詳しい解説が出ました。
児童淫行罪とは保護法益が違うというのですが、包括一罪になる可能性にも言及されています。
7第179条
(4)罪数
18歳未満の者を現に監護する者が,その影響力があることに乗じて同一被害者に対して数回にわたってわいせつな行為又は性交等をした場合の罪数については,監護者わいせつ罪及び監護者性交等罪の保護法益が,強制性交等罪及び強制わいせつ罪と同様に性的自由ないし性的自己決定権であることに鑑みて, これらの罪と同様に考えることとなる。具体的には,各犯行の時間的,場所的接着性等に照らして一個の行為と評価できる場合には一罪と考えられるが,そうでない場合には,併合罪に(注13)なるものと考えられる。
5)他罪との関係
ア強制わいせつ罪,強制性交等罪等との関係
監護者わいせつ罪及び監護者性交等罪は,強制わいせつ罪や準強制わいせつ罪,あるいは,強姦罪(強制性交等罪)や準強姦罪(準強制性交等罪)が存在することを前提に,それらの罰則では処罰できないものの,それらの罪と同等の悪質性・当罰性が認められる事案に対応するために新設されたものである。
したがって,強制わいせつ罪・準強制わいせつ罪又は強制性交等罪・準強制性交等罪が成立する場合に,重ねて監護者わいせつ罪又(注14)(注15)(注16)は監護者性交等罪が成立するものではない。
イ児童福祉法違反との関係
監護者わいせつ罪又は監護者性交等罪と児童福祉法の淫行をさせる罪(同法第60条第1項,第34条第1項第6号)との関係は,改正前の強制わいせつ罪又は強姦罪と児童福祉法の淫行をさせる罪との関係と(注17)同様である。
したがって, 18歳未満の者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じてわいせつな行為又は性交等に及んだ行為が,同時に,児童に淫行をさせる行為に当たる場合,監護者わいせつ罪又は監護者性交等罪と児童福祉法違反の罪との併合罪となるのでは(注18)なく,両者は観念的競合として一罪となるものと解される。(注13) 強制性交等罪(改正前の強姦罪)につき,第177条の解説(注20ないし注22)を参照。なお,強制性交等罪等とは保護法益の異なる児童福祉法の淫行をさせる罪(同法第60条第1項,第34条第1項第6号)については,同一の社会的基礎の上において単一又は継続した意思によって犯される限り,その淫行をさせた回数において多数回にわたっていても各児童毎に包括的に観察して一罪を構成するものとされている(東京高裁昭31. 2 . 2高裁刑事判例集第9巻1号103頁,名古屋高裁平26.10.22速報集平成26年149頁等)。
(注14) 改正前の刑法においては,わいせつな行為又は姦淫行為によって個人の性的自由を侵害する罪として, まず,第176条(強制わいせつ)及び第177条(強姦)の罪が置かれ,その補充規定として,第178条(準強制わいせつ及び準強姦)の罪が置かれており,例えば,反抗を著しく困難ならしめる程度の暴行・脅迫によって女子を抗拒不能・心神喪失の状態に陥らせた場合には,一般に,第178条の罪ではなく,第176条又は第177条の罪が成立するものと解されている(最判昭24. 7 . 9刑集3巻8号1174頁参照)。
また, 13歳未満の者の心神喪失又は抗拒不能に乗じた場合も,第176条又は177条の罪が成立するものと解されている。(注15) これと同様に, 13歳未満の者に対するわいせつな行為又は性交等が,外形上は,監護者わいせつ罪又は監護者性交等罪に該当するように見える場合であっても, 13歳未満の者に対するわいせつな行為又は性交等のみを要件として成立する刑法第176条後段の罪又は刑法第177条後段の罪のみが成立し,別に監護者わいせつ罪又は監護者性交等罪は成立しないものと考えられる。(注16) もとより,ある行為が,強制わいせつ罪・準強制わいせつ罪又は強制性交等罪・準強制性交等罪と監護者わいせつ罪又は監護者性交等罪との両方に該当するように見える場合においても,訴訟法的観点から,検察官が監護者わいせつ罪又は監護者性交等罪に係る事実により公訴提起し, これを主張立証した結果,同罪により被告人を処罰することは可能であると考えられる。同罪で公訴提起された場合に,被告人が強制わいせつ罪・準強制わいせつ罪又は強制性交等罪・準強制性交等罪が成立することを証明することによって監護者わいせつ罪又は監護者性交等罪の成立を免れるという関係にあるものではない。
この点について,法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会第5回会議における議論は以下のとおりである。
○中村功一幹事
(前略)罪数の点でございますけれども, こちらも御説明してきておりますとおり,要綱(骨子)第三の罪(引用注:監護者わいせつ及び監護者性交等の罪) というのは要綱(骨子)第一の罪(引用注:強制性交等の罪)や,強制わいせつ罪を補充する趣旨で設けようとするものでございます。したがいまして,仮にある行為が外形的には強制わいせつ罪なし、し要綱(骨子)第一の罪と要綱(骨子)第三の罪との双方に該当するように見られる場合には,強制わいせつ罪又は要綱(骨子)第一の罪のみが成立するものと考えております。(中略)
○佐伯仁志委員
要綱(骨子)第三の規定が補充規定であるということの意味についてですが,先ほど事務当局から刑法第177条,第178条に当たる場合には,それのみが成立するという御説明があったのですけれども,私は第177条ないし第178条に当たり得る場合であったとしても,要綱(骨子)第三の罪で処罰することは可能であると考えます。
○辻裕教委員
1点,事務当局の方から補足させていただきます。ただいま,佐伯委員の方から,要綱(骨子)第一の罪と要綱(骨子)第三の罪の関係について御指摘がございましたが,第一の罪のみが成立すると申し上げた趣旨は,意味としては佐伯委員のおっしゃるものと同様の意味であると考えておりまして,実体法の関係の罪数の整理としては第一の罪のみが成立するという場合があろうかと思いますが,訴訟法的な観点を加味して, この要綱(骨子)第三の罪だけで処罰できるかといいますと,それは可能であると事務当局としても考えているというところでございます。
(注17) 大コンメンタール刑法第3版第9巻71頁〔亀山継夫=河村博〕
○刑法第176条と特別法との関係について18歳未満の児童に対して暴行・脅迫によってわいせつな行為をすることが同時に,児童に淫行をさせることにあたる場合は,本条の罪と児童福祉法の淫行をさせる罪(同法34条1項6号, 60条1項等)との双方が成立する場合があり得る。両罪における保護の重点の置き方の違いからみて,観念的競合と解すべきであろう。
(注18) 橋爪隆「性犯罪に対処するための刑法改正について」法律のひろば70巻11号10頁,同旨。なお,樋口亮介「性犯罪規定の改正」法律時報89巻11号118頁においては,本条が被監護者の将来にわたる人格の発展も合わせて保護の対象に取り込んでいるとして,児童福祉法の淫行をさせる罪は,本条の罪に吸収されるとする。しかし,本条の罪の性質については,法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会第3回において, 「本罪は,強姦罪等と同様に性的自己決定権を侵害するものであ」るとの事務当局の説明を前提に, 「18歳未満の者の健全な育成を保護するという観点ではなくて,飽くまでも被害者の暇疵ある意思決定によって性的自由が侵害されているという観点から,性犯罪として刑法典に規定する必要が高いと考える」(部会第3回橋爪隆幹事発言), 「日本の法律は,刑法は性的な自由を保護し,青少年の保護は児童福祉法等の特別法で行うというような役割分担が行われているわけで,今回,要綱(骨子)第三で設けようとしているのは,強姦罪や準強姦罪等と同じように性的自由を侵害する行為として刑法に規定しようというもの」(同部会第3回佐伯仁志委員発言)などと議論されており,少なくとも,直接には,児童の健全な育成等を保護するものであるとの前提とはされていなかった。