児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

東京都健全育成条例改正による児童ポルノ等の作成・提供を不当に勧誘する行為の禁止

 sextngは頼んだ方の児童ポルノ製造罪(正犯)になるという法文がなく、それでいいのかという論点も未解決なのに(児童の製造行為への教唆犯となる余地もあるのに)、頼む行為が条例で処罰されるというのはどうなんでしょうね。
 実際に送らせてしまったときは、姿態をとらせて製造罪と条例の送らせる罪はどういう関係になるんでしょうか。


http://www.seisyounen-chian.metro.tokyo.jp/seisyounen/singi/seisyokyo/31ki-menu/index.html
http://www.seisyounen-chian.metro.tokyo.jp/seisyounen/singi/seisyokyo/31ki-menu/senmon5/shiryou2.pdf
児童ポルノ等被害が深刻化する中での青少年の健全育成について
(第31期東京都青少年問題協議会緊急答申)(案)
3 規制等対応
(1) 健全育成条例改正による児童ポルノ等の作成・提供を不当に勧誘する行為の禁止
ア 青少年に対し、当該青少年の姿態に係る児童ポルノやその電磁的記録を作成したり、人に提供したりするように勧誘する行為で、一定の状況・態様で行われるものについては、性に関する健全な判断能力が形成途上である青少年にとって、その福祉を阻害するおそれの高い行為となる。
しかし、このような行為の手口は日々、複雑巧妙化しているため、上記のような普及啓発、教育等による対応や技術的対応では、被害の防止に限界があり、また、刑法に抵触しない場合も多い(勧誘行為自体は、児童ポルノ禁止法にも抵触しない。)。
このため、判断能力が形成途上にある青少年の一層の保護を図るには、上記対応と併せて、健全育成条例において当該勧誘行為を罰則をもって禁止することにより、同行為の抑止や防止を図るとともに、そのような行為が許されないものであることを明確にする必要がある。
この場合において、「一定の状況・態様」については、青少年の性に関する健全な判断能力が形成途上であることに乗じた不当な手段による勧誘を類型化して掲げることが適当であり、具体的には、次の?〜?に掲げる方法等による勧誘を規定することが望ましい。
? 青少年が拒絶しているにもかかわらず勧誘する方法
? 欺き、又は誤解させる方法
? 威迫する方法
? 対償を供与し、又はその供与の約束をする方法
? その他困惑させる方法
なお、健全育成条例は、青少年の行為に対して直接制限の形式を取らず、青少年を取り巻く社会の責任において、青少年の福祉を阻害するおそれのある行為を防止するという間接的な方法により、目的の達成を図ることとしているものであり、このような健全育成条例の趣旨を踏まえれば、この禁止規定については、青少年が勧誘をした場合、条例違反にはなるものの罰則の適用はないこととするのが適当である。
また、都外所在の者から、都内所在の青少年にメール等で当該勧誘が行われた場合に、都内所在の青少年を守るために必要な限度において、当該都外所在の者に対しても適用されることとすべきである。
イ アに関する主要な法的論点の整理は、次のとおりである。
? 禁止行為の明確性
条例上禁止される行為が明確に規定されなければならないことは、大原則である。
本禁止規定は、禁止される勧誘の内容を、表現行為として高い価値を有しない「児童ポルノやその電磁的記録」という、既に児童ポルノ禁止法により所持・製造・提供等が禁止されているものに限定し、かつ勧誘の方法を、「青少年の性に関する健全な判断能力が形成途上であることに乗じた不当な手段(類型化して掲げる)による勧誘」に限定することで、現在社会問題となっている青少年の「自画撮り被害」に繋がる働きかけ行為を一定の明確性を持って切り取り、必要な処罰範囲の限定もなされる14。
? 直罰規定とすることの妥当性健全育成条例上禁止する行為は、性に関する健全な判断能力が形成途上である青少年に対するその福祉を阻害するおそれの高い行為であり、青少年が健全に成長する環境づくりのため、大人に対して、このような勧誘行為に対する責任を問い、大人の姿勢を正すために罰則をもって禁止することが適当なものである。
なお、謙抑主義の見地から言えば、行政命令や警告等の行政措置をまず検討すべきであるが、青少年の自画撮り被害に繋がる働きかけは、その大半が、コミュニティサイト上で知り合った面識のない相手からのものであるため、行政手段により相手を特定することは難しく、行政措置の名宛人を特定できない。
したがって、実効性を担保するためには、強制捜査等が可能な司法的手段によるほか採り得る手段がなく、また、?のとおり、健全育成条例で明確に禁止される行為を規定すれば、違反した者に対しては処罰について十分な事前の告知があったといえ、かつ、処罰権限の濫用のおそれもないことに鑑みれば、直罰規定とすることは妥当である15。
? インターネットを介した勧誘行為を条例で規制することの妥当性インターネット上で完結する行為の規制であれば、地方自治体ごとに定められる条例には馴染まないとの指摘もあり得るところ、青少年の自画撮り被害の事例を見てみると、SNSや電子メールだけでなく、電話が使用されることもあり、何らかのツールの使用により地方公共団体の区域において勧誘者から被勧誘者へ働きかけを行う「勧誘行為」として捉えることができるものである。
したがって、インターネット外の行為の禁止と同様に、その禁止を条例で規定することは妥当である16。
なお、「勧誘行為の禁止」を定める規定は、健全育成条例や東京都迷惑防止条例のほか、児童ポルノ禁止法や売春防止法にも規定例がある。
? 児童ポルノ禁止法との関係で本条例規制が許容されることについて児童ポルノ禁止法には、青少年の自画撮り被害に繋がる勧誘行為について、これを規律する明文の規定はないが、法全体から見て、当該行為についていかなる規制をも施すことなく放置すべきものとする趣旨であると解する根拠はない。
また、同法第7条第4項は、青少年の自画撮り被害自体に適用されることがあるが、本条例規制は、青少年の自画撮り被害に繋がる勧誘行為を、性に関する健全な判断能力が形成途上である青少年に対するその福祉を阻害するおそれの高い行為であるとして処罰するものであり、同法とは目的が異なり、その適用によって、同法の意図する目的と効果をなんら阻害することもない。
したがって、同法との関係で本条例規制は許容されるものと考えられる17。
ウ アの禁止規定を設けることにより、悪質な勧誘行為の抑止効果や、勧誘段階での取締りによる青少年の画像提供の未然防止効果のほか、青少年に対して、このような勧誘行為自体が「悪いこと」であり、それを断ることは「悪くないこと」であるとの認識を広げる効果も、期待される。
(2) 民間相談窓口を含めた関係機関の連携による勧誘段階での被害防止勧誘行為の相談を受けた相談機関が相談者に画像提供を行わないことを徹底させた上で、迅速に警察に繋げ、刑法や(1)の禁止規定を適用した勧誘行為時点での取締りに努めるなど、民間相談窓口を含め関係機関が連携をして、青少年の画像提供の未然防止を図る必要がある。
そのためには、健全育成条例改正に合せて、勧誘行為は断ることが正しく、勧誘行為を受けた場合には、画像を提供する前に保護者や相談窓口に相談をするということについて、関係機関が連携して青少年への普及啓発を強化することが必要である。
(3) 他の道府県への条例改正の要請及び国への法整備の要望青少年の自画撮り被害については、勧誘者と被勧誘者が異なる都道府県に所在することが多いので、他の道府県の条例に同様の規定があれば、あるいは、児童ポルノ禁止法等に同様の規定があれば、被害を減らすためにより効果的な対策が可能である。
そこで、都の健全育成条例改正に合わせ、他の道府県への条例改正の要請及び国への法整備の要望をしていくべきである。