児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

医師の診療の際の強制わいせつ事件について、1審で示談して100万円弁償したのに加えて、さらに1000万円支払い宥恕を得て、2項破棄で執行猶予にした事例(高松高等裁判所r03.2.18)

 医師免許についての記載がありません。
 医道審議会にかかるかな。

       判   決
 上記の者に対する強制わいせつ被告事件について,令和2年10月6日高知地方裁判所が言い渡した判決に対し,被告人から控訴の申立てがあったので,当裁判所は,検察官岡本安弘及び弁護人谷脇和仁(私選)出席の上審理し,次のとおり判決する。
       主   文
原判決を破棄する。
被告人を懲役年月に処する。
この裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予する。


       理   由

 本件控訴の趣意は,量刑不当の主張であり,刑の執行を猶予すべきであるというのである。
 本件は,精神科の医師である被告人が,患者である被害者(当時28歳)を診察していた際,同人に強いてわいせつな行為をしようと考え,病院の診察室において,同人の両肩付近を両手で押さえ,その両頬や唇にキスをしたという事案である。
 原判決は,本件犯行は,不眠を訴えて精神科の治療を受けている被害者に悪影響を与えかねない悪質なものである上,精神科医として豊富な経験を有する被告人にはこれが容易に想起できるにもかかわらず,後先を考えずに本件犯行に及んだものであって,医師としての良識を甚だ欠いた点でも悪質であること,被害者は,本件犯行により大きな精神的打撃を受け,本件を一つの要因としてPTSDを発症し,精神的苦痛に苛まれていて,被告人の厳重処罰を求めていることを指摘し,被告人が賠償金として100万円を被害者に支払い,被害者の生活圏に接近しないことなどを約束して示談が成立してはいるものの,被害者の精神的打撃に照らすと慰謝の措置が十分とはいえないことも指摘した上で,被告人に前科前歴がないことや,被告人なりに反省の態度を示していることなどを考慮しても,実刑は免れないとし,被告人を懲役1年に処した。
 原判決の量刑事情の認定及び評価は概ね相当ではあるものの,本件のわいせつ行為の程度や被害者と示談が成立したことなどからすれば,原判決の量刑は,同種事案の量刑傾向の中では重い部類に属するとはいえる。しかし,医師である被告人が診察中に患者である被害者にわいせつ行為をしたという本件事案の特殊性に照らすと,被告人の行為責任は重いとみた原判決の量刑が重過ぎて不当であるとまではいえない。
 所論は,本件犯行態様は,被害者の両頬や唇にキスをしたというものであり,わいせつ行為の程度は相対的に軽微であると主張する。しかし,被告人が,精神科医でありながら,精神的な不調を訴えて受診している被害者に与えた悪影響の大きさなどに照らせば,所論の指摘を踏まえても,被告人に対する非難の程度は高いとした原判決の量刑判断が重過ぎて不当であるとまではいえない。
 所論は,被告人と被害者との間で示談が成立し,賠償金が支払われていることを重視すべきであると主張する。しかし,被害者の精神的被害が大きく,処罰感情も厳しいことに照らせば,示談が成立したことなどを過大に評価するのは相当でないとした原判決の量刑判断が誤っているとまではいえない。
 もっとも,原判決後,被告人が被害者に対して,賠償金として支払済みの100万円に加え,更に1000万円を支払い,被害者が被告人を許すことなどを内容とする示談が新たに成立したこと,被告人が反省を深め,贖罪のために生活困窮者の居住支援等を行う法人に土地建物を寄付したことなどが認められる。これらの事情に加えて,同種事案の量刑傾向や前記の被告人のために酌むべき事情を併せ考慮すると、被告人に対しては,直ちに実刑に処するのではなく,社会内で更生する機会を与えることが相当になったといえる。
 そこで,刑訴法397条2項により原判決を破棄し,同法400条ただし書を適用して,被告事件について更に次のとおり判決する。 
 原判決の認定した罪となるべき事実に原判決挙示の法令を適用し,その所定刑期の範囲内で被告人を懲役1年6月に処し,情状により刑法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予することとして主文のとおり判決する。
令和3年2月18日
高松高等裁判所第1部
裁判長裁判官 杉山愼治 裁判官 安達拓 裁判官 井草健太

第2記載の画像データ等を所持していることを利用して、Bに新たに陰部等が撮影された画像データを自己の携帯電話機に送信させようと考え脅迫して 新たな画像データの送付を要求したという強要未遂事件(山形地裁R030512)


 強制わいせつ未遂もあり得るところですが、未遂なので、性的意味合いとかその程度がわかりませんね。強要未遂罪との境界線事例では、強要未遂に落ちちゃいますね。

令和3年5月12日/山形地方裁判所刑事部/判決

判例ID 28292002
事件名 わいせつ誘拐(変更後の罪名わいせつ略取誘拐)、強制性交等未遂、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反、強要未遂被告事件
D1-Law.com判例体系

 上記の者に対するわいせつ誘拐(変更後の罪名わいせつ略取誘拐)、強制性交等未遂、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反、強要未遂被告事件について、当裁判所は、検察官沖佑里乃及び主任弁護人菅原睦月(私選)各出席の上審理し、次のとおり判決する。

理由
(罪となるべき事実)
 被告人は、

第2 ●●●(当時13歳。以下「B」という。)が18歳に満たない児童であることを知りながら、同年8月5日午後零時2分頃から同日午後零時33分頃までの間、●●●のB方において、Bにその陰部、肛門及び乳房を露出させた姿態をとらせ、これをBが使用する携帯電話機で静止画像として撮影させた上、その頃、同画像データ4点を同携帯電話機からアプリケーションソフト「D」を使用して被告人が使用する携帯電話機に送信させ、その頃、宮城県内において、同画像データ4点を同携帯電話機で受信して同携帯電話機の内蔵記録装置に記録させて保存し、もって衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写した児童ポルノを製造した。

第3 第2記載の画像データ等を所持していることを利用して、Bに新たに陰部等が撮影された画像データを自己の携帯電話機に送信させようと考え、同日午後零時34分頃から同月14日午後3時3分頃までの間、宮城県内又はその周辺において、Bに対し、自己の携帯電話機から前記「D」を使用して、Bが利用する携帯電話機に「まんこもっと見たいです」、「のせてい?」、「いんたーねっつ」、「えーじゃもうのせちゃうね?」、「顔つきならいいよ」、「反応ないなら載せるね」、「番号付きで載せるね」、「広めるね」などのメッセージを送信して新たな画像データの送付を要求し、その頃、Bにこれらを閲覧させ、その要求に応じなければ被告人が所持する前記第2記載の画像データ等をインターネット上に拡散するなどしてBの名誉に対し害を加えかねない旨告知してBを脅迫し、Bに義務のないことを行わせようとしたが、Bがその要求に応じなかったため、その目的を遂げなかった。
(求刑 懲役5年)
刑事部
 (裁判長裁判官 今井理 裁判官 土倉健太 裁判官 佐藤元

監護者わいせつ罪と4項製造罪を観念的競合にした事例(千葉地裁R03.5.28)

 sexting事例では「撮影させ」までがわいせつ行為だとする東京高裁判例がありますので、「その陰部等を露出する姿態をとらせ、その姿態を、携帯電話機のカメラ機能を用いて撮影し、その画像データ15点を同携帯電話機に内蔵又は接続された電磁的記録媒体に記録して保存し、もってAを現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて、同人に対し、わいせつな行為をするとともに」のうちの「その画像データ15点を同携帯電話機に内蔵又は接続された電磁的記録媒体に記録して保存し、」はわいせつ行為ではないことになるのでは。

千葉地方裁判所令和03年05月28日
 上記の者に対する監護者性交等、監護者わいせつ、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件について、当裁判所は、検察官竹生田哲郎及び国選弁護人宇藤和彦各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文
理由
(罪となるべき事実)
 被告人は、平成18年12月22日に養子縁組した●●●A●●●と、遅くともその頃から令和元年5月10日頃までの間、同居してその寝食の世話をし、その指導・監督をするなどして、同人を現に監護していた者であるが、
第1の1 Aが18歳未満の者であることを知りながら、同人と性交等をしようと考え、平成29年8月27日午後9時36分頃から同日午後9時53分頃までの間、●●●当時の被告人方●●●において、A(当時15歳)と口腔性交及び性交をし、もって同人を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて同人と性交等をし、
 2 Aが18歳に満たない児童であることを知りながら、前記日時場所において、同人に、被告人と性交する姿態及びその陰部等を露出する姿態をとらせ、その姿態を、携帯電話機のカメラ機能を用いて撮影し、その画像データ104点を同携帯電話機に内蔵又は接続された電磁的記録媒体に記録して保存し、もって児童を相手方とする性交に係る児童の姿態及び衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを、いずれも視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録に係る記録媒体である児童ポルノを製造し、
第2の1 Aが18歳未満の者であることを知りながら、同人と性交をしようと考え、令和元年5月5日午後零時58分頃から同日午後1時9分頃までの間、被告人方において、A(当時16歳)と性交をし、もって同人を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて同人と性交をし、
 2 Aが18歳に満たない児童であることを知りながら、同日午後零時36分頃から同日午後1時13分頃までの間、被告人方において、Aに、被告人と性交する姿態及びその陰部等を露出する姿態をとらせ、その姿態を、携帯電話機のカメラ機能を用いて撮影し、その画像データ113点を同携帯電話機に内蔵又は接続された電磁的記録媒体に記録して保存し、もって児童を相手方とする性交に係る児童の姿態及び衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを、いずれも視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録に係る記録媒体である児童ポルノを製造し、
第3 Aが18歳に満たない児童であることを知りながら、同人にわいせつな行為をしようと考え、同月9日午後6時23分頃から同日午後6時26分頃までの間、●●●橋において、A(当時16歳)に、その陰部等を露出する姿態をとらせ、その姿態を、携帯電話機のカメラ機能を用いて撮影し、その画像データ15点を同携帯電話機に内蔵又は接続された電磁的記録媒体に記録して保存し、もってAを現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて、同人に対し、わいせつな行為をするとともに、衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録に係る記録媒体である児童ポルノを製造し、
第4 Aが18歳未満の者であることを知りながら、同人と性交等をしようと考え、同日午後6時36分頃から同日午後8時26分頃までの間に、●●●に駐車中の自動車内において、同人(当時16歳)と口腔性交及び性交をし、もって同人を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて同人と性交等をした。
(証拠の標目)
(事実認定の補足説明)
 1 本件の争点
 被告人は、判示第1の1記載の行為の日時に関する点を除き、判示各事実に係る性交等、わいせつ行為及び児童ポルノに当たる写真の撮影行為自体を行ったことは認めている。しかし、被告人は、〈1〉判示第2の1記載の性交及び判示第4記載の性交等は、いずれもAの方から誘われて行ったものであり、判示第3記載のわいせつ行為の内容をなす撮影行為は、Aが自らスカートをまくるなどしたために行ったもので、これらをはじめとして本件各監護者性交等(判示第1の1、第2の1及び第4)並びに監護者わいせつ(判示第3)の各事実については、いずれも「現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて」行ってはいない旨述べる。また、〈2〉本件各児童ポルノ製造罪(判示第1の2、第2の2及び第3)についても、写真を撮る際にAに対してポーズをとるように指示したことはなく、Aに「姿態をとらせ」てはいないと供述する。
 そして、弁護人においても、上記被告人の供述に依拠し、〈1〉については、Aは、被告人と性交等やわいせつな行為をすることについて自ら望んでおり、少なくともAの性的自己決定権に反しないものであるから、「監護者の影響力があることに乗じて」行われたとは認められないとし、〈2〉については、被告人がAに指示して当該姿態をとるように強制したものではないから、「姿態をとらせ」には当たらないとして、被告人はいずれの犯行についても無罪であると主張する。
 2 争点〈1〉について
 (1) 刑法179条の法意及び解釈
 しかし、刑法179条が定める監護者性交等罪及び監護者わいせつ罪は、18歳未満の者は、精神的に未熟である上、生活全般にわたって自己を監督し保護している監護者に精神的・経済的に依存しているところ、監護者が、そのような依存・被依存ないし保護・被保護の関係により生ずる監護者であることによる影響力があることに乗じて、18歳未満の者に対し、わいせつな行為や性交等をすることは、強制性交等罪等と同じく、これらの者の性的自由ないし性的自己決定権を侵害するものであることから、このような行為類型については、暴行・脅迫が用いられず、また、抗拒不能等に当たらないとしても、強制わいせつ罪、強制性交等罪等と同等の悪質性・当罰性が認められるとして設けられた犯罪類型である。したがって、ここにいう「現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて」とは、監護者の影響力が一般的に存在し、かつ、当該行為時においてもその影響力を及ぼしている状態で性交等又はわいせつな行為をしたと認められれば足りるのであって、具体的な性交等又はわいせつな行為が、監護者の影響力と無関係に行われたと認められるような特別な事情がある場合のみが除かれる、というべきである。そして、性交等やわいせつな行為に及ぶ特定の場面において、監護者の影響力を利用するための具体的な行為を行う必要がないのはもちろん、18歳未満の者が監護者との性交等やわいせつな行為に応じるなど、その承諾があったとしても、さらには監護者との性交等やわいせつな行為を自ら求めたような場合であっても、その意思決定は、精神的に未熟で判断能力に乏しい18歳未満の者に対して、前記のような監護者の影響力が作用してなされたものとみるべきであって、被監護者の自由な意思決定ということはできないから、およそ監護者性交等罪や監護者わいせつ罪の成否を左右するものではないと解される。
 (2) 認定事実と評価
 ア 関係証拠によれば、被告人は、平成18年11月にAの実母と婚姻し、同年12月に当時4歳であったAとも養子縁組を行ってAの養父となったこと、そして、被告人は、遅くともその頃からAが警察に被害申告をした令和元年5月10日頃までの間、自宅でAと同居し、稼働した収入でAを含む家族の生計を支え、Aを学校に通わせ、その生活態度を注意するなどしてAを養育、監督、保護していたこと、このような関係下で、被告人は、Aと判示第1の1、第2の1及び第4各記載の性交等に及び、また、判示第3記載のわいせつな行為をしたものであることが明らかである。
 被告人は、上記性交等やわいせつ行為の時点において、法律上も事実上もAを「現に監護する者」であったことに加えて、当時まだ15歳から16歳であったAが幼少期から文字どおり生活全般を全面的に依存してきた存在であったのであり、このような被告人が、Aの意思決定に対し、物心両面から一般的かつ継続的に作用を及ぼし得る力を有していたことは明らかであり、Aが精神面で年齢相応の成長を遂げていたとしても、このような影響力の程度はなお圧倒的なものといってよいものであったと認められる。
 イ してみると、被告人が述べ、弁護人が主張するような事情が仮に認められるとしても、そこでAがとったとされる言動や態度自体が、上述のような監護者としての被告人の影響力が作用して導かれたものにほかならないというべきである。よって、前示のような監護者性交等罪や監護者わいせつ罪の法意との関係でその成立を妨げるような事情と評価することはできず、また、そこに法益主体の自律的な意思決定を観念すべきでない以上、犯情としても有意なものと評価すべきではなく、主張自体が失当に帰する。他に上記性交等やわいせつ行為について監護者としての影響力が遮断されていたと評すべき特段の事情も見当たらない。したがって、被告人がAに対してした上記性交等やわいせつの各行為は、「現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて」敢行されたものとして、各判示のとおりの監護者性交等罪又は監護者わいせつ罪を構成することに疑いはない。
 ウ なお、被告人は、判示第1の1記載の犯行について行為の日時を争うが、当該行為を撮影した画像データの撮影日時に関する情報等に照らせば、判示第1の1記載の日時に行われたものと認定でき、これに疑いを入れるべき事情は見当たらない。
 3 争点〈2〉について
 (1) 次に、いわゆる児童ポルノ製造の罪における「(児童に)姿態をとらせ」とは、行為者の言動等により当該児童が当該姿態をとるに至ったことで足り、それ以上に強制や具体的又は明示的な指示等の働きかけを要するものではない。
 (2) これを本件についてみると、判示第1の2及び第2の2記載の各児童ポルノ画像は、同第1の1及び第2の1の各監護者性交等に係る被告人がAと性交等を行っている様子やその前後にAが陰部等を露出している様子などをAの面前で撮影したものであり、また、判示第3記載の児童ポルノ画像も、Aが歩道橋の階段部分に座って陰部等を露出している姿態に被告人が携帯電話機のカメラを向けて撮影したことそのものが、同様に監護者わいせつ行為を構成するものである。すなわち、本件各児童ポルノ画像におけるAの姿態は、いずれも被告人がAに対して敢行した監護者性交等や監護者わいせつの各行為及びその機会に、Aがとった姿態にほかならない。そうである以上、そのこと自体において、被告人が児童であるAに前記(1)の意味で「姿態をとらせ」たものであることは自明である(なお、この評価は、監護者としての影響力に乗じたという側面からも導き得るが、それ以前に、被告人がAに対してした各性交等やわいせつな行為を撮影したということ自体に包含される当然の帰結というべきものである。)。
 したがって、各判示の児童ポルノ製造の事実に疑いを入れる余地はなく、強制や明示的な指示の存在を否定することによって、姿態をとらせたことを争う被告人及び弁護人の主張は、ここでも失当である。
 4 補足
 判示各事実の認定に必要な証拠説明は、以上に尽きるが、後述の量刑判断における犯情事実の認定・評価の前提となるため、A及び被告人の各公判供述の信用性について触れておく。
(法令の適用)
 罰条
  判示第1の1、第2の1及び第4の各所為
  いずれも刑法179条2項、177条前段
  判示第1の2及び第2の2の各所為
  いずれもそれぞれ包括して児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(以下「児童買春法」という。)7条4項、2項、2条3項1号、3号
  判示第3の所為
  監護者わいせつの点につき刑法179条1項、176条前段、児童ポルノ製造の点につき包括して児童買春法7条4項、2項、2条3項3号
 科刑上一罪の処理
  判示第3について 刑法54条1項前段、10条(重い監護者わいせつ罪の刑で処断)
 刑種の選択
  判示第1の2及び第2の2の各罪について いずれも所定刑中懲役刑を選択
 併合罪の処理 刑法45条前段、47条本文、10条(刑及び犯情の最も重い判示第4の罪の刑に法定の加重)
 未決勾留日数の算入 刑法21条
 訴訟費用の不負担 刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
刑事第5部
 (裁判長裁判官 前田巌 裁判官 安重育巧美 裁判官 井上寛基)

かすがい現象により女児2名に対するわいせつ略取,逮捕,強制性交を科刑上一罪とした事例(岐阜地裁r030416)

 かすがい現象

裁判年月日 令和 3年 4月16日 裁判所名 岐阜地裁 裁判区分 判決
事件番号 令2(わ)527号
事件名 わいせつ略取,逮捕,強制性交等被告事件
文献番号 2021WLJPCA04166002

 上記の者に対するわいせつ略取,逮捕,強制性交等被告事件について,当裁判所は,検察官髙橋葵,弁護人(私選,主任)庄司友哉各出席の上審理し,次のとおり判決する。 
主文
 被告人を懲役11年に処する。
 未決勾留日数中110日をその刑に算入する。
 
 
理由

 【罪となるべき事実】
 被告人は,通行中のA(当時10歳●●●)及びB(当時10歳●●●)がいずれも13歳未満であることを知りながら,同人らと強制的に性交等をしようと考え,令和2年4月27日午後2時35分頃,岐阜県内において,同人らに対し,手に持った折りたたみナイフの刃を出して示し,「殺されたくなければこっちに来い。」「言うことを聞いてくれたらけがも何もない。」などと言って脅迫し,同人らを同所から約121メートル先の山林内の空き地に連行し,同所において,同人らの片手にそれぞれ手錠の片輪を掛けて互いを結束させるなどの暴行を加え,不法に逮捕するとともに,同人らを自己の支配下に置き,もってわいせつ目的で前記A及び前記Bを略取し,その頃から同日午後5時頃までの間,同所において,同人らの反抗を抑圧した上,着衣等を脱がせて全裸にさせ,順次,同人らの胸及び陰部を手で触り,なめるなどし,自己の陰茎を前記A及び前記Bの陰部に押しつけて挿入しようとするも,同人らの性器が未発達ゆえに性交するには至らず,同人らの口の中にそれぞれ自己の陰茎を挿入し,同人らと口腔性交した。
 【法令の適用】
 罰条 AとBに対する各逮捕の点はいずれも刑法220条,各わいせつ略取の点はいずれも同法225条,各強制性交等の点はいずれも同法177条
 科刑上1罪の処理 刑法54条1項前段,後段,10条(Aに対する逮捕とわいせつ略取,Bに対する逮捕とわいせつ略取,AとBに対する各逮捕,AとBに対する各わいせつ略取は1個の行為が2個の罪名に触れる。AとBに対する各逮捕・わいせつ略取と強制性交等の間には手段結果の関係がある。結局以上を1罪として刑及び犯情の最も重いA又はBに対する強制性交等罪[AとBに対する各同罪の犯情に軽重はない]の刑で処断)
 未決勾留日数の算入 刑法21条
 【量刑の理由】
 女児2名(いずれも当時10歳)に対するわいせつ略取,逮捕,強制性交等である。公園で遊んでいた女児2名に対し,折りたたみナイフの刃を出して示すなどして脅し,人気のない空き地に連行して手錠をかけるなどし,略取,逮捕して行動の自由を奪った。そして,同人らを全裸にし,胸や陰部を触ったりなめたりした上,陰茎を陰部に押し付けて性交しようとしたが性交に至らず,口腔性交して陰部付近に精液をかけるなどした。2時間余にわたり,執ように種々性的暴行を加えた。さらに,被害状況を動画撮影し,犯行後他言したらネットに上げるなどと言って口止めした。誠に凶悪,卑劣な犯行である。性的自由侵害の程度は極めて強い。幼い女児に被らせた身体的・精神的苦痛は計り知れず,将来にわたる悪影響も懸念される。被害弁償や慰謝の措置は講じられていない。自己の性欲を満たすためにした誠に身勝手な犯行というほかない。あらかじめ折りたたみナイフ,手錠等を用意し,現場を下見し,標的とする女児を物色するなどして計画的に敢行した。厳しい非難が向けられるべきである。
。。。
本件の犯情は極めて悪く,強制性交等の事例の中で最も重い部類に位置付けられる。
 (求刑 懲役14年)
 岐阜地方裁判所刑事部
 (裁判長裁判官 出口博章 裁判官 堀田喜公衣 裁判官 金子隼人)

成人女性と共に青少年と淫行した青少年条例違反事案・児童が成人女性の乳首をなめる姿態を2号ポルノとした事例(宇都宮地裁R03.3.31)

成人女性と共に青少年と淫行した青少年条例違反事案・児童が成人女性の乳首をなめる姿態を2号ポルノとした事例(宇都宮地裁R03.3.31)
 「児童」と「青少年」の定義は違うので、「C(以下「C」という。)(当時13歳)が18歳に満たない児童であることを知りながら,」という年齢認識では青少年条例違反の故意としては足りません。

裁判年月日 令和 3年 3月31日 裁判所名 宇都宮地裁 裁判区分 判決
事件名 栃木県青少年健全育成条例違反、児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件
文献番号 2021WLJPCA03316002


第3 C(以下「C」という。)(当時13歳)が18歳に満たない児童であることを知りながら,
1平成30年6月3日午前10時20分頃から同日午後1時7分頃までの間,宇都宮市〈以下省略〉bホテル(以下「bホテル」という。)212号室において,単に自己の性的欲望を満たすために,情を知らないD(以下「成人女性」という。)(当時26歳)と共にCと性交するなどし,もって青少年に対し,いん行をした。
2前記第3の1記載の日時場所において,Cに,被告人の陰茎を口淫する姿態,被告人がCの陰部を手淫する姿態,成人女性の乳首をなめる姿態をとらせ,これを被告人が使用する動画撮影機能付きスマートフォンで撮影し,平成30年6月9日頃,a町の被告人方において,その動画データ3点を電磁的記録媒体であるマイクロSDカードに記録させて保存し,もって児童を相手方とする性交類似行為に係る児童の姿態,児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録に係る記録媒体である児童ポルノを製造した。


法令適用
第3の2の行為 児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条4項,2項,2条3項1号,2号

13歳未満に触って撮った場合は強制わいせつ罪(176条後段)と製造罪の併合罪になって、メール等で頼んで裸画像を撮影させた場合は、観念的競合になる (大阪高裁R03.7.14)

 13歳未満に触って撮った場合は強制わいせつ罪(176条後段)と製造罪の併合罪になって、メール等で頼んで裸画像を撮影させた場合は、観念的競合になる(大阪高裁R03.7.14)
 観念的競合になる場合があるようですね。
 「一個の行為とは、法的評価を離れ、構成要件的観点を捨象した自然的観察の下で、行為者の動態が社会的見解上一個のものと評価される場合をいう。(最大判昭49・5・29刑集二八━四━一一四)」という判例に従って、構成要件的観点を捨象した自然的観察の下で2個の行為になるというと、触って撮るという強制わいせつ罪(176条後段)も2個になっちゃいますよね。
 執行刑期は求刑の半分になりました。
 強制わいせつ罪(176条後段)で起訴されたのは「撮影させ」させまでで「わいせつ」とされています。(送信させ・受信しというのはわいせつにならないという東京高裁判決がある)
 わいせつの認定方法について新判断が出ていますが、えげつない表現があるので掲載できません。京都府警・京都地検に問い合わせて下さい。

阪高裁令和3年7月4日
判決
第1 原判決の認定事実
2なお,前記(3)は,Aに対し,前記機能を使用して,その陰部,乳房等を露出した姿態をとって撮影して被告人のスマートフォンに送信するよう要求し,Aにそのような姿態をとらせてそれを撮影させたという強制わいせつの事実(令和年月日付け起訴状記載の公訴事実第1)と,同要求をし,Aにそのような姿態をとらせてそれを撮影させた上,その画像データ2点を被告人のスマートフォンに送信させて前記サーバコンピュータ内に記憶・蔵置させたという児童ポルノ製造の事実(同公訴事実第2・原審第3回公判期日において令和年月日付け訴因変更請求書のとおり訴因変更許可決定)として別個の訴因で起訴され,検察官は併合罪の関係にあると主張したが,原判決が観念的競合の関係にあると判断したものである。
。。。
第2 当裁判所の判断
2第1事実及び第3事実の理由不備・法令適用の誤りの論旨について
所論は,原判決は刑法176条にいう「わいせつな行為」について定義を示せていないから,理由不備があり,また,同条は罪刑法定主義に反していて文面上無効であるにもかかわらず,原判決は第1事実及び第3事実について同条を適用したのであるから,法令適用の誤りがあると主張する。
しかし,法規には通常ある程度の解釈の余地が含まれるものである。
そして,「わいせつな行為」という言葉は一般的な社会通念に照らせばある程度の具体的なイメージを持つことができ,また,あえて別の言葉で定義付けすること自体困難である上,定義付けしても,それで,いわゆる規範的要件である「わいせつな行為」への該当性判断が直ちに容易になるとも思われない。
「わいせつな行為」に該当するか否かを安定的に判断するには,後記3(1)のとおり,どのような考慮要素をどのような判断基準で判断していくべきなのかという判断の仕方こそが重要であるといえ,定義付けが必須とはいえない。
刑法176条の「わいせつな行為」について定義を示せていないから原判決には理由不備があるとか,同条は罪刑法定主義に反していて文面上無効であるなどというのは,独自の見解であって採用の限りではなく,第1事実及び第3事実について理由不備や法令適用の誤りがあるとはいえない。
3第3事実の法令適用の誤り(「わいせつな行為」該当性)の論旨について
・・・
しかし,まず,刑法176条の「わいせつな行為」に当たるか否かの判断を行うためには,行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度を十分に踏まえた上で,事案によっては,当該行為が行われた際の具体的状況等の諸般の事情をも総合考慮し,社会通念に照らし,当該行為に性的な意味があるといえるか否かや,その性的な意味合いの強さを具体的事実関係に基づいて判断するのが相当である(最高裁平成29年11月29日大法廷判決・刑集71巻9号467頁参照。)。
これを踏まえて検討すると,本件行為は・・・
・・・・


4 第1事実及び第2事実の法令適用の誤り(罪数),の論旨について
所論は,第1事実の各強制わいせつ罪及び第2事実の各児童ポルノ製造罪(児童ポルノ法7条4項のもの。以下同じ。)の関係について,同一機会の犯行に係る強制わいせつ罪と児童ポルノ製造罪は,重なり合うものであり,社会的見解上1個の行為と評価すべきであるから,刑法54条1項前段の観念的競合の関係にあるのに,同法45条前段の併合罪の関係にあるとした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあると主張する。
しかし,本件のように児童の陰部等を触るなどのわいせつな行為をするとともに,その行為等を撮影して児童ポルノを製造した場合,わいせつな行為と児童ポルノを製造した行為とは,かなりの部分で重なり合っていることもあるが,通常伴う関係にあるとはいえない上,強制わいせつ罪では児童の陰部を触るなどのわいせつな行為を行ったという側面から犯罪とされているのに対し,児童ポルノ製造罪ではそのような児童の姿態を撮影して記録・保存する行為を行ったという側面から犯罪とされているのであって,それぞれの行為は社会的評価としても別個のものといえる。
原判決は,これと同様の理由で,第1事実の各強制わいせつ罪と,それと同一機会における第2事実の各児童ポルノ製造罪をいずれも併合罪の関係にあるとしたものと解され,原判決の法令適用に誤りはなく,論旨は理由がない。
5 理由齟齬の論旨について
所論は,強制わいせつ罪と児童ポルノ製造罪の関係について,原判決が,第1及び第2事実の両罪を併合罪の関係にあるとしながら,第3事実の両罪を観念的競合とした点に理由齟齬があると主張する。
しかし,原判決は,第1及び第2事実の両罪と,第3事実の両罪とでは,強制わいせつ行為の内容・性質が大きく異なることなどを理由に,両罪の関係について異なる判断をしたものと解されるから,理由に齟齬があるとはいえない。

カナダ国における強制わいせつ罪(176条後段)・姿態をとらせて製造罪(7条4項)につき、国外犯規定を挙げていないもの(千葉地裁r03.3.22)

カナダ国における強制わいせつ罪(176条後段)・姿態をとらせて製造罪(7条4項)につき、国外犯規定を挙げていないもの(千葉地裁r03.3.22)

刑法第三条(国民の国外犯)
 この法律は、日本国外において次に掲げる罪を犯した日本国民に適用する。
五 第百七十六条から第百八十一条まで(強制わいせつ、強制性交等、準強制わいせつ及び準強制性交等、監護者わいせつ及び監護者性交等、未遂罪、強制わいせつ等致死傷)及び第百八十四条(重婚)の罪

児童ポルノ・児童買春法第一〇条(国民の国外犯)
 第四条から第六条まで、第七条第一項から第七項まで並びに第八条第一項及び第三項(同条第一項に係る部分に限る。)の罪は、刑法(明治四十年法律第四十五号)第三条の例に従う。

裁判年月日  令和 3年 3月22日  裁判所名  千葉地裁  裁判区分  判決
事件番号  令2(わ)1990号・令2(わ)2193号
事件名  強制わいせつ,児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件
文献番号  2021WLJPCA03226004
エストロー・ジャパン
 上記の者に対する強制わいせつ,児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件について,当裁判所は,検察官西岡理世並びに弁護人(私選)石川浩一郎(主任)及び同拝師徳彦各出席の上審理し,次のとおり判決する。
 (罪となるべき事実)
 被告人は,
 第1  A(●●●当時8歳。以下「A」という。)が13歳未満であることを知りながら,平成29年6月27日午後5時8分頃から同日午後5時30分頃までの間(現地時間),留学中の寄宿先であったカナダ国ブリティッシュコロンビア州〈以下省略〉のA方(以下「A方」という。)において,Aに対し,その陰部にバイブレーション機能により振動させた携帯電話機を押し当て,さらに,その陰茎を手淫するなどし,もって13歳未満の男子に対してわいせつな行為をした。(令和3年1月8日付け訴因等変更請求書による訴因変更後の令和2年12月22日付け起訴状記載の公訴事実第1)
 第2  A(当時9歳)が13歳未満であることを知りながら,同年10月14日午後3時31分頃から同日午後4時22分頃までの間(現地時間),A方において,Aに対し,その陰茎を手淫するなどし,もって13歳未満の者に対してわいせつな行為をした。(令和2年12月1日付け起訴状記載の公訴事実第1)
 第3  第2記載の日時・場所において,A(当時9歳)に対し,被告人がその陰茎を手淫するなどの姿態をとらせ,その姿態を動画撮影機能付き携帯電話機で撮影した上,その頃から同年12月26日頃までの間(現地時間)に,A方において,その動画データ2点をパーソナルコンピュータに内蔵されたハードディスクに記録させて保存し,もって児童を相手方とする性交類似行為に係る児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録に係る記録媒体である児童ポルノを製造した。(令和2年12月1日付け起訴状記載の公訴事実第2)
 第4  A(当時9歳)が13歳未満であることを知りながら,同年10月19日午後3時27分頃から同日午後4時9分頃までの間(現地時間),A方において,Aに対し,その下着を引き下げて陰部や臀部を露出させ,その臀部を触り,さらに,その陰茎を手淫するなどし,もって13歳未満の者に対してわいせつな行為をした。(令和2年12月1日付け起訴状記載の公訴事実第3)
第5~9 省略

 (法令の適用)
 被告人の判示第1の所為は平成29年法律第72号附則2条1項により同法による改正前の刑法176条後段に,判示第2及び第4の各所為はいずれも刑法176条後段に,判示第3の所為は児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条4項,2項,2条3項1号に,判示第5,第7及び第8の各所為はいずれも同法7条4項,2項,2条3項3号に,判示第6及び第9の各所為はいずれも同法7条2項後段,前段,2条3項1号にそれぞれ該当するところ,
判示第3及び第5ないし第9の各罪について各所定刑中いずれも懲役刑を選択し,以上は刑法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により刑及び犯情の最も重い判示第4の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役3年に処し,情状により同法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から4年間その刑の全部の執行を猶予し,なお同法25条の2第1項前段を適用して被告人をその猶予の期間中保護観察に付することとする。
 千葉地方裁判所刑事第4部
 (裁判官 谷口吉伸)

脅して裸を撮影・送信等させるという送信型強制わいせつ行為(不同意わいせつ)について、「わいせつ」と評価されるのは、「撮影させ」までか、「撮影・送信させ」までか、「撮影・送信させ受信し」までか

 わいせつ性も問題になっていますが、どの範囲までが「わいせつ」なのかについて裁判例もブレています。
 高裁判例(広島高裁岡山支部H22.12.1・東京高裁h28.2.19)は、「撮影させ」までがわいせつ行為で、送信・受信を含むと強要罪になるとされていますが、強要被告事件で、強制わいせつ罪(告訴無し・公訴棄却)だと主張する弁護人の屁理屈主張に対して、無理から強要罪と区別するために筆が滑った詭弁です。
 個人的には送信・受信までを認定しないと、犯人の性的意図が明らかにならないと思います。今流行の、性的意味合い論でも犯人が受信してないと性的意味合いが明らかじゃないと思います。

東京地裁H18.3.24 撮影・送信させ受信して
大分地裁H23.5.11 撮影・送信させ
東京地裁H27.12.15 撮影・送信させ
高松地裁H28.6.2 撮影・送信させ
横浜地裁H28.11.10 撮影・送信させ
松山地裁西条H29.1.16 撮影・送信させ
高松地裁丸亀H29.5.2 撮影させ
岡山地裁H29.7.25 撮影・送信させ
札幌地裁H29.8.15 撮影させ
札幌地裁H30.3.8 撮影させ
東京地裁H31.1.31 撮影させ
長崎地裁R1.9.17 撮影・送信させ
高松地裁丸亀R2.9.18 撮影させ
熊本地裁R3.1.13不明
京都地裁R3.1.21 撮影させ
京都地裁R3.2.3 撮影・送信させ受信し

 公開されているのは、長崎地裁R01.9.17 岡山地裁h29.7.25だけですが、送信が起訴されています。事実関係が争われていますが、送信はわいせつ行為ではないという高裁判例(広島高裁岡山支部H22.12.1・東京高裁h28.2.19)に抵触しているので、控訴すれば破棄されたと思われます。

D1-Law.com判例体系
■28274224
長崎地方裁判所
令和01年09月17日
理由
以下、匿名表記した被害者氏名は別紙のとおりである。
(犯罪事実)
第1 被告人は、A(当時16歳)から入手した同人の画像データ等を利用して強いてわいせつな行為をしようと考え、平成30年10月26日午後10時6分頃から同月27日午前2時21分頃までの間に、D市内又はその周辺において、自己の携帯電話機及びタブレットから、同人が使用する携帯電話機に、アプリケーションソフト「E」の通話機能及びビデオ通話機能を利用して通信し、D市内にいた同人に対し、「写真を援助交際サイトに載せる。」「学校や家の近くに何人かの人が来る。」「連れていかれたことがある。」などと脅迫し、もしこの要求に応じなければAの自由や名誉等にいかなる危害を加えるかもしれない旨畏怖させ、その反抗を著しく困難にし、ビデオ通話機能を通じて、同人に胸や陰部を露出した姿態及び陰部を指で触るなどした姿態をとるよう指示し、同人にそれをさせた上、その姿態の映像を前記ビデオ通話機能を用いて被告人の携帯電話機に送信させ、もって強いてわいせつな行為をした。

裁判年月日 平成29年 7月25日 裁判所名 岡山地裁 裁判区分 判決
事件名 児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反,強制わいせつ,組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反被告事件
文献番号 2017WLJPCA07256001
 (罪となるべき事実)
 被告人は,
第1 A関係
 1(平成28年9月9日付け追起訴状記載の公訴事実第1)
 スマートフォンのゲームアプリを通じて知り合ったA(当時11歳。以下「A」という)に強いてわいせつな行為をしようと考え,平成26年9月13日頃から同月21日頃までの間に,大阪市〈以下省略〉被告人方において,Aに対し,被告人が使用するスマートフォン(平成29年岡地領第188号符号3,5)からAが使用するスマートフォンにアプリケーションソフト「LINE」を通じて,「B」を名乗る第三者を装い,Aが「C」を名乗る被告人を怒らせた旨及び「あなたが天誅リストに載っています。」「学校や家にあることないこと言われる。」「実際に学校にも来られる。」「その結果,学校に行けなくなる。」等のメッセージを送信し,さらに「C」を名乗り,「今頃きてなにいってんねんな」「天罰な」「後悔すればいいわ」「おまえがエッチ以外は何でもするって言ったんやろ」等のメッセージを送信して脅迫し,その反抗を著しく困難にした上,その乳房,陰部等を露出した姿態及びその陰部を指で開いた姿態をとり,スマートフォンに送信するよう要求し,同年9月21日頃から同年10月17日頃までの間に,20回にわたり,●●●内のA方において,Aに,衣服を脱いでその乳房,陰部等を露出した姿態及び全裸で陰部を指で開くなどした姿態をとらせ,Aが使用するスマートフォン付属のカメラでその姿態を撮影させ,別表1記載のとおり,同年9月21日から同年10月17日までの間に,16回にわたり,その画像データ合計20点をAが使用するスマートフォンから被告人が使用するスマートフォンに「LINE」を利用して送信させ,もって,強いてわいせつな行為をし,

京都地裁R3.2.3
第3 被告人は,■■■■■(当時13歳未満,以下「A」ともいう。)が13歳未満であることを知りながら,Aにわいせつな行為をしようと考え,令和年月日午前時分頃から同日午前時分頃までの間,所在の被告人方において,Aに対し,被告人が使用するスマートフォンからAが使用するタブレット端末に,アプリケーションソフト「」のダイレクトメッセージ機能を使用して,陰部,乳房等を露出した姿態をとって撮影し,被告人が使用するスマートフォンに送信するよう要求し,その頃,回にわたり,県内のA方において,Aに,陰部,乳房等を露出した姿態をとらせ,これをAが使用する前記タブレット端末で撮影させた上,同画像データ2点を,前記「」のダイレクトメッセージ機能を使用して,同タブレット端末から被告人が使用する前記スマートフォンに送信させ,その頃,同画像データ点を,場所不詳に設置された「」社が管理するサーバコンピュータ内に記憶・蔵置させ,もって13歳未満の者に対し,わいせつな行為をするとともに,衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノを製造した。

東京高裁h28.2.19 (一審新潟地裁高田支部H27.8.25)
判例タイムズ1432号134頁
 (1) 強要罪が成立しないとの主張について
 記録によれば,原判決は,公訴事実と同旨の事実を認定したが,その要旨は,被害者が18歳に満たない児童であることを知りながら,同女に対し,要求に応じなければその名誉等にいかなる危害を加えるかもしれない旨脅迫して,乳房,性器等を撮影してその画像データをインターネットアプリケーション「LINE」を使用して送信するよう要求し,畏怖した被害者にその撮影をさせた上,「LINE」を使用して画像データの送信をさせ,被告人使用の携帯電話機でこれを受信・記録し,もって被害者に義務のないことを行わせるとともに,児童ポルノを製造した,というものである。
 すなわち,原判決が認定した事実には,被害者に対し,その名誉等にいかなる危害を加えるかもしれない旨脅迫して同女を畏怖させ,同女をして,その乳房,性器等を撮影させるという,強制わいせつ罪の構成要件の一部となり得る事実を含むものの,その成立に必要な性的意図は含まれておらず,さらに,撮影に係る画像データを被告人使用の携帯電話機に送信させるという,それ自体はわいせつな行為に当たらない行為までを含んだものとして構成されており,強要罪に該当する事実とみるほかないものである。
 弁護人は,①被害者(女子児童)の裸の写真を撮る場合,わいせつな意図で行われるのが通常であるから,格別に性的意図が記されていなくても,その要件に欠けるところはない,②原判決は,量刑の理由の部分で性的意図を認定している,③被害者をして撮影させた乳房,性器等の画像データを被告人使用の携帯電話機に送信させる行為もわいせつな行為に当たる,などと主張する。
 しかしながら,①については,本件起訴状に記載された罪名および罰条の記載が強制わいせつ罪を示すものでないことに加え,公訴事実に性的意図を示す記載もないことからすれば,本件において,強制わいせつ罪に該当する事実が起訴されていないのは明らかであるところ,原審においても,その限りで事実を認定しているのであるから,その認定に係る事実は,性的意図を含むものとはいえない。
 また,②については,量刑の理由は,犯罪事実の認定ではなく,弁護人の主張は失当である。
 そして,③については,画像データを送信させる行為をもって,わいせつな行為とすることはできない。
 以上のとおり,原判決が認定した事実は,強制わいせつ罪の成立要件を欠くものである上,わいせつな行為に当たらず強要行為に該当するとみるほかない行為をも含む事実で構成されており,強制わいせつ罪に包摂されて別途強要罪が成立しないというような関係にはないから,法条競合により強要罪は成立しないとの弁護人の主張は失当である。
 (2) 公訴棄却にすべきとの主張について
 以上のとおり,本件は,強要罪に該当するとみるほかない事実につき公訴提起され,そのとおり認定されたもので,強制わいせつ罪に包摂される事実が強要罪として公訴提起され,認定されたものではない。
 また,原判決の認定に係る事実は,前記(1)のとおり,強制わいせつ罪の構成要件を充足しないものである上,被害者撮影に係る画像データを被告人使用の携帯電話機で受信・記録するというわいせつな行為に当たらない行為を含んだものとして構成され,これにより3項製造罪の犯罪構成要件を充足しているもので,強制わいせつ罪に包摂されるとはいえないし,実質的に同罪に当たるともいえない。
 以上のとおり,本件は,強要罪および3項製造罪に該当し,親告罪たる強制わいせつ罪には形式的にも実質的にも該当しない事実が起訴され,起訴された事実と同旨の事実が認定されたものであるところ,このような事実の起訴,実体判断に当たって,告訴を必要とすべき理由はなく,本件につき,公訴棄却にすべきであるとの弁護人の主張は,理由がない。
。。。
広島高裁岡山支部H22.12.15*1(一審判決 岡山地裁H22.8.13*2)
 そして,強制わいせつ罪が個人の性的自由を保護法益とするのに対し,児童ポルノ法7条3項,1項,2条3項3号に該当する罪(以下「3項製造罪」という。)は,当該児童の人格権を第一次的な保護法益としつつ,抽象的な児童の人格権をも保護法益としており,両者が一致するものではない。しかも,原判示各事実は,前記のとおり,原判示第1及び第2の各事実については,各被害者に児童ポルノ法2条3項3号所定の姿態をとらせるに際し,脅迫又は暴行によった旨認定していないし,上記各事実と同旨の各公訴事実も同様に脅迫又は暴行によった旨訴因として掲げていない上,原判示各事実及びこれらと同旨の各公訴事実についても,それぞれ,各被害者をして撮影させた画像データを被告人の使用するパーソナルコンピューターに送信させてこれらを受信し,さらに,上記コンピューターに内蔵されたハードディスクに記録して蔵置した各行為を含んでいるところ,上記各行為はいずれも3項製造罪の実行行為(原判示第3の事実については強要罪の実行行為の一部でもある。)であって,強制わいせつ罪の構成要件該当事実には含まれない事実である。

顔舐め・足舐め行為のわいせつ性・・わいせつ行為(刑法176条)の限界事例

顔舐め・足舐め行為のわいせつ性・・わいせつ行為(刑法176条)の限界事例

 時々、こういう事案がありますが、捜査段階でわいせつ性を争うと一部起訴されないこともあります。

https://news.yahoo.co.jp/articles/d3a1f8db1dc1744e1344fe59157acfb5d98923c8
逮捕容疑は5月7日夕~夜、東京都豊島区の居酒屋で学生のひざや胸を触ったほか、近くの路上で抱きついたり顔をなめたりしたというもの。

 大法廷h29.11.29以降、わいせつの定義はありませんが、性的意味会い・その程度・社会通念の三要素で決められています。

タイミング的に大法廷h29.11.29は反映されていませんので、理由が変わる可能性があります。

嘉門優「強制猥褻と痴漢行為との区別について」季刊刑事弁護93号(出版年月日2018/01/20)
 そして、直接、性的部位に触れる行為(C類型)についても、被害者への性的な侵襲性が比較的高いために、強制わいせつ罪が認められる傾向にある一方24、被害者の性的部位を「着衣の上から」触る場合(D類型)、通常は痴漢行為と分類される。
ただし、態様が「執よう」な場合、つまり、着衣の上からでも「弄んだ」といえるような態様である場合、強制わいせつ罪とされてきた25。
 また、被害者の「非性的部位」に触れる場合(E類型)にも本罪が成立することがあり、その典型例は唇への接吻である26。
 ただし、接吻だけでは「性欲を刺激、興奮又は満足させる行為」とはいえず、相手方の意思に反して「無理やり」行われたといいうる場合にのみ強制わいせつ罪とされてきた27.
 他方、唇以外の非性的な部位(頬やあご等)にキスする場合には、その行為が、通常は性欲刺激・興奮・満足に結びつくとは評価しえないため28、無理やり行ったとしても、強制わいせつ罪を肯定すべきではないとされる29.
 同様の理由から、他の非性的部位(被害者の指や大腿部など)をなめたり触ったりする行為についても、無理やり行ったとしても強制わいせつ罪は認められない30.
 以上のように、強制わいせつ罪のわいせつ行為は、接触部位、接触行為の性的意味合い、態様の執よう性といった観点から、「性欲を刺激、興奮又は満足させる行為」と評価しうるかどうかが判断されている

26広島高松江支判昭27.9.24高刑判特20号187頁、東京高判昭32.1 .22高刑判特4巻l~3号l6頁。なお、「唇」を性的な領域と理解する見解もあるが(山中敬一「強制わいせつの罪の保護法益について」研修817号(2016年]10頁)、陰部・乳房・臂部とは異なり、唇に触れること自体をもって直ちに「性欲を刺激する行為」を有すると評価することはできない。そこで本稿では、唇への接触を「非性的部位への接触」として扱うこととする。
27福田平『全訂刑法各論〔第3版増補〕』(有斐閣、2004年)183頁、佐伯仁志「強制狼藝罪における狼褒概念」判タ708号(1989年)65頁。東京高判昭32. 1 .22高刑裁特4巻l~3号16頁。東京地判昭56・4・30判時1028号145頁。
28大阪高判昭41 .9.7判タl99号187頁。松原芳博『刑法各論』(日本評論社、2016年)87頁は、頬にキスする行為は「現在の性意識に照らせば、性的意味は認めがたい」とする。
29東京地判昭56.4.30判時1028号l45頁は、「頬にキスしようとした行為」について強制わいせつ未遂罪を肯定したが疑問である。また、東京地判平21.l0.8 LEX/DB25463736は、
「首筋に接吻する行為」についてわいせつ性を認めている。ただし、この事案では、被害者の乳房を直接もみ、下着の上から陰部に手指を押し当て、さらに、首筋に接吻したという一連の行為について、わいせつ性を肯定しており、首筋への接吻行為だけで強制わいせつ罪が成立すると判断されたものではない(ただし、結論として、被害者の供述の信用性が認められないとして無罪とされている)。
30裁判例において、足の指を舐める行為(神戸地判平15.4.1O LEX/DB28085644)や、太もも、膝頭付近を触る行為(東京高判平13.9.18LEX/DB28085248)について強制わいせつ罪が肯定されているものの、いずれも、より性的侵襲性の高い行為(陰部を弄ぶ、瞥部を直接触る)とともに行われており、一連の行為全体でわいせつ性が肯定されているにすぎない。

公判中の児童買春行為について執行猶予を付けた事例(某支部)

 ④は保釈中の事件、③は前刑の余罪になります。
 国選弁護人は「絶対実刑」と言ってたようですが、法律上は執行猶予の可能性があります。執行猶予の裁判例と、4件くらいで執行猶予になった裁判例を提供しました。

①H30.5.15 犯行日 Aと児童買春行為
②H30.6.21 犯行日 Bと児童買春行為
①H30.12.1 起訴  Aと児童買春行為
②H30.12.1 起訴  Bと児童買春行為
①②H31.2.24 判決  執行猶予
・・・
③H30.5.9 犯行日 Cと児童買春行為
③H30.11.19 起訴  Cと児童買春行為
④H31.2.12 犯行日 Dと児童買春行為
④R1.8.26 起訴  Dと児童買春行為
③④R1.11.24 判決  保護観察付き執行猶予

性欲目的の「首舐め」を青少年条例違反(わいせつ行為)とした事例(佐賀地裁R02.12.23)

 青少年条例違反(わいせつ行為)については、大法廷h29.11.29の影響を受け「性的意図不要ですよね」と主張して、裁判所を悩ませて下さい。

佐賀県青少年健全育成条例の解説h19
〔解説〕
1 「みだらな性行為Jとは、健全な常識ある一般社会人から見て、結婚を前提としない、欲望を満たすためにのみ行う不純とされる性行為をしづ。
「わいせつな行為Jとは、いたずらに性欲を刺激し、文は興奮させ露骨な表現によって健全な常識ある一般社会人に対し性的に差恥嫌悪の情を起こさせる行為をいう。
2 刑法第177条(強姦)又は第176条(強制わいせつ)の規定では、13歳以上の者に対する暴行脅迫を伴わない「みだらな性行為」、「わいせつな行為Jについては、何の規制もなく青少年の健全育成上の盲点となっていることに着目したものである。
なお、13歳未満の婦女を姦淫し、又は13歳未満の男女にわいせつ行為をした場合には刑法と競合し、刑法が適用されることになるが、このような行為により青少年の健全育成が阻害されることを防止する意図をもって規定したものである。

佐賀地方裁判所令和02年12月23日
未成年者誘拐、福岡県青少年健全育成条例違反被告事件
 上記の者に対する未成年者誘拐、福岡県青少年健全育成条例違反被告事件について、当裁判所は、検察官杉本真也、弁護人補伽圭史郎各出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
理由
(罪となるべき事実)
 第2 被告人は、Aが18歳未満の青少年であることを知りながら、同日午後1時頃から同日午後6時53分頃までの間に、被告人方において、単に自己の性的欲望を満たす目的で、Aの首をなめ、乳房を手指でもてあそび、もって青少年に対しわいせつな行為をした。
(法令の適用)
罰条
 判示第2の行為 福岡県青少年健全育成条例38条1項1号、31条1項
刑種の選択
 判示第2の罪 懲役刑を選択
併合罪の処理 刑法45条前段、47条本文、10条(重い判示第1の罪の刑に刑法47条ただし書の制限内で法定の加重)
未決勾留日数の算入 刑法21条
訴訟費用 刑訴法181条1項ただし書(不負担)

(性的意図を摘示せず)接吻を「わいせつ行為」とした事例 青少年淫行罪・青少年わいせつ罪合計3件で懲役1年6月執行猶予4年(盛岡地裁R03.2.17)

青少年淫行罪・青少年わいせつ罪合計3件で。懲役1年6月執行猶予4年(盛岡地裁R03.2.17)
 この程度では実刑事案はありません。
 性的意図がない単なる「接吻」が青少年条例違反とされていますが、強制わいせつ罪の性的意図不要説の大法廷h29.11.29の影響で青少年条例の「わいせつ」の定義も流動的ですし、淫行についての最大判S60.10.23を考慮すると、青少年条例の関係では性的意図が必要という結論になるでしょう。

岩手県青少年のための環境浄化に関する条例 解説H19 
(1 ) 「みだらな性行為」とは、健全な常識ある一般社会人からみて、結婚を前提としない、欲望を満たすためにのみ行う性行為をいう
(2) 「わいせつな行為」とは、いたずらに性欲を刺激興奮させたり、その露骨な表現によって健全な常識のある一般社会人に対し、性的にしゅう恥・嫌悪の情をおこさせる行為をいう。

青森県青少年健全育成条例違反、青少年のための環境浄化に関する条例違反被告事件盛岡地方裁判所令和03年02月17日
主文
1 被告人を懲役1年6か月に処する。
2 この裁判確定の日から4年間その刑の全部の執行を猶予する。

理由
(罪となるべき事実)
 被告人は、単に自己の性的欲望を満足させるため、
第1 令和2年3月23日午前10時13分頃から同日午前11時41分頃までの間に、青森県(以下略)E(省略)号室において、別紙記載の被害者Aが18歳未満の者であることを知りながら、被害者Aの乳房等を手指等でもてあそび、被害者Aに手淫や口淫をさせ、被害者Aと性交し、もって、青少年に淫行をした。
第2 同年6月27日午後零時30分頃から同日午後1時頃までの間に、岩手県事務所において、別紙記載の被害者Cが18歳未満の者であることを知りながら、被害者Cの着衣の上から被害者Cの股間や乳房を手指でもてあそび、被害者Cの着衣をまくり上げて被害者Cの乳房等を手指や舌等でもてあそぶなどし、もって、青少年にわいせつな行為をした。
第3 同年7月22日午後7時頃、同県D郡(以下略)G株式会社H駅駐車場に駐車中の自動車内において、別紙記載の被害者Bが18歳未満の者であることを知りながら、被害者Bの唇に接吻して被害者Bの口腔内に舌を差し入れるなどし、もって、青少年にわいせつな行為をした。
  なお、被告人は、被害者Cの股間を触っていない旨弁解するが、判示のとおり被害状況を述べる被害者Cの供述は具体的であり、信用できない理由はない。
  被告人の前記弁解を踏まえて検討しても、その結論は動かない。
(法令の適用)
1 罰条
 (1) 判示第1の所為について
  青森県青少年健全育成条例30条1項、22条1項
 (2) 判示第2及び第3の各所為について
  いずれも青少年のための環境浄化に関する条例29条1項、18条1項
2 刑種の選択
  いずれも懲役刑
3 併合罪の処理
  刑法45条前段、47条本文、10条(犯情の最も重い判示第1の罪の刑に法定の加重)
4 刑の全部の執行猶予
  刑法25条1項
(量刑の理由)
 被告人は、15~16歳の被害者3名に対し、性交して淫行し、又はわいせつな行為をしたのであって、かかる行為は、被害者3名の健全な育成・成長を阻害するおそれが高い。また、被告人は、本件各犯行当時、市議会議員を務めて文教福祉に携わっており、法令を遵守し、青少年の健全な成長を率先して図るべきことを強く期待されながら、本件各犯行に及んだのであって、被告人の責任非難の程度は大きい。
 被告人の行為責任は、この種事案の中で重く、求刑どおりの主刑が相当であるが、さりとて、被害者の性的自己決定権等を侵した事案として訴追されたわけではないことからすると、一般情状如何によっては実刑以外の量刑も許されないではない。
 被告人に古い罰金前科しかなく、被告人が本件各犯行を概ね認め、被害者3名に対する謝罪文を認 したため、I弁護士連合会に対する贖 しょく罪寄附をし、公職も辞したことなどの一般情状も考慮し、その刑の全部の執行は猶予するが、被告人に対しては、長期間にわたる自重自戒を求める必要があると判断し、その執行猶予期間を定めた。
(検察官小原一利及び私選弁護人小西弘晃各出席)
刑事部
 (裁判官 片岡理知)

自撮りの場合、個人的法益に対する侵害がない場合には単純製造罪は成立しないこととなるから撮影した児童には単純製造罪は成立しないと考える(家庭の法と裁判32号)

 児童ポルノ法は行為主体から児童本人を除外していない
 共犯事件の場合、まず正犯者を特定するんですが、撮って送ったBが提供目的製造罪と提供罪で、頼んだAがその共犯(教唆)だという解釈が出発点でしょうね。
 神戸地裁H24.12.12は、ABを姿態をとらせて製造罪の共同正犯としています。
 紹介されている判例は、ほとんど奥村が関与しています。

ネット利用型性非行の法律的問題点と調査・審判における工夫・留意点
横浜家庭裁判所判事 岸野康隆
横浜家庭裁判所家庭裁判所調査官 庄山浩司
家庭の法と裁判32号

【事例1 】:少年Aは, 18歳に満たない児童である少年Bに対し, 同人の陰部や胸部が写った写真を撮影した上, その画像データをAに送信するよう依頼した。Bは, これに応じ,服を脱いで全裸になり, その陰部や胸部が写った写真を自分のスマートフオンで撮影し, その画像データをSNSのメッセージ機能を使ってAに送信した。
【事例2】 : 18歳に満たない児童である少年Cは, SNS上の同人のアカウントのフォロワーを増やしたり, 「いいね」を多くもらったりしたいと考え, 同人の裸の写真を撮影した上。これを同人のアカウントに掲載した。

2児童ポルノ法の保護法益
(1) 児童ポルノ法の目的
児童ポルノ法は,児童買春や児童ポルノの生産過程において,児童に対する性的搾取及び性的虐待が行われており, それらに対する法的規制の必要性が世界的に叫ばれる中,児童買春が横行し,児童ポルノの製造流通基地となっていた日本に対する国際社会からの批判を受け,平成11年に成立した比較的新しい法律である。その目的は,上記のような性的搾取及び性的虐待から児童の権利を擁護することにある(児童ポルノ法1条)。(2) 児童ポルノ法における保護法益の考え方ところで,児童ポルノ法7条所定の各罪の保護法益については,
①被写体児童の人格権等の個人的法益であるとする見解(個人的法益説),
②児童一般の心身の成長,健全な社会的風潮・性道徳といった社会的法益であるとする見解(社会的法益説),
③個人的法益と社会的法益の双方であるとする見解(混合説)
が対立している。立法者は, 「児童ポルノ提供等の罪は,児童ポルノを他人に提供等する行為が,児童ポルノに描写された児童の心身に有害な影響を与え続けるのみならず, このような行為が社会に広がるときは,児童を性欲の対象としてとらえる風潮を助長することになるとともに, 身体的及び精神的に未熟である児童一般の心身の成長に重大な影響を与えるといった点に着目して処罰するもの」であるとしており#)③の混合説を採用しており,裁判例の多くも同説に立っている(5)



次に,③の混合説に立つとしても,個人的法益と社会的法益との関係をどうみるのかについては, さらに見解が分かれているところ,各罪ごとにその目的,趣旨等に照らして考えていくのが相当である。そこで, 【事例1 】の単純製造罪【事例2】の公然陳列罪において,両法益の関係をどうみるべきかにつき検討する。
ア単純製造罪の場合
まず,単純製造罪についてみると, 同罪は,児童ポルノの他者への提供を予定していないものであり(6)、製造された児童ポルノが流通して社会に広がることになる可能性は, 否定できないものの,低いといえる。また,被写体児童に姿態をとらせることを要素とするその構成要件は(7))被写体となることにより受ける心身への有害な影響から被写体児童を守ることを第一の目的としているものと考えられる。そうすると,単純製造罪は, 第一次的には被写体児童の個人的法益を保護法益とするものであり.社会的法益はそれに付随して副次的に保護されるものにすぎず、個人的法益の侵害がない場合には,単純製造罪は成立しないというべきである(8)
イ公然陳列罪の場合
これに対し, 【事例2】で問題となる公然陳列罪は,公然陳列という行為の性質上, わいせつ物頒布等罪(刑法175条) と同様に考え, たとえ個人的法益に対する侵害がない場合であっても、社会的法益に対する侵害があれば,犯罪が成立するというべきであろう(9)


保護法益に関する以上の理解を前提として.
【事例1 】における少年A及びB, 【事例2】における少年Cについて, それぞれ犯罪の成否を検討する。
3 【事例1 】について
(1) 実行行為の内容
【事例1 】における実行行為の内容は,通常,
①Aが, Bに陰部等を露出した姿態をとらせ→
②Bが, その写真を自分のスマートフオンで撮影し→
③Bが, SNSのメッセージ機能を使って画像データをAに送信する,
という流れをたどることとなる。なお, スマートフォンの設定状況等にもよるが,③の時点では,画像データはAのスマートフオンではなく, SNSを運営する会社が管理するサーバに蔵置されていることが多い。その場合, Aが製造した児童ポルノは,そのサーバ上に蔵置された画像データということになる。そこで, Aのスマートフォンに蔵置するために
④Aにおいて,送信されてきた画像データを自分のスマートフォンに保存する作業
を行うことも少なくない。その場合, Aのスマートフォンに蔵置された画像データを製造された児童ポルノとしてとらえるのであれば,①から④までが実行行為となる。
(2) Aの単純製造罪の成否
まず, Aについて単純製造罪の成否を検討すると, 一連の実行行為のうち, 主要な部分を行っているのはBであるから, これをAに帰責してよいのか,帰責する場合にはどのような理由によるのかが問題となる。これを考える上では, AとBの関係性,両者の年齢,犯行に至る経緯等を踏まえて,具体的事例ごとに判断すべきである。例えば, Aが脅迫を用いてBに無理やり自画撮り等を行わせたケースであれば, Aには間接正犯として単純製造罪の成立が認められることになろう(10)一。方, Bが任意に自画撮り等を行ったケースについてみると,単純製造罪は, たとえ被写体児童が児童ポルノの製造に同意していたとしても成立するとされている(11)。ここで問題となるのは, Bが自らの意思に基づいて自画撮り等を行っている以上, もはや間接
正犯は成り立たず, AとBとの共同正犯を考えるべきなのではないかという点である(その反面Bの被害者としての立場を強調すると。Bを共同正犯とすることについても違和感がある。)。
間接正犯の成立をどの範囲で認めるのかという問題であり,具体的事例ごとの判断となると考えるが, Bが精神的に未熟で判断能力が十分とはいえず, AがこのようなBの精神的未熟さを認識した上で, Bに依頼して自画撮り等を行わせているような場合には, Aを間接正犯と評価すべき場合が多いのではないだろうか(12)


(3) Bの単純製造罪の成否
次に, Bについて検討する。被写体児童であるBは,基本的には単純製造罪における被害者の立場にあるものであるが.例外的に,被写体児童が他者に対して執勘,積極的に自分の児童ポルノを作成させるよう働きかけたような場合
には, Bに共犯が成立することは理論上考えられるとされている(13) しかし, Bにおいて,執勘かつ積極的に働きかけたようなことがあったとしても, それがBの精神的未熟さによるものである場合には,やはりBは被害者として扱うべきであろう。また, Bを共同正犯と評価すべき場合が仮にあったとしても, それは, Bが自らの法益を処分する行為であるから,個人的法益に対する侵害は認めることができない。そして,単純製造罪の保護法益に関する上記私見に基づく場合,個人的法益に対する侵害がない場合には単純製造罪は成立しないこととなるからBに単純製造罪は成立しないと考える。

4 【事例2】について
Cについても. Bと同様自らの法益を処分する行為を行っており,個人的法益に対する侵害は認められない。しかし,上述した私見に基づく場合,公然陳列罪は,社会的法益に対する侵害があれば成立することとなるので, Cには公然陳列罪が成立すると考える。
9)わいせつ物頒布等罪に比して法定刑が重いことなどを根拠として, 個人的法益に対する侵害がなければ公然陳列罪は成立しないとする見解もある(瀧本京太朗「いわゆる「自画撮り』行為の刑事規制に関する序論的考察(児童ポルノの自画撮りを題材として」北大法学論集68巻3号125頁,嘉門優「児童ポルノ規制法改正と法益論」刑事法ジャーナル43号79頁)。しかし,両罪の法定刑の下限は同じであり,個人的法益に対する侵害があった場合には刑が重くされると考えることもできる。
10) この場合,強要罪も成立することになるが,単純製造罪と強要罪の罪数関係については,具体的事案ごとに1個の行為といえるかどうかを判断することになる。この点に関する裁判例としては,観念的競合とした一審判決に法令適用の誤りがあるとして併合罪としたもの(東京高判平成28年2月19日判タ1432号134頁)などがある。
11)森山=野田・前掲注(4)100頁。もっとも,児童と真撃な交際をしている者が, 児童の承諾のもとでその裸体の写真を撮影する等,児童の承諾があり, かっこの承諾が社会的にみて相当であると認められる場合には,違法性が阻却され,犯罪が成立しない場合もあり得る(同101頁。札幌高判平成19年3月8日高刑速平成19年504頁参照)。
12)裁判例の中には, 間接正犯の成立を否定した上, 共同正犯の成立を認めたものもあるようである(瀧本・前掲注(9)89頁,奥村徹判例から見た児童ポルノ禁止法」園田寿=曽我部真裕綿著「改正児童ポルノ禁止法を考える」(日本評論社, 2014) 26頁)。
13)島戸・前掲注(6)110頁

家庭の法と裁判-Fami lyCourtJournal No、32/2021 .6

隠しカメラで裸を撮影する行為は「わいせつな行為」に当たらない~大竹依里 子検事「オンラインで,児童を裸にさせ,動画撮影させた行為について,強制 わいせつ罪で処理した事例」研修(令3.6,第876号)研修の現場から

隠しカメラで裸を撮影する行為は「わいせつな行為」に当たらない~大竹依里子検事「オンラインで,児童を裸にさせ,動画撮影させた行為について,強制わいせつ罪で処理した事例」研修第876号
 判例収集が甘いです

 対岸からの撮影行為については、名古屋高裁判例があります。近ければわいせつになることもあるようです。

名古屋高裁h31.3.4
(本件[認識不可能な遠方からの盗撮]は強制わいせつに当たらず弁護人の主張は前提においても失当)

「犯人が被害者の意思に不法に介入する要素」というのも、乳幼児への強制わいせつ罪(176条後段)を考えると重視されていなくて東京高裁に判例があります。

東京高裁h30.1.30
(1) 論旨は,6歳未満の児童に対して強制わいせつ罪等は成立しないのに,強制わいせつ罪等の成立を認めた原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というのである。
  (2) 刑法は,強制わいせつ罪等の対象について年齢の下限を設けておらず,むしろ13歳未満の児童に対しては保護を厚くしており,法文上,6歳未満の児童も強制わいせつ罪の対象となることは明らかである。
 所論は,①低年齢児に対するわいせつ行為では一般人の性欲を興奮,刺激させない,②低年齢児には性的羞恥心がないので,法益侵害がないなどと主張する。
 しかし,①については,6歳未満の低年齢児でも殊更に全裸又は下半身を裸にさせて性器を露出させてこれを撮影するならば,一般人の性欲を興奮,刺激させるもの,言い換えれば,一般人が性的な意味のある行為であると評価するものと解されるから,強制わいせつ行為に該当する。また,②については,強制わいせつ罪の保護法益は,個人の性的自由であると解されるが,所論のように性的羞恥心のみを重視するのは相当ではなく,一般人が性的な意味があると評価するような行為を意思に反してされたならば,性的自由が侵害されたものと解すべきである。そして,ここで意思に反しないとは,その意味を理解して自由な選択によりその行為を拒否していない場合をいうものと解されるから,そのような意味を理解しない乳幼児については,そもそもそのような意思に反
しない状況は想定できない。このことは,精神の障害により性的意味を理解できない者に対しても準強制わいせつ罪(刑法178条1項)が成立することによっても明らかである。本件では,生後4か月から5歳までの乳幼児に対し,性器を露出させるなどして,これを撮影したものであるから,同人らの性的自由を侵害したものと認められる。

また、「被害児童がその陰部等を露出したり,手で陰部を触るなどの姿態を撮影させ,撮影させた映像を,被害児童の携帯電話機のビデオ通話機能を使用して,被疑者の携帯電話機にライブ配信させた上,同映像を被疑者の携帯電話機本体に記録して保存した」という行為のうち、「撮影させ」まではわいせつ行為だが、送信・受信はわいせつ行為には入らないという東京高裁判決があります

東京高裁H28.2.19
すなわち,原判決が認定した事実には,被害者に対し,その名誉等にいかなる危害を加えるかもしれない旨脅迫して同女を畏怖させ,同女をして,その乳房,性器等を撮影させるという,強制わいせつ罪の構成要件の一部となり得る事実を含むものの,その成立に必要な性的意図は含まれておらず,さらに,撮影に係る画像データを被告人使用の携帯電話機に送信させるという,それ自体はわいせつな行為に当たらない行為までを含んだものとして構成されており,強要罪に該当する事実とみるほかないものである。
 弁護人は,①被害者(女子児童)の裸の写真を撮る場合,わいせつな意図で行われるのが通常であるから,格別に性的意図が記されていなくても,その要件に欠けるところはない,②原判決は,量刑の理由の部分で性的意図を認定している,③被害者をして撮影させた乳房,性器等の画像データを被告人使用の携帯電話機に送信させる行為もわいせつな行為に当たる,などと主張する。
 しかしながら,①については,本件起訴状に記載された罪名および罰条の記載が強制わいせつ罪を示すものでないことに加え,公訴事実に性的意図を示す記載もないことからすれば,本件において,強制わいせつ罪に該当する事実が起訴されていないのは明らかであるところ,原審においても,その限りで事実を認定しているのであるから,その認定に係る事実は,性的意図を含むものとはいえない。
 また,②については,量刑の理由は,犯罪事実の認定ではなく,弁護人の主張は失当である。
 そして,③については,画像データを送信させる行為をもって,わいせつな行為とすることはできない。

研修の現場から
オンラインで,児童を裸にさせ,動画撮影させた行為について,強制わいせつ罪で処理した事例
大竹依里子
第2 本事例の概要及び原庁での処理内容等
本事例は,被告人が,当時10歳ないし11歳の児童4名(以下,「被害児童」という。)に対し,オンラインゲーム上で使用できるアイテム等を交付することの対価として,被害児童がその陰部等を露出したり,手で陰部を触るなどの姿態を撮影させ,撮影させた映像を,被害児童の携帯電話機のビデオ通話機能を使用して,被疑者の携帯電話機にライブ配信させた上,同映像を被疑者の携帯電話機本体に記録して保存した事案です。
原庁は,本件について,児童ポルノ製造罪だけでなく,強制わいせつ罪も成立するとして,両罪で公判請求し,一審の判決も公訴事実どおりの罪を認定しました。
そこで,被害者の身体に触れておらず(非接触),しかも,被疑者が遠隔地にいて,被害児童とオンラインでつながっている(非面前)という特徴を有する本事例を題材にして,わいせつな行為をどのように認定し,立証すれば良いかを,近時の最高裁判決における「わいせつな行為」の判断方法を踏まえて検討しました。
以下,検討の順に沿って,述べていくこととします。
第3 最高裁判決における「わいせつな行為」の判断方法
第4具体的検討
1 被害児童を裸にさせて撮影する行為が「わいせつな行為」と言えるか
本事例には,被害児童に衣服を脱がせて裸にさせる行為,裸の撮影行為がありました。
被害児童に衣服を脱がせて裸にさせる行為について,研修員からは,当該行為がわいせつな行為に該当するということに異論はありませんでした。
その理由として,衣服を脱がせて裸にさせる行為は,被害者の性的自由ないし性的差恥心を侵害する行為であり,社会通念に照らしても,当該行為に性的な意味があるということが挙げられていました。
また,裸の撮影行為それ自体を見ても,他者に見られたくない性的な画像が保存され,あるいは第三者に拡散されるおそれが生じるという点で,新たな性的自由に対する侵害が生じていることから,衣服を脱がせて裸にさせる行為とは別に,裸の撮影行為についても,わいせつな行為に該当するという結論に至りました。
いずれの行為を見ても,わいせつな行為の判断要素として、被害者の性的自由の侵害は,大きな要素であるという結論に至りました。
2 隠しカメラで裸を撮影する行為が「わいせつな行為」と言えるか
次に,本事例の対照事例として,例えば,13歳未満の者がいる更衣室等において,ひそかに,裸を撮影する行為を想定して検討しました。
確かに,このような場合であっても,被害者の性的自由は,客観的には侵害されているといえそうです。
しかし,このような場合には,被害者において,性的自由が侵害された認識がないという理由から,強制わいせつ罪は成立しないという意見で一致しました。
そうすると,わいせつな行為を判断する際に,被害者の認識の有無は大きな要素を占めるのではないかと考えられ,被害者の認識がない,例えば,全裸で就寝中の他人を撮影する行為はわいせつな行為にはならないとの意見で一致しました。
そして,被害者の認識の有無がわいせつな行為の判断に大きな要素を占めることから,犯人が被害者の意思に働き掛ける要素の有無が,わいせつな行為の成否に影響するという結論に至りました。
その理由は,性的な自由について,他人が個人の性的な領域に対して不法に(暴力的に)介入すること排除して,個人の性的領域についての自由な意思決定と活動を内容とする権利だと考えると,強制わいせつ罪のわいせつな行為の判断には,犯人が被害者の意思に不法に介入する要素が必要であると考えられるからです。

3 非面前における行為が「わいせつな行為」と言えるか
ところで,本件では,遠隔地から携帯電話機のビデオ通話機能を使用して行われている犯行ですが,遠隔地にいる,すなわち,犯人と児童とが目の前にいないことが,わいせつな行為の判断に影響を与えるかも検討しました。
この点について,犯人が遠隔地にいるからといって,自己の裸を他人の目に直接さらすということに違いはなく,遠隔地でオンラインでつながっていることは,規範的に見て,目の前にいることと違いはないという結論に至りました。
 対照事例として,犯人が遠隔地にいて,オンラインで,自分の性器を露出した動画を相手方に送りつけた場合は,どうかということも検討しました。
この点については,強制わいせつ罪のわいせつな行為とまでは言えないのではないかという結論に足りました。
それは,接触を伴う強制わいせつと同程度に,相手の身体を積極的に利用したり,侵害したりするものとは言えないという理由が挙げられました。
このように,わいせつな行為の判断においては,この被害者の身体を積極的に利用したり,侵害したりすることが要素として挙げられると考えられます。
さらに,被害者に自分の裸を撮影させて,後でその動画を送らせる,すなわち,裸の動画を撮影している際には,犯人が被害者の面前にいるとは規範的にも言えない場合は,わいせつな行為に当たるかも検討しました。
これについては,接触を伴う強制わいせつにおいては,犯人が被害者の面前にいることが前提にされていることから,非接触の強制わいせつにおいても,犯人が規範的に見て,被害者の目の前にいると言えなければ,わいせつな行為に
当たらないという意見もありました。
この点,研修員の中からは,遠隔地にいる被害者を脅迫して,被害者の裸の写真を送らせた行為について,強制わいせつ罪で逮捕状を請求したところ,これを却下された事例があるという報告もありましたが、この裁判官も上述したのと同じ理由で強制わいせつ罪に該当しないと判断したものと思われます。

 武井検事に裁判所を聞いて閲覧してきましたが、公訴事実第1(強制わいせつ罪(176条後段))は生中継型でしたが、第3(強制わいせつ罪(176条後段))以降は静止画像の送信で、要求行為と受信との間にタイムラグがあって「遠隔地でオンラインでつながっていることは,規範的に見て,目の前にいることと違いはないという結論に至りました。」というのであれば、わいせつ行為に当たらないことになります。一貫していません。
 しかも、起訴検事は、児童ポルノ製造罪の訴因にLINEの「陰部を手で直接触る姿態を取らせて」を挙げて、1号ポルノの製造罪で起訴していましたが、裁判所に削られています。オンラインという点で、性交と同視できないようです。

公訴事実
被告人が、a(当時12歳)が 13歳未満の者と知りながら
第1 a12歳にわいせつ行為しようと企て
令和3年11月15日12:31~1253までの間
大阪市市北区西天満4の被告人方から
aに対して 被告人が使用する携帯電話機を使用して前記aが使用する携帯電話機に
アプリケーションソフトLINEのビデオ通話を使用して
全裸で陰部等を露出したaの姿態 
及び
陰部を直接手で触る姿態を撮影して
被告人が使用する携帯電話に動画配信するように要求し
その頃児童方において 同人aに衣服を脱がせて全裸で陰部等を露出した姿態 
及び
陰部を手で直接触る姿態を取らせて
これをa12が使用する携帯電話機で撮影させ、
もって13未満にわいせつ行為をし、強制わいせつ罪(176条後段)
第2 前同日、 第1の通り、a12歳に対して
全裸で陰部等露出した姿態 
及び
陰部を手で直接触る姿態を取らせて
前記LINEのビデオ通話機能を使用して 被告人の携帯に動画配信させ
そのころ、被告人方において、携帯の録画機能を用いて動画データを携帯電話機内の内蔵記録装置に記録させて保存して
もって 
児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為にかかる児童の姿態
及び
衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録にかかる記録媒体である児童ポルノを製造し 

関税関係基本通達集における児童ポルノ

関税関係基本通達集における児童ポルノ

関税関係基本通達集 令和元年度版 上巻
児童ポルノの取扱い)
69の2-1の2
児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(平成11年法律第52号。以下「児童ポルノ法」という。)第2条第3項《定義》に規定する児童ポルノ(以下「児童ポルノ」という。)の取扱いは次による。
(1)児童ポルノは児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものであり、性器等(児童ポルノ法第2条第2項に規定する性器等(性器、肛門又は乳首)をいう。以下同じ。)が描写されておらず、又は性器等にぼかしが施されているものであっても、児童ポルノに該当する。
なお、実在する児童の姿態を描写したものとは認められないアニメーション等は、児童ポルノに該当しない。

(2)児童ポルノ法第2条第3項第1号に規定する「性交類似行為」とは、実質的にみて性交と同視し得る態様における性的な行為(例えば、異性間における性交とその態様を同じくする状況下におけるあるいは性交を模して行われる手淫行為、口淫行為、同性愛行為等)をいう。

(3)児童ポルノ法第2条第3項第3号に規定する「衣服の全部又は一部を着けない」とは、社会通念上衣服と認められる物を全く着用していないか、又は衣服の一部を着用していない状態をいう。

(4)児童ポルノ法第2条第3項第3号に規定する「児童の性的な部位」とは、性器等若しくはその周辺部、臂部又は胸部をいう。
これは、性器等のみでは裸の児童の後方から撮影し、性器等が写っていない場合に対象外となることから、性器の周辺部・臂部・胸部を含むものとしていることに留意する。

(5)児童ポルノ法第2条第3項第3号に規定する「殊更に」とは、一般的には、「合理的理由なく」「わざわざ・わざと」の意味と解されており、児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものの内容が性欲の興奮又は刺激に向けられていると評価されるものかどうかを判断するためのものである。
その判断は、児童の性的な部位が描写されているか、児童の性的な部位の描写が画像全体に占める割合(時間や枚数)等の客観的要素に基づいてなされるものである。
例えば、水浴びをしている裸の幼児の自然な姿を親が成長記録のため撮影したような場合は、その画像の客観的な状況から、内容が性欲の興奮又は刺激に向けられていると評価されるものでない限り対象外となる。

(6)児童ポルノ法第2条第3項第3号に規定する「強調」とは、「露出」のみでは、児童の性的な部位が隠れていても強調・誇示されている場合が含まれないことから、児童の性的な部位の「強調」も対象とすることとしたものであり、具体的には、描写の方法を含めた、写真・映像等の全体から判断するものである。
例えば、着衣の上から撮影した場合や、ぼかしが入っている場合や、児童が意識的に股間や胸を強調するポーズをとっていない場合であっても、性器等やその周辺部を大きく描写したり、長時間描写しているかどうか、着衣の一部をめくって該当部分を描写しているかどうかなどの諸要素を総合的に勘案して判断する。

(7)児童ポルノの取扱いは、学術研究、文化芸術活動、報道等に関する国民の権利及び自由を不当に侵害しないように留意し、児童に対する性的搾取及び性的虐待から児童を保護しその権利を擁護するとの本来の目的を逸脱して他の目的のためにこれを濫用することがあってはならないと児童ポルノ法第3条に規定されていることに留意する。

(該当通知)
69の2-2
法第69条の2第3項の規定による通知は、「輸出してはならない貨物該当通知書」 (C-5600)(外国郵便物にあっては、「外国郵便物に係る輸出してはならない貨物該当通知書」(C-5602))を、当該通知に係る輸出貨物の検査を行った税関官署から当該貨物を輸出しようとする者に直接又は配達証明付郵便若しくは民間事業者による信書の送達に関する法律(平成14年法律第99号)第2条第6項
《定義》に規定する一般信書便事業者の提供する同条第2項に規定する役務のうち配達証明付郵便に準ずるものとして税関長が認めるものをもって交付することにより行う。
ただし、これらによりがたい場合には、前記2 41の(3)及び2の42の(3)による公示送達によるものとする。

(該当物品の処理)
69の2-3法第69条の2第3項の規定による通知を受けた者は、当該通知に係る貨物につき自発的に次の処理をすることができる。
なお、当該通知に不服がある場合は、法第8章の定めるところによる。
(1)廃棄又は滅却
(2)該当箇所の修整又は削除
(3)任意放棄

(輸入してはならない貨物の取扱い)
69の11-1
法第69条の11第3項の「この章に定めるところに従い輸入されようとする貨
物」とは、輸入申告された貨物又は日本郵便株式会社から提示された郵便物を
いう。
したがって、この章の規定の適用をいまだ受けていない保税貨物等の中に法第
69条の11第1項第7号又は第8号に規定する輸入してはならない貨物に該当する
貨物があってもその段階においては同条第3項の規定は適用されない。

(風俗を害すべき物品の取扱い)
69の11-1の2
「風俗を害すべき」物品の取扱いについては、従来の判例を踏まえ、次によ
る。
(1)「風俗」とは専ら性的風俗を意味するので、輸入禁止の対象はわいせつ
な書籍、図画等に限るものとする。
(2)「風俗を害すべき」物品の審査は、輸入貨物に対する通常の税関検査過
程で発見された書籍、図画等を対象とするものである。
ただし、思想内容等それ自体を網羅的に審査し規制することを目的とするもの
ではないことに留意する。

(わいせつ物品の取扱い)
69の11-1の3
わいせつ物品の取扱いは、従来の判例等を踏まえ、次による。
(1)書籍、図画及び動画等男女の露出された性器が描写されている書籍、図画
及び動画等については、原則として、わいせつ性を有する物品として取り扱
う。
ただし、性器が描写されている書籍、図画及び動画等であっても、その描写の
程度とその手法、その描写が作品全体に占める比重、構成等を総合的に考慮し
て、主として観る者の好色的興味に訴えるものと客観的に認められないものに
ついては、わいせつ性を有する物品としては取り扱わないものとする。
具体的には、次のイからチのいずれかに該当する場合には、わいせつ性を有す
るものとしては取り扱わないものとする。
イ性器の描写が不明瞭又は不鮮明であるもの
口殊更に強調することなく性器が描写されているものであって、性交又は愛撫
若しくは勃起の描写がなく、性器の輪郭程度しか判別できない大きさのもの
ハ性交又は愛撫若しくは勃起の描写がなく、日常生活において衣類をつけてい
ない民族が描写されたもの
二性器の描写が単純化されたアニメーションであるものホ医学・医療用又は性
教育用と認められるものへ写真集・写真雑誌であって、性交又は愛撫若しくは
勃起の描写がなく、性器の描写されている写真が、作品全体のごく一部である
と認められるもの
ト動画であって、性交又は愛撫若しくは勃起の描写がなく、通常の速度で映写
又は再生された画面において、性器が殊更に強調されることなく短時間描写さ
れたもの、あるいは、強調されたものであっても、性器の描写が瞬間的なもの
チその他、性器の描写がその程度と手法、作品全体に占める比重、構成等を総
合的に考慮して、主として観る者の好色的興味に訴えるものと客観的に認めら
れないもの
(2)人形・工芸品類又は模造性器具
性器が描写又は模倣されている人形・工芸品類又は模造性器具については、原
則として、わいせつ性を有する物品として取り扱う。
ただし、次に掲げるもののいずれかに当たるものについては、わいせつ性を有
する物品としては取り扱わない。
イ人間の肌の色以外の色彩等を施したもの
ロ現実感に欠けるもの
ハ描写又は模倣が精巧でないもの
二医学・医療用又は性教育用と認められるもの
児童ポルノの取扱い)
69の1-11の4
児童ポルノの取扱いは前記69の2-1の2による。

(該当通知)
69の11-2
法第69条の11第3項の規定による通知は、「輸入してはならない貨物該当通知書」 (C 5800)(外国郵便物にあっては、「外国郵便物に係る輸入してはならない貨物該当通知書」(C-5802))を、当該通知に係る輸入貨物の検査を行った税関官署から当該貨物を輸入しようとする者に直接又は配達証明付郵便若しくは民間事業者による信耆の送達に関する法律(平成14年法律第99号)第2条第6項《定義》に規定する一般信書便事業者の提供する同条第2項に規定する役務のうち配達証明付郵便に準ずるものとして税関長が認めるものをもって交付することにより行う。
ただし、これらによりがたい場合には、前記24-1の(3)及び2の4-2の(3)による公示送達によるものとする。

(該当物品の処理)
69の11-3
法第69条の11第3項の規定による通知を受けた者は、当該通知に係る貨物につき自発的に次の処理をすることができる。
なお、当該通知に不服がある場合は、法第8章の定めるところによる。
(1)法第34条の規定による廃棄(2)法第45条第1項ただし書(法第36条第1項、第41条の3、第61条の4,第62条の7及び第62条の15において準用する場合を含む)の規定による滅却
(3) 法第75条の規定による積戻し(児童ポルノを除く。)
(4) 該当箇所の修整又は削除
(5) 任意放棄