観念的競合の高裁判例はたくさんありますが、
強制わいせつ罪・児童ポルノ製造罪を観念的競合とする裁判例65 - 児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp@okumura-tanaka-law.com)
東京高裁h30に従えば「その着衣を脱がせて,その陰部を手指でもてあそぶなどし、被告人が同児童の陰部等を手指で触る姿態,陰部等を露出させる姿態をとらせ,これらを前記第2のスマートフォンで撮影し」という一個の行為について、9/14に誘拐・強制わいせつ罪で起訴して、10/19に製造罪で起訴しているので、後の起訴が二重起訴で違法です。一審で指摘すると修正されちゃうので、控訴審で指摘して下さい・
第3 平成30年7月25日午後5時頃,秋田市●●●付近路上において,●●●(●●●以下「被害者B」という。)を認めるや,同人が13歳未満であることを知りながら,同人を誘拐してわいせつな行為をしようと考え,同人に対し,警察官を装い,「警察です。車に乗って,検査します。」旨うそを言い,同人をしてその旨誤信させて,同人を自己が運転する自動車に乗車させた上,同車を発進させて,同所から同市●●●駐車場に連行し,同人を自己の支配下に置き,もってわいせつの目的で同人を誘拐した上,同所に駐車中の前記自動車内において,同人に対し,その着衣を脱がせて,その陰部を手指でもてあそぶなどし,もって13歳未満の者に対し,わいせつな行為をした。(平成30年9月14日付け起訴状記載の公訴事実)
第4 被害者Bが18歳に満たない児童であることを知りながら,前記第3の日時に,前記第3の駐車場に駐車中の自動車内において,同児童に,被告人が同児童の陰部等を手指で触る姿態,陰部等を露出させる姿態をとらせ,これらを前記第2のスマートフォンで撮影し,同日午後5時45分頃,同市内又はその周辺において,その動画データ1点を前記第2の「○○」を使用して同スマートフォン内蔵の電磁的記録媒体に記録して保存し,もって他人が児童の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの及び衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写した児童ポルノを製造した。(平成30年10月19日付け起訴状記載の公訴事実第3)
裁判年月日 平成30年12月19日 裁判所名 秋田地裁 裁判区分 判決
事件名 わいせつ誘拐、強制わいせつ、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件
文献番号 2018WLJPCA12196005
上記の者に対するわいせつ誘拐,強制わいせつ,児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件について,当裁判所は,検察官辻有希子及び国選弁護人笈川正典各出席の上審理し,次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役3年6月に処する。
未決勾留日数中50日をその刑に算入する。
理由(罪となるべき事実)
被告人は,
第1 平成30年2月28日午後3時39分頃,秋田市●●●方敷地内に駐車中の自動車内において,●●●(●●●以下「被害者A」という。)が13歳未満であることを知りながら,同人にわいせつな行為をしようと考え,その着衣を脱がせて,その陰部を手指でもてあそぶなどし,もって13歳未満の者に対し,わいせつな行為をした。(平成30年10月19日付け起訴状記載の公訴事実第1)
第2 被害者Aが18歳に満たない児童であることを知りながら,前記第1の日時場所において,同児童に,被告人が同児童の陰部を手指で触る姿態,陰部等を露出させる姿態をとらせ,これらを被告人の撮影機能付きスマートフォンで撮影し,同日午後3時49分頃,同市内又はその周辺において,その動画データ1点及び静止画データ1点をアプリケーションソフト「○○」を使用して同スマートフォン内蔵の電磁的記録媒体に記録して保存し,もって他人が児童の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの及び衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写した児童ポルノを製造した。(平成30年10月19日付け起訴状記載の公訴事実第2)
第3 平成30年7月25日午後5時頃,秋田市●●●付近路上において,●●●(●●●以下「被害者B」という。)を認めるや,同人が13歳未満であることを知りながら,同人を誘拐してわいせつな行為をしようと考え,同人に対し,警察官を装い,「警察です。車に乗って,検査します。」旨うそを言い,同人をしてその旨誤信させて,同人を自己が運転する自動車に乗車させた上,同車を発進させて,同所から同市●●●駐車場に連行し,同人を自己の支配下に置き,もってわいせつの目的で同人を誘拐した上,同所に駐車中の前記自動車内において,同人に対し,その着衣を脱がせて,その陰部を手指でもてあそぶなどし,もって13歳未満の者に対し,わいせつな行為をした。(平成30年9月14日付け起訴状記載の公訴事実)
第4 被害者Bが18歳に満たない児童であることを知りながら,前記第3の日時に,前記第3の駐車場に駐車中の自動車内において,同児童に,被告人が同児童の陰部等を手指で触る姿態,陰部等を露出させる姿態をとらせ,これらを前記第2のスマートフォンで撮影し,同日午後5時45分頃,同市内又はその周辺において,その動画データ1点を前記第2の「○○」を使用して同スマートフォン内蔵の電磁的記録媒体に記録して保存し,もって他人が児童の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの及び衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写した児童ポルノを製造した。(平成30年10月19日付け起訴状記載の公訴事実第3)
(証拠の標目)
括弧内の甲乙の番号は証拠等関係カード中の検察官請求証拠の番号を示す。
判示事実全部について
・被告人の公判供述
・被告人の検察官調書(乙6),警察官調書(乙3)
・検証調書(甲8)
・捜査報告書(甲7),捜査報告書抄本(甲15,16)
判示第1,第2,第4の各事実について
・被告人の検察官調書(乙11)
判示第1,第2の各事実について
・被告人の警察官調書(乙8,9)
・被害者Aの警察官調書抄本(甲10)
・●●●の警察官調書抄本(甲12)
・実況見分調書(甲13)
・捜査報告書(甲14,17)
判示第3,第4の各事実について
・被告人の警察官調書(乙4,5,10)
・●●●の警察官調書抄本(甲2,3)
・写真撮影報告書抄本(甲5)
・捜査報告書(甲4,9),捜査報告書抄本(甲1)
・電話用紙(甲6)
(法令の適用)
罰条
判示第1の所為
刑法176条後段
判示第2,第4の各所為
児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条4項,2項,2条3項2号,3号
判示第3の所為のうち
わいせつ誘拐の点 刑法225条
強制わいせつの点 刑法176条後段
科刑上一罪の処理
判示第3について
刑法54条1項後段,10条(重いわいせつ誘拐罪の刑で処断)
刑種の選択
判示第2,第4について
各懲役刑を選択
併合罪の処理
刑法45条前段,47条本文,10条(最も重い判示第3の罪の刑に法定の加重)
未決勾留日数の算入
刑法21条
訴訟費用の不負担
刑訴法181条1項ただし書
なお,弁護人は,判示第1の強制わいせつ罪と判示第2の児童ポルノ製造罪は観念的競合となるから,両罪を科刑上一罪とすべきであり,また,判示第3のわいせつ誘拐罪と強制わいせつ罪は牽連関係にあり,判示第3のわいせつ誘拐罪と判示第4の児童ポルノ製造罪は牽連関係にある上,判示第3の強制わいせつ罪と判示第4の児童ポルノ製造罪は観念的競合となって,結局,判示第3,第4について,わいせつ誘拐罪,強制わいせつ罪,児童ポルノ製造罪を科刑上一罪とすべきであると主張する。
しかしながら,本件において,判示第1の強制わいせつの行為と判示第2の児童ポルノ製造の行為との間には,一部重なりあう点はあるものの,両行為が通常伴う関係にあるといえないことや,両行為の性質等にかんがみると,両行為は社会的意味合いを異にする別個のものと認められるから,両罪について併合罪とするのが相当である。また,判示第3のわいせつ誘拐罪と強制わいせつ罪とは,弁護人が指摘するとおり牽連関係にあると認められるところ,判示第3の強制わいせつの行為と判示第4の児童ポルノ製造の行為とは,前同様,社会的意味合いを異にする別個のものと認められ,観念的競合とするのは相当でなく,また,判示第3のわいせつ誘拐罪と判示第4の児童ポルノ製造罪との間には,その罪質上,通例その一方が他方の手段又は結果となる関係があるとはいえないから,牽連関係にあるとは認められず,判示第3について科刑上一罪の処理によるわいせつ誘拐罪と判示第4の児童ポルノ製造罪について併合罪とするのが相当である。
(量刑の理由)
被告人は,警察官を装って被害者Aに声をかけると,同人の自宅駐車場内の被告人車両において,その陰部を手指でもてあそぶなどのわいせつな行為に及んだ上,被害者Aの陰部等を露出させる姿態等をスマートフォンで撮影,保存するなどして児童ポルノを製造し,判示第1,第2の各犯行に及び,さらに,その約5か月後に,警察官を装って被害者Bに声をかけ,被告人車両に乗せるなどしてわいせつの目的で被害者Bを誘拐するとともに,その陰部を手指でもてあそぶなどのわいせつな行為に及んだ上,前同様に児童ポルノを製造し,判示第3,第4の各犯行に及んだのであって,その犯行態様は,思慮浅薄な幼い女児を狙って警察官を装い声をかけてなされた卑劣で悪質なものである。各被害者やその保護者らの精神的苦痛には大きなものがあり,各被害者の健全な成長に与えるであろう影響も懸念されるところであって,その処罰感情が厳しいのも当然である。被告人は自己の性欲を満たすために本件各犯行に及んだもので,強い非難に値する。被告人の刑事責任は重いといわざるを得ない。
他方,被告人が,本件各犯行を認め,二度と同じ犯罪を繰り返さないため,カウンセリングに通う意向を示すなど反省の態度を示していること,被害者Bに対して200万円を支払い,宥恕はされなかったものの慰謝の措置を講じていること,被告人には前科がないこと,被告人の父が,当公判廷において,被告人の更生に助力する意向を示していることなど,被告人のために酌むべき事情も認められる。
以上の事情を総合すれば,被告人に対して,主文のとおりの刑に処するのが相当であると判断した。
よって,主文のとおり判決する。
(検察官の求刑意見:懲役5年,弁護人の科刑意見:懲役1年)
平成30年12月20日
秋田地方裁判所刑事部
(裁判長裁判官 杉山正明 裁判官 板東純 裁判官 藤枝健太)