http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110721-00000522-san-soci
受刑者(44)の再審請求審で、東京高検が行ったDNA鑑定の結果、被害者の体内から検出された体液のDNA型は、現場に残されていた受刑者以外の男性の体毛のDNA型と一致したことが21日、分かった。
被害者が第三者と現場の部屋に行ったことは「考えにくい」とした確定判決に誤りがあった可能性が浮上し、再審開始の公算が出てきた。ただ、別人が犯人であることを直接示す物証ではないことから、検察側は再審請求審でも有罪の主張を維持する方針だ。
再審請求審で東京高裁は今年1月、弁護側からの要望を受け、現場から採取された物証のDNA鑑定を実施するよう検察側に要請。東京高検が専門家に鑑定を依頼した結果、被害者の体内から検出された体液のDNA型が、現場に残された複数の体毛のうち受刑者のものとは異なる1本と一致したという。
受刑者の公判では、受刑者と事件とを結びつける直接証拠がなかったことから、現場に残されていた体毛や体液の血液型など検察側が積み重ねた状況証拠の評価が焦点となった。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110721-00000027-jij-soci
再審請求審で、東京高裁は弁護側の要請を受け、現場から採取された物証のうちDNA型鑑定が行われていないものについて、実施するよう検察側に要請。東京高検が今年3月、被害者の体から採取された体液などの鑑定を専門家に依頼していた。
関係者によると、鑑定の結果、この体液のDNA型が、現場に残されていた複数の体毛のうち受刑者のものではない一本と一致した。事件発生前、別の場所で被害者と会っていた知人男性のDNA型とも異なるという。
強盗殺人被告事件[東電OL殺人事件]
東京高等裁判所判決平成12年12月22日
高等裁判所刑事裁判速報集平成12年130頁
判例タイムズ1050号83頁
判例時報1737号3頁
捜査研究50巻7号38頁
主 文
原判決を破棄する。
被告人を無期懲役に処する。
原審における未決勾留日数中七〇〇日を右刑に算入する。
理 由
第一 控訴趣意とその検討
一 論旨
本件控訴の趣意は、検察官上田廣一作成の控訴趣意書(同検察官作成の補正申立書により補正された)に記載されたとおりであり、これに対する答弁は、弁護人神山啓史外四名作成の答弁書に記載されたとおりであるから、これらを引用する。
論旨は、要するに、原判決は本件強盗殺人罪の公訴事実につき、被告人を犯人と認めるには合理的な疑問が残るとして無罪を言い渡したが、証拠上被告人が本件強盗殺人の犯行に及んだことを十分認め得るから、原判決には判決に影響を及ぼすべき事実の誤認があるというのである。
本件公訴事実は、「被告人は、平成九年三月八日深夜ころ、東京都渋谷区円山町K荘一〇一号室において、甲野春子(当時三九歳)を殺害して金員を強取しようと決意し、殺意をもって、同女の頚部を圧迫し、よって、そのころ、同所において、同女を窒息死させて殺害した上、同女所有の現金約四万円を強取したものである」という強盗殺人の事実であるが、被告人は、これに関与したことを否定している。
そこで、検察官の控訴趣意及びこれに対する弁護人の答弁にかんがみ、以下、原審取調べの関係証拠に当審での事実取調べの結果を併せて検討する。
三 被告人の係わり
1被告人の係わりを窺わせる客観証拠
(一)遺留された陰毛、精液のDNA型、血液型の鑑定
関係証拠に照らし、いずれも専門的な知識、技術を習得した経験者により、科学的に信頼される方法で行われたものと認められるDNA型鑑定、ミトコンドリアDNA聖鑑定及びABO式血液型検査により、次の各結果が得られた。
(1)前記二1(九)の陰毛様の物四本を、警視庁科学捜査研究所において鑑定したところ、いずれも陰毛であって、内二本のABO式血液型はB型、その余の二本はO型と判定されたが、石山翌夫教授のもとで、これらについてミトコンドリアDNA型鑑定を実施したところ、右B型二本の内の一本が被告人のそれと一致し(223T−304C型)、右O型二本の内の一本が被害者のそれと一致する(223T−362C型)とそれぞれ判定された。(甲二三、二九、久保田寛証言、石山□夫証言)
(2)前記二1(九)の本件コンドーム内の精液(以下「本件精液」という)と被告人の血液につき、警視庁科学捜査研究所において、DNA型(MCT一一八型、HLA−DQα型、THO1型、PM検査)とABO式血液型のそれぞれ鑑定を行ったところ、すべて被告人の型と一致した(DNA型につき、MCT一一八型は24−31型、HLA−DQα型は1.2−4型、THO1型は10−1−10−1型、PM検査のLDLR型はAB型、同GYPA型はAB型、同HBGG型はAB型、同D7S8型はAB型、同GC型はAC型であり、ABO式血液型につきB型)。(甲九、一七、一九、二一、久保田寛証言、赤坂はるか証言、笠井賢太郎証言等)
(二)本件精液の経時変化についての押尾鑑定の意義
本件精液につき、捜査当局から、K荘一〇一号室の便器の水中から三月一九日に採取されるまでに、どの程度の期間滞留していたか、その経過期間の鑑定を求められた押尾茂一生殖生物学を専攻する大学講師)は、任意の男性四名から採取された精液を、濃度を違えたブルーレットの水溶液にそれぞれ混合して室温で放置しておき、精子形状の経時変化を観察したところ、(1)一〇日経過後において、頭部と尾部が分離した精子の割合は三〇パーセントから四〇パーセントであったが、二〇日経過後においては、それが六〇パーセントから八〇パーセントであった、(2)これに対して、精子頭部の形状は、一〇日後でも全てははっきりしていたが、二〇日後には崩壊しているものが多く見られた。
他方、同人は、ガーゼに付着乾燥させ冷凍保存してあった本件精液を生理食塩水に回収して、精子形状を観察したところ、尾部は存在していてもほとんど痕跡程度であり、頭部は正常な形態を保っていた。
以上の観察結果を踏まえて、押尾は、前記実験で観察された、時間経過に伴う頭部と尾部の分離した精子数の割合増加及び精子の頭部形状の崩壊は、低浸透圧負荷による膜の不安定化と精漿中の大腸菌等の繁殖による腐敗の進行が原因であり、右実験が比較的清潔な環境で行われたのに対し、本件精液は便器内の不潔な環境下に置かれていたことからすると、右実験において二〇日経過した時点で観察された頭部と尾部の分離現象が、本件精液においてはより早く、便器の滞留水中で一〇日程度経過した時点で生じた可能性も考えられることから、「(コンドームに入った本件精液が)犯行日と推定される三月八日に(便器内に)放置されたとしても(右実験結果と)矛盾はない」旨の鑑定意見を出した。(甲一〇〇ないし一〇二、押尾茂証言)。
本件精液の置かれていた便器の水の環境(前年一〇月に退去したネパール人HとミトコンドリアDNA型が一致する者の陰毛がティッシュペーパーと共に滞留水の中に残っていたことは、相当期間水が流されていなかったことを窺わせる。甲一四七ないし一五一)と、右実験におけるサンプルの精液がおかれた精製水中の環境との大きな相違にかんがみると、この両者の各精子の崩壊変化の状況を単純に比較して、前者の経過時間を推定で割り出すことはできないのであって、ガーゼに付着乾燥させて保存されていた本件精液が、その採取時において、便器内に放置されてから一〇日間程度経過したものであったとしても、右実験結果と矛盾しないとする押尾鑑定意見は、相当なものとして受け容れることができる。六 総括と結論
1以上の検討から、次のようなことが認められる。
(一)現場で発見された陰毛について、ミトコンドリアDNA型鑑定を実施したところ、陰毛のB型二本の内の一本が被告人のそれと一致し、O型二本の内の一本が被害者のそれと一致するとそれぞれ判定されたこと
(二)現場の便器から発見されたコンドーム内の精液と被告人の血液につき、警視庁科学捜査研究所において、DNA型(MCT一一八型、HLA−DQα型、TH0i型、PM検査)とABO式血液型のそれぞれにつき型鑑定を行ったところ、両者はすべて一致したこと
(三)そして、これらのDNA型鑑定、ミトコンドリアDNA型鑑定及びABO式血液型検査は、いずれも専門的な知識、技術を習得した経験者により、科学的に信頼される方法で行われたと認められるのであるが、本件精液の発見採取時までの経過時間については、約一〇日経過したものとしても、押尾鑑定人の実験結果と矛盾はなく、不自然ではないこと
(四)「二月二五日から三月二日ころまでの間に、K荘一〇一号室で被害者を相手に買春し、性交後に自分が同室の便所の便器にコンドームを投棄した」旨の被告人の供述は、買春代金の支払額について不自然な変遷があるなど、その供述自体疑わしいばかりでなく、被害者の本件手帳の売春結果欄の克明で確度の高い記載内容とも照応しないから、信用しかねること
(五)Sのアベック目撃の供述内容は、その余の関係証拠も併せ見ると信頼性が高く、同人の見たアベックの女性は被害者であると認められ、その相手の男性の特徴は、それが被告人であっても不審はないこと
(六)被告人は、前年一二月一二日の夜、勤務の帰途、円山町付近の路上で被害者と行きあい、自分が借りているYビル四〇一号室に連れ込んで、被害者と合意の上で、当時同居していたB、Cと三人で、買春を行ったことがあり、K荘一〇一号室の本件鍵を持っていて、同室が空室であることを知っている被告人が、三月八日午後一一時三〇分ころに、被害者と連れだって、K荘階下の通路前路上に現れ、一〇一号室に人ることは、時間的、場所的に十分可能であり、不審はないこと
(七)他方、被告人の言うとおりに、本件犯行が行われる以前から、K荘一〇一号室の出入口の施錠がされないままになっていたとしても、右アパートに係わりのない被害者が、同室が空室であり、しかも施錠されていないと知って、売春客を連れ込み、あるいは、被告人以外の男性が被害者を右の部屋に連れ込むことは、およそ考え難い事態であること
2本件関係証拠から認められる前項(一)ないし(七)の事情を総合すると、被告人は、三月八日、勤務先からの帰途、JR渋谷駅からYビルに至る路上で被害者と遭い、午後一一時三〇分ころ、買春目的で被害者を伴ってK荘一階通路の西側出入口から一〇一号室へ入り、その六畳間において、被害者相手にコンドームを用いて性交して射精した後、身づくろいを終えた被害者の本件ショルダーバッグの取っ手を握って奪おうとして抵抗にあい、翌九日午前零時ころ、被害者の顔面等を殴打し、頚部を扼して殺害し、右ショルダーバッグの中の財布から少なくとも四万円(一万円札四枚)を奪ったものであり、同室便所の便器の溜まり水の中にあった本件コンドームは、右性交時に使用したコンドームて、殺害の前に被告人もしくは被害者が、あるいは殺害後に被告人が、そこへ投棄したものと認めて誤りない。そして、関係証 を検討しても、被告人の頑なな否認にもかかわらず、右認定に合理的な疑いを容れる余地はない。
3原判決が本件につき被告人を無罪としたのは、証拠の評価を誤り、延いては事実を誤認したものといわなければならない。弁護人は、答弁書及び当審の弁論で、原判決が相当である所以を多岐にわたり主張するが、それらを逐一検討しても、所論は理由を欠き、容れることはできない。
原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があり、検察官の論旨は理由がある。
よって、刑訴法三九七条一項、三八二条により原判決を破棄し、同法四〇〇条ただし書にしたがい、更に判決することとする。
第二 自判
(罪となるべき事実)
被告人は、平成九年三月八日午後一一時三〇分ころ、東京都渋谷区円山町〈番地略〉所在のK荘一〇一号室に甲野春子(当時三九歳)と入り、同女と性交をしたものであるが、それが終了した後の翌九日午前零時ころ、同女を殺害して金員を強取しようと決意し、同室北側和室六畳間において、殺意をもって、同女の頚部を圧迫し、よって、そのころ、同所において、同女を窒息死させて殺害した上、同女所有の現金約四万円を強取したものである。
(証拠の標目)〈省略〉
(量刑の理由)
本件は、被告人が、買春の相手となった女性を殺害してその所持金を奪取した強盗殺人の事案である。被害者が殺害されており、被告人は犯行への関与を否定しているため、犯行の動機、経緯、態様等の具体的内容はつまびらかでないが、殺害の方法は、かなり強い力で被害者の頚部を圧迫して同人を窒息死させたというものであり、それが強盗目的による凶行であって、実際にも被害者が所持していた現金約四万円を奪取していることを併せると、犯情は非常に悪質である。被害者は、日頃売春を繰り返していたとはいえ、相当な経歴のある会社員であったところ、突如売春の客に襲われ、三九歳で短い一生を終えるに至ったもので、その肉体的苦痛が多大であったことはもとより、無念さのほども察するに余りある。遺族の心痛の深さも併せ考えると、犯行の結果は重大である。一方、被告人は、本件を頑なに否認し、原審及び当審を通じ不合理、不自然な弁解を続けている。以上を総合すれば、被告人の刑責は相当に重いといわなければならない。
そうすると、被告人には、前記確定裁判のほかには、本邦における前科はないこと、入国後飲食店従業員として真面目に稼働していたこと、本国に妻子がいることなどの被告人のために斟酌すべき情状を考慮しても、被告人に対しては無期懲役刑を科するのが相当であり、これを酌量減軽すべきものとは考えられない。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 高木俊夫 裁判官 飯田喜信 裁判官 芦澤政治)