児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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青少年条例の年齢知情条項の解説

 

 

 

 

  年齢知情条項の解説
北海道 また、第65条は、条文の各規定に違反した者は、青少年の年齢を知らないことを理由として、処罰を免れることができない旨を規定したもので、相手方が青少年であるか否かの確認を義務付けたものである.
第65条中「過失がないとき」とは、青少年に年齢、生年月日を尋ね、身分証明書、学生証の提示を求めるなど、客観的に妥当な年齢確認を行ったにもかかわらず、当該青少年が年齢を偽ったり、虚偽の身分証明書を提示し、しかも客観的に18歳以上の者として誤認されるような状態である場合など、違反者の側に過失がないと認められる場合をいう。
なお、この場合の過失がないことの証明の挙証責任は、違反者が負うことになる。
青森 6 第31 条は、第22条(淫行又はわいせつ行為の禁止)、第15 条の8第1項第3号(テレホンクラブ等営業を営む者が、当該営業に青少年を従事させることの禁止及び第23 条(場所の提供又は周旋の禁止)の規定に違反した者は、青少年の年齢を知らなかったことを理由として処罰を免れ得ないこと及び年齢確認に関する無過失の挙証責任があることを明らかにしたものである。
「青少年の年齢を知らないことについて過失がない」とは、通常可能な調査が適切に尽くされているといえるか否かによって決せられることになるが、具体的には、相手方となる青少年に、年齢、生年月日 、えと等を尋ね、又は身分証明書等の提出を求める等、客観的に妥当な権認措置をとったにもかかわらず、青少年自身が年齢を偽り、又は虚偽の証明書を提出する等、行為者の側に過失がないと認められる場合をいう。
岩手 第6項(過失処罰規定)
第18 条(青少年に対するみだらな性行為等の禁止)又は第18 条の2 (青少年に対する入れ墨等の禁止)の規定に違反した者は、相手が青少年であることを知らなかったという理由で処罰を免れることを防ぐために設けた規定であって、相手が青少年であることを知らなかった場合であっても処罰を免れないこととしたものである。
「過失のない時」とは、青少年に年齢、生年月日、えと等を尋ね、又は運転免許証、身分証明書等の提出を求める等、客観的に妥当な確認措置をとったにもかかわらず、青少年自身が年齢を偽り、又は虚偽の証明書を提出する等、行為者の側に過失がないと認められる場合をいい、過失がないことの証明は、違反行為をした者が行うことを要するものである。
宮城 3 第6項は、第30条(みだらな性行為等の禁止)及び第31条(入れ墨を施す行為の禁止)の各規定に違反する行為を行った者は、青少年の年齢を知らなかったことを理由として処罰を免れることができない旨を定めたもので、相手方が青少年であるか否かの確認を義務付けたものである。
ただし書き規定の「当該青少年の年齢を知らないことに過失のないJとは、単に青少年に年齢、生年月日等を尋ねただけ、あるいは身体の外観的発育状況等からの判断のみによって信じただけでは足りず、運転免許証、住民票等公信力のある書面、あるいは、父兄に直接に問い合わせる等客観的に通常可能とされるあらゆる方法を用いて精査して確認している場合をいう。
秋田 7 第5項の規定は、本条例の規定に違反する行為を行った者は、青少年の年齢を知らなかったことを理由として処罰を免れないことを規定したものであり、青少年に対してみだらな性行為又はわいせつな行為をさせた者や、有害行為に対する場所提供又は周旋した者は、青少年の年齢を知らなかったことを理由として処罰を免れないことを限定したもので、営業者等にその相手方が青少年であるか否かその年齢を確認することを義務づけたものである。
「当該青少年の年齢を知らないことに過失がないJとは、青少年に年齢、生年月日、えと等を尋ね又は身分証明書の提出を求める等客観的に妥当な確認措置をとったにもかかわらず、青少年自身が年齢を偽り、又は虚偽の証明書を提出する等、営業者及び成人の側に過失がないと認められる場合をいう
なお、この項の規定により、違反者は自ら過失がないことを挙証する責任を有する。
山形 6 第6項関係
「過失のないとき」とは具体的事案ごとに提出された客観的資料の種類、その提出の際の状況及びその確認方法の有無、難易等を総合的に検討して、社会通念に照し、通常可能な調査が適切に尽くされているといえるか否かによって決せられることになる(大阪高裁昭和46年11月)
「過失のないときは、この限りでない。」とは第13条、第13条の2又は第15条の規定に違反した者が当該行為の相手が青少年であることを知らなかったことについて過失がなかった場合は、処罰されないということである。
〔関
福島 8 第6項の「過失がないときは、この限りでない」とは、第24条、第24条の2,第24条の3及び第25条第2項の規定に違反した者が、当該行為の相手が青少年であることを知らなかったことについて過失がなかった場合は、処罰されないということである。
「過失のないとき」とは、具体的事案ごとに提出された客観的資料の種類、その提出の際の状況、及びその確認方法の有無、難易等を総合的に検討して、社会通念に照らし、通常可能な調査が適切に尽くされているといえるか否かによって決せられることになる(昭和46年11月大阪高裁)。
茨城 「過失のないとき」一青少年であるか否かについて確認するに当たり,社会通念に照らして通常可能な調査が適切に尽くされていることをいい,具体的には,運転免許証や住民票,学生証など公信力のある書面,保護者に問い合わせる等客観的に可能とされるあらゆる方法を用いて確認した場合をいうもので,単に青少年に年齢,生年月日を尋ねただけとか,身体の外観の発達状況,服装等からの判断によって青少年に該当しないとした場合は,当然には「過失のないとき」には該当しない。
「この限りでない」一年齢確認をした際に,当該青少年が身分証明書の生年月日を巧妙に改ざんした場合などで,誰が見ても見誤る可能性が十分あり,見誤ったことに過失がないと認められる状況であった場合は,責任を負わせないものである
栃木 8第8項は、第22条第4項の「有害図書類の販売等の制隅、第25条第3項の「有害がん具類の販売等の制限」、第34条の「青少年に対する利用カード等の販売等の禁止」、第42条第1項若しくは第2項の「青少年に対するいムノ行等の禁止」、第43条の「青少年に対する入れ墨の禁止」、第44条第1項の「物品の質受け及び古物の買受け等の制限」第45条の「青少年からの着用済み下着の買受け等の禁止」、第46条の閻誘丁為の禁止」、第47条の「有害行為のための場所提供等の禁止」、第48条第2項の「深痴車れ出し等の禁止」、及び第49条第1項の「深夜における興行場等への立入りの制限等」の規定に違反した者が、青少年の年齢を知らないことを理由として第1項、第2項又は第4項から第6項までの規定による処罰を免れることができないという過失犯処罰規定である。
群馬 【解説】
本条は、罰則のある規定のうち青少年に対する違反行為に関して、違反者は相手が青少年であることを知らないことを理由として処罰を免れることができない旨を定めたものであり、相手方が青少年であるか否かについての確認義務を課したものである。
1 年齢の確認手段は、運転免許証、住民票、学生証等の年齢を証明することができる資料によって確認したり、保護者に問い合わせて確認するなど客観的な方法による措置が必要とされており、単に年齢や生年月日を尋ねただけでは確認したとはいえない。
2 「当該青少年の年齢を知らないことについて過失がないとき」とは、相手方である青少年に対し、年齢を証明することができる資料の提出を求めて年齢を確認するなど客観的に妥当と認められる方法により確認したにもかかわらず、青少年が虚偽の資料を呈示し、しかも、その青少年が客観的に青少年ではないと誤認されるような体格、容貌である場合等をいう。
判例
◎ (昭和30年10月18日東京高裁)
児童を接客婦として住み込ませようとする場合には、その周旋人はもとより、児童本人その親等も右周旋人の示唆等により、雇主に対し年令を偽り、満18歳以上であるように装うことは、世上一般的に行われ希有の事実でないのであるから、単に、児童の体格風貌等が18歳以上に見え、右の者等において18歳以上であると告げたからといつて、さらに戸籍抄本等につき正確な年令の調査をすることなく、その児童に淫行させた場合には、児童福祉法第34条1項6号の違反が成立し、同法第60条3項但書
の児童の年令を知らないことについて過失のない場合には当らない。
◎ (昭和30年11月8日最高裁(小))
接客婦として児童を雇入れるにあたり、単に本人の供述または身体の外観的発育状況のみによつて、同女が満18歳以上に達しているものと判断し、さらに客観的な資料として戸籍抄本、食糧通帳もしくは父兄等について正確な調査を講じ、児童の年令を確認する措置をとつた形跡の認められない限り、児童を使用する者が児童の年令を知らなかつたことについて過失がないということはできない。
◎ (昭和33年9月3日東京高裁)
児童を雇入れるに際して、年令等について本人らにこれを尋ねただけで、本人の年令の自称を漫然と受入れ、同女に売淫させていた場合には、児童福祉法第60条3項但書にいう「過失がないとき」に当らない。
◎ (昭和34年12月10日長崎家裁
児童福祉法第60条3項但書にいう児童の年令を知らないことにつき、過失がないといえるためには、使用者が児童を雇入れる際、児童本人や仲介者などの自称する年令を軽信せず、児童の戸籍謄本または抄本などによつて生年月日を調査し、あるいは親元の照会をして年令を確かめるとか、一般に確実性のある調査確認の方法を一応尽すことが必要と考えられる。
◎ (昭和41年7月19日東京高裁)
社交クラブの経営者が若い婦女子を雇入れるにあたつては、本人若しくは周旋人の供述とか本人の身体の発育状態のみに頼ることなく、本人の戸籍を調べ、父兄に問合わせる等確実な調査方法を講じて本人の年令を確認すべき注意義務を負う。
◎ (昭和27年7月17日福岡高裁
児童福祉法第60条3項にいう児童の年令を知らないことについて過失がなかつた立証責任は、被告人側が負うべきものである


埼玉
用語の 説明
「過失がないとき」とは、単に青少年に年齢や生年月日を確認しただけ、又は身体の外部的発育状況等から判断しただけでは足り ず、学生証、運転免許証等の公信力のある書面、又は当該青少年の保護者 に直接問い合わせるなど、その状況に応じて通常可能とされるあらゆる方法を講じて青少年の年齢を確認している場合をいう。

関係する判例( 「過失がないとき」
○ 昭和 34 年5月 11 日最高栽判決(児童福祉法違反)児童又はその両親が児童本人の氏名を偽り、他人の戸籍抄本をあたかも本人のごとく装って提出した場合、他人の戸籍抄本をあたかも児童本人のものであるかの使用することも職業の特殊性から当然あり得ることが容易に想像できるから、一方的な陳述だけで たやすく軽信することなく、他の信頼すべき客観的資料に基づいて調査をなすべきである。この調査を怠っている
場合、児童福祉法第 60 条第3項但し書きにいう年齢を知らないことにつき過失がない場合に該当しない。

昭和 38 年4月 13 日東京家裁判決(風適法違反)
風俗営業者は、 全て の場合に戸籍謄本等を提出させたり、戸籍の照会をなすべき義務まで負うものではないが、応募者全員に対し住民票その他氏名、年齢等を通常明らかにし得る資料の提出を求めるか、 全て の場合に、単にその氏名、年齢等を述べさせ若しくは記載させ、又はその容姿を 観察するだけでなく、進んでその出生地、いわゆる「えと」年、その他、親兄弟や学校関係等について適宜の質問を発して事実の有無を確かめるとかの方法を講ずべきであり、すくなくとも本人の言うところ等に多少でも疑問があれば、右のような方法の外、進んで戸籍の照会を行う等客観的に通常可能な方法をとって事実を確かめ、その年齢を確認すべき法的な注意義務を有するものと解する。
千葉 3 第7項関係
本項は、各規定に違反する行為を行った違反者は、青少年の年齢を知らなかったことを理由として処罰を免れることができない旨を定めたもので、相手方が青少年であるか否かの確認を義務付けたものである。
(1) 対象となる違反は、前記1の表中、罰則欄に(過失犯処罰)と記載されたものが、該当する。
(2) 過失がないときとは、社会通念に照らし、通常可能な調査が適切に尽くされているか否かによって判断されると解される。
具体的には、単に青少年に年齢、生年月日等を尋ねただけ、あるいは身体の外観的発育状況等からの判断のみによって信じただけでは足りず、自動車運転免許証、住民票等公信力のある書面、又は、父兄に直接に間い合わせる等客観的に通常可能とされるあらゆる方法を用いて確認している場合をいう。
東京 淫行に適用なし
神奈川 4 「ただし、当該青少年の年齢を知らないことに過失がないときは、この限りでない。」とは、当該青少年の年齢について行為者が相当の注意を払い、青少年であることを知らなかったことについて、行為者に過失がなかったことが立証されれば、処罰の対象とされないということである。具体的には、履歴書を提出させるだけでは本人を確認したとは言えず、運転免許証等の顔写真つきの身分証明書で確認するか、必要によっては保護者等に確認するなどの手段を講じた場合は、過失がないと言える。
新潟 【解説】
第6項の規定は、青少年の健全な育成を阻害するおそれが強く、当然社会的にも非難されるべき行為について、青少年の年齢を知らなかったとしても、そのことを理由に処罰を免れることができない旨を規定しているもので、青少年保護の実効性を確保しようとするものである。
「ただし、過失のないとき」とは、社会通念に照らし、通常可能な確認が適切に行われているか否かによって判断される。
具体的には、単に青少年の年齢、生年月日を尋ねただけ、あるいは身体を外観等からの判断だけでは足りず、自動車運転免許証、住民票等の公信力のある書面で確認するか、又は、保護者に問い合わせるなど客観的に通常可能とされるあらゆる方法を用いて確認している場合をいう。
富山 2) 第15条に違反する行為は、健全な青少年の精神及び身体に悪影響を及ぼす悪質なものである。
このような行為が年齢の不知をもって処罰を免れることは、本条例の目的である青少年の健全育成に反することになることから、その実効性を確保するため、青少年の年齢を知らなかったことに過失のないときを除き、処罰の対象としたものである。
(3) 過失がないときとは、青少年に対し、年齢、生年月日などを尋ね、又は身分証明書学生証などの提出を求めるなど客観的に妥当な年齢確認の方法をとったにもかかわらず、当該青少年が年齢を偽ったり、虚偽の身分証明書などを提出し、しかも客観的に18歳以上の者として誤認されるような状態である場合など、違反者の側に過失がないと認められる場合をいう。
石川 【解 説】
1 第52条及び第53条に違反する行為は、健全な青少年の精神及び身体に悪影響を及ぼす極めて悪質、反社会的な行為である。かかる行為が年齢の不知をもって処罰を免れることは、本条例の目的である青少年の健全育成に反することとなることから、その実効性を確保するため、青少年の年齢を知らなかったことに過失のないときを除き、処罰の対象としたものである。
2 「過失のないとき」にあたるかは、個々のケースについて判断する必要があるが、社会通念に照らし、通常可能な査が適切に尽くされているか否かによって決められることになる。具体的には、単に青少年に年齢、生年月日を尋ねただけ、あるいは身体の外部的発育状況等からの判断のみによって信じただけでは足りず、自動車運転免許証、住民票等公信力のある書面の提出を求める、又は当該青少年の保護者に直接問い合わせる等客観的に通常可能とされるあらゆる方法を用いて確認している場合をいう。
過失のないことの証明は、行為者自身において行うことを必要とするものである。
福井 7 第6項は、本条第1項から第5項の違反行為については「青少年の年齢不知を理由として、処罰を免れることはできない」ことを規定したものである。ただし、青少年の年齢確認について客観的に充分な注意義務が払われ、違反行為の発生に過失が認められなかった場合には、罰則の適用が免れる。
「過失のないとき」とは、具体的事案ごとに提出された客観的資料の種類、その提出の際の状況およびその確認方法等を総合的に検討して、社会通念に照らし、通常可能な調査が適切に尽くされているか否かによって判断されることになる。
青少年の年齢確認については、関係業者の協力にゆだねるところが大きいが、学生、生徒等の場合には、学生証、生徒手帳等の提示を求める、服装、態度等から判断して年齢を問いただす等の適当な方法をとることが望まれる。
山梨 解説書なし
長野 「当該子どもの年齢を知らないことに過失がないとき」とは、例えば当該子どもからl8歳以上であるとの偽造運転免許証を見せられた場合などは免責される。
岐阜 規定は、条文に掲載する各規定に違反する行為を行った者は、青少年の年齢を知らなかったことを理由として処罰を免れることができない旨を定めたもので、相手方が青少年であるか否かの確認を義務付けたものである。
「当該青少年の年齢を知らないことに過失がないとき」とは、青少年に対して、年齢、生年月日等を尋ね、又は身分証明書の提出を求める等、客観的に妥当な年齢確認の措置をとったにもかかわらず、当該青少年が年齢を偽ったり、又は虚偽の身分証明書を提出したりして、しかも客観的に18歳以上の者として誤認されるような状態である場合等、違反者の側に過失がないと認められる場合をいう。
静岡 8 第8項関係
本項は、第14条の2(淫行及びわいせつ行為の禁止)、第14条の3(入れ墨の禁止)、第14条の4(着用済み下着等の譲受け等の禁止)、第14条の5(児童ポルノ等の提供を求める行為の禁止)、第15条(場所の提供及び周旋の禁止)の各規定に違反する行為を行った者は、青少年の年齢を知らなかったことを理由として処罰を免れることができない旨を定めた規定である。
これらの行為は特に悪質な行為であり、このような行為が年齢の不知をもって処罰を免れることは、本条例の目的である青少年の健全育成に反するため、青少年の年齢を知らなかったことに過失のないときを除き、処罰の対象とするものである。
(1) 「過失のない」とは、通常可能な調査が尽くされていると言えるか否かによって判断される。具体的には、青少年に対して、年齢、生年月日を尋ねたり、本人の容姿、体格等の身体的発育状況によって満18歳以上であると信じたというだけでは足りず、戸籍謄本、運転免許証等の客観的な資料に基づいて、通常可能な調査方法を講じ、更には父兄に直接問い合わせる等、年齢確認に万全を期したものと認められない限り、過失がないとはいえない。
(2) 無過失であることの挙証責任は、違反する行為を行った者にあると解される。
愛知 10 第8項の規定は、青少年の年齢を知らなかったという理由で処罰を免れることがないことを規定したものである。
「過失がないとき」とは、具合的事実ごとに提出された客観的資料の種類、その提出の際の状況及びその確認方法の有無、難易度を総合的に検討して、社会通念に照し、通常可能な調査が適切に尽くされているか否かによって決められることになる。(大阪高裁46. 10)
三重 3 第9項の「過失がないときは、この限りではない」とは、第18条の2、第19条の2第1項、第20条の2、第20条の3、第21条、第22条、第23条、第23条の2、第24条又は第24条の2第3項、第4項、第5項の規定に違反した者が、当該行為の相手が青少年であることを知らなかったことについて過失がなかった場合は、処罰されないということである。
「過失がないとき」とは、具体的事案ごとに提出された客観的資料の種類、その提出の際の状況及びその確認方法の有無、難易度等を総合的に検討して社会通念に照らし、通常可能な調査が適切に尽くされているか否かによって決せられることになる。
滋賀 3. 「当該青少年の年齢を知らないことに過失がないときJとは、青少年の年齢について行為者が相当の注意を払い、青少年であることを知らなかったことについて、行為者に過失がなかったことが立証されれば、処罰の対象とならないということである。営業者等が青少年に年齢、生年月日、えと等を尋ね、または運転免許証等の顔写真付きの身分証明書の提示を求めたり、必要によっては保護者等に確認するなど客観的に妥当な確認措置をとったにもかかわらず、青少年自身が年齢を偽り、または虚偽の証明書を提示するなど、営業者等に過失がないと認められる場合をいう。
なお、この場合違反者は自ら過失がないことを立証しなければならない
京都 第7項は、第13条の2第4項、第13条の3第2項、第14条の2第2項、第18条の2第2項、第21条、第22条から第24条まで(第23条第2項を除く。) 、第24条の4、第24条の7第1項若しくは第2項(第3号に係る部分を除く。) 又は第24条の8 (第3号に係る部分を除く。) の規定に違反した者は、当該青少年の年齢を知らないことを理由として、処罰を免れえないこと及び当該青少年の年齢を知らないことに過失がないことの挙証責任が当該行為者側にあることを規定したものである。同項の「当該青少年の年齢を知らないことに過失がない」とは、青少年に年齢、生年月日等を尋ね、又は身分証明書の掲示を求める等、客観的に妥当な確認措置をとったにもかかわらず、青少年自身が年齢を偽り、又は虚偽の証明書を提出し、しかも当該青少年が客観的に18歳以上の者と誤認されるような状態である場合等、行為者の側の過失がないと認められる場合をいう。
大阪 【解説】
本条は、次の5つの青少年への禁止行為に違反した者が、当該青少年が18 歳に満たない者であることを知らなかったとしても、それを理由として処罰を免れることができないことを規定したものである。
〇青少年に対する有害役務営業を営む者の禁止行為等(第26 条第1 項、第2 項第1 号)
〇青少年に対する有害役務営業に係る勧誘行為等の禁止(第27 条第3 号除く)
〇青少年に対する淫らな性行為及びわいせつな行為の禁止(第39 条)
〇青少年への勧誘行為の禁止(第42 条第2 号及び第3 号)
○場所の提供及び周旋の禁止(第43 条第1号、第3号、第4号)
ア「過失のないとき」とは、例えば、青少年に対して年齢確認をした際に、当該青少年が年齢を詐称した身分証明書や他人の身分証明書を示した場合等で、社会通念上、違反者の側に過失がないと明らかに認められる場合が考えられる。
兵庫

「過失のないとき」とは、単に青少年に年齢、生年月日等を確認しただけ、又は身体の外観的発育状況等から判断しただけでは足りず、学生証運転免許証等の公信力のある書面、又は当該青少年の父兄に直接問い合わせるなど、その状況に応じて通常可能とされる
あらゆる方法を用いて青少年の年齢を確認している場合をいう。
奈良 8 第5項の「当該青少年の年齢を知らないことについて過失がない」とは、通常可能な調査が適切に尽くされているといえるか否かによって決められる。具体的には、相手方となる青少年に、年齢、生年月日、干支等を尋ね、又は身分証明書等の提出を求める等、客観的に妥当な確認措置を尽くしたにもかかわらず、青少年自身が年齢を偽り、又は虚偽の証明書を提出する等、行為者側に過失がないと認められる状況をいう。
過失がないことの証明は、行為者自身において行うことを必要とするものである。
和歌山 8 第8項は、特定の違反行為については、「当該青少年の年齢不知をもって処罰を免れ得なしリとする規定である。
(1) 当該青少年の年齢を知らないことに過失がない」とは、通常可能な調査が適切に尽くされていると言えるか否かによって決められることになるが、具体的には、相手方となる青少年に、年齢、生年月日、干支等を尋ね、又は身分証明書等の提出を求める等、客観的に妥当な確認措置をとったにもかかわらず青少年自身が年齢を偽り、又は虚偽の証明書を提出する等、行為者の側に過失がないと認められる場合をいう。
この場合、過失のないことの証明は、行為者自身において行うことを必要とするものである。
鳥取 第9項は、いわゆる年齢知情特則です.青少年を保護するという条例の実効性をより高
めるため、平成8年の改正で新たに追加されました。「当該青少年の年齢を知らないことに過失がないとき」とは、社会通念に照らして通常可能な調査が適切に尽くされていると言えるか否かで判断されることとなります。
「過失がないとき」とは、単に青少年に年齢、生年月日等を尋ねただけ、又は身体の外観的発達状況等から判断しただけでは足りず、学生証、運転免許証等の公信じ力のある耆面、又は当該青少年の保護者に直接問い合わせるなど、その状況に応じて通常可能とされるあらゆる方法を用いて青少年の年齢を確認している場合などがあたります。この場合、過失がないことの証明は、違反者自身が行うことが必要です。
島根 第5項の規定は、伺項に掲げる規定に違反する行為を行った者は、青少年の年齢を知らなかったことを理由として処罰を免れることができない旨を定めたもので、相手方が青少年であるか否かその年齢を確認することを義務付けたものである。
「当該青少年の年齢を知らないことに過失がない」とは、青少年に年齢、生年月日等を尋ね、又は身分証明書の提出を求める等客観的に妥当な確認措置をとったにもかかわらず、青少年自身が年齢を偽札又は虚偽の証明書を提出する等、営業者及び成人の側に過失がないと認められる場合をいう。
岡山 8 第7項は、本条例の規定に違反する行為を行った者は、青少年の年令を知らなかったことを理由として処罰を免れないことを規定したものであり、有害図書や利用カード等を販売したり、有害興行を行う場所へ入場させようとする場合等、本条例で規制されている事項に関しては、営業
等の相手方が青少年であるか否か、又その年令を確認することを義務づけたものである。「当該青少年の年令を知らないことに過失がないとは、青少年に年齢、生年月日等を尋ね、又は身分証明書の提示を求める等、客観的に妥当な確認措置をとったにもかかわらず、青少年自身が年令を偽り、又は虚偽の証明書を提示する等、営業者等の側に過失がないと認められる場合をいう。
なお、この規定により、違反者は自ら過失がないことを挙証する責任を有する。
広島 8 第7項の「当該青少年の年齢を知らないことに過失がないとは,青少年に年齢,生年月日等を尋ね,又は身分証明書の提出を求める等,客観的に妥当な確認措置をとったにもかかわらず,青少年自身が年齢を偽り,文は虚偽の証明書を提出した場合,あるいは,客観的に18歳以上の者と誤認されるような状態である場合等,行為者の側に過失がないと認められる場合をいう。
山口 2過失犯処罰~
青少年に対する、条例第12条第1項に規定する性行為又はわいせつの行為、第12条の2に規定する入れ墨を施す行為等又は第20条第3号に規定する不当な手段により児童ポルノ等の提供を求める行為については、相手方が青少年であることの認識を欠いていたり、青少年であることを知らなかったとの弁解をする場合が多いと容易に想定されるので、故意犯(相手方が青少年であることを認識していた場合)のみを処罰することとしたのでは、青少年をこうした行為から保護しようとする条例の目的を十分達し得ない。したがって、過失により、その相手方が青少年であることを知らなかった場合においても処罰すること、すなわち、このような行為をするに当たっては、その相手方が青少年であるかどうかを確
認する注意義務を課することとしたものである。
この注意義務の程度は、まさに「社会通念、条理、慣習、法令等によって、通常人としてとり得る行動を標準として」決められるべきことであり、この標準に従えば、条例第12条第1項に規定する性行為又はわいせつの行為をする者(青少年と一時的な関係に立つ者)に対して、(年齢不知の過失犯の処罰規定のある)児童福祉法第60条第4項の「児童を使用する者」(児童と継続的な関係に立つ者) と同程度の注意義務(年齢調査義務)を要求することは無理である。~
したがって、第20条の2においては、この注意義務(年齢調査義務)の内容としては、その相手方との一時的な関係から考えて、相手方の身体の発育状況、身なり、~言動等から判断して、通常人ならば青少年でないかと疑いを持つようなときに、相手方に年齢を問う程度のものであり、身分証明書運転免許証等による年齢調査義務まで求めたものではない。
なお、当該行為の相手方が青少年であることを知らなかったことにつき過失があったことの挙証責任は、捜査側にある。
徳島 〔要旨〕
本条は、関係各規定に違反した者がど青少年の年齢を知らないことを理由として処罰を免れることができない旨を規定したもので、相手方が青少年であるか否かの確認を義務付けたものである。
〔解説〕
1 本条の規定は、第14条第l項、第14条の2第1項文は第15条の規定に違反する行為が、青少年の精神、身体等に与える悪影響を考えると、それは社会的にも当然非難されるべき行為であるところから、青少年の年齢を知らなかったとしてもそのことを理由に処罰を免れることができない等を規定したもので、青少年保護の実効性を確保しようとするものである。
2 ただし書は、青少年の年齢について行為者が相当の注意を払い、青少年であることを知らなかったことについて行為者に過失がなかったことが立証されれば、処罰されない旨を規定したものである。
〔関係法令〕
O地方自治法第14条第5項、第6項
O刑法第8条、第41条
0児童福祉法第60条第3項
香川 「過失がないとき」とは、社会通念上、通常可能な年齢確認が適切に行われているか否かで判断され、例えば、相手方となる青少年に年齢や生年月日、干支等を聞いたり、身分証明書の提出を求める等客観的に妥当な確認措置がとられたにもかかわらず、その青少年が年齢を偽ったり、虚偽の証明耆を提出する等行為者に過失がないと認められる場合をいう。
【参考判例】(昭和34年5月11日最高裁判決、要旨)
児童を接客婦として雇い入れる雇主は、児童、「両親がその実家で差し出した他人の戸籍抄本が児菫本人のものか否かを確かめるべきであり、そのために、単に児童、両親の一方的陳述だけで軽信することなく、他の客観的資料に基づいて調査をなすべきである。
愛媛 7 第7項関係
本条第1項及び第3項については、当該行為の相手方の青少年の年齢を知らないことを理由として、処罰を免れることができないと定めたもので、相手方の年齢確認を義務付けたものである。
なお、「過失がないとき」とは、社会通念に照らし、通常可能な調査が適切に尽くされていると言えるか否かによって決められることになる(昭和46年11月大阪高裁)。
具体的には、相手方となる青少年に、年齢、生年月日、干支等を尋ね、又は身分証明書の提出を求める等、客観的に妥当な年齢確認を行ったにもかかわらず、青少年自身が年齢を偽り、又は虚偽の証明書を提出し、客観的に18歳以上の者として誤認されるような状態である場合などである。この場合、過失がないことの証明は、違反者自身が行うことが必要である。
高知 5 第5項の規定は、本条例の規定に違反する行為を行った者は、青少年の年齢を知らなかったことを理由として処罰を免れることができない旨を規定したものであり、有害図書類等を販売したり、有害興行を行う場所へ入場させようとする場合等本条例で規制されている事項に関しては、営業等の相手方が青少年であるか否かその年齢を確認することを義務付けたものである。
「当該青少年の年齢を知らないことに過失はないJとは、青少年に年齢、生年月日等を尋ね、又は身分証明書のt是出を求める等客観的に妥当な確認措置を取ったにもかかわらず、青少、年自身が年齢を偽り、又は虚偽の証明書を提出等、営業者及び成人の側に過失がないと認められる場合をいう。
なお、この項の規定により、違反者は自ら過失のないことを挙証する責任を有する。
福岡 【要旨】
本条は、第4章、第5章に定める制限・禁止規定の違反者に対する罰則等を定め、各制限・禁止規定の実効を担保するものである。
【解説】
第8項の「青少年の年齢を知らないことを理由として過失のないとき」とは、例えば青少年に対して、年齢生年月日等を尋ね、又は身分証明書の提出を求める等の措置をとり、更に保護者の確認をとった上で、保護者が嘘をつく等、社会通念をもってしても予測し得ない場合など、違反者の側に過失がないと明らかに認められる場合が考えられる。
佐賀 7 第7項は、第22条(みだらな性行為及びわいせつな行為の禁止)又は第23条(場所提供及び周旋の禁止)に違反した者に対しては、当該青少年の年齢を知らないことに過失がないときを除いて、行為者は処罰を免れることができない旨の規定である。
なお、過失の有無は、具体的事案ごとに提出された客観的資料の種類、その提出の際の状況及びその確認の方法の有無、難易等を総合的に検討して、社会通念上、通常可能な調査が適切に尽くされているといえるか否かによって判断されることになる。
長崎 [ 要旨]
本条は、本条例の違反行為に対し、少年の年齢を知らないことを理由として処罰を逃れることができないことを定めたものである。
[ 解説]
1 平成21年3月の一部改正により、第13条第2項の規定に違反して少年を連れ出し、同伴し、又はとどめた者に対し、1 0万円以下の罰金又は科料に処すことを追加したことから本条にも「第13条第2項Jr第4項第2号」の条項を追加した。
2 r少年の年齢を知らないことに過失がない」とは、客観的に妥当な確認措置をとったにもかかわらず、少年が虚偽の証明書を提出するなどした場合のことをいう
熊本 5 第5項関係
「みだらな性行為及びわいせつ行為の禁止違反J (条例第13条第1項)、「みだらな性行為及びわいせつ行為の教示等の禁止違反」(条例第13条第2項)、「場所提供及び周旋の禁止違反J (条例第14条)又は「入れ墨の禁止違反j (条例第17条)の規定に違反した者に対しては、当該少年の年齢を知らないことに過失がないことを立証しない限り、行為者は条例第24条第1項又は第2項の規定による処罰を免れることができない旨の規定である。
大分 6第6項関係
「みだらな性行為及びわいせつ行為の禁止違反」 ((条例第1133条第11項))、 「みだらな性行為及びわいせつ行為の教示等の禁止違反」(条例第13条第2項)、「場所提供及び周旋の禁止違反」(条例第14条)又は「入れ墨の禁止違反」(条例第17条)の規定に違反した者に対しては、当該少年の年齢を知らないことに過失がないことを立証しない限り、行為者は条例第21条第1項又は第2項の規定による処罰を免れることができない旨の規定である。
宮崎 (2) 「当該青少年の年齢を知らないことに過失がないとき」とは、通常可能な調査が適切に尽くされているか否かによって決せられることになるが、具体的には相手方となる青少年に、年齢、生年月日等を尋ね、又は身分証明書等の提出を求める等、客観的に妥当な確認措置をとったのにもかかわらず青少年自身が年齢を偽り、又は虚偽の証明書を提出する等、行為者の側に過失がないと認められる場合をいう。
鹿児島 第6項は,第22条, 第23条及び第24条の各規定の違反行為者が,青少年の年齢を知らなかったことを理由として処罰を免れることができない旨を定めたもので,相手方が青少年であるか否かの確認を義務付けたものである。
同項ただし書は, 単に青少年に年齢, 生年月日等を尋ねただけ, あるいは身体の外観的発育状況等からの判断のみによって信じただけでは足らず, 自動車運転免許証,住民票等公信力のある書面, あるいは保護者等に直接問い合わせる等客観的に通常可能とされるあらゆる方法を用いて精査して確認している場合等をいう。
沖縄 第8項
1 本項の規定に違反した者は、青少年の年齢を知らなかったことを理由として処罰を免れることができないこと及び年齢確認に関する無過失の挙証責任があることを規定したものである。
2 年齢確認の具体的な確認方法としては、相手方と面談した場合は、相手方となる青少年に年齢、生年月日等を尋ね、又は運転免許証等公信力のある身分証明書の提出、あるいは、父兄に直接問い合わせる等客観的に妥当な確認措置をとることであり、インターネット上の電子メール等のやりとりだけで相手方と面談しない場合は、相手方となる青少年に年齢、生年月日等を尋ね、青少年であるか否かを確認することである。
なお、インターネット上の電子メール等でのやりとりの後、相手方と面談した場合は、面談した場合の確認措置が求められる。
3 「過失のないとき」とは、
⑴ その者が青少年でないことを確認するにつき全く遺漏がなかったことを意味し、過失がないことの挙証責任は営業者等が負う。
⑵ 過失推定規定であり、どのような手段・方法を講じれば過失がないとされるかは、年齢確認に用いた資料、その資料の入手方法、当該相手との面談状況等を判断し、営業者として可能な限りの調査を尽くしているかどうかを、社会通念に照らして判断されるべきである。
⑶ 青少年の身体的発育状況、態度、職歴、本人や紹介者等の単なる申告等からその者が青少年でないと信じたというだけでは足りない。
⑷ 客観的資料として、本人の戸籍謄本、住民票、運転免許証等公信力のある書面等に基づく調査、保護者等に面接する等客観的に通常可能とされるあらゆる手段方法を講じて、当該青少年の年齢確認に万全を期した結果青少年でないと信じた場合にのみ過失がなかったと認めるべきである。
⑸ 相手方と面談しないインターネット上における電子メール等のやりとりにおいては、そのメール等の内容では、客観的に青少年と判断することはできず、加えて、相手方に対して、年齢、生年月日、学年等を尋ねたところ、18歳以上である旨の嘘をつかれるなど、社会通念上、必要な確認措置をとったにもかかわらず、客観的に青少年と判断し得ない状況にある場合にのみ、違反者に過失がなかったと認めるべきである。
   
   

 

児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律の一部改正(令和4年)


 ほとんど機能していない条文なので、移管されても動かないと思います。


改正前

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=411AC0100000052_20150801_000000000000000&keyword=%E5%85%90%E7%AB%A5%E8%B2%B7%E6%98%A5
児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(H26改正後)
第三章 心身に有害な影響を受けた児童の保護のための措置
(心身に有害な影響を受けた児童の保護)
第十五条 厚生労働省法務省都道府県警察、児童相談所、福祉事務所その他の国、都道府県又は市町村の関係行政機関は、児童買春の相手方となったこと、児童ポルノに描写されたこと等により心身に有害な影響を受けた児童に対し、相互に連携を図りつつ、その心身の状況、その置かれている環境等に応じ、当該児童がその受けた影響から身体的及び心理的に回復し、個人の尊厳を保って成長することができるよう、相談、指導、一時保護、施設への入所その他の必要な保護のための措置を適切に講ずるものとする。
2 前項の関係行政機関は、同項の措置を講ずる場合において、同項の児童の保護のため必要があると認めるときは、その保護者に対し、相談、指導その他の措置を講ずるものとする。
(心身に有害な影響を受けた児童の保護のための体制の整備)
第十六条 国及び地方公共団体は、児童買春の相手方となったこと、児童ポルノに描写されたこと等により心身に有害な影響を受けた児童について専門的知識に基づく保護を適切に行うことができるよう、これらの児童の保護に関する調査研究の推進、これらの児童の保護を行う者の資質の向上、これらの児童が緊急に保護を必要とする場合における関係機関の連携協力体制の強化、これらの児童の保護を行う民間の団体との連携協力体制の整備等必要な体制の整備に努めるものとする。
(心身に有害な影響を受けた児童の保護に関する施策の検証等)
第十六条の二 社会保障審議会及び犯罪被害者等施策推進会議は、相互に連携して、児童買春の相手方となったこと、児童ポルノに描写されたこと等により心身に有害な影響を受けた児童の保護に関する施策の実施状況等について、当該児童の保護に関する専門的な知識経験を有する者の知見を活用しつつ、定期的に検証及び評価を行うものとする。
2 社会保障審議会又は犯罪被害者等施策推進会議は、前項の検証及び評価の結果を勘案し、必要があると認めるときは、当該児童の保護に関する施策の在り方について、それぞれ厚生労働大臣又は関係行政機関に意見を述べるものとする。
3 厚生労働大臣又は関係行政機関は、前項の意見があった場合において必要があると認めるときは、当該児童の保護を図るために必要な施策を講ずるものとする。


改正後

こども家庭庁設置法の施行に伴う関係法律の整備に関する法律案
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g20809039.htm
第二〇八回
閣第三九号
   こども家庭庁設置法の施行に伴う関係法律の整備に関する法律案
児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律の一部改正)

第十七条 児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(平成十一年法律第五十二号)の一部を次のように改正する。

  第十五条第一項中「厚生労働省」を「こども家庭庁」に改める。

  第十六条の二第一項中「社会保障審議会」を「こども家庭審議会」に改め、同条第二項中「社会保障審議会」を「こども家庭審議会」に、「厚生労働大臣」を「内閣総理大臣」に改め、同条第三項中「厚生労働大臣」を「内閣総理大臣」に改める。

「例えばいわゆるわいせつなビデオを撮影するときに屋外で54人で撮影していたケースで、それは無罪というか公然性が認められなかった判例もある。」という判例は見つからない。


 無罪になったとか、判例があるということはないと思います。

AV撮影の52人を不起訴
2016.09.24 中日新聞社
 東京地検は二十三日、キャンプ場でアダルトビデオを撮影したとして、公然わいせつや同ほう助容疑で書類送検された監督やAV女優、芸能プロダクション元社長ら五十二人を不起訴処分とした。地検は「『不特定もしくは多数人が認識できる状態』という構成要件に該当しなかった」としている。
五十二人は、二〇一三年九月三十日~十月一日、相模原市のキャンプ場でAV制作のためにわいせつな行為をしたなどとして、警視庁に書類送検されていた。

https://news.yahoo.co.jp/articles/8e2189314a84f7f54cf4e95db16f31d9b85408dd
山口真由氏 120人乱交パーティー主催疑いで逮捕された事件「人数もあったでしょうが珍しいケース」
また、「例えばいわゆるわいせつなビデオを撮影するときに屋外で54人で撮影していたケースで、それは無罪というか公然性が認められなかった判例もある。お互いが知り合い同士で人間関係があったということで」とアダルトビデオの撮影をめぐっての判例を紹介。その上で今回の事件について「ライングループであったとしても元々、密接な人間関係があったわけではないということと、120人という人数が多かったんだと思いますね」と指摘した。

eMule使用の児童ポルノ提供・所持事案の捜索に対する対応

 P2Pソフトは常時警察に監視されていて、児童ポルノファイルを見つけると、遡って経由した人が捜索を受けるという経緯になります。
 ダウンロード専用のつもりで使っていても、アップロードされていて、公然陳列罪等で捜索をうけることがあります。
 対応としては、捜索の現場では、弁護士に相談してから答えるということにして、知っていること・知らないことを分けて説明するようにしてください。「アップロードの認識あり」と答えると 罰金50万円くらいになりますから、慎重に回答してください。
 取調で書かれることはだいたいこの程度ですが、延べ10~20時間はかかります。

1 はじめに 1
2 身上関係 1
3 わいせつ動画像・児童ポルノ動画像を集める趣味について 2
4 ファイル共有の履歴について 3
5 使ったパソコンの紹介 3
(1)外観 3
(2)ファイル構成 4
6 インターネット回線の説明 5
(1)プロバイダとの契約 5
(2)ルーター等とパソコンの接続状況(写真) 5

7 ファイル共有ソフトについて
(1)入手経路
(2)ソフトの動作についての理解

8 事実関係 5
9 アップロードしたことは知らなかったこと 6
10 現在の心境 6

青少年に対する罰則の適用除外規定を新設した。(静岡県青少年のための良好な環境整備に関する条例の解説)

青少年に対する罰則の適用除外規定を新設した。(静岡県青少年のための良好な環境整備に関する条例の解説)
 この規定がないと、青少年どうしの接吻なんか、両方犯罪少年になっちゃうからね。
 「条例の目的が、青少年の健全な育成を図ることであり、健全育成を阻害する環境の浄化のため、心無い大人の行為を規制するものである」からと説明されますが、結局、個人的法益ではないということです。

静岡県青少年のための良好な環境整備に関する条例の解説r04
(罰則の適用除外)
第23条 この条例の罰則は、青少年に対しては適用しない。この条例に違反する行為をした時において青少年であつた者についても同様とする。
[要 旨]
本条は、青少年に対しては、罰則の適用はしないことを規定したものである。
[解 説]
本条例の目的が、青少年の健全な育成を図ることであり、健全育成を阻害する環境の浄化のため、心無い大人の行為を規制するものであるから、青少年に対する罰則の除外規定を設けたものである。
・・・
改正 令和4年3月29日 静岡県条例第21号(施行 令和4年4月1日)
(第3条第4号、第9条、第11条、第18条、第19条及び第21条の改正施行 令和4年10月1日)
【背 景】
民法及び銃砲刀剣類所持等取締法の一部を改正する法律の施行に伴い、必要な改正を行うとともに、青少年を取り巻く環境を整備し、健全育成を図るため、所要の改正を行った。
【主な改正点】
■ 青少年の定義のうち、成年擬制規定を削除するとともに、自動販売機等管理者年齢要件を改正した。
■ 玩具類等の定義のうち、法で所持禁止対象となったクロスボウを除外した。
■ 有害興行及び有害図書類の指定に関し、団体指定方式を導入し、知事が指定した団体が審査し、青少年に観覧、閲覧又は視聴等させることが不適当と認め、当該団体が定める方法によりその旨が表示されているものを有害興行又は有害図書類とすることとした。
■ 青少年に対する罰則の適用除外規定を新設した。
■ 別表における青少年に閲覧等させることが不適当な姿態の表記を見直した。

 「いたずらに性欲を刺激興奮せしめたり、その露骨な表現によって健全な常識ある一般社会人に対して、性的に羞恥嫌悪の情をおこさせる行為をいう。」というわいせつの定義は、大法廷h29.11.29と調和しないでしょう。

[解 説]
1 第1項関係
(1) 「何人も」とは、第13条の2における「何人も」と同様の趣旨である。
(2) 「淫行」とは次のものをいう。
ア 青少年を誘惑し、威迫し、欺罔しまたは困惑させる等、その心身の未熟に乗じ
た不当な手段により行う性交又は性交類似行為イ 青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として取り扱っているとしか認められないような性交又は性交類似行為
(3) 「わいせつ行為」とは、いたずらに性欲を刺激興奮せしめたり、その露骨な表現によって健全な常識ある一般社会人に対して、性的に羞恥嫌悪の情をおこさせる行為をいう。構成要件としては「淫行」同様、青少年の心身の未成熟に乗じた不当な手段により行うものであること、又は、青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として取り扱っているとしか認められないようなものであることを要する。
(4) 「してはならない」とは、青少年を相手方として、淫行又はわいせつ行為を行うことを一切禁止しているのであり、相手方の同意、承諾の有無及び対価の授受の有無は問わない。
(5) 接吻行為については、接吻のみを捉えて、条例上のわいせつな行為に含まれるかは疑問であり、当該行為に至るまでの動機や経過状況や相手方の意思並びに健全な育成を阻害した程度などよく検討して判断する必要がある。
青少年の精神的未熟さなどに乗じ、誘惑、威迫、欺き、困惑などの手段を用いて、かつ接吻という行為に至る経緯、動機、意思、目的、双方の立場、関係、相手方に与えた影響などにより、接吻行為が条例のわいせつ行為に該当するか否か判断される。
相手の意思に反して暴行、脅迫という手段を用いて接吻という行為をすれば、当該行為が、強制わいせつ罪のわいせつ行為に該当する。
13歳未満の相手に同意を得て接吻行為をした場合でも同じである

数回の児童ポルノ公然陳列罪の罪数処理

 植村部長の包括一罪説がなかなか修正できませんでしたが、最近併合罪説の高裁判例が大阪高裁r03、東京高裁r04で出て、併合罪に修正されそうです。
 併合罪加重されると、懲役は最高7年6月 罰金が500万×罪数になります。

7条6項
児童ポルノを不特定若しくは多数の者に提供し、又は公然と陳列した者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を不特定又は多数の者に提供した者も、同様とする。


併合罪

特別法を巡る諸問題 大阪刑事実務研究会 児童ポルノ法(製造罪,罪数)
雑誌記事 武田 正, 池田 知史
掲載誌 判例タイムズ1432:2017.3 p.35-
第10 児童ポルノの公然陳列
1機会の複数
陳列の機会が複数の場合に,包括一罪とすることも考えられる64)。
しかし,前記児童ポルノの提供と同様に,日時や方法が異なる陳列は,通常,行為が別で,犯意も別と評価すべきであるほか,全く同じ被害児童の児童ポルノを陳列する訳でもなく,陳列行為ごとに当該被害児童に児童ポルノを流通に置かれて心身に悪影響を与えられた新たな法益侵害が生じていることなどから,多くの場合は数罪となり併合罪とするのが相当である。
64)包括一罪とした例に,大阪高判平成l5年9月l8日裁判所ウェブサイト掲載。複数回かは判決文上必ずしも明らかでないが一定期間に合計16画像を送信して記憶蔵置させた行為を包括一罪とした例に,名古屋地判平成18年1月l6日情報ネットワーク・ローレビュー7号43頁掲載の第1.
65)被害児童が複数かなどは不明であるが,画像データが複数の場合で単純一罪とした例に,東京地判平成l5年IO月23日裁判所ウェブサイト掲載。なお,複数の児童ポルノ画像データがサーバコンピュータ上に記憶。蔵置されていたことを利用して,識別番号(URL)をホームページ上で明らかにすることで公然陳列した場合に,単純一罪とした例に,大阪地判平成21年1月l6日公刊物未掲載(最決平成24年7月9日判タl383号l54頁の第1審)。

静岡地裁浜松支部R03.11.25

東京高裁裁判所R04.03.24

阪高裁r03.3.10*19(原審京都地裁r2.9.18*20)
(2)公然陳列の罪数に関する所論について
 ア 所論〔主任弁護人〕は,原判決は原判示第1の児童ポルノ公然陳列罪と原判示第2の児童ポルノ公然陳列罪とを併合罪としているが,被告人のこれらの行為は,令和年月6日から同年月22日にかけて,自宅で,反復して児童の裸体画像を公然陳列するところにあり,しかも,陳列したのは1個のサーバコンピュータであり,公然陳列行為の個数はサーバの個数で決まると解するべきであるから,公然陳列行為は1個の行為であって単純一罪ないし包括一罪と評価されるべきであり(1個の公然陳列行為によって,わいせつ物公然陳列罪と児童ポルノ公然陳列罪を充たすので,両罪の観念的競合となる。),原判決には法令適用の誤りがある旨主張する。
 イ この点,原判決は,法令適用の罰条において「判示第1の1の所為のうち,児童ポルノ公然陳列の点及び判示第2の所為につき,各画像データごとにそれぞれ児童ポルノ法7条6項前段(2条3項2号,3号)に該当する」としているところ,児童ポルノ法は,児童を性欲の対象とする風潮を防止するという面で児童一般を保護する目的がある一方で,同法1条の目的規定や各個別規定による児童ポルノ規制のあり方に照らすと,当該児童ポルノに描写された個別児童の権利保護をも目的としていると解される。そうすると,被害児童ごとに法益を別個独立に評価して各画像データごとにそれぞれ児童ポルノ公然陳列罪の成立を認めている原判決の罰条適用は正当なものである。所論は(児童ポルノ)公然陳列行為の個数はサーバの個数で決まるというが,同罪の個人的法益に対する罪としての性格を軽視するものであって賛同できない。
 その上で,原判決は「判示第1の1の所為は,1個の行為が10個の罪名(わいせつ電磁的記録記録媒体陳列の包括一罪と9個の児童ポルノ公然陳列)に触れる場合であるから,刑法54条1項前段,10条により,判示第1の2のわいせつ電磁的記録記録媒体陳列を含め,1罪として刑及び犯情の最も重い別表1番号4の画像についての児童ポルノ公然陳列の罪の刑で処断する」と科刑上一罪の処理をしているところ,これは,複数のわいせつ電磁的記録記録媒体陳列は,社会的法益に対する罪である同罪の罪質に照らし,同一の意思のもとに行われる限り包括一罪として処断され,さらに,児童ポルノであり,かつ,わいせつな電磁的記録に係る記録媒体を公然と陳列したときは,児童ポルノ公然陳列罪とわいせつ電磁的記録記録媒体陳列罪との観念的競合になることから,結局,原判示第1の各罪を包括一罪(刑及び犯情の最も重い別表1番号4の画像についての児童ポルノ公然陳列の罪の刑)で処断したものと考えられるのであり,そのような原判決の法令適用に誤りはない。
 ウ もっとも,そのように包括一罪とされる原判示第1のうちの同2のわいせつ電磁的記録記録媒体の公然陳列行為と,原判示第2の児童ポルノの公然陳列行為とは,同じ日の僅か4分の間に続けて行われたものであるから,これらをも包括一罪とする考えもあり得るところで,現に原審検察官の起訴はそのようなものであったが,しかし,児童ポルノ公然陳列罪の個人的法益に対する罪としての性格を重視し,あえてそのような処理をせず,原判示第1の罪と原判示第2の罪とを併合罪の関係にあるとした原判決の法令適用に誤りがあるとはいえない。
 公然陳列の罪数に関する所論も採用できない。
 論旨は理由がない。

 包括一罪説

①東京高裁h16.6.23*8(一審 横浜地裁h15.12.15*9)
 数名の児童の姿態であって、数回の陳列行為がある事件である。
1審は、児童ごとに1罪とした。
横浜地裁h15.12.15
(法令の適用)
1 罰条  被害者ごと(画像が複数ある被害者については,その複数は包括して)に,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条1項
2 科刑上一罪の処理  刑法54条1項前段,10条(一罪として,犯情の最も重い別紙一覧表番号1の被害者に対する児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反罪の刑で処断)

 控訴審(植村立郎裁判長)は、犯意も行為も複数あるにもかかわらず、被害児童1名1罪とした原判決を修正して、「被告人は,22画像分の児童ポルノを記憶・蔵置させた本件ディスクアレイ1つを陳列しているから,全体として本罪1罪が成立するにすぎない」と明確に判示している。
東京高裁h16.6.23
2所論は,要するに,原判決は,被害児童ごとに法7条1項に違反する罪(児童ポルノ公然陳列罪)が成立し,結局これらは観念的競合の関係にあるとして,その罪数処理を行っているが,本罪については,被害児童の数にかかわらず一つの罪が成立するというのが従来の判例であるから,原判決には,判決に影響を及ばすことの明らかな法令適用の誤りがある,と主張する(控訴理由第16)。
 そこで,本件に即して検討すると,法7条1項は,児童ポルノを公然と陳列することを犯罪としているから,同罪の罪数も,陳列行為の数によって決せられるものと解するのが相当である。確かに,所論もいうように,児童個人の保護を図ることも法の立法趣旨に含まれているが,そうであるからといって,本罪が,児童個人に着目し,児童ごとに限定した形で児童ポルノの公然陳列行為を規制しているものと解すべき根拠は見当たらず,被害児童の数によって,犯罪の個数が異なってくると解するのは相当でない。
 そして,本件では,被告人は,22画像分の児童ポルノを記憶・蔵置させた本件ディスクアレイ1つを陳列しているから,全体として本罪1罪が成立するにすぎないものと解される。したがって,この点に関する所論は正当であって,被害児童ごとに本罪が成立するとした原判決の法令解釈は誤りである。
犯意が異なろうが、被害者が異なろうが、サーバーが一個であれば、一罪だというのが植村説。

②大阪高裁h15.9.18*10 (一審 奈良地裁h14.11.26*11)
 3回のダウンロード販売を「販売罪」とした原判決を破棄して「公然陳列罪」にした際、包括一罪とした。
阪高裁h15.9.18
(法令の適用)
第1の所為 児童買春児童ポルノ禁止法4条
第2の所為 包括して同法7条1項
児童買春児童ポルノ禁止法2条3項の各号に重複して該当する画像データがあることは所論指摘のとおりであるものの,検察官においてそれらの重複するものについてはより法益侵害の程度の強い先順位の号数に該当する児童ポルノとして公訴事実に掲げていることは明らかであって,包括一罪とされる本件において,それぞれの画像データが上記各号の児童ポルノのいずれに該当するかを個々的に特定する必要もない

名古屋高裁h23.8.3*12(一審 津地裁h23.3.23*13)
 被害者数名の場合でも、包括一罪と判示されている。
名古屋高裁h23.8.3
4 控訴理由④について
 論旨は,本件各画像の被写体となっている児童は3名であるから,本件は児童ポルノ公然陳列罪3罪の併合罪とされるべきであるにもかかわらず,これらを混然と1罪とした本件起訴状は訴因の特定を欠くものであって,この不備を補正させることなく,また公訴を棄却せずに実体判決をした原審の訴訟手続には法令違反があり,さらに,本件を1罪とした原判決には法令適用の誤りがある,というのである。
 しかしながら,本件犯行は,児童3名が1名ずつ撮影された本件各画像(4点の画像のうち2点は同一の児童が撮影されたものと認められる。)のデータを,約5分間の間に,インターネットのサーバコンピュータに記憶,蔵置させた上,本件各画像の所在を特定する識別番号(URL)をインターネットの掲示板内に掲示して児童ポルノを公然と陳列したというものであり,本件各画像が上記掲示板内の「JS・ロリ画像①」と題する同一カテゴリ内に掲示されているなど,各陳列行為の間に密接な関係が認められることからすれば,各児童に係る児童ポルノ公然陳列罪の包括一罪であると解するのが相当である。
したがって,本件起訴状は訴因の特定を欠くものではないから,原審の訴訟手続の法令違反をいう論旨は理由がない。なお,原判決は本件を単純―罪と判断したものと解されるが,処断刑期の範囲が包括一罪と同一であるから,原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りはないというべきである。

(3)地裁裁判例
東京地裁h151023*14
⑤大阪地裁h210116*15
奈良地裁葛城支部h261112*16
横浜地裁h290516*17
⑧立川支部H280315*18
罪となるべき事実)
 第1 被告人は,被害者に性交類似行為をさせる姿態を撮影した静止画像データ1点及び同人が衣服の全部又は一部を着けず陰部等を露出させる姿態を撮影した静止画像データ12点(合計13点)を所持していたものであるが,同人が前記各静止画像撮影当時18歳に満たない児童であったことを知りながら,不特定多数のインターネット利用者に前記静止画像合計13点の閲覧が可能な状態を設定しようと考え,
平成25年7月22日から同年10月6日までの間に,大阪府内,京都府内若しくは東京都内又はその周辺において,インターネット上のアダルトサイト「○○」(http://〈省略〉)のアカウント●●●を介し,前記「○○」の運営者が使用するサーバーコンピュータのハードディスクに前記静止画像データ合計13点を記録,保存させた上,不特定多数のインターネット利用者が閲覧できる設定にし,
同年10月6日午後6時14分頃,同都内において,サーバーコンピュータのハードディスクを使用して運営されているインターネット上の交流サイト「Twitter」のアカウント●●●のタイムラインに,前記静止画像データ合計13点の所在を特定する識別番号●●●を投稿し,
同日午後6時19分頃,同都内において,サーバーコンピュータのハードディスクを使用して運営されているインターネット上の交流サイト「Facebook」のアカウント●●●のウォールに,「そりゃあこんな爆弾抱えてちゃ気が気じゃないもんね。被害者さん。借りを返すよ。それにしても危険人物って...」との文言と共に前記●●●のタイムライン上の前記投稿を特定する識別番号●●●を投稿し,同月8日午後6時29分頃,同都内において,サーバーコンピュータのハードディスクを使用して運営されているインターネット上の掲示板「△△掲示板」に,携帯電話から,「被害者。無差別ではないです。恨みがありました。」との文言と共に前記静止画像データ合計13点の所在を特定する識別番号●●●を投稿し,
もって児童を相手方とする性交類似行為に係る児童の姿態,あるいは衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを,視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノであり,かつ,わいせつな電磁的記録に係る記録媒体を公然と陳列した
罰条
  判示第1の行為のうち
   児童ポルノ公然陳列の点       包括して平成26年法律第79号附則2条により同法による改正前の児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条4項前段,2条3項1号,3号
   わいせつ電磁的記録記録媒体陳列の点 包括して刑法175条1項前段

交際中の高校生による児童ポルノ製造事案

 淫行・わいせつ行為については、免責規定があるので、普通は青少年は逮捕されません。
 児童ポルノ・児童買春法には免責規定がないので、逮捕されることがあります。
 結局、真剣交際が児童ポルノ法で阻止されることがあります。

 製造罪について、児童淫行罪とパラレルに、真剣交際による違法阻却を認める高裁判例がありますので、そういう主張をすべきでしょう。

札幌高裁h19.3.8
そこで, 検討するに, なるほど, 児童との真撃な交際が社会的に相当とされる場合に, その交際をしている者が児童の承諾のもとで性交しあるいはその裸体の写真を撮影するなど, 児童の承諾があり, かつ, この承諾が社会的にみて相当であると認められる場合には, 違法性が阻却され,犯罪が成立しない場合もありうると解される。

森山野田「よくわかる改正児童買春ポルノ法」
P99
第7 条第3 項の罪は、児童に第2 条第3 唄各号に掲げる姿態をとらせ、これを写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写して当該児童に係る児童ポルノを製造する行為について、描与される児童の尊厳を害することにかんがみ、新たに処罰の対象とするものです。
この場合において、たとえ描写される児童が当該製造について同意していたとしても、当該児童の尊厳が害されていることは否定できず、また、児童を性的行為の対象とする風潮が助長され、抽象的一般的な児童の人格権が害されるといえますので、第7 条第3 項の罪が成立します。
もっとも、ごくごく例外的に児童と真撃な交際をしている者が、児童の承諾のもとでその楳体の写真を撮影する等、児童の承諾があり、かつこの承諾が社会的にみて相当であると認められる場合には、違法性が阻却、犯罪が成立しない場合もあり得ます

P197
Q47 児童ポルノの製造については、どのような場合が処罰されるのですか。
A
児童ポルノの製造については、2 つの面から処罰の規定を置いています。
まずーっ目は、児童に児童ポルノの姿態をとらせ、これを写真撮影等して児童ポルノを製造する行為についてです。この場合、行為者がどのような目的であっても(他人に提供等する日的がなくても)、処罰されることになります(第7 条第3 項)。
このような行為は、当該児童の心身に有害な影響を与える性的搾取行為にほかならず、かつ、流通の危険性を創出する点でも非難に値するので、2004 年の改正で、このような行為について処罰する風定を新設しました。
これは、児童に第2 条第3項各号に掲げる姿態をとらせた上、これを写真等に描写し、よって当該児童についての児童ポルノを製造する行為が、児童の心身に有害な影響を与える性的搾取行為に他ならないことから、これを処罰するものであり、第一次的には描写対象となる児童の人格権を守ろうとするものです。
加えて、ひとたび児童ポルノが製造された場合には、流通の可能性が新たに生ずることとなり、このような場合には児童を性的行為の対象とする社会的風潮が助長されることになるので、このような意味において、抽象的一般的な児童の人格権もその保護の対象とするものです。
なお、ここにいう「姿態をとらせ」 とは、行為者の言動等により、当該児童が当該姿態をとるに至ったことをいい、強制によることは要しません
P199
Q48
被写体となる児童が児童ポルノの製造に同意していたとしでも、第7 条第3 項の罪は成立するのですか。目的を問わず、児童ポルノの製造(いわゆる単純製造)を処罰することにすると、交際中の高校生どうしが相手の裸体の写真を撮影する行為まで処罰されることになってしまいませんか。
A
第7 条第3 項の罪は、児童に第2 条第3 項各号に規定する姿態をとらせ、これを写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写してその児童についての児童ポルノを製造する行為について、その児童の心身に有害な影響を与える性的搾取行為にほかならず、かつ、流通の危険性を創出する点でも非難に値するので、新たに処罰の対象とするものです。
この場合において、たとえ捕写される児童がその製造について同意していたとしても、その児童の尊厳が害されているといえますし、そもそも、この児童の同意は、この児童の判断能力が未成熟なことに基づくものであると考えられますので、当罰性が認められ、第7 条第3項の罪が成立すると解されます。
お示しの事例のように、児童が、真撃な交際をする相手による写真撮影を承諾する場合のように、製造者と描写される児童との関係、描写される児童の承諾の有無及びその経緯(社会的相当性)等から、刑法上の違法性が認められない等の理由により、犯罪が成立しない場合もあると考えられます。
このことは、法案の中で具体的な文言として明記されているものではありませんが、刑法の一般理論によって犯罪が成立しないとされる問題です。つまり、児童ポルノに限らず他の刑罰規定に関して犯罪が成立しない事由を具体的な文言として明記されていなくても、刑法の一般理論によって犯罪が成立しない場合があります。この点、犯罪が成立しない個々具体的な場合を明記することは困難であり、また実際的でもありません。したがって、ことさら犯罪が成立しない場合を明記しなくても、刑法上の違法性が認められない等との理由により犯罪が成立しないとの解釈が当然に導かれると考えています。

兵庫県少年愛護条例の解説 平成30年版
(みだらな性行為等の禁止)
第21条
1何人も、青少年に対し、みだらな性行為又はわいせつな行為をしてはならない。
2何人も、青少年に対し、前項の行為を教え、又は見せてはならない。
【要旨】
この条は、青少年に対し、みだらな性行為又はわいせつな行為をし、又はこれらの行為を教え若しくは見せることを禁止したものである。
【解説】
l 一般に青少年は、その心身の未成熟あるいは発育程度の不均衡から、精神的にまだ十分に安定していないため、反倫理的、反道徳的な性行為等によって精神的な痛手を受けやすく、 またその痛手から容易に回復しがたいものである。 このような青少年の特質に鑑み、その健全な育成を阻害するおそれのあるものとして、社会通念上非難を受けるべき性質のものを禁止したものである。
2 「みだらな性行為」とは、青少年を誘惑し、威迫し、若しくは困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為、又は青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような性交又は性交類似行為のことをいう。
3 「わいせつな行為」とは、いたずらに性欲を興奮又は刺激させ、かつ普通人の正常な性的蓋恥心を害し、善良な性的道義観念に反する行為をいう。
4第1項の例としては、成人が結婚の意思もないのに青少年を言葉巧みに誘って、単に自己の性的欲望を満足させるためだけにしたみだらな性行為及び青少年の性器をもてあそぶなどしたわいせつな行為がこれにあたるが、婚約中の青少年又はこれに準ずる真筆な交際関係にある青少年との関係で行われる性行為等、社会通念上およそ罰則の対象として考えがたいものは、 これらに該当しない。
・・・・・・・・・
32条この条例の罰則は、青少年に対しては適用しない。
【要旨】
この条は、 この条例に違反した者が青少年である場合には、青少年に対してこの条例の罰則を適用しないことを定めたものである。
【解説】
この条例は、青少年の健全な育成を図り、あわせてこれを阻害するおそれのある行為から青少年を保護することを目的としている(第1条参照) 。 このことから、青少年がこの条例の規定に違反した場合は、健全な青少年に立ち返るよう保護と指導を行うにとどめ、 この条例の罰則は適用しないこととしたものである。

交際中の女子生徒とわいせつ行為 スマホで撮影疑い 男子高校生を逮捕 明石
5/20(金) 21:06配信
 兵庫県警明石署は20日、児童買春・児童ポルノ禁止法違反(製造)の疑いで、神戸市西区の男子高校生(16)を逮捕した。
 逮捕容疑は2月中旬ごろ、交際していた県内の女子高校生(16)に対し、18歳未満と知りながらわいせつな行為をし、その様子をスマートフォンで撮影した疑い。調べに対し、容疑を認めているという。
 女子高校生の保護者が5月12日に同署に相談し、容疑が発覚した。

・・・
女子高校生とのみだらな行為をスマホで動画撮影 高校生を逮捕/兵庫県
5/20(金) 21:02配信サンテレビ
当時16歳の女子生徒とのみだらな行為をスマートフォンで動画撮影し保存していたとして20日、16歳の高校生が逮捕されました。
児童ポルノ禁止法違反の疑いで逮捕されたのは、神戸市西区に住む16歳の高校生の少年です。
警察によりますと、少年は、2022年2月中旬ごろ18歳未満と知りながら、SNSで知り合った当時16歳の女子生徒とのみだらな行為を自身のスマホで動画撮影し、保存した疑いが持たれています。
女子生徒と保護者から警察に相談があり、事件が発覚しました。

警察の調べに対し少年は、「16歳と知っていながらわいせつな行為をしている状況を自分のスマホで動画撮影して保存したことに間違いありません」と容疑を認めているということです。
警察は、少年のスマホのデータを詳しく調べています。
サンテレビ

「被告人が,自己の右手で,右隣に座っていた被害者の左手首を握って自分のほうへ引き寄せ,被害者の開いていた左手を自己の着衣の上からその陰茎部分に置き,その左手に自己の開いた右手を乗せ,更にその上に自己の開いた左手を乗せて,その姿態を約1分間にわたって続けてとらせた」た行為をわいせつ行為(176条後段)とした事例(岡山地裁倉敷支部r03.12.22)

「被告人が,自己の右手で,右隣に座っていた被害者の左手首を握って自分のほうへ引き寄せ,被害者の開いていた左手を自己の着衣の上からその陰茎部分に置き,その左手に自己の開いた右手を乗せ,更にその上に自己の開いた左手を乗せて,その姿態を約1分間にわたって続けてとらせた」た行為をわいせつ行為(176条後段)とした事例(岡山地裁倉敷支部令和 3年12月22日)

わいせつの定義がないので、「刑法176条後段にいう「わいせつな行為」とは,一般に,いたずらに性欲を興奮,刺激又は満足させ,かつ,普通人の正常な性的羞恥心を害し,善良な性的道義観念に反する行為をいうものと解されるところ,これに当たるか否かについては,行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度を踏まえた上で,必要に応じて当該行為が行われた際の具体的状況等の諸般の事情をも総合考慮し,社会通念に照らし,その行為に性的な意味があるといえるか否かや,その性的な意味合いの強さを,個別具体的に判断して,同条による処罰に値する行為とみるべきかどうかを含め,規範的評価として,客観的に判断されるべきである。」という前置きから始まります。

岡山地裁倉敷支部令和 3年12月22日
理由
 (罪となるべき事実)
 被告人は,●●●(当時6歳)が13歳未満であることを知りながら,同人にわいせつな行為をしようと考え,令和2年11月14日頃,●●●教室内において,同人に対し,その左手をつかんで引き寄せた上,開いた状態のその左手を自己の着衣の上からその陰茎部分に置き,その左手の上に自己の両手を重ねて置くなどして,同部分を触らせる姿態を続けてとらせ,もって13歳未満の者に対し,わいせつな行為をした。
 (事実認定の補足説明)
 本件公訴事実の要旨は,被告人が,被害者に着衣の上から自己の陰茎を握らせたというものであるところ,被告人及び弁護人は,被告人は,被害者の手を着衣の上から自己の陰茎部分に置いたに留まり,自己の陰茎を握らせたことはない旨主張する。
 本件時の被害者及び被告人の各手指の状況については,幼い被害者から詳細な供述までは得られていないことや,被告人の捜査段階での供述と当公判廷での供述との間に変遷が見られることなどから,具体的なところまでは明らかでなく,少なくとも,被告人が被害者の手にあえて強い力を加えるなどしたという意味においてその陰茎を握らせたと認めるに足りる証拠があるとはいえないものの,関係証拠によれば,少なくとも,被告人が,自己の右手で,右隣に座っていた被害者の左手首を握って自分のほうへ引き寄せ,被害者の開いていた左手を自己の着衣の上からその陰茎部分に置き,その左手に自己の開いた右手を乗せ,更にその上に自己の開いた左手を乗せて,その姿態を約1分間にわたって続けてとらせた事実は,優に認定でき,かつ,そう認定することが,弁護人の指摘する自白の証拠力に係る規律を含む憲法及び刑事訴訟法の諸規定と抵触することはないものと判断した。
 (法令の適用)
 1 罰条 刑法176条後段
 2 刑の執行猶予 刑法25条1項
 (争点に対する判断)
 1 弁護人は,被告人の行為は,刑法176条後段にいう「わいせつな行為」には当たらない旨主張する。
 2 刑法176条後段にいう「わいせつな行為」とは,一般に,いたずらに性欲を興奮,刺激又は満足させ,かつ,普通人の正常な性的羞恥心を害し,善良な性的道義観念に反する行為をいうものと解されるところ,これに当たるか否かについては,行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度を踏まえた上で,必要に応じて当該行為が行われた際の具体的状況等の諸般の事情をも総合考慮し,社会通念に照らし,その行為に性的な意味があるといえるか否かや,その性的な意味合いの強さを,個別具体的に判断して,同条による処罰に値する行為とみるべきかどうかを含め,規範的評価として,客観的に判断されるべきである。
 3 本件についてみると,判示行為は,被害者に被告人の着衣の上からその陰茎部分に触れることを余儀なくさせ,かつ,それを相応の時間にわたって行ったというものである上,それは触らされている部分を見ていない被害者をして陰茎を触らされているのではないかと知覚できるほどのものであったのだから,その触らせていた場所が被告人着用に係るジーンズの前面中央にあるチャックの付近であったことといった弁護人が指摘する点を考慮しても,それ自体として相応に高いわいせつ性を持つというべきである。これに加え,被告人は,当時6歳の被害者が利用する判示施設の支援員であり,被害者ら施設利用児童を監督等する立場であったのに,同施設利用中の被害者に対して,周囲に他の施設利用児童も多数居る中,自身の性欲を昂進させて判示行為をしたものであるところ,こうした被害者の年齢や被告人との関係等によれば被害者において判示行為の意味を踏まえて抵抗等することが困難なことは明らかであるし,当時の周囲の状況もこの種の性的な行為が許容されるような場面では到底ない。
 弁護人が指摘する裁判例や諸見解を検討しても,本件は,犯人が被害者の性的部位に同人の着衣の上から触れるなどしたケースとは問題となる行為の態様や場面等において事案を異にするものというべきである。
 4 以上により,被告人のした判示行為は刑法176条後段の「わいせつな行為」に該当し,その故意等その余の要件に欠けるところもないものと判断した。
 (量刑の理由)
 岡山地方裁判所倉敷支部
 (裁判官 横澤慶太)

裸画像を撮影させる行為・送信させる行為のわいせつ性(刑法176条)

 警視庁が強気に強制わいせつ罪で逮捕していますが、わいせつ行為じゃないということで強要罪とする裁判例はたくさんあります。
高裁判決
仙台高裁H23.9.15(仙台地裁古川支部H23.5.10)
広島高裁岡山支部H22.12.15(岡山地裁H22.8.13)
阪高裁H22.6.18(神戸地裁H21.12.10)
東京高裁H27.12.22(新潟地裁高田支部H27.8.25)
阪高裁R2.10.27 (奈良地裁葛城支部R2.2.27)
阪高裁r2.10.2(奈良地裁葛城支部R02.2.27)
名古屋高裁金沢支部H27.7.23(富山地裁高岡支部h27.3.3)
名古屋高裁金沢支部H27.7.23(福井地裁h27.1.8)
広島高裁h28.3.10(広島地裁H27.10.2)

控訴理由第2 理由不備~判示第1の罪となるべき事実は、それだけでは強制わいせつ罪を充たさない。 8
控訴理由第4 法令適用の誤り~立石検事の主張によれば、本件は「被害者を利用した間接正犯」になっていなければ強制わいせつ罪の正犯とはなり得ないところ、被害者は道具化していないから、間接正犯になっていないから、強制わいせつ罪は成立せず、強要罪か準強制わいせつ罪であること 38
控訴理由第6 法令適用の誤り~被害者をしてその裸体を「撮影させ」た行為はそれだけではわいせつ行為(176条)にあたらない。あるいは未遂である。(判示第1) 72
控訴理由第7 法令適用の誤り~研修876号の大竹検事見解では「遠隔であってもオンラインで生中継させるなど脅迫行為と同時に撮影させる場合のみが強制わいせつ罪となる」とされているが、本件では、脅迫行為に遅れて撮影行為がされているから、わいせつ行為にはならない(判示第1) 大竹依里子「オンラインで,児童を裸にさせ,動画撮影させた行為について,強制わいせつ罪で処理した事例」 研修876号
・・・
強要罪とするもの
判例1 地裁H19.7.4*8
判例2 福島地裁会津若松支部h19.8.1*9
判例3 徳島地裁H20.2.13*10
判例4 徳島地裁H21.5.15*11
判例5 大阪地裁H21.7.17*12
判例6東京地裁立川支部H21.10.9*13(12歳)
判例7横浜地裁川崎支部H22.7.8*14
判例8神戸地裁H21.12.10*15(大阪高裁H22.6.18*16)
判例9広島高裁岡山支部H22.12.15*17(岡山地裁h22.8.13*18)
判例10青森地裁h22.10.29*19
判例11名古屋地裁H22.11.1*20
判例12大阪地裁堺支部H22.11.22*21
判例13仙台高裁H23.9.15*22(仙台地裁古川支部H23.5.10*23
判例14さいたま地裁H23.5.13*24
判例15仙台地裁登米支部H23.2.7*25
判例16福岡地裁H23.5.30*26
判例17東京地裁h25.8.8*27
判例18札幌地裁H23.8.10*28
判例19福井地裁敦賀支部h24.9.26*29
判例20旭川地裁h25.8.9*30
判例21山口地裁h25.12.18*31 強要未遂
判例22名古屋高裁金沢支部H27.7.23*32(福井地裁h27.1.8*33 検察官答弁書h27.7.23*34)
判例23東京高裁H27.12.22*35(新潟地裁高田支部h27.8.25*36、検察官答弁書*37)
判例24名古屋高裁金沢支部H27.7.23*38(富山地裁高岡支部H27.3.3*39 検察官答弁書h27.7.23*40)
判例25広島地裁h27.10.2*41 自慰行為させ
判例26広島高裁h28.3.10*42(広島地裁H27.10.2*43)
判例27千葉地裁h31.2.22*44
判例28大阪高裁r2.10.2*45(奈良地裁葛城支部R02.3.30*46)
判例29大阪高裁R2.10.27*47(奈良地裁葛城支部R2.2.27*48

裸画像送らせた疑い、男逮捕 芸能スカウトら1人3役装う―警視庁
2022年05月13日16時06分
 芸能事務所のスカウトなど3人に成り済まし、女児に裸の写真を送らせたとして、警視庁亀有署は13日までに、強制わいせつと児童買春・ポルノ禁止法違反(製造)の疑いで、容疑者=を逮捕した。容疑を認めているという。
 逮捕容疑は昨年12月から今年1月15日、インターネット交流サイト(SNS)で、当時12歳の女児に、韓国の芸能事務所のレッスン担当者を装い「スタイルを見たいから写真を送ってほしい」と求め、はだ裸の写真を送らせるなどした疑い。

強制わいせつ:裸写真送らせる わいせつの疑いで、自衛官逮捕 新発田 /新潟
2022.05.08 毎日新聞
 警視庁成城署は6日、容疑者=を強制わいせつ容疑で逮捕したと発表した。
 逮捕容疑は1月29日、ネット交流サービス(SNS)上で東京都内在住の20代女性に対し、「家族に危害を加える」などの脅迫メッセージを送って裸の写真や動画を撮影させ、自身のスマートフォンに送信させたとしている。
 成城署によると「ストレス解消のためにやった」と容疑を認めている。女性とは面識があったが、「バレないように偽名を使った」と供述しているという。
毎日新聞社

強制わいせつ罪と児童ポルノ製造罪を観念的競合とした裁判例

高裁がまた観念的競合説に戻ってきた

名古屋 地裁 一宮 H17.10.13
東京 地裁 H18.3.24
東京 地裁 H19.2.1
東京 地裁 H19.6.21
横浜 地裁 H19.8.3
長野 地裁 H19.10.30
札幌 地裁 H19.11.7
東京 地裁 H19.12.3
高松 地裁 H19.12.10
山口 地裁 H20.1.22
福島 地裁 白河 H20.10.15
那覇 地裁 H20.10.27
金沢 地裁 H20.12.12
金沢 地裁 H21.1.20
那覇 地裁 H21.1.28
山口 地裁 H21.2.4
佐賀 地裁 唐津 H21.2.12
仙台 高裁 H21.3.3
那覇 地裁 沖縄 H21.5.20
千葉 地裁 H21.9.9
札幌 地裁 H21.9.18
名古屋 高裁 H22.3.4
松山 地裁 H22.3.30
那覇 地裁 沖縄 H22.5.13
さいたま 地裁 川越 H22.5.31
横浜 地裁 H22.7.30
福岡 地裁 飯塚 H22.8.5
高松 高裁 H22.9.7
高知 地裁 H22.9.14
水戸 地裁 H22.10.6
さいたま 地裁 越谷 H22.11.24
松山 地裁 大洲 H22.11.26
名古屋 地裁 H23.1.7
広島 地裁 H23.1.19
広島 高裁 H23.5.26
高松 地裁 H23.7.11
広島 高裁 H23.12.21
秋田 地裁 H23.12.26
横浜 地裁 川崎 H24.1.19
福岡 地裁 H24.3.2
横浜 地裁 H24.7.23
福岡 地裁 H24.11.9
松山 地裁 H25.3.6
横浜 地裁 H25.4.30
大阪 高裁 H25.6.21
横浜 地裁 H25.6.27
福島 地裁 いわき H26.1.15
松山 地裁 H26.1.22
福岡 地裁 H26.5.12
神戸 地裁 尼崎 H26.7.29
神戸 地裁 尼崎 H26.7.30
横浜 地裁 H26.9.1
津 地裁 H26.10.14
名古屋 地裁 H27.2.3
岡山 地裁 H27.2.16
長野 地裁 飯田 H27.6.19
横浜 地裁 H27.7.15
広島 地裁 福山 H27.10.14
千葉 地裁 松戸 H28.1.13
高松 地裁 H28.6.2
横浜 地裁 H28.7.20
名古屋 地裁 岡崎 H28.12.20
東京 地裁 H29.7.14
名古屋 地裁 一宮 H29.12.5
東京 高裁 H30.1.30
高松 高裁 H30.6.7
広島 地裁 H30.7.19
広島 地裁 H30.8.10
京都 地裁 R3.2.3
大阪 高裁 R3.7.14
千葉 地裁 監護者 R3.5.28
東京 地裁 閲覧請求書300記載の事件
神戸 地裁 尼崎 R3.7.5
大阪 高裁 R4.1.20
福岡 地裁 R3.5.19
福岡 地裁 R2.3.3

鳥取県青少年健全育成条例違反容疑につき大阪府民が「犯罪とは思わなかった」と容疑を否認している事例。

 大阪府ではR02改正まで、欺罔威迫が無ければ青少年淫行を処罰していなかったので、「鳥取県条例なんて知らない」「犯罪とは思わなかった」と弁解する人もいるでしょうね、
 鳥取県は法定刑が軽いようです。青少年淫行罪の要件や法定刑がまちまちなのも、社会的法益説の理由になります。

鳥取県青少年健全育成条例の解説r02
(4) 第4章青少年に対する不健全な行為の禁止
(みだらな性行為及びわいせつな行為の禁止)
第18条
1何人も、青少年に対し、みだらな性行為又はわいせつな行為をしてはならない。
2何人も、青少年にわいせつな行為をさせてはならない。
3何人も、青少年に対し、みだらな性行為又はわいせつな行為を教え、又は見せてはならな
い。
【関係条文】
第26条第18条第1項又は第2項の規定に違反した者は、 1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
2~5略
6次の各号のいずれかに該当する者は、 20万円以下の罰金に処する。
(1)第17条の5、第17条の6第1項、第18条第3項又は第21条の2第2項の規定に違反した者
(2)略
7及び8略
9第17条の7第1項若しくは第2項、第18条又は第21条の2第1項の規定に違反した者は、当該青少年の年齢を知らないことを理由として、第1項、第5項又は第6項の規定による処罰を免れることができない。ただし、当該青少年の年齢を知らないことに過失がないときは、 この限りでない。
【要旨】
本条は、青少年に対して淫らな性行為、又はわいせつな行為をしたり、わいせつな行為をさせることを禁じるほか、 これらの行為を教え、見せることを禁じる旨を規定したものです。
【解説】
1本条は、刑法の規定による暴行又は脅迫を用いる場合(強制わいせつ、強制性交等)や心神喪失若しくは抗拒不能に乗じる場合(準強制わいせつ、轌重制性交等)のほかにも、青少年に対するみだらな性行為又はわいせつな行為を、青少年の保護という面から取り上げて規制したものです。
2 「何人」の解釈は、第15条の解釈と同じく、県民はもとより旅行者、滞在者などの全ての自然人を指し、国籍性別、年齢を問いません。この他、毒舌や手紙、インターネッl、などを通じて県外から県内の青少年に接する者も含まれます6
3 「青少年に対し」 とは、第10条第1項に規定する青少年に対し直接にという意味です。
4 「みだらな性行為」 とは、刑法(第182条)及び児童福祉法(第34条第6号)に定める「淫行」 と同義で、一般社会人から見て不純とされる性行為をいい、結婚を前提としない単なる性欲を満たすための、あるいは好奇心からのみ行う性行為がこれに当たり、いわゆる売春行為も含まれますも。なお、不純であるかどうかは、あくまでも社会通念上判断されるべきものです。
5 「わいせつな行為」とは、刑法第22章に規定する「わいせつ」な行為と同義であり、いたずらに性欲を刺激させる行為や、その露骨な表現によって健全な常識を有する一般社会人に対し性的蓋恥心や嫌悪の情を起こさせる行為をいいます。なお、現に差恥心や嫌悪の情を起こさせたことを必要とするものではなく、このような情を起こさせる性質の行為であれば、これに当たります。
6 「わいせつな行為をさせ」とは、直接又は間接に強制して青少年にわいせつな行為をさせる場合のみならず、青少年に対してわいせつな行為をするよう示唆若しくは暗示したり、青少年がわいせつな行為をすることにつき便宜を供与した場合も含まれます。
7 「教え」 とは、単なる「わい談」などの漠然としたものではなく、みだらな性行為又はわいせつな行為に関する知識を具体的、直接的に与えることをいい、その方法を問いません。例えば、青少年に対してこれらの行為の写真図画、雑誌、DVD、ビデオテープ、フィルム等を見せる行為はこれに当たる場合があります。
「見せ」 とは、みだらな性行為又はわいせつな行為を直接見せることをいいます。従って、図耆、映画、有線テレビ等の媒体を通して見せることは、 これには当たりません。
・・・・


4第9項は、いわゆる年齢知情特則です.青少年を保護するという条例の実効性をより高めるため、平成8年の改正で新たに追加されました。
「当該青少年の年齢を知らないことに過失がないとき」とは、社会通念に照らして通常可能な調査が適切に尽くされていると言えるか否かで判断されることとなります。
「過失がないとき」 とは、単に青少年に年齢、生年月日等を尋ねただけ、又は身体の外観的発達状況等から判断しただけでは足りず、学生証、運転免許証等の公信力のある耆面、又は当該青少年の保護者に直接問い合わせるなど、その状況に応じて通常可能とされるあらゆる方法を用いて青少年の年齢を確認している場合などがあたります。 この場合、過失がないことの証明は、違反者自身が行うことが必要です。

10代女性の胸を同意を得ずに撮影し保存、男を逮捕「犯罪とは思わなかった」
5/6(金) 18:31配信
山陰中央新報

 鳥取県警倉吉署は6日、児童買春・ポルノ禁止法違反(盗撮・製造)、鳥取県青少年健全育成条例違反の疑いで、大阪市東住吉区、アルバイト従業員の男(22)=別の未成年者誘拐罪で起訴済み=を再逮捕した。「犯罪とは思わなかった」と容疑を否認している。
 再逮捕容疑は4月4日午後、鳥取県中部のホテルで、県中部在住の10代女性の胸部を、同意を得ずに撮影し、画像を保存した疑い。また同5日午前に同じホテルでみだらな行為をし、その様子を撮影し、画像を保存した疑い。

「画像を送らないと関係者に危害を加える」などと脅し、女性にわいせつな画像や動画を撮影させて送信させたという強制わいせつ被疑事件

 東京高裁h28.2.19 によれば「撮影に係る画像データを被告人使用の携帯電話機に送信させるという,それ自体はわいせつな行為に当たらない」とされています。強制わいせつ罪説を「失当」と評価しています。
 送信型強制わいせつ罪の高裁判例としては。
   大阪高裁r030714(1審京都地裁
   大阪高裁r040120 (1審京都地裁
があります。

https://digital.asahi.com/articles/ASQ563W7GQ56UTIL00N.html
成城署によると、容疑者は1月29日、東京都内の20代女性のインスタグラムに別人を装ってダイレクトメッセージ(DM)を送信。「画像を送らないと関係者に危害を加える」などと脅し、女性にわいせつな画像や動画を撮影させて送信させた疑いがある。

東京高裁h28.2.19 (一審新潟地裁高田支部H27.8.25)
判例タイムズ1432号134頁
 (1) 強要罪が成立しないとの主張について
 記録によれば,原判決は,公訴事実と同旨の事実を認定したが,その要旨は,被害者が18歳に満たない児童であることを知りながら,同女に対し,要求に応じなければその名誉等にいかなる危害を加えるかもしれない旨脅迫して,乳房,性器等を撮影してその画像データをインターネットアプリケーション「LINE」を使用して送信するよう要求し,畏怖した被害者にその撮影をさせた上,「LINE」を使用して画像データの送信をさせ,被告人使用の携帯電話機でこれを受信・記録し,もって被害者に義務のないことを行わせるとともに,児童ポルノを製造した,というものである。
 すなわち,原判決が認定した事実には,被害者に対し,その名誉等にいかなる危害を加えるかもしれない旨脅迫して同女を畏怖させ,同女をして,その乳房,性器等を撮影させるという,強制わいせつ罪の構成要件の一部となり得る事実を含むものの,その成立に必要な性的意図は含まれておらず,さらに,撮影に係る画像データを被告人使用の携帯電話機に送信させるという,それ自体はわいせつな行為に当たらない行為までを含んだものとして構成されており,強要罪に該当する事実とみるほかないものである。
 弁護人は,①被害者(女子児童)の裸の写真を撮る場合,わいせつな意図で行われるのが通常であるから,格別に性的意図が記されていなくても,その要件に欠けるところはない,②原判決は,量刑の理由の部分で性的意図を認定している,③被害者をして撮影させた乳房,性器等の画像データを被告人使用の携帯電話機に送信させる行為もわいせつな行為に当たる,などと主張する。
 しかしながら,①については,本件起訴状に記載された罪名および罰条の記載が強制わいせつ罪を示すものでないことに加え,公訴事実に性的意図を示す記載もないことからすれば,本件において,強制わいせつ罪に該当する事実が起訴されていないのは明らかであるところ,原審においても,その限りで事実を認定しているのであるから,その認定に係る事実は,性的意図を含むものとはいえない。
 また,②については,量刑の理由は,犯罪事実の認定ではなく,弁護人の主張は失当である。
 そして,③については,画像データを送信させる行為をもって,わいせつな行為とすることはできない。
 以上のとおり,原判決が認定した事実は,強制わいせつ罪の成立要件を欠くものである上,わいせつな行為に当たらず強要行為に該当するとみるほかない行為をも含む事実で構成されており,強制わいせつ罪に包摂されて別途強要罪が成立しないというような関係にはないから,法条競合により強要罪は成立しないとの弁護人の主張は失当である。
 (2) 公訴棄却にすべきとの主張について
 以上のとおり,本件は,強要罪に該当するとみるほかない事実につき公訴提起され,そのとおり認定されたもので,強制わいせつ罪に包摂される事実が強要罪として公訴提起され,認定されたものではない。
 また,原判決の認定に係る事実は,前記(1)のとおり,強制わいせつ罪の構成要件を充足しないものである上,被害者撮影に係る画像データを被告人使用の携帯電話機で受信・記録するというわいせつな行為に当たらない行為を含んだものとして構成され,これにより3項製造罪の犯罪構成要件を充足しているもので,強制わいせつ罪に包摂されるとはいえないし,実質的に同罪に当たるともいえない。
 以上のとおり,本件は,強要罪および3項製造罪に該当し,親告罪たる強制わいせつ罪には形式的にも実質的にも該当しない事実が起訴され,起訴された事実と同旨の事実が認定されたものであるところ,このような事実の起訴,実体判断に当たって,告訴を必要とすべき理由はなく,本件につき,公訴棄却にすべきであるとの弁護人の主張は,理由がない。

控訴理由
(1)強要罪とした裁判例*1
強要罪とした裁判例はたくさんある。
弁護人が刑事確定訴訟記録法により閲覧して、脅して撮影送信させた行為が強要罪として処理された事例
福島 地裁 会津若松 H18.2.8
大津 地裁 H18.3.22
松山 地裁 西条 H18.12.11
岡山 地裁 倉敷 H19.2.13
高知 地裁 H19.5.31
水戸 地裁 H19.7.4
福島 地裁 会津若松 H19.8.1
札幌 地裁 H19.12.11
徳島 地裁 H20.2.13
福井 地裁 H20.10.8
札幌 地裁 H20.12.11
盛岡 地裁 一関 H21.5.13
徳島 地裁 H21.5.15
大津 地裁 H21.7.31
水戸 地裁 土浦 H21.9.8
横浜 地裁 H21.11.27
神戸 地裁 H21.12.10
大阪 地裁 H21.12.25
千葉 地裁 H22.2.10
大阪 高裁 H22.6.18
横浜 地裁 川崎 H22.7.8
岡山 地裁 H22.8.13
長野 地裁 上田 H22.9.16
青森 地裁 H22.10.29
名古屋 地裁 H22.11.1
札幌 地裁 室蘭 H22.12.1
広島 高裁 岡山 H22.12.15
仙台 地裁 登米 H23.2.7
さいたま 地裁 H23.5.13
福岡 地裁 H23.5.30
札幌 地裁 H23.8.10
札幌 地裁 H24.6.23
福井 地裁 敦賀 H24.9.26
佐賀 地裁 H24.10.3
東京 地裁 H24.11.5
新潟 地裁 長岡 H24.12.25
横浜 地裁 H25.7.4
東京 地裁 H25.8.8
旭川 地裁 H25.8.9
和歌山 地裁 H25.9.20
松山 地裁 H26.1.30
水戸 地裁 土浦 H26.6.16
福井 地裁 H27.1.8
岐阜 地裁 御嵩 H27.2.16
富山 地裁 高岡 H27.3.3
札幌 地裁 苫小牧 H27.3.10
大阪 地裁 H27.6.15
新潟 地裁 高田 H27.8.25
福井 地裁 敦賀 H30.1.25

 50件程度確認しているが、ほんまか?と言われるので、手元に判決書があるものを並べておく。
判例1  水戸地裁H19.7.4
判例2  福島地裁会津若松支部h19.8.1
判例3  徳島地裁H20.2.13
判例4  徳島地裁H21.5.15
判例5  大阪地裁H21.7.17
判例6 東京地裁立川支部H21.10.9(12歳)
判例7 横浜地裁川崎支部H22.7.8
判例8 神戸地裁H22.12.10(大阪高裁H22.6.18)
判例9 広島高裁岡山支部H22.12.15(岡山地裁h22.8.13)
判例10 青森地裁h22.10.29
判例11 名古屋地裁H22.11.1
判例12 大阪地裁堺支部H22.11.22
判例13 仙台高裁H23.9.15(仙台地裁古川支部H23.5.10
判例14 さいたま地裁H23.5.13
判例15 仙台地裁登米支部H23.2.7
判例16 福岡地裁H23.5.30
判例17 東京地裁h25.8.8
判例18 札幌地裁H23.8.10
判例19 福井地裁敦賀支部h24.9.26
判例20 旭川地裁h25.8.9
判例21 山口地裁h25.12.18 強要未遂
判例22 名古屋高裁金沢支部H27.7.23(福井地裁h27.1.8)
判例23 東京高裁H27.12.22(新潟地裁高田支部h27.8.25
判例24 名古屋高裁金沢支部H27.7.23(富山地裁高岡支部H27.3.3)
判例25 広島地裁h27.10.2 自慰行為させ
判例26 広島高裁h28.3.10(広島地裁H27.10.2)
判例27 千葉地裁h31.2.22
判例28 大阪高裁r2.10.2(奈良地裁葛城支部R02.3.30)
判例29 大阪高裁R2.10.27(奈良地裁葛城支部R2.2.27)

 高裁レベルでも脅して送らせる行為を強要罪とするものは多く 弁護人が「強制わいせつ罪の告訴無しだ」という主張に対して、ことごとく「強要罪でいいのだ」と判断してきた。
仙台高裁H23.9.15(仙台地裁古川支部H23.5.10)
広島高裁岡山支部H22.12.15(岡山地裁H22.8.13)
阪高裁H22.6.18(神戸地裁H21.12.10)
東京高裁H27.12.22(新潟地裁高田支部H27.8.25)
阪高裁R2.10.27 (奈良地裁葛城支部R2.2.27)
阪高裁r2.10.2(奈良地裁葛城支部R02.2.27)
名古屋高裁支部H27.7.23(富山地裁高岡支部h27.3.3)
名古屋高裁金沢支部H27.7.23(福井地裁h27.1.8)
広島高裁h28.3.10(広島地裁H27.10.2)

 最近でも、脅迫して撮影送信させた行為について、性的意味合いを認めつつ、強制わいせつ罪には足りないとした高裁判例もでている。
 大阪高裁は、「このような行為がその性質上当然に強制わいせつ罪に当たる行為とみることはできず」と言いましたよね。

阪高裁r2.10.2(奈良地裁葛城支部R02.3.30)裁判例28
すなわち,原判決が認定した原判示第1及び第3の各事実の要旨は,被告人が各被害者に対し,それぞれ脅迫文言を記載したメッセージを送信するなどして脅迫し,これによって被害者らを畏怖させ,被害者らに裸の姿態をとらせて自らこれを撮影させた上,その画像ないし動画データを被告人の携帯電話機に送信させ,又は送信させようとしたが未遂にとどまったというものであるところ,なるほどこれらの事実中には,各被害者を脅迫し畏怖させた上,同人らに裸の姿態をとらせて自ら撮影させ,又はさせようとしたという点では,性的な意味合いを持つ行為が含まれている。
しかし,このような行為がその性質上当然に強制わいせつ罪に当たる行為とみることはできず,その該当性を判断するに当たっては,当該事案における具体的状況等に則して強制わいせつ罪に係る構成要件を充足するに足る事実があるか否かを総合的に考慮する必要があることに加え,

 この大阪高裁判決も、こういう罪となるべき事実では、強制わいせつ罪を充たさない・なんか足りないという。

奈良地裁葛城支部R02.3.30
第3 と共謀の上,年月21日から同月23日までの間
県内又はその周辺において,被告人が,(当時歳)に対し,被告人の携帯電話機から前記「インスタグラム」及びアプリケーションソフト「カカオトーク」を使用し,同の携帯電話機に,「あのさ,動画撮ろうよ?これバレたら大変でしょ?ブロックしたらいろんな人に見せちゃうからね?」などと記載したメッセージ及び同人の裸の画像データを順次送信し,~~これらのメッセージを閲覧させて脅迫し,同人をして,もしこの要求に応じなければ,既に被告人に送信させた同浅野の裸の画像データを不特定多数人に頒布するなど同の名誉等にいかなる危害を加えられるかもしれない旨畏怖させ,よって,同日,府内の同人方において,5回にわたり,同人に,その乳房,陰部等を露出した姿態をとらせ,これを同人の携帯電話機のカメラ機能で撮影させた上,同人の乳房等を撮影させた動画データ5点を,同「カカオトーク」を使用して,被告人の携帯電話機に送信させ,

撮影済の画像を流布するという脅迫方法からして、本件と同じであって、葛城支部R02.3.30が葛城支部の事実認定では強制わいせつ罪に足りないというのであれば、本件原判決の罪となるべき事実も強制わいせつ罪に足りないし、原判決は訴因外の事実を援用して強制わいせつ罪を認定していることになる。

 その共犯者の共犯者の控訴審では強要罪と強制わいせつ罪とを分ける事情は「訴因外の事情」とされている。

阪高裁R2.10.27(奈良地裁葛城支部R2.2.27)裁判例29
1 被告人の行為が強要罪ではなく,強制わいせつ罪にあたることを前提とした主張
 弁護人は,原判示第1及び第4は,強制わいせつ罪を構成し,強要罪は成立しないから,強要罪の成立を認めた原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というのである。
 そこで検討すると,検察官は,広範な訴追裁量権を有しており,当該事案につき,立証の難易等を考慮して,強制わいせつ罪ではなく,強要罪として公訴を提起することが可能であり,このような場合,公訴の提起を受けた裁判所は,訴因である強要罪の成否のみを審判の対象とすべきであり,それにつき別途強制わいせつ罪が成立するかどうかといった,訴因外の事情に立ち入って審理判断すべきものではない。
 そうすると,原判決が,原判示第1及び第4につき,強制わいせつ罪が成立するか否かにつき立ち入ることなく,検察官が起訴状の罪名で特定した強要罪の成否についてのみ認定判断した上,刑法223条1項(原判示第4につき,さらに刑法60条)を適用したことは正当であって,法令適用の誤りはない。

 大阪高裁R2.10.27は、この事実では、強制わいせつ罪は充たさない・なんか足りない・訴因外事実を持ってくるなというのだが、

奈良地裁葛城支部R2.2.27
(罪となるべき事実)
被告人は
第1 年月13日,県内において,■■■■(当時歳)に対し,アプリケーションソフト「インスタグラム」を使用して,「お願いだよ。kのいう通りして。それともママにばらしていい?」などと記載したメッセージを順次送信し,その頃,同■■にこれらのメッセージを閲覧させて脅迫し,同人をして,もしこの要求に応じなければ,既に被告人に送信させた同■■の裸の画像データを同人の母親に頒布して同■■の名誉にいかなる危害を加えられるかもしれない旨畏怖させ,よって,その頃,府内の同人方において,2回にわたり,同人に,その乳房,陰部等を露出した姿態をとらせ,これを同人の携帯電話機のカメラ機能で撮影させた上,同人の乳房等を撮影させた画像データ2点を,同「インスタグラム」を使用して,被告人の携帯電話機に送信させ,

撮影済の画像を流布するという脅迫方法からして、本件と同じであって、大阪高裁R2.10.27が葛城支部の事実認定では強制わいせつ罪に足りないというのであれば、本件原判決の罪となるべき事実も強制わいせつ罪に足りないし、原判決は訴因外の事実を援用して強制わいせつ罪を認定していることになる。

「携帯電話のメールで家出をそそのかし、少女の自宅周辺で車に乗車させて家出させた疑い。」という茨城県青少年健全育成条例違反(非行助長行為)の逮捕事例

茨城県青少年健全育成条例違反(非行助長行為)の逮捕事例
 児童ポルノ要求行為というのも「非行助長行為」で検挙できそうです。

(非行助長行為の禁止)
第38条
何人も,青少年に対し,有害行為,家出,傷害,脅迫,恐喝,詐欺,窃盗,強盗,器物損壊逮捕若しくは監禁を行うよう勧誘し,あおり,そそのかし,若しくは強要し,又はこれらの行為を行わせる目的をもって金品その他の財産上の利益若しくは便宜を供与してはならない。

・・・

茨城県青少年の健全育成等に関する条例 の解説h21
【要旨】
本条は,青少年が非行や不良行為に及ぶことのないよう,青少年に有害行為等を行うよう勧誘するなどの非行助長行為を禁止する規定である。
【解説】
家庭や地域の教育カの低下や,大人の規範意識の低下が問題となっている状況下にあって,青少年が人から勧誘されるなどして非行や不良行為に及ぶ事例が後を絶たないことから,青少年を保護するため,青少年に非行や不良行為を勧誘,強要等したり,非行や不良行為を行わせるために金品等を供与してはならないことを規定するものである。
「何人」 - 県民はもとより,旅行者,滞在者も含め,成人であると,未成年者であるとを問わず,現に本県内にいるすべての人(法人を含む。)を指すものである。
「有害行為」第32条の有害行為のための場所提供等の禁止で、規定する行為をいう。具体的には, 「みだらな性行為」,「わいせつ行為」,「賭博」,「飲酒」, 「喫煙」,「暴行」,「入れ墨若しくはこれに類するものを施す行為」,「指定薬品類等の乱用」,「毒物及び劇物取締法施行令(昭和30年政令第261号)第32条の2に規定する興奮,幻覚若しくは麻酔の作用を有する物の乱用」,「麻薬の使用」,「大麻の使用」,「覚せい剤の使用」,「催眠剤の使用」,「使用済みの下着の売渡し(青少年が使用した下着(青少年がこれに該当すると称した下着を含む。))」 をいう。
「家出」一地域や学校などが行う外泊の終期が決まっている行事への参加や,児童虐待の防止等に関する法律第2条各号に規定する児童虐待行為を回避する必要があるなどの正当な理由がなく,生活の本拠から離脱することをいう。
「傷害,脅迫,恐喝,詐欺,窃盗,強盗,器物損壊,逮捕若しくは監禁」ーそれぞれ,刑法に規定する「傷害」,「脅迫」,「恐喝」,「詐欺」,「窃盗」,「強盗」,「器物損壊」,「逮捕」,「監禁」をいう。
「勧誘」一青少年に対し,自己の欲するとおりのある種の行為を行うよう誘い勧めることをいい,手段,方法や青少年の意思の有無を問わない。また,勧誘された行為を実行することを要しない。例えば,青少年に対して,一緒に喫煙しようと誘う,みだらな性行為やわいせつ行為を行おうと家出を誘うなどが該当する。
「あおり」 一特定の行為を実行させる目的をもって,青少年に対し,その行為を実行する決意を生ぜしめ,又は既に生じている決意を助長させるような勢いのある刺激を与えることをいい, 「あおり」を受けた青少年が犯罪を実行することを要しない点が,刑法上の教唆犯及び常助犯と異なる。例えば,青少年に対して,喫煙をすると気分が良くなるなどと言い喫煙させる,家出をすれば自由が得られるなどと言い家出させるなどが該当する。
「そそのかし」一特定の行為を実行させる目的をもって,青少年に対し,その行為を実行する決意を新たに生じさせるに足りる慫慂(しようよう)行為をすることをいい, 「そそのかし」を受けた青少年が犯罪を実行することを要しない点が,刑法上の教唆犯と異なる。例えば,青少年に対して,この場所ならば喫煙しでも見つからないなどと言い喫煙させる,両親がいない隙に家出すればうまくいくなどと言い家出させるなどが該当する。
「強要」一物理的,心理的な圧迫を加えることによって,特定の行為を実行する意思がない青少年に対し,その意に反して当該行為の実行を求め,又は実行させようとすることをいい,生命,身体,財産等に害悪を加える旨を告知して脅迫し,又は暴行を用いることを要件としない点が,刑法上の強要と異なる。例えば,青少年に対して,喫煙や家出をしないと仲間はずれにするなどと言い喫煙や家出をさせるなどが該当する。
「金品その他の財産上の利益」一人の需要又は欲望を満足させるべき利益のうち,金銭,有価証券,物品等の有形的利益のほか,債権の譲渡,債務の免除など金銭をもって換算し得る無形的利益をいう。
「便宜の供与」 一人の社会生活上の地位に基づいて行う一切の役務の供与をいい,例えば,就職先,住居等の斡旋,提供や,非行の用に供する物品の提供等が該当する。なお,これらの提供にあたって報酬の有無は問わない。
【罰則】
青少年に対し,有害行為等を行うよう勧誘等し,又はこれらの行為を行わせる目的をもって金品等を供与した者は, 1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せ.られる。

(有害行為のための場所提供等の禁止)
32条 何人も,みだらな性行為,わいせつ行為,賭と博,飲酒,喫煙,暴行,入れ墨若しくはこれに類するもの(第36条において「入れ墨等」という。)を施す行為,指定薬品類等若しくは毒物及び劇物取締法施行令(昭和30年政令第261号)第32条の2に規定する興奮,幻覚若しくは麻酔の作用を有する物の乱用,麻薬,大麻覚醒剤若しくは催眠剤の使用又は使用済みの下着(青少年が使用した下着(青少年がこれに該当すると称した下着を含む。)をいう。第37条において同じ。)の売渡し(以下この条及び第38条において「有害行為」と総称する。)が,青少年に対してなされ,又は青少年が有害行為を行うことを知って,場所を提供し,又はその周旋をしてはならない。
(令2条例40・一部改正)

2022.04.28 茨城新聞
 取手署は26日、県青少年健全育成条例違反(非行助長行為)の疑いで、容疑者を逮捕した。逮捕容疑は1月2日午後9時10分ごろ、県内在住で当時中学3年の少女(15)が18歳未満と知りながら、携帯電話のメールで家出をそそのかし、翌3日ごろ、少女の自宅周辺で車に乗車させて家出させた疑い。同署によると、容疑を否認している。同日に少女の父親が行方不明届を出していた。4月26日、容疑者が自宅とは別に契約している東京都のアパートで、同署員が少女を発見、保護した。

不同意堕胎致傷被告事件の控訴審で、「自らの手で医師免許を返納したことは,医師による医事に関する犯罪について社会的な責任をとったともいえ,相応に被告人に有利に考慮すべき事情である。」として2項破棄した事例(広島高等裁判所岡山支部令和3年7月14日

不同意堕胎致傷被告事件の控訴審で、「自らの手で医師免許を返納したことは,医師による医事に関する犯罪について社会的な責任をとったともいえ,相応に被告人に有利に考慮すべき事情である。」として2項破棄した事例(広島高等裁判所岡山支部令和3年7月14日)
 原判決の量刑理由にも批判的です。

不同意堕胎致傷被告事件
広島高等裁判所岡山支部判決令和3年7月14日
       主   文
 原判決を破棄する。
 被告人を懲役2年6月に処する。
 この裁判確定の日から5年間その刑の執行を猶予する。
       理   由
第1 弁護人の控訴理由
  被告人を懲役2年の実刑に処した原判決の量刑は重すぎて不当であり,被告人については刑の執行猶予を付すべきである。
第2 控訴理由に対する判断
 1 本件は,外科医である被告人が,被害者である妊娠中の交際相手の嘱託を受けず,かつ,承諾を得ないで,被害者を堕胎させようと考え,病院内において,被害者に対し,全身麻酔薬等を投与して昏睡させ,その意識を消失させて,下腹部を穿刺針で刺した上,子宮の胎嚢内に無水エタノールを注入し,妊娠約9週の胎児を死亡させるとともに,被害者に治癒まで約9日間を要する腹部刺傷及び約3時間30分間にわたる意識障害等を伴う急性薬物中毒の傷害を負わせた不同意堕胎致傷の事案である。
  まず,犯行に至る経緯,動機をみると,被告人は,婚約者がいながら,割り切った関係として付き合っていた被害者から妊娠したことを告げられ,堕胎を提案したものの被害者から断られ,このまま被害者が出産することになった場合の困難に思いをはせ,自らの手で堕胎させることを決意して犯行に及んだものと認められ,身勝手かつ自己中心的であって酌むべき点はない旨の原判決の説示は相当である。この点,弁護人は,被害者において被告人に婚約者がいることを認識しながら被告人との交際を続け,避妊を行おうとしなかったという事情があり,被告人は,被害者の妊娠が判明して精神的に追い詰められて犯行に及んだものであり,自己保身の目的で行った狡猾な犯行ではない点を斟酌すべきである旨主張するが,そのように追い詰められた原因を被告人が自ら生み出したことを等閑視する主張というべきであって,採用できない。
  次に,犯行態様をみると,被告人は,堕胎させる方法を検討する中で,外科医として6年以上の経験を有し,診療行為として腹部に針を刺す手技を多数行っていたことから,母体にとって自分が単独で行い得るものの中で最も危険が少なく,堕胎を確実に行えるものとして,下腹部を穿刺して胎嚢内に無水エタノールを注入する方法によることとし,被害者に対して胎児の状態を病院のエコーで確認したいなどといって,当直勤務体制中の勤務先病院に被害者を呼び出したこと,被告人は,あらかじめ必要と思われる薬剤等を準備した上で,被害者に全身麻酔薬等を投与して昏睡させ,非常に細い穿刺針を使用し,エコー(超音波機器)を利用して胎嚢の位置を確かめながら下腹部を穿刺したが,穿刺針が真っすぐ進まず他の臓器に当たる危険を考慮したため,穿刺針を刺したものの皮膚の表層辺りでうまくいかないと判断して抜くことを2回繰り返したこと,2回目の穿刺針を抜いた後に被害者に原因不明のけいれんが起こったため,たまたまロッカーに保管していた抗けいれん薬を投与した上で,3回目の穿刺で胎嚢内に無水エタノールを注入し,堕胎させたことが認められる。被告人は,医師として人命を尊重すべき重責を担い,経験を重ねて知識や手技等を高めながら,公衆衛生の向上及び増進に寄与することが期待される立場であったのに,その知識や手技等を悪用して本件犯行を遂行したのであって,厳しい非難に値するというべきである。計画的犯行であり,被害者の信頼を裏切った点も看過できない。この点,原判決は,被告人が被害者を病院に誘い出した上,全身麻酔薬等を投与して,被害者において抵抗もできず,意識を失った状態で堕胎されたことをもって,被害者の人格を踏みにじるものと非難するが,やや過剰な評価である。
  そこで,犯行態様の危険性等について検討する。被告人の行為は,被害者の皮膚の上から体内に向けて針を刺すという外科的侵襲を伴うものであり,また,麻酔管理の方法も,現在の医療体制や技術を前提とすると到底そのレベルに達しておらず,母体である被害者の身体に様々な危険が生じるおそれが具体的にあったと認められる。しかしながら,被告人が被害者の生命身体にいかなる危険が生じようとも意に介さないまま本件犯行を行ったとまでは認められず,むしろ,被告人のこれまでの外科医としての経験を踏まえ,上記のような方法であれば被害者の身体に重大な結果が生じない状態で堕胎が行えると判断し,それなりの準備と方法で行ったともいえるのであって,被害者に生じた傷害結果も重大なものとはいい難い。これに関して,本件犯行途中で被害者がけいれんを起こしたことは上記のとおりであるが,その原因は不明であり,そのような事態に至る可能性が高かったといえる事情も認められないし,その後被告人は抗けいれん薬を被害者に投与した後に穿刺を再開したのであるから,けいれんの発生をもって誤穿刺の危険性が高いとの原判決の説示は相当ではない。加えて,本件犯行が救急医療体制の整った病院内で行われたことを併せ考慮すると,本件犯行に際し,実際に母体である被害者の身体自体に重大な傷害結果を生じさせる具体的な危険性が高かったとはいい難いのであって,被告人の一連の行為態様が被害者の身体の安全を軽視した悪質なもので,その違法性は高い旨の原判決の説示も相当ではない。
  被害者は,出産を望んでいたのに,信頼していた被告人にだまされた形で堕胎させられたのであり,被害者の悲嘆等の精神的苦痛も大きかったというべきである。これに対し,被告人は,被害者に対して謝罪するとともに,本件犯行による一切の損害賠償として800万円の支払義務を負うことなどを内容とする示談を被害者との間で成立させ,その後同額が被害者に支払われたことが認められるところ,事後的かつ金銭的な被害回復であるとはいえ,相応に被告人に有利な事情になるというべきである。この点,堕胎罪は,胎児を生育中の生命体として,その生命,身体の安全を保護法益としていると解されるところ,胎児に関して生じた様々な損害の補填を受けるのは母体である被害者しかいないのであるから,被害者が上記金額の支払をもって示談に応じたことは,死亡した胎児を含めた被害全体に関する一般情状として相応に考慮すべきなのであって(被害者と被告人との示談書には「失った子に対する損害の補てんの趣旨」を含むことが明記されている。),胎児が出生していれば被告人は養育費等として支払が必要となる可能性があったとか,回復不能な胎児の生命も保護法益に含まれているとして,被告人による示談金の支払をさほど重視することはできない旨の原判決の説示は相当ではない。
  以上によれば,原判決が指摘する被告人に有利なその他の事情を考慮しても,本件は刑の執行を猶予すべき事案であるとはいえないとの原判決の判断は,いささか被告人に酷に過ぎるとも考えられる。他方,人命を尊重すべき立場にある医師という職責の重要性,また,それ故に社会内において高い信頼を受けていることに鑑みれば,それをないがしろにした被告人は厳しく非難されるべきであり,本件犯行が社会に与えた衝撃も大きかったことは容易に推察されるのであって,被告人に実刑を科すことも選択肢の一つとして首肯できる。そうすると,懲役2年の実刑に処した原判決は,その言渡しの時点において重すぎて不当であるとまではいえない。
 2 もっとも,当審における事実取調べの結果によれば,被告人は,原判決後,厚生労働大臣宛てに医師籍登録抹消を申請し,その申請書に医師免許の再交付の意思がないことを明言する旨の自筆の文書と医師免許証を添付して提出したことが認められ,公判でも今後医師免許を取得するつもりがない旨供述している。被告人については厚生労働大臣が本件を理由に医師免許の取消処分を行う可能性はあるものの,自らの手で医師免許を返納したことは,医師による医事に関する犯罪について社会的な責任をとったともいえ,相応に被告人に有利に考慮すべき事情である。これらの事情と先に指摘した情状を併せ考慮すると,原判決の量刑は,現時点では重きにすぎることとなったというべきであり,これを破棄しなければ明らかに正義に反すると認められる。
第3 破棄自判
  そこで,刑訴法397条2項により原判決を破棄することとし,同法400条ただし書を適用して被告事件について更に判決する。
(罪となるべき事実及び証拠)
  原判決の記載と同じ。
(法令の適用)
  原判決と同一の法令を適用した刑期の範囲内で被告人を懲役2年6月に処し,刑法25条1項によりこの裁判確定の日から5年間その刑の執行を猶予することとする。
(量刑の理由)
  本件は上記のとおりの事案であるところ,犯情を中心に据えて一般情状事実を併せ考慮すると,現時点では被告人に対して刑の執行猶予を付すのが相当であると認め,主文掲記の量刑をしたものである。
  令和3年7月14日
    広島高等裁判所岡山支部第1部
        裁判長裁判官  片山隆夫
           裁判官  秋信治也
           裁判官  重高 啓

不同意堕胎致傷被告事件
岡山地方裁判所判決令和3年2月24日

       主   文

 被告人を懲役2年に処する。

       理   由

(罪となるべき事実)
 被告人は,別紙記載の被害者(当時26歳)の嘱託を受けず,かつ,その承諾を得ないで,同人を堕胎させようと考え,令和2年5月17日午後1時45分頃から同日午後3時25分頃までの間に,勤務先病院である別紙記載の場所において,同人に対し,同人の左腕に留置させた点滴ルートの三方活栓から鎮静薬であるミダゾラム及び全身麻酔薬であるプロポフォールを投与するとともに,鎮静薬であるジアゼパムを同人の下腹部から皮下注射して投与し,これら全身麻酔薬及び鎮静薬の薬理作用により同人を昏睡させてその意識を消失させ,穿刺針を同人の下腹部に複数回穿刺し,同穿刺針の針先を妊娠約9週の胎児がいる子宮の胎嚢内又はその付近で複数回動かした上,同胎嚢内に挿入し,同穿刺針に無水エタノールを入れたシリンジを装着して無水エタノール約2ないし3シーシーを同胎嚢内に注入し,よって,その頃から同月19日午前10時22分頃までの間に,同胎児を死亡させ,もって同人の嘱託を受けず,かつ,その承諾を得ないで堕胎させるとともに,同人に治癒まで約9日間を要する腹部刺傷及び同月17日午後1時50分頃から同日午後5時20分頃までの約3時間30分にわたる意識障害等を伴う急性薬物中毒の傷害を負わせた。
(証拠の標目)
(法令の適用)
 被告人の判示所為は,刑法216条に該当するので,同法10条により同法215条1項所定の刑と同法204条所定の刑とを比較し,重い傷害罪について定めた懲役刑(ただし,短期は不同意堕胎罪の刑のそれによる。)により処断することとし,所定刑期の範囲内で被告人を懲役2年に処することとする。
(量刑の理由)
 本件は,外科医である被告人が,妊娠中の当時の交際相手に対し,その同意なく,全身麻酔薬等を投与して昏睡状態にした上,穿刺針で胎嚢内に無水エタノールを注入し,胎嚢内で妊娠約9週の胎児を死亡させ,被害者に傷害を負わせた不同意堕胎致傷の事案である。
 被告人は,勤務する病院において,予め麻酔薬や穿刺針等を入手して準備し,エコーで胎児の様子を詳しく見たいと被害者を同院内に誘い出し,つわり抑制薬を点滴した後,隙を見て堕胎する目的で鎮静薬ミダゾラム及び全身麻酔プロポフォールを投与し,被害者を昏睡状態にしている。被害者は麻酔薬の作用により意識を失い,自己や胎児が危険にさらされた状況を理解できず,抵抗することも全くできないまま堕胎されることとなったもので,その態様は被害者の人格を踏みにじるものである。被告人は,被害者の生殖機能の中心部である子宮内部の胎嚢へ穿刺し薬剤を注入しており被害者の身体への侵襲の程度は相当に高い。
 被告人は堕胎の方法等を調べ,自己の職場を利用して周到な準備をし,医師であることによる被害者からの厚い信頼や好意に付け込んで誘い出し,消化器外科を専門として経験が豊富で確実に実行できる腹部への穿刺の方法を選択しており,生命を尊重すべき医師としての立場を悪用しているといえる。
 犯行態様の危険性についてみると,全身麻酔薬の使用量は概ね安全な量であったといえるものの,全身麻酔薬を投与して意識を消失させた状態での穿刺は,刺激への反応や麻酔が切れて覚醒することで体が動いてしまう可能性もあり,現に被害者は複数回の穿刺のうちに痙攣を起こしており,誤穿刺の危険性が高い行為であったと認められる。そして,全身麻酔薬や鎮静薬は,麻酔科医師が管理し,看護師や医師が複数いる体制において,患者の呼吸状態等を連続的に観察し,緊急時に十分な措置が可能な施設においてのみ使用しなければ,患者が副作用により呼吸抑制に至るなど容態が急変した場合に対処できず死亡または低酸素脳症に至る症例もあるところ,被告人は,被害者の痙攣時に必要な抗痙攣薬等を室内に準備しておらず,一旦被害者を残して同室を出るなど,十分な体制ではなく,被害者は危険にさらされた。さらに,被告人は,全身麻酔薬の投与直前に被害者に飲料を飲ませたり,拮抗薬フルマゼニルを使い覚醒させた後,眠気を訴え,明らかに全身麻酔薬の効果が残っている状態の被害者を放置して病院を後にするなど,麻酔薬投与の前後に必要な注意もしていないことに照らせば,一連の行為態様は,被害者の身体の安全を軽視した悪質なもので,その違法性は高く,強い社会的非難に値する。
 本件犯行の経緯について,被告人は,本件犯行以前,被害者から避妊薬を服用していると聞いていたが,その後,被害者から,妊娠したものの流産して自殺を図ったと打ち明けられたのに対し,落ち着かせるため甘言を用いて,避妊することなく性交渉を継続し,被害者が妊娠したものであった。そして,婚約者と入籍する直前に,被害者からこの妊娠を告げられ,認知や養育費を求められると,中絶するよう懇願したものの拒絶され,被害者に胎児をエコーで見れば気持ちが変わるかもしれないと告げた。しかし,被害者が子供を産めば,関係が一生続くことを恐れ,婚約者との将来や職場での立場などを優先し本件犯行に及んだもので,上記の経緯や動機は身勝手かつ自己中心的であって,酌むべき点はない。
 被告人はエコーを見ながら無水エタノールを胎嚢に確実に注入した後,エコーで胎児の心拍が明らかに弱まっているのを確認するなど,強固な犯意に基づき堕胎を行い,妊娠約9週まで順調に発育していた胎児の尊い生命が失われた結果は重大で回復不能なものである。被害者に生じた傷害の結果は,腹部刺傷と約3時間30分間にわたる意識障害等を伴う急性薬物中毒であるが,そればかりか,被害者は母子健康手帳の交付を受ける予定でいたところ,医師として尊敬する胎児の父である被告人から,大切な胎児の生命を奪われたのであって,その精神的苦痛は察するに余りあり,示談後も,なお厳しい処罰感情を述べるのも当然である。そうすると,被告人の刑事責任は重いと言わざるを得ない。
 一方,被告人が本件犯行を認めて謝罪文を作成し,反省の言葉を述べ,被害者に対し被害弁償として800万円を支払い示談が成立し,これにより被害者に生じた損害がある程度填補されている。しかし,本件前に被告人は被害者に対し,慰謝料もしくは養育費を支払う旨話をしていた経緯からすれば,胎児が出生していれば養育費等として支払が必要となる可能性があったことや,回復不能な胎児の生命も保護法益に含まれていることからすれば,この支払をさほど重視することはできない。また,被告人の姉が出廷して監督を誓っていること,被告人に前科前歴がないこと,医師免許については医道審議会の処分を待ちつつも,勤務先を懲戒解雇されるなどの社会的制裁を受けていること等の被告人に有利な事情を考慮しても,本件は,刑の執行を猶予すべき事案であるとはいえず,上記の有利な事情は刑期において考慮することとし,主文の刑を量定した。
(求刑:懲役5年)
  令和3年2月24日
    岡山地方裁判所第2刑事部
        裁判長裁判官  御山真理子
           裁判官  五十部隆
           裁判官  松浦絵美

13歳のAを誘拐した(未成年者誘拐)上,(イ)Aに2回にわたり被告人を相手に性交及び口淫をさせて児童に淫行をさせる行為をし(児童福祉法違反),(ウ)その際,Aの姿態を撮影して児童ポルノを製造した事案で、刑事損害賠償命令申立に対して刑事和解で約300万円を支払った事案(札幌高裁h30.11.14)

13歳のAを誘拐した(未成年者誘拐。同第5の事実)上,(イ)Aに2回にわたり被告人を相手に性交及び口淫をさせて児童に淫行をさせる行為をし(児童福祉法違反。同第6の事実),(ウ)その際,Aの姿態を撮影して児童ポルノを製造した(同第7の事実)事案で、刑事損害賠償命令申立に対して刑事和解で約300万円を支払った事案(札幌高裁h30.11.14)
 報道では、原判決は岩見沢支部h30.6.18で懲役4年(求刑懲役5年)だったようです。
 刑事損害賠償命令に応じて払った場合は、普通2項破棄になります。
 Aを誘拐した(未成年者誘拐。同第5の事実)上,(イ)Aに2回にわたり被告人を相手に性交及び口淫をさせて児童に淫行をさせる行為をし(児童福祉法違反。同第6の事実),(ウ)その際,Aの姿態を撮影して児童ポルノを製造した(同第7の事実)のうち、刑事損害賠償命令の対象になるのは、未成年者誘拐罪だけです。科刑上一罪にしてくれれば、被害者Aは全部の罪名について、刑事損害賠償命令を利用できるんですが。

犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律(平成十二年五月十九日法律第七十五号)
損害賠償命令の申立て)
第二十三条  
1次に掲げる罪に係る刑事被告事件(刑事訴訟法第四百五十一条第一項 の規定により更に審判をすることとされたものを除く。)の被害者又はその一般承継人は、当該被告事件の係属する裁判所(地方裁判所に限る。)に対し、その弁論の終結までに、損害賠償命令(当該被告事件に係る訴因として特定された事実を原因とする不法行為に基づく損害賠償の請求(これに附帯する損害賠償の請求を含む。)について、その賠償を被告人に命ずることをいう。以下同じ。)の申立てをすることができる。
一  故意の犯罪行為により人を死傷させた罪又はその未遂罪
二  次に掲げる罪又はその未遂罪
イ 刑法 (明治四十年法律第四十五号)第百七十六条 から第百七十八条 まで(強制わいせつ、強姦、準強制わいせつ及び準強姦)の罪
ロ 刑法第二百二十条 (逮捕及び監禁)の罪
ハ 刑法第二百二十四条 から第二百二十七条 まで(未成年者略取及び誘拐、営利目的等略取及び誘拐、身の代金目的略取等、所在国外移送目的略取及び誘拐、人身売買、被略取者等所在国外移送、被略取者引渡し等)の罪
ニ イからハまでに掲げる罪のほか、その犯罪行為にこれらの罪の犯罪行為を含む罪(前号に掲げる罪を除く。)

札幌高等裁判所判決平成30年11月14日未成年者誘拐,児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反,北海道青少年健全育成条例違反,児童福祉法違反被告 岩見沢

       主   文

 本件控訴を棄却する。

       理   由

 本件控訴の趣意は,弁護人加藤正佳(主任)及び同高嶋智共同作成の控訴趣意書及び「答弁書に対する反論書」に記載のとおりであり,これに対する答弁は,検察官藏重有紀作成の答弁書に記載のとおりである。論旨は,法令適用の誤り,事実誤認,理由齟齬,訴訟手続の法令違反及び量刑不当の主張である。
 第1 法令適用の誤りについて
 論旨は,「児童に淫行をさせる行為」を禁止した児童福祉法34条1項6号は,処罰範囲が広範に過ぎる上,「させる行為」の内容が不明確であるから,憲法31条に違反するのに,原判決は原判示第6の事実について,児童福祉法34条1項6号を適用しているから,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というのである。
 しかし,児童福祉法36条1項6号にいう「淫行」とは,児童の心身の健全な育成を阻害するおそれがあると認められる性交又はこれに準ずる性交類似行為をいい,「させる行為」とは,直接たると間接たるとを問わず児童に対して事実上の影響力を及ぼして児童が淫行をなすことを助長し促進する行為をいう(最高裁判所昭和40年4月30日第二小法廷決定裁判集刑事155号595頁,同裁判所平成28年6月21日第一小法廷決定刑集70巻5号369頁参照)のであって,同号の処罰範囲が広範に過ぎるとも,構成要件が不明確ともいえない。論旨は理由がない。
 第2 事実誤認及び法令適用の誤りについて
 1 原判決は,罪となるべき事実第6において,以下の事実を認定している。すなわち,被告人はTwitter(以下「ツイッター」という。)上で家出をしたいと書き込んでいた被害者Aに対し,家出をして被告人の下に来るように誘惑し,平成29年11月16日午後7時44分頃,Aと合流して被告人方へ連れ去り,その頃から同月20日までの間,Aを被告人方に寝泊まりさせて自分の支配下に置いていたが,その立場を利用し,Aが18歳に満たない児童であることを知りながら,①同月16日午後9時過ぎ頃と②同月17日午後5時過ぎ頃に,いずれも,被告人方で,Aに自分を相手に性交及び口淫をさせ,もって児童に淫行をさせる行為をした,というのである。
 これに対し,論旨は,「児童に淫行をさせる行為」をしたというためには,行為者と児童との間に,児童の全人格の形成に関わる一定の依存関係がなければならないと解されるが,原判決は被告人とAとの間にこのような依存関係がないのに,「淫行をさせる行為」をしたと認定して児童福祉法34条1項6号を適用しているから,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認及び法令適用の誤りがある,というのである。
 2 しかしながら,「児童に淫行をさせる行為」とは,前記のとおり,淫行(すなわち,児童の心身の健全な育成を阻害するおそれがあると認められる性交又はこれに準ずる性交類似行為)を児童がなすことを,直接たると間接たるとを問わず児童に対して事実上の影響力を及ぼして助長し促進する行為をいうのであって,児童の心身の健全育成という児童福祉法の趣旨に照らせば,所論が主張するような依存関係がなければ「児童に淫行をさせる行為」をしたとはいえないと限定して解釈するのは相当ではない。所論は独自の見解を主張したものといわざるを得ず,採用できない。
 そして,「児童に淫行をさせる行為」に当たるか否かは,行為者と児童の関係,助長・促進行為の内容及び児童の意思決定に対する影響の程度,淫行の内容及び淫行に至る動機・経緯,児童の年齢,その他当該児童の置かれていた具体的状況を総合考慮して判断するのが相当である(最高裁判所平成28年6月21日第一小法廷決定刑集70巻5号369頁参照)。これを前提に,本件について検討すると,以下のとおりである。
 (1) 関係証拠によれば,以下の事実が認められる。すなわち,
 ア 当時34歳の被告人は,好みに合った女子児童を自宅に監禁して,ペットのように飼育,調教し,思うがまま性交等をして,奴隷のように支配したいとの願望を有していた。そこで,家出や自殺願望のある児童であれば簡単に自宅に連れ込めると考えて,ソーシャルネットワーキングサービスのツイッター上でそのような投稿をしているAを見付け,Aとの間でツイッター上でのやり取りを始めた。そして,女子児童を入れるための犬用のケージと拘束具をあらかじめ購入し,飼育成長を記録するためとして,室内にビデオカメラを設置するなどの準備を行った。
 イ Aは,当時13歳の中学生であったが,保護者との折り合いが悪いため,強い家出願望を有していた。しかし,所持金が3万円ほどしかなく,家出して被告人と合流した後は,被告人方に寝泊まりして生活を被告人に頼らざるを得ない状況にあった。Aは,性交の経験がなく,被告人と性交しなければならなくなるのが嫌であり被告人に犯されないか心配しているとか,自宅にいるくらいなら毎日口淫させられることも頑張るが,性交することは困るなどと伝えて,被告人の意図を確認しようとした。これに対し,被告人は,自分の意図を隠し,性交渉を持つつもりはない旨返答して,原判示第5の事実のとおり,Aの誘拐に及んだ。
 ウ 被告人は,平成29年11月16日,Aを誘拐して自宅に連れ込んだ後,入浴を促し,入浴のために裸となったAを,そのまま風呂場から連れ出し,鎖付きの首輪を付けて,ガムテープで後ろ手に両手首を縛って,口淫をさせるとともに性交に及び,膣内に射精し,その際の状況を撮影した(原判示第6の1及び第7の1の事実)。
 エ 被告人は,翌17日,Aの陰毛などの体毛を剃った上,やはり鎖付きの首輪を付けたまま,口淫をさせるとともに性交に及び,膣内に射精し,その際の状況を撮影した(原判示第6の2及び第7の2の事実)。被告人は,Aが首輪を外そうとすると,「Aを飼うために買った。」「悪いことをしたらケージに入れるからね。」などと言い,Aを5日間にわたり寝泊まりさせ,その後も複数回性交等に及んだ。
 (2) このように,被告人は,被告人に対して好意を抱いているわけでもなく,被告人との間で性交等をしたくないと考えていたAに対し,自分の倒錯した性的欲望を満たすだけのために性交等に及んでいる。これが,児童の心身の健全な育成を阻害するおそれがあるものであることは明らかであり,Aの性交等は,「淫行」に該当するといえる。
 また,13歳という年齢や,強い家出願望を有するなどのAの状況からすれば,Aに自分の性行動に関する適切な判断能力がなかったことは明らかである。そして,被告人のAに対する性的行為は,被告人宅に寝泊まりして生活を被告人に頼らざるを得ないAの状況を利用したものである上,特に,原判示第6の1の事実の性交等については,特異な嗜好に基づく強力かつ直接的な態様のものであって,性交経験を有さず,被告人との性交を嫌がっていたAが自律的意思に基づいて応じたとはおよそ考えられないものであった。原判示第6の2の事実の性交等についても,Aが被告人を頼らざるを得ないことなど,その他の状況が変わっていないことや,原判示第6の1の事実の性交等が一旦行われた後のものであることや,それ自体陰毛を剃るなどの特異な嗜好に基づく行為がされていることなどからすれば,Aが自律的意思に基づいて応じたとはおよそ考えられない。以上によれば,本件は,判断能力に乏しい児童を狙って,これを自己の影響下に置き,その影響力を行使して,自己の倒錯した性的欲求を満足させようと計画した被告人が,実際に,その計画に従って,性交等を望んでいなかった児童を自分の影響下に置き,強い影響力を及ぼして,淫行を助長,促進した事案と評価できるのであって,被告人が,Aに「淫行をさせる行為をした」といえることは明らかである。
 したがって,被告人が「児童に淫行をさせる行為」をしたと認定した原判決は相当である。
 (3)ア これに対し,所論は,Aが被告人とのツイッター上のやり取りの中で,家出先で口淫することについては容認していたことや,小学6年生時に自分の裸の画像を見知らぬ者に送信したことがあるなど,不健全な性行動に親和的な生活を送っていたといえるから,被告人の行為が,Aに事実上の影響力を及ぼしてAが淫行をなすことを助長し促進する行為に当たるとはいえない旨主張する。
 しかし,13歳というAの年齢や心身の状態等に照らせば,Aが自分の性行動に関する十分な判断力を有していたとは認められない。前記の淫行に至る動機・経緯や当時のAの状況,被告人とAの関係,淫行に向けて及ぼした影響力の程度や態様等によれば,被告人がAに事実上の影響力を及ぼしてAが淫行をなすことを助長し促進させる行為を行っていたことは明らかである。
 イ 所論は,原判決が認定した最初の淫行は,被告人がAと合流してわずか1時間17分後にされたものであるから,Aが被告人に依存するといった関係性が生じていたとはいえないと主張する。
 しかし,上記のとおり,Aは13歳で,十分な判断力を備えておらず,強い家出願望を有していた。被告人は,このようなAを,安心させて家出をさせ,自宅に連れ込み,Aを被告人に頼らざるを得ない状況の下に置いた上で,前記のとおり,淫行に向けて直接的かつ強力な態様で影響力を及ぼしているのであるから,最初の淫行の時点でも,既にAに事実上の影響力を及ぼして,Aが淫行をなすことを助長し促進させる行為を行っていたといえる。
 (4) 所論の指摘するその他の点を検討しても,原判決に所論のような事実の誤認又は法令適用の誤りはない。論旨は理由がない。
 第3 理由齟齬について
 論旨は,原判決は「罪数に対する判断」の「3 未成年者誘拐罪,児童ポルノ製造罪及び児童福祉法違反の罪の関係について」の項で,「未成年者誘拐罪は,わいせつ目的がないことを前提とする」としながら,「量刑の理由」の項で,「性交等の相手にしようなどと考えて各犯行に及んだ」などとして,わいせつ目的があったことを前提に量刑判断をしており,理由に食い違いがある,というのである。
 しかし,原判決の「罪数に対する判断」の項の上記説示が未成年者誘拐罪の構成要件を説明したにすぎないものであるのに対し,「量刑の理由」の項の上記説示は,被告人が未成年者誘拐に及んだ動機を説明したものであって,両者は趣旨を異にしているから,理由に食い違いはない。論旨は理由がない。
 第4 訴訟手続の法令違反及び法令適用の誤りについて
 論旨は,Aに対する未成年者誘拐の事実(原判示第5の事実),児童に淫行をさせる行為をした事実(同第6の事実)及び児童ポルノを製造した事実(同第7の事実)については,検察官に釈明をするか,訴因変更を促すなどして,未成年者誘拐の事実をわいせつ目的誘拐と認定した上で,かすがい理論により,上記三つの罪を科刑上一罪として処理すべきであったのに,原判決はそのような釈明等をせずに,未成年者誘拐と認定して,いずれも併合罪の関係にあるとしているから,判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反及び法令適用の誤りがある,というのである。
 しかし,検察官が未成年者誘拐として起訴したのに対し,原裁判所が,より法定刑の重いわいせつ目的誘拐に訴因変更するよう促さなかったからといって,これが訴訟手続の法令違反になるとは,およそ考えられない。未成年者誘拐罪の事実を認定した原判決の判断に誤りがあるとはいえない(なお,仮に,論旨が主張するように,誘拐の事実と児童に淫行をさせる行為をした事実と児童ポルノを製造した事実とが科刑上一罪になるという見解に立つとしても,処断刑の下限が重くなり,被告人に不利になるだけで,考慮すべき量刑事情に違いがあるわけではないから,明らかに判決に影響を及ぼすとはいえない。)。論旨は理由がない。
 第5 法令適用の誤りについて
 論旨は,当時18歳に満たない被害者Bや被害者Cに対し,それぞれ,性交又は性交類似行為をして淫行した北海道青少年健全育成条例違反の行為(原判示第1及び第3の事実)と,その際その姿態を撮影し,動画データを記録させて保存した児童ポルノの製造の行為(原判示第2及び第4の事実)は,被告人の1個の行為が2個の罪名に触れる観念的競合として1罪となるのに,原判決は併合罪の関係にあるとしており,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というのである。
 しかし,被害児童と性交又は性交類似行為をして撮影し,これをもって児童ポルノを製造した場合,被告人の上記条例に触れる行為と児童ポルノ法7条4項に触れる行為とは,一部重なる点はあるものの,両行為が通常伴う関係にあるとはいえない。また,両行為の性質等に鑑みると,それぞれにおける行為者の動態は社会的見解上別個のものといえるから,両罪は,刑法54条1項前段の観念的競合の関係にはなく,同法45条前段の併合罪の関係にあるというべきである(児童福祉法の児童に淫行をさせる罪と児童ポルノ製造罪との罪数に係る最高裁判所平成21年10月21日第一小法廷決定刑集63巻8号1070頁を参照。
 なお,仮に,条例違反の行為と児童ポルノ製造の行為とが観念的競合の関係にあり,これを併合罪の関係にあると解することが誤りであるとの立場に立ったとしても,処断刑の範囲や考慮すべき量刑事情に差異を生じさせるものではないから,明らかに判決に影響を及ぼすとはいえない。)。論旨は理由がない。
 第6 量刑不当について
 論旨は,被告人を懲役4年に処した原判決の量刑が重過ぎて不当である,というのである。
 そこで検討すると,本件は,被告人が
①(ア)当時15歳の児童であるBと3回にわたり性交して淫行をし(条例違反。原判示第1の事実),(イ)その際,Bの姿態を撮影して児童ポルノを製造し(同第2の事実),
②(ア)当時16歳(3回目の行為時は17歳)の児童であるCと3回にわたり性交又は性交類似行為をして淫行をし(条例違反。同第3の事実),(イ)その際,Cの姿態を撮影して児童ポルノを製造し(同第4の事実),
③(ア)当時13歳のAを誘拐した(未成年者誘拐。同第5の事実)上,(イ)Aに2回にわたり被告人を相手に性交及び口淫をさせて児童に淫行をさせる行為をし(児童福祉法違反。同第6の事実),(ウ)その際,Aの姿態を撮影して児童ポルノを製造した(同第7の事実)
という事案である。
原判決は,以下の諸事情を考慮して,量刑を行っている。すなわち,被告人は,家出願望のあったAを誘拐し,5日間にわたり被告人方に寝泊まりさせて,複数回性交等に及び,その姿態を撮影した。この一連の犯行は,保護すべき児童を性的に弄んだ卑劣かつ悪質な犯行であり,Aに与えた悪影響は大きい。B及びCに対する各犯行も,出会い系サイトで知り合った後,複数回性交等をし,その姿態を撮影して児童ポルノを製造したものであって,児童らに与えた悪影響は大きい。被告人には厳しい非難が向けられるべきである。他方で,Aに対し100万円とその遅延損害金を供託し,Aとその母に謝罪したことや,反省の態度を示し,性嗜好障害を治療する意向を有していること,親族が監督をする意向を表したこと,同種の前科がないことなどの被告人に有利な事情も認められるので,これらの事情も考慮し,懲役4年に処するのが相当である,というのである。この量刑判断は相当であり,是認できる。
 これに対し,所論は,以下のとおり主張する。すなわち,①Aが被告人方に寝泊まりをしていたのは5日間にすぎないこと,被告人方は,Aが独力で帰宅できる範囲内にあったこと,本件で問題とされたAに対する性交等は2回にすぎないこと,被告人は,100万円及びその遅延損害金をAに対する関係で供託していること,同種前科がないこと,反省し,性嗜好障害の治療を受け,再犯をしない旨誓っていることなどの事情からすると,原判決の量刑は,同種の事案と比較して,重きに失する。②原判決後,被告人が,A及びその親族との間で和解を成立させ,これに基づき上記供託金のほか200万円を支払ったこと,B及びCに対するしょく罪の趣旨で,合計40万円を法律援護基金に寄附したこと,性嗜好障害の通院治療を継続する必要性が認められること,反省を深めたことを考慮すべきである,というのである。
 しかし,①については,原判決も所論指摘の事情を考慮して量刑判断を行っている。被告人がB及びCに対する条例違反及び児童ポルノ製造にも及んでおり,複数の児童に対して同種の行為を常習的に繰り返した点をも踏まえると,原判決の量刑判断が,同種事案と比較して,重過ぎて不当とはいえない。
②については,確かに,当審における事実取調べの結果,Aは親権者である母らと共に,刑事損害賠償命令を申し立てて,被告人に対して損害賠償の請求をしていたところ(その請求額は,証拠上明らかではない。この刑事損害賠償命令申立事件は,原裁判官が担当している。),原判決後の審尋期日において,被告人がAらに対し供託金101万8493円に加えて200万円を支払う旨の和解が成立し,被告人はこれを履行した事実が認められる。
また,被告人がB及びCに対するしょく罪の趣旨で,原判決後に合計40万円寄附した事実も認められる。しかし,Aは被告人に対して刑事損害賠償命令を申し立てていたのであるから,原審の段階で,原判決後に,適当な賠償額で,被告人のAに対する賠償命令が出されるか,あるいは,和解が成立するかが,見込まれていたといえる。また,被告人の伯母であるDの原審証言や被告人の公判供述によれば,被告人がB及びCに対する賠償の趣旨でしょく罪金を支払うことを検討していたことや,被告人には賠償金を支払う資力はないが,伯母や両親の助力で賠償金を用意したことが認められる。そうすると,被告人にとって,Aに対する適当な賠償額で賠償金を支払うことや,B及びCに対するしょく罪の趣旨で寄附をすることは,原審の段階で実現可能であったといえるし,原判決も,原判決後にこれらのことが実現され得る可能性も一定程度踏まえて量刑判断をしたものと思料される。さらに,本件各犯行は児童らの心身の健全な成長や発達を害した犯行であり,各児童,特にAの心身に与えた影響の大きさ等の本件の犯情や各罪の保護法益を考慮すると,原判決後に金銭賠償された事実を量刑上大きく評価することはできない。以上によれば,所論指摘の各事情が認められるとしても,原判決を破棄しなければ明らかに正義に反するとまでは認められない。所論はいずれも採用できず,論旨は理由がない。
 第7 よって,刑事訴訟法396条により,主文のとおり判決する。
  平成30年10月29日
    札幌高等裁判所刑事部
        裁判長裁判官  登石郁朗
           裁判官  瀧岡俊文
           裁判官  深野英一