児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp3@okumura-tanaka-law.com)

性犯罪・福祉犯(監護者性交罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

「ニルヴァーナのジャケ写「全裸赤ちゃん」提訴が話題、日本の法律で「児童ポルノ」にあたる?」の補足

 取材が記事になってますが
https://news.yahoo.co.jp/articles/81aec737ff976a6ab344715beab10878ba555b7f
 裁判例を問い合わせて来た県警があったので、そんな安易な捜査もあるのかと思いますが、取材用の下書きがありますので、補足しておきます。横浜地裁の事件なら、横浜地検・神奈川県警、東京地裁の事件なら東京地検・警視庁、大阪地裁の事件なら大阪地検大阪府警に聞きましょう。

世界的に有名なアルバムジャケットだが、今回の訴訟をどう見るのか。奥村徹弁護士に聞いた。

(1)乳幼児の裸体について 日本の法律に照らして、児童ポルノにあたるのでしょうか?
 「微笑ましい」「あどけない」と言って許容されるといいたいところですが、児童ポルノ法にはそのような除外事由はなく、「性欲を興奮させ又は刺激するもの」(児童ポルノ法2条3項3号)に当たるかどうかで判断されます。
 立法関係者の解説書によれば「性欲を興奮させ又は刺激する」とは、一般人の性欲を興奮させ又は刺激することをいうものと解しています。」「一部の少数者の性欲を興奮させ又は刺激するものは、一般人の性欲を興奮させ又は刺激するものでない|恨り、児童ポルノには当たりません。」(よくわかる改正児童買春・児童ポルノ禁止法 P186)とされており、乳幼児のあどけない裸体画像は除外されるかのように説明がされていて、裁の裁判例では「沐浴している場面」は児童ポルノに該当しないとするものもあります。

横浜地裁平成28年7月20日
各画像中,一部の画像については,被害児童が衣服の全部又は一部を着けない状態にはあるものの,通常の沐浴をしている情景としか見られないなど,性欲を興奮させ又は刺激するものに該当しないと判断したため,これらの画像については児童ポルノ製造罪は成立しない。

 もっとも、高裁判例レベルでは、「トイレに座る画像,一部着衣してあどけなく座る画像,児童が突っ立っている画像」や、「男湯脱衣場にいる女児画像」について、児童ポルノに該当するとされていて、厳しい態度を取っています。

東京高裁平成30年 1月30日(原審横浜地裁h28.7.20)
 (2) 論旨は,また,原判決が児童ポルノと認めた画像の中には,一般人の性欲を興奮又は刺激させないものが含まれているとして,具体的には,トイレに座る画像,一部着衣してあどけなく座る画像,~~を挙げ,これらの画像を撮影した行為について児童ポルノ製造罪を認めた原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というのである。
 しかし,原判決は,公訴事実に含まれる各画像を個別に検討し,一部の画像を性欲を興奮させ又は刺激するものに該当しないとするなど,児童ポルノの該当性を慎重に判断しており,所論指摘の画像の撮影行為をいずれも児童ポルノに該当するとした原判決の判断は不合理ではない。トイレに座る画像,一部着衣してあどけなく座る画像,児童が突っ立っている画像であって,児童に殊更扇情的な姿態をとらせたものではなくても,性器を殊更露出させたものであれば,一般人の性欲を興奮させ又は刺激するものといえる。

阪高裁平成24年7月12日(公刊物未掲載 原審大阪地裁H24.1.19)
 そこで検討するに,(1)の点は,本件各画像が「性欲を興奮させ又は刺激するもの」といえるかどうかについては一般人を基準として判断すべきものであることはそのとおりである。しかし,その判断の基準とすべき「一般人」という概念は幅が広いものと考えられる。すなわち,「一般人」の中には,本件のような児童の画像で性的興奮や刺激を感じる人もいれば,感じない人もいるものと考えられる。本件は,公衆浴場の男湯に入浴中の女児の裸の画像が対象になっており,そこには大人の男性が多数入浴しており,その多くの男性は違和感なく共に入浴している。そのことからすると,一般人の中の比較的多くの人がそれらの画像では性的興奮や刺激を特に感じないということもできる。しかし,その一方で被告人のようにその女児の裸の画像を他の者から分からないように隠し撮りし,これを大切に保存し,これを密かに見るなどしている者もおり,その者らはこれら画像で性的興奮や刺激を感じるからこそ,これら画像を撮影し,保存するなどしているのである。そして,これらの人も一般人の中にいて,社会生活を送っているのである。ところで,児童ポルノ法が規制をしようとしているのはこれらの人々を対象にしているのであって,これらの人々が「一般人」の中にいることを前提に違法であるか否かを考える必要があると思われる。他人に提供する目的で本件のような低年齢の女児を対象とする3号ポルノを製造する場合は,提供を予定されている人は一般人の中でそれらの画像で性的興奮や刺激を感じる人達が対象として想定されているものであり,そのような人に提供する目的での3号ポルノの製造も処罰しなければ,2項製造罪の規定の意味がそのような3号ポルノの範囲では没却されるものである。したがって,比較的低年齢の女児の裸の画像では性的興奮や刺激を感じない人が一般人の中では比較的多数であるとしても,普通に社会生活を営んでいるいわゆる一般の人達の中にそれらの画像で性的興奮や刺激を感じる人がいれば,それらの画像は,一般人を基準としても,「性欲を興奮させ又は刺激するもの」であると解するのが相当である。
 したがって,原判決が原判示各事実に児童ポルノ法7条2項,1項,2条3項3号を適用したのは正当である。

 これによれば、問題のジャケット画像の乳児の画像も、性器が写っているので、児童ポルノ(2条3項3号)とされる恐れがあります。

(2)過去のものだったり、ある種の芸術性があってもダメなのでしょうか?
 日本法の児童の定義は、実在する18歳未満の者ですが(法2条1項)、年齢要件は撮影されてた時点で判断されますから、児童を撮影した場合は撮影後何年経っても、児童ポルノ性は失われません。
 芸術性については、いわゆるCG児童ポルノ事件の東京高裁判決H29.1.24が「学術研究、文化芸術活動、報道等」への配慮条項(法3条)を受けて「当該画像等の具体的な内容に加え,それが作成された経緯や作成の意図等のほか,その画像等の学術性,芸術性,思想性等も総合して検討し,性的刺激等の要素が相当程度緩和されていると認められる場合には,「性欲を興奮させ又は刺激するもの」に当たらず,「児童ポルノ」には該当しないと解すべきである。」と判示していて一定の理解を示しています。

東京高裁H29.1.24(いわゆるCG児童ポルノ事件 原審東京地裁H28.3.15)
オ 芸術活動(表現の自由)等との関係
(ア)所論は,芸術分野においては,実在する児童のモデルにポーズをとらせてその姿を描写することは広く一般的に採られてきた方法であり,描かれたモデルがどこの誰であるかまで判明している作品も少なくないところ,原判決を前提とすると,このように長年優れた芸術とされてきた過去の名作の展示,販売,模写等が児童ポルノ法で禁止されることになる上,原判決の基準は,一般人からみて同一といえるか否かという曖昧なものであり,このような曖昧な基準によると,芸術活動に萎縮的効果を与えることになり,相当でない,このことは,現行児童ポルノ法3条の趣旨にも反するものである,などと主張する。
(イ)児童ポルノ法上の「児童ポルノ」に該当するかどうか,すなわち,「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの」(同法2条3項3号)に当たるか否かを判断するに当たって,表現の自由や芸術活動を不当に侵害しないようにする必要があることは,同法3条が「この法律の適用に当たっては,国民の権利を不当に侵害しないように留意しなければならない。」と規定していることからも明らかである。そして,上記の判断に当たっては,当該画像等の具体的な内容に加え,それが作成された経緯や作成の意図等のほか,その画像等の学術性,芸術性,思想性等も総合して検討し,性的刺激等の要素が相当程度緩和されていると認められる場合には,「性欲を興奮させ又は刺激するもの」に当たらず,「児童ポルノ」には該当しないと解すべきである。
 所論が指摘するような歴史的絵画の展示や模写等については,そもそも,被写体の児童性や同一性が立証できない場合が少なくないと考えられるが,仮にこれらの立証が可能な場合であっても,このような学術性,芸術性,思想性等を総合して判断することにより,児童ポルノに該当しないと判断される場合が十分あり得るというべきである。

 これによれば、CDジャケットなどの画像も、こういう芸術性を備えれば、児童ポルノ性が否定される余地はありそうです。