児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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法務省刑事局長「刑法の一部を改正する法律」の施行について(依命通達)h29.6.26

 法務省でもらってきた。
 法務省の解釈付き。
 報道されてた「被害者への配慮」というのは数行だけ。

法務省刑制第121号(例規
平成29年6月26日
法務省刑事局長(公印省略)
「刑法の一部を改正する法律」の施行について(依命通達)
第193回国会において成立した刑法の一部を改正する法律」第193回国会において成立した「刑法の一部を改正する法律」(平成29年法律第72号。以下「本法」という。)は,平成29年6月23日に公布され,公布の日から起算して20日を経過した日(同年7月13日)から施行されることになりました。
本法は,近年における性犯罪の実情等に鑑み,事案の実態に即した対処を可能とするため,強姦罪の構成要件及び法定刑を改めて強制性交等罪とするとともに,監護者わいせつ罪及び監護者性交等罪を新設するなどの罰則の整備を行い,あわせて,強姦罪等を親告罪とする規定を削除することなどを内容とするものです。
つきましては,改正後の各規定につき,下記事項に留意の上,その適切な運用に努めていただきますようお願いします。

第1改正の趣旨
性犯罪は,被害者の人格や尊厳を著しく侵害する悪質重大な犯罪であることはもとより,その心身に長年にわたり多大な苦痛を与え続ける犯罪であることから,厳正な対処が求められているところ,明治40年の刑法制定以来,基本的にその構成要件が維持されてきた現行の罰則では,性交と同等の身体的接触を伴う強制わいせつ事案,親権者等による性交等事案などについて,適正な処罰が困難な場合があるとの指摘がなされてきた。
また,強姦罪の悪質性・重大性に鑑みると,その法定刑の下限が低きに失して国民意識と合致しない,あるいは,性犯罪が親告罪であることにより,かえって被害者に精神的な負担を生じさせていることが少なくないなどの様々な意見が見られた。
そこで,本法においては,性犯罪の実情等に鑑み,事案の実態に即した対処を可能とするため,刑法を改正し,所要の法整備を行うものである。
第2 改正の概要
本法における改正点の第1は,強姦罪の構成要件を見直して,被害者のこうくう性別を問わないこととし,かつ,性交(姦淫)に加え,肛門性交又は口腔性交をする行為を強姦罪と同様の重い類型の犯罪として処罰することとした上で,その法定刑の下限を懲役3年から懲役5年に引き上げ,これに併せて,被害者を死傷させた場合の法定刑の下限を懲役5年から懲役6年に引き上げるとともに,強姦罪の罪名を強制性交等罪とするものである。
また,これに伴って,集団強姦の罪及び集団強姦致死傷の罪は廃止することとされた。
第2は,18歳未満の者に対し,その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じてわいせつな行為又は性交等をした者について,強制わいせつ罪又は強制性交等罪と同様に処罰する監護者わいせつ罪及び監護者性交等罪を新設するものである。
第3は,同一の機会に強盗の罪と強制性交等の罪とを犯した場合には,その行為の先後を問うことなく,改正前の強盗強姦罪と同様の法定刑で処罰することとし,これに併せて,刑法第241条の見出しを「強盗強姦及び同致死」から「強盗・強制性交等及び同致死」に改めるものである。
第4は,強姦罪等を親告罪としていた規定を削除し,これらの罪を非親告罪とするものである。
その他,経過規定を設けるなど,所要の規定の整備を行うものである。
1強制性交等罪及び準強制性交等罪(刑法第177条,第178条第2項、第181条)
(1)強姦罪の構成要件の見直し
ア趣旨強姦罪は,その悪質性・重大性に着目した強制わいせつ罪の加重類型と考えられるところ,強制わいせつ罪に問擬されてきたいわゆる性交類似行為の中でも,肛門性交及び口腔性交については,性交(姦淫)と同等の悪質性・重大性があると考えられることから,性交と同様に加重類型に含めて処罰することとされた。
また,被害を受けた者が被る身体的・精神的苦痛は,性差によって異なるものではないと考えられることから,その客体を「女子」に限定していた点を改め,男性も含むこととされた。
なお,強姦罪においては,事実上,その行為主体が男性に限られてきたところ,以上のような改正を行う結果,強制性交等罪の行為主体には,男性のみならず,女性も含まれることとなる。
イ要件「性交」とは,改正前の刑法第177条の「姦淫」と同義であり,膣内に陰茎を入れる行為をいう。
「肛門性交」とは肛門内に陰茎を入れる行為をいい,「口腔性交」とは口腔内に陰茎を入れる行為をいう。
「性交」,「肛門性交」及び「口腔性交」を合わせて「性交等」ということとされている。
これらの行為には,自己又は第三者の陰茎を被害者の膣内等に入れる行為だけでなく,自己又は第三者の膣内等に被害者の陰茎を入れる行為(入れさせる行為)を含む。
すなわち,「性交,肛門性交又は口腔性交」とは,相手方(被害者)の膣内,肛門内若しくは口腔内に自己若しくは第三者の陰茎を入れ,又は自己若しくは第三者の膣内,肛門内若しくは口腔内に相手方(被害者)の陰茎を入れる行為をいうものである。
(2) 強姦罪の法定刑の見直し
強姦罪(強制性交等罪)の法定刑の下限の引上げ
近年,多方面から,強姦罪の法定刑の引上げを求める意見が述べられていた上,法定刑の下限が懲役5年である強盗罪及び現住建造物等放火罪よりも,強姦罪の方が,重い量刑がなされる事件の割合が高い状況にあった。
このような状況を踏まえれば,強姦の悪質性・重大性に対する現在の社会一般の評価は,少なくとも強盗や現住建造物等放火の悪質性・重大性に対する評価を下回るものではないと考えられ,現時点において,強姦罪の法定刑の下限は低きに失しており,国民意識と大きく異なっていると言わざるを得ないことから,強姦罪の構成要件を見直して設ける強制性交等罪の法定刑の下限について,強盗罪及び現住建造 物等放火罪と同様に,懲役5年に引き上げることとされた。
イ強姦致死傷罪(強制性交等致死傷罪)の法定刑の下限の引上げ強姦罪(強制性交等罪)の法定刑の下限の引上げに併せて,その結果的加重犯である強姦致死傷罪(強制性交等致死傷罪)の法定刑の下限も,懲役5年から懲役6年に引き上げることとされた。
ウ集団強姦の罪及び集団強姦致死傷の罪の廃止
改正前の刑法第178条の2及び第181条第3項においては,集団強姦の罪の法定刑の下限は懲役4年,集団強姦致死傷の罪の法定刑の下限は懲役6年とされていたところ,本法により,強制性交等罪はその法定刑の下限が懲役5年に,強制性交致死傷罪はその法定刑の下限が懲役6年に,それぞれ引き上げられ,強制性交等罪の法定刑の下限が集団強姦の罪の法定刑の下限を上回ることとなり,また,強制性交等致死傷罪の法定刑の下限と集団強姦致死傷の罪の法定刑の下限とが同一となった。
集団的形態による強制性交等の悪質性・重大性については,改正後の強制性交等罪や強制性交等致死傷罪の法定刑の範囲内で十分に考慮し,適切な量刑を行うことができると考えられたことから,集団強姦の罪及び集団強姦致死傷の罪については,廃止することとされた。
(3)準強姦罪の構成要件等の見直し
準強姦罪についても,その構成要件及び法定刑につき,強姦罪と同様の見直しがなされ,その罪名も準強制性交等罪と改めることとされた。
2 監護者わいせつ罪及び監護者性交等罪(刑法第179条)
(1)概要
実親,養親等の監護者が18歳未満の者に対して性交等やわいせつな行為(以下,両者を合わせて「性的行為」という。)を継続的に繰り返し,監護者と18歳未満の者との性的行為が常態化している事案等においては,日時,場所等が特定できる性的行為の場面だけを見ると,暴行,脅迫が認められず,また,抗拒不能にも当たらないため,刑法上の性犯罪として訴追することが困難なものが存在していた。
このような事案の実態に即した対処を可能とするため,刑法第176条から第178条までの罪(強制わいせつ,強制性交等,準強制わいせつ,準強制性交等)とは別に,18歳未満の者を現に監護する者がその影響力があることに乗じて性的行為をした場合について,新たな犯罪類 型として,監護者わいせつ罪及び監護者性交等罪を設けることとされた。
(2) 趣旨
18歳未満の者は,一般に,精神的に未熟である上,生活全般にわたって自己を監督し保護している監護者に経済的にも精神的にも依存しているところ,監護者が,そのような依存・被依存ないし保護・被保護の関係により生ずる監護者であることによる影響力があることに乗じて18歳未満の者と性的行為をすることは,、強制わいせつ又は強制性交等と同様に,これらの者の性的自由ないし性的自己決定権を侵害するものであるといえる。
そこで,このような行為類型については,強制わいせつ又は強制性交等と同等の悪質性・当罰性が認められると考えられることから,罰貝llを新設し,強制わいせつ罪又は強制性交等罪と同様に処罰しようとするものである。
(3) 要件
ア「監護する」とは,民法第820条に親権の効力として定められているところと同様,監督し,保護することをいい,18歳未満の者を「現に監護する者」とは,18歳未満の者を現に監督し,保護している者をいう。
本罪は,監護者の影響力がある状態下で性的行為が行われた場合,18歳未満の者の意思決定は,そもそも精神的に未熟で判断能力に乏しい者に対して監護者の影響力が作用してなされたものであり,自由な意思決定に基づくものということはできないことに着目して設けるものであるから,「現に監護する者」に当たるといえるためには,法律上の監護権の有無を問わず,現にその者の生活全般にわたって,衣食住などの経済的な観点や,生活上の指導監督などの精神的な観点から,依存・被依存ないし保護・被保護の関係が認められ,かつ,その関係に継続性が認められることが必要であると考えられる。
イ「現に監護する者であることによる影響力」とは,現にその者の生活全般にわたって,衣食住などの経済的な観点や,生活上の指導監督などの精神的な観点から,現に18歳未満の者を監督し,保護することにより生ずる影響力をいう。
したがって,「現に監護する者であることによる影響力」には,ある特定の性的行為を行おうとする場面における,その諾否等の意思決定に直接影響を与えるものだけではなく,被監護者が性的行為に関する意思決定を行う前提となる人格,倫理観,価値観等の形成過程を含め,一般的かつ継続的に被監護者の意思決定に作用を及ぼし得る力が含まれるものである。
ウ「現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて」とは,18歳未満の者に対する「現に監護する者であることによる影響力」が一般的に存在し,当該行為時においてもその影響力を及ぼしている状態で,性的行為をすることをいう。
その上で,被監護者である18歳未満の者を現に監護している者は,通常,当該18歳未満の者に対し,このような影響力を及ぼしている状態にあるといえるので,一般的には,「現に監護する者」であることが立証されれば,当該性的行為の行為時においても,「現に監護する者であることによる影響力」を及ぼしていたこと,すなわち,「現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて」いたことが認定できることとなる。
したがって,「乗じて」といえるためには,通常は,性的行為に及ぶ特定の場面において,影響力を利用するための具体的行為は必要ない。
エ本罪の趣旨に照らし,本罪の成否を論ずるに当たり,18歳未満の者の性的行為に対する同意の有無は問題とならない。
(4)法定刑等
監護者わいせつ罪及び監護者性交等罪の法定刑については,それぞれ,刑法第176条及び第177条の「例による」とされていることから,強制わいせつ罪及び強制性交等罪と同じになる。
また,死傷の結果を生じた場合には,同法第181条が適用される。
(5)他罪との関係
監護者わいせつ罪又は監護者性交等罪に当たる行為が,同時に,児童福祉法上の児童に淫行をさせる罪(同法第60条第1項,第34条第1項第6号)にも該当する場合には,両罪が成立し,観念的競合となるものと考えられる。
3 強盗・強制性交等の罪(刑法第241条)
(1)刑法第241条第1項(強盗・強制性交等)関係
ア概要 本罪は,同一の機会に強盗の行為と強制性交等の行為とを行った場合には,その行為の先後関係にかかわらず,改正前の強盗強姦罪と同様に,無期又は7年以上の懲役に処することとするものである。
イ趣旨改正前の刑法の規定では,強盗犯人が強姦をした場合には同法第241条前段の強盗強姦罪が成立するが,強盗と強姦との双方を行った場合であっても,強姦行為後に強盗の犯意を生じて強盗をした場合には強盗強姦罪は成立せず,強姦罪と強盗罪との併合罪となるものとされていた。
しかしながら,同一の機会に,それぞれ単独でなされてもなお悪質な行為である強盗の行為と強制性交等の行為との双方を行うことの悪質性・重大性に鑑みると,強盗の行為と強制性交等の行為との先後関係の違いをもって科すことのできる刑に大きな差異があることを合理的に説明するのは困難であると考えられたことから,それらの行為の先後関係を問うことなく,同一の法定刑で処罰することとされた。
ウ要件
(ア)「強盗の罪」には,改正前の刑法第241条前段における「強盗」と同様に,刑法第236条の狭義の強盗罪だけでなく,「強盗」として論じられる同法第238条の罪(事後強盗)や同法第239条の罪(昏酔強盗)が含まれる。
(イ)「強制性交等の罪」には,改正前の刑法第241条前段における「強姦」と同様に,改正後の刑法第177条の狭義の強制性交等罪だけでなく,その例によるとされる同法第178条第2項の罪(準強制性交等)が含まれる。
ただし,同法第179条第2項の罪(監護者性交等)は,強盗と同一機会に犯されることが想定し難いため,明文で除かれている。
(ウ)「…を犯した者が,…をも犯したとき」とは,改正前の強盗強姦罪について,判例上,強姦行為は,強盗の機会に行われる必要があるものと解されているのと同様に,強盗・強制性交等罪が成立するためには,強盗の行為と強制性交等の行為とが同一の機会に行われる必要があることを意味する。
(2) 刑法第241条第2項関係
ア概要
改正後の刑法第241条第2項本文は,同条第1項に規定する強盗・強制性交等罪が成立する場合のうち,強盗の行為と強制性交等の行為とがいずれも未遂であって,その機会に人を死傷させたものでないときには,任意的に刑の減軽を認めるものである。
また,同条2項ただし書は,同項本文に当たる場合であって,強盗の行為か強制性交等の行為かのいずれか一方でも自己の意思により中止したときは,必要的に刑を減軽又は免除することとするものである。
イ 趣旨
強盗・強制性交等罪は,その構成要件として,結合関係にある強盗の行為と強制性交等の行為とのいずれもが未遂であっても成立する罪として規定されていることから,刑法第43条本文の未遂犯に関する規定及び同条ただし書の中止犯に関する規定は,適用されない。
もっとも,同一の機会になされた強盗の行為と強制性交等の行為とがいずれも未遂であり,人の死傷結果が生じていない場合には,行為の危険性が比較的小さいといえる事案等もあり得るところであり,そのような事案について下限が懲役7年以上という重い法定刑で処断するのは酷な場合も考えられることから,任意的な刑の減軽を認めるため,同法第241条第2項本文を設けることとされた。
また,このような任意的な刑の減軽を認めるべき場合のうち,同一の機会になされた強盗の行為と強制性交等の行為とのいずれかについて自己の意思で中止した場合には,他方が障害未遂の場合であっても,強盗の行為と強制性交等の行為との少なくとも一方を自らの意思で中止したことに鑑みると,同法第43条ただし書の中止犯そのものではないものの,これと同様に必要的に刑を減軽又は免除するのが相当と考えられたものである。
(3)刑法第241条第3項(強盗・強制性交等致死)関係本罪は,強盗・強制性交等罪に当たる行為により人を死亡させた場合に死刑又は無期懲役に処することとするものである。
改正前の刑法第241条後段の罪(強盗強姦致死)は,強盗の機会に行われた姦淫行為又はその手段である暴行若しくは脅迫から死の結果が生じた場合に成立すると解されている。
これに対し,改正後の刑法第241条第3項の罪(強盗・強制性交等致死)は,強盗の罪と強制性交等の罪とが同一の機会に犯された場合において,いずれかの罪に当たる行為から死の結果が生じた場合に成立することとされた。
さらに,改正前の刑法第241条後段の罪は,いわゆる結果的加重犯であり,殺意のない場合に限り成立するものとされているが,改正後の刑法第241条第3項は,殺意なく人を死亡させた場合のみならず,殺意をもって人を殺した場合も含むものとされた。
条文上も,本罪に殺意がある場合を含むことを明らかにするために,一般にいわゆる結果的加重犯のみをその対象とし,殺意がある場合を含まないものと解されている改正前の刑法第241条後段の「よって…死亡させた」との文言は用いず,「第一項の罪に当たる行為により人を死亡させた」と規定された。
例えば,強盗犯人が,被害者を姦淫し,かつ,殺意をもって被害者を殺害した場合,本法による改正前は,判例によれば刑法第240条の強盗殺人罪と改正前の刑法第241条前段の強盗強姦罪とが成立するものと解されていたが,本法による改正後は,強盗・強制性交等殺人罪の一罪が成立するものと解される。
4強姦罪等の非親告罪化(改正前の刑法第180条,第229条)
(1)概要
本法により,改正前の刑法第180条を削り,強姦罪準強姦罪,強制わいせつ罪及び準強制わいせつ罪を非親告罪とするとともに,同法第229条を改正し,わいせつ目的又は結婚目的の略取及び誘拐の罪(同法第225条),同法第225条の罪を箒助する目的で犯した被略取者引渡し等の罪(同法第227条第1項)及びわいせつ目的被略取者引渡し等の罪(同条第3項)について,非親告罪とすることとされた。
なお,未成年者略取及び誘拐の罪(同法第224条),未成年者略取及び誘拐の罪を藷助する目的で犯した被拐取者引渡し等の罪(同法第227条第1項)及びこれらの罪の未遂罪は,性犯罪ではなく,親告罪とされている趣旨も異なることから,親告罪として維持された。
(2)趣旨
強姦罪等の性犯罪が親告罪とされていた趣旨は,一般に,公訴を提起することによって被害者の名誉,プライバシー等が害されるおそれがあることから,公訴の提起について,被害者の意思を尊重するためであると解されていた。
しかし,実情としては,犯罪被害によって肉体的・精神的に多大な被害を負った被害者にとって告訴するか否かの選択を迫られているように第感じられるなど,親告罪であることが,かえって被害者に精神的な負担を生じさせている場合が少なくない状況に至っているものと認められたことから,強姦罪等の性犯罪を非親告罪化することとされた。
(3)経過措置
本法により強姦罪等の性犯罪を非親告罪化するに際して,本法施行前の行為についても,本法施行後は,本法施行時に既に法律上告訴がされることがなくなっているものを除き,非親告罪として取り扱うこととされた(本法附則第2条第2項)。
これは,本法により強姦罪等の性犯罪を非親告罪化する趣旨が,告訴をするか否かの判断をしなければならない被害者の精神的負担を軽減する点にあることに鑑み,本法施行前の行為についても,原則として非親告罪として取り扱うことが適切であるとされたものである。
「既に法律上告訴がされることがなくなっているもの」とは,いずれの告訴権者においても法律上告訴をすることができなくなったため,告訴がされる可能性がなくなっている事件をいう。
具体的には,例えば,
○全ての告訴権者が告訴の取消しをしたため,更に告訴をすることができない場合(刑事訴訟法第237条第2項)
○被害者が死亡し,かつ,その生前に告訴をしない意思を明示していたため,刑事訴訟法第231条第2項に規定する親族が存するものの,その者が告訴をすることができない場合
○改正前の刑法第229条ただし書の場合(わいせつ又は結婚目的の略取及び誘拐の罪の被害者と犯人とが婚姻した場合)において,婚姻の無効又は取消しの裁判が確定した日から6か月が経過したとき(改正前の刑事訴訟法第235条第2項)
がこれに当たる。
なお,本法により非親告罪化されるわいせつ又は結婚目的の略取及び誘拐の罪(刑法第225条)等における本法施行前の行為に対する本法施行後の告訴の効力について本法附則第2条第3項に,本法による改正後も引き続き親告罪とされる未成年者略取及び誘拐の罪(刑法第224条)等における本法施行前の行為に対する本法施行後の告訴の効力について本法附則第2条第4項に,それぞれ規定があるので,留意されたい。
留意事項
1強姦罪等の非親告罪化について
性犯罪については,もとより,被害者のプライバシー等の保護が特に重要であり,事件の処分等に当たっても被害者の心情に配盧することが必要であることは,強姦罪等を非親告罪化した後も変わるものではない。
したがって,本法施行後においても,引き続き,事件の処分に当たって被害者の意思を丁寧に確認するなど被害者の心情に適切に配慮する必要があることに留意されたい。
経過措置について
本法附則第2条第1項により,本法施行前の行為については,原則として,本法による改正前の規定が適用されることに留意されたい。
なお,本法による改正前は親告罪であり,本法により非親告罪となる罪(施行の際,既に法律上告訴がされることがなくなっているものを除く。)について,本法施行前の行為に係る事件を本法施行後に不起訴処分に付する場合,当該罪はその処分の時点では非親告罪であるから(第2の4(3)参照),不起訴裁定書の裁定主文は「親告罪の告訴の欠如」,「親告罪の告訴の取消し」等とはなり得ず,「起訴猶予」,「嫌疑不十分」等の主文により裁定されることとなることに留意されたい。
第4附帯決議
本法の国会審議に際し,衆議院法務委員会において別添1の,参議院法務委員会において別添2の附帯決議がそれぞれなされているので,留意されたい。