児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

児童ポルノ提供1件の事案で、編集行為を主張して懲役1年6月を求刑した事例(静岡地裁r5.2.17)

 2項提供罪だと思いますが、1件だと普通は罰金です。
 編集行為は目的製造罪(4項)で、提供罪とは併合罪の関係にあるので、編集行為を処罰したいのであれば、製造罪も起訴しておく必要があります。

第七条(児童ポルノ所持、提供等)
2児童ポルノを提供した者は、三年以下の拘禁刑又は三百万円以下の罰金に処する。電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を提供した者も、同様とする。
3前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で、同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。

児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件
静岡地判令和5年2月17日D1-Law.com判例体系〔28310966〕
判決文
■28310966
静岡地方裁判所
令和05年02月17日
 上記の者に対する児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件について、当裁判所は、検察官風間康宏及び弁護人増田健二(国選)各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文
主文
1 被告人を懲役1年に処する。
2 未決勾留日数中50日をその刑に算入する。
3 この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。

理由
理由
(罪となるべき事実)
 被告人は、令和元年12月6日頃、茨城県B市内又はその周辺において、Aが18歳に満たない児童であることを知りながら、Cに対し、A(氏名は別表記載のとおり。撮影当時の年齢は16歳)の入浴中の全裸の姿態等が記録された動画データ1点を記録したUSBメモリ1個を提供し、もって衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録に係る記録媒体である児童ポルノを提供した。
(証拠の標目)省略
(法令の適用)省略
(量刑の理由)
 本件は、被告人が、知人に児童ポルノを提供した事案である。
 本件児童ポルノは、前記知人から提供を受けた児童の入浴中の姿態を記録した動画に、児童の氏名や制服姿の写真など児童の特定に繋がる情報や児童を辱める性的な文言を挿入するなどの編集を施したものを保存した記録媒体であり、その内容は、児童の心身を傷つけ、その健全な育成に悪影響を及ぼす悪質なものである。また、動画データとして保存された児童ポルノの性質上、提供先から児童ポルノが拡散し、更に児童の権利が侵害される危険性を内包している点も見過ごすことはできない。被告人は、前記知人との交友を続けるために、提供された盗撮動画に前記編集を施し、本件児童ポルノを提供することを拒めなかったというが、被告人が述べる経緯や動機に酌むべき事情はなく、その意思決定は厳しい非難に値する。
 ところで、検察官は、被告人が、児童を明確に特定した上で、その性的羞恥心を著しく侵害し、その人格を貶める編集を施した動画を第三者に交付した点で、本件は類似事案とは明らかに態様を異にし、同種事案の中でも極めて悪質な部類に属する旨主張する。検察官は、本件児童ポルノの内容の悪質さに加え、被告人がその悪質さを作出する編集行為に及んだ点を犯情において重視し、これを前提に、同種事案の中では重い懲役1年6月の求刑をしたものと解される。しかし、本件は、あくまでも児童ポルノの提供1件からなる事案であるところ、被告人が前記編集行為に及んだ点を犯情において重視し、同種事案の中でより重く処罰することは、被告人が児童ポルノの製造に当たり得る行為に及んだ点を実質的に処罰する趣旨で量刑上考慮するものであり、首肯できない。検察官の求刑は重いといわざるを得ない。本件の法定刑及び被告人の前科関係を踏まえた事案の軽重並びに刑の公平性を考慮すると、主文程度の刑の執行を猶予することが相当である。そのほか被告人が事実を認めたことなど被告人のために酌むべき一般情状も考慮した。
(求刑 懲役1年6月)
刑事第1部
 (裁判官 鈴木悠)