児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

性欲目的の「首舐め」を青少年条例違反(わいせつ行為)とした事例(佐賀地裁R02.12.23)

 青少年条例違反(わいせつ行為)については、大法廷h29.11.29の影響を受け「性的意図不要ですよね」と主張して、裁判所を悩ませて下さい。

佐賀県青少年健全育成条例の解説h19
〔解説〕
1 「みだらな性行為Jとは、健全な常識ある一般社会人から見て、結婚を前提としない、欲望を満たすためにのみ行う不純とされる性行為をしづ。
「わいせつな行為Jとは、いたずらに性欲を刺激し、文は興奮させ露骨な表現によって健全な常識ある一般社会人に対し性的に差恥嫌悪の情を起こさせる行為をいう。
2 刑法第177条(強姦)又は第176条(強制わいせつ)の規定では、13歳以上の者に対する暴行脅迫を伴わない「みだらな性行為」、「わいせつな行為Jについては、何の規制もなく青少年の健全育成上の盲点となっていることに着目したものである。
なお、13歳未満の婦女を姦淫し、又は13歳未満の男女にわいせつ行為をした場合には刑法と競合し、刑法が適用されることになるが、このような行為により青少年の健全育成が阻害されることを防止する意図をもって規定したものである。

佐賀地方裁判所令和02年12月23日
未成年者誘拐、福岡県青少年健全育成条例違反被告事件
 上記の者に対する未成年者誘拐、福岡県青少年健全育成条例違反被告事件について、当裁判所は、検察官杉本真也、弁護人補伽圭史郎各出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
理由
(罪となるべき事実)
 第2 被告人は、Aが18歳未満の青少年であることを知りながら、同日午後1時頃から同日午後6時53分頃までの間に、被告人方において、単に自己の性的欲望を満たす目的で、Aの首をなめ、乳房を手指でもてあそび、もって青少年に対しわいせつな行為をした。
(法令の適用)
罰条
 判示第2の行為 福岡県青少年健全育成条例38条1項1号、31条1項
刑種の選択
 判示第2の罪 懲役刑を選択
併合罪の処理 刑法45条前段、47条本文、10条(重い判示第1の罪の刑に刑法47条ただし書の制限内で法定の加重)
未決勾留日数の算入 刑法21条
訴訟費用 刑訴法181条1項ただし書(不負担)

(性的意図を摘示せず)接吻を「わいせつ行為」とした事例 青少年淫行罪・青少年わいせつ罪合計3件で懲役1年6月執行猶予4年(盛岡地裁R03.2.17)

青少年淫行罪・青少年わいせつ罪合計3件で。懲役1年6月執行猶予4年(盛岡地裁R03.2.17)
 この程度では実刑事案はありません。
 性的意図がない単なる「接吻」が青少年条例違反とされていますが、強制わいせつ罪の性的意図不要説の大法廷h29.11.29の影響で青少年条例の「わいせつ」の定義も流動的ですし、淫行についての最大判S60.10.23を考慮すると、青少年条例の関係では性的意図が必要という結論になるでしょう。

岩手県青少年のための環境浄化に関する条例 解説H19 
(1 ) 「みだらな性行為」とは、健全な常識ある一般社会人からみて、結婚を前提としない、欲望を満たすためにのみ行う性行為をいう
(2) 「わいせつな行為」とは、いたずらに性欲を刺激興奮させたり、その露骨な表現によって健全な常識のある一般社会人に対し、性的にしゅう恥・嫌悪の情をおこさせる行為をいう。

青森県青少年健全育成条例違反、青少年のための環境浄化に関する条例違反被告事件盛岡地方裁判所令和03年02月17日
主文
1 被告人を懲役1年6か月に処する。
2 この裁判確定の日から4年間その刑の全部の執行を猶予する。

理由
(罪となるべき事実)
 被告人は、単に自己の性的欲望を満足させるため、
第1 令和2年3月23日午前10時13分頃から同日午前11時41分頃までの間に、青森県(以下略)E(省略)号室において、別紙記載の被害者Aが18歳未満の者であることを知りながら、被害者Aの乳房等を手指等でもてあそび、被害者Aに手淫や口淫をさせ、被害者Aと性交し、もって、青少年に淫行をした。
第2 同年6月27日午後零時30分頃から同日午後1時頃までの間に、岩手県事務所において、別紙記載の被害者Cが18歳未満の者であることを知りながら、被害者Cの着衣の上から被害者Cの股間や乳房を手指でもてあそび、被害者Cの着衣をまくり上げて被害者Cの乳房等を手指や舌等でもてあそぶなどし、もって、青少年にわいせつな行為をした。
第3 同年7月22日午後7時頃、同県D郡(以下略)G株式会社H駅駐車場に駐車中の自動車内において、別紙記載の被害者Bが18歳未満の者であることを知りながら、被害者Bの唇に接吻して被害者Bの口腔内に舌を差し入れるなどし、もって、青少年にわいせつな行為をした。
  なお、被告人は、被害者Cの股間を触っていない旨弁解するが、判示のとおり被害状況を述べる被害者Cの供述は具体的であり、信用できない理由はない。
  被告人の前記弁解を踏まえて検討しても、その結論は動かない。
(法令の適用)
1 罰条
 (1) 判示第1の所為について
  青森県青少年健全育成条例30条1項、22条1項
 (2) 判示第2及び第3の各所為について
  いずれも青少年のための環境浄化に関する条例29条1項、18条1項
2 刑種の選択
  いずれも懲役刑
3 併合罪の処理
  刑法45条前段、47条本文、10条(犯情の最も重い判示第1の罪の刑に法定の加重)
4 刑の全部の執行猶予
  刑法25条1項
(量刑の理由)
 被告人は、15~16歳の被害者3名に対し、性交して淫行し、又はわいせつな行為をしたのであって、かかる行為は、被害者3名の健全な育成・成長を阻害するおそれが高い。また、被告人は、本件各犯行当時、市議会議員を務めて文教福祉に携わっており、法令を遵守し、青少年の健全な成長を率先して図るべきことを強く期待されながら、本件各犯行に及んだのであって、被告人の責任非難の程度は大きい。
 被告人の行為責任は、この種事案の中で重く、求刑どおりの主刑が相当であるが、さりとて、被害者の性的自己決定権等を侵した事案として訴追されたわけではないことからすると、一般情状如何によっては実刑以外の量刑も許されないではない。
 被告人に古い罰金前科しかなく、被告人が本件各犯行を概ね認め、被害者3名に対する謝罪文を認 したため、I弁護士連合会に対する贖 しょく罪寄附をし、公職も辞したことなどの一般情状も考慮し、その刑の全部の執行は猶予するが、被告人に対しては、長期間にわたる自重自戒を求める必要があると判断し、その執行猶予期間を定めた。
(検察官小原一利及び私選弁護人小西弘晃各出席)
刑事部
 (裁判官 片岡理知)

自撮りの場合、個人的法益に対する侵害がない場合には単純製造罪は成立しないこととなるから撮影した児童には単純製造罪は成立しないと考える(家庭の法と裁判32号)

 児童ポルノ法は行為主体から児童本人を除外していない
 共犯事件の場合、まず正犯者を特定するんですが、撮って送ったBが提供目的製造罪と提供罪で、頼んだAがその共犯(教唆)だという解釈が出発点でしょうね。
 神戸地裁H24.12.12は、ABを姿態をとらせて製造罪の共同正犯としています。
 紹介されている判例は、ほとんど奥村が関与しています。

ネット利用型性非行の法律的問題点と調査・審判における工夫・留意点
横浜家庭裁判所判事 岸野康隆
横浜家庭裁判所家庭裁判所調査官 庄山浩司
家庭の法と裁判32号

【事例1 】:少年Aは, 18歳に満たない児童である少年Bに対し, 同人の陰部や胸部が写った写真を撮影した上, その画像データをAに送信するよう依頼した。Bは, これに応じ,服を脱いで全裸になり, その陰部や胸部が写った写真を自分のスマートフオンで撮影し, その画像データをSNSのメッセージ機能を使ってAに送信した。
【事例2】 : 18歳に満たない児童である少年Cは, SNS上の同人のアカウントのフォロワーを増やしたり, 「いいね」を多くもらったりしたいと考え, 同人の裸の写真を撮影した上。これを同人のアカウントに掲載した。

2児童ポルノ法の保護法益
(1) 児童ポルノ法の目的
児童ポルノ法は,児童買春や児童ポルノの生産過程において,児童に対する性的搾取及び性的虐待が行われており, それらに対する法的規制の必要性が世界的に叫ばれる中,児童買春が横行し,児童ポルノの製造流通基地となっていた日本に対する国際社会からの批判を受け,平成11年に成立した比較的新しい法律である。その目的は,上記のような性的搾取及び性的虐待から児童の権利を擁護することにある(児童ポルノ法1条)。(2) 児童ポルノ法における保護法益の考え方ところで,児童ポルノ法7条所定の各罪の保護法益については,
①被写体児童の人格権等の個人的法益であるとする見解(個人的法益説),
②児童一般の心身の成長,健全な社会的風潮・性道徳といった社会的法益であるとする見解(社会的法益説),
③個人的法益と社会的法益の双方であるとする見解(混合説)
が対立している。立法者は, 「児童ポルノ提供等の罪は,児童ポルノを他人に提供等する行為が,児童ポルノに描写された児童の心身に有害な影響を与え続けるのみならず, このような行為が社会に広がるときは,児童を性欲の対象としてとらえる風潮を助長することになるとともに, 身体的及び精神的に未熟である児童一般の心身の成長に重大な影響を与えるといった点に着目して処罰するもの」であるとしており#)③の混合説を採用しており,裁判例の多くも同説に立っている(5)



次に,③の混合説に立つとしても,個人的法益と社会的法益との関係をどうみるのかについては, さらに見解が分かれているところ,各罪ごとにその目的,趣旨等に照らして考えていくのが相当である。そこで, 【事例1 】の単純製造罪【事例2】の公然陳列罪において,両法益の関係をどうみるべきかにつき検討する。
ア単純製造罪の場合
まず,単純製造罪についてみると, 同罪は,児童ポルノの他者への提供を予定していないものであり(6)、製造された児童ポルノが流通して社会に広がることになる可能性は, 否定できないものの,低いといえる。また,被写体児童に姿態をとらせることを要素とするその構成要件は(7))被写体となることにより受ける心身への有害な影響から被写体児童を守ることを第一の目的としているものと考えられる。そうすると,単純製造罪は, 第一次的には被写体児童の個人的法益を保護法益とするものであり.社会的法益はそれに付随して副次的に保護されるものにすぎず、個人的法益の侵害がない場合には,単純製造罪は成立しないというべきである(8)
イ公然陳列罪の場合
これに対し, 【事例2】で問題となる公然陳列罪は,公然陳列という行為の性質上, わいせつ物頒布等罪(刑法175条) と同様に考え, たとえ個人的法益に対する侵害がない場合であっても、社会的法益に対する侵害があれば,犯罪が成立するというべきであろう(9)


保護法益に関する以上の理解を前提として.
【事例1 】における少年A及びB, 【事例2】における少年Cについて, それぞれ犯罪の成否を検討する。
3 【事例1 】について
(1) 実行行為の内容
【事例1 】における実行行為の内容は,通常,
①Aが, Bに陰部等を露出した姿態をとらせ→
②Bが, その写真を自分のスマートフオンで撮影し→
③Bが, SNSのメッセージ機能を使って画像データをAに送信する,
という流れをたどることとなる。なお, スマートフォンの設定状況等にもよるが,③の時点では,画像データはAのスマートフオンではなく, SNSを運営する会社が管理するサーバに蔵置されていることが多い。その場合, Aが製造した児童ポルノは,そのサーバ上に蔵置された画像データということになる。そこで, Aのスマートフォンに蔵置するために
④Aにおいて,送信されてきた画像データを自分のスマートフォンに保存する作業
を行うことも少なくない。その場合, Aのスマートフォンに蔵置された画像データを製造された児童ポルノとしてとらえるのであれば,①から④までが実行行為となる。
(2) Aの単純製造罪の成否
まず, Aについて単純製造罪の成否を検討すると, 一連の実行行為のうち, 主要な部分を行っているのはBであるから, これをAに帰責してよいのか,帰責する場合にはどのような理由によるのかが問題となる。これを考える上では, AとBの関係性,両者の年齢,犯行に至る経緯等を踏まえて,具体的事例ごとに判断すべきである。例えば, Aが脅迫を用いてBに無理やり自画撮り等を行わせたケースであれば, Aには間接正犯として単純製造罪の成立が認められることになろう(10)一。方, Bが任意に自画撮り等を行ったケースについてみると,単純製造罪は, たとえ被写体児童が児童ポルノの製造に同意していたとしても成立するとされている(11)。ここで問題となるのは, Bが自らの意思に基づいて自画撮り等を行っている以上, もはや間接
正犯は成り立たず, AとBとの共同正犯を考えるべきなのではないかという点である(その反面Bの被害者としての立場を強調すると。Bを共同正犯とすることについても違和感がある。)。
間接正犯の成立をどの範囲で認めるのかという問題であり,具体的事例ごとの判断となると考えるが, Bが精神的に未熟で判断能力が十分とはいえず, AがこのようなBの精神的未熟さを認識した上で, Bに依頼して自画撮り等を行わせているような場合には, Aを間接正犯と評価すべき場合が多いのではないだろうか(12)


(3) Bの単純製造罪の成否
次に, Bについて検討する。被写体児童であるBは,基本的には単純製造罪における被害者の立場にあるものであるが.例外的に,被写体児童が他者に対して執勘,積極的に自分の児童ポルノを作成させるよう働きかけたような場合
には, Bに共犯が成立することは理論上考えられるとされている(13) しかし, Bにおいて,執勘かつ積極的に働きかけたようなことがあったとしても, それがBの精神的未熟さによるものである場合には,やはりBは被害者として扱うべきであろう。また, Bを共同正犯と評価すべき場合が仮にあったとしても, それは, Bが自らの法益を処分する行為であるから,個人的法益に対する侵害は認めることができない。そして,単純製造罪の保護法益に関する上記私見に基づく場合,個人的法益に対する侵害がない場合には単純製造罪は成立しないこととなるからBに単純製造罪は成立しないと考える。

4 【事例2】について
Cについても. Bと同様自らの法益を処分する行為を行っており,個人的法益に対する侵害は認められない。しかし,上述した私見に基づく場合,公然陳列罪は,社会的法益に対する侵害があれば成立することとなるので, Cには公然陳列罪が成立すると考える。
9)わいせつ物頒布等罪に比して法定刑が重いことなどを根拠として, 個人的法益に対する侵害がなければ公然陳列罪は成立しないとする見解もある(瀧本京太朗「いわゆる「自画撮り』行為の刑事規制に関する序論的考察(児童ポルノの自画撮りを題材として」北大法学論集68巻3号125頁,嘉門優「児童ポルノ規制法改正と法益論」刑事法ジャーナル43号79頁)。しかし,両罪の法定刑の下限は同じであり,個人的法益に対する侵害があった場合には刑が重くされると考えることもできる。
10) この場合,強要罪も成立することになるが,単純製造罪と強要罪の罪数関係については,具体的事案ごとに1個の行為といえるかどうかを判断することになる。この点に関する裁判例としては,観念的競合とした一審判決に法令適用の誤りがあるとして併合罪としたもの(東京高判平成28年2月19日判タ1432号134頁)などがある。
11)森山=野田・前掲注(4)100頁。もっとも,児童と真撃な交際をしている者が, 児童の承諾のもとでその裸体の写真を撮影する等,児童の承諾があり, かっこの承諾が社会的にみて相当であると認められる場合には,違法性が阻却され,犯罪が成立しない場合もあり得る(同101頁。札幌高判平成19年3月8日高刑速平成19年504頁参照)。
12)裁判例の中には, 間接正犯の成立を否定した上, 共同正犯の成立を認めたものもあるようである(瀧本・前掲注(9)89頁,奥村徹判例から見た児童ポルノ禁止法」園田寿=曽我部真裕綿著「改正児童ポルノ禁止法を考える」(日本評論社, 2014) 26頁)。
13)島戸・前掲注(6)110頁

家庭の法と裁判-Fami lyCourtJournal No、32/2021 .6

隠しカメラで裸を撮影する行為は「わいせつな行為」に当たらない~大竹依里 子検事「オンラインで,児童を裸にさせ,動画撮影させた行為について,強制 わいせつ罪で処理した事例」研修(令3.6,第876号)研修の現場から

隠しカメラで裸を撮影する行為は「わいせつな行為」に当たらない~大竹依里子検事「オンラインで,児童を裸にさせ,動画撮影させた行為について,強制わいせつ罪で処理した事例」研修第876号
 判例収集が甘いです

 対岸からの撮影行為については、名古屋高裁判例があります。近ければわいせつになることもあるようです。

名古屋高裁h31.3.4
(本件[認識不可能な遠方からの盗撮]は強制わいせつに当たらず弁護人の主張は前提においても失当)

「犯人が被害者の意思に不法に介入する要素」というのも、乳幼児への強制わいせつ罪(176条後段)を考えると重視されていなくて東京高裁に判例があります。

東京高裁h30.1.30
(1) 論旨は,6歳未満の児童に対して強制わいせつ罪等は成立しないのに,強制わいせつ罪等の成立を認めた原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というのである。
  (2) 刑法は,強制わいせつ罪等の対象について年齢の下限を設けておらず,むしろ13歳未満の児童に対しては保護を厚くしており,法文上,6歳未満の児童も強制わいせつ罪の対象となることは明らかである。
 所論は,①低年齢児に対するわいせつ行為では一般人の性欲を興奮,刺激させない,②低年齢児には性的羞恥心がないので,法益侵害がないなどと主張する。
 しかし,①については,6歳未満の低年齢児でも殊更に全裸又は下半身を裸にさせて性器を露出させてこれを撮影するならば,一般人の性欲を興奮,刺激させるもの,言い換えれば,一般人が性的な意味のある行為であると評価するものと解されるから,強制わいせつ行為に該当する。また,②については,強制わいせつ罪の保護法益は,個人の性的自由であると解されるが,所論のように性的羞恥心のみを重視するのは相当ではなく,一般人が性的な意味があると評価するような行為を意思に反してされたならば,性的自由が侵害されたものと解すべきである。そして,ここで意思に反しないとは,その意味を理解して自由な選択によりその行為を拒否していない場合をいうものと解されるから,そのような意味を理解しない乳幼児については,そもそもそのような意思に反
しない状況は想定できない。このことは,精神の障害により性的意味を理解できない者に対しても準強制わいせつ罪(刑法178条1項)が成立することによっても明らかである。本件では,生後4か月から5歳までの乳幼児に対し,性器を露出させるなどして,これを撮影したものであるから,同人らの性的自由を侵害したものと認められる。

また、「被害児童がその陰部等を露出したり,手で陰部を触るなどの姿態を撮影させ,撮影させた映像を,被害児童の携帯電話機のビデオ通話機能を使用して,被疑者の携帯電話機にライブ配信させた上,同映像を被疑者の携帯電話機本体に記録して保存した」という行為のうち、「撮影させ」まではわいせつ行為だが、送信・受信はわいせつ行為には入らないという東京高裁判決があります

東京高裁H28.2.19
すなわち,原判決が認定した事実には,被害者に対し,その名誉等にいかなる危害を加えるかもしれない旨脅迫して同女を畏怖させ,同女をして,その乳房,性器等を撮影させるという,強制わいせつ罪の構成要件の一部となり得る事実を含むものの,その成立に必要な性的意図は含まれておらず,さらに,撮影に係る画像データを被告人使用の携帯電話機に送信させるという,それ自体はわいせつな行為に当たらない行為までを含んだものとして構成されており,強要罪に該当する事実とみるほかないものである。
 弁護人は,①被害者(女子児童)の裸の写真を撮る場合,わいせつな意図で行われるのが通常であるから,格別に性的意図が記されていなくても,その要件に欠けるところはない,②原判決は,量刑の理由の部分で性的意図を認定している,③被害者をして撮影させた乳房,性器等の画像データを被告人使用の携帯電話機に送信させる行為もわいせつな行為に当たる,などと主張する。
 しかしながら,①については,本件起訴状に記載された罪名および罰条の記載が強制わいせつ罪を示すものでないことに加え,公訴事実に性的意図を示す記載もないことからすれば,本件において,強制わいせつ罪に該当する事実が起訴されていないのは明らかであるところ,原審においても,その限りで事実を認定しているのであるから,その認定に係る事実は,性的意図を含むものとはいえない。
 また,②については,量刑の理由は,犯罪事実の認定ではなく,弁護人の主張は失当である。
 そして,③については,画像データを送信させる行為をもって,わいせつな行為とすることはできない。

研修の現場から
オンラインで,児童を裸にさせ,動画撮影させた行為について,強制わいせつ罪で処理した事例
大竹依里子
第2 本事例の概要及び原庁での処理内容等
本事例は,被告人が,当時10歳ないし11歳の児童4名(以下,「被害児童」という。)に対し,オンラインゲーム上で使用できるアイテム等を交付することの対価として,被害児童がその陰部等を露出したり,手で陰部を触るなどの姿態を撮影させ,撮影させた映像を,被害児童の携帯電話機のビデオ通話機能を使用して,被疑者の携帯電話機にライブ配信させた上,同映像を被疑者の携帯電話機本体に記録して保存した事案です。
原庁は,本件について,児童ポルノ製造罪だけでなく,強制わいせつ罪も成立するとして,両罪で公判請求し,一審の判決も公訴事実どおりの罪を認定しました。
そこで,被害者の身体に触れておらず(非接触),しかも,被疑者が遠隔地にいて,被害児童とオンラインでつながっている(非面前)という特徴を有する本事例を題材にして,わいせつな行為をどのように認定し,立証すれば良いかを,近時の最高裁判決における「わいせつな行為」の判断方法を踏まえて検討しました。
以下,検討の順に沿って,述べていくこととします。
第3 最高裁判決における「わいせつな行為」の判断方法
第4具体的検討
1 被害児童を裸にさせて撮影する行為が「わいせつな行為」と言えるか
本事例には,被害児童に衣服を脱がせて裸にさせる行為,裸の撮影行為がありました。
被害児童に衣服を脱がせて裸にさせる行為について,研修員からは,当該行為がわいせつな行為に該当するということに異論はありませんでした。
その理由として,衣服を脱がせて裸にさせる行為は,被害者の性的自由ないし性的差恥心を侵害する行為であり,社会通念に照らしても,当該行為に性的な意味があるということが挙げられていました。
また,裸の撮影行為それ自体を見ても,他者に見られたくない性的な画像が保存され,あるいは第三者に拡散されるおそれが生じるという点で,新たな性的自由に対する侵害が生じていることから,衣服を脱がせて裸にさせる行為とは別に,裸の撮影行為についても,わいせつな行為に該当するという結論に至りました。
いずれの行為を見ても,わいせつな行為の判断要素として、被害者の性的自由の侵害は,大きな要素であるという結論に至りました。
2 隠しカメラで裸を撮影する行為が「わいせつな行為」と言えるか
次に,本事例の対照事例として,例えば,13歳未満の者がいる更衣室等において,ひそかに,裸を撮影する行為を想定して検討しました。
確かに,このような場合であっても,被害者の性的自由は,客観的には侵害されているといえそうです。
しかし,このような場合には,被害者において,性的自由が侵害された認識がないという理由から,強制わいせつ罪は成立しないという意見で一致しました。
そうすると,わいせつな行為を判断する際に,被害者の認識の有無は大きな要素を占めるのではないかと考えられ,被害者の認識がない,例えば,全裸で就寝中の他人を撮影する行為はわいせつな行為にはならないとの意見で一致しました。
そして,被害者の認識の有無がわいせつな行為の判断に大きな要素を占めることから,犯人が被害者の意思に働き掛ける要素の有無が,わいせつな行為の成否に影響するという結論に至りました。
その理由は,性的な自由について,他人が個人の性的な領域に対して不法に(暴力的に)介入すること排除して,個人の性的領域についての自由な意思決定と活動を内容とする権利だと考えると,強制わいせつ罪のわいせつな行為の判断には,犯人が被害者の意思に不法に介入する要素が必要であると考えられるからです。

3 非面前における行為が「わいせつな行為」と言えるか
ところで,本件では,遠隔地から携帯電話機のビデオ通話機能を使用して行われている犯行ですが,遠隔地にいる,すなわち,犯人と児童とが目の前にいないことが,わいせつな行為の判断に影響を与えるかも検討しました。
この点について,犯人が遠隔地にいるからといって,自己の裸を他人の目に直接さらすということに違いはなく,遠隔地でオンラインでつながっていることは,規範的に見て,目の前にいることと違いはないという結論に至りました。
 対照事例として,犯人が遠隔地にいて,オンラインで,自分の性器を露出した動画を相手方に送りつけた場合は,どうかということも検討しました。
この点については,強制わいせつ罪のわいせつな行為とまでは言えないのではないかという結論に足りました。
それは,接触を伴う強制わいせつと同程度に,相手の身体を積極的に利用したり,侵害したりするものとは言えないという理由が挙げられました。
このように,わいせつな行為の判断においては,この被害者の身体を積極的に利用したり,侵害したりすることが要素として挙げられると考えられます。
さらに,被害者に自分の裸を撮影させて,後でその動画を送らせる,すなわち,裸の動画を撮影している際には,犯人が被害者の面前にいるとは規範的にも言えない場合は,わいせつな行為に当たるかも検討しました。
これについては,接触を伴う強制わいせつにおいては,犯人が被害者の面前にいることが前提にされていることから,非接触の強制わいせつにおいても,犯人が規範的に見て,被害者の目の前にいると言えなければ,わいせつな行為に
当たらないという意見もありました。
この点,研修員の中からは,遠隔地にいる被害者を脅迫して,被害者の裸の写真を送らせた行為について,強制わいせつ罪で逮捕状を請求したところ,これを却下された事例があるという報告もありましたが、この裁判官も上述したのと同じ理由で強制わいせつ罪に該当しないと判断したものと思われます。

 武井検事に裁判所を聞いて閲覧してきましたが、公訴事実第1(強制わいせつ罪(176条後段))は生中継型でしたが、第3(強制わいせつ罪(176条後段))以降は静止画像の送信で、要求行為と受信との間にタイムラグがあって「遠隔地でオンラインでつながっていることは,規範的に見て,目の前にいることと違いはないという結論に至りました。」というのであれば、わいせつ行為に当たらないことになります。一貫していません。
 しかも、起訴検事は、児童ポルノ製造罪の訴因にLINEの「陰部を手で直接触る姿態を取らせて」を挙げて、1号ポルノの製造罪で起訴していましたが、裁判所に削られています。オンラインという点で、性交と同視できないようです。

公訴事実
被告人が、a(当時12歳)が 13歳未満の者と知りながら
第1 a12歳にわいせつ行為しようと企て
令和3年11月15日12:31~1253までの間
大阪市市北区西天満4の被告人方から
aに対して 被告人が使用する携帯電話機を使用して前記aが使用する携帯電話機に
アプリケーションソフトLINEのビデオ通話を使用して
全裸で陰部等を露出したaの姿態 
及び
陰部を直接手で触る姿態を撮影して
被告人が使用する携帯電話に動画配信するように要求し
その頃児童方において 同人aに衣服を脱がせて全裸で陰部等を露出した姿態 
及び
陰部を手で直接触る姿態を取らせて
これをa12が使用する携帯電話機で撮影させ、
もって13未満にわいせつ行為をし、強制わいせつ罪(176条後段)
第2 前同日、 第1の通り、a12歳に対して
全裸で陰部等露出した姿態 
及び
陰部を手で直接触る姿態を取らせて
前記LINEのビデオ通話機能を使用して 被告人の携帯に動画配信させ
そのころ、被告人方において、携帯の録画機能を用いて動画データを携帯電話機内の内蔵記録装置に記録させて保存して
もって 
児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為にかかる児童の姿態
及び
衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録にかかる記録媒体である児童ポルノを製造し 

関税関係基本通達集における児童ポルノ

関税関係基本通達集における児童ポルノ

関税関係基本通達集 令和元年度版 上巻
児童ポルノの取扱い)
69の2-1の2
児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(平成11年法律第52号。以下「児童ポルノ法」という。)第2条第3項《定義》に規定する児童ポルノ(以下「児童ポルノ」という。)の取扱いは次による。
(1)児童ポルノは児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものであり、性器等(児童ポルノ法第2条第2項に規定する性器等(性器、肛門又は乳首)をいう。以下同じ。)が描写されておらず、又は性器等にぼかしが施されているものであっても、児童ポルノに該当する。
なお、実在する児童の姿態を描写したものとは認められないアニメーション等は、児童ポルノに該当しない。

(2)児童ポルノ法第2条第3項第1号に規定する「性交類似行為」とは、実質的にみて性交と同視し得る態様における性的な行為(例えば、異性間における性交とその態様を同じくする状況下におけるあるいは性交を模して行われる手淫行為、口淫行為、同性愛行為等)をいう。

(3)児童ポルノ法第2条第3項第3号に規定する「衣服の全部又は一部を着けない」とは、社会通念上衣服と認められる物を全く着用していないか、又は衣服の一部を着用していない状態をいう。

(4)児童ポルノ法第2条第3項第3号に規定する「児童の性的な部位」とは、性器等若しくはその周辺部、臂部又は胸部をいう。
これは、性器等のみでは裸の児童の後方から撮影し、性器等が写っていない場合に対象外となることから、性器の周辺部・臂部・胸部を含むものとしていることに留意する。

(5)児童ポルノ法第2条第3項第3号に規定する「殊更に」とは、一般的には、「合理的理由なく」「わざわざ・わざと」の意味と解されており、児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものの内容が性欲の興奮又は刺激に向けられていると評価されるものかどうかを判断するためのものである。
その判断は、児童の性的な部位が描写されているか、児童の性的な部位の描写が画像全体に占める割合(時間や枚数)等の客観的要素に基づいてなされるものである。
例えば、水浴びをしている裸の幼児の自然な姿を親が成長記録のため撮影したような場合は、その画像の客観的な状況から、内容が性欲の興奮又は刺激に向けられていると評価されるものでない限り対象外となる。

(6)児童ポルノ法第2条第3項第3号に規定する「強調」とは、「露出」のみでは、児童の性的な部位が隠れていても強調・誇示されている場合が含まれないことから、児童の性的な部位の「強調」も対象とすることとしたものであり、具体的には、描写の方法を含めた、写真・映像等の全体から判断するものである。
例えば、着衣の上から撮影した場合や、ぼかしが入っている場合や、児童が意識的に股間や胸を強調するポーズをとっていない場合であっても、性器等やその周辺部を大きく描写したり、長時間描写しているかどうか、着衣の一部をめくって該当部分を描写しているかどうかなどの諸要素を総合的に勘案して判断する。

(7)児童ポルノの取扱いは、学術研究、文化芸術活動、報道等に関する国民の権利及び自由を不当に侵害しないように留意し、児童に対する性的搾取及び性的虐待から児童を保護しその権利を擁護するとの本来の目的を逸脱して他の目的のためにこれを濫用することがあってはならないと児童ポルノ法第3条に規定されていることに留意する。

(該当通知)
69の2-2
法第69条の2第3項の規定による通知は、「輸出してはならない貨物該当通知書」 (C-5600)(外国郵便物にあっては、「外国郵便物に係る輸出してはならない貨物該当通知書」(C-5602))を、当該通知に係る輸出貨物の検査を行った税関官署から当該貨物を輸出しようとする者に直接又は配達証明付郵便若しくは民間事業者による信書の送達に関する法律(平成14年法律第99号)第2条第6項
《定義》に規定する一般信書便事業者の提供する同条第2項に規定する役務のうち配達証明付郵便に準ずるものとして税関長が認めるものをもって交付することにより行う。
ただし、これらによりがたい場合には、前記2 41の(3)及び2の42の(3)による公示送達によるものとする。

(該当物品の処理)
69の2-3法第69条の2第3項の規定による通知を受けた者は、当該通知に係る貨物につき自発的に次の処理をすることができる。
なお、当該通知に不服がある場合は、法第8章の定めるところによる。
(1)廃棄又は滅却
(2)該当箇所の修整又は削除
(3)任意放棄

(輸入してはならない貨物の取扱い)
69の11-1
法第69条の11第3項の「この章に定めるところに従い輸入されようとする貨
物」とは、輸入申告された貨物又は日本郵便株式会社から提示された郵便物を
いう。
したがって、この章の規定の適用をいまだ受けていない保税貨物等の中に法第
69条の11第1項第7号又は第8号に規定する輸入してはならない貨物に該当する
貨物があってもその段階においては同条第3項の規定は適用されない。

(風俗を害すべき物品の取扱い)
69の11-1の2
「風俗を害すべき」物品の取扱いについては、従来の判例を踏まえ、次によ
る。
(1)「風俗」とは専ら性的風俗を意味するので、輸入禁止の対象はわいせつ
な書籍、図画等に限るものとする。
(2)「風俗を害すべき」物品の審査は、輸入貨物に対する通常の税関検査過
程で発見された書籍、図画等を対象とするものである。
ただし、思想内容等それ自体を網羅的に審査し規制することを目的とするもの
ではないことに留意する。

(わいせつ物品の取扱い)
69の11-1の3
わいせつ物品の取扱いは、従来の判例等を踏まえ、次による。
(1)書籍、図画及び動画等男女の露出された性器が描写されている書籍、図画
及び動画等については、原則として、わいせつ性を有する物品として取り扱
う。
ただし、性器が描写されている書籍、図画及び動画等であっても、その描写の
程度とその手法、その描写が作品全体に占める比重、構成等を総合的に考慮し
て、主として観る者の好色的興味に訴えるものと客観的に認められないものに
ついては、わいせつ性を有する物品としては取り扱わないものとする。
具体的には、次のイからチのいずれかに該当する場合には、わいせつ性を有す
るものとしては取り扱わないものとする。
イ性器の描写が不明瞭又は不鮮明であるもの
口殊更に強調することなく性器が描写されているものであって、性交又は愛撫
若しくは勃起の描写がなく、性器の輪郭程度しか判別できない大きさのもの
ハ性交又は愛撫若しくは勃起の描写がなく、日常生活において衣類をつけてい
ない民族が描写されたもの
二性器の描写が単純化されたアニメーションであるものホ医学・医療用又は性
教育用と認められるものへ写真集・写真雑誌であって、性交又は愛撫若しくは
勃起の描写がなく、性器の描写されている写真が、作品全体のごく一部である
と認められるもの
ト動画であって、性交又は愛撫若しくは勃起の描写がなく、通常の速度で映写
又は再生された画面において、性器が殊更に強調されることなく短時間描写さ
れたもの、あるいは、強調されたものであっても、性器の描写が瞬間的なもの
チその他、性器の描写がその程度と手法、作品全体に占める比重、構成等を総
合的に考慮して、主として観る者の好色的興味に訴えるものと客観的に認めら
れないもの
(2)人形・工芸品類又は模造性器具
性器が描写又は模倣されている人形・工芸品類又は模造性器具については、原
則として、わいせつ性を有する物品として取り扱う。
ただし、次に掲げるもののいずれかに当たるものについては、わいせつ性を有
する物品としては取り扱わない。
イ人間の肌の色以外の色彩等を施したもの
ロ現実感に欠けるもの
ハ描写又は模倣が精巧でないもの
二医学・医療用又は性教育用と認められるもの
児童ポルノの取扱い)
69の1-11の4
児童ポルノの取扱いは前記69の2-1の2による。

(該当通知)
69の11-2
法第69条の11第3項の規定による通知は、「輸入してはならない貨物該当通知書」 (C 5800)(外国郵便物にあっては、「外国郵便物に係る輸入してはならない貨物該当通知書」(C-5802))を、当該通知に係る輸入貨物の検査を行った税関官署から当該貨物を輸入しようとする者に直接又は配達証明付郵便若しくは民間事業者による信耆の送達に関する法律(平成14年法律第99号)第2条第6項《定義》に規定する一般信書便事業者の提供する同条第2項に規定する役務のうち配達証明付郵便に準ずるものとして税関長が認めるものをもって交付することにより行う。
ただし、これらによりがたい場合には、前記24-1の(3)及び2の4-2の(3)による公示送達によるものとする。

(該当物品の処理)
69の11-3
法第69条の11第3項の規定による通知を受けた者は、当該通知に係る貨物につき自発的に次の処理をすることができる。
なお、当該通知に不服がある場合は、法第8章の定めるところによる。
(1)法第34条の規定による廃棄(2)法第45条第1項ただし書(法第36条第1項、第41条の3、第61条の4,第62条の7及び第62条の15において準用する場合を含む)の規定による滅却
(3) 法第75条の規定による積戻し(児童ポルノを除く。)
(4) 該当箇所の修整又は削除
(5) 任意放棄

50歳が14歳と性行為しても処罰されない地域(淫行特区)

 青少年淫行罪について

「淫行」とは、広く青少年に対する性行為一般をいうものと解すべきでなく、
①青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか、
②青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性交又は性交類似行為をいうものと解するのが相当である。(最大判S60.10.23)

という判例があって、①②の処罰が許容されているのですが、そのうちの①だけを処罰している(②は処罰されない)条例(淫行特区)があります。大阪府もr02改正前まではそういう条例でした。 
 威迫・欺罔・困惑がない場合、50歳が14歳と性行為しても処罰されないことになり、実際にもそう運用されています。
 頻繁に改正されているのに、この規定が残されているので、この地域ではそういう民意だと思われます。


 ちなみに、①②を処罰する青少年条例の無罪判決は2件確認されています。
名古屋簡裁平成19年5月23日 愛知県青少年保護育成条例違反被告事件(無罪)は 17歳 31歳
神戸地裁尼崎支部平成29年8月23日 兵庫県少年愛護条例違反違反被告事件(無罪) 17歳 38歳

https://digital.asahi.com/articles/ASP676TZPP67UTFK010.html
本多氏も7日夜、「今回、党内での会議の一部の発言が報道されるに至りましたが、趣旨において私の理解が足りていない、また報道によって傷つく方がいるとのご批判は当然と考えます。真摯(しんし)に反省をし、認識を深めていきます。性犯罪に関する刑法改正に関して、私は、一方当事者が少なくとも中学生までの低年齢で、他方当事者が成人である場合、両者の間に対等性はなく性搾取となっている実態を踏まえ、低年齢当事者を保護するために成人を処罰対象とすることの必要性を認識しています。刑事処罰の議論では、限界事例についての検討や、特異な例外事例の存在など緻密(ちみつ)な検討が必要だと考えました。しかしながら、私の発言は、例外事例としても不適切であり、お詫(わ)びして撤回いたします」とのコメントを公表した。
島岡まな教授「先進国だったら議員辞職くらいのレベル」
 発言を聞き、驚いて絶句した。日本では今まで問題にされなかったと思うが、先進国だったら国会議員辞職くらいのレベルだ。海外の先進国では、対等な関係がなければ、恋愛とはみなさない。
 成人と中学生の場合、真摯(しんし)な恋愛関係は成りたたないという姿勢を刑法で示すことが大事だ。法律、社会の規制として、そうしたものは性的搾取にあたるから、犯罪となり得るということを見せるべきだ。

山口県青少年健全育成条例
https://www.pref.yamaguchi.lg.jp/cms/a11800/seisyounen/jourei/zenbun.html
第12条 
1何人も、青少年に対し、次に掲げる行為をしてはならない。
(1)金品その他の財産上の利益を供与し、若しくは役務を提供し、又はこれらの供与若しくは提供を約束して性行為又はわいせつの行為をすること。
(2)相手方を欺き、若しくは困惑させ、又はその困惑に乗じて性行為又はわいせつの行為をすること。
(3)あつせんを受けて性行為又はわいせつの行為をすること。
2 何人も、青少年に対し、みだらな性行為又はわいせつの行為を教え、又はこれらを見せてはならない。
。。
長野県子どもを性被害から守るための条例
https://www.pref.nagano.lg.jp/jisedai/kyoiku/kodomo/shisaku/documents/20171016kaijorei.pdf
(威迫等による性行為等の禁止)
第17条 何人も、子どもに対し、威迫し、欺き若しくは困惑させ、又はその困惑に乗じて、性行為又はわいせつな行為を行ってはならない。
2 何人も、子どもに対し、威迫し、欺き若しくは困惑させ、又はその困惑に乗じてわいせつな行為を行わせてはならない。
3 何人も、子どもに対し、自己の性的好奇心を満たす目的で、性行為又はわいせつな行為を見せ、又は教えてはならない。
。。
京都府青少年の健全な育成に関する条例
http://www.pref.kyoto.jp/reiki/reiki_honbun/a300RG00000341.html
第21条 
1何人も、青少年に対し、金品その他財産上の利益若しくは職務を供与し、若しくはそれらの供与を約束することにより、又は精神的、知的未熟若しくは情緒的不安定に乗じて、 淫行又はわいせつ行為をしてはならない。

1 何人も、青少年に対し、 淫行又はわいせつ行為を教え、又は見せてはならない。

・・・
R02改正前の大阪府青少年健全育成条例
https://www.pref.osaka.lg.jp/houbun/reiki/reiki_honbun/k201RG00000487.html
第三十九条 何人も、次に掲げる行為を行ってはならない。
一 青少年に金品その他の財産上の利益、役務若しくは職務を供与し、又はこれらを供与する約束で、当該青少年に対し性行為又はわいせつな行為を行うこと(児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(平成十一年法律第五十二号。以下「児童買春・児童ポルノ禁止法」という。)第二条第二項に該当するものを除く。)。
二 専ら性的欲望を満足させる目的で、青少年を威迫し、欺き、又は困惑させて、当該青少年に対し性行為又はわいせつな行為を行うこと。

「性交等する姿態」という事実で、2号3号ポルノを認定した事案(金沢地裁R3.3.30)→理由不備で破棄 名古屋高裁金沢支部R03.09.14

「性交等する姿態」という事実で、1号2号3号ポルノを認定した事案(理由不備) 金沢地裁R3.3.30
 こんなのは理由不備だとして破棄された判決があります。(名古屋高裁、仙台高裁)。性交してても、性器接触があるとか、裸だとか言えないからです。
 重い強制性交に集中してしまい、軽い児童ポルノ罪の訴因を検討してないことがよくあります。

金沢地方裁判所令和03年03月30日
 上記の者に対する強制性交等、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(以下「児童買春法」という。)違反被告事件について、当裁判所は、検察官伊藤純基及び同江藤涼並びに私選弁護人太田圭一各出席の上審理し、次のとおり判決する。
理由
(罪となるべき事実)
第1 令和2年11月4日付け起訴状記載の公訴事実のとおりであるから、これを引用する。
第2 令和2年12月10日付け起訴状記載の公訴事実のとおりであるから、これを引用する。
第3 令和3年1月13日付け起訴状記載の公訴事実第1(冒頭の事実を含む。)のとおりであるから、これを引用する。
第4 令和3年1月13日付け起訴状記載の公訴事実第2(冒頭の事実を含む。なお、同事実別表2番号5に「同日午後3時頃までの間」とあるのを「同日午後1時頃までの間」と改める。)のとおりであるから、これを引用する。
 なお、被告人は、令和2年10月14日、石川県A警察署に出頭し、同署司法警察員Bに判示第1及び第3の犯罪事実について自首した。
・・・
判示第4
r3.1.13起訴
 被告人は、●●●が13歳未満の者であることを知りながら
第1 同人と性交等をしようと考え、別表1記載のとおり、令和2年9月20日から同年10月4日までの間に、5回にわたり、石川県●●●ほか4か所において、同人と性交及び口腔性交をし
第2 別表2記載のとおり、同年9月20日から同年10月4日までの間に、5回にわたり、●●●ほか4か所において、同児童に、被告人と性交等をする姿態をとらせ、これを被告人が使用するカメラ機能付きスマートフォンで動画撮影し、その動画データ合計22点を同スマートフォンに内蔵された記録装置に記録して保存し、もって児童を相手方とする性交又は性交類似行為に係る児童の姿態、他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの及び衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写した児童ポルノを製造し
たものである。
  罪名及び罰条
 第1 強制性交等 刑法第177条後段
 第2 児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び
  処罰並びに児童の保護等に関する法律違反
  同法律第7条第4項、第2条第3項第1号
  第2号、第3号

判例番号】 L07650512

       強制性交等,児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件

【事件番号】 金沢地方裁判所判決/令和2年(わ)第325号、令和2年(わ)第372号、令和3年(わ)第2号
【判決日付】 令和3年3月30日
【掲載誌】  LLI/DB 判例秘書登載

       主   文

 被告人を懲役4年に処する。
 未決勾留日数中10日をその刑に算入する。

       理   由

(罪となるべき事実)
第1 令和2年11月4日付け起訴状記載の公訴事実のとおりであるから,これを引用する。
第2 令和2年12月10日付け起訴状記載の公訴事実のとおりであるから,これを引用する。
第3 令和3年1月13日付け起訴状記載の公訴事実第1(冒頭の事実を含む。)のとおりであるから,これを引用する。
第4 令和3年1月13日付け起訴状記載の公訴事実第2(冒頭の事実を含む。なお,同事実別表2番号5に「同日午後3時頃までの間」とあるのを「同日午後1時頃までの間」と改める。)のとおりであるから,これを引用する。
 なお,被告人は,令和2年10月14日,石川県大聖寺警察署に出頭し,同署司法警察員Aに判示第1及び第3の犯罪事実について自首した。
(証拠の標目)
括弧内の甲乙の番号は証拠等関係カード記載の検察官請求番号を示す。
判示事実全部について
・被告人の公判供述
・被告人の警察官調書(乙4,11)
・捜査報告書(甲10)
判示第1及び第2の各事実について
・被告人の検察官調書(乙6)及び警察官調書(乙5)
・捜査報告書(甲1,2,6(謄本)),写真撮影報告書(甲3)
判示第3別表1番号1及び第4別表2番号1の各事実について
・捜査報告書(甲13,22),写真撮影報告書(甲17)
判示第3別表1番号2ないし4及び第4別表2番号2ないし4の各事実について
・捜査報告書(甲14,16)
判示第3別表1番号2及び第4別表2番号2の各事実について
・写真撮影報告書(甲18),捜査報告書(甲23)
判示第3別表1番号3及び第4別表2番号3の各事実について
・写真撮影報告書(甲19),捜査報告書(甲24)
判示第3別表1番号4及び第4別表2番号4の各事実について
・写真撮影報告書(甲20),捜査報告書(甲25)
判示第3別表1番号5及び第4別表2番号5の各事実について
・捜査報告書(甲15,26),写真撮影報告書(甲21)
自首の事実について
・自首調書(乙7)
(法令の適用)
罰条
 判示第1,判示第3別表1番号1ないし5の各所為
      いずれも刑法177条後段
 判示第2の所為
      児童買春法7条4項,2項,2条3項1号
 判示第4別表2番号1ないし5の各所為
      いずれも児童買春法7条4項,2項,2条3項1号,2号,3号
刑種の選択
 判示第2,第4別表2番号1ないし5の各罪
      いずれも懲役刑を選択
法律上の減軽
 判示第1,第3別表1番号1ないし5の各罪
      いずれも刑法42条1項,68条3号
併合罪の処理
      刑法45条前段,47条本文,10条(刑及び犯情の最も重い判示第1の罪の刑に法定の加重)
未決勾留日数の算入
      刑法21条
(量刑の理由)
 本件は,被告人が当時■■歳の被害者に対して6回にわたり強制性交等をし,その際にそれらの様子を撮影して児童ポルノを製造した事案である。
 被告人は,(秘匿部分につき略)被害者の思慮浅薄に乗じて,自らの性欲の赴くままに凌辱を繰り返したもので,その意思決定は強い非難を免れない。強制性交等の様子を撮影して児童ポルノを製造した点も看過できない。本件犯行の結果被害者の被った社会的不利益は大きく,今後の成長に与える悪影響が懸念される。被害者の保護者らの処罰感情が厳しいのも当然である。そうすると,本件が被害者の意に反するような態様のものではなかったことを踏まえても,被告人の刑事責任は誠に重大であり,実刑は免れない。
 他方,被害者に対し被害弁償として500万円を支払ったこと,自首し,公判廷で反省の言葉をのべ更生を誓っていること,本件により懲戒免職処分を受けるなどの社会的制裁を受けたこと,前科前歴がないこと,被告人の母親が被告人と同居して監督する旨誓約をしていること等の被告人に有利に斟酌すべき事情もある。
 以上の事情を考慮し,自首減軽の上,主文の刑に処するのが相当であると判断した。
(求刑 懲役6年)
  令和3年3月30日
    金沢地方裁判所刑事部
        裁判長裁判官  大村陽一
           裁判官  白井知志
           裁判官  塩島なつ美

追記2021/09/14
理由不備で破棄されました。名古屋高裁金沢支部R03.09.14

https://news.yahoo.co.jp/articles/089d11d10ad2d22e0827d728acb24180991ba785
14日開かれた控訴審判決で、名古屋高裁金沢支部の森浩史裁判長は、児童ポルノを製造した罪について一審の判決では事実の記載に理由の不備があるとして判決を破棄しました。

追記2021/11/12
判例DBで公開されました。
名古屋高等裁判所金沢支部令和3年9月14日強制性交等,児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(以下「児童買春法」という。)違反被告事件
lex/db【文献番号】25590952
名古屋高等裁判所金沢支部
令和3年9月14日第2部判決

「中学生に対する性行為は、多くの都道府県条例で同意があっても処罰対象としているが、地域によっては結婚を前提とした交際関係などがある場合、対象から外している。」という産経新聞の記事が間違っている

 産経は「中学生に対する性行為は、多くの都道府県条例で同意があっても処罰対象としているが、地域によっては結婚を前提とした交際関係などがある場合、対象から外している。」というのです。

https://news.yahoo.co.jp/articles/54f219d2443d6243e4358bb7cabe81bd14f8a644
立憲民主党の性犯罪刑法改正に関するワーキングチーム(WT)で、中学生を性被害から守るための法改正を議論した際、出席議員が「50歳近くの自分が14歳の子と性交したら、たとえ同意があっても捕まることになる。それはおかしい」などとして、成人と中学生の性行為を一律に取り締まることに反対したことがわかった。
複数の党関係者によると、発言したのは50代の衆院議員。「年の離れた成人と中学生の子供に真剣な恋愛関係が存在する場合がある」とも語り、厳罰化に慎重な姿勢を示したという。
現在の刑法では、本人の同意があっても性行為自体を罪に問うのは13歳未満に限られている。中学生に対する性行為は、多くの都道府県条例で同意があっても処罰対象としているが、地域によっては結婚を前提とした交際関係などがある場合、対象から外している。

 確かに、神奈川県条例では、結婚を前提にしている場合を除外しているように見えますが、明文で「結婚(法律婚に限らない)」を挙げるのは神奈川だけのようです。公訴事実に「結婚等正当な理由が無いのに」というのは他の青少年条例違反事件でも見かけます。
 しかし、福岡県青少年保護育成条例違反被告事件最高裁判所大法廷判決昭和60年10月23日によって、13歳以上との性行為については、刑法が放任していて条例による規制が許されるとされて、さらに淫行処罰規定に限定解釈されることになって、「「淫行」とは、広く青少年に対する性行為一般をいうものと解すべきでなく、①青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか、②青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性交又は性交類似行為をいうものと解するのが相当である。(最大判S60.10.23)」というのが全国一律の解釈になっています。
 「中学生に対する性行為は、多くの都道府県条例で同意があっても処罰対象としているが、地域によっては結婚を前提とした交際関係などがある場合、対象から外している。」でななく、「青少年に対する性行為一般をいうものと解すべきでなく、①青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか、②青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性交又は性交類似行為だけが処罰されている」というのが正解です。
 とすれば、「「年の離れた成人と中学生の子供に真剣な恋愛関係が存在する場合がある」とも語り、厳罰化に慎重な姿勢を示したという。」という発言は、現行の法律条例の体制の理解説明としては正解であって、記者の方が勉強不足ということになります。

神奈川県青少年保護育成条例
https://www.pref.kanagawa.jp/docs/t7e/cnt/f4151/p385175.html
みだらな性行為、わいせつな行為の禁止)
定義)
第7条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
(1) 青少年 満18歳に達するまでの者(婚姻により成年に達したものとみなされる者を除く。)をいう。
第31条 
1何人も、青少年に対し、みだらな性行為又はわいせつな行為をしてはならない。
2 何人も、青少年に対し、前項の行為を教え、又は見せてはならない。
3 第1項に規定する「みだらな性行為」とは、健全な常識を有する一般社会人からみて、結婚を前提としない単に欲望を満たすためにのみ行う性交をいい、同項に規定する「わいせつな行為」とは、いたずらに性欲を刺激し、又は興奮させ、かつ、健全な常識を有する一般社会人に対し、性的しゆう恥けん悪の情をおこさせる行為をいう。

s32
第九条
1何人も、青少年に対し淫行、わいせつ行為をしてはならない
2何人も、青少年に対し前項の行為を教え、またはとれを見せてはならない

S53改正
第9条
1何人も.青少年に対l. みだらな性行為又はわいせつな行為をしてはとE
らない。
2 何人も青少年に対し 前項の行為を教え.又はこれを見せてはならない。
3 第1項に規定する「みだらな性行為」とは,健全な常識を有する一般社会人からみて.結婚を前提としない単に欲望を満たすためにのみ行う性交をいい、同項に規定する「わいせつな行為」とは,いたずらに性欲を刺激し.又は興奮させ,かっ,健全な常識を有する一般社会人に対し. 性的しゅう恥けん悪の情をおこさせる行為をいう。
〔要旨]
本条は.青少年に対してみだらな性行為若しくは,わいせつな行為をすること又はこれらの行為を教えたり.見せたりすることを禁止したものである。
〔解説〕
2 本条の違反行為は,青少年の健全な肉体的.心理的.精神的ないしは,社会的な成長のすべて若しくはその一部の成長が阻害されると認められる場合をその対象とするものであり,その認定にあたっては.行為の動機,手段及び態様並びに当該行為が青少年に与えた影響等諸般の事情を十分に考慮して.客観的,総合的に判断されるべきものである。従って,青世年に対する行為でも,例えば結婚を前提とした真に双方の合意ある男女間の性行為等は本条に該当しない。
改正経緯
カ社会情勢は著しく変化し,近年,少女売春等青少年の性に関する非行が氾濫し,大きな社会問題となってきた。このような問題は一部の好ましくない大人の身勝手な行為により,青少年の健全育成を阻害するものであり,青少年の福祉を守るうえから十分配慮しなければならない。
そこで「青少年に対するみだらな性行為・わいせつな行為」 は,刑法売春防止法児童福祉法などいずれの法令によっても取締ることができず,条例でも訓示規定となっていることから.処罰することができ辛かったため.昭和53年10月に条例の一部改正を行い、「」みだらな性行為・わいせつな行為の禁止」(第9条)については罰則規定を設け,
同条において「みだら在住行為・わいせつな行為」の構成要件を明確にした。あわせて「場所の提供等の禁止」(9条の2)0.無過失免責の規定(第14条の5)及ぴ,条例の適正な運用を図るため条例の解釈適用条項(第1条の2) を追加した。

神奈川県青少年保護育成条例の解説 平成25年3月
(みだらな性行為、わいせつな行為の禁止)
第31条
1 何人も、青少年に対し、みだらな性行為又はわいせつな行為をしてはならない。
2 何人も、青少年に対し、前項の行為を教え、又は見せてはならない。
3 第1項に規定する「みだらな性行為」とは、健全な常識を有する一般社会人からみて、結婚を前提としない単に欲望を満たすためにのみ行う性交をいい、同項に規定する「わいせつな行為」とは、いたずらに性欲を刺激し、又は興奮させ、かつ、健全な上記を有する一般社会人に対し、性的しゅう恥けん悪の情をおこさせる行為をいう。
[趣旨〕
本条は、青少年に対してみだらな性行為又はわいせつな行為をすることを禁止したものである。また、ごれらの行為を教えたり、見せたりすることを禁止したものである。
※罰則
第1項違反2年以下の懲役又は100万円以下の罰金(第53条第1項)
第2項違反1年以下の懲役又は50万円以下の罰金(第53条第2項第2号)
[解説]
本条は、青少年を対象としだ性行為等のうち、健全な育成を阻害するおそれがあるものとして社会通念上非難を受けるべきものを対象としているが、その行為の認定にあたっては動機、手段及び態様のほか、当該行為が青少年に与えた影響等、諸般の事情を十分に考慮して、客観的、総合的に判断されるべきものである。
I 第1項関係
1 「みだらな性行為」の意義については、第3項で規定されている。その解釈は、象徴的には「人格的交流のない性交」を言うものであり、具体的には、次のものが例として挙げられる。
① 青少年を誘惑し、威迫し、欺岡し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行うもの
② 青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないようなもの
③ 行きずりの青少年を相手方とするもの、あるいは多数人を相手方とし、又はこれらを互いに相手方とするもの等
2 「わいせつな行為」についても第3項で規定されているが、その解釈は前記①、②、③と同様な態様による性交類似行為等であり、具体的には、いわゆる素股や尺八等はもちろん、陰部を手などで触れる(又は触れさせる)行為、また、単なる性欲の目的を達するためにのみ行う接吻、乳房を撫でること等が該当する。
なお、本条は青少年に対する行為そのものを禁止する規定であり、刑法第174条に規定する公然わいせつ罪とは異なり、行為の公然性は不要である。
3本項の例としては、成人が、結婚の意思もないのに、青少年を言葉巧みに誘って、単に自己の情欲を満たすために性交した場合や青少年の性器等を手でもてあそぶなどした場合などがこれに当たるが、結婚を前提とした真に双方の合意ある男女聞の性行為は、該当しないものである。

福岡県青少年保護育成条例違反被告事件
最高裁判所大法廷判決昭和60年10月23日
       理   由
 そこで検討するのに、本条例は、青少年の健全な育成を図るため青少年を保護することを目的として定められ(一条一項)、他の法令により成年者と同一の能力を有する者を除き、小学校就学の始期から満一八歳に達するまでの者を青少年と定義した(三条一項)上で、「何人も、青少年に対し、淫行又はわいせつの行為をしてはならない。」(一〇条一項)と規定し、その違反者に対しては二年以下の懲役又は一〇万円以下の罰金を科し(一六条一項)、違反者が青少年であるときは、これに対して罰則を適用しない(一七条)こととしている。これらの条項の規定するところを総合すると、本条例一〇条一項、一六条一項の規定(以下、両者を併せて「本件各規定」という。)の趣旨は、一般に青少年が、その心身の未成熟や発育程度の不均衡から、精神的に未だ十分に安定していないため、性行為等によつて精神的な痛手を受け易く、また、その痛手からの回復が困難となりがちである等の事情にかんがみ、青少年の健全な育成を図るため、青少年を対象としてなされる性行為等のうち、その育成を阻害するおそれのあるものとして社会通念上非難を受けるべき性質のものを禁止することとしたものであることが明らかであつて、右のような本件各規定の趣旨及びその文理等に徴すると、本条例一〇条一項の規定にいう「淫行」とは、広く青少年に対する性行為一般をいうものと解すべきではなく、
青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか、
青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性交又は性交類似制為をいうものと解するのが相当である。
けだし、右の「淫行」を広く青少年に対する性行為一般を指すものと解するときは、「淫らな」性行為を指す「淫行」の用語自体の意義に添わないばかりでなく、例えば婚約中の青少年又はこれに準ずる真摯な交際関係にある青少年との間で行われる性行為等、社会通念上およそ処罰の対象として考え難いものをも含むこととなつて、その解釈は広きに失することが明らかであり、また、前記「淫行」を目して単に反倫理的あるいは不純な性行為と解するのでは、犯罪の構成要件として不明確であるとの批判を免れないのであつて、前記の規定の文理から合理的に導き出され得る解釈の範囲内で、前叙のように限定して解するのを相当とする。このような解訳は通常の判断能力を有する一般人の理解にも適うものであり、「淫行」の意義を右のように解釈するときは、同規定につき処罰の範囲が不当に広過ぎるとも不明確であるともいえないから、本件各規定が憲法三一条の規定に違反するものとはいえず、憲法一一条、一三条、一九条、二一条違反をいう所論も前提を欠くに帰し、すべて採用することができない。
 なお、本件につき原判決認定の事実関係に基づいて検討するのに、被告人と少女との間には本件行為までに相当期間にわたつて一応付合いと見られるような関係があつたようであるが、当時における両者のそれぞれの年齢、性交渉に至る経緯、その他両者間の付合いの態様等の諸事情に照らすと、本件は、被告人において当該少女を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性行為をした場合に該当するものというほかないから、本件行為が本条例一〇条一項にいう「淫行」に当たるとした原判断は正当である。
 二 被告人本人の上告趣意第二部の五(一)は、青少年に対する淫行につき地域により規制上差異があることを理由に本件各規定が憲法一四条の規定に違反すると主張するが、地方公共団体が青少年に対する淫行につき規制上各別に条例を制定する結果その取扱いに差異を生ずることがあつても憲法一四条の規定に違反するものでないことは、当裁判所大法廷判例(昭和二九年(あ)第二六七号同三三年一〇月一五日判決・刑集一二巻一四号三三〇五頁)の趣旨に徴し明らかであるから、所論は理由がない
 三 被告人本人の上告趣意第二部の五(二)は、本件各規定は一八歳未満の者のみに対する性行為を禁止処罰の対象とし、一八歳未満の者と一八歳以上の者との間で異なる取扱いをしているところ、右年齢による差別に合理的な理由はないから、憲法一四条の規定に違反すると主張するが、この点は、青少年の範囲をどのように定めるかという立法政策に属する問題であるにとどまり、憲法適否の問題ではないから、所論は前提を欠く。
 四 被告人本人の上告趣意第二部の六は、児童福祉法三四条一項六号は「児童に淫行をさせる行為」のみを規制し、その適用範囲を児童の自由意思に属しない淫行に限つているにもかかわらず、本件各規定は青少年に対し淫行をする行為のすべてを規制の対象としていて明らかに法律の範囲を逸脱しているから、本件各規定は憲法九四条の規定に違反すると主張するが、児童福祉法三四条一項六号の規定は、必ずしも児童の自由意思に基づかない淫行に限つて適用されるものでない(最高裁昭和二九年(あ)第三九九号同三〇年一二月二六日第三小法廷判決・刑集九巻一四号三〇一八頁参照)のみならず、同規定は、一八歳未満の青少年との合意に基づく淫行をも条例で規制することを容認しない趣旨ではないと解するのが相当であるから、所論は前提を欠く。
 五 被告人本人の上告趣意第二部の七は、本条例は憲法九五条にいう特別法であるところ、同条所定の制定手続を経ていないから、本件各規定は憲法九五条の規定に違反すると主張するが、本条例が憲法九五条にいう特別法に当たらないことは明らかであるから、所論は前提を欠く。
 六 弁護人立田廣成及び被告人本人のその余の上告趣意は、単なる法令違反、事実誤認、量刑不当の主張であつて、いずれも適法な上告理由に当たらない。
 よつて、刑訴法四一四条、三九六条、一八一条一項但書により、主文のとおり判決する。
 この判決は、裁判官牧圭次、同長島敦の各補足意見、裁判官伊藤正己、同谷口正孝、同島谷六郎の各反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見によるものである。
 裁判官牧圭次の補足意見は、次のとおりである。
 本条例一〇条一項の規定にいう「淫行」の意義に関する多数意見の解釈の結論に私も賛成であるが、右解釈を相当とする理由として私の考えているところを一言付け加えておきたい。
 一 青少年との淫行の禁止及び処罰に関して、各都道府県条例が現状においては全体として著しく不均衡 不統一であり、これが憲法一四条に違反するといえないまでも、合理的な実質的理由に乏しく、一国の法制度として甚だ望ましくないものといわざるを得ないこと、それ故に、各条例の青少年との淫行処罰規定の解釈及び運用においては、処罰に対し抑制的態度をとることが相当であることについては、いずれも、伊藤裁判官が反対意見の中で詳しく説かれているとおりであり、私も本条例の淫行処罰規定の構成要件の解釈にあたり、右のような観点から、当該規定における用語の意味からかけ離れない限度内で、できるだけ処罰対象をその行為の当罰性につき他の都道府県住民を含む国民多数の合意が得られるようなものに絞つて厳格に解釈するのが妥当であると考える。
 二 ところで、「淫行」の意義について、従来は、「淫行とは、みだらな性行為のことであり、健全な常識を有する一般社会人からみて、結婚を前提としない、専ら情欲を満たすためにのみ行う不純とされる性交又は性交類似行為をいう。」との解釈又はこれと同趣旨に帰する解釈が、いくつかの高裁判決等で示されており、本条例の立案当局の説明(福岡県民生部発行・福岡県青少年保護育成条例の手引二七頁参照)も、同じ見解を示している。しかし、右の解釈にいう「専ら情欲を満たすためにのみ行う」との点は、性行為の範囲を限定する作用をほとんど営まず、従つて、右の解訳では、結婚を前提としない性行為のうちどの範囲のものが不純とされる性行為に当たるのかは必ずしも明確でなく、もし、青少年を相手とする結婚を前提としない性行為のすべてがこれに当たるとするのでは、やはり現在の社会通念からみて、余りにも処罰の範囲が広きに過ぎるといわなければならないと思われる。
 三 性に関する社会通念は、時代とともに変つていくものではあるが、現在のわが国において、国民の多数から強い社会的な非難を受け、処罰に値すると考えられている青少年に対する性行為の類型は、第一に、青少年の無知、未熟、情緒不安定等につけ込んでなされる形態の性行為であり、すなわち、誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等の不当な手段を用いて行う性行為がこれに当たり、第二に、(その多くは右第一の形態にも当たることになると思われるが)相手方である青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められない形態の性行為であるといつてよい。伊藤裁判官は、右の第一の形態のものに限つて国民の多数から当罰性が肯認されるとみられるのであるが、不当な手段を用いたといえないまでも、行きずりの青少年を単に自己の性欲を満足させるための対象としてのみ考えてその場限りで行う性交にその典型例を見るように、青少年を全く自己の性欲満足のための道具として弄ぶものと目し得る性行為は、青少年の育成・保護の精神に著しく背馳し、現在における一般社会通念からして、到底許容できないものとして当罰性も肯認されるものと考えられる。そして、右第二の形態に当たる性行為であるかどうかは、青少年及び相手方の年齢、性行為に至る経緯及び行為の状況等を基にして、健全な常識を有する一般社会人の立場で判断するときは、その判定が特に困難であるともいえないものと思われるから、これを「淫行」の概念の中に含ませることが刑罰法規の中に曖昧、不明確なものを持ち込むことになるという批判も当たらないと考える。
 四 青少年に対する性行為のうち、現在の一般の社会通念上特に強い非難に値することが明らかであると考えられる右の二つの形態の性行為に絞つて、これが「淫行」に当たると解することは、「淫行」ないしは「みだらな性行為」の語義からもかけ離れたものではなく、また、青少年の健全育成という本条例の目的にも合致するものと考える。
 五 以上の理由により、私は、本条例一〇条一項の「淫行」の意義についての解釈に関する多数意見の説示に同調するものである。
 裁判官長島敦の補足意見は、次のとおりである。
 私も、多数意見と同じく、本条例一〇条一項の規定にいう「淫行」とは、性行為一般を指すのではなくて、青少年を相手とする性交又は性交類似行為のうち、当該青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段によつて行うもの、その他青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないようなものをいうと解するのを相当と考えるのであるが、その論拠について、補足的に若干の意見を述べておくこととしたい。
 一 「淫行」という用語は、既に古くから、「営利ノ目的ヲ以テ淫行ノ常習ナキ婦女ヲ勧誘シテ姦淫セシメタル者」を処罰する刑法一八二条の規定に用いられているほか、児童福祉法三四条一項六号の規定は「児童に淫行をさせる行為」を禁じ、同法六〇条一項は、右規定に違反した者は一〇年以下の懲役又は五〇万円以下の罰金に処するものとしている。このように、本条例で用いる「淫行」という用語は、目新しいものとはいえず、それが広く性行為一般をいうのではなくて「淫らな」性行為を意味することはその用語自体及びそれが用いられているこれらの条項の文脈からみて明らかであるといえる(もつとも、刑法ではその性行為を性交に限つているのに対し、児童福祉法ではそこに性交及び性交類似行為を含めて理解するのが一般であるが、それは、刑法が、「姦淫セシメ」ること、つまり、「性交させること」をその犯罪の実行行為としているところから、その行為の客体である「淫行ノ常習ナキ婦女」を「淫らな性交の常習性のない婦女」と解するのであつて、児童福祉法及び本条例においては、性交そのものと同視できるような性交類似行為を除外する理由はない。)。そうとすれば、「淫行」には、正常な性行為、例えば婚姻中の夫婦(実質上の夫婦と認められる内縁関係を含む。)間の性行為が含まれないことはいうまでもない。しかし、このことから逆に、右の正常な性行為以外のそれがすべて淫行に当たるものということはできない。例えば、刑法にいう「淫行ノ常習」は、その罪の客体たる婦女が淫行の常習者であるかどうかが問題となるのであるから、その淫行にはいわば貞操観念ないし性的倫理観に反するようなものを広く含むものと解することができるが、児童福祉法や本条例においては、淫行がそこに定める犯罪の実行行為の中に包含され又は実行行為そのものとされているのであるから、右にいう正常でない性行為であつても、それが行為当時の社会通念によつて許容されると認められるか、少なくとも、刑罰制裁を加えるに当たらないと評価されるものであるかぎり、犯罪の構成要件行為としての「淫行」ということはできないこととなる。つまり、この意味での「淫行」概念は、当該刑罰法規の趣旨、目的、その保護しようとする法益等を考慮に容れつつ、当該行為がなされた当時における社会通念を基準として価値的な評価・判断を加えることによつて決せられるのである。もとより、社会一般の価値観は多様化し、また、社会通念は、長期的にみれば、時代とともに変遷することは否み得ないが、問題とされる当該行為がなされた当時における最大公約数としての社会通念それ自体は、通常の判断能力を有する一般社会人にとつて把握することは困難ではない。同様のことは、「猥褻」概念についても問題となるが、このような価値的評価・判断を必要とするいわゆる規範的構成要件要素を含む犯罪構成要件であつても、これによつて処罰される行為が何であるかを通常の判断能力をもつ一般人において社会通念に照らして識別し理解することが可能であるかぎり、当該構成要件は明確性に欠けるところはないというべきである。
 二 そこで、刑法及び児童福祉法中の関連諸規定に論及しながら、本条例の本件各規定の趣旨、目的、保護法益について検討を進めることとする。
 まず、刑法一七七条、一七八条は、一三歳以上の婦女に対し暴行又は脅迫を用い、或いはその心神を喪失させ、若しくはその抵抗を不能にさせ、又はその心神喪失若しくは抵抗不能の状態にあるのに乗じてこれを姦淫した者を二年以上の有期懲役に処することとし、他方、一三歳に満たない婦女については、右のような手段を用いず、またその同意を得ていたとしても、これを姦淫した者は、同様に処罰されることとしている。刑法のこれらの規定は、つまるところ、一三歳に満たない婦女は、いまだ性的行為の意義を理解できず、したがつて、これに対する同意能力を欠いているし、一三歳以上の婦女であつても、その自由意思を抑圧し又はそれが欠けている前記のような特殊な事態のもとでこれを姦淫することは、いずれにしても、性的な行為についての自由な自己決定権を侵害するものであつて、被害者個人の性的な自由をその保護法益とするものと解される。しかしながら、一三歳以上の女子であつても、年齢的に、心身の未成熟又は身体と心の発達の不均衡の故に、性的行為の意義について正しい十分な理解をもたず、したがつて、これに対する同意ないし積極的な欲求そのものが完全な自由意思に基づく自由な自己判断によるものとは認めることのできない年齢層の女子が存在することは顕著な事実である。刑法は、このような性的な無知に乗じて前記のような手段によらないでこれらの少女を性的行為の対象とするような行為を直接処罰する規定を設けていないが、そのことによつて、刑法が、そのような行為は社会一般の倫理観に反するとはいえず、およそ刑事罰の対象とすべきではない、とする価値判断を示したものと即断することはできない。いわんや、児童の保護と健全育成という社会的見地から、このような性的被害にかかりやすい年齢層にある青少年を保護するための立法が、刑法と抵触しないことは明白である。
 児童福祉法は、「すべて国民は、児童が心身ともに健やかに生まれ、且つ、育成されるよう努めなければならない。」(一条一項)、「国及び地方公共団体は、児童の保護者とともに、児童を心身ともに健やかに育成する責任を負う。」(二条)、「前二条に規定するところは、児童の福祉を保障するための原理であり、この原理は、すべて児童に関する法令の施行にあたつて、常に尊重されなければならない。」(三条)と高らかに宣言している。もとより、右の第一条が定める国民の努力義務は、法の規定を待つてはじめて生ずるものではなくて、およそ国民が児童の心身ともに健やかな成長を待ち望むことは人間自然の情であつて、その健全な育成を阻害することが社会一般の人道的な倫理・道徳観念に反することはいうまでもない。国及び地方公共団体が児童の保護者と相並んで児童を心身ともに健全に育成する責任を負うものとされているのは、このような児童の健全育成に対するすべての国民の願望からしても当然のことであり、その健全育成を阻害する行為、特に性的行為について正しい十分な理解をもたず、その故に、性的経験による衝撃が将来にわたつての心身の健全な育成に継統的かつ重大な障害となるおそれの強いと認められる一定の年齢層の少女を対象とする特定の性的な侵害行為に対し、国が児童福祉法において厳罰で臨んでいるのは、まさにその責務の一端を果しているものといえる。
 ところで、児童福祉法は、児童とは一八歳に満たない者をいうとし(そのうち小学校就学の始期から満一八歳に達するまでの者を「少年」と名づけている。)(四条)、「児童に淫行をさせる行為」を一般的禁止事項の一として掲げ(三四条一項六号)、しかも、その違反に対する刑は、同法の罰則の中でずば抜けて重く定められている(六〇条一項)。そこには、その行為が児童の福祉を害すること特に著しく、児童の心身ともに健全な育成を望む社会的な公共の法益を甚だしく侵害するものであるとする立法者の評価が示されている。
 本条例における本件各規定は、「何人も、青少年に対し、淫行又はわいせつの行為をしてはならない。」とし、その違反者に対し、二年以下の懲役又は一〇万円以下の罰金を科することとしている(一〇条一項、一六条一項)。それは、児童福祉法の精神、特に同法二条に定める地方公共団体の責任に照らし、前述の国家の法である児童福祉法の一般的禁止行為の中から漏れている青少年(児童福祉法上の「少年」に該当する。以下、適宜「少女」と呼ぶ。)を相手として自分自身で行う性交及び性交類似行為のうち、青少年の健全な育成を阻害するおそれがあると認められるものを対象として補充的に県条例で処罰することとしたものと認められる。この種の行為は、もともと、青少年の性的行為についての判断・同意能力が劣つていることを知り、又はこれに乗じて行われるかぎり、それ自体として、社会一般の倫理観に反するものと認められるが、それは、児童福祉法の規定が児童に対し事実上の影響力を及ぼし、児童をして第三者と性交又は性交類似行為を行わせ又は児童が第三者とこのような性行為をするのを助長し促進する行為を対象とするのに対し、自ら青少年を相手方として行うこの種性行為を対象とする点で、犯罪の態様、したがつてその社会的意義を著しく異にする。すなわち、前者にあつては、そのような性的に未熟な少女を第三者の性的行為の対象にするという行為自体はたとえ行為者が営利の目的に出でず、また、当該少女がもともとそれに同意していたとしても、明らかに当該少女の福祉を害し、その健全な育成を著しく阻害するものであつて、社会通念上その当罰性を肯定するに十分の根拠があり、また、その少女の性行為そのものも、客観的にみて、淫らな性行為として淫行の概念に当たると評価することができる。これに反し、後者にあつては、自ら青少年を相手に性行為に出る場合であるから、その性行為に至る経偉とその背景事情、性行為に出た動機・意図、両者の間の心理的精神的緊密性、将来の結婚へ向つての意図とその実現の可能性など、個々の事件ごとに異なる各般の要素が含まれており、前者のようにその典型的な事例につき犯罪社会学的な一つの犯罪定型を想定することさえ困難である。しかも、他面、性行為の相手方である少女の心身の発達状況に照らして、その性行為に関する自己の判断をどの程度まで尊重すべきかという問題も含まれている。
 本条例は、「青少年の健全な育成を図るため青少年を保護することを目的とする。」(一条)と定め、本件各規定が既に述べたように児童福祉法の趣旨に則り、これを補充して青少年の健全育成を全うしようとするにあることを明らかにしている。そうとすれば、本件各規定の「淫行」概念は、一方では、このような条例の趣旨、目的、被害法益という観点、すなわち、一八歳未満の青少年は性的行為についての自己判断能力が一般的になお未熟であり、そのような状態に乗ずるような性的な侵害行為からこれを保護する必要があるとともに、その自己判断能力の未熟さとも関連して、性的行為の体験が心身両面の健全な成育に継続的かつ深刻な悪影響を及ぼすおそれが一般的に認められ、その健全な育成に対する重大な阻害要因となること、つまり、この種の性的侵害が社会的、倫理的非難に値することを考慮しつつ、他方では、具体的場合におけるその性行為につき、その各般の事情に照らし、青少年の健全な育成という目的からみても、これを本件各規定による刑事制裁の対象とすることが相当でないか、少なくとも刑罰制裁を加えるまでもないと認められる事由があるかどうかを検討することによつて決めなければならない。
 三 以上のような考慮のもとに、多数意見は、本件各規定で禁止、処罰する「淫行」の概念につき、「青少年の健全な育成を図るため、青少年を対象としてなされる性行為等のうち、その育成を阻害するおそれのあるものとして社会通念上非難を受けるべき性質のもの」をいうとして、その解釈の一般的基準を示したものと考える。そして、淫行の概念を定める解釈・評価の基準としてこのような社会通念を用いる以上、それは既述のとおり、当該行為のなされた当時の社会における最大公約数たる共通の倫理的、道徳的、人道的価値観によるべきものと解される。多数意見が、右の一般的基準を敷衍して、「淫行」の概念を説明し、まず、「青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為」を掲げ、一般的にいつて性的行為に対する判断・同意能力の劣るとされる青少年に対し、このような手段を用いて性的な侵害行為に出るという点で、性的自由の侵害という観点からも、青少年の健全な育成の阻害という点からも、社会通念上非難に値することが極めて明白である性行為等をとりあげ、次いで、「青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないよつな性交又は性交類似行為」を掲げて、前記のような手段によらない場合であつても、青少年を自己の性的欲望を満足させるためだけの対象物として扱うという点で、およそ青少年の心身の健全な育成への配慮の見られない、これまた社会通念上倫理的な非難に値することに異論の考えられないような性行為等をとりあげていることは、本件性行為のなされた当時の社会通念の理解の仕方として適切であり、「このような解釈は通常の判断能力を有する一般人の理解にも適うもの」ということができる。
 四 なお、本条例一六条一項は、法定刑の長期として、条例で定めることが許されている最高刑の懲役二年を定めており(地方自治法一四条五項)、他の同種の大多数の県条例の法定刑に比し著しく重い刑罰制裁を科しうることとしているが、右に述べたような「淫行」概念を前提とするかぎり、児童福祉法の法定刑と対比しても、その刑が不当に重いとはいえないのみならず、本条例は選択刑として一〇万円以下の罰金を定めており、裁判官の刑の量定における適切な裁量を期待していることがうかがえるから、この点からも右規定は不当とはいえない。
 また、児童福祉法は「児童」の年齢を一八歳に満たない者と定め、本条例が同じく青少年を一八歳に満たない者と定めているところ、その年齢層の中には、婚姻能力の認められている満一六歳以上の女子が含まれており(民法七三一条)、これらの一六歳以上の女子については性行為についての完全な判断・同意能力が法的に是認されているというべきであるから、本条例の罰則で保護すべき法益が欠けている、とする考え方があるが、満二〇歳に達しない未成年の子が婚姻するには父母の同意が必要とされている(民法七三七条)ことからみても、婚姻能力の規定が性的行為についての完全な判断・同意能力を推定させるものと解することは当を得ない。青少年の年齢を何歳までとするかは、合理的立法裁量に委ねられているところであり、現在の状況において、性的行為から保護される年齢の上限を満一八歳に達しないものとすることは、明らかに不合理であるとはいえない。その反面として、これらの年齢層の少女は、「淫行」に該当する性行為等の対象者となることを制約され、その意味でその性的行動の自由に対する事実上の制限を受けることとなるが、一八歳に満たない少女に対しては、その性的行動の自由を保障することよりも、一般的に性的な判断・同意能力の劣ると考えられるこれらの少女を性的経験から受ける悪影響から保護することを重視することも、立法政策として許容される範囲内に属するものと考えるのが相当である。
 最後に、本条例は、青少年の中から、「他の法令により成年者と同一の能力を有する者」を除外し(三条一項)、また「違反者が青少年であるときは、これに対して罰則を適用しない。」(一七条)こととしている。既に婚姻している女子等を保護の対象から除外する一方、一八歳に満たない少年が同じく一八歳に達しない少女を淫行の対象としたときは、互いに性的行為についての判断・同意能力に欠陥があると法的にみなされている者同士の間における性的行為等として当罰性を欠き、また、相互に健全育成についての努力義務を負うとは考えられない者に刑罰制裁を科することは適切でない、としているものと考えられる。いずれも、本条例罰則の適用範囲を適切に限定するものとして行き届いた立法上の配慮というべきである。もつとも、本条例の右罰則にふれない性的行為等であつても、「自己又は他人の徳性を害する行為をする性癖のあること」(少年法三条一項三号)に当たる状況にあるときは、少年非行としてその健全な育成を期し、性格の矯正に関する保護処分を行うため(同法一条)に、家裁の審判に付することができることはいうまでもない。
 裁判官伊藤正己の反対意見は、次のとおりである。
 本条例一〇条一項の規定につき、多数意見は、処罰の範囲が不当に広がり、その適用が恣意にわたることを防ぐため、同規定にいう「淫行」の意義を明確にする限定解釈を行つているが、このような多数意見の考え方には共感するところが少なくない。しかし、そこで示された解釈が右規定から導き出されうるものとし、これによつて同規定による処罰の範囲が不当に広すぎるとか同規定が不明確であるとはいえないから、それが憲法三一条の規定に違反しないとする多数意見の結論には、私は左袒することができず、本条例一〇条一項の規定は、刑罰法規に対して要求される明確性を欠くものであつて、違憲といわざるをえないと考える。以下に、その理由を述べることとする。
 一 本条例のように青少年の健全育成、保護を目的とする条例は、現在、長野県を除く各部道府県において制定されている(なお全国十余の市町にも同種の条例があるが、以下都道府県条例についてのみ言及する。)。しかし、右の都道府県条例における青少年との淫行及びわいせつ行為に対する規制は、余りにも区々であるといわざるをえない。まず、青少年との淫行及びわいせつ行為の禁止並びに処罰に関する規定(以下、「淫行処罰規定」という。)の有無についてみると、東京都、千葉県にはこれがなく、他の道府県はこれを設けており、淫行処罰規定をおくものについてその構成要件の定め方をみると、多くの条例は、青少年に対する淫行(みだらな性行為又は不純な性行為とするものを含む。)又はわいせつ行為を構成要件とするのに対し、京都府大阪府山口県では、性行為及びわいせつ行為を手段又は目的等によつて厳格に限定しているのが目立つている。また、法定刑についてみても、各道府県とも罰金刑を定めているが、その上限は一〇万円(二四例)、五万円(一四例)、三万円(六例)と分かれており、これに選択刑として懲役と科料を定めるもの二例、同じく懲役刑のみを定めるもの二五例、同じく科料のみを定めるもの二例、他の選択刑を定めないもの一五例となつており、懲役刑を定めている二七府県におけるその上限は、六月(六例)、一年(一六例)、二年(五例)と分かれていて、法定刑の差は著しく顕著である。さらに、本罪を親告罪とするもの(四例)とそうでないものがあり、また、行為者が青少年であるときには罰則を適用しないと規定するのが通常であるが、そのような例外規定をおかないもの(五例)もあり、なお、行為の対象となつた青少年の年齢についての認識に関し、故意の推定規定をおくもの(二六例)とそうでないものとがある(ちなみに、本条例一〇条一項及びその罰則を定める一六条一項は、昭和五二年の改正にかかるもので、青少年に対する淫行又はわいせつ行為に対して二年以下の懲役又は一〇万円以下の罰金という、地方自治法の許容する最高限度の刑罰を定めている。)。
 以上に示したように、青少年に対する淫行の処罰に関する各部道府県の条例における規定は、処罰規定の有無、処罰規定における構成要件の精粗、法定刑の種類と軽重、告訴の要否、処罰対象者限定の有無及び故意推定規定の有無について顕著な異同がみられ、全体として、著しく不均衡かつ不統一なものとなつているのが実情である。
 所論は、このような地域差のあることを理由に本条例一〇条一項の規定が憲法一四条に違反すると主張するが、憲法九四条が地方公共団体条例制定権を賦与した以上、一定の行為について処罰するかどうかにつき、また処罰の態様につき、各地方公共団体の条例における取扱いに差異を生ずることがあつても、このような地域差のあることをもつて直ちに憲法一四条に違反するとはいえないことは、多数意見の引用する当裁判所の判例の示すところである。結論としてこの点の論旨を採用することができないことは、多数意見のいうとおりであろう。
 しかし、わが国のように、性及び青少年の育成保護に関する社会通念についてほとんど地域差の認められない社会において、青少年に対する性行為という、それ自体地域的特色を有しない、いわば国全体に共通する事項に関して、地域によつてそれが処罰されたりされなかつたりし、また処罰される場合でも地域によつて科せられる刑罰が著しく異なるなどということは、きわめて奇異な事態であり、地方公共団体の自主立法権が尊重されるべきものであるにせよ、一国の法制度としてはなはだ望ましくないことであるといわなければならない。もとより、このような地域による不均衡があつても、これを正当化しうるだけの実質的な理由があれば別であるが、すでに述べたよつな顕著な差異にういて、国民を納得せしめるに足りる合理的理由をみいだすことはできないと思われる。例えば、日本の人口の一割を超える住民をもつ東京都において、青少年の育成保護の必要度は決して他に比して低いと考えられないにもかかわらず、淫行処罰規定が設けられていないこと、また東京都や千葉県において処罰の対象にならない青少年に対する淫行が隣接する神奈川県や埼玉県では処罰の対象になることについて、これを合理的ならしめる実質的な理由をあげることは不可能であろう。刑法の強姦罪、強制わいせつ罪などが被害者の名誉を顧慮して親告罪とされているのに対し、たとえ保護法益を異にする面があるにせよ、多くの条例が淫行罪について被害者の告訴を要件としていないことも、問題として指摘されてよいと思われる。このようにると、青少年との淫行の処罰に関し各都道府県の条例の間に存する前述のような著しい不均衡は、きわめて不合理なものであることが明らかであるといわなければならない。
 すでにみたように、このような不均衡が憲法一四条に違反するといえないとしても、かかる著しく不合理な地域差を解消する方向を考える必要がある。そうでないと、淫行処罰に関する条例の規定の文面上における著しい不均衡がそのまま右規定による検挙、公訴の提起及び処罰という実際の運用面にあらわれ、延いては国民に右規定の合理性に対する強い疑問や不公正感を抱かせるに至ることがおそれられる。したがつて、右規定の解釈及び運用において、処罰に対して抑制的な態度をとることが相当であると考えられ、とくに本条例一〇条一項にみるような、淫行処罰規定の構成要件の明確性を欠く場合には、処罰対象を国民多数の合意が得られるようなものに絞つて、厳格に解釈することが憲法の趣旨からも要請されるといつてよい。
 二 次に問題となるのは国法との抵触である。いうまでもなく、条例は「法律の範囲内で」制定することが許されるのであるから(憲法九四条。地方自治法一四条一項は、「法令に違反しない限りにおいて」制定できるとする。)、国の法令と矛盾抵触する条例は無効である、もとより、いかなる場合にこの矛盾抵触があるとすべきかは、微妙な判断となることが少なくない。ある事項について国の法令中にこれを規律する明文の規定がないからといつて、当然に条例がこれについて規律することが許されることにはならないし、また特定事項について国の法令と条例が併存するときにも、矛盾抵触があると考えられない場合もある。条例が国の法令に違反するかどうかは、両者の規律対象や文言を対比するのみでなく、それぞれの目的、内容及び効果を比較して決定されることになる(最高裁昭和四八年(あ)第九一〇号同五〇年九月一〇日大法廷判決・刑集二九巻八号四八九頁参照)。
 ところで、淫行処罰規定に関連のある国の法令として、児童に淫行をさせる行為に重罰を科する児童福祉法の規定及び売春の相手方を不可罰としている売春防止法もあるが、ここでは刑法の強姦罪の規定を検討することとしたい(なお、条例の淫行処罰規定にいう青少年とは男女を問わないものであるが、実質上年少の婦女を主眼とするものであることは疑いをいれないところであるから、それを前提として考えてみる。)。
 刑法一七七条及び一七八条の規定によれば、一三歳未満の婦女については、いかなる手段方法によるかを問わず、また完全な合意がある場合であつても、これを姦淫することを強姦罪とするとともに、一三二歳以上の婦女については、暴行、脅迫をもつて又は抗拒不能心神喪失に乗ずるなどの所定の手段方法によつてこれを姦淫した場合に限定して、強姦罪に当たるとされている。これは一三歳に満たない婦女は性行為の意義を理解することができず、その同意の能力を欠くものとされるからであるが、無限定に姦淫を処罰することを相当とする年齢の上限を何歳とすべきかは、国法のレベルにおける裁量によるもので、その変更は法律をもつてしなければならないことは明らかであろう。
 本条例一〇条一項の規定は、小学校就学の始期より前にある者を除き一八歳未満の者である青少年に対して淫行をした行為を処罰するものである。かりにこの淫行の意義をゆるやかに解し、例えば「淫行」すなわち姦淫と解釈するとすれば、何らの限定なく処罰する姦淫(性交)行為の対象となる年少婦女の年齢の上限を一八歳にひきあげるに等しいこととなる。この点は、条例の淫行処罰規定と刑法一七七条及び一七八条の規定とがその保護法益を異にする面があることを考慮に入れても、なお看過し難いところであつて、右にいう「淫行」を性行為一般と解するときは、結局「法律の範囲」外に逸脱する疑いを免れず、この点においても、憲法の趣旨からいつて、そこに何らかの要件を付加することにより限定をすることが求められるのである。そして、このような限定を付するにあたつては、刑法の規定との調和が当然に考慮されるべきこととなろう。
 三 以上に述べたところからみて、「淫行」の意義について、どのような解釈をとれば、著しい条例間の不均衡を生ずることを免れ、また、国法とくに刑法との整合性を保ち、かつ、憲法の要求する明確性を充たすことになるのであろうか。
 本条例一〇条一項にいう「淫行」を広く青少年に対する性行為一般を指すと解したり、また単に反倫理的ないしは不純な性行為と解したりするのでは、あるいは広きに失し、あるいは不明確となるのは多数意見の説示するとおりであるし、私のすでに述べたところからもきわめて不適当といわざるをえない。これまで高裁判決などで多く示された解釈によれば、「淫行とはみだらな性行為のことであり、健全な常識を有する社会人からみて、結婚を前提としない、専ら情欲を満たすためにのみ行う不純とされる性交又は性交類似行為をいう」とされる。この解釈は、一見して限定を付しているようにみえるが、性行為そのものは、自己の性欲を満足させるために行われるのが通常であるから、それはほとんど限定の作用をいとなまず、結婚を前提としない青少年を相手方とする性行為のすべてを包含することに近いと考えられ、適当と考えられる限定とはいえないであろう。
 私の見解によれば、現在のわが国において、青少年に対する性行為であつて社会的な非難を受け、国民の多数が処罰に値するものと考えるのは、青少年の無知、未熟、情緒不安定などにつけ込んで不当と思われる手段を用いてする性交又は性交類似行為であると考える。すなわち、刑法のような、暴行、脅迫をもつて、あるいは心神喪失、抗拒不能に乗じて行うという程度には達しないが不当と考えられる手段を用いて行う性行為がそれに当たるというべきであり、具体的にいえば、まさに多数意見のいう「青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等………不当な手段により行う性交又は性交類似行為」ということになる。多くの淫行処罰規定は、本条例を含めて、「淫行」とか「みだらな性行為」とか「不純な性行為」というように、むしろ安易に構成要件を定めていたといえるのに対し、近年制定された京都府の条例二一条一項、大阪府の条例一八条、山口県の条例一二条一項が、多少表現及び範囲を異にするが、ほぼ私見のような限定をおいて禁止処罰の対象を定めていることが注目されよう。淫行処罰規定についてこのように処罰の範囲を限定することによつて、はじめて顕著な地域差の解消、国法との調和の保持という憲法の趣旨に沿つた運用がなされることになるのである。
 なお、多数意見は、右にあげたところに付加して、「青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性交又は性交類似行為」をも「淫行」に当たるとするが、これは、後述の明確性の点で問題があるのみでなく、以上に述べた国法との関係からいつても、処罰範囲の限定として適切なものとはいえないであろう。
 四 問題となるのは、前叙のように「青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により」という限定を加えることは、単に「淫行」とのみ規定する本条例一〇条一項の解釈として可能であるか、ということである。
 当裁判所は、すでに、前記の大法廷判決において、ある刑罰法規があいまいで不明確である理由でもつて憲法三一条に違反すると認めるべきかどうかは、通常の判断力を有する一般人の理解において、具体的場合に当該行為がその適用を受けるものかどうかの判断を可能ならしめるような基準が読みとれるかどうかによつて決定すべきであるとし、また最近では、いわゆる税関検査に関して、右の大法廷判決を参照しつつ、「表現の自由を規制する法律の規定について限定解釈をすることが許されるのは、その解釈により、規制の対象となるものとそうでないものとが明確に区別され、かつ、合憲的に規制し得るもののみが規制の対象となることが明らかにされる場合でなければならず、また、一般国民の理解において、具体的場合に当該表現物が規制の対象となるかどうかの判断を可能ならしめるような基準をその規定から読みとることができるものでなければならない」と判示している(最高裁昭和五七年(行ツ)第一五六号同五九年一二月一二日大法廷判決・民集三八巻一二号一三〇八頁)。
 以上の判例は、いずれも表現の自由にかかわるものであり、表現の自由の特質からその規制の立法はとくに明確性が憲法上要求されることはたしかであるが、刑罰という最もきびしい法的制裁を科する刑事法規については、罪刑法定主義にもとづく構成要件の明確性の要請がつよく働くのであるから、判例の説示するところは、憲法三一条のもとにあつて、刑罰法規についてもほぼ同様に考えてよいと思われる。
 この判断基準にたつて本条例一〇条一項の規定が憲法三一条の要求する明確性をそなえているかどうかを考えてみるに、多数意見の示すような限定解釈は一般人の理解として「淫行」という文言から読みとれるかどうかきわめて疑問であつて、もはや解釈の限界を超えたものと思われるのであるが、私の見解では、淫行処罰規定による処罰の範囲は、憲法の趣旨をうけて更に限定されざるをえず、「誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等」の不当な手段により青少年との性交又は性交類似行為がなされた場合に限られると解するのである。しかし、このような解釈は、「淫行」という文言の語義からいつても無理を伴うもので、通常の判断能力を有する一般人の理解の及びえないものであり、「淫行」の意義の解釈の域を逸脱したものといわざるをえない。このように考えると、「淫行」という文言は、正当に処罰の範囲とされるべきものを示すことができず、本条例一〇条一項の規定は、犯罪の構成要件の明確性の要請を充たすことができないものであつて、憲法三一条に違反し無効というほかはない。原判決及びその支持する第一審判決は破棄を免れず、被告人は無罪であると考える。
 裁判官谷口正孝の反対意見は、次のとおりである。
 一 憲法三一条の規範内容としての罪刑法定主義は、犯罪構成要件の明確性を要請する。この明確性の要請は、一方、裁判規範としての面において、刑罰権の恣意的な発動を避止することを趣旨とするとともに、他方、行為規範としての面において、可罰的行為と不可罰的行為との限界を明示することによつて国民に行動の自由を保障することを目的とするものである(最高裁昭和五〇年九月一〇日大法廷判決・刑集二九巻八号五一五頁、徳島市条例違反等事件における団藤裁判官の補足意見参照)。そして、裁判規範の面における明確性と行為規範の面におけるそれとは表裏一体の関係にあるものであつて、前者の面において犯罪構成要件の意味内容において明確性を欠くときは、公権力の恣意的発動を招来するものであつて、国民に対し拠るべき行為基準を示しえないばかりでなく、その法的地位の安定性を損なうことになる。この趣旨は、前記大法廷判決も明示するところであり、同判決は、刑罰法規が明確性を欠くか否かの判断基準として、「通常の判断能力を有する一般人の理解において、具体的場合に当該行為がその適用を受けるものかどうかの判断を可能ならしめるような基準が読みとれるかどうかによつてこれを決定すべきである」と、判示している。行為規範の面に即しての提言であるが、裁判規範の面についても同じというべきである。さて然らば、本条例一〇条一項(罰則は一六条一項。以下、罰則を含めての趣旨で単に「一〇条一項」という)は、「何人も、青少年に対し淫行又はわいせつの行為をしてはならない」と規定しているが、右規定は前記大法廷判決に示す明確性の基準を充たしているといえるであろうか。
 二 ところで、刑罰法規の構成要件が、記述的要素だけではなく、規範的要素をも用いて定められている場合、その解釈について、規定の文言だけではなく、その規定と法規全体との関係、当該法規の立法目的、規定の対象の性質等を総合的に考察して当該規定の内容を明確にする作業が許されることは、解釈の方法としては当然である。右一〇条一項にいう「淫行又はわいせつの行為」が評価をともなう規範的構成要件要素であることは明らかである。
 そこで、多数意見は、前記のような解釈の作業を重ねたうえ、同条項にいう「淫行」概念についていわゆる限定解釈の手法を用いることにより同意見に示すような解釈を施し、明確性の要請が充たされるものとしているのである。
 そして、限定解釈を必要とする理由について説明を加えているのであるが、そこで説かれている理由は、右の「淫行」の意義を広く青少年に対する性行為一般を指すものと解するときは、「淫らな」性行為を指す「淫行」の用語自体の意義に添わないということと、これを無限定に解釈するときは社会通念上およそ処罰の対象として考え難いものを含むこととなつて広きに失するということである。
 思うに、「淫行」とは、「淫らな行い」のことであつて、行為それ自体の性質を示す用語であり、行為の態様について意味づけを与えるだけの概念であるが、問題は、本条例一〇条一項が、「淫行……をしてはならない」という禁止文言を掲げ、その禁止に違反する行為それ自体を犯罪の構成要件要素としている点である。私は、「淫行」とは性行為、すなわち性交及び性交類似行為を意味する概念であると考える(多数意見のいうように、「淫らな性行為」を意味するものではない)が、犯罪の構成要件要素としての機能を果すためには、右「淫行」の用語が違法行為の類型を示すについて必要にして十分なものといえるかどうかである。「淫行」概念の内包としての性交及び性交類似行為は、人間の営む行為として、もともと違法・適法の価値判断に親しまない価値中立的行為である。かかる行為をして違法行為の類型を示す犯罪構成要件要素とするためには、他に何らかの要素が加わることが必要である。さればこそ、児童福祉法三四条一項六号の規定の如きも、「児童に」という限定と「淫行をさせる」という使役形を用いることとにより、「淫行」についての違法性を与えているのである。「淫行」の概念のうち「淫らな」という用語を取り出して、行為の違法性を示す要素とすることは無理である(性行為それ自体を取り出して「淫らな」それと、「淫らでない」それとを類別することが果して可能であるかを考えよ)。「淫行」概念について、行為の違法性を示すためには、行為の相手方、動機、目的、行為について用いられた手段・方法、行為の行われた当時の附随事情等を示すことによりはじめて可能となるものと考える。そして、私は、後記三に示すとおり、本条例にいう青少年のうち相手方の年齢のいかんによつては、「淫行をする」という用語自体により行為の違法性を示す構成要件要素として必要にして十分なものであると考えうる余地があると思うのであるが、その点は暫く措くとして、ここでは、右条例一〇条一項の規定文言から、多数意見の示すような規範内容を「通常の判断能力を有する一般人の理解」において読みとることができるかどうかについて検討することにする。
 多数意見は、同規定にいう「淫行」とは、広く青少年に対する性行為一般をいうものと解すべきではないとし、その一つの場合として、まず誘惑、威迫等の手段・方法に違法性のある場合を挙げるのであるが、一般人の理解として、行為自体の性質を示す「淫行」という概念から右のような手段の違法性までを導くことは、むしろぞの理解を超えるものというべきである。法令、特に刑罰法規の定め方として、手段・方法の違法性を加えて行為の違法性を示すためには、特にそのことを明示するのが一般である。
 次に、多数意見は“右の手段・方法の違法性のある場合のほか、ないしはこれを含めて、青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような場合をいうとしているのであるが、この定義も実にあいまいであり、融通無碍の概念規定である。性行為一般がもともと性的欲望の充足を目的とする人の営為であることを思えば、右のように、「単に」といい(愛情その他人格的結合の欠如を要件とする趣旨であろう)、また、性的欲望を満足させるための「対象として扱つているとしか認められないような場合」といつてみても、これを綬やかに解すれば、前記のような性格をもつ性行為一般を限定するものとしての機能を果すことを期待することはできず、また、反対に、これを厳しく解するとすれば、その点の立証は現実に著しく困難なものとなろう。(愛情その他人格的結合を欠く場合といつてみても、その運用は極めて微妙である。例えば、本条例にいう青少年を当初単に性的欲望を充たすための対象として扱つているとしか認められないような性的交渉を重ねた後、結婚意思を生じたというような場合、多数意見によれば果して処罰の対象となるのであろうか。)
 私は、そもそも右のように愛情その他人格的結合の欠如を要件とし、あるいはまた、特定の動機、目的の存在を「淫行」の違法性を示すための必要な要件とするならば、条例の規定それ自体にそのことを明示すべきであり、そのことなくしてこれらの要件を右の「淫行」概念の中に取り込んで理解するということは、やはり一般人の理解を超えるものと思う。
 もつとも、多数意見が「淫行」概念について限定解釈を施し、処罰範囲が不当に拡大することを防止しようとしていることは、私としても理解するに吝かではない。しかし、多数意見の示す誘惑、威迫等性行為にいたる手段の違法性の如きは、これを加えることにより「淫行」の違法性を限定するというのであれば、私はすでに解釈の作業を超え新たな立法作業の範ちゆうに属するものと考える。そしてまた、多数意見の示す右の手段の違法性を除いた場合の概念規定も、通常人の理解をもつてしては、とうていその意味内容を把握するに困難なものだと思う。
 以上の次第で、私は、本条例一〇条一項にいう「淫行」概念は、犯罪の構成要件、すなわち違法行為の類型を示すものとしては明確性の基準に欠けるものとの非難を免れないものと考える。これまで下級審裁判例の実際において、同種の淫行処罰の規定を設けている各道県の条例の解釈につき、各裁判所の見解が必ずしも一義的でなく帰一するところのない現状は、私の批判が当たつていることを裏書しているものと思うのである。
 三 次に、私は、憲法三一条はその規範内容として実体的適正処罰の原則をも含んでいるものと考えている。刑罰法規が人の行為を犯罪として処罰するためには、その行為は法益侵害を伴うものであつて、まさに一般人の見解を基準にして可罰相当性の評価を受けるものでなければならない。社会倫理上もしくは道徳上の価値規準からみて好ましくない行為であるというだけの理由で法律(ここでは条例)を構えて人を処罰するが如きことは許されるはずがない(刑法の脱道徳化、道徳に対する罪の非犯罪化という最近の刑事法の動向を考えよ)。
 ところで、私も青少年を性的に汚染された環境から保護しその健全な育成を図るという本条例制定の趣旨は十分に理解することができる。そして、本条例にいう青少年のうち年少者(例えば、一六歳未満の者。便宜これを「年少少年」という)に対する性交又は性交類似行為の如きは、そこにいたる手段・方法のいかんを問わず青少年の健全な育成を阻害する行為であつて、条例を以てかかる行為を一律に処罰することには相応の合理性があるものと考える(もつとも、これら年少少年に対する場合、通常誘惑の手段が用いられるであろう)。刑法一七六条、一七七条各後段の規定は、性的自由に対する侵害の観点から一三歳未満の者に対するわいせつ、姦淫行為をすべて強制わいぜつ罪又は強姦罪として処罰しているが、そのことと青少年の健全な育成という社会的法益の侵害とは自ら別異の規制に服するものと考えてよい。両者は保護法益を異にしているものといえるからである。
 然し、本条例にいう青少年のうち年長者(例えば、一六歳以上の者。便宜これを「年長青少年」という)に対する性交又は性交類似行為については年少少年に対する場合と同一に扱うわけにはいかない。身体の発育が向上し、性的知見においてもかなりの程度に達しているこれら現代の年長青少年に対する両者の自由意思に基づく性的行為の一切を罰則を以て一律に禁止するが如きは、まさに公権力を以てこれらの者の性的自由に対し不当な干渉を加えるものであり、とうてい適正な処罰規定というわけにはいかないであろう。なお、ここで、民法が一六歳以上の女子に対する婚姻能力を認めていることも考えておいてよい。
 私は、これら年長青少年に対する淫行(性交又は性交類似行為)を禁止処罰するためには、これらの行為を違法たらしめる特別の要素が備わることが必要であると考える。これら青少年の性的知識・経験の未熟なことに乗じて誘惑、威迫等の手段を用いて性交又は性交類似行為に及んだ場合の如きがそうである。多数意見も又そのような考慮を働かせたからこそ、「淫行」概念について限定解釈の道を選択したものと理解する。然し、私としては、そのような限定解釈が解釈の限界を超えると考えることは、先に述べたとおりである。そして、私の考えるところによれば、限定解釈の必要性は専ら右の年長青少年につて生ずるわけであるが、限定解釈の道を認めない私の考えによれば、本条例一〇条一項の規定は右の年長青少年に対する関係において適正処罰の原則に反するものということになる。そして、年少少年に対する性交又は性交類似行為を一律に可罰相当と考える私の見解をもつてすれば、本条例は、右年少少年と年長青少年とを区別せず(同条例三条一項)、これらをすべて青少年の概念でひつくるめ、これらの者に対する「淫行」の一切を一律に可罰行為としている点において適正処罰の要請からとうてい是認できないものと思う。(なお、本件において被告人と性的関係を持つた女性は満一六歳の者であつたことを記しておこう。)
 四 以上のほか、本条例一〇条一項の憲法適合性についてはなお検討を要する問題点を残すが、私は上記二及び三に述べた理由により、右規定は少なくとも年長青少年との淫行を処罰する限りにおいて、刑罰法規の明確性、適正処罰の観点から考えて憲法三一条に違反し無効と考える。従つて、この理由により原判決及び第一審判は破棄を免れず、被告人は無罪と考える。
 裁判官島谷六郎の反対意見は、次のとおりである。
 一般に、刑罰法規は、その規定が明確であることを要求される。その法規により、何が犯罪として処罰され、したがつて、また何が処罰されないのか、明確でなければならない。犯罪構成要件の明確性は、近代刑法の基調をなす罪刑法定主義の要請するところである。そうでなければ、国民一般は、自己がどのように行動しなければならないのか、又はどのように行動してはならないのか、行動の基準を明確に知ることができない。罪刑法定主義の下においては、刑罰法規は国民に対する告知機能を有するのである。
 ところで、福岡県青少年保護育成条例一〇条一項にいう「淫行」とは、何を意味するのか、はなはだ不明確である。もとより、「淫行」の意義について、これを広く性行為一般を指すものとする解釈の採り得ないことは、多数意見の説示するとおりである。条例制定者の意図は、おそらく、同条例の目的とする青少年の保護育成上有害と考えられる、青少年に対する性的行為を禁止し、これを処罰の対象としょうとするものであろう。しかし、いかなる場合のそれを処罰の対象とするのか、具体的明示が全くなされていない。単に「淫行」というのみである。このように、はなはだ漠然として不明確な表現をもつて犯罪を定め、処罰の対象とすることは、刑罰法規として、犯罪構成要件の明確性を欠くものであり、罪刑法定主義の要請に反するものであるといわざるを得ない(青少年に対する何らかの性的行為が青少年の保護育成上有害であるとして、これを禁止すること自体は、条例制定者の政策決定の問題であるが、刑罰をもつて臨む以上は、禁止しようとする行為、そして処罰の対象となる行為を、条例上明確に規定すべきである。)。
 そして、このように犯罪構成要件が不明確であることは、取締りにあたる捜査機関にとつても、取締りの対象領域がはなはだしく曖昧となり、場合によつては、取締りの行過ぎを招来する危険性があることを指摘しておかなければならない。そうなつては、国民の人権保障の観点からも、看過し得ない事態が生ずるおそれがある。捜査機関の恣意防止のためにも、犯罪構成要件の明確性が要求されるのである。罪刑法定主義の下においては、刑罰法規が、前述のように国民に対する告知機能をもつとともに、刑罰権の恣意的発動の抑止機能をもつといわれる所以である。
 多数意見は、「淫行」という概念を限定解釈することにより、右条項を合憲ならしめようとするのであるが、そこに示された解釈は、「淫行」という言葉から通常の判断能力を有する一般人が想到し得る範囲をはるかに超えているのであつて、私はこの解釈に与することができない。
 よつて、福岡県青少年保護育成条例一〇条一項の規定は、犯罪構成要件の不明確性の故に、憲法三一条に違反して無効であり、同条項違反をもつて起訴された本件被告人には無罪を言い渡すべきである。
 検察官鈴木義男、同亀山継夫 公判出席
  昭和六〇年一〇月二三日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官  寺田治郎
            裁判官  木下忠良
            裁判官  伊藤正己
            裁判官  谷口正孝
            裁判官  大橋 進
            裁判官  木戸口久治
            裁判官  牧 圭次
            裁判官  和田誠
            裁判官  安岡滿彦
            裁判官  角田禮次郎
            裁判官  矢口洪一
            裁判官  島谷六郎
            裁判官  長島 敦
            裁判官  高島益郎
            裁判官  藤島 昭

中尾佳久調査官「ひそかに児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰 並びに児童の保護等に関する法律2条3項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を 電磁的記録に係る記録媒体に記録した者が当該電磁的記録を別の記録媒体に記 録させて児童ポルノを製造する行為と同法7条5項の児童ポルノ製造罪の成否 【令和元・12・ 10,1小決】

 薄い最高裁判所判例解説。
 ダビングについて考えていなかったのは立法ミスだが、それは4項製造罪と同様に救済されると思っていた。
 問題は、被害児童に知られない製造行為が「ひそかに製造」になるなら、写真集の複製とかも「ひそかに製造罪」になるのではないかという点だったが、それは「描写行為」でないから問題にならないと言い出して、解決したようだ。

第4 説明
1 問題の所在
児童ポルノ法7条5項の製造罪(以下「5項製造罪」という。)は,平成26年7月15日施行の改正法によって新設されたもので,盗撮により児竜ポルノを製造する行為を処罰するというものである。
児童ポルノ」とは,写真,電磁的記録に係る記録媒体その他の物であって,児童ポルノ法2条3項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう(同法2条3項)。また,児童ポルノの「製造」とは,児童ポルノを作成することをし、い,児童ポルノの複製フィルムの現像, ネガ・フィルムのプリントも「製造」に当た(注3)るとされている。
しかし, 5項製造罪については, 「ひそかに……児童の姿態を写真電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより」というように,製造手段が限定されているため,盗撮により製造した児童ポルノを基にして,その電磁的記録を他の記録媒体へ記録保存する二次的製造行為については,「ひそかに……製造した」ものとはいえず, 5項製造罪は成立しないのではないか, という問題が生じる。

・・・・・
5 本決定の意義
5項製造罪は,平成18年判例後の法改正で新設されたものであるが、4項製造罪と同様の論点が残る形の立法がされていた。このことを踏まえると,本決定は, 5項製造罪に関する法令解釈を示したものとして実務上重要なものと考えられる。

ひととき金融事案~貸金業法違反・出資法違反・児童ポルノ・児童買春法違反(大阪地裁R01.11.19)

 誰が「ひととき金融」と名付けたのか。
 結構、量刑重いですよ。

貸金業法
第五章 罰則
第四十七条 次の各号のいずれかに該当する者は、十年以下の懲役若しくは三千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一 不正の手段によつて第三条第一項の登録を受けた者
二 第十一条第一項の規定に違反した者
第十一条 
1第三条第一項の登録を受けない者は、貸金業を営んではならない。

・・・
出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律
(高金利の処罰)
第五条 金銭の貸付けを行う者が、年百九・五パーセント(二月二十九日を含む一年については年百九・八パーセントとし、一日当たりについては〇・三パーセントとする。)を超える割合による利息(債務の不履行について予定される賠償額を含む。以下同じ。)の契約をしたときは、五年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。当該割合を超える割合による利息を受領し、又はその支払を要求した者も、同様とする。
2 前項の規定にかかわらず、金銭の貸付けを行う者が業として金銭の貸付けを行う場合において、年二十パーセントを超える割合による利息の契約をしたときは、五年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。その貸付けに関し、当該割合を超える割合による利息を受領し、又はその支払を要求した者も、同様とする。
3 前二項の規定にかかわらず、金銭の貸付けを行う者が業として金銭の貸付けを行う場合において、年百九・五パーセント(二月二十九日を含む一年については年百九・八パーセントとし、一日当たりについては〇・三パーセントとする。)を超える割合による利息の契約をしたときは、十年以下の懲役若しくは三千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。その貸付けに関し、当該割合を超える割合による利息を受領し、又はその支払を要求した者も、同様とする。

https://news.yahoo.co.jp/articles/277ac903710fca133acb1944cb8e2e35c8b46075
同課によると、男は会員制交流サイト(SNS)などで知り合った女性を顧客とし、普通口座に振り込ませる方法で1日当たり0・7%の利息を受領した。現金を貸し付ける際には、顔写真付きの身分証明書に加え、裸の画像を送らせていた。取り調べに「担保として要求した」と供述しているという。
 県警は5月12日、無登録で貸金業を営んだとして、貸金業法違反(無登録営業)で男を逮捕。口座の精査などから超高金利で貸し付けていたことが分かった。
 全国の10~50代の女性約30人に、計約600万円を貸し付けていたとみて、詳しく調べる。

大阪地裁令和元年11月19日 
主文
 被告人を懲役2年6月及び罰金300万円に処する。
 その罰金を完納することができないときは,金1万円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
 この裁判が確定した日から5年間その懲役刑の執行を猶予する。
理由
 [関係者の呼称は別紙のとおり。]
 (罪となるべき事実)
 被告人は,
 第1 大阪府知事の登録を受けないで,業として,別表1記載のとおり,平成29年6月11日から平成30年9月20日までの間,4回にわたり,大阪府藤井寺市〈以下省略〉のホテル「a」客室内ほか1か所において,Aほか2名に対し,現金を手渡す方法により,合計33万円を貸し付け,もって登録を受けないで貸金業を営んだ,
 第2 業として金銭の貸付けを行うに当たり,別表2記載のとおり,平成28年8月23日から平成31年2月28日までの間,大阪市〈以下省略〉の株式会社三井住友銀行大阪本店営業部に開設された被告人名義の普通預金口座(口座番号〈省略〉)に振込入金を受ける方法及び堺市〈以下省略〉のホテル「b」客室内ほか1か所において現金を手渡しで受領する方法により,Bから,1日当たり約0.55%の割合による利息合計55万700円を受領し,もって法定の1日当たり0.3%を超える割合による利息を受領した,
 第3 業として金銭の貸付けを行うに当たり,別表3記載のとおり,平成29年9月1日から平成30年12月5日までの間,被告人名義の前記普通預金口座に振込入金を受ける方法により,Aから,1日当たり約2.32%の割合による利息合計25万8700円を受領し,もって法定の1日当たり0.3%を超える割合による利息を受領した,
 第4 C(当時16歳)が18歳に満たない児童であることを知りながら,同児童に対し,性交の対償として現金2万円を供与して,平成31年2月3日午後3時15分頃から同日午後5時15分頃までの間,堺市〈以下省略〉のホテルc客室内において,同児童と性交し,もって児童買春をした,
 ものである。
 (法令の適用)
 被告人の判示第1の所為は貸金業法47条2号,11条1項,3条1項に,判示第2,第3の各所為はいずれも出資法5条3項後段,前段に,判示第4の所為は児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律4条,2条2項1号にそれぞれ該当するところ,各所定刑中判示第1から第3までの各罪についてはいずれも懲役刑と罰金刑とを併科し,判示第4の罪については懲役刑を選択し,以上は刑法45条前段の併合罪であるから,懲役刑については同法47条本文,10条により刑及び犯情の最も重い判示第1の罪の刑に法定の加重をし,罰金刑については同法48条2項により各罪所定の罰金の多額を合計した刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役2年6月及び罰金300万円に処し,その罰金を完納することができないときは,同法18条により金1万円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置し,情状により同法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から5年間その懲役刑の執行を猶予することとする。
 (量刑の理由)
 本件は,被告人が,インターネットを利用して性交を貸付けの条件とする手法の貸金業を無登録で営み,その中で著しい高金利の利息を受領し,その勧誘に応じた女性児童に対償を供与して性交する児童買春をした事案である。
 本件貸金業の前記手法は,経済的に苦しい状況にある女性の切迫した資金需要に乗じ,貸付けの実質的な対価として性交を条件とするというその人格を無視した犯行である点で悪質さの高いものであって,このような意味で貸金業の適正を逸脱する程度,資金需要者を傷つける程度とも大きい犯行と評価すべきである。被告人が積極的に金利等の経済的利益そのものを取得するというよりは,性交をすることを犯行の動機としていた点は,自分の欲求を満たすために貸金業の枠組みを悪用しているということであって,貸金業の適正を図る法の趣旨を踏まえてもその刑事責任を軽くする方向で考慮することのできるような事情ではない。その過程で及んだ児童買春の犯行もまた被害女児の人格を無視する点で犯罪の性質が共通し,その成育上有害な影響を与えるそれ自体悪質な行為である。類似の犯行を抑止する必要性のある手口の犯行でもあることも考慮されるほか,著しい高金利利息受領によって軽視のできない程度の経済的利益も手にしていることも併せて考慮した相応の処罰が必要であって,懲役刑とともに経済的な観点からも一定の感銘力のある罰金刑を科すのが相当である。もっとも,貸付人数,貸付総額等を基礎に考えると,本件が特に規模の大きい犯行であるとまではいえない。著しい高金利利息受領の被害者となった女性2名(うち1名は無登録の貸金業による貸付けの相手方でもある。)に対してはそれぞれ受領した利息全部に相当する額を支払ったほか,無登録の貸金業による貸付けを受けた女性のうちさらに1名に対しては一定の解決金を支払って,これらの女性との間では処罰を望まない旨の意思表示を含む示談が成立している。被告人の犯罪行為を軽く考えることはできないものの,前科のない被告人の犯罪行為でもあることを踏まえての刑事責任とする必要はある。
 その上で,被告人が罪を認めて反省の言葉を述べていること,父が情状証人として被告人の監督を約束していることも考慮し,今回に限り懲役刑についてはその執行を猶予して社会内での更生の機会を与えることとした。
 (求刑 懲役2年6月及び罰金400万円)
 令和元年11月21日
 大阪地方裁判所第12刑事部
 (裁判官 三輪篤志

整体師よる強制わいせつ・準強制わいせつにつき、「正当な施術」の判断方法(大阪高裁R03.2.10 大阪高裁判決速報令和3年10号)

整体師よる強制わいせつ・準強制わいせつにつき、「正当な施術」の判断方法(大阪高裁R03.2.10 大阪高裁判決速報令和3年10号)
 検察庁のコメントです。

参考事項
1判断構造
本件各事件では,各被害者が,被告人の正当な施術をわいせつ行為と誤認したかが争点の一つとされている。
裁判所は,整体師が顧客に対しわいせつ行為と誤解されるおそれのある性的部位(乳房,陰部等)に近い部位に施術する場合の正当な施術の前提として
① 整体師と顧客の関係性:整体師は,顧客に対し,当該施術内容について説明し,その上で顧客が施術を受けることに同意するか否か確認すべきであること
② 施術に至る経緯 整体師が顧客に施術への同意を求め,顧客が明示の同意をしたことを確認した上で,施術を行うべきことを示した上,本件では,(被告人の供述を前提としても)いずれも否定されることから,被告人の施術の正当性を否定し,被害者の供述の信用性を認めている。
整体師の「正当な施術」方法については,整体師ないしマヅサージ師が公的な資格ではなく,公認された団体が適正な施術方法を公開、しているわけではないため,個々の整体師が独自の主張をすることが可能ではあり,本件被告人も独自の主張を展開している。しかし,本件で裁判所が示したような,常識的な施術の在り方に反する施術が一般的に正当な施術と認められることはないと思われ、こような判断手法により被告人の弁解を適切に排斥することが可能である。
2 被害者証言の信用性に関する判断手法整体師がその地位を利用する犯行は少なくないが,施術の一環であるとごまかせるような態様の強制わいせつ事案が多く,性器損傷等の医学的証拠も残らず,防犯カメラ画像等も存在しないため,被害者の供述(直接証拠)以外に証拠がないことがほとんどであり,その信用性が重要となる。

本件では,各被害者の供述の信用性判断に当たり
① 被害に関する供述内容自体の具体性,詳細さ,自然性
② 正当な施術をわいせつ行為と誤解している可能性がないこと
③ 被害申告経緯の自然性
④ 虚偽供述動機がないこと(被告人は,施術の技量は優れていたようであり,各被害者とも被告人の施術の効果を認めており;何らトラブルはなかった)
⑤ 被告人を殊更悪く言わないこと(被害者Bについては,自己に不利に解されるような点も正直に供述していること)
などの基本的な事項を丁寧に認定している。

弁当切り~合算して懲役5年(実刑)となるところが、懲役2年(実刑)になった事例

 どんな情状弁護をしても3年も軽くならないので、執行猶予を経過させることが第一目標になります。
 この事案だと合算して懲役5年(実刑)となるところが、懲役2年(実刑)になっています。
 執行猶予が翌年の5/2まであるところ、前任弁護人と協力して慎重に審理を進めてもらい、引き継いで受任して、法律上の争点をフルに主張して、準備手続を経て、1審判決前に執行猶予期間が経過したもの。

(日付は修正)
A事件
 某地裁2016.5.2 懲役3年 執行猶予4年確定

B事件
 某地裁2019.2.3起訴
弁護人交替
  期日間整理手続申立
  準備手続
      執行猶予期間経過
 2020.6.1 論告弁論
 2020.7.1 判決 懲役2年実刑   

タナー2度以下だと、現行犯逮捕されることがあります。「児童ポルノ事犯予備年齢鑑定員運用要綱」

タナー2度以下だと、現行犯逮捕されることがあります。「児童ポルノ事犯予備年齢鑑定員運用要綱」
 予備年齢鑑定員というのは時々聞こえてきましたが、警視庁に要綱があるようです。
 タナー2度以下だと、現行犯逮捕されることがあります。
 CG事件の1審・控訴審判決で、タナー2度は児童としていいという判示があるので、その影響だと思われます。

裁判年月日  平成28年 3月15日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件名  児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件
 そうすると,D医師がタナー法で乳房を3度と判定した(なお,D医師が,本件CG集に関連する写真で,乳房につき,4度あるいは3度ないし4度であると判定したものはない。),甲第25号証画像番号2ないし5(児童1ないし4),8(児童6),9(児童7),11ないし17(児童8ないし14),22(児童15),23(児童16),27(左側)(児童17。画像番号22と共通。),28(児童18)及び甲第26号証画像番号3(児童2),5(児童4),6(児童5),8(児童6),10(児童7),13(児童8),17(児童11),21(児童12),23(児童13),25(児童14),26(児童15)の各写真については,各被写体が18歳未満である旨のD医師の認定は採用することができず,18歳以上である可能性に合理的な疑いが残る(別紙1で黄緑色で塗りつぶしたもの。ただし,既に検察官レイヤーと児童認定写真とが一致しないあるいは実在性がないとして黄色等で塗られていたものがあり,その場合には画像番号のみを黄緑色で塗りつぶしている。)。
 これに対し,別紙1の画像番号が黄緑色で塗られていないもの,すなわち,D医師がその被写体の乳房についてタナー1度又は2度と評価した各写真については,前記のとおり,D医師が,乳房についてタナー2度が18歳未満か否かという判断のポイントとなる旨述べているとおり,乳房についてタナー2度以下と判定されて18歳以上である女性が一定数存在することは否定できないとしても,それ自体がまれであるといえる上,これらの写真の被写体は,いずれも一見して顔立ちが幼く,乳房や肩幅,腰付近の骨格等の身体全体の発達も未成熟であること等からすれば,これらの被写体は撮影当時18歳未満であったことが強く推認される。
 3  児童認定写真と同一の写真が収録された写真集に被写体の年齢に関する記載があること
 なお,検察官は,児童認定写真と同一の写真が収録された写真集自体に「『F』13歳」,「K 1972年生まれ。」などと,被写体の年齢に関する記載が存在することからも,被写体が撮影当時18歳未満であったことが推認される旨主張するが,そもそも写真集に記載された年齢や生年月日が正確なものであるとする根拠がない上,児童認定写真に係る写真が収録された写真集には,その表紙や本文に「少女」などの記載があり,幼い女児の写真であることを強調する内容となっていることからすれば,そのような写真集に記載された被写体の年齢や生年月日が正確なものであるかは疑問であり,検察官の主張は採用できない。
 4  小括
 以上によれば,別紙1の黄緑色に塗られていない○○及び○○2の各画像に係る児童認定写真の被写体については,18歳未満であると認めるのが相当であるが,その余については,18歳未満であることについて合理的疑いが残り,18歳未満とは認められない。

東京高等裁判所
平成29年01月24日
イ 児童性の認定について
  (ア) 所論は、原判決が児童性に関する唯一の証拠としたA医師の鑑定及びその原審証言は、同医師が依拠する理論自体、刑事事件で児童性の認定に利用できるほど理論的、合理的なものとはいえず、タナー法については、提唱者であるC氏自身が、同法で年齢を推定することはできないとして、これを年齢の推定に利用することを批判していることなどに照らすと、A医師の原審証言は信用できず、また、判断対象は本件CGの児童ポルノ性であるのに、本件CGを見て判断しておらず、その基となった素材画像の写真のみを見て判断している点でも信用できないと主張する。また、原判決が、タナー法で乳房2度以下であれば18歳であるといえると判断した点についても、18歳以上の女性の中に、実際に乳房についてタナー2度の女性がどの程度存在するかに関するデータはない上、実際、A医師は、原審公判において、明らかに18歳以上であるAV女優の乳房の写真を弁護人から示されて、タナー2度であると誤った証言をしていることなどに照らすと、同医師の証言は信用できない、結局、原判決の判断は、裁判所が写真を見て幼く感じたから18歳未満であるというにすぎず、このような原判決の判断には事実の誤認がある、などと主張する。
  (イ) そこで検討すると、胸部及び陰毛のみを判断資料とするタナー法に基づいて年齢を判定することには限界ないし危うさがあること、タナー法に依拠して、本件において素材画像の写真の児童性を判定したA医師の原審証言を全面的に信用して年齢を判断することが相当でないことは、原判決が適切に説示するとおりである。もっとも、原判決が乳房についてタナー法で2度以下と判定された事例について、児童性を認定した点については、確かに、18歳以上の女性の中に乳房がタナー2度以下の者がどの程度の確率で存在するかを実際に調査したデータはないものの、A医師は、原審において、タナー2度以下で18歳以上である可能性として、体質性思春期遅発症による可能性と、性腺機能低下症による可能性が考えられるところ、前者については、性発達の年齢の分布が正規分布となることが分かっていることから、乳房についてタナー2度に達する日本人女性の平均年齢と標準偏差を元に計算すると、100万人に3人(1万人に0.03人)未満の確率となり、後者の可能性についても、1万人に1人未満であるから、前者と後者の可能性を併せても、18歳以上の者の中で乳房タナー2度以下が存在する可能性は、理論上、1万人に1人未満という極めて低い確率である、18歳未満か否かの判断については、乳房タナー2度を基準とすればまず間違いがない旨証言している。
  加えて、A医師が引用するD氏らの研究(A原審証言調書別紙6。当審弁3。)によれば、1983年ないし1986年生まれの日本人女児226人について、乳房タナー度数別の累積頻度を実態調査したところ、12歳になるまでに、全ての者がタナー2度に達し、95%の者がタナー3度に達したことが認められ、更に18歳になるまでにはタナー3度に達する者の割合が高くなることが推認される。
  A医師の上記の原審証言は、小児科学、小児内分泌学等を専門とする同医師の専門的知見に基づき、上記の実態調査等のこれまでの医学的、科学的な研究等の成果に基づくものであって、その内容には合理性があり、十分信用することができるというべきである。そうすると、少なくとも、A医師が述べるように、18歳以上の者の中に乳房についてタナー2度以下の者が存在する可能性が極めて低いことについては、十分科学的な裏付けがあるといえるから、原判決が採ったように、少なくとも、乳房がタナー2度以下と判断された者については、18歳未満であると推認することができ、さらに、顔立ち、乳房や肩幅、腰付近の骨格等の身体全体の発達の程度をも加味して検討すれば、18歳以上の女性で乳房がタナー2度以下と判定される例外的な事例は、排除できるというべきである。したがって、A医師が乳房についてタナー2度と判定した被写体について、上記の諸点も考慮した上、児童性を認めた原判決の判断に、事実の誤認はなく、単に裁判所が写真を見て幼く感じたから児童性を認定したとする所論の論難は当たらない。その他、所論が指摘する点を踏まえても、上記の判断は揺るがない。

top MPD 2020年1月号付録2020巡査部長昇任試験直前対策p43
所属長は、予備年齢鑑定員の派遣を受け、捜索・差押えを実施する場合は、次の事項に留意する。
①予備年齢鑑定は、指定された予備年齢鑑定員が行うこと。
児童ポルノと思料される画像について予備年齢鑑定を実施した結果、児童ポルノと認定し現行犯逮捕を行う場合は、当該現行犯逮捕に係る画像はタナー法により2度以下と判断される画像であること。この場合において、現行犯逮捕に係る画像に不鮮明な処理が行われている等児童ポルノであるかどうかの判断に疑義があるときは、現行犯逮捕は行わないこと。
③予備年齢鑑定に係る画像が不鮮明な画像処理が行われた女性の画像である場合は、乳房又は陰毛が描写されているときに限り予備年齢鑑定を行うこと。
④予備年齢鑑定は、捜索差押えの現場において、当該捜索差押えの目的たる児童ポルノを発見できなかった場合にのみ行うこと。
児童ポルノ事犯の捜索差押えを実施する場合には、事前に小児科医等の専門家に鑑定を打診しておく等予備年齢鑑定を行った画像について迅速な鑑定が行われるように配意すること(児童ポルノ事犯予備年齢鑑定員運用要綱第5.2参照)。

f:id:okumuraosaka:20220309082347p:plain
f:id:okumuraosaka:20220309082226p:plain



top201402
児童ポルノ事犯の捜索・差押えの現場において、あらかじめ鑑定済みの児童ポルノを発見できないものの、児童ポルノと思料される別の画像を発見した場合であって、一定の要件がある場合には、当該現場における警察官の見分に基づく予備年齢鑑定により児童性を認定し、現行犯逮捕することができる。

A妥当。予備年齢鑑定の要件として、
「①指定鑑定員による予備鑑定であること、
①予備鑑定の結果、タナー法の2度以下と判定されること」及び
それ以外の要件として、
「①提供目的等を認めるに足りる状況であること、
②逮捕の必要性があること」の要件がある場合は、
当該現場における警察官の見分に基づく予備年齢鑑定により児童性を認定し、現行犯逮捕することができる

教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律案

教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律案
立憲民主党のサイトにありました。
https://cdp-japan.jp/news/20210521_1407

「わいせつ」の定義をしてもらわないと。

https://cdp-japan.jp/files/download/NaPJ/25om/dX2Z/AVN8/NaPJ25omdX2ZAVN85lflQZnN.pdf
教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律案
目次
第一章総則(第一条 ―第十一条)
第二章基本指針(第十二条)
第三章教育職員等による児童生徒性暴力等の防止に関する措置(第十三条 ―第十六条)
第四章教育職員等による児童生徒性暴力等の早期発見及び児童生徒性暴力等への対処に関する措置等(第十七条 ―第二十一条)
第五章特定免許状失効者等に対する教育職員免許法の特例等(第二十二条・第二十三条
第六章雑則(第二十四条)
附則

第一章
総則
(目的)
第一条この法律は、教育職員等による児童生徒性暴力等が児童生徒等の権利を著しく侵害し、児童生徒等に対し生涯にわたって回復し難い心理的外傷その他の心身に対する重大な影響を与えるものであることに鑑み、児童生徒等の尊厳を保持するため、児童生徒性暴力等の禁止について定めるとともに、教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関し、基本理念を定め、国等の責務を明らかにし、基本指針の策定、教育職員等による児童生徒性暴力等の防止に関する措置並びに教育職員等による児童生徒性暴力等の早期発見及び児童生徒性暴力等への対処に関する措置等について定め、あわせて、特定免許状失効者等に対する教育職員免許法(昭和二十四年法律第百四十七号)の特例等について定めることにより、教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する施策を推進し、もって児童生徒等の権利利益の擁護に資することを目的とする。

(定義)
第二条
この法律において「学校」とは、学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第一条に規定する幼稚園、小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校及び特別支援学校並びに就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律(平成十八年法律第七十七号)第二条第七項に規定する幼保連携型認定こども園をいう。
2この法律において「児童生徒等」とは、次に掲げる者をいう。
一学校に在籍する幼児、児童又は生徒二十八歳未満の者(前号に該当する者を除く。)
3この法律において「児童生徒性暴力等」とは、次に掲げる行為をいう。
一児童生徒等に性交等(刑法(明治四十年法律第四十五号)第百七十七条に規定する性交等をいう。以下この号において同じ。)をすること又は児童生徒等をして性交等をさせること(児童生徒等から暴行又は脅迫を受けて当該児童生徒等に性交等をした場合及び児童生徒等の心身に有害な影響を与えるおそれがないと認められる特別の事情がある場合を除く。)。
二児童生徒等にわいせつな行為をすること又は児童生徒等をしてわいせつな行為をさせること(前号に掲げるものを除く。)。
児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(平成十一年法律第五十二号。次号において「児童ポルノ法」という。)第五条から第八条までの罪に当たる行為をすること(前二号に掲げるものを除く。)。
四児童生徒等に次に掲げる行為(児童生徒等の心身に有害な影響を与えるものに限る。)であって児童生徒等を著しく羞恥させ、若しくは児童生徒等に不安を覚えさせるようなものをすること又は児童生徒等をしてそのような行為をさせること(前三号に掲げるものを除く。)。
イ衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人の性的な部位(児童ポルノ法第二条第三項第三号に規定する性的な部位をいう。)その他の身体の一部に触れること。
ロ通常衣服で隠されている人の下着又は身体を撮影し、又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置すること。
五児童生徒等に対し、性的羞恥心を害する言動であって、児童生徒等の心身に有害な影響を与えるものをすること(前各号に掲げるものを除く。)。
4この法律において「児童生徒性暴力等の防止等」とは、児童生徒性暴力等の防止及び早期発見並びに児童生徒性暴力等への対処をいう。
5この法律において「教育職員等」とは、教育職員(教育職員免許法第二条第一項に規定する教育職員をいう。以下同じ。)並びに学校の校長(園長を含む。)、副校長(副園長を含む。)、教頭、実習助手及び寄宿舎指導員をいう。
6この法律において「特定免許状失効者等」とは、児童生徒性暴力等を行ったことにより教育職員免許法第十条第一項(第一号又は第二号に係る部分に限る。)の規定により免許状が失効した者及び児童生徒性暴力等を行ったことにより同法第十一条第一項又は第三項の規定により免許状取上げの処分を受けた者をいう。

(児童生徒性暴力等の禁止)
第三条教育職員等は、児童生徒性暴力等をしてはならない。
(基本理念)
第四条教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する施策は、教育職員等による児童生徒性暴力等が全ての児童生徒等の心身の健全な発達に関係する重大な問題であるという基本的認識の下に行われなければならない。
2教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する施策は、児童生徒等が安心して学習その他の活動に取り組むことができるよう、学校の内外を問わず教育職員等による児童生徒性暴力等を根絶することを五六旨として行われなければならない。
3教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する施策は、被害を受けた児童生徒等を適切かつ迅速に保護することを旨として行われなければならない。
4教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する施策は、教育職員等による児童生徒性暴力等が懲戒免職の事由(解雇の事由として懲戒免職の事由に相当するものを含む。)となり得る行為であるのみならず、児童生徒等及びその保護者からの教育職員等に対する信頼を著しく低下させ、学校教育の信用を傷つけるものであることに鑑み、児童生徒性暴力等をした教育職員等に対する懲戒処分等について、適正かつ厳格な実施の徹底を図るための措置がとられることを旨として行われなければならない。
5教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する施策は、国、地方公共団体、学校、医療関係者その他の関係者の連携の下に行われなければならない。
(国の責務)
第五条国は、前条の基本理念(以下単に「基本理念」という。)にのっとり、教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する施策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する。
地方公共団体の責務)
第六条地方公共団体は、基本理念にのっとり、教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する施策について、国と協力しつつ、その地域の状況に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する。
(任命権者等の責務)
第七条
教育職員等を任命し、又は雇用する者は、基本理念にのっとり、教育職員等を任命し、又は雇用しようとするときは、第十五条第一項のデータベースを活用するものとする。
2公立学校(地方公共団体が設置する学校をいう。次項において同じ。)の教育職員等の任命権者は、基本理念にのっとり、児童生徒性暴力等をした教育職員等に対する適正かつ厳格な懲戒処分の実施の徹底を図るものとする。
3公立学校以外の学校の教育職員等を雇用する者は、基本理念にのっとり、児童生徒性暴力等をした教育職員等に対し、懲戒の実施その他の児童生徒性暴力等の再発の防止のために必要な措置を講ずるものとする。

(学校の設置者の責務)
第八条学校の設置者は、基本理念にのっとり、その設置する学校における教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等のために必要な措置を講ずる責務を有する。
(学校の責務)第九条学校は、基本理念にのっとり、関係者との連携を図りつつ、学校全体で教育職員等による児童生徒性暴力等の防止及び早期発見に取り組むとともに、当該学校に在籍する児童生徒等が教育職員等による児童生徒性暴力等を受けたと思われるときは、適切かつ迅速にこれに対処する責務を有する。
(教育職員等の責務)
第十条教育職員等は、基本理念にのっとり、児童生徒性暴力等を行うことがないよう教育職員等としての倫理の保持を図るとともに、その勤務する学校に在籍する児童生徒等が教育職員等による児童生徒性暴力等を受けたと思われるときは、適切かつ迅速にこれに対処する責務を有する。
(法制上の措置等)
第十一条国は、教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する施策を実施するために必要な法制上又は財政上の措置その他の必要な措置を講ずるものとする。
地方公共団体は、教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する施策を実施するために必要な財政上の措置その他の必要な措置を講ずるよう努めるものとする。
第二章基本指針
第十二条
文部科学大臣は、教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する施策を総合的かつ効果的に推進するための基本的な指針(次項において「基本指針」という。)を定めるものとする。
2基本指針においては、次に掲げる事項を定めるものとする。
一教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する基本的な方針
二教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する施策の内容に関する事項
三その他学校において児童生徒等と接する業務に従事する者による児童生徒性暴力等の防止等に関する重要事項

第三章教育職員等による児童生徒性暴力等の防止に関する措置
(教育職員等に対する啓発等)
十三条
国及び地方公共団体は、教育職員等に対し、児童生徒等の人権、特性等に関する理解及び児童生九一〇徒性暴力等の防止等に関する理解を深めるための研修及び啓発を行うものとする。
2国及び地方公共団体は、教育職員の養成課程における児童生徒性暴力等の防止等に関する教育の充実その他必要な措置を講ずるものとする。
3教育職員の養成課程を有する大学は、当該教育職員の養成課程を履修する学生が児童生徒性暴力等の防止等に関する理解を深めるための措置その他必要な措置を講ずるものとする。
(児童生徒等に対する啓発)
第十四条
国、地方公共団体、学校の設置者及びその設置する学校は、児童生徒等の尊厳を保持するため、児童生徒等に対して、何人からも児童生徒性暴力等により自己の身体を侵害されることはあってはならないことについて周知徹底を図るとともに、特に教育職員等による児童生徒性暴力等が児童生徒等の権利を著しく侵害し、児童生徒等に対し生涯にわたって回復し難い心理的外傷その他の心身に対する重大な影響を与えるものであることに鑑み、児童生徒等に対して、教育職員等による児童生徒性暴力等により自己の身体を侵害されることはあってはならないこと及び被害を受けた児童生徒等に対して第二十条第一項(第二十一条において準用する場合を含む。)の保護及び支援が行われること等について周知徹底を図らなければならない。
(データベースの整備等)
第十五条
国は、特定免許状失効者等の氏名及び特定免許状失効者等に係る免許状の失効又は取上げの事由、その免許状の失効又は取上げの原因となった事実等に関する情報に係るデータベースの整備その他の特定免許状失効者等に関する正確な情報を把握するために必要な措置を講ずるものとする。
都道府県の教育委員会は、当該都道府県において教育職員の免許状を有する者が特定免許状失効者等となったときは、前項の情報を同項のデータベースに迅速に記録することその他必要な措置を講ずるものとする。
(児童生徒性暴力等対策連絡協議会)
第十六条
地方公共団体は、教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関係する機関及び団体の連携を図るため、学校、教育委員会都道府県警察その他の関係者により構成される児童生徒性暴力等対策連絡協議会を置くことができる。
第四章教育職員等による児童生徒性暴力等の早期発見及び児童生徒性暴力等への対処に関する措置等
(教育職員等による児童生徒性暴力等の早期発見のための措置)
第十七条
学校の設置者及びその設置する学校は、当該学校における教育職員等による児童生徒性暴力等を早期に発見するため、当該学校に在籍する児童生徒等及び教育職員等に対する定期的な調査その他の必要な措置を講ずるものとする。
2国及び地方公共団体は、教育職員等による児童生徒性暴力等に関する通報及び相談を受け付けるための体制の整備等に必要な措置を講ずるものとする。
(教育職員等による児童生徒性暴力等に対する措置)
第十八条
教育職員等、地方公共団体の職員その他の児童生徒等からの相談に応じる者及び児童生徒等の保護者は、児童生徒等から教育職員等による児童生徒性暴力等に係る相談を受けた場合等において、教育職員等による児童生徒性暴力等の事実があると思われるときは、教育職員等による児童生徒性暴力等を受けたと思われる児童生徒等が在籍する学校又は当該学校の設置者への通報その他の適切な措置をとるものとする。
2教育職員等、地方公共団体の職員その他の児童生徒等からの相談に応じる者は、前項に規定する場合において犯罪の疑いがあると思われるときは、速やかに、所轄警察署に通報するものとする。
3教育職員等、地方公共団体の職員その他の児童生徒等からの相談に応じる者(公務員に限る。)は、第一項に規定する場合において犯罪があると思われるときは、刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)の定めるところにより告発をしなければならない。
4学校は、第一項の規定による通報を受けたときその他当該学校に在籍する児童生徒等が教育職員等による児童生徒性暴力等を受けたと思われるときは、直ちに、当該学校の設置者にその旨を通報するとともに、当該教育職員等による児童生徒性暴力等の事実の有無の確認を行うための措置を講じ、その結果を当該学校の設置者に報告するものとする。
5学校は、前項の措置を講ずるに当たり、児童生徒等の人権及び特性に配慮するとともに、その名誉及び尊厳を害しないよう注意しなければならない。
6学校は、第四項の規定による報告をするまでの間、教育職員等による児童生徒性暴力等を受けたと思われる児童生徒等と当該教育職員等との接触を避ける等当該児童生徒等の保護に必要な措置を講ずるものと一三一四する。
7学校は、第四項の場合において犯罪があると認めるときは、直ちに、所轄警察署に通報し、当該警察署と連携してこれに対処しなければならない。
(専門家の協力を得て行う調査)
第十九条
学校の設置者は、前条第四項の規定による報告を受けたときは、医療、心理、福祉及び法律に関する専門的な知識を有する者の協力を得つつ、当該報告に係る事案について自ら必要な調査を行うものとする。
2学校の設置者は、前項の調査を行うに当たり、児童生徒等の人権及び特性に配慮するとともに、その名誉及び尊厳を害しないよう注意しなければならない。
都道府県は、第一項の調査が適切に行われるよう、学校の設置者に対し、同項の専門的な知識を有する者に関する情報の提供その他の必要な助言をすることができる。
(学校に在籍する児童生徒等の保護及び支援等)
第二十条
学校の設置者及びその設置する学校は、医療、心理、福祉及び法律に関する専門的な知識を有する者の協力を得つつ、教育職員等による児童生徒性暴力等を受けた当該学校に在籍する児童生徒等の保護及び支援並びにその保護者に対する支援を継続的に行うものとする。
2学校の設置者及びその設置する学校は、前項に規定する児童生徒等と同じ学校に在籍する児童生徒等に対する心理に関する支援その他当該児童生徒等及びその保護者に対する必要な支援を行うものとする。
(教育職員等以外の学校において児童生徒等と接する業務に従事する者による児童生徒性暴力等への準用)
第二十一条
第十七条から前条までの規定は、教育職員等以外の学校において児童生徒等と接する業務(当該学校の管理下におけるものに限る。)に従事する者による児童生徒性暴力等(当該学校の児童生徒等に対するものに限る。)について準用する。

第五章特定免許状失効者等に対する教育職員免許法の特例等
(特定免許状失効者等に対する教育職員免許法の特例)
第二十二条
特定免許状失効者等(教育職員免許法第五条第一項各号のいずれかに該当する者を除く。)については、その免許状の失効又は取上げの原因となった児童生徒性暴力等の内容等を踏まえ、当該特定免許状失効者等の改善更生の状況その他その後の事情により再び免許状を授与するのが適当であると認めら一五一六れる場合に限り、再び免許状を授与することができる。
都道府県の教育委員会は、前項の規定により再び免許状を授与するに当たっては、あらかじめ、都道府県教育職員免許状再授与審査会の意見を聴かなければならない。
都道府県の教育委員会は、教育職員免許法第十条第二項(同法第十一条第五項において準用する場合を含む。)の規定により特定免許状失効者等から失効した免許状の返納を受けることとなった都道府県の教育委員会その他の関係機関に対し、当該特定免許状失効者等に係る免許状の失効又は取上げの原因となった児童生徒性暴力等の内容等を調査するために必要な情報の提供を求めることができる。
都道府県教育職員免許状再授与審査会)
第二十三条
前条第二項に規定する意見を述べる事務をつかさどらせるため、都道府県の教育委員会に、都道府県教育職員免許状再授与審査会を置く。
都道府県教育職員免許状再授与審査会の組織及び運営に関し必要な事項は、文部科学省令で定める。
第六章雑則
政令への委任)
第二十四条
この法律に定めるもののほか、この法律の実施のための手続その他この法律の施行に関し必要な事項は、政令で定める。
附則
(施行期日)
第一条
この法律は、公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。
ただし、第七条第一項及び第十五条並びに附則第五条の規定は、公布の日から起算して二年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。
(経過措置)
第二条
第二十二条の規定は、この法律の施行の日(以下この項において「施行日」という。)以後に児童生徒性暴力等を行ったことにより、特定免許状失効者等となった者に係る免許状の再授与について適用し、施行日前に児童生徒性暴力等を行ったことにより、特定免許状失効者等となった者に係る免許状の再授与については、なお従前の例による。
2前項に定めるもののほか、この法律の施行に関し必要な経過措置は、政令で定める。

以下 文字飛びとか文字化けがあるかも


教育職員免許法の一部改正)
第三条
教育職員免許法の一部を次のように改正する。
第十六条の二の次に次の一条を加える。
(特定免許状失効者等に係る免許状の再授与)第十六条の二の二教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律(令和三年法律第号)第二条第六項に規定する特定免許状失効者等(第五条第一項各号のいずれかに該当する者を除く。)の免許状の再授与については、この法律に定めるもののほか、教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律の定めるところによる。
第十六条の三第三項中「前条第二項」を「第十六条の二第二項」に、「次条第二項」を「第十六条の三第二項」に改める。
構造改革特別区域法の一部改正)
第四条
構造改革特別区域法(平成十四年法律第百八十九号)の一部を次のように改正する。
第十九条の見出しを「教育職員免許法等の特例」に改め、同条第一項中「とする。
」を「と、教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律(令和三年法律第号)第二十二条第二項中「教育委員会」とあるのは「教育委員会構造改革特別区域法(平成十四年法律第百八十九号)第十九条第一項の規定による認定を受けた市町村(以下この項において「認定市町村」という。)の教育委員会を含む。次項及び次条第一項において同じ。)」と、「都道府県教育職員免許状再授与審査会」とあるのは「都道府県教育職員免許状再授与審査会(認定市町村においては市町村教育職員免許状再授与審査会。同条において同じ。)」とする。」に改める。
第五条
構造改革特別区域法の一部を次のように改正する。
第十九条第一項中「第二十二条第二項」を「第十五条第二項」に改め、「この項」の下に「及び第二十二条第二項」を加え、「次項及び次条第一項において同じ。)」と、」を「以下同じ。)」と、「当該都道府県」とあるのは「当該都道府県(認定市町村においては当該認定市町村)」と、第二十二条第二項中」に、「同条に」を「次条に」に改める。
国家戦略特別区域法の一部改正)
第六条
国家戦略特別区域法(平成二十五年法律第百七号)の一部を次のように改正する。
「市町村の教育委員会。国家戦略特別区第十条第三項の表第十九条第一項各号列記以外の部分の項中ある市町村の教「市町村の教育委員会。国家戦略特別区域会議に係る関係地方ある市町村の教育委員会。域会議に係る関係地方公共団体で市町村(以下国家戦略特別区域会議(国家戦略特別を育委員会。」成二十五年法律第百七号)第七条第一る国家戦略特別区域会議をいう。)に方公共団体である市町村(以下公共団体で区域法(平に改める。
項に規定す係る関係地」第十二条の三第十一項の表に次のように加える。
教育職員等による第七条第二項をいうをいい、国家戦略特別区域法(平成二十五児童生徒性暴力等年法律第百七号)第十二条の三第三項第三の防止等に関する号に規定する特定公立国際教育学校等を除法律(令和三年法く律第号)(検討)第七条政府は、この法律の施行後速やかに、教育職員等以外の学校において児童生徒等と接する業務に従事する者による児童生徒性暴力等の防止に関する措置の在り方等について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。
2政府は、この法律の施行後速やかに、児童生徒等の性的な被害を防止する観点から、児童生徒等と接する業務に従事する者の資格及び児童生徒等に性的な被害を与えた者に係る照会制度の在り方等について検二一二二討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。
3政府は、前二項に定めるもののほか、この法律の施行後三年を目途として、この法律の施行の状況について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。
理由教育職員等による児童生徒性暴力等が児童生徒等の権利を著しく侵害し、児童生徒等に対し生涯にわたって回復し難い心理的外傷その他の心身に対する重大な影響を与えるものであることに鑑み、教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する施策を推進し、もって児童生徒等の権利利益の擁護に資するとともに、児童生徒等の尊厳を保持するため、児童生徒性暴力等の禁止について定めるとともに、教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関し、基本理念を定め、国等の責務を明らかにし、基本指針の策定、教育職員等による児童生徒性暴力等の防止に関する措置並びに教育職員等による児童生徒性暴力等の早期発見及び児童生徒性暴力等への対処に関する措置等について定め、あわせて、特定免許状失効者等に対する教育職員免許法の特例等について定める必要がある。
これが、この法律案を提出する理由である。

東京都内と神奈川県内における青少年淫行につき、「青少年と知らなかった」という弁解について

 東京と神奈川では条例が違います。
 両罪は包括一罪になります(福岡高裁等)


https://www3.nhk.or.jp/shutoken-news/20210519/1000064594.html
警察によりますと去年12月とことし1月、川崎市内と都内のホテルで、18歳未満と知りながら、当時高校2年生だった17歳の女子高校生にわいせつな行為をしたとして県などの青少年育成条例違反の疑いが持たれています。
2人はマッチングアプリを通じて知り合ったということで、調べに対し「女性は18歳だと思っていた」と容疑を一部否認しているということです。

 東京都条例は過失による淫行を処罰しない。性交類似行為に至らないわいせつ行為は処罰されない。

東京都青少年の健全な育成に関する条例
(青少年に対する反倫理的な性交等の禁止)
第十八条の六 何人も、青少年とみだらな性交又は性交類似行為を行つてはならない。
(平一七条例二五・追加)
(罰則)
第二十四条の三 第十八条の六の規定に違反した者は、二年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
(平九条例七五・追加、平一六条例四三・平一七条例二五・一部改正)
第二十八条 
第九条第一項、第十条第一項、第十一条、第十三条第一項、第十三条の二第一項、第十五条第一項若しくは第二項、第十五条の二第一項若しくは第二項、第十五条の三、第十五条の四第二項又は第十六条第一項の規定に違反した者は、当該青少年の年齢を知らないことを理由として、第二十四条の四、第二十五条又は第二十六条第一号、第二号若しくは第四号から第六号までの規定による処罰を免れることができない。ただし、過失のないときは、この限りでない。
(平一六条例四三・一部改正)

【解説】
本条は、第9条第1項の指定図書類の販売等の制限、第10条第1項の指定映画の観覧の制限、第11条の指定演劇等の観覧の制限、第13条第1項の指定がん具類の販売等の制限、第13条の2第1項の指定刃物の販売等の制限、第15条第1項又は第2項の質受け又は古物買受けの制限、第15条の2第1項又は第2項の着用済み下着等の買受け等の禁止、第15条の3の青少年への勧誘行為の禁止、第15条の4第2項の深夜の青少年の連れ出し等の禁止、第16条第1項の深夜における興行場等への立入りの制限等の規定に違反した場合に、違反者は、その相手方の年齢が18歳に満たない者であることを知らなかったとしても、それを理由として処罰を免れることができないことを規定したものである。
本条でいう「過失」とは、注意すれば相手が青少年であるという事実を認識することができたのに不注意で認識しなかったことをいい、「この限りでない。」とは、過失がないと認められる場合は、消極的に本条の罰則適用を打ち消すとの意味である。
すなわち、年齢確認をした際、当該青少年が他人の身分証明書や年齢を詐称した定期券を提示した場合等で、誰が見ても見誤る可能性が十分あり、見誤ったことに過失がないと認められるような状況にあった場合は、あえて責任を負わせないとしたものである。


神奈川県条例では過失による淫行は処罰される。
当時の判例がいう「わいせつ」の定義を法文に盛り込んだのはいいが、いまの判例はそこにはない。

神奈川県青少年保護育成条例
みだらな性行為、わいせつな行為の禁止)
第31条 
1何人も、青少年に対し、みだらな性行為又はわいせつな行為をしてはならな
い。
2 何人も、青少年に対し、前項の行為を教え、又は見せてはならない。
3 第1項に規定する「みだらな性行為」とは、健全な常識を有する一般社会人からみて、結婚を前提としない単に欲望を満たすためにのみ行う性交をいい、同項に規定する「わいせつな行為」とは、いたずらに性欲を刺激し、又は興奮させ、かつ、健全な常識を有する一般社会人に対し、性的しゆう恥けん悪の情をおこさせる行為をいう。

(罰則)
第53条 
1第31条第1項の規定に違反した者は、2年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。
7 第9条第4項、第10条第4項、第15条第4項、第22条第1項、第26条第1項、第27条第4項、第27条の2第1項若しくは第2項第1号若しくは第2号、第27条の3第1項若しくは第2項、第28条第1項、第29条、第30条、第31条第1項若しくは第2項、第33条又は第34条に規定する行為をした者は、当該青少年の年齢を知らないことを理由として、前各項の規定による処罰を免れることができない。ただし、当該青少年の年齢を知らないことに過失がないときは、この限りでない。
解説
4 「ただし、当該青少年の年齢を知らないことに過失がないときは、この限りでない。」とは、当該青少年の年齢について行為者が相当の注意を払い、青少年であることを知らなかったことについて、行為者に過失がなかったことが立証されれば、処罰の対象とされないということである。具体的には、履歴書を提出させるだけでは本人を確認したとは言えず、運転免許証等の顔写真つきの身分証明書で確認するか、必要によっては保護者等に確認するなどの手段を講じた場合は、過失がないと言える。