児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

わいせつ文書は著作物として保護されるかについては個別の条文から解決することは困難であり, 1条の「文化の発展に寄与」するということの意義等の解釈が影響すると考えられる

 手持ちの「著作権法なんとか」という本を「わいせつ」で検索しても、この程度しかヒットしなかった

著作権法
第1条(目的) 
この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする。
第2条(定義)
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう

著作権法コンメンタール(2013年 レクシスネクシス・ジャパン)p10
4 著作権法の解釈指針
この条文は,著作権法の目的を規定しているのであるから,著作権法の解釈に際しての解釈指針としての役割を有する。例えば,文化的な価値のないものも著作物として保護されるかあるいはわいせつ文書は著作物として保護されるかについては個別の条文から解決することは困難であり, 1条の「文化の発展に寄与」するということの意義等の解釈が影響すると考えられる12 )
12) 実務提要153の3頁ではいずれも著作物としての保護を肯定している。

著作権関係法令実務提要153の3頁 第1巻第1条わいせつと著作権

刑法に触れるような写真等は著作権が認められないのではないか

わいせつ文書等は刑法に触れ、それらを復製、頒布すると罰せられます。
 刑罰法規、取締法規によって公衆への頒布等が禁止されている著作物は著作権法上保護されないのではないか、むしろ保護するのはおかしいのではないかという趣旨のご質問だと思います
 しかし、刑法等の公法による規制の問題と著作権法による私権の保護の問題は全く別個の問題です。わいせつ文書等であっても著作者に無断で出版してよいということにはならないと思います.著作権法による保護があっても、わいせつ文書等を著作者が自ら出版したり、出版社に出版させたりすれば刑法によって罰せられるのですから、そのことによって法秩序をみだすことにはならないと考えます.

追記2021/05/09
言及する知財高裁の判決が出ています。

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail7?id=89748
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/748/089748_hanrei.pdf      
損害賠償請求控訴事件
知的財産高等裁判所判決令和2年10月6日

       主   文

 1 一審原告の控訴を棄却する。
 2 一審被告らの控訴をいずれも棄却する。
 3 控訴費用は,一審原告の控訴に係るものは一審原告の負担とし,その余は一審被告らの負担とする。

       事実及び理由

第1 控訴の趣旨
 1 一審原告
  (1) 原判決を次のとおり変更する。
  (2) 一審被告らは,一審原告に対し,連帯して1000万円及びこれに対する平成30年7月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 一審被告ら
  (1) 原判決中,一審被告ら敗訴部分を取り消す。
  (2) 上記取消部分に係る一審原告の請求をいずれも棄却する。
第2 事案の概要等(略語は原判決の例による。)
 1 事案の要旨
  (1) 本件は,一審原告が,一審被告会社は,自らが運営する原判決別紙ウェブサイト目録記載のウェブサイト(本件各ウェブサイト)に,一審原告が著作権を有する原判決別紙著作物目録記載の漫画(本件各漫画)を無断で掲載し,一審原告の著作権公衆送信権)を侵害したと主張して,一審被告会社に対し,民法709条及び著作権法(以下「法」という。)114条1項に基づき,損害賠償金1億9324万3288円のうち1000万円及びこれに対する不法行為日である平成30年7月7日(本件各ウェブサイトへの掲載日のうち最も遅い日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,一審被告会社の現在の代表取締役である一審被告Y1及び同年8月
25日まで代表取締役であったY3(同日死亡。以下「亡Y3」という。)が,一審被告会社の法令順守体制を整備する義務に違反して,一審被告会社が上記著作権侵害行為を行う本件各ウェブサイトを運営することを許容したとして,一審被告Y1及び亡Y3を相続した同人の配偶者である一審被告Y2に対し,会社法429条1項に基づき,一審被告会社と連帯して,上記同額の損害賠償金及び遅延損害金の支払を求める事案である。
・・・・・・・・・
  2 争点5(信義則違反又は権利濫用)についての補充主張
 〔一審被告らの主張〕
  (1) 本件各漫画の違法性
    本件各漫画は,原著作物に依拠して,原著作物のキャラクターをそのまま利用して,原著作物の著作権者(以下「原著作権者」という。)の許諾なく,ストーリーを同性愛及びわいせつなものに変容したものである。このような本件各漫画は,次のとおり違法なものである。
   ア 著作権侵害
    (ア) 原著作物への依拠
      特徴⑦から明白である。
    (イ) 複製権の侵害
      複製といえるためには,何人も容易に原著作物のキャラクターを知ることができるもの,すなわち,その個性(本質的特徴)が顕れているものの利用であればよく,その判断,認識は,美術の専門家によるものである必要はなく,素人の第一印象でよい。原著作物の特定の画面に描かれた登場人物の絵と細部で一致することを要求するものではなく,その特徴から当該登場人物を描いたものであることを知り得るものであれば足りる。なお,誰が見ても原著作物の登場人物が表現されていると感得されるようなものであれば,どの回の,どのコマの絵を複製したものであるかを特定する必要はない。
      本件各漫画と原著作物とは,ストーリー及びキャラクターが,特徴②~④のとおり,名称,髪型,表情,体型,装身具,人間関係等において一致している。
      したがって,本件各漫画は,原著作物の複製権を侵害する。
    (ウ) 翻案権の侵害
      本件各漫画は,原著作物のキャラクター及び場面設定を利用して,そのストーリー及び描写をわいせつな内容等に変容させているが,著作物といえるキャラクターが特徴②~④のとおり同じであることから,一般読者に対し,原著作物の表現上の本質的特徴を直接に感得させるものである。したがって,本件各漫画は,原著作物の翻案に当たる。
    (エ) 同一性保持権の侵害
      原著作物は,いずれも人気作品であり,様々な賞を受けている。このような作品に対して,その内容を特徴⑤⑥のようなわいせつな内容に変容することを原著作権者が許諾するはずもなく,本件各漫画は,原著作者の同一性保持権を侵害しており,その侮辱の程度は甚だしいと言える。
   イ わいせつ性
     二次的著作物の著作権は,二次的著作物において新たに付与された創作的部分のみについて生じ,原著作物と共通しその実質を同じくする部分には生じない。この点,本件各漫画の創作的部分は,いずれも,特徴⑤⑥のとおり,わいせつ性を有することが明らかである。
     刑法で処罰の対象としているわいせつ図画については,そもそも著作権が発生しないと解される。また,特許権実用新案権意匠権及び商標権について,公序良俗に反するものは権利として保護されていないので,同様に,著作権についても公序良俗に反するものは保護する必要がないと解される。
     仮に,わいせつ図画にも著作権が発生すると解した場合でも,わいせつ図画を日本国内において不特定又は多数人に販売することは禁止されており,そのような作品の頒布を目的として著作者がこれを販売することも,民法公序良俗に違反すると解される。
  (2) 本件各漫画に法的保護を与えることは許されないこと
   ア 以上のとおり,本件各漫画は,原著作物の複製権,翻案権及び同一性保持権を侵害しており,違法な二次的著作物であり,原著作物を侮辱するとともに,わいせつ図画化という公序良俗に反する許容できない変容を加えている。仮に,一審原告の本件請求を認容すれば,裁判所が,このような著作権侵害行為及びわいせつ図画を容認し,違法な同人誌による金儲けを助長することになる。
     したがって,一審原告の得る利益に対して,裁判所が,適法な利益として保護を与えることは許されない。
   イ 違法な著作物の著作権行使は信義則違反又は権利濫用に該当すること
     法の改正経緯などに照らして,違法な二次的著作物にも著作権があるとの考え方及び同旨の裁判例がある。他方で,ベルヌ条約2条や米国法103条のように,違法状態を作出した者を保護するべきではないとの価値判断から,違法な二次的著作物には著作権をそもそも発生させず,権利行使をさせないとの考え方もあり,我が国内でも同旨の学説がある。
     しかし,違法な二次的著作物にも著作権があるとの考え方に立っても,その著作権の行使が,信義則に反し権利の濫用となる場合がある。本件各漫画が原著作者の著作権を侵害するものであること,その創作的部分は公序良俗に反し不特定多数人への販売が禁じられるわいせつ図画であることに照らせば,本件各漫画に基づく著作権の行使は,信義則違反又は権利の濫用に当たり,認められない。
 3 争点6(損害額)についての補充主張
 〔一審原告の主張〕
    法114条1項ただし書に推定覆滅事由として規定された「販売することができないとする事情」は抗弁であって一審被告らが立証すべきところ,次に述べる事情も考慮すれば,その立証は不十分である。
  (1) 本件ウェブサイトはいずれも,もっぱら女性向けのBL(ボーイズラブ,男性同士の恋愛や性行為の描写を含む作品)同人誌を掲載するものである。
    よって,本件各ウェブサイトを訪問するのは,もっぱらBL同人誌の愛好家に限られ,本件各ウェブサイトに対するPVは,他のジャンルの作品に対する閲覧を含まない。
    したがって,本件各ウェブサイトに対するPV数が本件各同人誌(本件各漫画を印刷した同人誌をいう。以下同じ。)の潜在的な需要を示すということができ,一審原告が同数を「販売することができないとする事情」があったとはいえない。
  (2) 本件各同人誌の販売実績は,発売直後から数ヶ月後に低下する傾向にあったが,これは,無料で閲覧できる本件各ウェブサイトが登場したことにより,本件各同人誌を購入するはずであった消費者が購入意欲を減退させて本件各ウェブサイトに流れたことによるものである。
    したがって,販売実績に上記のような傾向があったことは,PV数に相当する本件各同人誌を一審原告が「販売することができないとする事情」には当たらない。
  (3) 本件各同人誌の販売実績は,本件各ウェブサイトのPV数の約9分の1程度であるが,これは,本件各ウェブサイトによる影響を受けたものである。
    よって,販売実績とPV数に上記のような関係にあったことは,PV数に相当する本件各同人誌を一審原告が「販売することができないとする事情」には当たらない。
  (4) 本件各ウェブサイトの閲覧が作品を購入する意図なしに行われるという事実を裏付ける証拠はなく,同事実は立証されていない。
    したがって,同事実をもって,PV数に相当する本件各同人誌を一審原告が「販売することができないとする事情」とすることはできない。
 〔一審被告らの主張〕
    本件各同人誌の販売によって一審原告が得た利益は,237万4680円と算定される。本件各同人誌のように即売会での販売が大半である同人誌の販売について,その内容がインターネット上に掲載されたことによる一審原告の損害が,上記金額にほぼ匹敵する金額に上ることはあり得ない。
    したがって,本件においては,法114条の5を適用し,上記金額の約1割に当たる20万円をもって,一審原告の損害額と認定すべきである。
第4 当裁判所の判断
・・・
  (2) わいせつ性の主張について
    一審被告らは,本件各漫画はわいせつ文書に当たるから,そのような文書に基づいて権利行使をすることは許されないと主張するところ,たしかに本件各漫画(本件漫画11を除く。)は特徴⑤⑥を有するものであることが認められる。しかしながら,本件各漫画全体を検討してみても,それらが甚だしいわいせつ文書であって,これに基づく著作権侵害を主張し,損害賠償を求めることが権利の濫用に当たるとか,そのような損害賠償請求を認めることが公序良俗に違反するとまで認めることはできない。
・・・・
 4 結論
   以上によれば,原判決は相当であり,本件各控訴はいずれも理由がない。
    知的財産高等裁判所第3部
        裁判長裁判官  鶴岡稔彦
           裁判官  上田卓哉
           裁判官  都野道紀