児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

輸出入罪の着手と既遂

 これは考え出すと難しいんです。
 客体によっても違うし、立法趣旨も違うし。
 本件のような事案に対しては、関税法みたいに既遂も未遂も予備も法定刑同じにしておけば解決できます。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080304-00000099-san-soci
同被告らは、北朝鮮の貨物船から海中に投下された覚醒剤を小型船で回収。悪天候のために覚醒剤を見つけられなかったケースについて、同小法廷は「覚醒剤が陸揚げされる客観的な危険性が発生したとはいえず、輸入罪の実行の着手があったとは解されない」と述べ、検察側が主張した輸入未遂罪ではなく、輸入予備罪にとどまると判断した。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080304-00000045-mai-soci
審・東京地裁は11月事件について「着手後」に失敗したとして同法違反の密輸未遂罪を適用。一方、2審・東京高裁は「国内に陸揚げされる現実的な危険はなかった」として「着手前」の予備罪と判断していた。未遂罪の法定刑は「無期懲役か懲役3年以上」で、予備罪の「懲役5年以下」より重いため争点になっていた。<<>

 覚せい剤は有体物だから、「覚せい剤が陸揚げされる客観的な危険性」でみるんですよね。
 児童ポルノの場合は、領海に入った時点で、メールとかで送れて必ずしも陸揚げの必要はないので、「法益侵害の客観的な危険性」が違うと思うんです。

http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=02&hanreiNo=35920&hanreiKbn=01
平成19(あ)1659
事件名 覚せい剤取締法違反,関税法違反被告事件
裁判年月日 平成20年03月04日
法廷名 最高裁判所第三小法廷
外国で覚せい剤を密輸船に積み込んだ上,海上に投下し,回収担当者において小型船舶で回収して本邦に陸揚げするという方法による覚せい剤輸入を計画し,本邦内海の湾内で覚せい剤を投下したが,悪天候等のため,回収できなかった場合について,覚せい剤取締法所定の覚せい剤輸入罪及び関税法所定の禁制品輸入罪の実行の着手があったとはいえないとされた事例

http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080304111401.pdf
検察官の事件受理申立て理由について
検察官の所論は,事件受理申立理由書記載のとおりであるが,要するに,原判決が第1審判決判示第3の事実に代えて認定した罪となるべき事実(以下「本件」という。)について,覚せい剤取締法41条の輸入罪及び平成17年法律第22号による改正前の関税法109条1項,3項の禁制品輸入罪(以下「本件各輸入罪」という。)の各実行の着手を認めず,被告人らの行為がいずれの犯罪についても予備にとどまると判断した原判決は,本件各輸入罪の実行の着手に関する法令の解釈適用を誤ったものであるから,原判決を破棄して相当の裁判を求める,というのである。

オ密輸船から投下された覚せい剤8個のうちの4個は,遅くとも翌28日午前5時30分ころまでに,上記投下地点から20km程度東方に位置する美保湾東岸に漂着し,さらに,その余のうち3個が,同日午前11時ころまでに,同海岸に漂着し,これらすべてが,そのころ,通行人に発見されて警察に押収された。
カ一方,回収担当者は,そのことを知らないまま,同日午後,覚せい剤を回収するため,再度,上記境港中野岸壁から小型船舶で出港したが,海上保安庁の船舶がしょう戒するなどしていたことから,覚せい剤の発見,回収を断念して港に戻った。その後,被告人らは,同日中に,本件覚せい剤の一部が上記のとおり海岸に漂着して警察に発見されたことを知って,最終的に犯行を断念した。
キ同年12月27日,前記覚せい剤の包みのうちの最後の1個が,美保湾東岸に漂着しているのが通行人によって発見され,警察に押収された。
(2)以上の事実関係に照らせば,本件においては,回収担当者が覚せい剤をその実力的支配の下に置いていないばかりか,その可能性にも乏しく,覚せい剤が陸揚げされる客観的な危険性が発生したとはいえないから,本件各輸入罪の実行の着手があったものとは解されない。これと同旨の原判断は相当であり,所論は理由がない

名古屋高裁H18.5.30
所論は,原判決は「児童ポルノDVDを航空機に搭載させ,もって,児童ポルノを輸出した」(原判示第1)と判示するところ,児童ポルノ輸出罪は,児童ポルノをB国の領域外に搬出させた時点で既遂に達するのであって,航空機に搭載させた時点では既遂にならないから,原判決の(罪となるべき事実)は犯罪を構成せず,原判決は刑訴法335条1項に反し,訴訟手続の法令違反がある,というのである。
そこで,児童ポルノの外国からの輸出罪の既遂時期について検討する。
性交又は性交類似行為に係る児童ポルノを製造,提供するなどの行為は,児童ポルノに描写された児童の心身に有害な影響を及ぼし続けこのような行為が社会に広がるときには,児童を性欲の対象としてとらえる風潮を助長することになるとともに,身体的及び精神的に未熟である児童一般の心身の成長にも重大な影響を与えるため,児童ポルノ処罰法7条もこれらの行為を処罰しているところ,そのうち同条6項は,外国の児童が児童ポルノの描写の対象とされて性的に搾取されている実情があることなどにかんがみ,これに対する国際的な対処が必要であることから,日本国民が同条4項に掲げる行為の目的で児童ポルノを外国に輸入する行為及び外国から輸出する行為をも処罰の対象にしたものと解される。そして,外国からの輸出罪の場合,同条4項に掲げる行為の目的をもって児童ポルノを他の国に搬出するため,その地域に仕向けられた船舶,航空機等の輸送機関にこれを積載ないし搭載させれば,現代の輸送機関の発達等にもかんがみると,児童ポルノが他の国において流通し,ひいてはこれに描写された児童の性的搾取が重ねられるという危険が現実化したものということができる。これに加えて,輸出という概念の日常的な用法や,輸出罪を処罰する各種法令においても積載ないし搭載の時点で既遂に達していると解されていることなどにも照らすと,児童ポルノの外国からの輸出罪は,輸送機関が輸出国の領域を出るのを待つまでもなく,上記のような輸送機関へ積載ないし搭載した時点で既遂に達すると解するのが相当である。