は女性の性器を模して形づくられたもので、指(小)(押第一号)は指サツクの先端部に淡黄色のスポンジゴムを亀頭状にかぶせ、その筒状部に同色の帯状スポンジゴムを螺旋状に巻き付け、これに歯車状の刻を付けたもの、指(中)(押第七号)は指サツクの先端部に前同色のスポンジゴムを亀頭状にかぶせ、その筒状部を同様のスポンジゴムで包んだもの、カブトスキン(押第三号、同第十二号)は性交用コンドームの先端部に前同色のスポンジゴムを用いて亀頭の形に作つたものを取付けたもの、張型(ポンプつき)(押第三号、同第十一号)及び張型(ポンプなし)(押第五号、同第十三号)はゴムホースを芯とし前同色のスポンジゴムを用いて作つた模型陰茎に性交用コンドームをかぶせたもので、前者はこれに取付けられているポンプを操作するとその都度亀頭部分に空気が送られて膨脹する仕組になつており、張型二人用(押第九号)は張型(ポンプなし)二個をその各基底部において連結されているもの、吾妻型(押第六号、同第十号)は女性々器に模して作られたもので赤色のスポンジゴムをハート型に作り、その中央部に孔をうがち、裏側に二重のゴム袋を取付け、外側のゴム袋と内側のゴム袋との間に取付けられたゴム管により空気を吹き込み膣部をふくらし、更に取付のポンプを操作すると膣入口が狭くなる仕組となつているもの、であり、以上いずれも男性及び女性の自慰用又は前戯用として製作されたものであることが明らかである。論旨は、右の指(小)、指(中)はこれが陰茎の模型であるとしてもそれはいずれも全く機能的に抽象化され、およそ実物の持つ感覚とは全く異るものであることが明瞭である。カブトスキンは仮にこれを掌に置いて見るも性的興奮を起させ羞恥嫌悪の情を催させる程の陰茎の模型であるとは到底いい得ない。張型類はその形状が幾何学的に抽象化されているため何ら性的興奮を生じさせ羞恥嫌悪の情を催させるものでない。吾妻型はこれにつき説明を受けぬ限りその用途につき知ることができず、又その外観からこれを以つて女性々器の模型であるとは認めること困難であり、ただそのポンプを作動しての機能が女性々器のそれに類似するというに過ぎない旨主張するが、弁護人の感覚を以つてすれば左様に受取れるものであろうか。しかし一般普通人ならば、これを眼にした視覚及びこれを手にして扱つて見た触覚、殊に取付けられたゴム管、ポンプ等を操作すること等により、それはいずれも男性及び女性の性器を模して作られたものであり、且つ玩具や信仰などに関係のあるものなどとは異り、専ら男性及び女性の自慰用又は前戯用として作られたものであることを感得し得るに違いない。指(小)、指(中)、カブトスキン及び吾妻型は張型類に比すれば男女性器の模造品としては決して上出来とはいえないが、それはそれなりに右同様の認識を得させる満のである。かくしてかかる模造性器の作出、存在は、それ自体性行為の非公然性の原則に反すること勿論であるが、それは又これを手にして見る一般普通人をして性的羞恥感情を害せしめるものであり、性的欲望を刺激興奮せしめる効果を持ち、善良なる性的道義観念にも反するものである。従つて本件各物件は最高裁判所判例(昭和三十二年三月十三日大法廷判決、集十一巻三号第九百九十七頁)に従いこれを猥藝物と断ずるに憚るところはない。原判決も基本的には、結局これと同一見解に出でて本件物件をいずれも猥褻物と認定したものと思われる。ただ、原判決が本件各物件を猥褻物と断ずるにつき、製作者の製作意図、使用目的、その用法に従つて使用された場合の使用者その他現時社会に及ぼす影響等諸般の事情も猥褻性判断の契機をなすと述べているのは、いささか考え過ぎである。本件のような有体物にあつては、文書、図画と異り、単にそれが人の視覚にうつたえるところだけでなく、それを手に触れ且つ扱つた場合の触覚により感得するところも視覚により感得するところと相俟つて猥褻性を判断することとなるものであつて、且つそれだけで十分であるというべく、製作者の製作意図、使用目的、その用法に従つて使用された場合の影響等は寧ろそれにより推察される結果に過ぎないとも思われ、これを猥褻性判断の契機と見る必要はない。従つて原判決は、この点においては誤を犯していることになるけれども、基本的には本件各物件をいずれも猥褻物なりと認定しており、且つこの認定を正当とすべきものであること前説示のとおりであるから、若し、論旨が原判決のこの点に関する解釈意見を論拠として本件物件の猥褻性を争うものであるならば、それは一応理由あるかの如く見えても、結局その根幹を見ずして枝葉にかかずろうものというべく、採るを得ない。なお所論のいう非公開性の原則なるものは、前記最高裁判所判例にうたわれた非公然性の原則とは全く異るもので、独自の見解に過ぎない。これを要するに、原判決には何等法令の解釈、適用の誤は存在せず、(1)の論旨は理由がない。又(2)の論旨も原判決を正解せず殊更その用語を曲解して原判決を非難し、且つ独自の見解をなすもので、原判決を精読すれば所論のような理由不備の根拠なきことが明らかであるので、採用の限りでない。
 よつて本件控訴は、その理由がないので刑事訴訟法第三百九十六条に則りこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。検察官鯉沼昌一一一出席。(裁判長裁判官 青木亮忠 裁判官 木下春雄 内田八朔)