児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条6項の児童ポルノの外国からの輸出罪の既遂時期について,児童ポルノを他の国に搬出するため,その地域に仕向けられた船舶,航空機等の輸送機関にこれを積載ないし搭載した時点とした事例(名古屋高裁H18.5.30)

 児童ポルノ罪の悪性からすれば、既遂時期を早めるというのも一理あるんですが、積載してから飛ばなかったらということを考えると、どうなんですかね?確実に飛ぶのであれば、国境越え時点でも大差ないんですけど。
 諸法令の輸出罪というのは、課税の最終チャンスということで、積載時説なんだと思います。

児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反,関税法違反被告事件
名古屋高等裁判所判決平成18年5月30日
児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条6項の児童ポルノの外国からの輸出罪の既遂時期について,児童ポルノを他の国に搬出するため,その地域に仕向けられた船舶,航空機等の輸送機関にこれを積載ないし搭載した時点とした事例
 本件控訴の趣意は,弁護人奥村徹作成の控訴趣意書及び控訴理由補充書に記載のとおりであり,これに対する答弁は,検察官関本倫敬作成の答弁書に記載のとおりであるから,これらを引用する。控訴趣意の論旨は,(1)訴訟手続の法令違反,(2)法令適用の誤り(憲法違反を含む。),(3)量刑不当(憲法違反を含む。)の3点である。そこで,原審記録を調査し,これらにつき順次検討する。
 3 控訴理由第3(原判示第1につき,訴訟手続の法令違反【輸出罪は不成立】)
 所論は,原判決は「児童ポルノDVDを航空機に搭載させ,もって,児童ポルノを輸出した」(原判示第1)と判示するところ,児童ポルノ輸出罪は,児童ポルノタイ王国の領域外に搬出させた時点で既遂に達するのであって,航空機に搭載させた時点では既遂にならないから,原判決の(罪となるべき事実)は犯罪を構成せず,原判決は刑訴法335条1項に反し,訴訟手続の法令違反がある,というのである。
 そこで,児童ポルノの外国からの輸出罪の既遂時期について検討する。
 性交又は性交類似行為に係る児童ポルノを製造,提供するなどの行為は,児童ポルノに描写された児童の心身に有害な影響を及ぼし続けるだけではなく,このような行為が社会に広がるときには,児童を性欲の対象としてとらえる風潮を助長することになるとともに,身体的及び精神的に未熟である児童一般の心身の成長にも重大な影響を与えるため,児童ポルノ処罰法7条は,これらの行為を処罰しているところ,そのうち同条6項は,外国の児童が児童ポルノの描写の対象とされて性的に搾取されている実情があることなどにかんがみ,これに対する国際的な対処が必要であることから,日本国民が同条4項に掲げる行為の目的で児童ポルノを外国に輸入する行為及び外国から輸出する行為をも処罰の対象にしたものと解される。そして,外国からの輸出罪の場合,同条4項に掲げる行為の目的をもって児童ポルノを他の国に搬出するため,その地域に仕向けられた船舶,航空機等の輸送機関にこれを積載ないし搭載させれば,現代の輸送機関の発達等にもかんがみると,児童ポルノが他の国において流通し,ひいてはこれに描写された児童の性的搾取が重ねられるという危険が現実化したものということができる。これに加えて,輸出という概念の日常的な用法や,輸出罪を処罰する各種法令においても積載ないし搭載の時点で既遂に達していると解されていることなどにも照らすと,児童ポルノの外国からの輸出罪は,輸送機関が輸出国の領域を出るのを待つまでもなく,上記のような輸送機関へ積載ないし搭載した時点で既遂に達すると解するのが相当である。
 本件の場合,原判決の認定した事実によれば,被告人が,タイ王国内から本邦に居住する者らに宛てて児童ポルノDVDを国際スピード郵便物として航空便でそれぞれ発送し,情を知らない同国内のドンムアン国際空港関係作業員らをして,これらの郵便物を同空港から本邦の成田国際空港に到着する予定の航空機に搭載させたというのであり,航空機への搭載の時点で,外国からの輸出罪は既遂となるから,上記事実を前提に,児童ポルノの外国からの輸出罪の成立を認めた原判決は,犯罪を構成しない事実を認定したものとはいえず,訴訟手続の法令違反はない。
(裁判長裁判官・前原捷一郎,裁判官・高橋 裕,裁判官・山田耕司)

 そんなことよりも、児童ポルノ罪の保護法益について「児童ポルノを製造,提供するなどの行為は,児童ポルノに描写された児童の心身に有害な影響を及ぼし続けるだけではなく,このような行為が社会に広がるときには,児童を性欲の対象としてとらえる風潮を助長することになるとともに,身体的及び精神的に未熟である児童一般の心身の成長にも重大な影響を与えるため,児童ポルノ処罰法7条は,これらの行為を処罰しているところ,そのうち同条6項は,外国の児童が児童ポルノの描写の対象とされて性的に搾取されている実情があることなどにかんがみ,これに対する国際的な対処が必要であることから,日本国民が同条4項に掲げる行為の目的で児童ポルノを外国に輸入する行為及び外国から輸出する行為をも処罰の対象にしたものと解される。」とかなり詳細に判示しているところが嬉しいですね。
 説明に困ったので、保護法益に遡ってそれらしく理由付けして、児童ポルノの特殊性を強調しているだけかもしれませんが、そこまでいうんなら、掲示板管理者の責任も正犯じゃないとおかしいわけで、同じ部がどう言うのかちょっと注目しています。