児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

情報処理学会倫理綱領

 あるんですね。抽象的ですけど。

情報処理学会倫理綱領
http://www.ipsj.or.jp/03somu/ipsjcode/ipsjcode.html

                                                                                                                      • -

本学会は、第38回通常総会(平成8年5月20日)において「情報処理学会倫理綱領」を制定し、会員の行動規範としていくこととなりました。
今後、会員各位には学会誌等によりお知らせし、実践のご協力をお願いすることになります。
ここには、「情報処理学会倫理綱領」と、「なぜ倫理綱領が必要か」(倫理綱領調査委員会委員長 名和小太郎)、および英語版を掲示いたします。

                                                                                                                      • -

情報処理学会倫理綱領
前文

 我々情報処理学会会員は、情報処理技術が国境を越えて社会に対して強くかつ広い影響力を持つことを認識し、情報処理技術が社会に貢献し公益に寄与することを願い、情報処理技術の研究、開発および利用にあたっては、適用される法令とともに、次の行動規範を遵守する。


1.社会人として
1.1 他者の生命、安全、財産を侵害しない。
1.2 他者の人格とプライバシーを尊重する。
1.3 他者の知的財産権と知的成果を尊重する。
1.4 情報システムや通信ネットワークの運用規則を遵守する。
1.5 社会における文化の多様性に配慮する。


2.専門家として
2.1 たえず専門能力の向上に努め、業務においては最善を尽くす。
2.2 事実やデータを尊重する。
2.3 情報処理技術がもたらす社会やユーザへの影響とリスクについて配慮する。
2.4 依頼者との契約や合意を尊重し、依頼者の秘匿情報を守る。


3.組織責任者として
3.1 情報システムの開発と運用によって影響を受けるすべての人々の要求に応じ、その尊厳を損なわないように配慮する。
3.2 情報システムの相互接続について、管理方針の異なる情報システムの存在することを認め、その接続がいかなる人々の人格をも侵害しないように配慮する。
3.3 情報システムの開発と運用について、資源の正当かつ適切な利用のための規則を作成し、その実施に責任を持つ。
3.4 情報処理技術の原則、制約、リスクについて、自己が属する組織の構成員が学ぶ機会を設ける。



 本綱領は必ずしも会員個人が直面するすべての場面に適用できるとは限らず、研究領域における他の倫理規範との矛盾が生じることや、個々の場面においてどの条項に準拠すべきであるか不明確(具体的な行動に対して相互の条項が矛盾する場合を含む)であることもあり得る。したがって、具体的な場面における準拠条項の選択や優先度等の判断は、会員個人の責任に委ねられるものとする。


付記
本綱領は平成8年5月20日より施行する。
本綱領の解釈および見直しについては、必要に応じて委員会を設置する。


なぜ倫理綱領が必要か
名和 小太郎
(倫理綱領調査委員会委員長)

なぜ、倫理綱領が必要か。

 それは、情報処理技術が社会的に大きい影響力を持つアプリケーションを数多く産み出しつつあるという現実があり、これを受けて情報処理技術者は自己の行動に対する責任を持たなければならないという考え方が生じてきたためである。

この視点で見たときに、情報処理技術者の環境はどうなっているのか。

 第1に技術的な環境について。かつて情報処理技術のアプリケーションにかかわる関係者は開発者、メーカーはもちろんユーザまで専門家であった。しかも多くの場合、彼らの行動は組織(企業、公的団体、教育研究機関など)の管理下に置かれ、この意味では特定多数者といってよかった。従って、ほとんどのアプリケーションは専門家によって一定のサービス水準を維持するように開発され運用されてきた。

 パソコンの社会的な普及はこの状況を一変させた。パソコンのユーザは多くの場合、個人的な行動様式を持ち、かつ非専門家である。このためにアプリケーションの運用責任はユーザ自身つまり非専門家に転嫁され、アプリケーションの信頼性水準は彼らの意図と能力に従って多様化した。このような非専門家ユーザは増大し、従って専門家の制御できないアプリケーションが増大した。加えて、利用分野におけるダウンサイジング、アンバンドリング、アウトソーシングなどの動向は専門家のアプリケーションに対する管理責任を細分化した。

 通信の分野においても同様な傾向が認められる。インターネットのような開放型かつ分散管理型のネットワークは、従来のユニバーサル・サービス方式のサービスと異なり、ネットワーク全体を管理する主体が存在しないネットワークを作り出してしまった。ここでも専門家でないユーザ自身がアプリケーションの開発や運用について責任を背負わざるをえないような環境が出現したことになる。

 第2に社会的な環境について。社会の成熟とともに情報処理分野にもさまざまな社会的価値観の持ち主が、専門家として、また利害関係者(事業者からユーザまで)として参入してきた。さまざまな価値観とは、公共性、市場原理、自己責任、弱者保護、公序良俗などの理念に対する配慮の優先度や重みのかけ方を指す。

 価値観の多元化の中で、進展しつつある技術は次々と新しいアプリケーションを出現させている。このために現在の情報処理技術は多様な社会的検討課題を引き起こしている。これは表現の自由、通信の秘密、個人情報保護、著作権保護、情報の共有、セキュリティ管理、暗号化政策などに関わる。

 現在の情報処理に関する法制度はこのような社会的課題を十分に制御できないままに陳腐化し、空白部分を残した状態にある。これは多様な意見の合意が困難なことによって、また既得権益を守ろうとする勢力が存在することによって、新しい法秩序を設けることが妨げられているためである。

 アプリケーション管理責任の拡散と制御規律の不存在は、情報処理技術の社会に及ぼす影響を考えればそれを放置することはできない。ここで当面できる一つの対策は、何人かがこの社会的課題についてその所在と意味とを広く一般の人々に訴え、それを制御するための倫理綱領的な性格を持つガイドラインを提案することであろう。

 誰がそのような行動を起こしたら良いのか。まず、その分野の技術に習熟したものがこの行動に入るべきであろう。このためには専門家に対するコードが必要となる。ここにガイドライン制定の第1の狙いがある。

 当面する社会的問題に対する認識や価値観は、実は情報処理の専門家の間にあっても多様であることが想定される。従って、これに対して厳密かつ詳細なルールを設定することは困難である。成しうることは、緩いガイドラインを設定し、個々のケースへの対応に対しては各人の判断に委ねることである。

 専門家の社会的活動は、一般人からも良く見えるような環境のもとで実行されなければならない。これは情報処理技術の専門家が判断の基礎とした専門的情報を一般人に公開、説明し、一般人に情報処理技術の応用に関して意見を表明する機会を与えるための前提となる。つまり、これはの専門家の独善を防ぐために不可欠の条件となる。ここにガイドライン制定の第2の狙いがある。

 同じく社会的な影響力を持つ専門家として、医師、建築家、弁護士などがある。彼らに対しては、専門家として高い倫理性が法的に義務付けられている。この点、情報処理技術者は現実には高度の専門性を求められているにもかかわらず、制度的には専門家として認められていない。この弱い立場を支えるためにも、情報処理技術者は自律的な行動規範を持つ必要がある.これがガイドライン制定の第3の狙いである。

 これまで多くの技術者は「なされうるものは、なされなければならない」というブレークスルーの理念を信じてきた。だが、これからは、このブレークスルーの理念は社会的に受容され共有されるガイドラインによって制約を受けるようになるだろう。