児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

児童淫行罪の機会の盗撮行為や「隠しカメラを設置したチームの事務所で児童らにスポーツブラの試着をさせるという手口で盗撮した」のを、ひそかに製造罪(7条5項)とした事例(東京地裁r2.3.2 確定)

 ハメ撮り盗撮は製造罪(7条4項 姿態とらせて製造罪)だっていうてるやん。
 量刑理由に出てくる「隠しカメラを設置したチームの事務所で児童らにスポーツブラの試着をさせるという手口で盗撮した」というのも姿態をとらせて製造罪であって、ひそかに製造罪ではない。
 盗撮して姿態をとらせて製造した場合は、ひそかに製造罪は成立せず、姿態をとらせて製造罪のみが成立するという大阪高判例があります。
 控訴せず確定したそうですが、成立しない罪で服役することになりますので、弁護人はこういう点をチェックして下さい。

判例はここに紹介してあります
okumuraosaka.hatenadiary.jp

第七条(児童ポルノ所持、提供等)
4前項に規定するもののほか、児童に第二条第三項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ、これを写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造した者も、第二項と同様とする。
5前二項に規定するもののほか、ひそかに第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造した者も、第二項と同様とする。

判例ID】 28281043
【裁判年月日等】 令和2年3月2日/東京地方裁判所
【事件名】 児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反、児童福祉法違反被告事件
【裁判結果】 有罪
【裁判官】 楡井英夫 小野裕信 竹田美波
【出典】 D1-Law.com判例体系

■28281043
東京地方裁判所
令和02年03月02日
 上記の者に対する児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反、児童福祉法違反被告事件について、当裁判所は、検察官山口隼人及び私選弁護人柿原研人各出席の上審理し、次のとおり判決する。
理由
(罪となるべき事実)
 被告人は、●●●が運営する女子サッカーチーム●●●のコーチとして同チームに在籍する児童らに対してサッカーの指導等をしていたものであるが、
第1(令和元年10月4日付け追起訴状記載の公訴事実第1関係)
 ●●●(当時14歳ないし15歳)が18歳に満たない児童であることを知りながら、同児童が同チームに在籍していた当時はサッカーの指導等をし、同児童が同チームを退団した後も引き続き同児童の進路、学習等について助言をするなどしていた立場を利用して、
1 平成30年4月7日午前10時頃から同日午後0時頃までの間に、東京都●●●事務所(以下「本件事務所」という。)内において、同児童に被告人を相手に性交させ、
2 同年5月5日午後1時頃から同日午後4時頃までの間に、本件事務所内において、同児童に被告人を相手に性交させ、もって児童に淫行をさせる行為をし、
第2(令和元年10月4日付け追起訴状記載の公訴事実第2関係)
 前記第1の1及び2の日時場所において、2回にわたり、ひそかに、前記児童が被告人と性交する姿態、被告人が同児童の性器等を触る行為に係る同児童の姿態及び同児童が陰部等を露出した姿態を同所に設置した小型カメラで動画撮影し、撮影した動画データを自己が使用するパーソナルコンピュータに接続したUSBメモリ1個(令和元年東地領第4006号符号1)に記録して編集した上で保存し、もってひそかに児童を相手方とする性交に係る児童の姿態、他人が児童の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの及び衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写することにより児童ポルノを製造し、
(法令の適用)
罰条
 判示第1の行為
  児童福祉法60条1項、34条1項6号(包括一罪)
 判示第2の行為
  児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条5項(2条3項1号、2号、3号)、2項(包括一罪)

(量刑の理由)
 本件は、スポーツチームのコーチである被告人が、在籍中の指導や脱退後の進路の助言をしていた立場を利用して児童1名(当時14歳ないし15歳)と2回性交した児童福祉法違反(第1)、その様子を盗撮した児童ポルノ製造(第2)と、合宿先やチームの事務所内で多数の在籍児童(当時11歳から15歳)の陰部等を盗撮した児童ポルノ製造(第3ないし第9)からなる事案である。
 量刑の核心である淫行とその関連事案についてみると、被害児童は、当時、被告人に対して一定の好意を抱くなどしていたとは認められるものの、チーム在籍中はもとより、脱退後も助言を継続してきたという関係性や、被害児童の年齢などにも鑑みれば、大人として指導、育成を行うべき立場にある被告人が、その立場を悪用し、児童の思慮分別の未熟さに乗じて、2回も性交に及んだとみるべきであって、相当に卑劣で悪質との評価を免れない。淫行の際に盗撮していた点も含め、自己の性欲を満たすために被害者を弄んでおり、強い非難に値する。被害児童の親が子を案じ、被告人の厳罰を求めるのは当然である。
 また、その余の盗撮事案についてみても、約1年の間に7回にわたり、被告人は、コーチの立場を悪用し、持参した隠しカメラを合宿先の浴室等に設置するという手口や、隠しカメラを設置したチームの事務所で児童らにスポーツブラの試着をさせるという手口で盗撮したものである。常習性が顕著である上、いずれの犯行も被告人の立場や児童らの信頼を悪用して性欲を満たそうとしたという点において、淫行関連事案と共通している。30名を超える被害者及びその親の多くが被告人の厳罰を求めるのは十分に理解できる。
 他方で、・・・
刑事第15部
 (裁判長裁判官 楡井英夫 裁判官 小野裕信 裁判官 竹田美波)

画像から「15歳から17歳程度」と判断した事例・自己の性的好奇心を満たす目的でポルノの所持を開始した場合,特段の事情がない限り,その後の所持についても,自己の性的好奇心を満たす目的であると推認するのが合理的である。とされた事例(浜松支部R2.2.21)

「流行のシャギーカット,ほっぺたがポッチャリしており,足は中くらいの太さであるが棒状であること,ませた顔でニキビがないこと,小陰唇が発達し,外陰部の色素沈着が認められること,胸はAカップかBカップくらいである程度あるが平坦であり,乳首は小さめであることなどから,15歳から17歳程度と認められる。」というのですが、 見かけ15~17と18歳とは区別できないでしょう。そんなAV嬢もいるでしょう。
 自己の性的好奇心を満たす目的については、警察文献では否定される例も出てたと思いますが、エッチなビデオであれば肯定されてしまうようです。

静岡地方裁判所浜松支部令和2年2月21日刑事部判決
       判   決
 上記の者に対する強制わいせつ,児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件について,当裁判所は,検察官大作顕子,同永井絢子,弁護人伊豆田悦義(私選)各出席の上審理し,次のとおり判決する。
       理   由

【罪となるべき事実】
第2 被告人は,自己の性的好奇心を満たす目的で,平成30年7月18日,浜松市α区β×××番地の×所在の被告人方において,児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態,他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの及び衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録である動画データを記録した児童ポルノであるDVD14枚を所持した。
【証拠の標目】《略》
3〔2〕判示第2の事実における〔ア〕DVD1枚の児童ポルノ該当性について
 弁護人は,判示第2の事実における各DVD(以下,単に「各DVD」という。)のうち,「○○○○○○○○○○」と印字されたラベルが貼られたケースに入っているもの(以下「本件DVD」という。)については,写っている女性(以下「本件女性」という。)が18歳未満ではない疑いがあるとして,児童ポルノ該当性を争うため,以下検討する。
(1)本件DVDを含む複数のDVDに写っている女性の年齢判断をした,当時国立大学法人a大学の法医学講座の助教授であったP2医師(以下「本件医師」という。)の供述の概要は,次のとおりである。
 私は,約13年間の法医実務経験を有しており,その間,法医解剖数約605件,行政解剖数約53件,検案数約281件を経験し,幼児から第二次性徴期である8歳くらいから18歳くらいまでの少女の解剖,検案も多数担当している。これらの経験や医学文献に基づき,女子の陰毛,乳房及び外陰の発育度並びに骨盤の増大度等を総合考慮し,約27年間の法医実務経験を有する同講座の教授と共に判断する。18歳未満の可能性が高いが,18歳未満とは完全に言い切れない者を除外し,ほぼ18歳未満として間違いない者について,18歳未満と判断する。
 本件DVDの映像は,モザイク等がなく性器が鮮明に写されたものである。本件女性は,流行のシャギーカット,ほっぺたがポッチャリしており,足は中くらいの太さであるが棒状であること,ませた顔でニキビがないこと,小陰唇が発達し,外陰部の色素沈着が認められること,胸はAカップかBカップくらいである程度あるが平坦であり,乳首は小さめであることなどから,15歳から17歳程度と認められる。
(2)以上の本件医師の供述は,豊富な実務経験を有する専門的な立場からの合理的なものとして信用できる。
 この点,弁護人は,本件医師の前記供述の信用性に関し,本件医師は,子供の成長には個人差が大きく,外見を観ての年齢判断は困難であり,まして,映像を観ての判断で正確性は劣らざるを得ないとの留保を付しており,年齢判断の正確性には限界があるほか,本件医師が本件女性の年齢判断の根拠とする事情は,いずれも,女性の成長度合いや体型に関する個人差として常識的に考えられる幅を考慮すれば,成人女性についても該当する可能性のあるものであると主張する。
 しかし,本件医師は,弁護人が指摘する留保を付しつつも,自身の経験等に基づいて判断するとしているのであって,この留保をもって,直ちに本件医師の年齢判断の正確性が否定されることにはならない。本件医師は,本件DVDの映像は性器が鮮明に写されたものであるとした上で,具体的な事情を根拠にあげて,本件女性の年齢判断をしているものである。確かに,本件医師が本件女性の年齢判断の根拠とする事情は,個別にみれば,いずれも成人女性についても該当する可能性のあるものではあるが,本件医師は,これらを総合考慮の上,自身の豊富な経験や文献に基づき,同じく豊富な経験を有する教授と共に,本件女性の年齢を15歳から17歳程度と判断しているのであって,その正確性については十分信用できる。
 したがって,弁護人の前記各主張は,本件医師の前記供述の信用性を揺るがすものとはいえない。
(3)以上のとおり,信用できる本件医師の前記供述によれば,本件女性の年齢は,15歳から17歳程度と認められるとされている。この点について,弁護人は,15歳から17歳程度との表現からすれば,本件女性が18歳に達している可能性を排斥していない旨主張するが,本件医師は,18歳未満の可能性が高いが,18歳未満とは完全に言い切れない者を除外し,ほぼ18歳未満として間違いない者について,18歳未満と判断するとしているのであって,15歳から17歳程度との供述は,18歳に達している可能性を排斥しているものと考えるべきである。
(4)したがって,本件女性の年齢は18歳未満であると認められ,他の証拠もあわせ鑑みれば,本件DVDは,児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(以下「児童ポルノ法」という。)2条3項にいう「児童ポルノ」に当たるといえる。
4〔2〕判示第2の事実における〔イ〕自己の性的好奇心を満たす目的の有無について
 弁護人は,判示第2の行為日である平成30年7月18日時点において,被告人は,各DVDへの興味・関心を失っていたとして,各DVDの所持につき,児童ポルノ法7条1項にいう「自己の性的好奇心を満たす目的」を争うため,以下検討する。
(1)関係証拠によれば,各DVDは,本件DVDを含め,児童ポルノ法2条3項にいう「児童ポルノ」に当たるといえ,また,被告人は,自己の性的好奇心を満たす目的で,各DVDを入手したことが認められる。このように,自己の性的好奇心を満たす目的でポルノの所持を開始した場合,特段の事情がない限り,その後の所持についても,自己の性的好奇心を満たす目的であると推認するのが合理的である。
(2)本件において,被告人が,平成30年7月18日を基準として,10年以上,各DVDを視聴していなかった可能性は否定されない。もっとも,各DVDは,被告人方の書斎の本棚に保管されていたのであり,被告人が視聴しようと思えばいつでも視聴できたものである。同書斎には,明らかに不要なものも保管されており,廃棄されていないからといって,直ちに被告人が各DVDへの興味・関心を有していたことにはならないものの,少なくとも,各DVDは,一見してポルノと分かる外観ではなく,廃棄することが困難であったといった事情は見当たらない。各DVDは,同日時点で存在する他のポルノに比べれば,画質等が劣るものであるが,性的好奇心が向けられるには十分なものである。そして,前記2で説示したとおり,被告人は,同日頃において,女子児童に性的興味を有していたと認められるところである。
 以上のとおり,被告人は,各DVDを視聴しようと思えば容易に視聴でき,かつ,それによって,自己の性的好奇心を満たすことができたものといえるのであって,前記特段の事情は認められない。結局,同日時点において被告人は各DVDへの興味・関心を失っていたとの弁護人の前記主張は,単に被告人が各DVDへの具体的な興味を失っていたとの主張に過ぎず,児童ポルノ法7条1項にいう「自己の性的好奇心を満たす目的」を否定するものではない。
(3)したがって,被告人は,判示第2の行為日である平成30年7月18日時点において,自己の性的好奇心を満たす目的で,各DVDを所持していたと認められる。
【法令の適用】
罰条
判示第2の行為 包括して児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条1項前段,2条3項1号,2号,3号
刑種の選択
判示第2の罪 懲役刑を選択
併合罪の処理 刑法45条前段,47条本文,10条(刑及び犯情が最も重い判示第1の1の罪の刑に法定の加重)
未決勾留日数の算入 刑法21条
刑の執行猶予 刑法25条1項
【量刑の理由】
令和2年2月21日
静岡地方裁判所浜松支部刑事部
裁判長裁判官 山田直之 裁判官 横江麻里子 裁判官 宮田裕平

「単に自己の性欲を満たす目的で同女の耳や陰部を舐め,同女の陰部を手で触り,同女に自己の陰茎を口淫させた上,同女と性交し,もって青少年に対して,わいせつな行為及びみだらな性行為をした」という罪となるべき事実(岐阜地裁r2.1.24)


 「同女の耳や陰部を舐め,同女の陰部を手で触り,同女に自己の陰茎を口淫させた上,同女と性交し」というのは「みだらな性行為」にも「わいせつな行為」にも該当するように見えます。

 岐阜県条例は、性交・性交類似行為・わいせつ行為という区分ではなく、
①「みだらな性行為」=健全な常識ある一般社会人からみて、結婚を前提としない欲望を満たすためのみ行う不純とされる性行為」
②「わいせつな行為」=いたずらに性欲を刺激興奮せしめたり、その露骨な表現によって健全な常識ある一般社会人に対し、性的にしゅう恥嫌悪の情をおこさせる行為
という区別のようです。この解説はS55の条例解説から不変で、最大判S60.10.23福岡県青少年条例違反事件大法廷判決を受けても変更がありません。性行為についても、わいせつな行為については、再定義求める必要があります。

岐阜県青少年健全育成条例の解説h22
(みだらな性行為等の禁止)
第23
1 条何人も、青少年に対して、みだらな性行為又はわいせつな行為をしてはならない。
2 何人も、青少年に対して、前項の行為を教え、文は見せてはならない。
【解説】
1 本条は、何人も、青少年に対してみだらな性行為若しくはわいせつな行為をし、又はそれらの行為を教えたり、見せたりするなど、青少年の福祉を限害する背徳行為を禁じようとするものである。
( 1) 「みだらな性行為」とは、健全な常識ある一般社会人からみて、結婚を前提としない欲望を満たすためのみ行う不純とされる性行為をいう。
(2) 「わいせつな行為」とは、いたずらに性欲を刺激興奮せしめたり、その露骨な表現によって健全な常識ある一般社会人に対し、性的にしゅう恥嫌悪の情をおこさせる行為をいうものである。
2 本条は、何人も、青少年に対してみだらな性行為又はわいせつな行為をしてはならないので、あって、相手となる青少年が承諾したかどうかは問わないc
3 「何人」とは、県民はもとより、旅行者、滞在者も含み、現に本県内にいるすべての人をさし、成人であると未成年者であると問わない。

岐阜地方裁判所
令和2年1月24日刑事部判決
       理   由
(罪となるべき事実)
 被告人は,平成30年3月29日午後1時22分頃から同日午後3時頃までの間に,岐阜県大垣市α××××番地×b公園駐車場に駐車中の自動車内において,別紙記載のA(当時15歳)が18歳未満の青少年であることを知りながら,単に自己の性欲を満たす目的で同女の耳や陰部を舐め,同女の陰部を手で触り,同女に自己の陰茎を口淫させた上,同女と性交し,もって青少年に対して,わいせつな行為及びみだらな性行為をした。
(証拠の標目)《略》
(争点に対する判断)
1 争点
 本件の争点は,被告人が,Aに対し,その耳や陰部を舐め,陰部を手で触り,自己の陰茎を口淫させ,性交するという行為をしたか否かであり,その判断に当たっては,A供述の信用性が問題になる。
 当裁判所は,A供述のうち判示事実に関係する部分は信用でき,被告人が判示行為を行ったものと認定したので,以下その理由を説明する。
・・・・
(法令の適用)
 被告人の判示所為は,岐阜県青少年健全育成条例48条,23条1項に該当するところ,所定刑中懲役刑を選択し,その所定刑期の範囲内で被告人を懲役1年に処し,情状により刑法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予することとし,訴訟費用については,刑事訴訟法181条1項本文により全部これを被告人に負担させることとする。
(量刑の理由)
 被告人は,中学校教諭の立場にありながら,元生徒の被害者に対し判示行為に及んだもので,本件は,青少年の健全育成を期する条例の趣旨に著しく反する悪質な犯行である。これに加えて,被告人には前科はないことなども考慮し,主文の刑が相当と判断した。
(求刑 懲役1年)
令和2年1月30日
岐阜地方裁判所刑事部
裁判長裁判官 菅原暁 裁判官 小川結加 裁判官 馬場梨代

8回の児童ポルノ提供行為を、2項提供罪8罪としたもの(徳島地裁R01.10.24)

 8人に送信したら、「多数の者」だから6項提供罪ですよね。

7条
2児童ポルノを提供した者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を提供した者も、同様とする。
6児童ポルノを不特定若しくは多数の者に提供し、又は公然と陳列した者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を不特定又は多数の者に提供した者も、同様とする。

判例番号】 L07451224

       児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反,わいせつ電磁的記録記録媒体陳列被告事件
【事件番号】 徳島地方裁判所判決
【判決日付】 令和元年10月24日
【掲載誌】  LLI/DB 判例秘書登載
       理   由

(罪となるべき事実)
 当裁判所の認定した罪となるべき事実は,平成31年4月5日付け及び同月26日付け各起訴状に記載された公訴事実と同一であるから,これを引用する。ただし,平成31年4月26日付け起訴状に記載された公訴事実中第9の「前記有限会社J又はその周辺において」とあるのを「前記被告人方又はその周辺において」と訂正する。
(証拠の標目)略
(法令の適用)略
(量刑の理由)
 被告人は,男子児童のわいせつ動画を得る目的で,インターネット上の掲示板に被告人自身が女子児童であると偽って投稿し,連絡をしてきた9名の男子児童のうち8名に,女児の児童ポルノ画像を送信して児童ポルノの提供8件を敢行し,これと引き換えなどとして9名の男子児童に児童自身の裸の動画を撮影させて被告人に送信させ,児童ポルノ製造9件を敢行し,また,このうち男児3名の画像を動画共有サイトにアップロードする方法で,3回にわたり児童ポルノでありかつわいせつな動画を公然と陳列した。
(求刑-懲役1年6月)
  徳島地方裁判所刑事部 裁判官 藤原美弥子


       起訴状
                   平成31年4月26日
徳島地方裁判所 殿
                徳島地方検察庁
                  検察官 検事 平良優実
 下記被告事件につき公訴を提起する。
         記
       公訴事実
  被告人は
 第1 平成30年9月18日午前8時58分頃,市(以下略)被告人方又はその周辺において,Bに対し,衣服の一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録である画像データ1点を,アプリケーションソフト「LINE」を用いて,自己が使用する携帯電話機から電気通信回線を通じて前記Bが使用する携帯電話機に送信し,その頃,同携帯電話機に受信させ,もって児童ポルノを提供し
 第2 同月19日午前5時39分頃,同市内又はその周辺において,Cに対し,衣服の一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録である画像データ1点を,アプリケーションソフト「LINE」を用いて,自己が使用する携帯電話機から電気通信回線を通じて前記Cが使用する携帯電話機に送信し,その頃,同携帯電話機に受信させ,もって児童ポルノを提供し
 第3 同月20日午後7時31分頃及び同日午後7時33分頃,同市内又はその周辺において,Dに対し,衣服の一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録である画像データ2点を,アプリケーションソフト「LINE」を用いて,自己が使用する携帯電話機から電気通信回線を通じて前記Dが使用する携帯電話機に送信し,その頃,同携帯電話機に受信させ,もって児童ポルノを提供し
 第4 同月29日午後0時17分頃及び同日午後0時50分頃,同市(以下略)有限会社J又はその周辺において,Eに対し,衣服の一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録である画像データ等2点を,アプリケーションソフト「LINE」を用いて,自己が使用する携帯電話機から電気通信回線を通じて前記Eが使用する携帯電話機に送信し,その頃,同携帯電話機に受信させ,もって児童ポルノを提供し
 第5 同年10月4日午後1時8分頃から同日午後1時22分頃までの間,3回にわたり,前記有限会社J又はその周辺において,Fに対し,衣服の一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録である画像データ3点を,アプリケーションソフト「LINE」を用いて,自己が使用する携帯電話機から電気通信回線を通じて前記Fが使用する携帯電話機に送信し,その頃,同携帯電話機に受信させ,もって児童ポルノを提供し
 第6 同月14日午前10時22分頃,前記被告人方又はその周辺において,Gに対し,衣服の一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録である画像データ1点を,アプリケーションソフト「LINE」を用いて,自己が使用する携帯電話機から電気通信回線を通じて前記Gが使用する携帯電話機に送信し,その頃,同携帯電話機に受信させ,もって児童ポルノを提供し
 第7 同日午前10時24分頃及び同日午前10時28分頃,前記被告人方又はその周辺において,Hに対し,衣服の一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録である画像データ2点を,アプリケーションソフト「LINE」を用いて,自己が使用する携帯電話機から電気通信回線を通じて前記Hが使用する携帯電話機に送信し,その頃,同携帯電話機に受信させ,もって児童ポルノを提供し
 第8 同年11月8日午後8時18分頃及び同日午後8時21分頃,前記被告人方又はその周辺において,Iに対し,衣服の一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録である画像データ2点を,アプリケーションソフト「LINE」を用いて,自己が使用する携帯電話機から電気通信回線を通じて前記Iが使用する携帯電話機に送信し,その頃,同携帯電話機に受信させ,もって児童ポルノを提供し
       罪名及び罰条
第1ないし第8
 児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反 同法律7条2項,2条3項3号

「撮影行為は②の類型」「あまりに特殊な性的嗜好であり,社会通念上は性的性質が認められない行為については, やはり、行為者の性的意図だけを理由に性的意味を肯定することはできない」薄井真由子

「撮影行為は②の類型」「あまりに特殊な性的嗜好であり,社会通念上は性的性質が認められない行為については, やはり、行為者の性的意図だけを理由に性的意味を肯定することはできない」薄井真由子「強制わいせつ罪における「性的意図」(最大判平29・11 ・29刑集71 ・9 ・467)植村立郎「刑事事実認定重要判決50選 上 《第3版》」2020
 大法廷h29.11.29がわいせつの定義しなかったので、大混乱じゃん。
 裸体撮影行為はわいせつ性弱いと主張します。

薄井真由子「強制わいせつ罪における「性的意図」(最大判平29・11 ・29刑集71 ・9 ・467)植村立郎「刑事事実認定重要判決50選 上 《第3版》」2020

イ具体的判断方法
第2に,具体的判断方法としては, まず,
①行為そのものが持つ性的性質が明確で,直ちにわいせつな行為と評価できる行為と,
②当該行為が行われた際の具体的状況等をも考盧に入れなければ当該行為に性的な意味があるかどううかが評価し難いような行為
があるとした。
そして,②の行為については, 当該行為が行われた際の具体的状況等の諸般の事情をも総合考慮し,その行為に性的な意味があるといえるか否かや,④その性的な意味合いの強さを個別事案に応じた具体的事実関係に基づいて判断するものとした。その上で, そのような個別具体的な事情の一つとして,行為者の目的等の主観的事情を判断要素として考盧すべき場合があるというのである。

ウその他の性的部位への直接の接触行為
性器・肛門・口腔以外の性的部位としては。胸と霄部があげられることが多い。胸と霄部は性を象徴する典型的な部位といえるから、被害者の胸や臂部を直接触ったり揉んだりする行為, あるいは行為者の胸や臂部を直接被害者に触らせる行為は, 瞬問的な接触や狭い範囲の接触でなければ,性的性質が強く,①の場合に当たるのではないかと思われる'2)。
もっとも,接触の具体的態様を考慮することにはなろう。
なお, 男性や児童の胸が女性の胸と性的性質が同じかどうかは議論のあるところだが, 強制性交等罪において男女の別がなくなり,今日では性的な被害については男性や児童も女性と同じであると一般的に受け止められていることからすれば, 男性や児童の胸の性的性質について女性の胸と区別する解釈は基本的に採り得ないものである13)。
エその他の行為
性器あるいは性的部位への着衣の上からの接触や,接触を伴わず,被害者の性器あるいは性的部位を見たり撮影したりする行為については, 直接の接触よりは性的侵襲度が低いといえるから,①の場合ではなく、②の場合として,行為が行われた際の具体的状況等を踏まえて「わいせつな行為」といえるかを判断するのが相当と解される。
(3) 行為が行われた際の具体的状況等を考慮した判断について
ア 行為そのものの性的性質を検討したときに, 当該行為が行われた際の具体的状況等をも考盧に入れなければ当該行為に性的な意味があるかどうかが評価し難いような行為(②の場合)については, 次に, 当該行為が行われた際の具体的状況等の諸般の事情をも総合考盧し,
アその行為に性的な意味があるといえるか否かや,
イその性的な意味合いの強さを個別事案に応じた具体的事実関係に基づいて判断することになる。
諸般の事情としては。行為者と相手との関係場所や時間帯、行為に至る経緯前後の行動等があげられるだろう。
②の場合に当たる行為としては。肌を撫でる行為,着衣を脱がせる行為,着衣を付けない状態で写真を撮影する行為など,性的意味とは別の意味でなされることもある行為があげられる。例えば, 福祉サービスとしての入浴介助で相手の着衣を全て脱がせる行為には性的意味は認められないが,夜間に二人きりの部屋で相手の着衣を全て脱がせる行為については性的意味が認められることが通常だろう。これは, 当該行為が行われた際の具体的状況等により, その行為が性的意味を持つものなのか, それとも別の意味でなされた
ものなのかを判断しているのである。また, 前記(2)エのように性的部位に関わるものの性的侵襲度が比較的低い行為については,性的意味があること自体は明らかであるが, 当該行為が行われた際の具体的状況等を踏まえ, その意味合いの強度を判断することになる。
そして,上記の判断に当たっては,行為者の目的等の主観的事情を判断要素の一つとすることもあり得るというのであるが,具体的に,行為者の主観的事情が,行為の性的意味の有無やその意味合いの強度にと奪う影響するのだろうか。なお, ここで考慮対象とされるべき主観的事情には,行為者自身の性欲を満たす性的意図に限られず,相手に対して性的屈辱感を覚えさせることによって復讐等を果たす目的や, 第三者らの性欲を満たすため性産業に提供する目的等も含まれる14)。
イ性的意味の有無への影響について
上記のように,性的意味からなされることも, 別の意味からなされることもある行為については、 まずは当該行為が行われた際の具体的状況に関する客観的事情から、その行為の意味を考えるべきである15)が, さらに行為者の主観的事情を一要素として考盧することにより, 当該行為が性的意味から行われたと判断されることはあり得る。とはいっても, ほとんどの場合は,客観的事情から性的意味を肯定できるかどうか判断されるものと思われる。
例えば,知り合いの児童を抱きすくめて臂部を含む身体を撫でる行為については,物陰に連れて行っているとか,児童が嫌がっているのにやめなかったなどの客観的事情から,親愛の情ゆえの行為ではなく性的意味が肯定できるのであって,行為者の主観的事情は,客観的事情を踏まえても両様の解釈が成り立ち得るときに, いわば補充的に機能するにすぎないと考えられる。
これに対し、客観的にみて性的意味が認められない行為については,行為者が性的意図をもって行っていたとしても,行為者の主観的事情だけで性的意味を肯定することはできないというべきである。この点に関し,行為者の主観的事情との関係で取り上げられることの多い治療行為と行為者の特殊な性的嗜好(フェテイシズム)に基づく行為について検討しておく。
(ア) 治療行為
・・・・・・・・
(イ) 行為者の特殊な性的嗜好フェティシズム)に基づく行為
行為者の特殊な性的嗜好(フェテイシズム)に基づく行為についても,性的意味の有無の判断と行為者の主観的事情の関係が問題となる。こうした行為は,一見性的意味を持つようには思われない行為であっても,行為者は性的意図を有して行っているからである。この点、あまりに特殊な性的嗜好であり,社会通念上は性的性質が認められない行為については, やはり、行為者の性的意図だけを理由に性的意味を肯定することはできないというべきである。例えば,女性が汗を流す姿を見ることに性的興奮を覚える者が, その姿を見たいがために無理やり運動場を走らせたとしても,社会通念上当該行為に性的意味は認められないから,行為者の主観的事情だけで性的意味があることにはならない。もっとも、社会通念上もフェテイシズムに基づく行為として認知されているような行為であれば, そのことから性的意味を肯定できることもあるだろう。
・・・・・・・・・・
4 おわりに
本判決は、強制わいせつ罪の解釈を明確化したものとして重要な意義を有する。もっとも、刑法176条の「わいせつな行為」該当性の判断や, そこに行為者の主観的事情がどのように影響するのかについては,残された課題であり,今後の事例集積とそれを踏まえた更なる分析が望まれる。

準強姦の逆転有罪判決(福岡高裁R02.2.5)

準強姦被告事件
福岡高等裁判所
令和2年2月5日第1刑事部判決
       判   決
原判決 福岡地方裁判所久留米支部 平成31年3月12日宣告
控訴申立人 検察官
       主   文
原判決を破棄する。
被告人を懲役4年に処する。
原審における訴訟費用は被告人の負担とする。
       理   由

 本件控訴の趣意は,検察官大竹純作成の控訴趣意書記載のとおりであり,これに対する答弁は弁護人共同作成の答弁書記載のとおりであるから,これらを引用する。論旨は,関係証拠によれば,被害者が抗拒不能の状態にあり,被告人が被害者の抗拒不能状態を認識し,その状態に乗じて被害者と性交をしたと認定できるから,被告人に無罪を言い渡した原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認があるというのである。
 そこで,以下,記録を調査して検討する(なお,当審で被告人質問を実施したが,被告人は終始黙秘したため,当審で取り調べた実質的証拠は存在しない)。
第1 事案の概要等
1 公訴事実
 本件公訴事実は,「被告人は,平成29年2月5日,□□□(以下「本件飲食店」という)店内において,被害者X(以下,被害者の氏名等は別紙呼称一覧表のとおり)が飲酒酩酊のため抗拒不能であるのに乗じ,同人と性交をした」というものである。
2 審理経
 原審は,公判前整理手続に付して争点と証拠を整理した。その結果,被告人が上記の日に本件飲食店で被害者と性交をした事実には争いがなく,争点は,〔1〕当時,被害者が抗拒不能の状態にあったか否か(争点1),〔2〕仮に被害者が抗拒不能の状態にあったとして,被告人がそれを認識していたか否か(争点2)の2点であると確認された。そして,第6回公判期日までの間に,同意された検察官請求証拠が取り調べられたほか,被害者を含め本件飲食店に居合わせた男女8名の証人尋問及び被告人質問が実施された。
第2 原判決の検討
1 原判決の要旨
 原判決は,争点1について,被害者は,被告人に対して抵抗することが著しく困難であり,抗拒不能の状態にあったと認定したが,争点2について,被告人が,被害者の抗拒不能状態を認識していたと認めるには合理的な疑いが残ると判断して,被告人を無罪としている。その理由の要旨は次のとおりである。
(1)争点1(被害者が抗拒不能の状態にあったか否か)について
ア 被害者は,本件飲食店で催された■■■■■■■■■■サークルの懇親会に前日午後11時頃から参加したが,当日午前4時15分頃までの数時間の間に多量のアルコールを短時間のうちに摂取し,店内北側のカウンター席で眠ったまま嘔吐するような状態に陥り,嘔吐後他の者に運ばれて店内南側のソファフロアに移動させられても,周囲の問い掛けに応じずに眠り込むような状態であった。そして,当日午前5時41分頃にはスカートの下にストッキングやパンツを履かずに横になり,添い寝する被告人から抱きつかれ,身体を触られたりしたが,それらの様子を写真撮影されても気付かず,その後,被告人と性交をしている。したがって,被害者は,嘔吐した時点で飲酒酩酊のため眠り込んだ状態であったと考えられ,ソファフロアに移動した後の様子からも,状況を認識して思うように体を動かすことができる状態ではなかったといえる。
イ 被害者は,帰宅後,■■■■■■■■■■サークルから退会し,産婦人科医院を受診して避妊薬の処方を受け,これを服用しているから,上記のような状況で性交をすることを許容していたとは考えられず,性交時において,状況を認識して思うように体を動かすことができる状態にはなかったといえる。
ウ したがって,被害者は,性交時,被告人に対して抵抗することが著しく困難であり,抗拒不能の状態にあったと認められる。
(2)争点2(被告人が被害者の抗拒不能状態を認識していたか否か)について
ア 被害者は,被告人と性交をした際,飲酒酩酊によって抗拒不能の状態にあったが,目を開けたり,大きくない声で何度か声を発したりすることができる状態にあり,それからあまり時間が経たないうちに被告人とは別の者から胸を触られた際,大きな声で「やめて」と言い,その手を振り払って抵抗できた。したがって,被害者は,性交時,飲酒による酩酊から覚めつつある状態にあり,意識があるかのように見える状態にあった。
イ 被告人は,原審公判において,犯行前,Dから「被告人のことが良いと言っているよ」と言われ,ソファフロアに案内された旨供述するところ,その供述が信用できないとはいえない。また,当日の懇親会や別の日の■■■■■■■■■■サークルのイベントにおいて,わいせつな行為がしばしば行われ,被告人も,以前に本件飲食店で被害者とは別の女性と性交に及んだことがあったなどと供述し,当日の懇親会において,女性に対して安易に性的行動に及ぶことができると考えていたことがうかがわれる。これらに加えて,被害者が,犯行時,被告人に対して明確な拒絶の意思を示していなかったことも併せると,被告人は,被害者が性交を許容していると誤信する状況にあったということができる。
ウ ソファフロアは,中央フロアと可動式の仕切扉によって区分されていたが,両フロアは行き来が可能であり,中央フロアにいた多数の者の中には,被告人と初対面の者がおり,犯行時,被告人は,ソファフロアに被害者以外にも女性が寝ていたことを認識している。したがって,被告人は,飲食店にいた他の者から警察等に通報されたり,被害者に事実を告げられたりするなどの危険があることを認識していたから,そのような中,被害者の同意がないとか,被害者が抵抗できない状態にあるなどといった認識の下で性交をするとは考え難い。
エ したがって,被害者が抗拒不能の状態にあったことを認識していなかった旨を述べる被告人の供述の信用性を否定することができない。
2 原判決の不合理性
 しかし,被告人は,飲酒酩酊のために眠り込んで抗拒不能の状態にあった被害者を直接見て性交をしているから,被害者の抗拒不能状態を認識していたと推論するのが当然であるのに,原判決が,争点2に関して,上記推論を妨げるものとして掲げる各事実は,いずれも認定することができないか,推論を妨げるとはいえないものであり,争点2に関する原判決の上記説示は,論理則,経験則に反しているといわざるを得ない。以下,補足して説明する。
(1)被害者が飲酒酩酊から覚めつつあり,意識があるかのように見える状態にあったと認定した点について
 所論が指摘するとおり,原判決は,被害者が飲酒酩酊による抗拒不能の状態であったと認定しているから,一時的に意識があるかのような反応をしたからといって,直ちに飲酒酩酊から覚めつつある状態にあるとはいえない。しかも,性交時に被害者の意識があったかのようにいう被告人の原審供述は,後記のとおり信用できない。原判決の認定には飛躍がある。
(2)被害者が性交を許容していると誤信するような状況にあったと認定した点について
 まず,原判決が指摘するDの発言については,単に被害者が被告人のことが良いと言っているというものにすぎず,仮にそのような発言があったとしても,所論が指摘するとおり,性交に同意していることを推認させるような具体性がない。また,原判決は,当日,女性に対して安易に性的行動に及ぶことができると考えていたという被告人の原審供述を誤信の根拠としているが,そもそもそのような非常識な発想を誤信の根拠とすること自体が不合理である上,被告人がそのように考えた根拠となる事情は,いずれも被害者とは無関係であるから,所論が指摘するとおり,男女間における性的関係に対する同意という極めて個人的な事柄を推論する際に用いることは相当ではない。仮に当日の懇親会に安易に性的行動に及ぶことができる雰囲気があったとしても,被害者は,初めて参加し,一気飲みをさせられて酔い潰れていたのであるから,そのような雰囲気を積極的に許容し,まして被告人との性交にまで同意したと考えるには,何段階もの飛躍がある。さらに,所論が指摘するとおり,原判決は,被害者が飲酒酩酊のため抗拒不能の状態にあったと認定しているから,被害者が明確な拒絶の意思を示すことができないのは当然であり,その点を被告人が誤信した根拠とするのは不合理である。
 このように,原判決が指摘する諸点は,いずれも被告人にとって,被害者が性交を許容していると誤信するような状況であったことを裏付ける事情とはいえない。原判決の推論は,論理則,経験則に反する不合理なものというほかない。
(3)ソファフロアの状況からすれば,被害者の同意がないとか,被害者が抵抗できない状態にあるなどといった認識の下で性交をしたとは考え難いと認定した点について
 原判決は,被告人が,他の参加者から目撃される可能性があることを認識していたことを指摘する。しかし,所論が指摘するとおり,通常はそのような状況で性交に同意する女性はいないから,むしろ被告人は被害者が同意しないことを認識して性交をしたと推認するのが合理的である。
 また,原判決は,目撃者から通報される危険性を指摘する。しかし,所論が指摘するとおり,当時,本件飲食店内は雑然とし,各参加者の行動を周囲が逐一把握していた状況にはないから,そのような危険性があったとは必ずしもいえない。
 そもそも,被告人は,自ら被害者がソファフロアのソファの上で下着等を露出したまま眠っている様子を写真撮影し,他の参加者から,被害者のスカート内側に手を入れるなどした姿を写真撮影されているが,被告人のこれらの行為を制止したり,通報しようとしたりする者はいなかった。また,被告人は,□□□と一緒にソファフロアに入った上で,被害者の近くに別の女性がもう1人寝ていることを認識しつつ被害者と性交をしている。これらの飲食店内の状況や被告人の行動からすれば,被告人は,被害者との性交を他人に見られて通報されることを不安に思うような状況にはなく,そのようなことを意に介さずに被害者が飲酒酩酊のため抗拒不能状態にあることに乗じて性交をしたとみるのが自然である。この点に関する原判決の判断も,論理則,経験則に反する不合理なものである。
第3 争点2に関する当裁判所の判断
1 はじめに
 そこで,改めて争点2に関する当裁判所の判断を示すと,被害者,A,B及びEの各原審供述を始めとする原審で取り調べられた関係証拠によれば,被告人は,犯行時,被害者の抗拒不能状態を認識していたものと優に認めることができ,それを否定する被告人の原審供述は,その認定に合理的疑いを生じさせるものとはいえない。以下,その理由を説明する。
2 被害者の原審供述について
(1)被害者の原審供述の概要
 被害者は,原審公判において,酩酊状況や被害状況等について,次のとおり供述する。すなわち,被害者は,前日午後11時半頃,Bとともに懇親会に参加したが,罰ゲームとしてテキーラを一気飲みさせられるなどして,いつもと比べて強い酒を速いペースで飲み,風邪からの病み上がりだったこともあって,酔っ払って眠ってしまい,カウンター席で嘔吐したことやソファフロアに運ばれたことを覚えていない。ところが,膣に異物が入ってきた痛みを感じて目を覚まし,被告人から性交をされていることが分かったが,飲酒酩酊の影響により抵抗することができず,再び眠ってしまった。その後,ソファフロアで目が覚めたときには被告人がいなくなっていたが,寝ている間に全然知らない人から無理やり性交をされたことが分かって声を出して泣いた,というのである。
(2)被害者の原審供述の信用性の検討
ア 飲酒酩酊して眠ってしまったという点について
 この点は,Bの原審供述によって裏付けられている。すなわち,Bは,被害者が一気飲みさせられるなどした末にカウンター席に座ったまま突っ伏した体勢で寝てしまい,おもちゃの剣を髪の毛に刺されるなどのいたずらをされても起きず,その体勢のまま吐いても起きず,男性から後ろ向きに引きずられて仕切り扉の向こう側にあるソファフロアに連れて行かれた。その後,Bは,ソファに横になる被害者に「大丈夫」と声を掛けたが,被害者は,きつそうで眠たそうな口調で「寝たら大丈夫」と答え,そのまま眠った,というのである。そして,■■■■■■■■■■サークルの主催者Fの携帯電話機には,当日午前4時15分に上記のとおりにいたずらされてもカウンター席に突っ伏して眠る被害者の写真(原審甲49)が保存され,被告人の携帯電話機には,当日午前4時22分にソファでスカートがまくり上げられ,下着等露出した状態で横になる被害者の写真(原審甲50)が保存されていた。これらの写真は,被害者及びBの各原審供述を客観的に裏付けているから,被害者は,午前4時22分頃にはソファで飲酒酩酊のため眠り込んでいたということができる。
イ 酩酊して眠っている最中に被告人から性交をされたという点について
 この点は,第1に,A及びEの各目撃供述によって裏付けられている。すなわち,両名とも,原審公判において,店内中央の仕切り扉の隙間からソファフロアをのぞいたところ,被告人がソファの上で被害者を正常位の体勢で性交をし,腰ないし体を前後に動かしているのが見えたが,その際,被害者は自らの意思で体を動かしているようには見えなかった,と供述している。両名の各原審供述は,いずれも具体的で臨場感があり,供述の信用性を疑わせるような不自然,不合理な点は見当たらず,見た場面と見なかった場面を区別するなど供述態度も真摯であり,相互に信用性を補強し合うものとして十分信用することができる。
 第2に,その後の被害者の言動とも整合する。すなわち,関係証拠によれば,被害者は,ソファフロアで目覚めた後に泣き出し,帰宅途中の車中でも泣き続け,■■■■■■■■■■サークルに入会して1週間程度しか経っておらず,■■■■■■■■■■ツアーに参加したこともなかったのに帰宅したその日のうちに突然退会し,翌日には産婦人科医院を受診し,避妊薬の処方を受けて服用している。このような被害者の言動は,被害者が,眠っている間に全然知らない人から無理やり性交をされたことが分かって悲しい気持ちになり,■■■■■■■■■■サークルと関わりたくないと思ったと供述する心理状態をよく表している。また,被告人が,被害者の太腿かその辺りに射精したと供述しているのに,被害者が,原審公判において,どこに射精されたかも分からないし,避妊具を使用していたかも分からなかったから産婦人科医院を受診したと供述するところも,被害者が性交をされた状況を十分に認識できていないことと整合している。
 第3に,被害申告の経緯も,被害者の原審供述の信用性を高めるものである。すなわち,Cの原審供述によれば,Cは,懇親会で初めて被害者やBと会ったが,2人が■■■■■■■■■■ツアーをすごく楽しみにしていたのに懇親会が終わった当日に突然■■■■■■■■■■サークルから退会したことを知って非常に疑問に思ったが,1,2週間後に催された■■■■■■■■■■ツアーに参加した際,寝ている間に主催者のFから体を触られるなどしたため,Bから連絡先を聞いて被害者に直接連絡したところ,被告人から被害に遭ったことを聞いた,というのである。そして,被害者は,Bとは別の友人から,警察に相談すると根掘り葉掘り聞かれて大変だと聞き,また,酔いすぎた自分にも非があると思うとともに,インターネット等で調べた結果,被害に遭ったその日に警察に相談に行かないと犯人のDNAが採取できないことが分かったので,警察に被害届は出さず,相談もしないつもりでいたが,Cから,自分も警察に相談しているから,勇気を持って警察に相談してみないかと進められ,心が痛むことを承知の上で警察署に相談に行った,というのである。このような被害申告に至るまでの被害者の消極的態度は,申告した被害内容が作為的なものではないことを示すものである。また,被害者が,Cに答えた内容は,当初から被害状況に関する供述が具体性を持って一貫していることを示している。これらの点は,被害者の原審供述の信用性を高めるものである。
3 事実認定等
(1)事実認定及び争点2に対する判断
 そうすると,信用できる被害者の原審供述に加えて,関係証拠によれば,被害者が被告人から性交をされた状況は,次のとおりであったと認めることができる。すなわち,被害者は,当日午前4時15分頃には本件飲食店内で飲酒酩酊してカウンター席で座ったまま眠り込んで嘔吐し,男性に引きずられてソファフロアに連れて行かれ,午前4時22分頃にはソファで眠りこんだ。そして,被害者は,当日午前5時41分頃には眠ったまま,被告人から陰部を触られるなどした末に性交をされ,陰部に痛みを感じて目を覚ましたが,飲酒酩酊の影響により抵抗することができずに再び眠り込んだ,というのである。
 このように,被告人は,被害者が飲酒酩酊のため眠り込んでいる状態に乗じて性交をしているから,被害者が抗拒不能の状態にあることを認識していたことは明らかである。
(2)被告人の原審供述等について
 これに対し,被告人は原審公判において,次のとおり,被害者が性交に同意していたかのように供述する。すなわち,被告人は,Dから,被害者が,被告人のことが良いと言っているよと呼ばれてソファフロアに行ったところ,被害者は横になってパンツをはいてなかった。被告人は,被害者に抱きついて口にキスをしたが,被害者は眠っておらず,胸や陰部を触っても嫌がらなかったので,「いい」と尋ねたところ,被害者は,戸惑ったように「えっ」と言っただけで,明確に拒否しなかったので受入れられたと思って正常位で性交をし,その最中,被害者から「ゴムは」みたいなことを聞かれたが,「ゴムはないよ」と答えた。被害者は,少し気持ちよさそうにあえぎ,声を出して普通に性交に応じている様子であり,やめてとか,痛い痛いとか,そういう発言はなかった,というのである。そして,原判決は,Bの原審供述に照らし,Dから上記のとおり言われた旨の被告人の原審供述が信用できないとはいえないとか,上記の被害者とのやり取りも不自然ではない,などと認定している。
 しかし,Bは,原審公判において,被告人がDから手招きされてDと一緒にソファフロアに入るのを見たと供述するが,Dの被告人に対する上記発言を聞いたとは供述していない。また,被害者が飲酒酩酊して眠ったまま嘔吐するなどしてソファフロアに連れて行かれた経緯や,被害者が被告人とは初対面であり、2人が当日意気投合したような状況がなく,Dが被害者の気持ちを代弁する立場にもないことからすると,Dが上記発言をしたかは疑問があり,この点に関する被告人の原審供述は不自然である。しかも,被告人は,原審公判において,被害者は眠っておらず,意識は全然普通にあるように感じたと供述するが,あいまいで具体性も臨場感もない内容に終始している上,前記A及びEの各目撃供述とも整合しない。そもそも,被害者は,被告人とはほとんど面識がなく,意識を失うほど泥酔して眠り込み,目覚めた後は被害に気付いて泣き続けていたから,被告人との性交の最中に「ゴムは」などという問い掛けをするはずがなく,まして明確な意識を持った状態で性交に応じたとは到底考えられない。仮に被害者が,被告人との性交の最中に,被告人からの刺激に対し,無意識な反応を多少示したことがあったとしても,それが被害者の明確な意識に基づく行動ではないことは容易に理解することができたはずであり,被告人が,被害者のそのような意識朦朧とした状態を直接見て認識していたことは明らかである。したがって,被告人の原審供述は全体的に信用性が低く,これをもって前記認定に合理的疑いを生じさせるものとはいえない。
 また,被告人の上記供述に沿うGの原審供述については,当時Gが被告人と不貞関係にあり,起訴前に実施された期日前証人尋問において,被告人をかばう虚偽の供述をしていたことからすると,信用性は低いというほかない。 
第4 破棄自判
 以上からすると,論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。
 そこで,刑訴法397条1項,382条により原判決を破棄し,同法400条ただし書により更に判決をする。
(罪となるべき事実)
 第1の1に記載した本件公訴事実と同じである。
(証拠の標目)《略》
(法令の適用)
 被告人の判示所為は平成29年法律第72号附則2条により同法による改正前の刑法178条2項,177条前段に該当するので,その所定刑期の範囲内で被告人を懲役4年に処し,原審における訴訟費用については,刑訴法181条1項本文により全部これを被告人に負担させることとする。
(量刑の理由)
(原審における検察官の求刑 懲役4年)
検察官山本佐吉子 公判出席
令和2年2月5日
福岡高等裁判所第1刑事部
裁判長裁判官 鬼澤友直 裁判官 平島正道 裁判官 三芳純平

新型インフルエンザ等対策特別措置法45条2項の要請、同条3項の指示に従わない者に法律上の制裁がないこと

 いま、45条2項で、次は45条3項やって、従わないときの罰則はない。
 解説書によれば「学校、興行場等の使用制限の指示を受けた者は法的義務を負うが、罰則による担保等によって強制的に使用を中止させるものではないこと」から「公的補償はない」とされています。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200425-24250213-nksports-soci
店前には「マスク非着用の方の入店はお断り致します」とのボードを設置。手洗いなどの感染拡大防止対策を呼び掛けた。利用者によると、開店後、すぐにスロット台の座席は7割以上が埋まったという。
大阪府が公表した6店のうち1店の運営会社は24日、国からの救済措置がなく「休業したくてもできない窮状にある」と訴えた。列に並んでいた自営業の男性(52)は、報道で「窮状」のことを知ったといい「経営者の立場からすると、一理あると思う」と話した。
店舗の駐車場には車両のナンバープレートが「堺」だけでなく、堺市の近隣市の登録ナンバー「和泉」、大阪市内の「なにわ」ナンバーが多く、「和歌山」ナンバーもあった。開店後もひっきりなしに客の車両が入ってきた。

提供日2020年4月24日
提供時間14時0分
内容
 大阪府では新型コロナウイルス感染症の防止対策のため、大阪府緊急事態措置により、令和2年4月14日から感染の拡大につながるおそれのある府内の施設に対し、新型インフルエンザ等対策特別措置法第24条第9項に基づく、施設の使用制限等の協力要請を行ってきました。
 つきましては、令和2年4月24日現在において、営業を継続している以下の施設については、令和2年4月24日付で、同法第45条第2項に基づく施設の使用停止(休業)の要請を行ったので公表します。
http://www.pref.osaka.lg.jp/hodo/index.php?site=fumin...

https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=424AC0000000031

新型インフルエンザ等対策特別措置法(平成二十四年法律第三十一号)
施行日: 令和二年三月十四日
最終更新: 令和二年三月十三日公布(令和二年法律第四号)改正

都道府県対策本部長の権限)
第二十四条 
9 都道府県対策本部長は、当該都道府県の区域に係る新型インフルエンザ等対策を的確かつ迅速に実施するため必要があると認めるときは、公私の団体又は個人に対し、その区域に係る新型インフルエンザ等対策の実施に関し必要な協力の要請をすることができる。
第二節 まん延の防止に関する措置
(感染を防止するための協力要請等)
第四十五条 
1特定都道府県知事は、新型インフルエンザ等緊急事態において、新型インフルエンザ等のまん延を防止し、国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済の混乱を回避するため必要があると認めるときは、当該特定都道府県の住民に対し、新型インフルエンザ等の潜伏期間及び治癒までの期間並びに発生の状況を考慮して当該特定都道府県知事が定める期間及び区域において、生活の維持に必要な場合を除きみだりに当該者の居宅又はこれに相当する場所から外出しないことその他の新型インフルエンザ等の感染の防止に必要な協力を要請することができる。
2 特定都道府県知事は、新型インフルエンザ等緊急事態において、新型インフルエンザ等のまん延を防止し、国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済の混乱を回避するため必要があると認めるときは、新型インフルエンザ等の潜伏期間及び治癒までの期間を考慮して当該特定都道府県知事が定める期間において、学校、社会福祉施設(通所又は短期間の入所により利用されるものに限る。)、興行場(興行場法(昭和二十三年法律第百三十七号)第一条第一項に規定する興行場をいう。)その他の政令で定める多数の者が利用する施設を管理する者又は当該施設を使用して催物を開催する者(次項において「施設管理者等」という。)に対し、当該施設の使用の制限若しくは停止又は催物の開催の制限若しくは停止その他政令で定める措置を講ずるよう要請することができる。
3 施設管理者等が正当な理由がないのに前項の規定による要請に応じないときは、特定都道府県知事は、新型インフルエンザ等のまん延を防止し、国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済の混乱を回避するため特に必要があると認めるときに限り、当該施設管理者等に対し、当該要請に係る措置を講ずべきことを指示することができる。
4 特定都道府県知事は、第二項の規定による要請又は前項の規定による指示をしたときは、遅滞なく、その旨を公表しなければならない。

新型インフルエンザ等対策特別措置法施行令
(感染の防止のために必要な措置)
第十二条 法第四十五条第二項の政令で定める措置は、次のとおりとする。
一 新型インフルエンザ等の感染の防止のための入場者の整理
二 発熱その他の新型インフルエンザ等の症状を呈している者の入場の禁止
三 手指の消毒設備の設置
四 施設の消毒
五 マスクの着用その他の新型インフルエンザ等の感染の防止に関する措置の入場者に対する周知
六 前各号に掲げるもののほか、新型インフルエンザ等緊急事態において、新型インフルエンザ等の感染の防止のために必要な措置として厚生労働大臣が定めて公示するもの

『逐条解説 新型インフルエンザ等対策特別措置法』(2013年12月発行)
https://www.chuohoki.co.jp/topics/info/2001291648.html?fbclid=IwAR2-Vg63th6cw9c56DHa2ENOKh3AZ6AdnLc2dQJ35j8r1nW5vfJn5mFBtdI
第二項において、特定都道府県知事は、学校、社会福祉施設、興行場等の多数の者が利用する施設を管理する者又は当該施設を使用して催物を開催する者(「施設管理者等」という。)に対して、当該施設の使用の制限又は停止、催物の開催の制限又は停止、その他政令で定める措置を講ずるよう要請することができることとされている。
施設を管理する者のみに対して要請した場合、開催者への対応に苦慮する事態も考えられるため、開催者に対してもその要請の対象とするものである。
新型インフルエンザ等の潜伏期間及び治癒までの期間を考慮して当該特定都道府県知事が定める期間」とは、施設の使用制限等の要請等は一体として運用されるべきものであるため、不要不急の外出の自粛等の要請等の期間の考え方と同様であることが求められる。
「学校、社会福祉施設(通所又は短期間の入所により利用されるものに限る。)、興行場(興行場法(昭和二三年法律第百一二十七号)第一条第一項に規定する興行場をいう。)その他の政令で定める多数の者が利用する施設」については、令第十一条(使用の制限等の要請の対象となる施設)に規定されている。
政令で定める措置」については、令第十二条(感染の防止のために必要な措置)に規定されている。
第三項は、第二項の要請に従わないときの措置について規定している。「新型インフルエンザ等のまん延を防止し、国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済の混乱を回避するため特に必要があると認めるときに限り」指示することができることとした。
「正当な理由」とは、例えば新型インフルエンザ等対策に関する重要な研究会等を実施する場合等である。
「特に必要があると認めるとき」とは、第二項の要請をしたにもかかわらず、施設管理者等がこれに従わず、開催日程が近づいており、要請を続けた場合には、当該催物への来場者にも著しい不便をかけ、また、指示しなければ催物の開催が避けられず、多くの患者や重症者の発生を招き、そこから更なる感染拡大につながるおそれがあるような場合を想定している。
第四項において、特定都道府県知事が第二項に基づく要請又は第一二項に基づく指示をしたときは、利用者のため、事前に広く周知を行うことが重要であることから、公表することとしたものである。
本条に基づく施設の使用制限等の要請等による施設管理者等に対する公的な補償は規定されていない。
これは、施設の使用制限等の要請等の措置は、学校、興行場等の施設の使用が新型インフルエンザ等のまん延の原囚となることから実施されるものであること
本来危険な事業等は自粛されるべきものであると考えられること
新型インフルエンザ等緊急事態宣言中に、惜伏期間等を考慮してなされるものであり、その期間は一時的であること
学校、興行場等の使用制限の指示を受けた者は法的義務を負うが、罰則による担保等によって強制的に使用を中止させるものではないこと
から、権利の制約の内容は限定的である。
さらに、国民の多くも、新型インフルエンザ等の緊急事態においては外出を自粛し、何らかの制約を受けることが考えられる。
したがって、学校、興行場等の使用の制限等に関する措置は、事業活動に内在する社会的制約であると考えられ、公的な補償は規定されていない。
しかしながら、国民や事業者が生活や事業を立て直すために資金を必要とすることが想定されるため、本法では、政府関係金融機関等による融資に関する規定(法第六十条)を置いているところであり、必要に応じてこうした特別な融資等を活用いただくことが想定される。

裸の画像の乳房・陰毛等から年齢を立証するという「タナー法」というのは、医学文献には存在せず、一部の内科医の供述や警察の内部資料にのみ存在すること

 最近の「タナー法」の評価について書いておきます。
 「タナー判定」というのは、小児科医の分野で人の性的成熟度を測る指標である。


小児科学 第3版(医学書院)p17
思春期の性成熟と成長
思春期は,小児から成人への移行の過渡期にあたる時期で,種々の成熟段階を経て身体全体が成人に成熟する。この過程は多くの神経内分泌因子やホルモンによって制御されているが,最終的には,下垂体から分泌されるゴナドトロピン(性腺刺激ホルモン)と性腺から分泌される性ステロイドホルモンが上昇して,二次性徴を発現・成熟させる。
何が思春期開始の引き金になるかは,完全には明らかではないが,栄養や脂肪細胞から分泌されるレプチンなどが関与していると考えられている。
(1)二次性徴の成熟
思春期の発来は,男子においては精巣容量の増大から始まり,陰茎増大,陰毛発生と進んでいく。女子においては乳房の発育から始まり,陰毛発生,初経と進んでいく。思春期の評価は, Tannerが提唱したTanner分類が用いられ,男子においては,精巣の大きさ,陰茎の大きさ,陰毛の発毛状態が,女子においては乳房の発育,陰毛の発毛状態が評価される。いまだ思春期が始まらない時期をTanner1度.成人の成熟状態をTanner5度とし,思春期の開始(女子で乳房の発育開始,男子で精巣の4ml以上の増大)をTanner2度として,評価する(図1-12,13)。男子では,orchidometer (精巣容量測定器)を用いて精巣容量を測定する。

 使い方としては、例えば、6歳女子として受診した患者が豊満な乳房であれば、「タナー5度」として、「思春期早発」を疑い、診察・検査して異常がないか調べ
 20歳女子として受診した患者が乳頭のみ突出・乳房未発達であれば、「タナー1度」として、「思春期遅発」を疑い、さらに診察・検査して、異常がないか調べる。そういう指標である。
 小児科では
  乳房・陰毛が1度だから○○歳
  乳房・陰毛が5度だから○○歳
という使われ方はしない。

 タナーの手法を確認するために、タナー博士の論文を翻訳した。

Marshall & Tanner.
Variations in pattern of pubertal changes in girls.
Arch Dis Childh 44巻, 235号, 291~303ページ, 1969年
Material and Methods
The subjects were 192 white British girls participating in the Harpenden Growth Study.
They had no physical abnormalities, and lived in family groups in a children's home where the standard of care was in all respects excellent.
They came mainly from the lower socio-economic sector of the population, and some may not have received optimal physical care before entering the home (usually at ages 3 to 6 years).
The reason for their admission was usually break-up of the parental home by divorce or by the death, illness, or desertion of one parent.
The subjects were seen at 3-monthly intervals during adolescence. Some were followed throughout their whole adolescent period; but some through part of it only.
The development of the secondary sex characters was studied in photographs taken in the nude at each examination.
All the photographs of each girl were later examined together.
By comparing each picture with the preceding one, changes in the breasts and pubic hair were readily recognized.
The breasts and pubic hair on each photograph were classified into five stages of development, as described by Tanner (1962).

材料と手法
 被験者は、ハーペンデン成長研究に参加している192人の白人英国人少女であった。 彼女らに身体的な異常はなく、標準的なケアがあらゆる点で優れていた子どもの家の家族グループに住んでいた。彼女らは主に人口の中でも低い社会経済層から来ており、ホームに入る前に(通常3〜6歳で)最適な身体的ケアを受けていない者もいた。彼女らが入所した理由は通常、両親の離婚または死亡、病気、片親の失踪などによる実家庭の崩壊である。
被験者は青年期に3か月間隔で観察された。一部は思春期全体を通して追跡されたが、別の一部は部分的であった。
二次性徴の発達は、各検査でヌード撮影された写真で研究された。各少女の写真は後日すべて一緒に調べられた。各写真を前の写真と比較することにより、乳房と陰毛の変化が容易に認識された。タナー(Tanner)(1962)によって説明されているように、各写真の乳房と陰毛は5つの発達段階に分類された。これらは図1と2に示されている。すべての評価は同じ観察者(W.A.M.)によって行われた。乳房の段階は次のとおりである。

 1969年の論文の対象は、施設内の白人英国人192人であって、全国民レベルの網羅的な研究ではない。
 身長・体重・初潮の時期を継続的に計測した結果である。
 繰り返しておくが、
 成熟度と年齢との対比が集計されているが、
  乳房・陰毛が1度だから○○歳
  乳房・陰毛が5度だから○○歳
という使われ方はされていない。年齢を知った上での調査だからである。

 検察庁も「タナー法とは,女子児童については,乳房の膨らみと乳輪の隆起,陰毛の濃さや範囲により, 1度から5度のステージで,発達段階を定義し,性発達の段階を評価するものである」と説明する。(佐藤淳「実在する児童の裸を撮影した写真を素材として作成したコンピュータグラフィックスの画像データに係る言己録媒体を「児童ポルノ」と認定し,児童ポルノ製造罪及び児童ポルノ提供罪の成立を認めた事例(平成28年6月15日東京地裁判決・公刊物未登載)」研修818号)
 タナー法から年齢が推定できるというのは、文献はなく、医師の供述にのみ存在するものである。公開されている文献はないので挙げられない。

研修818号
(注6)本判決に引用されている医師の供述によれば, タナー法とは,女子児童については,乳房の膨らみと乳輪の隆起,陰毛の濃さや範囲により, 1度から5度のステージで,発達段階を定義し,性発達の段階を評価するものであり,乳房について,全く発達していない,やや膨らむ,更に大きく突出する,乳房が肥大する,成人型になるとの5ステージ,乳輪について,平坦,やや隆起する,隆起が目立たなくなる,隆起する,平坦になるとの5ステージ,陰毛について,何もない,僅かに陰毛が生える,少し色が濃くなる,成人に近くなるが大腿部までは広がらない,大腿部まで広がるとの5ステージが定義されているとのことである。

 ところが日本警察には「写真・画像から年齢を証明できるという医学的な方法」があってそれの方法を「タナー法」と呼ぶらしい。
 警察関係の出版物(受験雑誌・執務資料)によれば、「予備鑑定員」制度があって、警察庁がタナー法による年齢鑑定の講習会を行っているようなので、警察にはあると思われる。非公開の執務資料や研修資料(虎の巻)として存在するようである。

警察庁執務資料 児童買春・児童ポルノ事犯の取締りH14
・・・・・
2015昇任SAシステム実務編TOP社
(4)予備年齢鑑定員一児童ポルノ事件の捜査において、児童ポルノか否かの予備鑑定を行う警察官をいう。
4) 正しい。警察庁が主催する講習を終了した警察官が、捜索の際に児童ポルノ映像を発見した際、その場で児童性を認定して現行犯逮捕できることとしており、この講習を受けた警察官を「予備年齢鑑定員」という。
・・・・・・・
top昇任SAシステム2018実務編
次は、児童ポルノ提供事犯捜査要領についての記述であるが、妥当でないのはどれか。
(5) 児童ポルノ事犯の捜索・差押えの現場において、あらかじめ鑑定済みの児童ポルノを発見できないものの、児童ポルノと思料される別の画像を発見した場合であって、一定の要件がある場合には、当該現場における警察官の見分に基く予備年齢鑑定により児童性を認定し、現行犯逮捕することができる。
(5)妥当。予備年齢鑑定の要件として、「①指定鑑定員による予備鑑定であること、②予備鑑定の結果、タナー法の2度以下と判定されること」及びそれ以外の要件として、「①提供目的等を認めるに足りる状況であること、②逮捕の必要性があること」の要件がある場合は、当該現場における警察官の見分に基づく予備年齢鑑定により児童性を認定し、現行犯逮捕することができる。
・・・・・・・
KOSUZO 2014年5月号
次は、児童ポルノ提供事犯の捜査に関する記述であるが、妥当でないのはどれか。
(5) 予備年齢鑑定の要件は、①指定鑑定員による予備鑑定であること、②予備鑑定の結果、タナー法の2度以下と判定されることであり、その対象には、別人の頭部の画像と胴体部分の画像を合成させたと思料される静止画も含まれる。
(5)妥当でない。「別人の頭部の画像と胴体部分の画像を合成させたと思料される静止画も含まれる」とする枝文は妥当でない。タナー法によるところの2度以下と判定されることが必要であるが、別人の頭部の画像と胴体部分の画像を合成させたと思料される静止画や、いわゆるボカシ入りの画像等、加工している画像は除かれる。

 ところで、アメリカの児童ポルノ事件でのタナー法による立証について、タナー本人による警告が1999に出て、2016になって吉井によって日本にも紹介された。

Misuse of Tanner Puberty Stages to Estimate Chronologic Age
PEDIATRICS 102(6):1494 · January 1999 
Misuse of Tanner Puberty Stages to Estimate Chronologic Age
To the Editor..
One of us has been involved as an expert in several US federal cases of possession of alleged child pornography, in which seized materials (videos, photographs, computer downloads) were used as evidence against individuals identified in “sting” operations, wherein government agents take over pornographic businesses.
In these cases the staging of sexual maturation (Tanner stage) has been used not to stage maturation, but to estimate probable chronologic age.
This is a wholly illegitimate use of Tanner staging: no equations exist estimating age from stage, and even if they did, the degree of unreliability in the staging.the independent variable. would introduce large errors into the estimation of age, the dependent variable.
Furthermore, the unreliability of the stage rating is increased to an unknown degree by improperly performed staging, that is, not at a clinical examination but through nonstandardized and, thus, unsuitable photographs.
Therefore, we wish to caution pediatricians and other physicians to refrain from providing “expert” testimony as to chronologic age based on Tanner staging, which was designed for estimating development or physiologic age for medical, educational, and sports purposes.in other words, identifying early and late maturers.
The method is appropriate for this, provided chronologic age is known. It is not designed for estimating chronologic age and, therefore, not properly used for this purpose.


吉井匡「児童ポルノ事件における児童性の認定方法に関する考察 タナー法を用いた年齢推定法の利用について.浅田和茂先生古稀祝賀論文集 347-369ページ, 2016年
「我々はこれまで、連邦管轄下の児童ポルノ事件において、専門家として関与してきた。そこでは、押収された証拠(ビデオや写真、インターネット上からダウンロードされたもの)は、政府のエージェントが行う、ポルノの流通を制圧するおとり捜査
("sting"operation)において、特定の個人に対する不利な証拠として利用された。これらの場合において、タナー法は、成熟度の段階ではなく、暦年齢の推定に用いられた。これは、タナー法の完全に非論理的(wholly illegitimate)な用いられ方である。タナー法から年齢を推定する方程式は存在しないのである。そして、もし政府のエージェントらが年齢の推定を行うとしても、信頼性に欠ける診断(独立変数)は、年齢の推定(従属変数)において大きな誤りを生じさせるであろう。さらに、臨床検査を経ず、標準化もされていない不適切な写真によって不適切に実施された診断は、信頼性に欠けるタナー度数の決定を、想定できない程度にまで増加させるであろう。従って我々は、小児科医やその他の医師に対して、タナー法に基づいた暦年齢に関する『専門家』としての宣誓証言を差し控えるよう注意を求めたい。タナー法は、医療や教育、スポーツといった場面において、発育や生理的な年齢の推定のために、換言すれば発育が早いか遅いかを判断するために考案されたものである。暦年齢が既に知られているならば、タナー法の利用は適切である。しかし、タナー法は暦年齢の推定のためには設計されていないので、その目的達成のためには適切に利用することはできない。」

 
 そこで、東京地裁h28.6.15(CG事件)が「タナー判定」に疑問を差し入れた後の文献では、注意書きが添えられるようになっている。なお、吉井論文の刊行時期からわかるように、東京地裁h28の弁護人は、タナーのmisuseの話と、吉井論文での指摘を知らなかった。控訴審の弁論前に知った。

KOSUZO 10月号
2018年9月10日発行
監修者/村上徳光(元髻察大学校長)
発行者/横田キイ
発行所/株式会社EDU-COM
生活安全
次は、児童ポルノ事犯の捜査過程における児童性の立証に際しての留意事項に関する記述であるが、誤りはどれか。
(2)画像等に描写された児童の医師による年齢鑑定は、臨床経験や専門的知見を踏まえて実施されるが、対象者に関して得られる情報が限定的であること等による限界ないし危うさがあることに留意する。
(2)○
画像等に描写された児童の医師による年齢鑑定は、タナー法を適用して得られた結果を基本として、骨盤の発達の程度や顔立ち及び体つき等も考慮の上、医師としての臨床経験や専門的知見を踏まえて実施されるが、同手法による年齢鑑定は、実際に対象者を診察して評価を行う場合と比べて、被写体の姿勢、光の当たり方、画質等様々な制約があることから、限界ないし危うさがあることを十分認識し、鑑定資料の抽出や提示方法に留意する必要がある。

 タナー法が争われると、無罪になることが多い。
  東京地裁H28.3.15 製造・提供でほとんど無罪
  佐賀地裁R2.2.12 所持罪で無罪

東京地裁h28.3.15
裁判年月日 平成28年 3月15日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件名 児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件
第6 児童認定写真の各被写体が18歳未満であると認められるか否か(以下,18歳未満と認められることを「児童性が認められる(否定の場合は「認められない」)とも表記する。)
 1 検察官の主張
 検察官は,①D医師が,児童認定写真の各被写体について,18歳未満であると認定していること,②児童認定写真と同一の写真が収録された写真集の中にその被写体が18歳未満であることをうかがわせる記載があることから,児童認定写真の被写体は,撮影当時,いずれも18歳未満であったと認められる旨主張する。
 2 D医師の供述に基づく児童性の認定について
  (1) D医師は,性発達を評価する学問的な方法として世界的によく用いられている手法としてタナー法があり,同法においては,乳房及び乳輪は乳房のふくらみと乳輪の隆起により,陰毛は濃さや範囲により,それぞれ1度から5度のステージで発達段階が定義され,それにより性発達の段階を評価することができること,そして,タナー法の分類と日本人女子の性発達との関係を調査した研究が複数なされており,同研究の結果に照らせば,乳房又は陰部につきタナー何度であれば年齢が何歳から何歳の範囲に入るかを推測できることから,児童認定写真の被写体については,いずれも18歳未満と認められる旨述べる。
 前記のD医師の供述については,同医師が,小児科学,小児内分泌学を専門にする医師として,専門的知見や過去の経験等に基づいて述べられたものであること,タナー法及び同法の度数と日本における女児の思春期の二次性徴の年齢に関するものとして,D医師が資料として引用したものを含め複数の研究がなされていること等からすると,女児の性発達の段階を評価する手法としてのタナー法の存在や,同法における度数の判定に用いる具体的な基準の定立,さらに,日本人女子について同法の各度数と年齢との間に有意な相関関係を示す医学的知見が存在する点については,十分な信用性が認められる。
 しかしながら,他方で,白木和夫ほか総編集「小児科学(第2版)」医学書院(弁1)に「二次性徴の出現時期が正常であるかどうかを評価するには,正常児の発現時期を知る必要がある。しかしわが国では包括的なデータはほとんどない。よく引用されるのはTannerらの英国人小児の二次性徴発現年齢のデータであるが,人種も年代も違うこのデータを,そのまま現代の日本人小児にあてはめるわけにはいかない。」との指摘にも留意する必要がある。この点は,同文献が出版された平成14年以降にD医師が証人尋問において引用した論文(弁2。以下「田中論文」という。)等が発表され,日本における正常児の二次性徴の発現時期に関する研究が進んだと認められるものの,そのことを踏まえても,タナー法による分類に基づく年齢の判定は,あくまで統計的数字による判定であって,全くの例外を許さないものとは解されない。その統計的数字も,例えば,現在のDNA型鑑定に比すればその正確さは及ばない。身長や肌の艶,顔つき,あるいは手の平のレントゲン写真などといった判断資料は一切捨象して,胸部及び陰毛のみに限定して判断するタナー法の分類に基づく年齢の判定は,あくまで,18歳未満の児童であるか否かを判断する際の間接事実ないし判断資料の一つとみるべきである。
  (2) さらに,本件においては,殊にD医師が児童認定写真の被写体の年齢を判定したことについては,以下のとおり,その信用性を慎重に判断すべき具体的な事情が複数存在する。
   ア 児童認定写真の被写体の年齢を検討する際に用いた資料が限られていること
 (ア) D医師は,甲第25号証及び甲第26号証の児童認定書2通を作成した際の状況について,弁護人の質問には,前記各児童認定書別添の紙質の紙にプリントアウトされたものを見て判断したと答え,さらに,この点を裁判官から尋ねられた際には,写真をよく見ることに集中していたので,どのように作成したのかはっきりした記憶がないが,写真を見ながら同書の「乳房」,「陰毛」の所にそれぞれ丸を付けた旨述べる。また,D医師は,甲第26号証画像番号14(児童10)について具体的に説明する中で,「元の写真を見」たかのような供述をしている。以上からすると,D医師は,基本的には,児童認定写真を見て写真の女性の年齢を判定しており,また少なくとも同画像番号14の児童性の判断においては,その写真と基になった写真を見て,前記各児童認定書を作成したものと考えられる。
 こうした画像又は写真に基づいてタナー法による度数の判定を行う場合,実際に対象者を診察して評価を行う場合と比べて,被写体の姿勢,光の当たり方,画質等様々な制約があるため,対象者に関して得られる情報が非常に限定されることから,その正確性についてはより慎重に検討する必要がある。D医師も,写真に基づく評価をする場合について,限られた情報から分かるところで慎重に判断するという立場である旨述べ,「情報が少なければ認定の精度は劣ってくるということになりますよね」との弁護人からの質問に対しても,「はい,そのとおりです。」と答えている。
 以上を前提に,本件においてD医師が前記各児童認定書を作成した際に参照した資料がどのようなものであったかについてみると,前記のとおり,その資料としては,児童認定写真及び更にその元になった写真が想定されるが,後者については,前記甲第26号証画像番号14(児童10)以外の前記各児童認定書別添の写真の児童性判断時に,実際に示されたかどうか,また,同画像番号14の場合を含めて,元の写真なるものが示されたとしてどのようなものが示されたのかは全く明らかでない。また,前記各児童認定書別添の写真は,いずれも画質が粗い上,明らかにピントが合っていないか印刷に問題があると思われるもの(甲第25号証画像番号3(児童2),14(児童11),甲第26号証画像番号3(児童2),14(左側)(児童10)等)や全体が白くなっていたり(甲第25号証画像番号5(児童4),甲第26号証画像番号6(児童5),17(児童13)等),暗くなっていたり(甲第25号証画像番号17(児童14),23(児童16)等)しているものが多くみられ,そこから得られる情報は非常に限定的なものにとどまる。
 (イ) そして,タナー法における乳房及び乳輪と陰毛の発達段階の評価基準が細かく定められているところ,前記のように情報が限定的であることは,その細かな判定にも影響を与えると解される。
 D医師は,タナー法における発達段階の分類について,乳房については,乳房が全く発達していない1度から,やや膨らむ,さらに大きく突出,乳房が肥大する,成人型になるまでの5ステージ,乳輪については,平坦な1度から,やや隆起する,隆起が目立たなくなる,隆起する,平坦になるまでの5ステージ,陰毛については,何もない1度から,僅かに陰毛が生えてくる状態,少し色が濃くなる状態,成人に近くなるが大腿部までは広がらない状態,大腿部まで広がった状態までの5ステージが,それぞれ定義されている旨述べる。
 このタナー法の分類についてみると,乳房については,児童認定写真の被写体の乳房の全体的な印象からその発達の状態を判断することは可能であるように思われるものの,乳輪については,その隆起の有無で発達の評価が分かれるところ,前記のとおり児童認定写真等の限られた情報しかない中で,乳輪の隆起があるかないかという微妙な判断を正確に行うことができるかどうかについては,殊に児童認定写真では多数ぼやけているなどして乳輪が不鮮明なものや被写体が正面から撮影されているため乳輪の隆起の有無が判別しづらいものが多いことからしても,疑問がある。
 D医師は,乳房の大きさと乳輪の隆起の有無から判断する旨を述べるが,他方,前記各児童認定書において乳房についてタナー3度と認定している者について,その認定の理由として,乳房の大きさが成人並みではないという点と併せて,乳輪が隆起していない又は乳腺の発達が不十分という点をいずれにおいても指摘しており,乳輪の隆起の有無が2度と3度又は3度と4度の区別において重要な基準になっているものと認められる。そして,D医師は,成人になっても胸が非常に小さい女性は多くいるように思われるが,その点はどのように考えればよいのかという裁判官の質問に対して,成人で小さいには程があるということに加え,乳房の発達段階については,その大きさというよりも乳輪やその隆起の有無で見ている旨述べており,その供述からも,乳輪の隆起の有無がタナー法における評価において重要な意義を有していることがうかがわれる。
 しかしながら,一方で,D医師は,甲第26号証画像番号2(児童1)は乳輪の隆起が明らかでないが2度,同画像番号14(左側)(児童10)は乳輪の隆起がはっきりしないが2度,同画像番号17(児童13)は乳輪の隆起が明らかではないが3度と,それぞれ判定し,その理由として,乳房の隆起がある,乳房の発達がある,4度とするには乳房の発達が非常に悪いなどと述べ,乳輪の隆起の有無の判断ができないときには,乳房の発達度合いを考慮して判定しているかのように述べている。しかし,そうなると,先の乳房が小さい女性もいると思わるが,との問いに対する答えとの整合性は必ずしも明らかではない。
 また,D医師は,胸だけが写っている場合は,判定は非常に難しく,体全体が写っている中で判断するという慎重さが必要だと思う(D医師証人尋問調書(以下「D調書」という。)37頁)旨述べるが,他方で,胸部と陰毛の片方が分からないと年齢を判断できないというものではない(同35頁)とも述べ,弁護人から,反対尋問でD医師に胸部のみが切り取られた写真の4枚目(D調書別紙15)を示された際,躊躇なく「2度というふうに判定できます。」と述べている。そして,D医師は,弁護人から当該写真の女性がアダルトビデオ女優であることから18歳以上であると聞いた後も,「この方は,18歳未満のときに撮影された可能性が極めて高い」などと述べて,自らの判定を再考したりする態度は示していない。この点,検察官は,弁護人が示した当該写真(D調書別紙15)は,アダルトビデオ販売サイト内のサンプル画像を加工したものであり,弁第11号証及び弁第12号証のタイトル等からすれば,当該アダルトビデオ女優の乳房が小さいことを殊更に強調するために加工されている可能性が否定できないと主張しており,確かに,写真データにそのような加工を施すことは容易で,その可能性は否定できない。しかしながら,写真データと比較し修整が困難と考えられる弁第12号証の動画からも,同女優の乳房は,D医師が「成人並みでない」と述べる乳房と比べても発達しているとは到底いえない(なお,幼いことを宣伝文句にした写真をそれらしく加工する可能性については,検察官が素材写真(検・素材画像)の実在欄で掲げる写真集等についても等しく当てはまる指摘というべきである。)。
 またD医師は,甲第25号証画像番号3(児童2),12ないし17(児童9ないし14),23(児童16),28(児童17)及び甲第26号証画像番号8(児童6),10(児童8),25(児童17)について,いずれも乳房は成人に達するほどではない,あるいは成人並みよりも小さいなどと述べているが,乳房部分だけを抜粋して写真から判断した場合,その大きさから,成人に達しない,あるいは成人並みでないと判断し得るとは解されない。
   イ 18歳以上の女性の中に,乳房につきタナー2度ないし4度と評価される女性がいる可能性
 また,D医師は,タナー法の度数と日本人女子の性発達との関係を調査した研究によれば,同法の各度数に分類される年齢は正規分布すること,乳房についてタナー2度に達する平均年齢が9.7又は9.5歳で標準偏差が0.95,タナー3度に達する平均年齢が11.5歳で標準偏差が1.05,タナー4度に達する平均年齢が12.3歳で標準偏差が1.1であること等が分かっており,以上からすると,95.4%の女児が9.7又は9.5歳プラスマイナス1.9歳の間でタナー2度になり(D調書別紙6),15歳までにタナー2度に達しない者は計算上100万人に0.3人くらいということになり(D調書別紙7),18歳以上でタナー2度以下である場合は,1万人に1人を超えないと考えられる(D調書別紙10,11)旨述べる。
 しかしながら,D医師が証人尋問において引用した田中論文の中の日本人女子の乳房の性成熟段階の累積頻度(D調書別紙6)の図を見ると,タナー2度の線については累積頻度が100%のところにほぼ到達しているのに対して,タナー3度の線は93又は94%の辺りで切れており,タナー4度の線は,65%の辺りで切れている。また,田中論文は,その対象者について「東京の私立の女子校生の1983年4月から1986年3月までに生まれた女子で小学校1年(6歳)から中学3年(14歳時)まで経過観察できた226名を対象とし」た旨記載している。そうすると,D医師の述べるとおり,この論文において判明した範囲でタナー法の度数と年齢とがほぼ正規分布の関係にあることや,およそ自然界に存在する生物の特徴として発達度合い等の正規分布が想定されること等を前提に,18歳以上の女性の中で乳房につきタナー2度ないし4度と評価される女性が存在する可能性をそれぞれ理論的に計算することは可能であるとしても,実際に18歳以上の女性の中に乳房につきタナー2度ないし4度と評価される女性がどの程度存在するかについては,前記論文からは実証的に明らかでない。
 また,D医師は,前記各児童認定書を作成するに際しては,日本人女性の中にはタナー4度のまま成人となりそれ以上発達しない人もいることから,4度の可能性がある場合には推定年齢が不明であると表現した旨述べている。前記の正規分布に基づく理論的な計算によれば,18歳以上でタナー4度と評価される者が現れる確率は相当程度低くなると思われるところ,D医師自身,前記の正規分布に基づく理論的な観点だけでなく,タナー4度のまま成人となる者もいるという実証的な観点も踏まえて,結論を出しているものといえる。
 そして,D医師は,乳房及び外陰部でみて,タナー2度以下で18歳以上である可能性については,極端な「おくて」言い換えれば,質性思春期遅発症の場合や,性腺機能低下症の場合であると思われるが,概ね1万人に1人未満であると述べる。
 田中論文で調査された年齢の範囲で,その調査対象となったほぼ100%の日本人女性がタナー2度に達したと認められるから,その指摘自体は実証的根拠があるというべきであり,その割合は相当に低いと考えられるが,例外が皆無とは解されず,また,D医師の供述からも,正規分布による理論上の計算以上の説明はされていない。そして,児童性が認められるかの判断にあたっては,そもそも,タナー2度と判断してよいのかという,実際の度数判定の適切さが前提となる。
 そうしてみると,先のアダルトビデオ女優のように,18歳以上と考えられるにもかかわらず,タナー2度と判定される程度にしか乳房が発達していない女性が実社会に存在することは否定できない。また,その事柄の性質上,乳房が十分発達していないことを殊更強調してアダルトビデオ女優になる女性よりも,それを明らかにせずに生活する女性の方が当然多いと考えられることからすると,18歳以上でありながら乳房についてタナー2度と判定されかねない一定数の女性が存在することも否定できないというべきである。
   ウ そして,本件では更に,児童認定写真が修整が加えられた写真である可能性があることも考慮する必要がある。
 D医師は,タナー法によって,陰毛についてもその度数を判定しているが,陰毛については,剃られている可能性があるほか,前記実在性で検討した書籍の発行年月に照らしても,撮影後に陰部付近の画像に修整を加えて出版等がされた可能性があることから,その度数判定については,より慎重な判断が必要である。この点,D医師は,剃毛すると皮膚に赤みや赤黒さを見ることができるので剃毛されたか否かは見分けることができるし,そのような皮膚の色等まで修整がなされるとは考えられない旨述べるが,前記のとおり児童認定写真の被写体の年齢を検討する際に用いた資料の画質が粗いこと等からすれば,上記の点を正確に判断することができるか否かには疑問の残るところであり,また,陰毛や陰部が露骨に表されないように修整が加えられることは十分考えられるところである。そして,甲第25号証画像番号2(児童1)は,陰部に修整が施されている可能性が高い(検察官レイヤー,甲第34号証及び甲第41号証写真番号3は甲第25号証画像番号2(児童1)と同一の写真に見えるが,甲第36号証及び甲第41号証写真番号36,37はこれらの写真よりも陰部付近が鮮明である。弁第13号証の「1_02_0003_wr2_19.jpg」のレイヤーも全体としては白くなって鮮明ではないものの陰毛部については甲第25号証画像番号2よりもはっきりしている。したがって,甲第25号証画像番号2(児童1)は,より鮮明な写真に修整が加えられた可能性が高いことが分かる。さらには,よりはっきりしている写真やレイヤーであってもなお,陰毛部に黒く写っているものが陰毛であると断定できるかについては疑問が残る。)。しかし,D医師は,陰毛がかろうじて写っている,修整された痕跡がないとして,タナー2度であると判定している。
 弁護人から陰裂が見えない不自然さを指摘されても,上記説明を維持しようとしているところ自体において,写真に撮影された陰毛から度数を判定することの限界がうかがわれる。
 こうしたことからすると,タナー法に基づく年齢判定においては,その限界ないし危うさがあるというほかなく,D医師が小児医療を専門とする医師であることから,その意見は尊重するとしても,児童性の認定においては成人女性の性発達等をも考慮する必要があるところ,その面からの統計資料等の証拠はなく,また,判定資料とした写真の不鮮明さや修整の可能性,殊に陰部付近の修整の可能性を考慮すると,少なくとも本件においては,D医師の供述を全面的に信用して,年齢を判断することはできないというほかない。
  (3) 以上のとおり,本件においてD医師が児童認定写真の被写体の年齢を検討する際に用いた資料が限定されたものであること,その上での判定内容の危うさ等からすれば,D医師による年齢判定についてもその信用性について慎重な検討が必要となる。
 そのようにしてみると,まず,前記のとおり資料が限定され,修整の可能性がある中で,D医師がどれにも3度以上と判定したものがない児童認定写真の陰毛については(本件CGでは問題とされていないが,D医師は,甲第26号証画像番号9(児童7)の写真において,陰毛を2ないし3として3度もあり得ると判定している。しかし,その写真を見ても陰毛が何度であるかが判定できる程鮮明とは解し難い。),タナー法の度数を判定することは不可能に近いというべきであり,D医師が陰毛に関する同度数によって判定した年齢については採用できない。
 また,D医師が18歳以上の可能性もあると述べる乳房のタナー4度とその可能性を否定するタナー3度とを判別する重要な基準となる乳輪の隆起の有無について,前記のとおり資料が限定されている中で正確な判断ができたかは疑問があり,タナー3度と評価された者の中には,実際は乳輪が隆起しておりタナー4度と評価されるべき者が含まれていた可能性が否定できないことなどからすれば,児童認定写真のうち,D医師が被写体の乳房がタナー3度と評価したものの各被写体が18歳未満である旨のD医師の判定についても,採用することができない(D医師自身,タナー3度を(判定基準に)用いてもいいが,誰が見ても必ずといっていいほどに,ほぼ例外なく18歳未満だと言えるということに関してはタナー2度を基準にしたほうが結論は誤らないという意味で言っている,それは乳房だけでなく,陰毛についても同じである旨述べ(D調書11頁),その供述は,タナー法による判定が3度であっても,それは絶対的なものである,あるいは,その判定に誤りが入り込む余地がないとは断定し切れないことを意味するものと解される。)。
 そうすると,D医師がタナー法で乳房を3度と判定した(なお,D医師が,本件CG集に関連する写真で,乳房につき,4度あるいは3度ないし4度であると判定したものはない。),甲第25号証画像番号2ないし5(児童1ないし4),8(児童6),9(児童7),11ないし17(児童8ないし14),22(児童15),23(児童16),27(左側)(児童17。画像番号22と共通。),28(児童18)及び甲第26号証画像番号3(児童2),5(児童4),6(児童5),8(児童6),10(児童7),13(児童8),17(児童11),21(児童12),23(児童13),25(児童14),26(児童15)の各写真については,各被写体が18歳未満である旨のD医師の認定は採用することができず,18歳以上である可能性に合理的な疑いが残る(別紙1で黄緑色で塗りつぶしたもの。ただし,既に検察官レイヤーと児童認定写真とが一致しないあるいは実在性がないとして黄色等で塗られていたものがあり,その場合には画像番号のみを黄緑色で塗りつぶしている。)。
 これに対し,別紙1の画像番号が黄緑色で塗られていないもの,すなわち,D医師がその被写体の乳房についてタナー1度又は2度と評価した各写真については,前記のとおり,D医師が,乳房についてタナー2度が18歳未満か否かという判断のポイントとなる旨述べているとおり,乳房についてタナー2度以下と判定されて18歳以上である女性が一定数存在することは否定できないとしても,それ自体がまれであるといえる上,これらの写真の被写体は,いずれも一見して顔立ちが幼く,乳房や肩幅,腰付近の骨格等の身体全体の発達も未成熟であること等からすれば,これらの被写体は撮影当時18歳未満であったことが強く推認される。
 3 児童認定写真と同一の写真が収録された写真集に被写体の年齢に関する記載があること
 なお,検察官は,児童認定写真と同一の写真が収録された写真集自体に「『F』13歳」,「K 1972年生まれ。」などと,被写体の年齢に関する記載が存在することからも,被写体が撮影当時18歳未満であったことが推認される旨主張するが,そもそも写真集に記載された年齢や生年月日が正確なものであるとする根拠がない上,児童認定写真に係る写真が収録された写真集には,その表紙や本文に「少女」などの記載があり,幼い女児の写真であることを強調する内容となっていることからすれば,そのような写真集に記載された被写体の年齢や生年月日が正確なものであるかは疑問であり,検察官の主張は採用できない。
 4 小括
 以上によれば,別紙1の黄緑色に塗られていない○○及び○○2の各画像に係る児童認定写真の被写体については,18歳未満であると認めるのが相当であるが,その余については,18歳未満であることについて合理的疑いが残り,18歳未満とは認められない。

 年齢推定方法としてタナー法が使われたのは、H12(2000)ころからですが、20年経っても、論文1本も見当たりません。

阪高裁H12.10.24      
児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反、わいせつ図書販売目的所持被告事件
大阪高等裁判所判決平成12年10月24日
判示事項1について
(1) 各被撮影者が人間ではない可能性
   所論は,本件各ビデオテープないし本件各写真の各被撮影者が何人であるかは特定されておらず,それらが人間であることについてすら合理的な疑いを容れる余地がある,という。
   しかし,捜査報告書,写真撮影報告書,Xの警察官調書及び被告人の警察官調書など,原判決が挙示する関係証拠によれば,本件各ビデオテープにおいては,本件各写真の被撮影者である少女性交又は性交類似の行為を行っている模様や全裸になつて陰部を拡げている模様などが撮影されていることが認められるから,本件各ビデォテープの被撮影者が実在する人であることは明らかである。
(2) 各被撮影者が児童ではない可能性
   所論は,本件各写真からは,各被撮影者の体格や発育状況をかろうじて識別できるものの,一般に,身長や乳房の発育状況などには個人差があり,思春期遅発症や小人症が存在することなどを考慮すると,体格や発育状況は,実際の年齢とは必ずしも一致しない。したがって,乳幼児を除けば,写真によるだけでは,その被撮影者が,医学的見地から見て,100パーセントの確率で18歳未満の者であると断言することはできない。医師A作成の鑑定書によれば,本件各写真の被撮影者の年齢が,18歳以上である可能性があると指摘されている。したがって,本件各ビデオテープの各被撮影者が18歳未満の児童であることについて合理的な疑いを容れる余地がある,という。
   しかし,上記関係証拠,ことに捜査報告書ないし写真撮影報告書中の本件各写真から窺われる各被撮影者の容貌,体格,発育状況などに照らすと,本件各ビデオテープの各被撮影者はいずれも児童であると認められる。なるほど,当審証人である医師Aの証言及び同人作成の前記鑑定書によれば,本件各写真の被撮影者が思春期遅発症や小人症である可能性を医学的に否定することはできず,各被撮影者の年齢が18歳未満であると,100パーセントの確率で断言することはできないという。しかし,もとより,刑事訴訟における証明は,医学等の自然科学における証明とは異なり,裁判官に合理的な疑いを容れない程度に確実であるとの心証を抱かせれば足りるものであるところ,医師Aの当審証言によれば,本件各写真の各被撮影者が思春期遅発症や小人症などであることを窺わせる徴候はないというのであるから,上記の証言及び鑑定書によっても,本件各写真,ひいては本件各ビデオテープの各被撮影者が18歳未満の者であることに合理的な疑いを容れる余地はないというべきである。
・・・・・・・
本田守弘児童ボルノビデオテープの画像自体から,被撮影者が実在する18歳未満の者であると認定した事例(大阪高判平12.10. 24 公刊未登載)研修634号
もっとも,刑事訴訟法における証明は,「通常人ならだれでも疑いを差し挟まない」合理的なものであることが必要であるところ,前記医師Aの証言に見られるように思春期遅発症や小人症のために18歳以上でも第二次性徽が見られない女性が存在するとの指摘もあることから,事案に応じて適宜の方法で医療専門家の意見を職取するなどして推認の合理性・客観性を担保することも有益な場合があろう。本判決は,この点に関して「Aの当審証言によれば,本件各写真の各被撮影者が,思春期遅発症や小人症などであることを窺わせる兆候はないというのである」旨判示し,医学的意見をも引用しつつ弁護人の主彊を誹斥しており.その判断過程は今後の捜査処理上参考になると思われる。
いずれにしても,事実認定の合理性を担保するために,弁謹人が主張するように医師の鑑定が必ず必要であるということにはならず,適宜の証拠方法により証明すれば足りるというぺきである。刑事訴訟法上の証明は,本判決が正当に指摘するとおり「医学等の自然科学における証明とは異なりり,裁判官に合理的な疑いを容れない程度に確実であるとの心証を抱かせれば足りる」のであるから,そうでない可能性を医学的に100パーセント排除しないかぎり無罪である旨の弁護人の前記主張はそれ自体失当と言うほかない。この点についての本判決の判旨はもとより正当である。


資料集
資料01 エッセンシャル法医学第3版P312
資料02 学生のための法医学P213
資料03 臨床のための法医学第6版2010
資料04 法医診断学(改訂第2版 1985)p458
資料05 医学要点双書 法医学p162
資料06 標準法医学 第7版 2017
資料07 Marshall & Tanner. Variations in pattern of pubertal changes in girls. Arch Dis Childh 44巻, 235号, 291–303ページ, 1969年
資料08 Azevedoほか. Comparison between objective assessment and self-assessment of sexual maturation in children and adolescents. J Pediatr 85巻, 2号, 135-142ページ, 2009年
資料09 Rosenbloom & Tanner. Misuse of Tanner puberty stages to estimate chronologic age. Pediatrics 102巻, 6号, 1494ページ, 1998年
資料10 Cattaneoほか. The difficult issue of age assessment on pedo-pornographic material. Forensic Science International 183巻, e21-e24ページ, 2009年
資料11 Rosenbloom. Inaccuracy of age assessment from images of postpubescent subjects in cases of alleged child pornography. Int J Legal Med 127巻, 467-471ページ, 2013年
資料12 吉井匡.児童ポルノ事件における児童性の認定方法に関する考察 −タナー法を用いた年齢推定法の利用について−.浅田和茂先生古稀祝賀論文集 347-369ページ, 2016年

ディスカウントストアの店内で女性客の尻に顔を近づける「わいせつな」行為


 条例の「卑わいな言動」には該当すると思いますが、刑法のわいせつ行為かどうかは疑問です。

公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例
(卑わいな行為等の禁止)
第3条
1 何人も、公共の場所又は公共の乗物において、人に対し、みだりに、人を著しくしゅう恥させ、又は人に不安若しくは嫌悪を覚えさせるような方法で、次に掲げる行為をしてはならない。
(1) 人の身体に、直接又は衣服その他の身に付ける物(以下「衣服等」という。)の上から触れること。
(2) 衣服等で覆われている人の身体又は下着をのぞき見し、又は撮影し、若しくは録画すること。
(3) 前2号に掲げるもののほか、卑わいな言動をすること。

鳥取県公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例解説
解説
本条は、卑わいな行為等の禁止規定である。第1項は、公共の場所又は公共の乗物において、人に対し、著しいしゅう恥を覚えさせる行為や、著しく不安を覚えさせるような行為を規制しようとするものである。
なお、本項は、「みだりに」行う行為であるから、、故意のない行為、例えば、通行中バス内で車両が揺れたため、隣の女性の身体に触れてしまう行為や、階段の上を見上げたところ、たまたまそこにいた女性のスカート内の下着が見えてしまうような行為は違反とならない。
「卑わいな言動」
いやらしくみだらで、普通人の性的しゅう恥心を害し、嫌悪感を催させ、又は不安を覚えさせるに足りる言語動作をいう。卑わいな文言を発する行為、人の顔などに口をつけようとしたり、胸や尻などに触ろうとする行為、耳、うなじなどに息を吹きかける行為、性交や手淫を連想させるような行為などがこれに当たる。また、撮影しようとする行為、スカートの下にカメラを差し入れる等の行為自体が人を著しくしゅう恥させ、又は人に不安若しくは嫌悪を覚えさせるような行為に当たる場合にはこれに当たり、撮影又は録画の事実の有無は、本件の犯罪の成否には影響しない。

https://www.jiji.com/jc/article?k=2020041500948&g=soc
同省によると、2曹は昨年7月15日と同21日、同県米子市のディスカウントストア店内で、女性客の尻に顔を10~20センチまで近づけ、店員に通報された。同市や境港市などで、過去6年間で約500回繰り返していたという。

強姦場面の盗撮行為は強制わいせつ罪~久保田英二郎「強姦及び強制わいせつの犯行の様子を隠し撮りしたデジタルビデオカセットが供用物件に当たるとされた事例ー最一小決平成30年6月26日刑集72巻2号209頁」阪大法学 第69巻6号


 これだと、更衣室盗撮・トイレ盗撮も準強制わいせつ罪でいけそうですね。ひそかに製造罪も不要になります。
 カメラを手に持って触って撮るとか、脱がせて撮るという撮影行為はわいせつ行為でしょうが、ちょっと離れて撮るのは、わいせつ行為とはされてないような気がします。名古屋高裁でそんな判示をもらいました。

久保田英二郎「強姦及び強制わいせつの犯行の様子を隠し撮りしたデジタルビデオカセットが供用物件に当たるとされた事例ー最一小決平成30年6月26日刑集72巻2号209頁」阪大法学 第69巻6号
それゆえ、本件でも、本件デジタルビデオカセットを供用物件として没収し得るかどうかについては、制度の目的等に遡った根本的な検討が必要となろうが、本稿では、紙幅の関係上、これを詳細に検討することはできない。もっとも、次に検討するとおり、少なくとも本件の事案では、本件『アジタルビ『ナオカセットを生成物件として没収することができ、かつ、そのほうがより実態に即しているため、本件デジタルビ『アオカセットを没収した本決定の判断自体は妥当である。
(二)②(生成物件としての没収)について
「犯罪行為によって生じた物」(生成物件)は、没収することができる(刑法一九条一項三号)。生成物件の没収は、犯罪行為による不当の利得(成果)を保持させないようにすることを目的とするものである(もっとも、供用物件の没収との関係で汚れの除去を目的として承認するのであれば、生成物件の没収との関係でも、汚れの除去が少なくとも目的の一つとして位置付けられることになろう。)。
生成物件は、従来、犯罪行為によって存在するに至った物をいう、と定義されてきた。しかし、犯罪行為により、物の存在自体を作出した場合のみならず、既存の物に新たな特性を付与した場合にも、犯人が犯罪行為によって成果を得たといえるから、前記の生成物件没収の目的に照らせば、後者の場合にも、当該物が生成物件に当たると解すべきである。それゆえ、本件でも、本件デジタルビデオヵセット自体が犯行以前から存在していたことは、本件デジタルビデオカセットの没収を妨げる理由にはならない。しかし、生成物件に当たるためには、物が犯罪行為に「よって」生じる必要がある。ここでの「よって」を直接性と解するにせよ、因果関係と解するにせよ、起訴された姦淫行為やわいせつ行為自体は、そもそもその犯行の様子を撮影録画する性質の行為ではないから、本件デジタルビデオカセットは、当該犯罪行為との関係では、生成物件に当たるとはいえない。もっとも、このことは、本件デジタルビデオカセットを生成物件として没収し得ないことを意味するわけではない。
 本件では、被告人は、被害者らにアイマスクを着用させた上、同人らに無断で自らビデオカメラを設置、操作し、強制わいせつや強姦の犯行の様子等を隠し撮りしていたところ、隠し撮りは、強制わいせつや強姦の犯行の様子等を撮影対象とするものであるから、性的な意味の強い行為としてわいせつな行為に当たる。そして、被告人の暴行は、被害者らの反抗を著しく困難にする程度に達していたのであるから、被害者らは、被告人の指示で着用していたアイマスクを外すことも著しく困難な状態に陥っており、そのために隠し撮りを認識し得ず、これに抵抗し得なかったといえる。それゆえ、本件では、被告人が被害者らに暴行を用いてわいせつな行為をしたとして、隠し撮りに基づく強制わいせつ罪が別途成立し、当該犯罪行為によって本件デジタルビデオカセットに新たな特性が付与されたといえるから、その生成物件として、本件デジタルビデオカセットを没収することができると解すべきである。隠し撮りが性犯罪の被害を継続させるものであり、本件デジタルビデオカセットの没収の実質的な意義が犯人からの映像の剥奪による被害者保護にあることからすれば、映像の作出に着目した生成物件としての没収は、事柄の性質に適したものであるともいえよう(このような特徴は、後記のとおり、更なる問題にも影響を及ぼす。)・
起訴された姦淫行為やわいせつ行為に基づく強姦罪及び強制わいせつ罪と隠し撮りに基づく強制わいせつ罪は、同一機会に同一被害者の性的な法益を侵害するものであるから、包括して一罪となるが、だからといって、隠し撮りに基づく強制わいせつ罪がなかったことになるわけではないから、同罪を根拠として没収を言い渡すことができると解すべきである。もっとも、隠し撮りに基づく強制わいせつ罪を根拠として没収を言い渡す以上、両者がいかなる罪数関係に立つにせよ、隠し撮り自体が起訴され、有罪認定されるべきだろう(このような取扱いは、隠し撮り自体に対する否定的評価を明示することにもつながる。)

児童の自宅で、乳房等を撮影した行為について、児童ポルノ製造罪のみで逮捕された事例(長野県警)

 


 画像があれば製造罪が立証しやすいので先行します。その間に青少年条例とか児童福祉法違反(淫行させる行為・児童淫行罪)を検討するようです。長野県の場合は、欺罔威迫等の要件があるので青少年条例違反は厳しいと思われます。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200410-00000006-nbstv-l20
去年5月、中信地方の住宅で、18歳未満と知りながら10代の少女の胸などをスマートフォンで撮影し、児童ポルノを製造した疑いです。

長野県子どもを性被害から守るための条例の規制項目の解説
次世代サポート課
【威迫等による性行為等の禁止】
第17条第1項
何人も、子どもに対し、威迫し、欺き若しくは困惑させ、又はその困惑に乗じて、性行為又はわいせつな行為を行ってはならない(罰則: 2年以下の懲役又は100万円以下の罰金)
解説
l 「何人も」とは、県民はもとより、旅行者、滞在者を含み、年齢、性別、国籍等を問わず長野県内にいる全ての者をいう。また、行為者が子どもの場合でも本条違反に該当するが、第20条(適用除外)の規定により罰則は適用しない。
2 「子ども」とは、18歳未満の者をいう。
なお、婚姻の有無は問わない。
3 「威迫」とは、暴行、脅迫に至らない程度の言語、動作、態度等により、心理的威圧を加え、相手方に不安の念を抱かせることをいう。
4 「欺き」とは、嘘を言って相手方を錯誤に陥らせ、又は真実を隠して錯誤に陥らせる行為をいう。
5 「困惑」とは、困り戸惑い、どうしてよいか分からなくなるような、精神的に自由な判断ができない状況をいう。
6 「困惑に乗じて」とは、困惑状態を作為的に作り出した場合だけではなく、既に子どもが何らかの理由により困惑状態に陥っており、それにつけ込んで(乗じて)性行為等を行う状況をいう。
7 「性行為」とは、「性交及び性交類似行為」と同義である(昭和40年7月12日新潟家裁長岡支部決定)。『性交類似行為』とは、実質的にみて、性交と同視し得る態様における性的な行為をいい、例えば、異性間の性交とその態様を同じくする状況下におけるあるいは性交を模して行われる手淫・口淫行為・同性愛行為などであり、児童買春・児童ポルノ禁止法における性交類似行為の解釈と同義である。
8 「わいせつな行為」とは、「いたずらに性欲を刺激興奮せしめたり、その露骨な表現によって健全な常識のある一般社会人に対し、性的差恥心及び嫌悪の情をおこさせる行為」をいう(昭和39年4月22日東京高裁判決)。
具体的には、陰部に対する弄び・押し当て、乳房に対する弄び等がこれにあたる。

強制わいせつ罪と児童ポルノ製造罪の罪数処理(高裁判例)

 奥村が協力・関与した事件では観念的競合説が出ます。

 「観念的競合・併合罪説」というのは、複製があるもののみ併合罪とするとか、強制わいせつ致傷とは併合罪とするとかで、同じ事件の中で両説出ているものです。
 最高裁に決めてもらいたいところです。

仙台 高裁 H21.3.3 観念的競合
広島 高裁 H22.1.26 併合罪
名古屋 高裁 H22.3.4 観念的競合
高松  高裁 H22.9.7 観念的競合
東京 高裁 H22.12.7 併合罪
広島  高裁 H23.5.26 観念的競合
広島  高裁 H23.12.21 観念的競合
福岡 高裁 H24.6.14 併合罪
東京 高裁 H24.11.1 併合罪
大阪 高裁 H25.6.21 観念的競合
大阪 高裁 H25.7.17 併合罪
高松 高裁 H26.6.3 観念的競合
高松 高裁 H26.6.3 併合罪
福岡 高裁 H26.10.15 併合罪
大阪 高裁 H28.10.26 併合罪
大阪 高裁 H28.10.27 併合罪
東京 高裁 H30.1.30 観念的競合・併合罪
東京 高裁 H30.1.30 併合罪
仙台 高裁 H30.2.8 併合罪
高松 高裁 H30.6.7 観念的競合・併合罪
東京 高裁 H30.7.25 併合罪
仙台 高裁 R1.8.20 併合罪

実在する児童の裸体が撮影された写真を素材として編集されたコピューターグラフィックスの作成,委託販売(34画像)につき,3画像について児童ポルノの製造罪及びその提供罪の成立を認めた事例(東京高判平29. 1 .24)

 なんやかんや言っても、主文でほとんど無罪になっています。
 捜してるんですが、「タナー法」というのが、画像からの年齢立証方法として用いられているという文献すらありません。

「平成29年版 警察実務 重要裁判例」警察公論第72巻第8号付録
風俗関係
実在する児童の裸体が撮影された写真を素材として編集されたコピューターグラフィックスの作成,委託販売につき,児童ポルノの製造罪及びその提供罪の成立を認めた事例
東京高判平29. 1 .24
D1-Law判例体系|D28250582
平成26年法律第79号による改正前の児童買春児童ポルノに係る行為等の処罰及び児菫の保護等に関する法律2条3項,7条4項・5項
事実
被告人は, かつて販売されており,児童買春児童ポルノに係る行為等の処罰及び児菫の保護等に関する法律(平成26年法律第79号による改正前のもの。以下「児童ポルノ法」という。)の規制対象となった少女のヌード写真集を復刻しようと考え, コンピューターグラフィックス(以下「CG」という。)を用い, その写真集内の少女のヌード写真を素材にして,少女のヌードを描いたCG(以下「ヌードCG」という。)を作成し, 平成20年10月頃ヌードCGの作品集「聖少女伝説」を,通信販売サイトに販売委託し, さらに平成21年12月頃, 同様の作品集「聖少女伝説2」を作成して同様に販売委託し,不特定多数の客に対して販売していた。
被告人が作成したヌードCGは, 画像編集ソフト等を用い,素材のヌード写真の被写体の輪郭をなぞる、色を塗り直す,加筆修正するなどして衣服の全部又は-部を着けない児童の姿態を描写したものであった。
検察官は, 「聖少女伝説」中のヌードCG18点及び「聖少女伝説2」中のヌードCG16点(以下,立件対象のヌードCGを「本件CG」という。)の作成を児童ポルノの製造罪として, そして,本件CGを含む各作品集の委託販売を児童ポルノの提供罪として,被告人を起訴した。
被告人(弁護人)は, 本件CGの児童ポルノ該当性を含む多くの点を争い, 児童ポルノ該当性に関しては、本件CGの素材となったヌード写真の被写体の実在性, 同被写体と本件CGに描写された人物の同一性‘ 同被写体(本件CGに描写された人物)の児童性(18歳未満であること),児童ポルノ法2条3項3号該当性などを争ったが, 原判決(東京地判平成28年3月15日警察学論集69巻8号166頁)は, 本件CG34点中3点のCGにつき, 児童ポルノ該当性を肯定し, その他の被告人の主張も斥け, 児童ポルノの製造罪及び提供罪の事実で,有罪判決を下した。被告人控訴。本稿では,本件の争点のうち児菫ポルノ該当性に関する判示事項を紹介する。
解説
本判決も判示するとおり,児童ポルノ法が規制する児童ポルノには,児童を直接撮影した写真や動画に限られるものではなく,絵画や合成写真も含み得るものであることは,児童ポルノ法制定時の法案審議においても明らかにされていたところであり.本件CGがCGであるという理由だけで児童ポルノ該当性を否定されるものではないことは, 当然の結論であると言える。
その上で,本判決の判示事項で実務上参考となると思われるのは, いかなる場合にCGが児童ポルノに該当するかということにつて, その具体的な判断過程・方法を明らかにしている点であろう。
すなわち,本件CGの児童ポルノ該当性に関する検察官の立証構造は,①本件CGを描写する元となったヌード写真(素材画像)が収められた写真集等の存在から, そのヌード写真の被写体となった女性が実在することを立証し(この素材画像の被写体である児童の実在性について,本判決も, それを肯定する原判決の事実認定を前提としている。),②専門的知見を有する医師の証言により, そのヌード写真の被写体の女性が18歳未満であるという児童性を立証し,③本件CGの作成方法や本件CGと素材画像の客観的類似性などから,本件CGと素材画像の同一性を立証する(その結果,本件CGに描かれた児童の実在性や児童性も肯定される) というものであり.本判決及び原判決は, そのような立証構造を前提として,各点についての判断を下したものである。そのため,立件対象とする児童ポルノが絵画や合成写真, CG等であり,捜査機関において当該児童ポルノに描写された児童が特定できておらず, 当該児童の実在性, 当該児童の年齢。当該児童ポルノ内の人物像と実在する児童との同一性が問題となるような事案の捜査にあたり,本判決(及び原判決)の判示は,大いに参考になるものと思われる。

女児を触って撮った行為のうち、触る行為を強制わいせつ罪で起訴して、撮影行為を児童ポルノ製造罪で起訴した場合には、両罪は併合罪になるという高裁判例

  結局、女児の撮影行為はわいせつ行為とは別個の行為だというのだから、わいせつ行為ではないことになります。乳房もむ行為と陰部弄ぶ行為とを別個の行為とするようなもので、どうしても科刑上一罪にしたくないようです。

 でも、脱がして撮るだけの強制わいせつ罪だと、製造罪とは観念的競合になりやすいです。その場合は、撮影行為はわいせつ行為と一個の行為になります。
 難しい問題ですが、指摘しないと裁判例が集積しません。

高裁レベルで観念的競合になることもままあります。
仙台 高裁 H21.3.3
名古屋高裁H22.3.4
高松 高裁H22.9.7
広島 高裁H23.5.26
広島 高裁H23.12.21
大阪 高裁 H25.6.21
東京 高裁H30.1.30
高松高裁h26.6.3
高松 高裁 H30.6.7

裁判年月日 令和元年 8月20日 裁判所名 仙台高裁 裁判区分 判決
事件名 児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反、強姦未遂、強制性交等、強制わいせつ、強制性交等未遂被告事件
 2 法令適用の誤りの論旨について
 論旨は,要するに,原判決は,第3の強制わいせつ行為(平成29年4月8日,被害者Bに対するもの)と第4の児童ポルノ製造行為(同一日時場所,Bの姿態を撮影,保存したもの)との関係について,観念的競合による一罪ではなく,数罪であるとした。第5・第6,第7・第8,第9・第10,第11・第12,第13・第14,第15・第16,第17・第18,第21・第22,第23・第24,第25・第26の各関係についても同様である。強制わいせつ行為と児童ポルノ製造行為とは,それぞれ行為の全部が完全に重なっており,いずれも観念的競合の関係にあると解すべきであるから,原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というのである。
 そこで検討すると,被害児の陰部等を手指で弄び,その陰部に自己の陰茎を押し当てるなどのわいせつ行為とそれらの行為等に係る被害児の姿態をスマホ等で撮影して保存する行為について,両者が同一の機会に行われ,時間と場所が重なり合うことがあったとしても,両者は通常伴う関係にあるとはいえないし,それぞれの行為の意味合いは相当異なり,社会通念上別個のものというべきであるから,両者は観念的競合の関係にはなく,併合罪の関係にあると解するのが相当である。
 本件において,上記各罪の関係について,いずれも併合罪であるとした原判決の法令の適用は正当であり,論旨は理由がない。

裁判年月日 平成30年 7月25日 裁判所名 東京高裁 裁判区分 判決
事件番号 平30(う)179号
事件名 強制わいせつ、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件
文献番号 2018WLJPCA07256006
第1 法令適用の誤りの主張について
 その骨子は,原判示第1の各強制わいせつと原判示第2の各児童ポルノ製造は,重なり合うものであり,社会的見解上1個の行為と評価すべきであるから,刑法54条1項前段の観念的競合の関係に立つのに,刑法45条前段の併合罪の関係にあるとした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあるというものである。
 しかし,本件のように幼児の陰部を触るなどのわいせつな行為をするとともに,その行為等を撮影して児童ポルノを製造した場合,わいせつな行為と児童ポルノを製造した行為とは,かなりの部分で重なり合っていることもあるが,通常伴う関係にあるとはいえない上,強制わいせつ罪では幼児の陰部を触るなどのわいせつな行為を行ったという側面から犯罪とされているのに対し,児童ポルノ製造罪ではそのような幼児の姿態を撮影して記録・保存する行為を行ったという側面から犯罪とされているのであって,それぞれの行為は社会的評価としても別個のものといえる。同趣旨の判断をして,原判示第1の各強制わいせつ罪とそれらの各犯行に対応する原判示第2の各児童ポルノ製造罪について,いずれも併合罪とした原判決の法令適用に誤りはない。

裁判年月日 平成30年 2月 8日 裁判所名 仙台高裁 裁判区分 判決
事件番号 平29(う)167号
事件名 強制わいせつ,児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件
文献番号 2018WLJPCA02086004
3 法令適用の誤りの主張について
 論旨は,要するに,①同一の被害児童に対する2ないし3回の強制わいせつ罪を併合罪とする原判決は誤っており,包括一罪と解すべきである,②同一の被害児童に対する2ないし3回の児童ポルノ製造罪を併合罪とする原判決は誤っており,包括一罪と解すべきである,③同一機会に行われた強制わいせつ罪と児童ポルノ製造罪を併合罪とする原判決は誤っており,観念的競合と解すべきである,したがって,原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というのである。
 しかしながら,①及び②については,被害児童が同じとはいえ,犯行日は短くても20日以上,長いと10か月以上も時期が離れていて機会を完全に異にしており,異なる機会ごとに新たな犯意が形成されたとみるべきものであるから,一罪として1回の処罰によるべき事案とはいえないのであって,包括一罪として評価するのは相当ではない。なお,②について,所論が指摘する裁判例は事案を異にし本件には適切ではない。③については,同一の被害児童に対する強制わいせつ行為と児童ポルノ製造行為とは,一部重なる点はあるものの,両行為が通常伴う関係にあるとはいえないことや両行為の性質等に鑑みると,それぞれにおける行為者の動態は社会的見解上別個のものといえるから,併合罪の関係に立つと解するのが相当である(最高裁平成21年10月21日決定参照)。

裁判年月日 平成28年10月27日 裁判所名 大阪高裁 裁判区分 判決
事件名 児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反、強制わいせつ、犯罪による収益の移転防止に関する法律違反被告事件
第4 法令適用の誤りをいう論旨(控訴趣意書の控訴理由第4)について
 1 論旨は,原判示第1の1の強制わいせつ罪と原判示第1の2の提供目的児童ポルノ製造罪とは観念的競合の関係にあると認められ,あるいは包括一罪として処理されるべきであるのに,両罪を併合罪とした原判決には,判決に影響を及ぼすことの明らかな法令適用の誤りがある,というものである。
 2 そこで検討するに,原判示第1の1の強制わいせつ罪及び原判示第1の2の提供目的児童ポルノ製造罪をそれぞれ構成する行為の内容は,既に説示したとおりであるから,両行為には同時性が認められる。また,本件提供目的児童ポルノ製造罪における撮影行為は,本件強制わいせつ罪の訴因に含まれていないとはいえ,強制わいせつ罪のわいせつな行為と評価され得るものであるから,その意味では両行為には一部重なり合いもみられる。
 しかしながら,強制わいせつ罪における行為者の動態(第三者の目に見えるような身体の動静)は,被害者に対して本件において行われたようなわいせつな行為を行うことであるのに対し,児童ポルノ製造罪における行為者の動態は,児童ポルノ法2条3項各号に該当する児童の姿態を撮影,記録して児童ポルノを製造することであるから,両行為は,その性質が相当異なっており,社会的事実として強い一体性があるとはいえない。また,児童ポルノの複製行為も児童ポルノ製造罪を構成し得ることからすると,児童ポルノ製造罪が時間的な広がりをもって行われて,強制わいせつ罪と児童ポルノ製造罪のそれぞれを構成する行為の同時性が甚だしく欠ける場合も想定される。さらに,強制わいせつ罪と児童ポルノ製造罪とでは,それぞれを構成する行為が必然的あるいは通常伴う関係にあるとはいえず,それぞれ別個の意思の発現によって犯される罪であるとみることができる。以上によれば,行為の同時性や一部重なり合いの存在を考慮しても,強制わいせつ罪及び児童ポルノ製造罪における行為者の動態は社会的見解上,別個のものと評価すべきであって,これを一個のものとみることはできない。
 本件強制わいせつ罪と本件提供目的児童ポルノ製造罪についても,上記のように考えるのが相当であるから,両罪は観念的競合の関係にはなく,もとより罪質上,包括して一罪と評価すべきものともいえず,結局,両罪は併合罪の関係にあると解するのが相当である。
 所論は,強制わいせつ罪のわいせつな行為には撮影行為が含まれることから,本件では行為の重なり合いがある上,被告人に性的意図はなく,金を得るという動機で一連の行為に及んだものであるから,別個の意思の発現とはいえず,行為の一体性が明らかであり,一個の犯意に包摂された一個の行為である,などと主張する。
 しかしながら,本件において,わいせつな行為の中核をなすものは,被告人が被害女児に被告人の陰茎を触らせ,口にくわえさせ,被害女児の陰部を触るなどした行為であるのに対し,児童ポルノを製造した行為の中核をなすものは,前記のような被害女児の姿態を撮影,記録した行為である。そうすると,本件強制わいせつ罪と本件提供目的児童ポルノ製造罪をそれぞれ構成する行為は,別個の行為とみるのが相当である。また,被告人が性的意図ではなく金を得るという動機で一連の行為に及んだことは,所論指摘のとおりである。しかしながら,そもそも強制わいせつ罪と児童ポルノ製造罪との罪数関係について,強制わいせつ罪における性的意図の有無により別異に解することは相当でない上,被告人には性的意図が認められないとはいえ,被告人は,被害女児の性的自由を客観的に侵害する行為を行う意思と,被害女児を描写した児童ポルノを製造する行為を行う意思を併存的に持ち,各意思を実現させるため,別個の意思の発現として性質が相当異なる各行為に及んだものと評価することができる。所論は採用の限りではない。

 女児を触って撮った行為のうち、触る行為を強制わいせつ罪で起訴して、撮影行為を児童ポルノ製造罪で起訴した場合には、両罪は併合罪になるという高裁判例
 結局、女児の撮影行為はわいせつ行為とは別個の行為だというのだから、わいせつ行為ではないことになります。
 でも、脱がして撮るだけの強制わいせつ罪だと、製造罪とは観念的競合になりやすいです。その場合は、撮影行為はわいせつ行為と一個の行為になります。
 難しい問題ですが、指摘しないと裁判例が集積しません。

高裁レベルで観念的競合になることもままあります。
仙台 高裁 H21.3.3
名古屋高裁H22.3.4
高松 高裁H22.9.7
広島 高裁H23.5.26
広島 高裁H23.12.21
大阪 高裁 H25.6.21
東京 高裁H30.1.30
高松高裁h26.6.3
高松 高裁 H30.6.7

裁判年月日 令和元年 8月20日 裁判所名 仙台高裁 裁判区分 判決
事件名 児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反、強姦未遂、強制性交等、強制わいせつ、強制性交等未遂被告事件
 2 法令適用の誤りの論旨について
 論旨は,要するに,原判決は,第3の強制わいせつ行為(平成29年4月8日,被害者Bに対するもの)と第4の児童ポルノ製造行為(同一日時場所,Bの姿態を撮影,保存したもの)との関係について,観念的競合による一罪ではなく,数罪であるとした。第5・第6,第7・第8,第9・第10,第11・第12,第13・第14,第15・第16,第17・第18,第21・第22,第23・第24,第25・第26の各関係についても同様である。強制わいせつ行為と児童ポルノ製造行為とは,それぞれ行為の全部が完全に重なっており,いずれも観念的競合の関係にあると解すべきであるから,原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というのである。
 そこで検討すると,被害児の陰部等を手指で弄び,その陰部に自己の陰茎を押し当てるなどのわいせつ行為とそれらの行為等に係る被害児の姿態をスマホ等で撮影して保存する行為について,両者が同一の機会に行われ,時間と場所が重なり合うことがあったとしても,両者は通常伴う関係にあるとはいえないし,それぞれの行為の意味合いは相当異なり,社会通念上別個のものというべきであるから,両者は観念的競合の関係にはなく,併合罪の関係にあると解するのが相当である。
 本件において,上記各罪の関係について,いずれも併合罪であるとした原判決の法令の適用は正当であり,論旨は理由がない。

裁判年月日 平成30年 7月25日 裁判所名 東京高裁 裁判区分 判決
事件番号 平30(う)179号
事件名 強制わいせつ、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件
文献番号 2018WLJPCA07256006
第1 法令適用の誤りの主張について
 その骨子は,原判示第1の各強制わいせつと原判示第2の各児童ポルノ製造は,重なり合うものであり,社会的見解上1個の行為と評価すべきであるから,刑法54条1項前段の観念的競合の関係に立つのに,刑法45条前段の併合罪の関係にあるとした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあるというものである。
 しかし,本件のように幼児の陰部を触るなどのわいせつな行為をするとともに,その行為等を撮影して児童ポルノを製造した場合,わいせつな行為と児童ポルノを製造した行為とは,かなりの部分で重なり合っていることもあるが,通常伴う関係にあるとはいえない上,強制わいせつ罪では幼児の陰部を触るなどのわいせつな行為を行ったという側面から犯罪とされているのに対し,児童ポルノ製造罪ではそのような幼児の姿態を撮影して記録・保存する行為を行ったという側面から犯罪とされているのであって,それぞれの行為は社会的評価としても別個のものといえる。同趣旨の判断をして,原判示第1の各強制わいせつ罪とそれらの各犯行に対応する原判示第2の各児童ポルノ製造罪について,いずれも併合罪とした原判決の法令適用に誤りはない。

裁判年月日 平成30年 2月 8日 裁判所名 仙台高裁 裁判区分 判決
事件番号 平29(う)167号
事件名 強制わいせつ,児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件
文献番号 2018WLJPCA02086004
3 法令適用の誤りの主張について
 論旨は,要するに,①同一の被害児童に対する2ないし3回の強制わいせつ罪を併合罪とする原判決は誤っており,包括一罪と解すべきである,②同一の被害児童に対する2ないし3回の児童ポルノ製造罪を併合罪とする原判決は誤っており,包括一罪と解すべきである,③同一機会に行われた強制わいせつ罪と児童ポルノ製造罪を併合罪とする原判決は誤っており,観念的競合と解すべきである,したがって,原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というのである。
 しかしながら,①及び②については,被害児童が同じとはいえ,犯行日は短くても20日以上,長いと10か月以上も時期が離れていて機会を完全に異にしており,異なる機会ごとに新たな犯意が形成されたとみるべきものであるから,一罪として1回の処罰によるべき事案とはいえないのであって,包括一罪として評価するのは相当ではない。なお,②について,所論が指摘する裁判例は事案を異にし本件には適切ではない。③については,同一の被害児童に対する強制わいせつ行為と児童ポルノ製造行為とは,一部重なる点はあるものの,両行為が通常伴う関係にあるとはいえないことや両行為の性質等に鑑みると,それぞれにおける行為者の動態は社会的見解上別個のものといえるから,併合罪の関係に立つと解するのが相当である(最高裁平成21年10月21日決定参照)。

裁判年月日 平成28年10月27日 裁判所名 大阪高裁 裁判区分 判決
事件名 児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反、強制わいせつ、犯罪による収益の移転防止に関する法律違反被告事件
第4 法令適用の誤りをいう論旨(控訴趣意書の控訴理由第4)について
 1 論旨は,原判示第1の1の強制わいせつ罪と原判示第1の2の提供目的児童ポルノ製造罪とは観念的競合の関係にあると認められ,あるいは包括一罪として処理されるべきであるのに,両罪を併合罪とした原判決には,判決に影響を及ぼすことの明らかな法令適用の誤りがある,というものである。
 2 そこで検討するに,原判示第1の1の強制わいせつ罪及び原判示第1の2の提供目的児童ポルノ製造罪をそれぞれ構成する行為の内容は,既に説示したとおりであるから,両行為には同時性が認められる。また,本件提供目的児童ポルノ製造罪における撮影行為は,本件強制わいせつ罪の訴因に含まれていないとはいえ,強制わいせつ罪のわいせつな行為と評価され得るものであるから,その意味では両行為には一部重なり合いもみられる。
 しかしながら,強制わいせつ罪における行為者の動態(第三者の目に見えるような身体の動静)は,被害者に対して本件において行われたようなわいせつな行為を行うことであるのに対し,児童ポルノ製造罪における行為者の動態は,児童ポルノ法2条3項各号に該当する児童の姿態を撮影,記録して児童ポルノを製造することであるから,両行為は,その性質が相当異なっており,社会的事実として強い一体性があるとはいえない。また,児童ポルノの複製行為も児童ポルノ製造罪を構成し得ることからすると,児童ポルノ製造罪が時間的な広がりをもって行われて,強制わいせつ罪と児童ポルノ製造罪のそれぞれを構成する行為の同時性が甚だしく欠ける場合も想定される。さらに,強制わいせつ罪と児童ポルノ製造罪とでは,それぞれを構成する行為が必然的あるいは通常伴う関係にあるとはいえず,それぞれ別個の意思の発現によって犯される罪であるとみることができる。以上によれば,行為の同時性や一部重なり合いの存在を考慮しても,強制わいせつ罪及び児童ポルノ製造罪における行為者の動態は社会的見解上,別個のものと評価すべきであって,これを一個のものとみることはできない。
 本件強制わいせつ罪と本件提供目的児童ポルノ製造罪についても,上記のように考えるのが相当であるから,両罪は観念的競合の関係にはなく,もとより罪質上,包括して一罪と評価すべきものともいえず,結局,両罪は併合罪の関係にあると解するのが相当である。
 所論は,強制わいせつ罪のわいせつな行為には撮影行為が含まれることから,本件では行為の重なり合いがある上,被告人に性的意図はなく,金を得るという動機で一連の行為に及んだものであるから,別個の意思の発現とはいえず,行為の一体性が明らかであり,一個の犯意に包摂された一個の行為である,などと主張する。
 しかしながら,本件において,わいせつな行為の中核をなすものは,被告人が被害女児に被告人の陰茎を触らせ,口にくわえさせ,被害女児の陰部を触るなどした行為であるのに対し,児童ポルノを製造した行為の中核をなすものは,前記のような被害女児の姿態を撮影,記録した行為である。そうすると,本件強制わいせつ罪と本件提供目的児童ポルノ製造罪をそれぞれ構成する行為は,別個の行為とみるのが相当である。また,被告人が性的意図ではなく金を得るという動機で一連の行為に及んだことは,所論指摘のとおりである。しかしながら,そもそも強制わいせつ罪と児童ポルノ製造罪との罪数関係について,強制わいせつ罪における性的意図の有無により別異に解することは相当でない上,被告人には性的意図が認められないとはいえ,被告人は,被害女児の性的自由を客観的に侵害する行為を行う意思と,被害女児を描写した児童ポルノを製造する行為を行う意思を併存的に持ち,各意思を実現させるため,別個の意思の発現として性質が相当異なる各行為に及んだものと評価することができる。所論は採用の限りではない。