児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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常習性の証拠が足りない(高松高裁r6.5.30)

常習性の証拠が足りない(高松高裁r6.5,30)
常習盗撮と、性的姿態撮影罪は混合的包括一罪になっています。


判例番号】 L07920261
       性的姿態等撮影(変更後の訴因 性的姿態等撮影、香川県迷惑行為等防止条例違反、性的姿態等撮影未遂)被告事件
【事件番号】 高松高等裁判所判決/令和6年(う)第16号
【判決日付】 令和6年5月30日
【掲載誌】  LLI/DB 判例秘書登載

       主   文

 原判決を破棄する。
 被告人を懲役8月に処する。
 原審における未決勾留日数中10日をその刑に算入する。

       理   由

 本件控訴の趣意は、量刑不当の主張であり、論旨は、被告人を懲役8月に処し、執行猶予を付さなかった原判決の量刑は重過ぎて不当であるというものである。
 論旨に対する判断に先立ち、職権により調査すると、原判決は、罪となるべき事実として、被告人が、令和5年8月22日に正当な理由がないのに性的姿態等を撮影するとともに、常習として、人の性的羞恥心を害し、かつ、人に不安を覚えさせるような方法で、公共の場所にいる人の衣服で覆われている下着等を撮影し(原判示1)、同月27日に正当な理由がないのに常習として、人の性的羞恥心を害し、かつ、人に不安を覚えさせるような方法で、公共の場所にいる人の衣服で覆われている下着等を撮影するために写真機等を向けたが、人の性的な部位又は人が身に着けている下着のうち、現に性的な部位を直接若しくは間接に覆っている部分を撮影するに至らず、その目的を遂げなかった(原判示2)という性的姿態等撮影、同未遂及び香川県迷惑行為等防止条例違反の事実を認定して被告人を有罪にしたが、原判決の挙示する証拠のうち、被告人の常習性を認定し得る証拠は、被告人の公判廷における自白及び捜査段階における自白調書のみであり(原判決は、常習性を含む原判示全部の事実に係る証拠として、捜査報告書2点(原審甲8号証、同9号証)も挙示しているが、捜査報告書(原審甲8号証)には、被告人の使用車両から押収したスマートフォンのカメラアプリの使用履歴を精査した結果、本件各犯行時に使用された履歴が認められた旨記載され、捜査報告書(原審甲9号証)には、被告人を立会人としてその指示説明に基づいて本件各犯行の状況を再現した旨記載されているにとどまり、常習性に関する被告人の自白を補強するに足りない。)、原審で取り調べられた捜査報告書(原審甲10号証)、調書判決謄本(原審乙9号証)及び判決書抄本(原審乙10号証)を総合すれば、被告人が盗撮行為を反復累行する習癖を有し、原判示の上記条例違反の罪を常習として犯したものであると認められ、上記各証拠は、被告人の常習性に関する自白の補強証拠たり得るものであるが、原判決はこれらを挙示していない。そうすると、原判決は、刑訴法319条2項に違反し、特段の補強証拠を挙示することなく、自白のみによって原判示の事実を認定した違法があり、その違法は判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反というべきである。原判決は、この点において破棄を免れない。
 よって、論旨に対する判断を省略し、刑訴法397条1項、379条により原判決を破棄し、同法400条ただし書に従い、当裁判所において更に次のとおり判決する。
(罪となるべき事実)
 原判決記載のとおりである。
(証拠の標目)(括弧内の甲乙の番号は、原審証拠等関係カード記載の検察官請求証拠番号を示す。)
判示全事実について(常習性を含む。)
 原審第1回公判期日調書中の被告人供述部分
 被告人の検察官調書(乙5)及び警察官調書(乙3、4、6)
 捜査報告書(甲8ないし10)
 調書判決謄本(乙9)
 判決書抄本(乙10)
判示1事実について
 捜査報告書(甲1ないし4)
判示2事実について
 被害届(甲5)
 写真撮影報告書(甲6)
 捜査報告書(甲7)
(法令の適用)
罰条          判示1及び2のうち
             性的姿態等撮影の点(判示1)
             性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律(以下「性的姿態撮影等処罰法」という。)2条1項1号イ、同法附則2条
             常習として盗撮した点(判示1及び2)
             香川県迷惑行為等防止条例12条2項、1項、3条1項2号、4項
             性的姿態等撮影未遂の点(判示2)
             性的姿態撮影等処罰法2条2項、1項1号イ、同法附則2条
科刑上-罪の処理     判示1の性的姿態等撮影及び判示2の同未遂の各罪と判示1及び2の常習盗撮の罪はそれぞれ1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから、刑法54条1項前段、10条により結局判示1及び2の罪を1罪として刑及び犯情の最も重い判示1の性的姿態等撮影の罪で処断する。
刑種の選択        懲役刑を選択
未決勾留日数の算入    刑法21条
(量刑の理由)
 被告人は、平成26年3月に常習盗撮の罪で、懲役6月、4年間執行猶予に処せられ、その執行猶予期間中に同種の犯行に及んで同年10月に常習盗撮の罪で懲役5月に処せられた上、上記執行猶予を取り消されて、上記各刑の執行を受け、平成28年2月にその刑の執行を終えたにもかかわらず、それから5年足らずのうちに、自己が従事していた農業の先行きへの不安等を紛らわせるため盗撮を再開して、同種の犯行を繰り返す中で、動画撮影状態にしたスマートフォンをサンダルに隠し入れて女性のスカート内の性的姿態等を撮影し、あるいはスカート内に差し向けたものの、その撮影には至らなかったものであり、その犯行に至る経緯に酌むべき点はなく、計画的な犯行であって顕著な常習性が認められる。
 そうすると、原判示2の被害者に60万円を支払って示談が成立したこと、被告人が本件犯行を認めて反省の弁を述べるとともに、今後はカウンセリングの回数を増やし、性犯罪者のグループミーティングへ参加して家族以外の者と交流して再犯への歯止めとし、また、所持するスマートフォンのカメラ機能を壊し、姉がGPSで所在を確認するといった再犯防止のために家族とした約束を守るなどと述べ、現にカウンセリングを継続していること、被告人のカウンセリングを担当している臨床心理士や被告人の姉が原審公判廷において上記の再犯防止策への協力や被告人の監督を証言したことといった被告人に有利な事情を最大限に考慮しても、執行猶予を付すのは相当ではなく、主文程度の実刑に処するのが相当である。
(原審における求刑 懲役1年)
  令和6年5月30日
    高松高等裁判所第1部
        裁判長裁判官  佐藤正信
           裁判官  田中良武
           裁判官  荒井智也

判例番号】 L07950424
       性的姿態等撮影、同未遂、香川県迷惑行為等防止条例違反被告事件
【事件番号】 高松地方裁判所観音寺支部判決/令和5年(わ)第33号
【判決日付】 令和6年1月11日
【掲載誌】  LLI/DB 判例秘書登載

       主   文

 被告人を懲役8月に処する。
 未決勾留日数中10日をその刑に算入する。

       理   由

(罪となるべき事実)
 被告人は、正当な理由がないのに
1 令和5年8月22日午後6時13分頃、香川県三豊市■■■において、ひそかに、後方から氏名不詳の女性に近づき、右足のサンダルに隠し入れた動画撮影機能付きスマートフォンを同人が着用していたスカートの下方に差し入れ、同人が身に着けているショーツの臀部を覆っている部分を同スマートフォンで動画撮影し、もって、性的姿態等を撮影するとともに、常習として、人の性的羞恥心を著しく害し、かつ、人に不安を覚えさせるような方法で、公共の場所にいる人の衣服で覆われている下着等を撮影し(令和5年10月20日付け訴因変更請求書記載の公訴事実1)、
2 スカート内の下着等を撮影する目的で、同月27日午前11時24分頃、同所において、ひそかに、後方から■■■(当時37歳)に近づき、右足のサンダルに隠し入れた動画撮影機能付きスマートフォンを同人が着用していたスカートの下方に差し入れ、同人が身に着けているショーツの臀部を覆っている部分を同スマートフォンで動画撮影しようとし、もって、常習として、人の性的羞恥心を著しく害し、かつ、人に不安を覚えさせるような方法で、公共の場所にいる人の衣服で覆われている下着等を撮影するために写真機等を向けたが、人の性的な部位又は人が身に着けている下着のうち、現に性的な部位を直接若しくは間接に覆っている部分を撮影するに至らず、その目的を遂げなかった(同公訴事実2)。(証拠の標目)(括弧内の甲乙の数字は、証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号をそれぞれ示す。)
判示全事実について(常習性を含む。)
・被告人の公判供述
・被告人の検察官調書(乙5)、警察官調書(乙3、4、6)
・捜査報告書(甲8、9)
判示1事実について
・捜査報告書(甲1ないし4)
判示2事実について
・被害届(甲5)
・写真撮影報告書(甲6)、捜査報告書(甲7)
(法令の適用)
適用罰条
 判示1
  性的姿態等撮影の点  性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律(以下、「性的姿態撮影等処罰法」という。)2条1項1号イ、同法附則第2条
  香川県迷惑行為等防止条例(以下「本件条例」という。)違反の点
              同条例12条2項、1項、3条1項2号
 判示2
  性的姿態等撮影未遂の点
              性的姿態撮影等処罰法2条2項、1項1号イ、同法附則第2条
  本件条例違反の点    同条例12条2項、1項、3条4項、1項2号
混合包括一罪の処理    判示1及び2は、それぞれ1個の行為が2個の罪名に触れる場合(刑法54条1項前段)である上、本件条例違反の部分は常習としてなされたものであるから、包括して、刑法10条により一罪として刑及び犯情の最も重い性的姿態等撮影の罪の刑で処断
刑種の選択        懲役刑を選択
未決勾留日数の算入    刑法21条
(量刑の事情)
(求刑:懲役1年の実刑
  令和6年1月11日
    高松地方裁判所観音寺支部
           裁判官  上田 瞳