幼児に対する児童ポルノ製造罪における「性欲を興奮させ又は刺激するもの 」(2条3項2号3号)についての主張と判断

 未就学児童に対する強制わいせつ罪(176条後段)がついているときは主張することにしています。
 一般人基準だと年齢が下がると「性欲を興奮させ又は刺激するもの 」は薄まるはずなんですが、裁判所はそうは言ってくれません。
 いつの間にか0歳とか5歳とかの裸に興奮する人が一般人であるような国になったようです。

児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律
第二条  
3  この法律において「児童ポルノ」とは、写真、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係る記録媒体その他の物であって、次の各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう。
一  児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態
二  他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
三  衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの

 次に紹介するのは、刑事確定訴訟記録法で閲覧した結果ではなく、弁護人として得た判決です。

阪高裁H14.9.10
第4事実誤認ないし法令適用の誤り(控訴理由第9)及び事実誤認(控訴理由第10)の主張について
論旨は,?原判決は,本件ネガにつき,単なる裸体ではなく両脚を開かせ性器を露出させた露骨な描写をしており,一般人の性欲を興奮させ又は刺激すると判示しているが,被害児童は6歳であって,このような児童の姿態からは,どのようなポーズを取らせてみても,一般人の性欲を興奮させ又は刺激するものとは解されず,本件ネガが児童ポルノに当たるとはいえず(控訴理由第9),というものである。
しかしながら,捜査報告書によれば,被害児童は当時6歳の女児であるが,被告人によって撮影された被害児童の姿態は,幼女のあどけない自然な裸の姿ではなく,寝そべって両足を開いたり,足を立てて座ったりして,ことさら性器を露出するなど煽情的なポーズをとっており,これが鮮明に撮影されているものであるから,一般人の性欲を興奮又は刺激することのある態様のものと認められ,本件ネガが児童ポルノに当たることは明らかであり,論旨は理由がない。

高松高裁H22.9.7
第3法令適用の誤りの主張について
論旨は,児童ポルノ等処罰法2条3項3号の「性欲を興奮させ又は刺激するもの」は,一般人を基準として判断するものであるところ,原判示第2の事実において,被告人が撮影,記録した画像は,6歳の児童に対するものであり,一般人を基準とすれば,性欲を興奮させ又は刺激するものではないから,児童ポルノに該当しないのに,これらを児童ポルノに該当するとした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というのである。
しかし,
本件画像が一般人を基準とすれば性欲を興奮させ又は刺激するものではないとの点は,被告人は,被害者のズボンと下着を脱がせて下半身を裸にし,両足を開脚させるなどしてことさら陰部を露出させる姿態をとらせ,これを撮影,記録したものであるから,被害者が6歳であっても,一般人を基準として,性欲を興奮させ又は刺激するものに該当する。

名古屋高裁H22.3.4
2 控訴理由第2について
 論旨は,原判示の各事実について,上記各所為によって製造された画像はいずれも一般人からみて性欲を興奮させ又は刺激するものではないから,児童ポルノに該当しないのに,児童ポルノ製造罪の成立を認めた原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな法令適用の誤りがある,というのである。
 しかしながら,上記各所為により製造された画像は,いずれも社会通念に照らし一般人の性欲を興奮させ又は刺激するものと認められるから,児童ポルノに当たるというべきである。
 上記各所為につき児童ポルノ製造罪の成立を認めた原判決に法令適用の誤りはない。論旨は理由がない。

仙台高裁H21.3.3
所論は
被告人が撮影した各被害児童の陰部の画像は,児童に扇情的なポーズをとらせているわけではなく,児童ポルノ法2条3項3号にいう「性欲を興奮させ又は刺激するもの」に該当しないから,児童ポルノ製造罪を適用した原判決には法令適用の誤りがある,
などと主張する。
(2)しかしながら,
児童ポルノの定義規定である児童ポルノ法2条3項において,同項3号が「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激させるもの」と規定し,「性欲を興奮させ又は刺激させるもの」という要件を付加しているのは,衣服の全部又は着けない姿態を撮影したものの中には,家庭等における児童の日常生活の一場面を撮影したものや学術研究目的で撮影されたものも含まれるところ,これらについては社会的に是認されるものであることにかんがみ,これらを除外するためである。このような立法目的に徴すれば,同項3号の「性欲を興奮させ又は刺激するもの」とは,その撮影目的や撮影された内容等に照らし,一般人を基準として,見る者の性的興味に訴えようとするものと認められるものと解すべきである。
そうすると,本件起訴にかかる画像は,いずれも被告人が自己の性的し好を満足させる目的で,被害児童の陰部を撮影したものであり,しかもそれは性器を接写するなどして,殊更これを強調する内容となっているから,一般人を基準として判断して,見る者の性的興味に訴えようとするものと認められるのであって,「性欲を興奮させ又は刺激するもの」に当たるものということができる。所論は,「性欲を興奮させ又は刺激するもの」という要件は,客体の要件であって,撮影目的を考慮するのは不当であるなどと主張するが,客体を定める要件であっても,考慮する要素を内容等の客観的要素に限定しなければならないわけではなく,撮影目的といつた主観的要素を考慮することもできるというべきである。したがって,原判決に法令適用の誤りはない。

原判決には「性欲を興奮させ又は刺激する」の解釈に誤りがあって法令適用の誤りがあるから、原判決は破棄を免れないという主張を紹介しておきます。

1 性欲刺激要件
 この際、裁判所は「性欲を興奮させ又は刺激するもの」という要件(以下「性欲刺激要件」という。)の解釈とその判断基準を判示しなければならない。
 この点については、文言上、わいせつ概念(一般人を基準として、いたずらに性欲を興奮又は刺激せしめ、かつ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの)を意識していることから、一般人を基準として「性欲を興奮又は刺激せしめ」るものがこの定義に該当し、わいせつに到らない程度のものも含むと解されているようである。

「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」解説
警察庁生活安全局少年課執務資料(部内用)
平成11年7月12日
警察庁生活安全局少年課
2 刑法第175条のわいせつ物頒布等の「わいせつ」の意義については、最高裁判所判例(昭和26年5月10日判決・刑集5巻6号1026項)で、「いたずらに性欲を興奮又は刺激せしめ、かつ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの」をいうとする判断が示されているが、本法においては第2条第3項第1号では、このような規範的要件を付さず、第2号及び第3号では「性欲を興奮させ又は刺激するもの」とされていることから、児童ポルノについては、刑法の「わいせつ」に該当しないものも含み得る。


 この点についての裁判例としては、京都地裁H12.7.17*1が雑誌に掲載されているが、一般人を基準とするとされている。

【事件番号】京都地方裁判所判決/平成12年(わ)第61号
【判決日付】平成12年7月17日
【判示事項】一 いわゆる児童ポルノ法二条三項三号の解釈及び判断方法
二 右条項の児童ポルノに該当するとされた事例
【参照条文】児童売春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律2−3
【参考文献】判例タイムズ1064号249頁

 そして、性欲を興奮させ又は刺激するものであるか否かの判断は、児童の姿態に過敏に性的に反応する者を基準として判断したのではあまりにも処罰範囲が拡大してしまうことから、前記のとおり、児童ポルノの定義から最高裁判所判例の掲げる「普通人の正常な性的羞恥心を害し」という要件が割愛されているとしても、法の一般原則からして、その名宛人としての「普通人」又は「一般人」を基準として判断するのが相当である。

2 一般人基準では児童ポルノに該当しない。
 本件写真の被撮影者は0〜6歳であり、弁護人の知る限りでは、我が国の児童ポルノ事件では年少の部類である。
 0〜6歳の児童の姿態(着衣)は、どう考えても、どのようなポーズを取らせてみても、一般人の「性欲を興奮させ又は刺激するもの」とは解されない。

 試しにこの法廷内でこの写真を展示して、性欲を興奮させる者がいるかを問えばわかる。裁判官は興奮するとはいえない。弁護人も興奮しない。嫌悪感を覚える。被告人は興奮する。傍聴人は興奮しない。検察官は実は興奮しないけれども起訴した手前興奮したといわざるを得ない。一般人の「性欲を興奮させ又は刺激するもの」ではない。
警察庁執務資料*2

「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」解説
警察庁生活安全局少年課執務資料(部内用)
平成11年7月12日
警察庁生活安全局少年課
(3)「性欲を興奮させ又は刺激するもの」とされているが、これは、前記の最高裁判所判例が示したわいせつ概念と比較すると、「いたずらに」(過度に)であることを要しないとしたものであり、かつ、「普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの」であるか否かについて論ずるまでもなく規制すべきとした趣旨であるが、単に性的な興味を引く程度のものでなく、それを超えるものでなければならない。また、「性欲を興奮させ又は刺激するもの」は、一般人の「性欲を興奮させ又は刺激するもの」と解されることから、これに当たらない限り、一部の少数者の「性欲を興奮させ又は刺激するもの」であっても、本号に該当しない

園田教授の指摘*3

http://w3.scan.or.jp/sonoda/law/kaishun/02poruno.html
 誰の性欲を興奮・刺激するものであるかは、重要な論点である。いわゆる小児性愛者(ペドファイル)は、何気ない子どもの裸体等に性的興奮を覚え、刺激されるが、あどけない子どもの裸の写真も彼らにとっては「児童ポルノ」となる。国会審議の過程で、法案発議者により、これは「一般通常人」を基準に判断され、一般通常人よりも特に性的に過敏に反応する者を基準に児童ポルノを認定する趣旨ではないとの答弁がある。しかし、規定の上では規制対象としてはわいせつ図画よりもかなり広範なものとなっており、本法はそのようなものも規制対象とすると解される余地があることに注意が必要である。本法3条の「適用上の注意」に関する規定の趣旨を踏まえて、過度の規制に至らないように、運用上注意を要すべきである。


森山法務大臣の御著書*4

森山真弓「よくわかる児童買春・児童ポルノ禁止法」
Q40第2条第3項第2号・第3号には「性欲を興奮させ又は刺激する」とありますが、だれの性欲を興奮させ又は刺激するのでしょうか。また、この要件に該当するか否かは、だれが判断するのでしょうか。
大多数の者に対して、児童の(特に低年齢児童の)裸体は性欲を興奮させ又は刺激するとは考えられないという考え もありますが、どうでしょうか。
一部の少数者の性欲を興奮させ又は刺激するものも児童ポルノとして処罰の対象になりますか。
A「性欲を興奮させ又は刺激する」とは、一般人の性欲を興奮させ又は刺激することをいうものと解しています。 これに該当するか否かの判断は、犯罪構成要件に該当するか否かの判断ですので、最終的な判断は刑事事件において裁判所がするものと なります。
児童の裸体が一般人の性欲を興奮させ又は刺激するかどうかについ ては、性的に未熟な女児の陰部等を描写した写真が刑法のわいせつ図 画に当たるとした判例があり、必ずしも年少児童の裸体が一般人の性欲を興奮させ又は刺激することがないとはいえないと考えております。
なお、一部の少数者の性欲を興奮させ又は刺激するものは、一般人の性欲を興奮させ又は刺激するものでない限り、児童ポルノには当たりません。

国会議事録*5

145回国会衆議院法務委員会議事録1999/05/12
○枝野委員 ありがとうございます。そういったことで運用していただければ、変な拡大とか間違った運用ということはないかなというふうに理解をしたいと思います。
  それから、先ほどもここで出てきていますが、「性欲を興奮させ又は刺激する」というのが要件になっているわけですけれども、この「性欲を興奮させ又は刺激する」ということについての判断者はだれであるのか、あるいは、だれの性欲を興奮させ刺激するということであるのか、これについてお答えをいただければと思います。
○大森参議院議員 「性欲を興奮させ又は刺激する」、この構成要件につきまして、だれの性欲をという御質問でございますけれども、通常、構成要件に規定してありますことは、一般通常人というものを基準としております。
  最終的にそれをだれが判断するのかということになりますと、犯罪構成要件に該当するか否かの最終的な判断は、刑事事件におきましては裁判所がすることになります。
○枝野委員 それで、一般人の性欲を刺激するかどうかということになりますと、逆に言えば、ごく一部の人たちしか性的な刺激を受けないというケースについてはここには含まれないという理解でよろしゅうございますね。
○大森参議院議員 今申し上げましたように、構成要件該当性の判断というのは一般人を基準といたしますので、一般通常人より特に性的に過敏に反応する方とかを御想定なさっているのかと思いますが、今申し上げたように一般人を基準にいたしますので、枝野委員がおっしゃったような場合は、児童ポルノには当たらないことになると思います。
○枝野委員 それで、先ほど途中でちょっと切りかえてしまったのですけれども、先ほどおふろのコマーシャルみたいな例を申し上げましたが、一般的に言えば、これも、人によって子供も成長程度が違いますし、シチュエーション、映し方によって全部違うとは思いますが、普通には、三歳とか四歳の子供たちが例えば裸で水遊びをしている、それがニュースの映像とかで流れたりすることがありますね、いよいよ暑くなりましたなんというニュース。それから、温泉地で普通に温泉に、おふろに入っている子供、それも少なくとも二歳とか三歳の子供。
 これは、何歳からかということをここで議論しようと思うと、これはまさにケース・バイ・ケースなのでそういうことは申しませんが、そういったケースみたいなところは、これは一般人の性欲を刺激するとは普通には言えないということで大体解釈されるだろうなという理解でよろしいでしょうか。
○大森参議院議員 そのように理解していいと思います。

 従って、これに従えば本件画像は一般人基準で「性欲を興奮させ又は刺激するもの」と認定できない。

3 まとめ
 以上の通り、本件製造罪の各画像は、「児童が児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態」であることは争わないが、一般人の「性欲を興奮させ又は刺激するもの」ではないから児童ポルノではなく、製造罪も成立しない。
にもかかわらず、製造罪の成立を認めた原判決には「性欲を興奮させ又は刺激する」の解釈に誤りがあって法令適用の誤りであるから、原判決は破棄を免れない。